常勤監査役とは|IPO準備段階における役割や採用時期・選任時の注意点まで

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ベンチャー企業を中心に、IPOを目指す企業は、その準備のために監査役が欠かせません。監査役にも、通常の監査役のほか、社外監査役、常勤・非常勤監査役といった役割や種類の違いがあります。その中でも、今回は、IPO準備において、常勤監査役をどのように位置づけるか、役割や採用時期、選任時に注意すべきポイントを解説していきます。

目次
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IPOにおける常勤監査役の役割と選任すべき人数についてsection

IPO準備段階において、常勤監査役にはどのような役割があるのでしょうか。

常勤監査役の位置づけ

常勤監査役は、社内の従業員、日常業務のサイクルや収支状況などを把握しつつ、業務執行の適法性と会計監査を行う立場にあります。

IPO準備段階では、財務諸表監査と内部統制監査の業務が中心になります。財務諸表監査をクリアするには、社内に常駐して資産の動きを把握して、書類を正確に作成する必要があります。そのため、常勤監査役は、そのような常駐する監査役として、財務諸表の作成などに関する監査を行う立場に位置づけられます。

常勤監査役を選任するタイミング

監査役が必要になるのは上記の通りIPO申請年度の2期前であることから、常勤監査役を選任するタイミングも、そのタイミングに合わせることが考えられます。

他方で、それ以前に行われる、IPOに向けたショートレビューの作成などの段階からKPIの設定にも関わり、一気通貫的に位置づけることも考えられます。財務諸表監査や内部統制の構築に関して、立ち上げ段階から関わることで、ちぐはぐなシステムになることを防止しやすくなります。

選任すべき常勤監査役の人数

常勤監査役として選任すべき人数は、1人~2人が相場です。機関設計の仕方によっても変わってきますが、たとえば監査役会設置会社の場合であれば、最低限の3人の監査役を登用したケースを考えたとき、1人の常勤監査役の選任が必要になります。

 第三百三十五条
第三百三十一条第一項及び第二項並びに第三百三十一条の二の規定は、監査役について準用する。

2 監査役は、株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若しくは執行役を兼ねることができない。

3 監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない。

引用元:会社法335条3項

職務内容

上記に述べたところではありますが、改めてポイントをまとめると、IPO準備のために常勤監査役が行うべき職務は、主として次のようなものです。

  • 財務諸表監査
  • 内部統制報告制度対応
  • 有価証券報告書等の金商法上の開示制度(いわゆるIR)に関する体制構築
  • 社内のコンプライアンス体制の構築と運用

IPO準備のステージ区分と監査役設置の時期とはsection

IPOの準備には、段階があります。段階によって、監査役が必要になる時期、監査役の業務の中でどのようなことが必要になるかに違いがあります。

以下、初期、中期、上場審査から上場直後の3つに分けてみていきます。

初期

初期は、上場準備の立ち上げ段階です。上場申請期をNとした場合に、その2期以前になります。この立ち上げ段階では、ショートレビューによる課題抽出と、その課題解決のための助言などを行います。

重要なものとしては、内部統制の体制整備、会計監査や開示書類作成等の体制整備、資本政策の戦略構築などがあります。ショートレビューは、「監査法人やアドバイザーがIPOに向けての課題抽出を行うものです。」(同上 日本公認会計士協会)。

課題抽出は、IPOに向けて目指すべき方向性を定め、実行すべき施策を具体化するための道筋を作ることを目的に行われます。ショートレビューの後は、アドバイザリー契約を締結する場合もあります。IPOに向けて具体的な施策を実行するために、会計監査を実施する予定の監査法人との間で締結されるものです。もっとも、アドバイスの内容は、会計に限られないため、法務に関して弁護士が起用される場合もあります。

そして、必須なものが、内部管理体制です。これは、会社の規模、業種などによって異なります。IPO準備における内部体制の構築については、こちらの記事もご参照ください。

中期

中期は、上場会社と同様の管理体制の整備ないし運用の段階です。2つの軸となるのが、財務諸表監査と内部統制報告制度対応です(同上 日本公認会計士協会)。財務諸表監査制度は、金融商品取引法(以下、「金商法」という。)に係る枠組みに適応するための監査です。これは、準金商法監査とも呼ばれるもので、監査法人と金商法に準ずる監査契約を締結して会計監査を受けるものです。

東証の上場規程によると、上場条件の1つとして、日本公認会計士協会の上場会社監査事務所名簿への登録が必要とされています。要件には、注意が必要です。

(内国会社の形式要件)

第205条

 内国株券等に係る第207条に定める本則市場の上場審査は、次の各号に適合するものを対象として行うものとする。この場合における当該各号の取扱いは施行規則で定める。

(7)の2 上場会社監査事務所による監査

 最近2年間に終了する各事業年度及び各連結会計年度の財務諸表等並びに最近1年間に終了する事業年度における四半期会計期間及び連結会計年度における四半期連結会計期間の四半期財務諸表等について、上場会社監査事務所(日本公認会計士協会の上場会社監査事務所登録制度に基づき準登録事務所名簿に登録されている監査事務所(日本公認会計士協会の品質管理レビューを受けた者に限る。)を含む。)(当取引所が適当でないと認める者を除く。)の法第193条の2の規定に準ずる監査又は四半期レビューを受けていること。

引用元:有価証券上場規程(東京証券取引所)

なお、監査事務所に関しては、大手などだけでなく、中小の監査法人でも可とされます(同上 日本公認会計士協会)。

また、上場後における内部統制報告書の提出と内部統制監査を要することから、その体制を構築するため、内部統制報告制度が必要になります。これには、相当の時間がかかるため、上場に向けた体制の立ち上げが整った後に、計画的に準備を進めておくべきです。

金商法の規定上、「一定規模以下の新規上場会社では、内部統制報告書の監査が上場後3年間免除されます」。

 第百九十三条の二 

2 金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社その他の者で政令で定めるもの(第四号において「上場会社等」という。)が、第二十四条の四の四の規定に基づき提出する内部統制報告書には、その者と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

一 前項第一号の発行者が、外国監査法人等から内閣府令で定めるところにより監査証明に相当すると認められる証明を受けた場合

二 前号の発行者が、公認会計士法第三十四条の三十五第一項ただし書に規定する内閣府令で定める者から内閣府令で定めるところにより監査証明に相当すると認められる証明を受けた場合

三 監査証明を受けなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして内閣府令で定めるところにより内閣総理大臣の承認を受けた場合

四 上場会社等(資本の額その他の経営の規模が内閣府令で定める基準に達しない上場会社等に限る。)が、第二十四条第一項第一号に掲げる有価証券の発行者に初めて該当することとなつた日その他の政令で定める日以後三年を経過する日までの間に内部統制報告書を提出する場合

引用元:新規上場ガイドブック 日本公認会計士協会

上場審査~上場直後

上場審査の段階では、日本取引所グループないし各証券取引所の上場審査に対応する必要があります。基本的には、提出書類や開示書類などです。この段階では、新たに何かの施策を実行するといったものではないため、手続を粛々と進めていくことになります。

重要なのが、上場後です。年度ごとなどで各種の開示書類対応があったり、内部統制の運用維持あるいは改善が必要になるからです。その基準が維持されなければ、上場廃止になる場合もあります。

内部統制の運用の中で、特に肝となるのが、コンプライアンス体制です。法令遵守の対象となる「法令」は、一般的なものだけでも、金商法、会社法、租税法関連、労働法関係など様々あります。そして、会社の行う事業内容・種類に応じて、特に規制法令が存在する場合もあります。例えば、いわゆる民泊事業であれば旅館業法など、新しいタイプのモビリティに関する事業であれば道路交通法や道路運送車両法などがあります。

事業を行う上で順守すべき法律への対応や、解釈論を含めて限界がある場合には、ロビィング活動などを通じた規制改革などに向けた声を上げること、必要に応じてビジネススキームにテコ入れをする必要があるのです。そのようなシチュエーションで、監査役は、業務執行の適法性を確保すべく、チェックを行うことが求められます。

こういったことを踏まえて、上場審査の段階では、主幹事証券会社や証券取引所の審査を受けることになります。

監査役の設置時期は?

以上に述べた各フェーズのいかなる段階で監査役を設置すべきでしょうか。

上記の3つの区分では、財務諸表監査などに関する体制を構築し始める、中期の段階に差し掛かるところで選任することが考えられます。まさに財務諸表監査などは会計監査の最たるものである上に、内部管理体制に関しても法務のスペシャリストである弁護士などに監査を任せる必要が生じてくるからです。

具体的には、IPOの申請を試みる事業年度をNとした場合に、その2期前には常勤監査役を設置します。そして、社内体制のロジを把握し、ゴール・KPIの設定に関与していくことになります。設定されたゴールに向けて、事業計画が適法かつ妥当な形で遂行されているか、チェックをしていきます。

そして、申請期の1期前の段階では、IPO後の経営体制、事業計画に向けた体制を運用していきます。

常勤監査役にはどのような人物がふさわしいかsection

上記のような役割、位置づけ、職務が求められる常勤監査役には、どのような人材が適任でしょうか。

法務部経験者

まず挙げられるのは法務経験者です。IPOの準備で行うこと、求められることに通底することは、各種の法令に適応した体制の構築であるという点です。会社の組織・体制の大枠に関しては会社法の規定に対応する必要がありますし、上場にあたり取引所のルール(金商法など)を順守する必要があります。また、すでに述べたように、会社の行う事業により適用される個々の規制法令にも対応する必要があります。

そして、日常の業務において、法的に問題になる事柄は多岐に及びます。もちろん、社外監査役という形でのかかわり方もありますが、常勤で週に3日以上いるような形で関わることで、より事業に密接な立場・視点から職務に当たることが期待できます。

そのため、法務人材は、IPO準備において法律の専門的知見が必須になることから、常勤監査役として適任であるといえるでしょう。そのうえで、単に法務人材であるということのみならず、IPOではスピードなども求められることから、常勤監査役やIPOを経験した人材であることがベターです。

会計・財務などに精通した人材

会計・財務ないし税務に精通した人材も、常勤監査役として適任です。特にIPO準備において、会計書類(特に財務諸表)の作成及び管理、そしてIRに向けた体制整備の上で、会計人材や財務人材は必須になります。

法務に関しては、顧問弁護士などに外注できる可能性が残されているとしても、会計に関しては性質上常勤でなければ、社内の会計書類を処理する時間と手間がなく、職務が困難です。

そのため、IPO準備において、会計・財務に精通した人材が適任であるといえます。

昨今は女性役員の選任が求められている

そして、近時は、ダイバーシティ確保の観点から、女性を役員に登用する動きが非常に高まっています。投資家の立場からも、そのような社会動向に適応して、事業における意思決定過程での多様性を確保することは、好意的なものにつながります。そのため、女性という属性も、常勤監査役の選任の際に考慮するとよいでしょう。

IPOにおいて求められる機関設計と常勤監査役設置の関係section

IPOに向けた機関設計として、どのようなものが求められるのでしょうか。常勤監査役の設置に関して、何らかの規律があるのでしょうか。

コーポレート・ガバナンス・コード(CGC)や上場規程の内容

CGCには、特に、IPOにあたって取らなければならない機関設計が定められているわけではありません。他方で、CGCでは、監査役や監査役会の設置などを想定して定められている事項もあります。

 【原則4-4.監査役及び監査役会の役割・責務】
監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、 監査役・ 外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。

また、監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきである。
引用元:コーポレートガバンス・コード|東京証券取引所

こうした規定からすると、常勤監査役は、日常の業務監査や会計監査に関して、適法性・妥当性を客観的に監視する守りの立場での役割があり、特に監査役会の設置を採用するケースで設置されることを想定していると考えられます。

そして、東証の上場規程では、いわゆる上場条件として次のようなものが定められます。

 第437条

 上場内国株券の発行者は、次の各号に掲げる機関を置くものとする。

(1) 取締役会

(2) 監査役会、監査等委員会又は指名委員会等(会社法第2条第12号に規定する指名委員会等をいう。)

(3) 会計監査人

2 前項の規定にかかわらず、グロース上場内国会社は、上場日から1年を経過した日以後最初に終了する事業年度に係る定時株主総会の日までに同項各号に掲げる機関を置くものとする。

引用元:有価証券上場規程(東京証券取引所)

有価証券上場規程では、監査役会、監査等委員会又は指名委員会等設置会社のいずれかを選択する場合に、監査役会を選択する場合には、常勤監査役の設置が求められることになります。したがって、IPOにおいて、常勤監査役の設置がすべての場合に求められるわけではありませんが、一定の場合に常勤監査役の設置を求められることがあるのです。

委員会等設置会社

監査等委員会設置会社あるいは指名委員会等設置会社の場合は、監査役の設置が禁じられています(会社法327条4項)。

第三百二十七条 

4 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、監査役を置いてはならない。

その趣旨は、いずれの機関設計の場合も、取締役の中で、業務執行を行う取締役とは区別されて、客観的な立場から経営の監視・監督を行う地位の者がいるからです。すなわち、独立かつ客観的な立場から経営の監視・監督を行う地位にある者が複数の機関として存在すると、権限の分配がややこしいものとなるからです。

このように、IPOにおいて求められる機関設計は、1つに定められているものではありません。そして、取りうる機関設計の選択肢の中で、常勤監査役の設置が求められる場合があるのです。

実際の常勤監査役の候補の例

実際の常勤監査役の候補例としては、このようなものがあります。1つご紹介しましょう。

性別:男性、資格:弁護士、公認会計士
役員経験:社外取締役、社外監査役
キャリア:弁護士として約14年間、企業法務、国際取引法務、知財法務、IT法務、労務法務、コンプライアンス関連業務、様々な訴訟・紛争解決代理人業務を中心に、一部上場企業からスタートアップ企業まで幅広いクライアントに対してリーガルサービスを提供。現在複数の企業にて社外監査役を務めている。
[出典]https://outside.no-limit.careers/outside-agent/

実際に社外役員として、経営の監督・監視に携わった経験のある人材は、常勤監査役としても、社外の視点を社内に還元させることで、より独立かつ客観的な監査業務を期待できます。

常勤監査役の報酬設定について

常勤監査役を採用する場合に、その報酬はどのように設定すべきでしょうか。基本的には、月額45万円程度から120万円程度で、年収換算では、500万円~1500万円が相場になります。報酬設定の要素となるものは、専門性、経験や実績とその内容のほか、監査役としての経験およびIPOの経験や当時の職務内容といったものが挙げられるでしょう。

常勤監査役を採用するにはsection

常勤監査役を採用するための方法としては、どのようなオプションが考えられるでしょうか。

エージェント・日本監査役協会を利用

転職エージェント経由が一般的であるといわれます。監査役などの役員を含めた求人案件を多く取り扱うようなところもあります。求人情報の数と転職サポートを受けられる点では、転職エージェントが挙げられるでしょう。

日本監査役協会からの紹介も挙げられます。監査役協会というオフィシャルに近いオプションであることから、信頼度の高いマッチングが期待できます。

監査法人・VCからの紹介

監査法人・VCからの紹介も考えられます。属人的な要素が高く、個人のコネによる側面も多分に含まれますが、その分、やはり信頼度の高いマッチングが期待できます。また、緊密な関係があるがゆえであることから、より企業側の事情や内部に精通した情報をもとにマッチングが図られる可能性は高いでしょう。

他方で、VCなどは、投資家側の思惑なども排除しきれないという点には留意が必要です。

社外役員マッチングサイト

最後に、役員マッチングサイトの利用です。簡便で、かつ転職エージェントに匹敵するような求人数をベースに、高精度のマッチングが期待できるサービスとして、注目を浴びています。当サイトも、社外役員マッチングサイトを運営しておりますので、ぜひチェックしてみてください。

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まとめ

IPO準備における常勤監査役の役割、位置づけをIPOのプロセスとともに概観してきました。IPO準備において常勤監査役を選任する際には、ゴールの設定と、現在必要な課題を明確に設定し、任せる職務を明確にすることが肝要です。

常勤監査役の選任の際のポイントも細かく述べてきましたが、ぜひIPOを志向する場合にご活用ください。


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上場支援、CGコードの体制構築などに長けた、専門性の高い「弁護士」を社外取締役候補としてご紹介。事業成長とガバナンス確保両立に、弁護士を起用したい企業様を支援している。

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