勤務間インターバル制度(きんむかんいんたーばるせいど)とは、勤務終了後一定時間以上の「休息時間」を設けることで、労働者の睡眠時間やプライベート時間を確保するものです。たとえば、11時間のインターバルを設ける場合、前日の勤務が午後11時に終わったとしたら翌日の始業時間は翌日10時以降となります。
この勤務間インターバル制度は2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法」に基づき「労働時間等設定改善法」が改正され、前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することが事業主の努力義務として規定されました(2019年4月1日施行)。働いている時間ではなく、働いていない時間に注目される点がこの制度のポイントです。
しかし、勤務間インターバル制度の認知度は低く、どのような制度なのか理解できていない方も多いのではないでしょうか。今回の記事では勤務間インターバル制度の詳しい内容について紹介します。
勤務間インターバル制度導入の背景section
まず、勤務間インターバル制度という今までにない制度が導入されることになった背景について「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」の報告書を元に紹介します。
参考:厚生労働省|「勤務間インターバル制度普及促進のため の有識者検討会」報告書
過労死や健康被害が問題視されている
夜間睡眠時間を1日当たり約 5.8 時間に制限すると、制限せずに約 8.6 時間眠らせた場合に比べて眠気が増し、注意力が低下するという研究結果があるので、睡眠時間を削ることにより仕事の質が悪くなるのは明らかです。さらに、日本では長時間労働による過労死や健康被害が問題になっています。
長時間労働をすることにより、「心血管疾患の発症リスク」精神疾患の発症リスク」週 50 時間以上 の労働はメンタルヘルスを顕著に悪化させるなどの調査が報告されているそうです。また、長時間労働により体への不調が出るだけではなく、思い詰めてうつ病になり、冷静な判断ができず自殺を選ぶというケースもありました。
勤務間インターバル制度を導入することで労働者が十分な睡眠時間を確保し、家族や友人などと過ごす時間が増えれば心身ともに健康な状態で仕事に取り組めることに期待できます。
EUでは既に義務化されている
EU加盟国のすべての労働者に対して勤務間インターバル制度の利用が義務化されており、最低でも11時間以上の休息時間を設けることになっています。海外の導入事例もあり日本でも導入を検討することになりました。
日本では現状あくまで『努力義務』の範疇
ただし、日本ではEUのように義務化ではなく企業の努力義務が求められるに留まります。政府の導入目標は2020年までに10%以上ですが「平成30年就労条件総合調査」(厚生労働省)で「導入している」と回答した企業の割合は1.8%、直近の「平成31年就労条件総合調査」においても、「導入している」と回答した企業の割合は わずか3.1%です。
導入しなかったからといって罰則があるわけではない
導入が積極的にされていない理由として、導入しなかったからといって罰則があるわけではないということが挙げられます。導入にあたり、労働者の確保や就労規則の変更などさまざまな課題が発生するため、罰則がないのであれば導入を見送りたいと思う企業も多いのではないでしょうか。
また、「平成30年就労条件総合調査」で勤務間インターバル制度の導入の予定がなく、検討もしていない企業は89.1%で、その理由として「当該制度を知らなかったため」と答えたのは29.9%でした。理解していないから検討すらしないという考えの企業も存在するということもわかっています。
勤務間インターバル制度の導入割合と事例section
平成 31年度の厚生労働省の調査によると勤務間インターバル制度を「導入している」と回答した企業の割合は3.1%でした。
導入企業の割合
こちらの調査によると、従業員1,000人以上の企業で導入している割合は8.3%で従業員数が少なくなるほど導入している企業の割合が減ることもわかりました。
すでに導入している企業としてはユニ・チャーム株式会社、本田技研工業株式会社、KDDI株式会社、TBCグループ株式会社などの有名企業などが挙げられます。また、勤務間インターバル制度の導入予定がなく検討もしていないと答える企業が82.0%ですがその理由として「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要を感じないため」と答えたのが53.0%でした。
働き方改革が進み、残業時間自体が減っていることなどから勤務間インターバル制度を導入する必要性を感じていない企業も多いこともわかります。(参考:厚生労働省|平成31年就労条件総合調査)
勤務間インターバル時間の導入事例
勤務間インターバル制度導入にあたり、インターバル時間は各企業にゆだねられています。ただし、8時間が最低ラインで9~11時間に設定する企業が多い印象を受けます。
厚生労働省の勤務間インターバル制度の導入事例集によると、株式会社ニトリホールディングスは10時間、ユニ・チャーム株式会社は最低8時間以上努力義務として10時間、本田技研工業株式会社は22時以降まで残業を行う場合、本社・営業で12時間などの規定になっているとのことでした。
ただし、後ほど説明しますが、勤務間インターバル制度を導入することにより助成金を受ける場合のインターバル時間は9時間からになるので、助成を受けたい場合には9時間以上で設定したほうが良いといえます。
株式会社ニトリホールディングスの勤務間インターバル制度
制度の開始時期:2017年8月21日
インターバル時間:10時間
対象範囲:パートタイム従業員を含む全非管理職
規定根拠:全従業員が閲覧可能な就業規則の補足資料(勤怠マニュアル)に明記
ユニ・チャーム株式会社の勤務間インターバル制度
制度の開始時期:2017年1月
インターバル時間:最低8時間以上、努力義務として10時間
対象範囲:全社員
規定根拠:就業規則により規定
本田技研工業株式会社の勤務間インターバル制度
制度の開始時期:1970年代
インターバル時間:
22時以降まで残業を行う場合、本社・営業で12時間。また、研究所では10時間、工場(製作所)では9時間30分~11時間30分と事業領域ごとに規定が異なる。
対象範囲:全組合員
規定根拠:労使協定で規定
参考:厚生労働省|導入事例
勤務間インターバル制度が適用される雇用形態
企業間インターバル制度は正社員・契約社員・アルバイトなどいずれの雇用体系でも企業内の規定を設けることにより適用されます。ただし、派遣社員の場合は派遣会社が勤務間インターバル制度を導入していなければ、働く企業が制度を導入していたとしても対象になりません。
勤務間インターバル制度を導入するメリットsection
それでは、勤務間インターバル制度を導入するメリットを紹介します。
睡眠時間の確保
勤務間インターバル制度を導入することにより、睡眠時間が確保しやすくなります。睡眠時間が増えることにより集中して仕事に取り組むことができるようになり、仕事の質が上がるというメリットがあります。また、睡眠不足が続くと免疫が落ちで病気になりやすくなりますが、そのような病気の発症リスクも減らすことができるのです。
離職率の低下
残業時間が多く、ワークライフバランスが取れない環境だと離職率も上がる可能性があります。特に最近では働き方改革により業務時間を減らしてプライベートの時間を大切にする傾向にあるので、業務時間が長い企業は敬遠されやすくなります。離職率が上がれば辞めた人の仕事をカバーするために他の従業員にしわ寄せができ、労働効率は上がりません。勤務間インターバル制度を導入してきちんと休息が取れる勤務体系になれば離職率の低下にも期待できるでしょう。
良い人材の確保
少子高齢化により労働人口が減る日本では良い人材の確保が企業としての重要課題となっています。勤務間インターバル制度を導入していることにより、ワークライフバランスが取れるというアピールとなり良い人材の確保がしやすくなる可能性もあるでしょう。
勤務間インターバル制度を導入する注意点section
では、企業間インターバル制度を導入する注意点にはどのようなものがあるでしょうか?
一人当たりの勤務時間が減るため人員確保が必要
勤務間インターバル制度を挿入することにより、一人当たりの一日に働ける労働時間が減ってしまいます。そのため、繁忙期の対応に困る可能性も出てくるでしょう。前日の残業により翌日の始業時間がずれ込む場合、その時間の労働を補う労働者を採用しなくてはいけない可能性も出てきます。
また、一部の優秀な人材に労働が偏っている場合、その人の労働分の穴埋めをするのも難しくなるでしょう。このように勤務間インターバル制度を導入することにより、人員配置を考える必要がありますし、新たに人を雇う場合にはコストが発生する可能性もあるのです。
効率化のためのIT機器導入
労働を効率化して勤務時間を減らすことを考える場合にはIT機材などを導入する必要が出てきます。どのIT機材を導入するかを考えるところから始まり、IT機材の導入に出費があり、使い方を覚えるなどそれまでの制度を大きく変えるには手間と労力がかかります。
残業が増える可能性も
勤務間インターバル制度は労働時間を減らすための制度ですが、すべての従業員が労働時間を減らし早く帰りたいと思っている訳ではないでしょう。前日残業で遅くなれば、翌日のゆっくり出勤できるようになるためわざと夜ゆっくり働いて残業をしようと考える人も出てくるかもしれません。残業が増えれば企業としても残業代を多く支払わなければいけなくなるので、勤務間インターバル制度を導入する意味を周知して無駄な残業はさせないように管理する必要があります。
勤務間インターバル制度導入にあたっての就業規則の変更section
勤務間インターバル制度を導入する際には就業規則を変更する必要が出てきます。就業規則を変更する場合には以下のような条文を従来の就業規則へ追加するのが一般的です。
① 休息時間と翌所定労働時間が重複する部分を労働とみなす場合
第○条 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。
② 始業時刻を繰り下げる場合
第○条 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始業時間は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。
就労規則の変更に伴い、勤怠管理も制度に則ったものにするために、チェック項目が増えるなど人事部の仕事が増える可能性があります。また、労務管理用ソフトウェアを利用している場合には新しいものを導入するなどしなければいけません。ただし、このようなツールの導入に対しては助成金が支給される場合があります。
勤務間インターバル制度の助成金についてsection
勤務間インターバル導入の取り組みとして、勤務間インターバル制度を導入する企業に対して助成金が支給されます。助成される企業や取組などについて厚生労働省のホームページを参考に紹介します。
「勤務間インターバル」とは、勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図るもので、2019年4月から、制度の導入が努力義務化されました。
厚生労働省:働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
このコースでは、勤務間インターバル制度の導入に取り組む中小企業事業主の皆さまを支援します。
是非ご活用ください。
助成の対象になる企業
助成の対象となるのは以下の条件をクリアした企業です。
- 労働者災害補償保険の適用事業主であること
- 次のアからウのいずれかに該当する事業場を有する事業主であること
- ア 勤務間インターバルを導入していない事業場
- イ 既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
- ウ 既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場
- 全ての対象事業場において、交付申請時点及び支給申請時点で、36協定が締結・届出されていること。
- 全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。
また、この助成金は中小企業に助成されるものであり、定義される中小企業はAまたはBの要件を満たす者です。
小売業(飲食店含む)A資本金5,000万円以下 B常時雇用する労働者 50人以下
サービス業 A資本金5,000万円以下 B常時雇用する労働者 100人以下
卸売行 A資本金1億円以下 B常時雇用する労働者 100人以下
その他 A資本金3憶円以下 B常時雇用する労働者 300人以下
助成の対象になる取組
助成の対象となる取組はいくつかありますので、いずれか1つ以上を選び実施してください。
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
- 就業規則・労使協定等の作成・変更
- 人材確保に向けた取組
- 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
- 労務管理用機器の導入・更新
- デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
- テレワーク用通信機器の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)
※研修には、業務研修も含みます。
※原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません。
成果目標の設定について
事業主が事業実施計画において指定したすべての事業場において、休息時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」の勤務間インターバルを導入することが求められます。具体的には、事業主が事業実施計画において指定した各事業場において、以下のいずれかに取り組む必要があります。
ア 新規導入
勤務間インターバルを導入していない事業場において、事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とする、休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルに関する規定を労働協約または就業規則に定めること
イ 適用範囲の拡大
既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下であるものについて、対象となる労働者の範囲を拡大し、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とすることを労働協約または就業規則に規定すること
ウ 時間延長
既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場において、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象として、当該休息時間数を2時間以上延長して休息時間数を9時間以上とすることを労働協約または就業規則に規定すること
また、上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。
支給額
支給額は対象経費に3/4を乗じた額になります。ただし、取り組み内容や導入するインターバル時間によって上限があります。(※)常時使用する労働者数が30名以下かつ、支給対象の取組で6から10を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は4/5となります。
休息時間数(※) | 「新規導入」に該当する 取組がある場合 | 「新規導入」に該当する取組がなく、 「適用範囲の拡大」又は 「時間延長」に該当する取組がある場合 |
9時間以上 11時間未満 | 80万円 | 40万円 |
11時間以上 | 100万円 | 50万円 |
また、賃金額の引上げを成果目標に加えた場合の加算額は、指定した労働者の賃金引上げ数の合計に応じて、上記上限額に加算することができます。(※引き上げ人数は30人を上限とする。)
引き上げ人数 | 1~3人 | 4~6人 | 7~10人 | 11人~30人 |
3%以上引き上げ | 15万円 | 30万円 | 50万円 | 1人当たり5万円 (上限150万円) |
5%以上引き上げ | 24万円 | 48万円 | 80万円 | 1人当たり8万円 (上限240万円) |
利用までの流れ
この助成金を助成するためには、「交付申請書」を事業実施計画書などの必要書類とともに、最寄りの労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。交付決定後に、計画書に沿った取り組みを実施し、その内容を労働局に申請する流れです。なお、2022年度の交付申請受付期限は2022年11月30日必着です。
1.交付申請書の提出
- 「働き方改革推進支援助成金交付申請書」(様式第1号)[Word形式:54.0KB]
- 2.支給申請書の提出
- 「働き方改革推進支援助成金支給申請書」(様式第10号)及び「働き方改革推進支援助成金事業実施結果報告書」(様式第11号)[Word形式:42.8KB]
- 3.交付決定後に事業の内容を変更される場合
- 「働き方改革推進支援助成金事業実施計画変更申請書」(様式第4号)[Word形式:43.5KB]
- 4.交付決定後に事業を中止または廃止しようとする場合
- 「働き方改革推進支援助成金事業中止・廃止承認申請書」(様式第7号)[Word形式:22.2KB]
- 5.事業遅延の届出をされる場合
- 「働き方改革推進支援助成金事業完了予定期日変更報告書」(様式第8号)[Word形式:22.3KB]
- 6.実施状況の報告をされる場合
- 「働き方改革推進支援助成金事業実施状況報告書」(様式第9号)及び「働き方改革推進支援助成金支払状況報告書」(様式第9号の2)[Word形式:23.6KB]
- 7.消費税仕入控除税額が確定した場合
- 「働き方改革推進支援助成金に係る消費税額の確定に伴う報告書」(様式第14号)[Word形式:22.6KB]
まとめ
勤務間インターバル制度内容の認知度はまだ低く、導入する企業も少ないですが、十分な休息を取ることにより業務効率が上がったり、ワークライフバランスが充実したりということに期待できます。その結果、離職率が下がるなど企業にとってもメリットをもたらすことになるでしょう。適切なインターバル時間は9時間〜11時間といわれています。
また、勤務間インターバル制度を導入していない企業に助成される助成金もあるので、導入検討中の場合は是非活用してください。