
- 「繁忙期が来るたびに辞めたいと思ってしまう」
- 「このまま監査を続けていいのか分からない」
監査法人で働く公認会計士なら、一度はこうした迷いを抱いたことがあるかもしれません。
実際、監査法人の外で働く公認会計士は増えています。公認会計士の登録者数は2013年3月末から2026年3月末までに約51%増えましたが、監査法人に所属する人の増加率は16.5%にとどまっています。
ただし、辞めたい理由によっては、法人内の異動や働き方の調整で解決できることもあります。勢いで辞めて後悔しないためには、「何に不満を感じているのか」「辞めればそれが解決するのか」を先に整理しておくことが大切です。
本記事では、監査法人を辞めたくなる代表的な理由と、辞めるべきか迷ったときの判断基準、辞めるメリット・デメリット、適したタイミング、辞めたあとのキャリアの選択肢を解説します。円満に退職するための手順や、相談先になる転職エージェントもあわせて紹介します。
- 監査法人を辞めたい理由は、激務、業務内容への不満、キャリアの行き詰まりの大きく3つ
- 辞める前に「その不満は監査法人の中で解決できないか」を確かめておくと、後悔しにくくなる
- 辞める場合は、実務経験3年の要件や修了考査、繁忙期の時期を踏まえて退職時期を決めるべき
監査法人を辞めたいと感じる人は珍しくない
「辞めたいと思うのは自分が甘いからでは」と悩む人もいますが、監査法人を離れて別の場所で専門性を活かす公認会計士は年々増えています。
まずは公的なデータから、監査業界の人の動きを確認しておきましょう。
監査法人の外で働く公認会計士は増えている
公認会計士・監査審査会の「令和8年版モニタリングレポート」によると、公認会計士の登録者数は2013年3月末の24,964人から、2026年3月末には37,715人に増えました。増加率は約51%です。
一方で、監査法人に所属する人は12,799人から14,915人への増加にとどまり、増加率は16.5%でした。
[参照元]令和8年版モニタリングレポート|公認会計士・監査審査会
同じレポートでは、日本公認会計士協会の「組織内会計士ネットワーク」に登録している会計士の数も紹介されています。監査法人や税理士法人などを除き、一般企業や行政機関などで働く公認会計士の登録者は、2016年末の1,377人から2025年末には2,545人へと約2倍になりました。
つまり、公認会計士のキャリアは「監査法人で働き続ける」以外の道が珍しくなくなっています。監査法人を辞めたいと考えること自体は、決して特別なことではありません。
大手監査法人は若手の定着に力を入れている
一方で、大手監査法人も人材の流出を放置しているわけではありません。同レポートによると、大手監査法人ではキャリアパスの柔軟化やパートナーへの昇進期間の短縮、給与水準の引き上げ、退職者を再び迎え入れる採用などの人事施策が進められています。
業務面でも、仕事の割り振りを一元管理して負担を平準化したり、AIを含むITの活用で作業を自動化したりする取り組みが進んでいます。
残高確認状の発送・回収のように判断を要しない作業は、専門の組織(デリバリーセンター)に移す動きもあります。こうした取り組みの結果、近年は大手監査法人のマネージャー層やスタッフ層で離職率が低下傾向にあるとされています。 [参照元]令和8年版モニタリングレポート|公認会計士・監査審査会
ネット上では「監査法人は離職率が高い」と語られることも多いですが、職場環境は法人によっても、時期によっても変わります。
辞めるかどうかを考えるときは、数年前のイメージだけで判断せず、今の所属法人でどんな制度を使えるのかも確かめておくとよいでしょう。
実務経験3年の要件を満たすと辞める人が増えやすい
監査法人を辞める時期には、公認会計士の資格要件も大きく関わっています。公認会計士として登録するには、試験に合格したうえで、3年以上の実務経験(業務補助等)を積み、実務補習を修了する必要があります。
実務経験の期間は、2023年4月1日に施行された改正公認会計士法によって「2年以上」から「3年以上」に延びました。施行日の時点ですでに2年以上の実務経験があった人には、従来どおり2年以上でよいとする経過措置が設けられています。
[参照元]公認会計士の資格取得に関するQ&A|金融庁 [参照元]実務経験(業務補助等)の期間の見直しに係るQ&A|金融庁
監査法人で監査の補助をすることは、この実務経験のうちの「業務補助」にあたります。そのため、まずは監査法人で実務経験を積み、登録の要件をそろえてから次のキャリアを考えるのが一般的な流れです。
登録の要件がそろうと、「監査法人に残らなければならない理由」がひとつ減ります。実務経験と実務補習を終えた頃に転職を考え始める人が多いのは、こうした制度上の事情もあるためです。
監査法人を辞めたい代表的な理由
監査法人を辞めたいと感じる理由は人によってさまざまですが、よく挙がるのは次の7つです。自分の気持ちに近いものはどれか、考えながら読んでみてください。どの理由に当てはまるかによって、次の章で紹介する「辞めるべきかの判断」も変わってきます。
繁忙期の激務で心身が疲れている
監査法人では、繁忙期の長時間労働や休日出勤が避けにくいのが実情です。
日本の上場企業は3月決算の会社が多いため、期末監査や監査報告書の作成が4〜5月に集中しやすく、この時期は深夜まで働く日が続くこともあります。担当するクライアントによっては、遠方への出張や現地での滞在が必要になる場合もあるでしょう。
こうした働き方は体力的にも精神的にも負担が大きく、プライベートの時間や趣味を楽しむ余裕がなくなりがちです。結婚や子育てなどライフステージが変わると、「この働き方を何年も続けられるだろうか」と不安になる人も少なくありません。
自分のライフスタイルや家族の事情を考慮して働きたいと考え、監査法人を辞めたくなるのは自然なことです。ただし、繁忙期の負担はアサインされるクライアントによって大きく変わるため、まずは担当先の変更を相談できないか確かめてみる価値はあります。
監査人としての責任が重い
監査法人で働く公認会計士は、クライアントの財務諸表が適正かどうかを保証する重要な役割を担っています。監査意見は投資家や取引先の判断材料になるため、その責任は非常に重いものです。
万が一、不正や誤りを見逃して監査に関するトラブルが起きれば、法人としても個人としても社会的な信用を失うリスクがあります。近年は監査の品質管理に対する要求も高まっており、手続きや文書化の負担が増えたと感じている人もいるでしょう。
クライアントの担当者と意見が対立した場面で、指摘すべきことを指摘し続けなければならないのも、監査人ならではの精神的な負担です。こうした責任の重さや緊張感に疲れ、監査法人を辞めたいと感じる人もいます。
法人内での昇進が見えにくい
監査法人の役職は、一般的にスタッフ、シニアスタッフ、マネージャー、シニアマネージャー、パートナー(社員)といった段階に分かれています。
公認会計士・監査審査会のレポートでも、大手監査法人では試験合格直後に採用された人が公認会計士となり、その一部が法人内の選考でマネージャーなどに昇進し、さらにその一部がパートナーに登用されるのが一般的だと説明されています。
パートナーは監査法人での最終的なキャリアともいえる立場で、高い専門性だけでなく、営業力やマネジメント力も求められます。そもそもポストに空きがなければ昇進できない場合もあり、誰もがたどり着けるわけではありません。
マネージャー以降の道筋が描けないと、「このまま監査法人にいても先が見えない」と感じて転職を考えるようになります。
監査以外の業務を経験したい
監査法人では主に監査業務に携わるため、入所して数年が経つと仕事に慣れ、毎年同じ作業を繰り返しているように感じることがあります。
そのため、「このまま監査を続けてもスキルの幅が広がらないのでは」と考え、監査以外の業務を経験したいと考える人は少なくありません。監査業務そのものにやりがいを感じられなくなり、転職を検討する人もいます。
ただし、監査の現場も変わりつつあります。公認会計士・監査審査会のレポートによると、監査サンプルの抽出や帳票の突き合わせ、調書の下書きの作成といった若手が担ってきた定型的な作業は、AIによる代替が進んでいます。
その分、若手のうちからより判断が求められる業務に関われるようになってきているとされています。 [参照元]令和8年版モニタリングレポート|公認会計士・監査審査会
「作業ばかりでつまらない」という不満であれば、所属法人の業務環境がどう変わっているかも確認してみるとよいでしょう。
事業の成長に直接関わりたい
監査法人は、クライアントの財務諸表をチェックすることで企業の健全性や透明性を高め、資本市場に貢献しています。ただし、その貢献は第三者としての間接的なものです。
監査人は独立した立場を保つ必要があるため、クライアントの経営課題に気づいても、当事者として解決策を実行することはできません。
そのため、事業会社で働き、自分の専門性や経験を活かして直接事業に貢献したいと考える公認会計士は少なくありません。自社の成長や事業の発展を間近で見られることも、事業会社ならではの魅力です。
こうした理由から事業会社やベンチャー企業で働くことに関心を持ち、監査法人を辞めたいと感じるようになる人もいます。
人間関係や評価に納得できない
監査法人では、クライアントごとにチームが組まれます。案件によって上司や同僚が変わるため、相性の合わない主査やマネージャーと長期間一緒に働くことになる場合もあります。
調書のレビューで厳しい指摘が続いたり、繁忙期に余裕のない雰囲気が続いたりすると、精神的に追い詰められることもあるでしょう。
評価に対する不満もよく聞かれる理由のひとつです。どのクライアントにアサインされるかによって経験できる業務や目立つ機会が変わるため、「自分の頑張りが正当に評価されていない」と感じる人もいます。
人間関係の悩みは、所属部署やチームが変われば解消できる場合もあります。一方で、法人の文化や評価の仕組みそのものが合わないと感じる場合は、環境を変えることを考えてもよいでしょう。
実務経験・実務補習の期間が終わった
前述のとおり、公認会計士として登録するには、3年以上の実務経験と実務補習の修了が必要です。実務補習の講義は平日の夜間や土日に行われることも多く、職場の理解が欠かせません。
そのため、多くの試験合格者は監査法人に就職し、働きながら修了考査の合格を目指します。
実務経験と実務補習の期間を終え、修了考査にも合格すれば、公認会計士として登録できるようになります。監査法人で働く大きな理由のひとつがなくなるため、このタイミングで監査法人を離れることを考える人も一定数います。
もともと「登録までは監査法人で経験を積む」と決めていた人にとっては、計画どおりのキャリアの節目ともいえるでしょう。
監査法人を辞めるべきか迷ったときの判断基準
辞めたい理由がはっきりしたら、次は「その不満は監査法人を辞めないと解決できないのか」を考えてみましょう。
監査法人は年収水準が高く、周囲に優秀な公認会計士も多い環境です。法人内で解決できる不満であれば、残ったほうがよい結果になる可能性もあります。
反対に、法人内では解決できない理由であれば、早めに転職の準備を始めたほうが後悔しにくくなります。
理由別に「辞めて解決すること」と「法人内で解決できること」を見分ける
辞めたい理由ごとに、監査法人の中で試せることと、辞めたほうが解決しやすいケースを整理すると次のとおりです。
| 辞めたい理由 | 監査法人の中で試せること | 辞めたほうが解決しやすいケース |
|---|---|---|
| 繁忙期の激務 | 担当クライアントの変更、繁忙期の偏りが少ない部門への異動を相談する | 決算期に合わせて忙しくなる働き方そのものが合わない、家庭の事情で長時間労働が難しい |
| 監査業務への不満 | アドバイザリーや税務など監査以外の業務への関与、部門間の異動を相談する | 事業会社の当事者として働きたい、監査とは別の専門分野で経験を積みたい |
| 責任の重さ | 経験を積んで担当範囲を調整する(根本的な解決は難しい) | 監査意見を出す立場そのものから離れたい |
| 昇進・評価への不満 | 評価面談で昇進の基準を確認する、メンター制度などを活用する | マネージャー以降のキャリアを法人内で描けない、評価の仕組みが合わない |
| 人間関係 | チームや部署の変更を相談する | 法人の文化や働き方そのものが合わない |
| 将来のキャリア | 出向や海外派遣、法人内の公募制度などを活用する | 目指すポジション(CFOなど)が監査法人の外にしかない |
※法人内で利用できる制度は法人ごとに異なります。所属先の制度を確認したうえで判断してください。
表の左側で解決できそうなら、まずは上司や人事担当に相談してみるのがおすすめです。
一方で、右側に当てはまる理由が多い場合や、相談しても状況が変わらなかった場合は、転職を前向きに検討してよいタイミングといえます。
部署異動や働き方の調整で解決できないか考える
監査法人を辞める前に、辞めたい理由が監査法人の中では本当に解決できないのかを確認しておきましょう。
たとえば「事業に関わる経験を積みたい」「M&Aの実務を学びたい」といった目標がある場合、その目標は監査法人の中では達成できないものなのでしょうか。
公認会計士・監査審査会のレポートによると、大手監査法人や準大手監査法人では、人材育成の一環として次のような業務機会を提供している例があります。
- 業務のローテーションや、地域事務所を含む部門間の異動
- 品質管理、税務、アドバイザリーなど監査以外の業務への関与
- 海外のメンバーファームへの派遣・駐在
- グループ法人や事業会社など、監査法人の外部への出向
同じレポートでは、リモートワークやフレックスタイム制など柔軟な勤務体系の導入、仕事の割り振りの一元管理による負担の平準化、カウンセリングを通じたキャリアプランの提示といった取り組みも紹介されています。
こうした制度を使えば、監査法人に在籍したまま、不満の原因を取り除けることもあります。働く環境への不満であれば、部署やチームの変更、勤務時間の調整で解決できる可能性もあるでしょう。
それでも解決しない場合や、目指すキャリアがはっきり監査法人の外にある場合は、辞めるという選択も十分に前向きなものです。次の章では、監査法人を辞めることのメリットを見ていきましょう。
監査法人を辞める5つのメリット
監査法人を辞めたいと感じたら、辞めることで得られるものと失うものの両方を把握しておくことが大切です。まずはメリットから見ていきましょう。
監査法人で身につけた知識や経験は、外の世界で思っている以上に評価されることがあります。
キャリアの幅が広がる
監査法人では主に監査業務に携わりますが、公認会計士として培った知識やスキルは、監査以外のさまざまな分野で活かせます。
たとえば、企業の経理・財務、経営コンサルティング、M&Aなどの分野では、公認会計士の専門性や信頼性が高く評価されます。事業会社やコンサルティングファーム、金融機関など、監査法人とは異なる組織に入ることで、描けるキャリアそのものも変わってきます。
監査法人に残る場合は、スタッフからマネージャー、パートナーへと進む道が中心になります。
辞めることで、CFOを目指す、専門分野のアドバイザーになる、独立するといった、自分の希望に合ったキャリアを選びやすくなるのは大きなメリットです。
ワークライフバランスを改善しやすくなる
監査法人で働いていると、繁忙期やクライアントの要望に応じて、長時間労働や出張が多くなりがちです。自分の時間やプライベートの生活が削られ、家族や趣味を大切にしたい人にとってはストレスや不満がたまりやすくなります。
事業会社の経理などに移れば、決算期の忙しさはあっても、監査法人の繁忙期ほどの負担にはならないケースも多くあります。監査法人を辞めて、ワークライフバランスを保ちやすい職場へ転職することで、こうしたストレスや不満が改善されるでしょう。
ただし、転職先によっては監査法人以上に忙しくなることもあります。
IPO準備企業やFAS、コンサルティングファームなどは、案件の状況次第で長時間労働になる場合もあるため、応募前に働き方を確認しておくことが大切です。
人間関係をリセットできる
監査法人では、同僚や上司との関係に加え、クライアントとの人間関係に悩むこともあります。特に、コミュニケーションのスタイルが合わない場合や、ハラスメントがある場合には、精神的に苦しむこともあるでしょう。
監査法人を辞めることで、こうした人間関係をリセットできます。新しい環境で、自分に合った人間関係を一から築けるのはメリットです。
監査人という立場上、クライアントとは意見が対立しやすい関係にもなりがちです。事業会社に移れば、経理や経営企画のメンバーとして、同じ目標に向かって仕事を進める立場に変わります。
「指摘する側」から「一緒に解決する側」に変わることで、仕事上の人間関係が楽になったと感じる人もいます。
現状より評価されるチャンスが生まれる
監査法人で働く中で、自分の能力や成果が正当に評価されていないと感じているなら、辞めることで現状より評価されるチャンスが生まれます。
監査法人では、公認会計士の資格を持っていることが当たり前です。しかし、監査法人を辞めてほかの分野や組織に移ると、公認会計士の資格や監査の経験は大きな強みになります。
たとえば事業会社では、会計基準に詳しく、監査法人の考え方も分かる人材として頼りにされる場面が多くあります。
これにより、今よりも高い評価を得て、年収アップや役職への登用につながることもあるでしょう。
独立性の制約が外れ、投資や副業の自由度が上がる
監査人は、監査の公正さを保つために「独立性」を守らなければなりません。
公認会計士法や日本公認会計士協会の倫理規則では、監査クライアントの株式を持つことなど、クライアントとの特定の経済的な関係が制限されています。監査法人では、こうしたルールに沿って、保有している有価証券の確認などの手続きを設けているのが一般的です。
[参照元]倫理委員会研究報告第1号「監査人の独立性チェックリスト」|日本公認会計士協会
また、法人の規程によっては、利益相反を避けるために副業や兼業に制限が設けられていることもあります。
監査法人を辞めて事業会社などに移れば、こうした監査人としての制約からは外れます(転職先の就業規則やインサイダー取引規制などは別途守る必要があります)。
株式投資を自由に行いたい人や、副業で専門性を試してみたい人、将来の独立に向けて準備を進めたい人にとっては、見落としがちなメリットといえるでしょう。
監査法人を辞めるデメリットと注意点
監査法人を辞めることにはメリットがある一方で、辞めてから「こんなはずではなかった」と後悔しやすいポイントもあります。
辞める前に、次のデメリットと注意点を理解しておきましょう。特に入所から数年以内の人や、修了考査を控えている人は注意が必要です。
修了考査前だと学習時間を確保しにくい
監査法人を辞めると、修了考査に合格するための学習時間を確保しにくくなる場合があります。
監査法人には修了考査を控えた職員が多く在籍しているため、受験に対する理解があります。しかし、ほかの職場ではそのような理解が得られないことも少なくありません。仕事が忙しくても配慮されず、学習時間を確保できない可能性があります。
また、実務経験が3年に満たないうちに辞める場合は、転職先での仕事が実務経験として認められるかどうかも確認しておきましょう。
監査法人での「業務補助」に加え、資本金5億円以上の法人や上場会社などを対象とした決算業務、財務分析などの「実務従事」も実務経験として認められ、両方の期間を通算できます。ただし、実務従事にあたるかどうかは業務内容によって個別に判断されます。
[参照元]公認会計士の資格取得に関するQ&A|金融庁
修了考査や登録の前に辞める場合は、転職先で受験への配慮が得られるか、仕事内容が実務従事に該当するかを、応募の段階で確かめておくと安心です。
監査の実務経験を積めなくなる
監査の実務経験を積むのに最も適した環境は、やはり監査法人です。監査法人以外でも一部の監査に関わる機会はありますが、案件の数や規模、監査品質の面では監査法人に及びません。
監査法人では、最新の会計基準や監査基準に沿った手法やツールを学べます。優秀な公認会計士も多く在籍しているため、日々の業務から得られる学びも豊富です。監査法人を辞めると、こうした質の高い監査実務を積めなくなる点はデメリットです。
なお、公認会計士・監査審査会のレポートによると、大手監査法人では退職者を再び監査業務に迎え入れる採用も行われています。
辞めたら二度と戻れないというわけではありませんが、監査から離れる期間が長いほど、最新の基準や手続きに追いつく負担は大きくなると考えておきましょう。
年収が下がる場合がある
監査法人で働く公認会計士は、ほかの業界や職種と比べて年収が高い水準にあります。
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、令和7年賃金構造基本統計調査をもとにした公認会計士の年収は、全国平均で810.8万円です(平均年齢42.2歳)。
この統計には税理士なども含まれている点に注意が必要ですが、会計専門職の年収水準の高さがうかがえます。 [参照元]公認会計士 - 職業詳細|職業情報提供サイト(job tag)
監査法人では、スタッフやシニアスタッフの間は残業代が支給されるのが一般的で、繁忙期の残業代が年収を押し上げている場合もあります。残業の少ない職場に移ると、ワークライフバランスは改善しても、年収は下がることがあります。
また、監査法人では十分な経験とスキルがあれば、マネージャークラスまでは順当に昇進できる可能性が高いといえます。
一方で、ほかの職場では決まったキャリアパスがなく、成果主義の評価になっているケースも少なくありません。転職する場合は、目先の年収だけでなく、数年後の昇給や昇進の見込みまで確認しておきましょう。
短期間での退職は転職先に慎重に見られやすい
入所して1〜2年など短い期間で監査法人を辞める場合、転職先から「またすぐに辞めてしまうのでは」と慎重に見られることがあります。
監査の経験が浅いと、即戦力として評価できる実績も少ないため、選べる転職先が限られやすくなります。ただし、短期間で辞めることが必ずしも不利になるわけではありません。
たとえば、心身の不調が出るほどの激務や、明らかに自分に合わない環境から離れることは、前向きな判断といえます。若手のうちは、経験よりもポテンシャルを重視して採用する企業もあります。
大切なのは、面接で退職理由と次にやりたいことを一貫したストーリーで説明できることです。
「監査法人で何を学び、なぜ今辞めるのか、次の職場で何をしたいのか」を整理しておけば、短い在籍期間でも納得してもらいやすくなります。
監査法人を辞めるのに適したタイミング
監査法人を辞めると決めたら、次に考えたいのが辞める時期です。
同じ転職でも、年次や1年の中のどの時期に動くかによって、選べる転職先や職場への負担が変わります。ここでは、年次別の考え方と、1年の中で動きやすい時期を紹介します。
年次別に辞め時の考え方を整理する
監査法人を辞める時期を年次ごとに整理すると、次のようになります。年数はあくまで目安で、試験合格の時期や昇進のスピードによって前後します。
| 時期の目安 | 主な状況 | 転職市場での見られ方 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1〜2年目 | 実務経験・実務補習の途中 | ポテンシャル採用が中心。選べる転職先は限られやすい | 修了考査の学習時間と、転職先の仕事が実務経験として認められるかを確認する |
| 3〜4年目 | 実務経験3年を満たし、修了考査に合格して登録できる頃 | 公認会計士として評価され、事業会社やFASなど選択肢が広がる | 監査の経験はまだ浅いため、転職先によっては経験不足と見られることもある |
| 5〜7年目 | シニアスタッフとして主査(インチャージ)を経験する頃 | チームを率いた経験が評価され、より良い条件の求人も狙いやすい | 昇進が近い場合は、マネージャーまで経験してから動くかも検討する |
| 8年目以降 | マネージャーとして複数の監査チームを管理する頃 | 管理職候補やCFO候補など、責任あるポジションを狙える | 年収水準が高くなっているため、転職で年収が下がる可能性も考慮する |
前述のとおり、修了考査に合格すると公認会計士として登録でき、監査法人で働く理由のひとつがなくなります。このタイミングで転職を考えるのは自然なことです。
ただし、修了考査に合格しても、実務経験という点ではまだ十分とはいえない時期でもあります。監査以外の仕事にどうしても挑戦したい、仕事がきつすぎて心身がつらいなど、はっきりした理由があるかどうかを確認してから動きましょう。
1年の中では繁忙期明けが動きやすい
1年の中で辞める時期を考えるなら、繁忙期が明けたタイミングがおすすめです。
日本では3月決算の上場企業が多いため、監査法人の繁忙期は4〜5月に集中しやすくなります。繁忙期の真っ最中に退職すると、チームへの負担が大きくなり、引き継ぎも十分にできません。
期末監査が一段落する6月以降に退職できるよう、逆算して転職活動を進めるとスムーズです。転職活動は、情報収集から内定、退職の手続きまで数か月かかることも多いため、繁忙期が始まる前から準備を始めておくとよいでしょう。
あわせて、賞与の支給時期も確認しておきたいポイントです。支給日の前に退職すると、賞与を受け取れない場合があります。支給の条件は法人ごとに異なるため、就業規則や給与規程で確認しておきましょう。
IPO支援や主査の経験を積んだあとは選択肢が広がる
主査(インチャージ)としての経験や、クライアントのIPO(株式上場)を支援した経験を積んだあとも、転職には良いタイミングです。
主査として監査チームを率いた経験があると、マネジメント力やリーダーシップがあると評価され、市場価値が高まります。幅広い業界や企業から求められるようになるため、より良い条件での転職や、希望するキャリアを選べる可能性が高まるでしょう。
また、クライアントのIPOに関わった経験は、公認会計士にとって非常に貴重です。IPOに関わることで、上場準備や財務報告の流れ、上場審査で求められる体制づくりを深く理解できます。こうした経験は、IPO準備企業の管理部門や、ベンチャー企業のCFO候補といった重要なポジションへの転職でも強みになります。
独立を見据えるなら人脈ができてから動く
監査法人で一定の経験を積んだあとに独立したいと考えている人は、人脈ができたタイミングで辞めるのが効果的です。監査法人では、多くのクライアントや関係者と接する機会があるため、自然と人脈を広げられます。
人脈は、独立するときの大きな強みになります。独立後は、自分のサービスを必要としてくれる顧客を見つけることが何より重要ですが、人脈があれば紹介などで顧客を獲得しやすくなります。
また、人脈があれば、自分の知らない分野の問題に直面したときも、助言や協力を得やすくなります。独立を考えている人は、在職中から社内外の人とのつながりを意識して築いておきましょう。
監査法人を辞めたあとのキャリアの選択肢
監査法人を辞めたあとには、どのようなキャリアを選べるのでしょうか。公認会計士の転職先は幅広く、監査の経験をそのまま活かせる職場から、まったく新しい分野に挑戦できる職場までさまざまです。
まずは主な転職先を一覧で比較し、そのあとでそれぞれの特徴を解説します。
| 転職先 | 監査経験の活かしやすさ | 働き方の傾向 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 事業会社の経理・財務 | 高い(決算・開示・内部統制) | 決算期は忙しいが、比較的安定しやすい | ワークライフバランスを整えたい、事業に当事者として関わりたい |
| IPO準備企業・ベンチャー | 高い(上場準備・内部統制) | 裁量が大きい一方、忙しくなりやすい | 成長企業でCFOなど経営に近い立場を目指したい |
| FAS | 高い(財務分析・会計知識) | 案件次第で繁忙になる | M&Aや事業再生など監査以外の専門性を身につけたい |
| コンサルティングファーム | 中程度(財務系は高い) | 長時間労働になる場合もある | 企業の課題解決に幅広く関わりたい |
| 会計事務所・税理士法人 | 中程度(会計は活きる、税務は学び直し) | 確定申告や決算期に繁忙期がある | 税務の経験を積みたい、将来は独立したい |
| 金融機関・投資銀行 | 中程度(金融・M&Aの知識も必要) | 業務によっては非常に忙しい | 金融市場やM&A取引の最前線で働きたい |
| 中小監査法人・別の監査法人 | 非常に高い(監査を継続) | 法人によって大きく異なる | 監査は続けたいが、働き方や環境を変えたい |
| 非常勤として監査に関わる | 非常に高い(監査を継続) | 勤務日数や時間を調整しやすい | 独立や副業と両立しながら監査に関わりたい |
| 独立開業 | 経験の幅による | 自分で調整できるが、営業も必要 | 自分の事務所を持ちたい、人脈がある |
※働き方の傾向は一般的なもので、実際の勤務条件は職場によって異なります。
事業会社の経理・財務に移る
事業会社への転職は、監査法人からのキャリアとして最も一般的な選択肢のひとつです。配属先としては、経理・財務のほか、内部統制や内部監査、経営企画などが挙げられます。
上場企業では、監査法人で培った知識やスキルを活かして、決算業務や有価証券報告書などの開示書類の作成、高度な財務分析を担当できます。監査法人とのやり取りの窓口を任されることも多く、「監査人がどこを見るのか」を知っていることは大きな強みになります。
中小企業では、経営者と直接コミュニケーションを取りながら、経営戦略や財務戦略の立案・実行に関われるでしょう。
前述のとおり、企業や行政機関で働く公認会計士は、この10年で約2倍に増えています。事業会社で働く会計士は、もはや珍しい存在ではありません。
IPO準備企業・ベンチャーのCFO候補を目指す
挑戦的な環境や成長を求める人は、IPO準備企業やベンチャー企業への転職も考えられます。IPO準備企業では、上場審査の基準を満たすための社内体制づくりが欠かせないため、企業会計や内部統制に詳しい公認会計士のニーズが高くなっています。
スピード感や柔軟性が求められ、上場準備の時期はハードワークになることもあります。それでも、成長性の高い企業で経営に近い立場から働く経験は、自身のキャリアに大きなプラスになるでしょう。監査法人でIPO支援に関わった経験があれば、即戦力として評価されやすくなります。
将来的にCFO(最高財務責任者)を目指したい人にとっては、管理部門の責任者候補として入社し、上場までのプロセスを当事者として経験できる点が魅力です。
FASでM&A・事業再生に関わる
FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)とは、M&Aや事業再編などに関する財務面の助言を行う専門家集団です。公認会計士としての専門性を活かしつつ、監査以外の業務を経験したい人にとって、FASへの転職は有力な選択肢です。
FASでは、M&Aの際に買収先の財務状況を調べる財務デューデリジェンスや、企業価値の評価(バリュエーション)、事業再生の支援などを担当します。
会計の知識や財務諸表を読み解く力など、監査法人で得たスキルを活かしやすく、公認会計士を歓迎する求人も多くあります。大手監査法人のグループにもFASがあるため、グループ内での異動を検討できる場合もあります。
コンサルティングファームで課題解決に携わる
コンサルティングファームでは、クライアントの課題解決に向けたアドバイスや支援を行います。監査法人で働く公認会計士の転職先としては財務系のコンサルティングファームが一般的ですが、戦略、組織・人事、ITなど、さまざまな分野のファームがあります。
論理的思考力や問題解決力、分析力など、幅広い能力が高い水準で求められる厳しい環境です。プロジェクトの状況によっては長時間労働になることもあります。
それでも、多様な業界の経営課題に触れられるため、やりがいや成長を求める人には合っている可能性があるでしょう。監査で身につけた、資料を読み込んで論点を整理する力は、コンサルティングの仕事でも役立ちます。
会計事務所・税理士法人で税務の経験を積む
公認会計士の知見を活かしやすい環境として、会計事務所や税理士法人への転職も考えられます。
会計事務所や税理士法人では、税務申告や税務相談、記帳代行、経営支援などを担当することが多く、顧客対応力や提案力も求められます。
公認会計士は税理士として登録できるため、税務の実務経験を積んでおくと、キャリアの選択肢がさらに広がります。
税務は監査とは異なる専門知識が必要なため、最初は学び直しの期間があると考えておきましょう。将来的に独立したいと考えている人にとっては、会計事務所や税理士法人での経験が大いに役立つはずです。
金融機関・投資銀行に挑戦する
金融機関や投資銀行に転職する道もあります。
金融機関や投資銀行では、企業の財務分析や企業価値の評価、M&A取引の助言などを担当することが多くあります。監査法人で培った知識やスキルに加えて、金融市場やM&A実務に関する知識も必要です。外資系の金融機関などでは、ビジネスレベルの英語力が求められることも少なくありません。
転職の難易度は高く、公認会計士の資格があっても必ずしも有利になるとは限りません。
FASなど監査法人以外での経験を積んでから転職するほうが近道になる場合もあるため、戦略的に活動を進めることが大切です。
中小監査法人や別の監査法人に移る
「監査の仕事自体は嫌いではないが、今の法人の働き方や環境が合わない」という人は、別の監査法人への転職を検討するのもひとつの方法です。
公認会計士・監査審査会のレポートによると、準大手監査法人や中小監査法人では試験合格者の採用が難しい法人が多く、大手監査法人を退職した公認会計士を中途採用して人員を確保する傾向があります。
大手監査法人での経験は、転職先の監査法人で即戦力として評価されやすいといえるでしょう。中小監査法人では、少人数のチームで監査を行うことが多いため、若いうちから監査の全体像に関われる場合があります。一方で、働き方や評価制度は法人によって大きく異なります。
面接や転職エージェントを通じて、繁忙期の実態や担当するクライアントの規模を確認しておきましょう。
非常勤として監査に関わりながら働き方を変える
常勤の職員としてではなく、非常勤として監査に関わり続ける方法もあります。同じレポートによると、中小監査法人では職員の6割程度が非常勤職員で、業務に必要な監査補助者を非常勤の人材に頼っている状況がみられます。 [参照元]令和8年版モニタリングレポート|公認会計士・監査審査会
非常勤であれば、繁忙期だけ働く、週に数日だけ働くなど、勤務日数や時間を調整しやすくなります。独立開業や事業会社での仕事、副業と両立しながら、監査の経験を積み続けられるのが魅力です。
なお、金融庁のQ&Aでは、実務経験のうち監査の「業務補助」について、雇用形態は常勤・非常勤を問わないとされています。登録の要件をそろえる途中の人にとっても、選択肢のひとつになるでしょう。
[参照元]公認会計士の資格取得に関するQ&A|金融庁
独立開業を目指す
公認会計士としての知識・スキル・資格を活かして、独立開業する道もあります。公認会計士が独立開業する場合、会計コンサルティングや税務サービス、IPO支援、非常勤での監査業務などを組み合わせて提供するケースが多く見られます。
ただし、監査法人での経験だけで独立開業するのは難しい面もあります。独立後は自分で顧客を見つける必要があり、税務の知識や営業力も欠かせません。会計事務所や税理士法人、コンサルティングファームなどで経験を積んでから独立することも検討しましょう。
公認会計士の転職先をさらに詳しく比較したい人は、公認会計士におすすめの転職先10選比較!転職市場動向や見極める基準を解説もあわせて参考にしてください。
後悔しないために辞める前にやっておくべきこと
監査法人を辞めたいと感じたら、実際に辞める前にやっておきたい準備があります。
準備をせずに勢いで辞めてしまうと、転職活動が長引いたり、思っていた職場と違ったりして後悔することになりかねません。ここで紹介する5つの準備を、在職中から少しずつ進めておきましょう。
これまでの経験とスキルを棚卸しする
まずは、監査法人でどのような経験を積み、どのようなスキルを身につけたのかを書き出してみましょう。自分では当たり前だと思っている経験でも、転職市場では評価されることがあります。
棚卸しをするときは、次のような観点で整理すると分かりやすくなります。
- 担当したクライアントの業種や規模(上場会社か、海外子会社があるか など)
- 主査(インチャージ)や現場責任者の経験があるか
- IPO支援、内部統制監査(J-SOX)、IFRS、連結決算、IT監査などの経験
- 後輩の指導やチームの取りまとめの経験
- 英語での監査対応や、海外のメンバーファームとのやり取りの経験
書き出した内容は、職務経歴書を作るときにもそのまま使えます。
また、自分の強みと足りない経験がはっきりすると、どの転職先が合っているのかも判断しやすくなるでしょう。
キャリアプランやビジョンを描いておく
次に、自分の将来のキャリアプランやビジョンを描いておくことが大切です。どのようなキャリアを歩みたいのか、どのような働き方やライフスタイルを望むのかを、具体的に考えてみましょう。
「5年後にどのようなポジションにいたいか」「年収と働く時間のどちらを優先したいか」「将来は独立したいか」といった問いに答えてみると、考えを整理しやすくなります。
キャリアプランが固まれば、今後の方向性が定まり、監査法人を辞めたあとの転職活動もスムーズに進められます。考えた結果、監査法人にとどまって経験を積むという選択をする場合もあるでしょう。それも、立派なキャリアの判断です。
キャリアの選択肢について多方面から情報を集める
監査法人を辞めたあとにどのようなキャリアがあるのか、それぞれの職場でどのようなスキルや経験が求められるのかなど、今後のキャリアについて多方面から情報を集めておくことも大切です。
監査法人や会計事務所など資格をそのまま活かす職場以外にも、事業会社やコンサルティングファームなど多様な選択肢があります。インターネットや書籍で調べるだけでなく、すでに転職した同期や先輩に話を聞いてみるのも効果的です。実際に働いている人の声からは、求人票だけでは分からない働き方や職場の雰囲気を知ることができます。
さまざまな情報源にあたりながら、自分のキャリアの選択肢について多角的に知識を深めておきましょう。
自分の市場価値を第三者の目で確かめる
監査法人を辞める前に、自分が転職市場でどの程度評価されるのか(市場価値)を確認しておきましょう。そうすることで、今が辞めるタイミングなのか、辞めた場合にどのような条件で転職できそうなのかを把握できます。
市場価値を確かめる方法としては、公認会計士のキャリアに詳しい転職エージェントに相談するか、ハイクラス向けのスカウトサービスに登録するのがおすすめです。
スカウトサービスに登録すると、職務経歴を見た企業や転職エージェントから直接オファーが届くため、どのような求人から声がかかるのかで、自分の現在の評価を客観的に判断できます。
現時点では希望する条件に届かないと分かった場合は、監査法人に残って経験を積むという選択もできます。
転職エージェントに相談する
公認会計士の転職に詳しい転職エージェントに相談するのも有効です。キャリア面談を通じて自分の市場価値を判断してもらえるほか、キャリアプランに沿った求人を紹介してもらえます。
監査法人は忙しい職場のため、転職活動を進める時間がなかなか取れない人も多いでしょう。転職エージェントを利用すれば、面接の日程調整や書類の添削、面接対策など、転職活動全体のサポートを受けられます。
応募先には直接聞きにくい年収や残業時間、繁忙期の実態などについても、担当者に確認を依頼できる場合があります。
相談したからといって、必ず転職しなければならないわけではありません。「まだ迷っている」という段階でも、選択肢を知るために相談してみる価値はあります。おすすめの転職エージェントは、後ほど紹介します。
監査法人を円満に退職するための手順
転職先が決まったら、いよいよ退職の手続きに進みます。監査法人の業界は狭いため、辞めたあとに元の同僚と仕事で関わることも珍しくありません。将来の人間関係のためにも、できるだけ円満に退職できるよう、次の手順で進めましょう。
退職の意思は所属部門の上長や人事担当パートナーに早めに伝える
退職を決めたら、まずは所属部門の上長や人事を担当するパートナーに、退職の意思を伝えます。誰に最初に伝えるべきかは法人によって異なるため、迷う場合は信頼できる上司に相談するとよいでしょう。そのうえで、担当している監査チームの主査やマネージャーにも伝えます。
退職を申し出る時期は、就業規則で定められているのが一般的です。法律上は、期間の定めのない雇用契約であれば、退職を申し入れてから2週間で契約が終わるとされています。
ただし、就業規則に退職の手続きが定められている場合は、原則としてその規定に従うことになります。
[参照元]Q5 退職願を上司が受け取ってくれない場合(よくあるご質問)|鹿児島労働局
監査法人では、担当クライアントの調整や引き継ぎに時間がかかります。円満に退職するためにも、就業規則の期限よりも余裕を持って、できるだけ早めに伝えるのがおすすめです。
繁忙期と担当クライアントの決算日程を考えて退職日を決める
退職日は、繁忙期や担当しているクライアントの決算日程を考えて決めましょう。期末監査の最中や、監査報告書の提出直前に辞めると、チームに大きな負担がかかります。
3月決算のクライアントを多く担当している場合は、期末監査が一段落する6月以降を退職日の目安にすると、引き継ぎもしやすくなります。中間期のレビューなど、ほかの業務の時期とも重ならないように調整できると理想的です。
転職先から入社日を急かされる場合もありますが、多くの企業は引き継ぎの期間に一定の理解を示してくれます。入社日の交渉が難しいときは、転職エージェントに調整を依頼するのもひとつの方法です。
引き継ぎ資料を整え、貸与物を返却する
退職日までに、担当している業務の引き継ぎを済ませます。クライアントごとの監査の進み具合や、未解決の論点、クライアントの担当者の連絡先などを資料にまとめておくと、後任者がスムーズに業務を引き継げます。
最終出社日までには、パソコンや入館証、法人から借りている書籍などの貸与物を返却します。社内のワークフローで退職の手続きが必要な場合は、期限に遅れないよう早めに進めておきましょう。
在職中に知ったクライアントの情報は、退職後も外部に漏らしてはいけません。転職先が以前の担当クライアントと関係のある会社である場合は、特に注意が必要です。
退職理由は前向きな言葉に置き換えて伝える
退職理由を伝えるときは、不満をそのままぶつけるのではなく、前向きな言葉に置き換えて伝えるのがおすすめです。たとえば「監査がつまらない」ではなく「事業会社の立場で企業の成長に関わりたい」、「激務がつらい」ではなく「長く働き続けられる環境で専門性を深めたい」と伝えると、角が立ちにくくなります。
退職を伝えると、引き止められることもあります。待遇の改善や異動を提案される場合もありますが、すでに転職先が決まっているなら、感謝の気持ちを伝えたうえで、意思が固いことをはっきり伝えましょう。
前向きに言い換えた退職理由は、転職先の面接でもそのまま使えます。監査法人で何を学び、次の職場で何をしたいのかを一貫して説明できるよう、準備しておきましょう。
監査法人からの転職におすすめの転職エージェント5社
監査法人からの転職では、公認会計士のキャリアに詳しい転職エージェントに相談すると、自分の経験がどの転職先で評価されるのかを整理しやすくなります。ここでは、目的別に相談先として検討したい5社を紹介します。1社に絞る必要はないため、気になるサービスを2〜3社併用して、自分に合う担当者を見つけるのがおすすめです。
| サービス名 | 主な対象・得意領域 | こんな人に |
|---|---|---|
| ハイスタ会計士 | 公認会計士・USCPA・試験合格者 | 監査法人の経験をどこで活かせるか整理したい |
| BEET-AGENT | 管理部門(経理・財務・内部監査・経営企画など)のリーダー・ミドル層 | 事業会社の管理部門でキャリアアップしたい |
| レックスアドバイザーズ | 公認会計士・税理士・経理・財務 | 監査法人・会計事務所・事業会社を幅広く比べたい |
| MS-Japan | 管理部門・士業 | 事業会社の経理・財務への転職を検討したい |
| CPASSキャリア | 会計ファイナンス人材 | 転職するか迷っている段階から相談したい |
※2026年10月時点の各社公式サイトの情報をもとに作成しています。
ハイスタ会計士|監査法人の経験をどこで活かせるか整理したい方に

ハイスタ会計士は、株式会社アシロが運営する、公認会計士・USCPA・試験合格者に特化した転職エージェントです。監査法人や会計事務所、税理士事務所、事業会社の求人を扱っています。
監査法人を辞めたいと思っても、「自分の経験は監査法人の外でどう評価されるのか」「事業会社とFASのどちらが合っているのか」は、求人票を眺めているだけでは判断しにくいものです。
ハイスタ会計士では、キャリアアドバイザーが求職者の相談と求人企業とのやり取りの両方を担う体制をとっています。希望する働き方や今後のキャリアを伝え、紹介された求人を比べていくことで、自分が重視したい条件を整理しやすくなるでしょう。
紹介する求人はすべて非公開求人とされているため、登録して初めて分かる選択肢もあります。公式サイトでは、今すぐの転職を考えていない人の登録も歓迎すると案内されています。「辞めるかどうかを含めて相談したい」という段階の人も、まずは話を聞いてみてください。
公式サイト:https://hi-standard.pro/cpa/
BEET-AGENT|事業会社の管理部門でキャリアアップしたい方に

BEET-AGENTは、株式会社アシロが運営する、管理部門に特化した転職エージェントです。経理・財務、内部監査、IR、経営企画など、管理部門のリーダー・ミドルクラスの転職を支援しています。
監査法人から事業会社に移る場合、「経理と経営企画のどちらで経験を活かすべきか」「入社後にどのようなポジションを目指せるのか」が気になる人も多いでしょう。管理部門の求人は、同じ経理職でも、決算・開示を担うのか、管理会計や予算策定まで任されるのかによって、身につく経験が大きく変わります。
BEET-AGENTでは、管理部門の職種ごとに求人を扱っているため、監査で身につけた会計・内部統制の知識をどの職種で活かせるかを相談しながら、応募先を比べられます。
なお、BEET-AGENTは管理部門での経験を活かしてキャリアアップを目指す人を対象としており、管理部門の未経験者は対象外と案内しています。監査法人での経験が対象になるかは、登録時に担当者へ確認してみましょう。
公式サイト:https://beet-agent.com/
レックスアドバイザーズ|監査法人・会計事務所・事業会社を幅広く比べたい方に

レックスアドバイザーズは、公認会計士・税理士・経理・財務の転職を専門とする転職エージェントです。監査法人、会計事務所・税理士法人、コンサルティングファーム、事業会社の求人を扱っています。
監査法人を辞めたい理由が「監査の仕事そのもの」なのか「今の法人の環境」なのかによって、選ぶべき転職先は変わります。別の監査法人に移るのか、事業会社に移るのかで迷っている場合は、両方の求人を扱うエージェントに相談すると比べやすくなるでしょう。
公式サイトでは業務委託・副業の案件の情報も案内されているため、非常勤や副業という働き方を検討している人も、どのような選択肢があるかを相談してみる価値があります。同社が転職者に行ったアンケートでは、転職サポートの満足度が5年連続で96%以上だったとしています(2021年1月〜2025年12月、回答数999件)。
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公式サイト:https://www.career-adv.jp/
MS-Japan|事業会社の経理・財務への転職を検討したい方に

MS-Japanは、管理部門と士業に特化した転職エージェントです。公式サイトによると、35年にわたって経理・財務、人事・総務、法務などの管理部門と、弁護士・公認会計士・税理士などの士業の転職を支援しています。
監査法人から事業会社に移るときは、大手企業の経理か、IPO準備企業の管理部門かといった企業規模や成長段階によって、仕事内容も働き方も大きく変わります。管理部門の求人を幅広く扱うエージェントであれば、企業ごとの違いを比べながら応募先を選びやすくなります。
公式サイトの転職事例には、Big4監査法人から東証プライム上場企業の経理課長に転職したケースも掲載されています。事業会社の経理・財務を中心に検討している人は、どのような求人があるか相談してみるとよいでしょう。
公式サイト:https://www.jmsc.co.jp/
CPASSキャリア|転職するか迷っている段階から相談したい方に

CPASSキャリアは、公認会計士スクール「CPA会計学院」を運営するCPAエクセレントパートナーズのグループ会社、CPAキャリアサポート株式会社が運営する、会計ファイナンス人材に特化した転職エージェントです。
「監査法人を辞めたい気持ちはあるけれど、本当に辞めるべきか分からない」という段階では、いきなり求人を紹介されても判断しにくいものです。
CPASSキャリアの公式サイトでは、面談で自己分析を一緒に行い、キャリアプランに合った求人を提案する流れが紹介されています。転職だけでなく、独立という選択肢や、現職での成長を支援することもあると案内されているため、「辞めない選択肢」も含めて相談したい人に向いています。公認会計士の資格を持つキャリアアドバイザーも在籍しているとされています。
辞めるかどうかを決める前に、自分のキャリアの選択肢を整理したい人は、併用を検討するとよいでしょう。
公式サイト:https://cpa-career.jp/
公認会計士向けの転職エージェントをさらに比較したい人は、公認会計士におすすめの転職エージェントサイト10社徹底比較|選び方と転職成功のコツも参考にしてください。
市場価値を確かめるならスカウトサービスも併用する
転職エージェントへの相談とあわせて、ハイクラス向けのスカウトサービスに登録しておくのもおすすめです。
職務経歴を登録しておくと、企業や転職エージェントから直接オファーが届くため、どのような求人から声がかかるのかで、自分の市場価値を客観的に確かめられます。今すぐ転職するつもりがなくても、登録だけしておけば、忙しい繁忙期でも情報収集を続けられます。
リクルートダイレクトスカウト|忙しい中でも情報収集を続けたい方に
リクルートダイレクトスカウトは、株式会社リクルートが運営するハイクラス向けのスカウトサービスです。職務経歴などを登録しておくと、企業や転職エージェント(ヘッドハンター)からスカウトが届きます。
監査法人の繁忙期は、求人を自分で探す時間を取るのが難しいものです。スカウトサービスであれば、登録したあとは届いたオファーを確認するだけで、どのような企業や職種から声がかかるのかを把握できます。
届いたスカウトの内容を見れば、事業会社やFASなど、監査法人の外でどのような経験が求められているのかも見えてきます。転職エージェントと並行して利用し、情報収集の幅を広げるとよいでしょう。
公式サイト:https://directscout.recruit.co.jp/
ビズリーチ|幅広いオファーから自分の評価を確かめたい方に

ビズリーチは、株式会社ビズリーチが運営するハイクラス向けの転職サービスです。職務経歴書を登録すると、企業の採用担当者やヘッドハンターから直接スカウトが届きます。
自分の市場価値を知りたいと思っても、転職エージェント1社の意見だけでは判断しにくいこともあります。複数の企業やヘッドハンターから届くオファーを比べることで、「どのような業界・ポジションで自分の経験が評価されるのか」を確かめやすくなります。
リクルートダイレクトスカウトと併用すれば、届くオファーの幅が広がり、より客観的に自分の評価を判断できるでしょう。
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公式サイト:https://www.bizreach.jp/
監査法人を辞めたい人によくある質問
最後に、監査法人を辞めたいと考えている人からよく寄せられる質問に回答します。
監査法人を1〜2年で辞めても転職できますか?
転職はできます。ただし、監査の経験が浅いため、即戦力を求める求人よりも、ポテンシャルを重視する求人が中心になります。
転職先から「またすぐに辞めるのでは」と慎重に見られることもあるため、退職理由と次にやりたいことを一貫して説明できるよう準備しておきましょう。
実務経験3年や修了考査の要件を満たしていない場合は、転職先での仕事が実務経験として認められるかも確認が必要です。
修了考査の前に辞めても公認会計士として登録できますか?
登録の要件を満たせば、登録できます。公認会計士として登録するには、試験合格、3年以上の実務経験、実務補習の修了が必要です。
実務経験は、監査法人での「業務補助」のほか、資本金5億円以上の法人や上場会社などを対象とした決算や財務分析などの「実務従事」でも積むことができ、両方の期間を通算できます。
ただし、実務従事にあたるかは業務内容によって個別に判断されるため、転職先の仕事内容を事前に確認しておきましょう。 [参照元]公認会計士の資格取得に関するQ&A|金融庁
監査法人を辞めたあとに、監査法人へ戻ることはできますか?
戻ることは可能です。公認会計士・監査審査会のレポートによると、大手監査法人では若手の定着を図る施策のひとつとして、退職者を再び監査業務に迎え入れる採用も行われています。
また、準大手監査法人や中小監査法人では、大手監査法人を退職した公認会計士を中途採用する傾向があります。ただし、監査から離れる期間が長いほど、最新の基準や手続きに追いつく負担は大きくなります。
[参照元]令和8年版モニタリングレポート|公認会計士・監査審査会
転職活動は在職中と退職後のどちらで進めるべきですか?
基本的には、在職中に進めるのがおすすめです。収入が途絶えないため、焦って転職先を決めずに済み、条件の交渉もしやすくなります。
繁忙期は時間を取りにくいため、閑散期に面接を集中させたり、転職エージェントに日程調整を任せたりして工夫しましょう。
一方で、心身の不調があるなど働き続けるのが難しい場合は、先に退職して休養をとることを優先してください。
退職を伝えてから辞めるまで、どのくらいの期間が必要ですか?
法律上は、期間の定めのない雇用契約であれば、退職を申し入れてから2週間で契約が終わるとされています。
ただし、就業規則に退職の手続きが定められている場合は、原則としてその規定に従います。監査法人では担当クライアントの調整や引き継ぎに時間がかかるため、就業規則の期限よりも余裕を持って伝え、繁忙期を避けた退職日を相談するのがおすすめです。
[参照元]Q5 退職願を上司が受け取ってくれない場合(よくあるご質問)|鹿児島労働局
監査法人を辞めると退職金はもらえますか?
退職金の有無や金額は、所属する法人の退職金規程によって決まります。勤続年数によって支給額が変わったり、一定の年数に満たないと支給されなかったりする場合もあります。
退職を決める前に、就業規則や退職金規程を確認しておきましょう。企業型確定拠出年金などの制度に加入している場合は、転職先や個人型確定拠出年金(iDeCo)への移換手続きが必要になることもあります。
監査以外の未経験の職種にも転職できますか?
転職できる可能性は十分にあります。事業会社の経理・財務やFAS、コンサルティングファームなどは、監査の経験そのものが評価されやすい職種です。
一方で、税務や金融、M&Aなどの専門性が求められる職種では、資格だけでなく関連する経験や知識も問われます。未経験の職種に挑戦する場合は、年齢や経験年数によって難易度が変わるため、早めに情報を集めておきましょう。
詳しくは公認会計士は未経験分野へ転職できる?転職先別の条件と年齢の目安も参考にしてください。
まとめ
監査法人を辞めたいと感じる理由には、繁忙期の激務、監査業務への不満、昇進や評価への不満、人間関係などがあります。監査法人の外で働く公認会計士は増えており、辞めたいと考えること自体は決して特別なことではありません。
ただし、辞めることには、修了考査の学習時間の確保や年収の変化、短期間での退職に対する見られ方など、注意すべき点もあります。辞める前に「その不満は監査法人の中で解決できないか」を確かめ、辞めると決めたら、実務経験の要件や繁忙期を踏まえて時期を選ぶことが、後悔しない転職につながります。
今すぐできるアクション
- 辞めたい理由を書き出し、本記事の判断基準の表で「法人内で試せること」がないか確認する
- 担当したクライアントや主査・IPOなどの経験を棚卸しし、職務経歴書のもとを作る
- 公認会計士の転職に詳しい転職エージェントに相談し、自分の市場価値と選択肢を聞いてみる
- スカウトサービスに登録して、どのような企業から声がかかるのかを確かめる
辞めるか残るかを決めるのは、情報を集めてからでも遅くはありません。まずは自分の選択肢を知るところから始めてみてください。
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