昨今、コーポレートガバナンスに対する社会的な関心の高まりを受けて、社外監査役の重要性が増しつつありますが、なかなか見合う人材が見つからないと悩む企業は少なくないでしょう。
社外監査役の役割は業務監査と会計監査で、法律・会計に関する知識が求められることから、公認会計士は適任とされる人材の一例。実際、社外監査役に公認会計士を選任しているケースは多いといえます。
しかし、公認会計士が社外監査役に適しているといっても、資格を持っていれば誰でもよいというわけにはいきません。
企業がどんな人材を社外監査役に求めているのか、どういったスキルや経験が必要となるのでしょうか。この記事では、社外監査役に公認会計士が向いているとされる理由や必要なスキルやキャリアに加え、起用・選任されるためのポイント、おすすめのエージェントサイトを紹介します。
上場企業における公認会計士の社外監査役就任状況section
社外監査役に適任とされる公認会計士ですが、実際どの程度の人数が選任されているのか気になりますよね。
社外監査役に適任とされる公認会計士ですが、実際どの程度の人数が選任されているのか気になりますよね。
「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2021」の情報によれば、東証上場企業における公認会計士の社外監査役選任の割合はおよそ2割に上ります。この比率は「他の会社の出身者」「弁護士」に次いで、3番目の多さです。
監査役の役割を果たすにあたって、公認会計士の持つスキルや経験を企業が有用だと判断しているといえるでしょう。東証に上場する監査役会設置会社の社外監査役の属性において、
社外監査役に公認会計士が向いているとされる理由section
公認会計士が社外監査役を務めるにあたって、具体的にどのような点が適任とされているのでしょうか。この項目では、公認会計士が社外監査役に向いている理由を確認していきましょう。
財務や会計などの知識に明るいため
社外監査役は会社から独立した立場にあることが重要であって、基本的に行う業務は通常の監査役と同様です。具体的には「業務監査」と「会計監査」の2つ仕事を担うわけですが、特に会計監査において公認会計士としての知見を発揮することを期待されています。
監査業務に精通しているため
社外監査役を求めているのは、上場企業だけに限りません。これから上場を目指すベンチャーやスタートアップなどの企業も社外監査役の選任に積極的。というのも、上場に向けて上場会社監査事務所による財務諸表監査・内部統制監査を受けねばなりませんが、社内で専門知識や経験を有した人材を十分に確保できるとは限りません。
なので、社外監査役に公認会計士を選任し、上場審査に向けた管理体制構築のための助言や支援を得たいのです。
専門家として高い倫理性と独立性を有しているため
社外監査役を選任するにあたって、多くの企業が「高い倫理性と独立性を有していること」を要件に挙げています。社外監査役の職責を考えれば、当然欠くことはできない要件ですが、なぜ高い倫理性と独立性を公認会計士が有しているといえるのでしょうか。
それは公認会計士の職責自体に高い倫理性と独立性が求められているためです。
公認会計士として働くには、日本公認会計士協会の公認会計士名簿に登録をしなければならず、会員は職業的専門家として相応しい行動を取ることが倫理規則や指針などを通じて求められています。
もし規則や指針に反する行動を取った場合、懲戒処分となる可能性もあり、最悪、公認会計士として働けなくなることも…。そのため、当然に高い倫理性と独立性を持って、社外監査役をになってくれることが期待できます。
公認会計士が社外監査役に就任・兼業した具体例section
公認会計士が社外監査役に就任しているケースは多く、著名な例だと以下の方々が挙げられます。
山田真哉 | 「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」「女子大生会計士の事件簿」など多数の書籍を出版。オトバンクやブシロードの社外監査役を務める。 |
奥山章雄 | 日本公認会計士協会の元会長、現相談役。株式会社ADEKAで社外監査役、株式会社株式会社ニップンで社外取締役を務める |
平林亮子 | 合同会社アールパートナーズ代表。レオン自動機株式会社の社外監査役を務める。 |
この他にも、さまざまな公認会計士が企業の社外監査役を任されており、なかには複数社の役員を兼任されている方も少なくありません。
公認会計士が社外監査役になるには|起用・専任される方法section
公認会計士といえど、ただ待っているだけで社外監査役のオファーが来ることはまずないでしょう。企業から社外監査役就任の打診を受けるために、何をすべきか気になりますよね。
この項目では、公認会計士が社外監査役に起用・専任される方法を紹介します。
顧客や顧問先からのオファー
社外監査役のオファーを受けたいのであれば、やはり公認会計士の本業に力を入れるのが、一番の近道だといえます。業務に地道に励み、公認会計士としての信用を築いていけば、いずれ顧客や顧問先から社外監査役就任に関する打診や紹介が舞い込むはずです。
日本公認会計士協会の社外役員紹介制度に登録
公認会計士が企業とのツテを作るのが大変であるように、企業にとっても社外監査役探しは大変です。まずは最低限、社外監査役への選任を希望していることを知ってもらうためにも、日本公認会計士協会の社外役員紹介制度に登録しておくとよいでしょう。
ただ社外役員紹介制度の情報だけでは選任の決め手を欠く感は否めないので、他の手段も合わせて講じることをおすすめします。
民間の社外役員紹介サービスに登録
企業がピンポイントで自社にマッチングする人材を探す際には、民間の社外役員紹介サービスを利用することが増えつつあります。近年は度重なる企業の不祥事により、市場の視線が厳しくなっているのに加え、ITやネットの発展で新しいビジネスが生まれており、ただ経歴が優れているだけでなく、自社に合っている人材かどうかが重要となってきています。
しかし、そうしたピンポイントでマッチングするような人材を自力で探すのは容易ではないため、民間の社外役員紹介サービスを利用しているわけです。なので、社外役員紹介サービスへの登録しておくと、興味深い企業と出会える機会が増えるかもしれません。
公認会計士が社外監査役に就任する際の注意点section
この項目では、公認会計士が社外監査役に就任する際の注意点について紹介します。
社外監査役となるには要件を満たす必要がある
社外監査役となるためには、以下の要件をずべて満たしていなくてはなりません。
十六 社外監査役 株式会社の監査役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員。ロにおいて同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ロ その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
引用元:会社法第2条第16号
簡単にいえば、監査機能を十分に発揮するためには、社外監査役の独立性を確保せねばならず、当該企業と利害関係を持つ人は就任できないというわけです。なので、社外監査役の打診を受けたとしても、場合によっては断りが必要なこともあります。
損害賠償責任を負う可能性がある
監査役の役割は端的に言うと、会社の不正や不祥事を防ぐこと。そのための権限や地位を与えられているのにも関わらず、選任された監査役が職責を果たさなかった場合、株主は本来であれば発生することのない損害を負うことになりかねません。
なので、監査役についても会社に対して損害賠償責任を負うことが会社法で定められています。
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元:会社法第423条
もちろん、何の対策がないわけでなく「役員賠償責任保険」への加入や責任限定契約を締結をするなどの手があるのですが、それだけ責任ある立場であることは理解しておいたほうがよいでしょう。
社外監査役就任におすすめのエージェントサイトsection
企業の社外役員選任ニーズが高まっていることを受け、近年はさまざまな社外役員紹介サービスがリリースされています。
サービスがいくつもあるとどれを選べばよいのか悩みますよね。この項目では、社外監査役就任におすすめのエージェントサイトを3つ紹介します。
社外役員マッチングサイト「EXE[エグゼ]」
EXE[エグゼ]は、社外取締役/社外監査役経験を持つ弁護士・公認会計士を専門に紹介するマッチングサービスです。弁護士・法務人材に特化した人材紹介サービス運営で培ったノウハウやネットワークを活かし、厳選した社外取締役候補のなかから最適な人材を紹介します。
士業を初めて社外役員に迎えるといった場合でも、業界に精通したエージェントが弁護士や公認会計士の選任が、ビジネスサイドにおいてどう活かせるのか、詳しく説明するので安心して利用できます。
公式サイト:https://exe-pro.jp/
KENJINS
KENJINSは、日本最大級の規模を誇る顧問契約マッチングサイトです。あくまで顧問契約や副業がメインのサイトであり、あまり社外役員募集は多くありませんが、さまざまな企業に声をかけてもらえる可能性があるため、登録しておいて損はないでしょう。
参考HP:KENJINS公式サイト
i-common
i-commonは、人材業界大手の株式会社パーソルが運営する経営課題の解決に取り組む企業と専門的知見・スキルを持つ人材とをマッチングさせるサービスです。
3,000社を超える企業と取引実績があり、自信の経験やスキルを活かせるシーンを探すことができます。ただ個人のサービス登録者数が17,000名を超えているため、他の候補者との間で埋もれてしまう可能性がある点には注意が必要です。
まとめ
社外監査役には、財務や会計に精通している人材を少なくとも1人は配置することが多く、その対象には公認会計士がよく選ばれます。上場企業の社外監査役における公認会計士の割合が年々増加していることから、こうした状況は今後も続くでしょう。
ただ当然、社外監査役を狙う公認会計士の数もそれなりに多いので、単に資格があるだけでは不十分で、選任する企業にふさわしい人材だと認識してもらうことが大切です。とはいえ、何か特別なことを行う必要はそれほどなく、公認会計士としての実績や経験を積むことが、社外監査役選任への一番の近道でしょう。
社外監査役を務めるに十分な経験や実績を積んだうえで、社外役員紹介サービスなどを活用し、就任先を開拓していくことをおすすめします。