上場準備における内部統制整備の重要性|チェックポイントを解説

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阿部由羅【弁護士】

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企業がIPO(新規株式上場)を目指すに当たっては、内部統制の整備が必要不可欠です。上場審査をスムーズに通過できるように、金融庁が公表する実施基準に従って、万全の内部統制を整えましょう。

今回は、企業における内部統制の目的・必要性や、上場を目指す企業が整備すべき内部統制の内容について解説します。

目次
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会社が内部統制を整備する主な目的section

金融商品取引法に基づき、上場会社には「内部統制」を整備することが求められています。内部統制とは、企業不祥事の発生を防止し、業務の適正を確保するための社内体制のことです。金融商品取引法との関係では、特に対外的な財務報告に関する情報の適正性を確保することが、内部統制の主眼とされています。

内部統制の評価・監査に関する金融庁の実施基準では、会社が内部統制を整備する目的として、以下の4点を挙げています。

業務の有効性・効率性の向上

内部統制の1つ目の目的は、事業活動の目的の達成のため、業務の有効性および効率性を高めることです。内部統制によって健全な会社組織の基盤を整備し、指揮命令系統や情報伝達の仕組みを改善することは、会社の業務の有効性・効率性を向上させることに繋がります。

財務報告の信頼性確保

内部統制の2つ目の目的は、財務諸表や財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報について、信頼性を確保することです。上場会社には多数の株主が存在し、さらに潜在的な投資家候補もたくさんいます。上場会社の株式が投資適格を維持するためには、財務報告が会社の実態を反映していることが必要不可欠です。

そのため内部統制を通じて、正確な財務情報の開示を適時に行う体制を整えることが求められます。

社内全体での法令等遵守

内部統制の3つ目の目的は、事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進することです。遵守すべき規範としては、法令以外にも、社内規程・自主規制ガイドライン・社会の常識などが挙げられます。上場会社は、コンプライアンスの観点から、社会の批判的な視線に晒されています。ひとたび不祥事が発生すれば、会社の社会的評判が失墜して株価が暴落し、極めて多数のステークホルダーに損害を及ぼしかねません。

したがって上場会社には、内部統制を通じてコンプライアンスの意識を社内に浸透させ、企業不祥事のリスクを最小化することが求められます。

会社資産の保全・流出防止

内部統制の4つ目の目的は、資産の取得・使用・処分が正当な手続き・承認の下に行われるように、資産の保全を図ることです。上場会社の株価は企業価値を反映しているため、会社資産の不正流出が判明すれば、株価の暴落に繋がります。

内部統制の一環である指揮命令系統の整備・意思決定プロセスの明確化・コンプライアンスの強化などは、会社資産の不正流出を防ぐことに繋がります。

上場準備に当たって内部統制の整備が必要な理由section

IPOを目指す会社は、以下の理由から内部統制を整備することが必須となります。

内部統制の整備は上場審査の対象項目

各証券取引所の上場規則では、内部統制の整備状況が上場審査の対象項目とされています。後述するように、上場後は内部統制報告書の提出が義務付けられます。そのため、審査段階から上場会社に準じた内部統制の整備が求められているのです。

IPOを目指す会社は、上場を予定する市場の上場規則に従い、内部統制の整備を進めなければなりません。おおむね上場申請の3期前から直前々期にかけて、監査法人や主幹事証券会社のアドバイスを受けながら、内部統制を整えていくことになります

時期主なタスク
直前前々期以前(N-3)・IPOの実現可能性
・メリット・デメリット等の検討
・担当部署の設置・監査受入体制の構築等
・監査法人によるショートレビュー
・上場先の市場選定
・事業計画の策定
・上場予定市場に合わせた体制整備
・監査法人による予備調査
直前々期(N-2)・監査法人による予備調査(続き)・監査契約の締結
・主幹事証券会社の選定
・監査法人による準金商法監査(1期目)
直前期(N期-1)・監査法人による準金商法監査(2期目)
・上場申請書類の作成
・社外取締役の選任
申請・上場期(N)・定款変更
・主幹事証券会社による引受審査
・証券取引所との事前折衝
・証券取引所に対する上場申請・審査
・株式の公募・売出し

上場後は内部統制報告書の提出義務がある

上場会社には、開示規制の一環として「内部統制報告書」の提出が義務付けられています(金融商品取引法24条の4の4第1項)。内部統制報告書は原則として、監査法人または公認会計士による監査の対象となります。

監査法人(公認会計士)は、金融庁の評価・監査基準に準拠し、内部統制報告書の中で必要な事項が表示されているかどうかの監査意見を述べます(内部統制府令※6条1項1号ロ)。

財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令

監査意見の付された内部統制報告書は、公衆縦覧の対象です。そのため上場会社は、監査法人(公認会計士)の「無限定適正意見※」が得られるように、金融庁の評価・監査基準に従って内部統制の整備を行う必要があります。

無限定適正意見
内部統制報告書が、金融庁の評価・監査基準に準拠して、財務報告に係る内部統制の評価を全ての重要な点において適正に表示していると認められる旨の監査意見(内部統制府令6条2項1号

内部統制監査報告書の、新規上場後3年間の監査免除について

新規に上場した会社は、上場後3年間に提出する内部統制報告書については、監査法人(公認会計士)による監査の免除を選択できます(金融商品取引法193条の2第2項第4号)。

ただし監査免除の期間中であっても、上場会社としてふさわしい内部統制を整備すべきことは言うまでもありません。前述のように、上場審査の段階でも、内部統制が審査対象となります。監査免除の期間についても、上場審査の段階で構築した内部統制の維持・改善に努めるべきでしょう。

なお、上場初年度の決算に係る資本金額が100億円以上または負債額が1000億円以上の会社については、社会的影響力の大きさを考慮して監査免除の対象外とされています(内部統制府令10条の2)。

上場会社が整備すべき内部統制の6つの内容section

繰り返しになりますが、上場会社は金融庁の評価・監査基準に準拠して、内部統制を整備する必要があります。
参考|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表について|金融庁

以下では金融庁の評価・監査基準に沿って、上場会社が整備すべき内部統制の内容を概観しましょう。金融庁の評価・監査基準では、内部統制の基本的要素として、以下の6つを挙げています。上場会社は、内部統制の6つの基本的要素を適切に備えた形で、内部統制を整備することが求められます。

各基本的要素の概要と、監査における評価項目の例を紹介します。

統制環境|内部統制の基盤となる経営体制

「統制環境」とは、会社組織の基礎をなす考え方・文化・方針・組織構造などを言い、具体的には以下の要素によって構成されます。

  1. 誠実性、倫理観
  2. 経営者の意向、姿勢
  3. 経営方針、経営戦略
  4. 取締役会、監査役、監査役会、監査等委員会、監査委員会の有する機能
  5. 組織構造、慣行
  6. 権限、職責
  7. 人的資源に対する方針と管理 など

統制環境に関する評価項目の例は、以下のとおりです。

  • 経営者が、財務報告に関する内部統制の役割を含めて、財務報告の基本方針を明確に示しているか。
  • 適切な経営理念や倫理規程に基づき、社内の制度が設計運用されているか。原則を逸脱した行動が、適切に是正されるようになっているか。
  • 適切な会計処理の原則が選択、実施されているか。
  • 取締役会および監査役等が、内部統制に関して経営者を適切に監督、監視しているか。
  • 監査役等が、内部監査人や監査法人(公認会計士)と適切な連携を図っているか。
  • 経営者が、好ましくない組織構造や慣行の適切な改善を図っているか。
  • 経営者が、企業内の個々の職能や活動単位に対して、適切な役割分担を定めているか。
  • 財務報告の作成に必要な能力を有する人材が確保、配置されているか。
  • 財務報告の作成に必要な能力の内容が、定期的に見直され、常に適切なものとなっているか。
  • 責任の割当てと権限の委任が、すべての従業員に対して明確になされているか。
  • 従業員等に対する権限と責任の委任は、適切な範囲に限定されているか。
  • 経営者は、職務思考手段や訓練等の提供を通じて、従業員等の能力を引き出す支援をしているか。
  • 従業員等の勤務評価は、公平で適切なものとなっているか。

リスクの評価と対応|識別・分析・評価・対応の一連のプロセス

「リスクの評価と対応」とは、会社の目標達成に影響を与える事象をリスクとして識別・分析・評価し、適切なリスク対応を行う一連のプロセスを意味します。

リスクの評価と対応に関する評価項目の例は、以下のとおりです。

  • 信頼性のある財務報告の作成のため、適切な階層の経営者、管理者を関与させる有効なリスク評価の仕組みが存在するか。
  • リスクの識別作業において、内外の諸要因と、各要因が信頼性のある財務報告の作成に及ぼす影響が適切に考慮されているか。
  • 組織や技術の変化などに即応して、リスクを再評価する仕組みを設定して、適切な対応を図っているか。
  • 不正に関するリスク検討の際に、表面的な事実だけでなく、動機・原因・背景等を踏まえて適切にリスクの評価・対応を行っているか。

統制活動|上意下達の指示系統確保

「統制活動」とは、経営者の命令・指示が適切に実行されることを確保するための方針・手続きを意味します。

統制活動に関する評価項目の例は、以下のとおりです。

  • 信頼性のある財務報告の作成に対するリスクに対処して、十分に軽減する統制活動の方針と手続きを定めているか。
  • 信頼性のある財務報告の作成に関して、職務分掌が明確化され、権限や職責が担当者間で適切に分担されているか。
  • 統制活動に関する責任と説明義務を、リスクが存在する業務単位または業務プロセスの管理者に適切に帰属させているか。
  • 全社的な職務規程や、個々の業務手順(マニュアルなど)を適切に作成しているか。
  • 統制活動は、業務全体にわたって誠実に実施されているか。
  • 統制活動を通じて発見された誤りが適切に調査され、必要な対応が取られているか。
  • 統制活動の妥当性が定期的に検証され、必要な改善が行われているか。

情報と伝達|関係者への速やかな情報共有

「情報と伝達」とは、必要な情報が識別・把握・処理され、組織内外および関係者相互に正しく伝えられる体制を確保することを意味します。

情報と伝達に関する評価項目の例は、以下のとおりです。

  • 信頼性のある財務報告の作成に関する経営者の方針や指示が、会社内のすべての者(特に作成に関与する者)へ適切に伝達される体制が整備されているか。
  • 会計財務の情報が、情報システムを通じて適切に利用可能となっているか。
  • 内部統制に関する重要な情報が、経営者および適切な管理者に対して、円滑に伝達される体制が整備されているか。
  • 経営者・取締役会・監査役等その他の関係者の間で、情報が適切に伝達・共有されているか。
  • 通常の報告経路から独立した伝達経路(内部通報制度など)が利用できるか。
  • 内部統制に関する外部からの情報を適切に利用し、経営者・取締役会・監査役等へ適切に伝達する仕組みとなっているか。

モニタリング|内部統制の検証プロセス

「モニタリング」とは、内部統制が有効に機能していることを、継続的に評価するプロセスを意味します。

モニタリングに関する評価項目の例は、以下のとおりです。

  • 日常的モニタリングが、業務活動に適切に組み込まれているか。
  • 適切な範囲と頻度により、独立的評価が実施されているか。
  • モニタリングの実施責任者には、十分な知識や能力を有する者が指名されているか。
  • 経営者は、モニタリングの結果を適時に受領し、適切な検討を行っているか。
  • 内外から伝達された内部統制に関する重要な情報が適切に検討され、必要な是正措置が取られているか。
  • モニタリングによって得られた内部統制の不備に関する情報は、上位の管理者や是正措置を実施すべき地位にある者に適切に報告されているか。
  • 内部統制に係る開示すべき重要な不備等に関する情報は、経営者・取締役会・監査役等に適切に伝達されているか。

ITへの対応|IT環境の導入・コントロール

「ITへの対応」とは、会社の目標を達成するための適切な方針・手続きを定めたうえで、業務の実施において内外のITに適切に対応することを意味します。

ITへの対応に関する評価項目の例は、以下のとおりです。

  • ITに関する適切な戦略、計画等を定めているか。
  • 経営者が内部統制を整備する際に、IT環境を適切に理解し、これを踏まえた方針を明確に示しているか。
  • 経営者は、信頼性のある財務報告を作成するに当たってのリスクを低減するため、手作業およびITを用いた統制の利用領域について適切に判断しているか。
  • ITを用いて統制活動を整備する際には、ITの利用によって生じる新たなリスクが考慮されているか。
  • ITに関する全般統制や、ITに関する業務処理統制についての方針・手続きが適切に定められているか。

財務報告に関する内部統制構築のプロセスsection

金融庁の評価・監査基準では、財務報告に関する内部統制は、以下のプロセスによって構築すべき旨が図示されています。

基本的計画および方針の決定

  1. 構築すべき内部統制の方針・原則、範囲および水準
  2. 内部統制の構築に当たる責任者および全社的な管理体制
  3. 内部統制構築の手順および日程
  4. 内部統制構築に係る人員およびその編成、教育・訓練の方法 など

内部統制の整備状況の把握

  1. 既存の規程・慣行やそれらの遵守状況等を踏まえ、全社的な内部統制の整備状況を把握・記録・保存
  2. 重要な業務プロセスについて、内部統制の整備状況を把握・記録・保存
  3. 把握された内部統制の不備への対応および是正

財務報告に関する内部統制構築の評価・報告section

経営者は、内部統制の整備・運用に関する責任者として、財務報告に関する内部統制の評価を行う必要があります。経営者による内部統制評価を通じて、何らかの内部統制の不備が発見された場合には、適時に対応しなければなりません。

経営者による内部統制評価の結果は、内部統制報告書にまとめて金融庁に提出します。内部統制報告書の記載事項は、以下のとおりです。

整備および運用に関する事項

  • 内部統制責任者の氏名
  • 経営者が、内部統制の整備・運用の責任を有している旨
  • 整備および運用の際に準拠した、一般に公正妥当と認められる内部統制の枠組み
  • 内部統制の固有の限界

評価の範囲、評価時点および評価手続き

  • 内部統制の評価の範囲(範囲の決定方法・根拠を含む)
  • 内部統制の評価が行われた時点
  • 内部統制の評価に当たって、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価基準に準拠した旨
  • 内部統制の評価手続きの概要

評価結果

以下のいずれか

  • 内部統制は有効である旨
  • 評価手続きの一部が実施できなかったが、内部統制は有効である旨、ならびに実施できなかった評価手続きとその理由
  • 開示すべき重要な不備があり、内部統制は有効でない旨、ならびに開示すべき重要な不備の内容と是正されない理由
  • 重要な評価手続きがじっしできなかったため、内部統制の評価結果を表明できない旨、ならびに実施できなかった評価手続きとその理由

付記事項

  • 内部統制の有効性評価に重要な影響を及ぼす後発事象
  • 期末日後に実施した、開示すべき重要な不備に対する是正措置等

財務統制に関する内部統制の監査section

監査人(監査法人または公認会計士)は、経営者の作成した内部統制報告書が一般に公正妥当と認められる内部統制の評価基準に準拠し、内部統制の評価をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて意見を表明します。

監査人の意見表明は、内部統制監査報告書を作成して行います。監査意見の種類は、以下の3つです(内部統制府令6条2項)。

無限定適正意見

内部統制報告書が、金融庁の評価・監査基準に準拠して、財務報告に係る内部統制の評価を全ての重要な点において適正に表示していると認められる旨の監査意見

除外事項を付した限定付適正意見

内部統制報告書が、除外事項を除き金融庁の評価・監査基準に準拠して、財務報告に係る内部統制の評価を全ての重要な点において適正に表示していると認められる旨の監査意見

不適正意見

内部統制報告書が不適正である旨の意見

内部統制に関わる者の役割・責任section

内部統制を十全に機能させるには、会社の構成員がそれぞれの役割・責任を果たす必要があります。

内部統制に関わる者の役割・責任は、立場に応じて次のとおりです。

経営者

会社の全ての活動について最終的な責任を有する立場として、取締役会が決定した基本方針に基づき、内部統制を整備・運用する役割と責任を有します。

取締役会

内部統制の整備・運用に関する基本方針を決定します。また、経営者による内部統制の整備・運用に対する監督責任を有しています。

監査役等

独立した立場から、内部統制の整備・運用状況を監視・検証する役割と責任を有しています。

内部監査人

内部統制の基本的要素の一つである「モニタリング」の一環として、内部統制の整備・運用状況を検討・評価し、必要に応じて改善を促す役割を担っています。

従業員等

自身が担当する業務との関連において、有効な内部統制の整備・運用に一定の役割を担っています。

まとめ

対外的な財務報告を適正化するための内部統制の整備は、上場を目指す企業にとって不可欠なプロセスです。単に上場審査を通過するためだけでなく、中長期にわたって投資家からの信頼を勝ち得るため、内部統制の整備・改善に取り組みましょう。

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西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。(埼玉弁護士会)

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