非常勤監査役とは?常勤監査役・社外監査役との区分・職務内容・役割や人材例

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川村将輝(弁護士)

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監査役とは、取締役の職務執行を監査する機関をいいます(会社法385条1項)。監査は、法的には、業務監査と会計監査の2種類があります。

業務監査は、取締役の職務執行の法令に適合し、定款を遵守して行われているかをチェックするものです。また、会計監査は、会計帳簿などに基づいて作成された計算書類や附属明細書を監査する職務です。

監査役会設置会社の場合は、職務内容などによっても違いがあります。具体的には、ポジション、コミットメント、職務内容によるものです。

この記事では、非常勤監査役について、その意義、役割などの基本的な概要から、常勤監査役や社外監査役との違いなど比較しつつ、求められるスキルや選任の際のポイントなどを詳しく解説していきます。

目次
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非常勤監査役・常勤監査役・社外監査役との違い【表で比較】section

まず、非常勤監査役と常勤監査役、社外監査役と社内監査役といった分類と相違点などについて一覧でまとめました。

スクロールできます
常勤監査役非常勤監査役社内監査役社外監査役
意義特に社内業務に関する監査について平常業務として関わる地位にある監査役常勤監査役以外の監査役社外監査役にあたらない監査役→理論上は社外性を有することに意味を持たせたものとされる会社法2条16号に定める要件を満たす監査役
役割監査役会の運営などの監査業務を主導業界横断的に知見を活かした監査役としての職務執行固有の役割という点での位置づけはほとんどない会社にとって独立かつ客観的な立場から、監査業務を行う
責任の範囲・程度基本的に責任の範囲や程度に違いはない。もっとも、責任限定契約などでコミットメントに応じて責任限度額を設ける例も少なくない。 左記に同じ 左記に同じ 左記に同じ
年収の相場500万円から1500万円未満200万円未満から500万円以下 ※社外監査役の方が、高い傾向200万円未満 ※常勤の場合は、500万円から1500万円200万円~500万円未満 ※常勤の場合は、500万円から750万円未満
人材の傾向財務・会計に強い人材、内部監査経験者など外部の経営人材、弁護士など財務、会計に強い人材など外部の経営人材、弁護士など
上場準備における重要性内部監査対応において重要常勤監査役との協働と、スキルセットによっては重要な地位を占める場合もある社内監査役であることが特段上場準備として影響するものではない監査役会設置会社の場合は、上場に向けた監査の段階から準備が必要

非常勤監査役とはsection

ここで、非常勤監査役について、より細かく解説していきます。

意義

非常勤監査役は、常勤監査役以外の監査役のことをいいます。ここにいう「非常勤」というのは、社内の平常業務との関わりを持たないことです。

基本的に、取締役会や監査役会など出席が必要な会議体を中心に出席したり、都度必要な職務のため社内に関わるような形です。

役割

そもそも、監査役の役割に関しては、監査役監査基準という職務規範において、次のように説明されています。

株主の負託を受けた独立の機関として取締役の職務の執行を監査することにより、企業の健全で持続的な成長を確保し、社会的信頼に応える良質な企業統治体制を確立する義務を負っている

上記の役割は、常勤であるか非常勤であるかによって区別はありません。その点で、非常勤監査役の役割は、特別に位置づけられるものではないといえます。

そして、非常勤監査役は、コミットメントが限られている分、その会社の監査役としての職務以外で仕事をすることが可能であり、通常はそのような事情を考慮して非常勤監査役として選任されます。

そのため、非常勤監査役は、実務上、本職として何らかの仕事にも従事しながら、そのスキルや経験を活かして職務を行う役割が期待されると考えられます。

監査役会でのポジション

監査役会は、すべての監査役によって組織される会議体です。監査役の職務執行において様々な分担をしながら行っていきます。

そして、監査役会設置会社の場合、1名以上の常勤監査役の選定が必須となります(会社法390条3項)。基本的には、常勤監査役が監査役会でのリードポジションとして、監査役会の運営を進めていきます。

もっとも、監査役会では、取締役会のように職位や序列による上下関係などは想定されておらず、相互に独立して対等な関係で職務を行います。常勤監査役が監査役会の中で、監査方針の策定や監査の実施において主導的に職務を進めることがありますが、あくまで役割分担として位置づけられるものです。

理論的には、監査役の独立性を徹底すれば、監査役相互の独立性が確保されることで、監査役内でのなれ合い現象を防止し、取締役の業務執行に対する監査の実効性が確保されるものと考えられます。

むしろ、監査役会において、特に非常勤監査役は、個々の監査役が有するスキル、専門性、経験が発揮されることが重要であり、それによってポジションが変わってくるものといえるでしょう。

非常勤監査役と常勤監査役との違いsection

非常勤監査役は、常勤監査役とどのような点で異なるのでしょうか。

業務内容

業務内容に関しては、常勤監査役と非常勤監査役との間で質的な違いはありません。法律上も特に違いが定められていないほか、監査役としての職務が、常勤であるか非常勤であるかによって異なるものではありません。

この後述べるようなコミットメントの差異から、非常勤監査役に比べて、常勤監査役の方が細かいタスクにおいて量的に多くなる点は異なると考えられます。

コミットメント

常勤監査役は、会社における平常業務を把握しながら職務を行う必要があります。そのため、会社の営業時間中基本的に監査の職務に従事することで、社内の業務執行状況を把握できるような形でのコミットメントが求められます。

取締役会への出席や、監査役会の運営などを主導していくことのほか、経営会議などにも出席して業務執行における現場の状況や課題と、施策の実行のプロセスを把握して監査役としての職務執行を行います。

こうしたことから、常勤監査役は、法律上の定めはないものの、実務上職務専念義務があると考えられ、ほかに常勤する必要がある職務に従事していないことが必要とされます。

非常勤監査役は、上記のようなコミットメントまでは求められません。

しかし、非常勤監査役は、すでに述べたように、その会社での監査役の職務執行外での経験やキャリア、仕事での知見を活かして、適時適切な形で監査役としての職務において助言や提案を行うなどの職務遂行が求められています。

年収

監査役の報酬は、常勤・非常勤と社内・社外の属性の組み合わせによって、報酬の相場が異なる傾向にあります。

日本監査役協会の調査によれば、母数を1780名とする調査において、社内常勤監査役の報酬は、最も多い範囲として1000万円から1250万円未満で、20.8%の割合です。もっとも、その前後の範囲とも拮抗しています。

750万円から1000万円未満の範囲は14.2%、1250万円から1500万円未満が15.8%という数値になっています。

社外かつ常勤監査役の場合は、最頻値的には500万円から700万円未満となっています。

他方、社内かつ非常勤監査役は、200万円以下というのが多数で、全体の62.9%となりました。もっとも、社外かつ非常勤監査役の場合、200万円から500万円未満が相場となります。

この違いは、社外性がある点で、ガバナンス上の形式的な側面と上場における内部監査上評価を得やすい点などがあると考えられます。

社外監査役との違いsection

次に、社外監査役との違いについて、細かくみていきましょう。

要件

そもそも、社外監査役は、会社法上明確に要件が定められています。

 会社法2条16号

十六 社外監査役 株式会社の監査役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。

 その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員。ロにおいて同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。

 その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。

 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。

 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。

 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。

上記のイからホまでの要件は、それぞれ次のように異なる観点から要素を分析することができます。いずれも、監査役としての独立性、取締役の立場との客観性を確保することを趣旨として、その会社の社外監査役に就任する前までのポジションおよびその属性、企業の規模などに応じて列挙されているものと考えられます。

就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員。ロにおいて同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと 横滑り監査の防止、取締役間での個人的関係によるなれ合いの防止
就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと 社内監査役としての実質を排除する
当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと グループ会社における役員間の親子会社関係に伴う支配従属的関係を排除する
当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。 ハと同様であるが、子会社同士の関係では役員関係が相対的に希薄であるため、属性を業務執行ポジションに限定
当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。 ・現に業務執行において重要なポジションにある人物による自己監査的実質を排除すること ・親族間の情緒的関係を排除

これに対して、非常勤監査役は、法律上特に明確な要件が定められているわけではありません。

業務内容・コミットメント

社外監査役の場合も、業務内容は基本的に社内監査役、あるいは常勤・非常勤の場合との質的な違いは基本的にありません。

もっとも、コーポレートガバナンス・コードにおいて、社外監査役は、能動的に社内監査役と協働して職務を遂行することを通じて独立性が有効に機能するものと位置づけられています。そのため、社外監査役は、社内のオペレーションを前提とした監査の職務執行に対して、独立性かつ客観的な立場から、助言や改善を示していくことを職務として求められると考えられます。

監査役会は、会社法により、その半数以上を社外監査役とすること及び常勤の監査役を置くことの双方が求められていることを踏まえ、その役割・責務を十分に果たすとの観点から、前者に由来する強固な独立性と、後者が保有する高度な情報収集力とを有機的に組み合わせて実効性を高めるべきである。また、監査役または監査役会は、社外取締役が、その独立性に影響を受けることなく情報収集力の強化を図ることができるよう、社外取締役との連携を確保すべきである(CGC原則4-4補充原則①)。

非常勤監査役の場合、社外監査役の求められる役割との親和性が高いことから、ポジションの組み合わせとしては適合しやすく、非常勤監査役としてのコミットメントは社外監査役として求められる役割にもつながりやすい関係にあるといえるでしょう。

年収

年収に関しては、金額に関してはすでに触れた通りです。

社内常勤と社外常勤、社内非常勤と社外非常勤という4パターンで比較できますが、常勤>非常勤という傾向にあるほか、常勤取締役であれば社内>社外の傾向がみられる反面、非常勤監査役の場合は社内<社外の傾向がみられます。

このような違いからすると、常勤監査役に関しては、その職務や役割の性質上、コミットメントや社内の平常業務への関わりから報酬面で高くなるものと考えられる反面、非常勤監査役の場合はスキルや経験のほか、社外性という要素によってガバナンス上評価がなされるため報酬が高くなるものと考えられます。

なお、監査役の報酬に関する詳細は、こちらの記事もご参照ください。

非常勤監査役に適した人材例section

エキスパート人材

エキスパート人材は、士業など専門性の高い分野の人材です。主に、弁護士公認会計士、といった人材です。

非常勤監査役は、すでに述べたように、他の業界でも通ずるような専門的な知見、スキルを持ち、多角的な視点で業務執行に対する客観的な評価・チェックを行うことが期待されます。そこで、専門性が高い人材は、非常勤監査役に適していると考えられます。3つの例をご紹介します。

弁護士

弁護士は、法務のエキスパートです。企業法務を中心とした知見や経験が豊富な人材であれば、会社の業務執行に対する監査の担い手として最適と考えられます。

企業法務にも様々な分野がある上に、企業規模や事業のステージによっても異なりますが、ジェネラルコーポレート、内部統制・リスクコンプライアンス、ファイナンス、危機管理、M&Aといった分野は幅広く活躍が期待できるでしょう。

会計士

公認会計士、あるいは米国公認会計士などの有資格者は、常勤監査役の職務としては特に比重を大きく占める会計監査の面で最適な人材です。

監査法人において数多くのIPO経験などを重ねている場合は、非常勤監査役としても適している人材であるといえます。

大手の監査法人出身者であれば、大小様々な案件に関わるなどオールラウンド的に会計実務経験をしていることが期待できます。そのため、ベンチャー企業で重視される資本政策の策定、IPO準備にあたっての内部統制監査、上場後のIR対応や業務提携やM&Aなど事業の成長にとって重要度の高い業務において幅広い活躍が期待できます。

中小企業診断士

中小企業診断士は、中小企業の経営課題に対して診断、助言を行う専門・国家資格です。経営の適正に関する分析や診断を行う一定の資質・スキルが裏付けられた人材といえるため、監査役としてふさわしいスキルを持つ人材の1つといえるでしょう。

経営人材

経営人材は、例えば設立からIPOまで実現しガバナンス体制も含めて一通りの事業成長ステージを経験した人材であれば、業務執行の適正をモニタリング・監査することに適していると考えられます。そのような人材は、経営上様々な課題を克服しつつ一定のレベルまで企業の成長を導いたといえるからです。

また、上場企業の取締役を歴任している人物であれば、投資家からの評価や信頼を得やすいといったメリットも考えられます。

他方で、監査役会は、特に役員間の序列などがないことから、より明確な役割分担が求められ、そのためにスキルセットやバックグラウンドの面で被りがないようにすることが望ましいと言えます。

そこで、事業の種類や規模感との関係で、経験上親和的な人材を選択するか、あえて真逆のような人材を登用するかは悩みどころになります。

スキルマトリクスを用いて、現状の役員人事、過去に登用した監査役の人材のスキルを照らし合わせつつ、中長期的にみて事業の戦略と想定される課題や現状の課題に対してフィットする人材であるかどうかを検討していくのがよいでしょう。

類似業界の他社人材など

本来、同種の事業領域にある他社の人材は、ハレーションが起きる可能性などから敬遠しがちな人材です。他方で、競合ではないものの同種の事業領域であれば、具体的な事業課題、経営課題として直面するものも共通する可能性があります。

そのため、専門家人材や経営人材でなくても、相当程度の勤務経験を有する同種あるいは類似の事業領域の人材は、そこでの経験が重なりを持ちつつも異なる視点での助言などを提供してくれることが期待できます。そうした意味で、非常勤監査役にふさわしい人材例の1つであるといえるのではないでしょうか。

非常勤監査役を選任する際のポイント3つsection

最後に、非常勤監査役を選任する際のポイントを3つ解説していきます。

役割や位置づけを明確に設定すること

これまで解説してきたように、監査役には、常勤・非常勤、社内・社外という2×2の要素で位置づけについてバリエーションがあります。

常勤・非常勤、社内・社外の位置づけに関しては、選任の段階で、人材を選定するにあたり、そのバックグラウンドや募集するにあたっての母集団によって自ずと定まるものではあります。

その上で、複数の監査役の中では、基本的には対等な関係であることも踏まえ、後で述べるようなそれぞれのバックグラウンドやスキルの違いを持たせつつ、それに適合した役割を具体化することが必要です。

スキルマトリクスを活用すること

役割の具体化のために、スキルマトリクスの活用が効果的です。

スキルマトリクスは、経営戦略、財務会計、法務、サイバーセキュリティ、DX、ダイバーシティ、ESGなど事業活動において指標となる要素ごとにセグメントを設定し、役員がどのようなバックグラウンドを有するかの組み合わせを一覧にしたものです。

監査役の中では、それぞれの人材が異なるスキル・経験やバックグラウンドを有することに意味があります。その上で、それぞれの人材の有するスキル等がどのように分布しているかを可視化することが重要です。

実績・経験と会社としてのニーズのすり合わせ

また、監査役としての実績や、会社として非常勤監査役を採用するにあたり必要としているスキル・経験の要素をすり合わせしておくことが重要です。

その際には、企業のステージ、現在地を把握しつつその先の戦略との関係で考えていく必要があります。

まとめ

最後に、この記事のポイントを3つにまとめます。

  1. 非常勤監査役は、常勤監査役以外の監査役のことをいう。非常勤監査役は、常勤監査役との間で、平常業務への関りを持たない代わりに、会社以外の仕事におけるスキルや経験を横断的に活かして、会社の業務執行に対する客観的な助言を行うことが求められる。
  2. 非常勤監査役は、社外監査役との親和性が高い。そして、非常勤監査役に適した人材としては、外部の経営人材、弁護士などの法務人材などをはじめ外部での実績のある経験者が望ましい。
  3. 非常勤監査役の選任に際しては、常勤監査役、社内・社外監査役との役割などとの違いを明確にすること、そのためにスキルマトリクスを活用した多様性確保や会社の規模、ステージに応じたニーズとのすり合わせを行うことがポイント。
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司法試験受験後、人材系ベンチャー企業でインターンを経験。2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。【愛知県弁護士会所属】

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