IPO・上場準備支援を弁護士に相談する5つのメリット|選び方・弁護士費用も徹底解説

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IPO(Initial Public Offering)とは、株式市場に新規上場することです。未上場の会社は、基本的には経営者の親族や会社関係者などしか投資をしないので資金調達はしにくいです。しかし、IPOをすれば一般投資家からも資金調達できるようになります。

IPOのメリットとしては下記のことが挙げられます。

  1. 社会的な信用力が上がる
  2. 社内の体制強化
  3. 資金調達の幅が広がる

このようなメリットがあるIPOですが、準備すべきことが多いので知識や経験が豊富な弁護士などの専門家に依頼することになります。

コンプライアンス面に問題があると上場審査にひっかかり、IPOができなくなる可能性があります。経験やスキル豊富な弁護士に相談すれば、上場企業のコンプライアンス基準を守った経営ができるように指導してもらえます。早めに社内体制をチェックしてもらい、体制を再構築するのが安心です。

また、上場後も継続的にコーポレートガバナンスの観点から株主をはじめとしたステークホルダーを守る企業運営をする必要がありますので、弁護士に相談した際は法的観点からアドバイスをもらったり、炎上リスクに備えた体制づくりが期待できるでしょう。

今回の記事では、IPOをする際には弁護士に相談するメリット、弁護士に相談する際に気を付けるべきことについて説明します。

目次
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上場企業等での社外役員経験や非常勤監査役経験を持つ専門家をご紹介。社外役員兼務社数4社以下、経験年数10年以上、女性社外役員など、700名以上のプロフェッショナルとマッチングが可能です。

IPOにおいて弁護士に相談する必要性と提供サービスsection

後述しますが、IPOの相談窓口としては様々な機関があります。

法務面で上場基準を満たしているかのチェックや上場基準を満たすための指導などは弁護士へ必ず相談しなくてはいけません。コンサルティング会社や証券会社の指示に従って進めていって法務面の対策が後回しになれば、上場が遅れてしまったり、上場審査に落ちてしまったりする恐れがあります。

IPOは未上場企業にとっては初めての経験になりますので、経験や知識豊富な弁護士に依頼するのが安心です。未払い残業代の問題など、立て直しに時間がかかる問題もありますのでなるべく早く相談しましょう。

会社規定・コンプライアンスの相談

上場企業は、コーポレートガバナンスの観点から株主をはじめとしたステークホルダーを守る企業運営をする必要があります。具体的には、不祥事を起こすことがない会社体制にすることが求められます。例えば、食品偽装や粉飾決算などの不祥事が発生した場合には、株価が暴落して投資家の資産が大きく減ってしまう場合もあるでしょう。

ステークホルダーの損失リスクを最小限にする

また、不買運動などが起こり業績不振になれば、取引先との取引が減ったり、従業員を雇用できなくなったりという影響が出てしまいます。

このように会社の誤った判断によりステークホルダーが損失を被らないような社内体制にする必要があります。具体的には、コンプライアンス体制の強化、契約書等の整備、社内規定の整備、経営陣を監視するための社外取締役・社外監査役の就任などです。このようなサポートも弁護士が中心となり行います。

経営全般の相談

上場企業は、前向きな経営をしなければ株価を維持することができません。しかし、事業を進める場合などは法律を守ることが大前提です。弁護士にIPO相談をすれば、経営全体で法律に触れることはないかというアドバイスを求めることができます。

IPOを弁護士に相談する5つのメリットsection

ここでは、IPOを弁護士に相談するメリットを紹介します。

法律を遵守して進められる安心感がある

コンプライアンス面に問題があると、上場審査にひっかかり、IPOができなくなる可能性があります。経験やスキル豊富な弁護士に相談すれば、上場企業のコンプライアンス基準を守った経営ができるように指導してもらえます。早めに社内体制をチェックしてもらい、体制を再構築するのが安心です。

情報セキュリティの強化

上場会社は、取り扱っている個人情報の量も膨大です。上場企業は、社会に与える影響が大きく、個人情報などが流出すれば、責任を問われますので情報セキュリティに関する高度な統制が求められます。例えば、正社員だけではなくパート・アルバイトに至るまで徹底的な情報管理が必要です。経験豊富な弁護士に相談すれば、情報セキュリティでネックになるポイントを知ることができ、対策もスムーズにできるようになるでしょう。

内部統制の推進・統制システムの整備

内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスのことです。[参照]金融庁|内部統制の基本的枠組み

統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成されます。内容は「こちらの記事で解説」していますが、4つの目的が達成される「合理的な保証」を担保するために「業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセス」が、内部統制であることがわかります。

上場に際してクリアしなければならない基準は多々ありますが、上場会社には社会的責任が伴うことから、企業経営が健全であり、管理体制がしっかりと整備されていることは、非常に重要です。内部統制システムの整備について、弁護士からいろいろなアドバイスをもらいましょう。

会社法や労働基準法などの法令遵守やリスク管理

会社は会社法や労働基準法などのさまざまな法律を遵守しなければなりません。独占禁止法、不正競争防止法、消費者契約法、著作権法、金融商品取引法、労働基準法など、多岐に渡ります。

これら多種多様かつ専門的な法律を網羅するのは、法律のプロでない限り厳しいでしょう。上場にあたって法令遵守の徹底とリスク管理をしていくには弁護士の力が必要といえます。

IPOのメリット・デメリットの評価

上場準備にあたり、億単位の多額の費用が必要となるうえ、経営陣や管理部門が費やさなければならない労力も大きく増えることになります。これらの費用と作業時間を上回る利益が見込めないのであれば、上場をする意味がありません。

上場をすることのメリット(企業の信頼力向上や容易な資金調達など)とデメリット(上場に際しての費用や上場を維持する費用など)を比較して、上場するか否かを慎重に判断しなくてはなりません。弁護士に相談することで、適切な判断も期待できます。

IPOを弁護士に依頼する際の費用section

IPOを弁護士に依頼する際の費用は、IPOをする会社の規模や依頼する法律事務所により異なります。

月額顧問料|月5万〜20万円

としては、通常業務とIPO支援を合わせて月5万円~20万円の範囲になることが多いようです。IPO準備期間~上場までの期間で弁護士に支払う費用が数百万円になることはイメージしておきましょう。

法律相談

弁護士に仕事を依頼する際には、『タイムチャージ制』という報酬制度もあります。タイムチャージ制とは、月額顧問料を0円にして、1時間あたりの報酬を設定し、弁護士がその仕事に従事した時間の分、料金を請求する仕組みです。

また、IPO全体で支払う費用は、上場審査料、新規上場料、登録免許税、証券会社・監査法人への費用も合わせて数千万円~1億円ほどかかります。

IPOを相談する弁護士を選ぶ基準section

次に、IPOを相談する弁護士を選ぶ基準を紹介します。

IPO経験が豊富か

IPOの経験が豊富かは必ず確認しておいた方がいいでしょう。IPOでは、上場審査がありますが上場基準に達していないと判断されれば上場を断念しなくてはいけなくなってしまいます。せっかく準備したのにも関わらず、上場を断念しなければいけない状態になればそれまでかかった費用が無駄になりますし、従業員のモチベーションもなくなってしまうでしょう。そのため、上場させた経験が豊富にある法律事務所を選ぶと安心です。

規模が大きい法律事務所か

規模が小さい法律事務所がダメという訳ではありませんが、規模が大きい法律事務所を選んだ方が安心です。なぜなら、上場の準備から上場までには数年間を有します。規模が小さい法律事務所で、担当の弁護士に替えが聞かない場合には、担当の弁護士が病気やけがをした場合に上場準備が止まってしまいます。規模が大きな法律事務所ならば、替わりの弁護士がすぐにサポートしてくれるでしょうが、現実的に他の弁護士がいないと対処してくれませんので十分注意しましょう。

企業法務の取り扱いがある

IPOサポートは企業法務が理解できていることが前提です。弁護士によって得意・不得意があるので、普段企業法務を取り扱っていない弁護士に依頼することはやめておいた方がいいでしょう。

会計面のサポートがあるか

IPOの準備は、法務面だけではなく会計面も整える必要があります。そのため、弁護士にIPOサポートをお願いする場合には、監査法人への連携があるかもチェックしておきましょう。監査法人との連携がない場合は、自分で見つける必要がありますし、IPO全体のスケジュール調整は自分でしなくてはいけないなど手間がかかります。

IPOを弁護士に相談する際の注意点section

逆にIPOを弁護士に相談するデメリットはあるのでしょうか。

法務以外の準備は他の専門家に依頼する必要がある

弁護士には法務以外のサポートを依頼することはできません。例えば、会計監査に関することは監査法人(公認会計士)に依頼する必要があります。弁護士が連携する監査法人などを紹介してくれる場合は良いですが、紹介がない場合には自分で探す必要が出てきます。

弁護士によっては法務面のIPOのサポートだけを行うケースもある

弁護士がIPOのサポートをするのはショートレビューや法務デューデリジェンスなどです。このあたりのサポートを単発で依頼する場合、全体のスケジュール管理は自分で行う必要があり、丸投げできないケースもあるでしょう。IPOの準備だけではなく本業にも注力したい場合には、全体のサポートをしてくれるサービスを選んだ方が安心です。

IPOの相談先|弁護士を含む外部の専門家についてsection

IPOはどの専門家に相談できるのかについて説明します。

コンサルティング会社

IPOを得意とするコンサルティング会社も存在します。コンサルティング会社に依頼すると、監査法人や主幹事の証券会社、弁護士を選んでくれたり、事業計画の策定をしてくれたりなど、一連の流れを丸投げでお願いすることも可能です。規模が大きなコンサルティング会社の場合、企業内公認会計士や企業内弁護士もいるケースもあるでしょう。

証券会社

IPOをする際には、複数の証券会社に幹事となってもらう必要があります。その中で幹事の会社の代表となるのが主幹事で、上場において最も重要なパートナーと言ってもいいでしょう。主幹事の役割としては公開価格の決定、募集及び売り出しによる株式の引受、上場審査の対応、資金調達の指導などがあります。

主幹事となる証券会社とは長い付き合いになりますので、実績が豊富、強み、歩み寄る姿勢、販売力、グループとしてのサポート力、費用などから総合的に決めると良いでしょう。

監査法人

株主保護の観点から、上場する企業は正しい会計をすることと粉飾決算などをしないことが求められています。IPOでは、会計監査も上場企業の基準に合わせる必要があり、上場の前から社内の体制を整え会計の方法を改めていく必要があります。そのため、監査法人による会計のチェックや指導はIPOにおいて必要不可欠です。

すでに監査法人に会計を見てもらっている企業の場合、IPOをしたい意思を伝えると、IPOのノウハウがある場合にはサポートしてくれるでしょう。

ベンチャーキャピタル

ベンチャーキャピタルは、ベンチャー企業やスタートアップ企業など上場していない企業に出資して、会社の価値を上げることで利益を受けます。具体的には、株式上場したら株を売却したり、事業を売却したりして利益を回収します。ベンチャー企業で、開発などの先行投資が必要で赤字が続いている場合、後から回収できる見込みがあったとしても銀行などから融資をしてもらうのは難しいでしょう。

ベンチャーキャピタルを利用すれば、資金が少ない企業も資金調達をしながら上場の準備ができるのがメリットです。ただし、ベンチャーキャピタルが株主になることで経営に口を出されるというデメリットもあります。経営者が自分で舵をきりたいタイプならば、ベンチャーキャピタルの利用は向いていないかもしれません。

金融機関

銀行などの金融機関にもIPO支援をする部署があるケースもあります。特にメガバンクでは、グループの総合支援をしており、証券会社やシンクタンクなどの関連会社と一緒にサポートすることも可能です。融資などの取引が普段からある場合は、IPOを考えている旨を伝えてみるのもいいでしょう。IPOにより企業価値が上がると判断すれば、資金調達もしやすくなるかもしれません。

顧問弁護士

多くの企業では、法務のサポートを受けるために顧問弁護士を雇っています。顧問弁護士がいる場合には、IPOの相談をしてみましょう。IPOについての知識があればサポートしてくれます。しかし、一般的な企業法務とIPOサポートは異なりますので、顧問弁護士にIPO知識がないケースもあります。そのような場合には、IPO支援に強い顧問弁護士に切り替えると良いでしょう。

企業内弁護士(インハウスローヤー)

企業内弁護士(インハウスローヤー)とは、企業がその他の従業員と同じような条件で弁護士を雇う形態です。コンプライアンスやコーポレートガバナンスの観点から企業内弁護士を雇う企業も増えています。企業内弁護士がすでにいる場合には、IPOの舵取りをしてもらうことができるでしょう。外部の弁護士や専門家と連携が必要な場合でも、専門知識があるため対応がスムーズであることに期待できます。

また、現状は企業内弁護士がいない場合でも、IPOの知識がある企業内弁護士を雇うことでスピード感をもってIPO対応ができます。企業内弁護士は他の社員と同じく社内の人間なので、いつでも相談できる、会社の気持ちを汲んで動いてもらえるという点がメリットです。

IPOの準備を始める時期は?section

IPOの準備を始める時期は、上場したい年の直前前々期(N-4期)です。N-4期は準備期間です。準備期間には、弁護士や監査法人からショートレビューを受けて、上場するための改善点を洗い出します

時期準備すべき事項
上場申請3期前(N-3)株式の上場を行う上で整備すべき社内体制、会計制度、資本政策などの課題抽出→ショートレビュー
上場直前々期(N-2)財務諸表監査 内部統制報告制度対応など
上場直前期(N-1)
上場申請年度(N期)上場企業として備えるべきガバナンス体制、IR制度の構築と運用
株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック|日本公認会計士協会を参考に作成

この段階でIPO支援をしてもらう監査法人や弁護士は決めてしまいます。IPOはメリットだけではないので、専門家とデメリットも考えて本当に上場が良い選択かを考えましょう。IPOをすると決めたら、上場基準に満たない点を補う必要があります

N-3期は上場企業の基準を満たす会計や会社運営を行う体制構築期間です。N-3期には印刷会社、株式事務委託をする証券代行、ベンチャーキャピタルなどを決めます。上場の準備は幅広く時間もかかるため、外部に依頼するだけではなく社内にもプロジェクトチームを作ることをおすすめします。ちなみに、プロジェクトチームの業務としては下記のような内容が考えられます。

  1. 証券会社、監査法人の対応窓口
  2. 上場準備作業日程の作成
  3. 各部門(各スタッフ)提出資料の指示、調整および進捗管理
  4. 中期経営計画の策定
  5. 予算制度の整備
  6. 資本政策案の策定
  7. 社内管理体制の整備
  8. 社内規程の整備
  9. 社内重要書類等の整備
  10. 主要業務および業務フローの整備(業務処理の見直し、フローチャートの作成)
  11. 会計制度の整備
  12. 人的・資本的関係会社の整備
  13. 関連当事者等との取引の見直しと整備
  14. 上場申請書類の作成(Ⅰの部、Ⅱの部もしくはJASDAQ上場申請レポート等の作成)
  15. 上場審査質問書に対する回答書の作成

N-2期とN-1期は上場企業と同基準で2年間会計監査をして、N期で上場申請をします。そのため、2025年4月に上場したいのであれば遅くとも2021年には準備を始めるべきです。

[参照]IPO準備のステージ区分と監査役設置の時期とは

上場審査でチェックされる内容についてsection

上場審査は、上場したい市場により審査内容が異なります。

東証一部が一番厳しいです。マザーズやジャスダック市場では、その企業の規模に応じた体制ができているかという点が重視されます。法務面でみられるポイントとしては、コーポレートガバナンス及び内部体制が整備されているか、企業内容が適正に開示されているかというところです。

表:東証一部上場審査の内容

項目内容
企業の継続性及び収益性(市場第一部)継続的に事業を営み、安定的かつ優れた収益基盤を有していること
(市場第二部)継続的に事業を営み、かつ、安定的な収益基盤を有していること
企業経営の健全性事業を公正かつ忠実に遂行していること
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること
企業内容等の開示の適正性企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項-
[参照]上場審査基準 | 日本取引所グループ

例えば、許認可が必要な事業ではないか、下請法や表示広告規制関連の法令(景品表示法や薬機法など)に抵触しないか、個人情報の管理を適切に行なっているかという点も確認されます。

また、上場前にM&Aをする場合も注意しましょう。買収した企業を子会社化する場合には、買収した企業の体制も上場企業の体制に整える必要があるからです。

人事労務も指摘されるポイントです。未払い残業代などが発生している場合には、上場前に支払って必ず問題解消しておく必要があります。退職者済の元従業員にも支払い、解決してからでなければ上場することはできません。上場企業の基準に合った法令遵守ができているかは、多角的に確認する必要があるといえます。

まとめ

IPOでは、コーポレートガバナンスや内部統制の観点から、準備期間から上場企業の基準を満たす法務体制にする必要が必要です。上場企業が不正・不祥事を起こすと多くのステークホルダーが不利益を被る可能性があるからです。そのため、弁護士への相談は必要不可欠であり、法的に不備がないかを指摘・指導してもらう必要があります。

弁護士の選び方としては、信頼できる弁護士に顧問弁護士となってもらい伴走してもらうケースやIPOを相談した監査法人やコンサルティング会社に紹介されるケースもあるでしょう。 費用は、企業規模や上場したい市場により異なりますが、弁護士費用だけでも数百万円になることは理解しておきましょう。IPOの経験・知識が豊富な弁護士に依頼できると安心です。

上場支援、CGコードの体制構築などに長けた、専門性の高い「弁護士」を社外取締役候補としてご紹介。事業成長とガバナンス確保両立に、弁護士を起用したい企業様を支援している。

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