ESG経営とは何か|注目の背景・メリットや重要性をわかりやすく解説

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ESGとは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の頭文字を取って作られた造語です。近年、ESGを意識した経営をする企業が増えています。

なぜESG経営が注目されているのでしょうか?

この記事では、ESG経営のメリット、ESG経営実現のポイント、ESG経営の今後について説明します。

目次
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なぜESG経営が注目されているのか?section

20世紀から21世紀にかけて、世界中の企業は利益を追求しすぎたため、環境汚染や労働問題、様々な不祥事が勃発しました。その結果、地球温暖化や異常気象などの環境問題、発展途上国の労働環境を巡る人権問題が顕在化したのです。

このような状況に危機感を覚え、国連は2006年に「責任投資原則(PRI)」を表明し、世界各国の機関投資家に対して「ESG」を考慮した投資をすることを促しました。そのため、投資対象として投資家から評価されるように各社ESG経営に取り組むようになったのです。

ディスクロージャー&IR総合研究所のデータによると、企業価値創造についての方針と戦略を投資家に明示する「統合報告書」を発行した日本企業は2019年には465社に達し、そのうち9割が英語版も発行しているとのことです。5年前には100社なかったので、ESGへの取り組みに関する意識が、日本企業間で急激に広がってきているといえるでしょう。

ESG経営とは何か|それぞれの意味と企業での取り組み例についてsection

次に、ESG経営とは具体的にどんなことに力を入れているのかを環境・社会・ガバナンスの3つの側面から説明します。

環境(Environment)について

まず、ESGの要素の一つである環境についてですが、具体的な取り組みとしては環境汚染や生物多様性への配慮、省エネ・CO2排出量の削減、廃プラスチックの削減などが挙げられます。利益を追求しようとすると自然へかける負担は大きくなってしまいます。事業の成長と環境に対する配慮を両立させることが求められているのです。

2019年に発表された環境ブランド調査は、下記のランキングになっています。

順位企業ブランドスコア
1サントリー97.7
2トヨタ自動車91.2
3イオン84.5
4キリン80.9
5パナソニック78.1
5ホンダ78.1
7スターバックス コーヒー ジャパン76.7
8日産自動車76.3
9アサヒビール74.1
10日本マクドナルド73.9
11花王73.0
12セブン&アイ・ホールディングス72.6
13日立製作所70.7
13ローソン70.7
15JXTGエネルギー(ENEOS)70.1
16アサヒ飲料69.9
16サッポロビール69.9
18シャープ69.7
18日本コカ・コーラ69.7
20ブリヂストン69.5
参考:日経BP「環境ブランド調査2019」|日経BP (nikkeibp.co.jp)

イオングループの例

例えば、大型ショッピングモールのイオングループは、環境に配慮した以下の活動を行なっています。

  • プラスチック製のストロー廃止
  • マレーシアにて1200万本以上の植樹活動
  • 太陽光発電の活用によるCO2削減

海洋生物などの生態系に影響を及ぼすとされるプラスチック製品を削減する働きかけが全世界的に行われています。それを受けてイオンでは、2020年3月に全モールで飲食系専門店におけるプラスチック製ストローの提供を終了しました。ストローが必要な場合は代替品として紙ストローの提供を行っています。

また、マレーシアで植樹活動を行ったり、太陽光発電の活用で約1,564トンの大幅なCO2削減を目指したりという活動もしています。

参照:イオン

社会(Social)

社会に関する具体的な取り組みとしては、労働環境やダイバーシティ・人権問題への配慮、地域社会への貢献、コンプライアンス遵守などが挙げられます。社会に配慮した企業は、持続的に成長すると評価されやすいです。

例えば、労働環境については、賃金や労働時間などの労働条件、従業員の評価や処遇、福利厚生、ダイバーシティや男女間格差、ハラスメント等のコンプライアンスの問題などがあります。具体的には、グローバルなサプライチェーンでの人権リスクへの配慮が必要で、児童労働をさせない・低賃金で雇わない・危ない環境で働かせないといった配慮が必要です。

キャノンの例

日本を代表するグローバル企業のキャノンでは、「文化、習慣、言語、民族などの違いを問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らしていける社会の実現」を目指しています。

例えば、アジアを中心とした海外グループ会社では、就労可能年齢の法令遵守・健康配慮の徹底を行っています。また、いかなるハラスメントは禁止されており、「就業規則」「ハラスメント防止規程」が制定されているとのことです。ハラスメント相談窓口の設置や、相談担当者連絡会での情報共有もされており、トラブルが発生した際にもすぐに問題解決できるような環境になっています。

参照:キャノン|CSR活動 | キヤノングローバル (global.canon)

ガバナンス(Governance)

ESG経営のガバナンスとは、日本語で企業統治という意味です。企業がステークホルダー(株主・取引先・従業員)を守るために監視の目を光らせることが企業統治に繋がります。例えば、経営陣の判断で不正をしたり、それを隠ぺいしたりするようなことがあれば株価は暴落して、投資家である株主の財産が大きく減ってしまう可能性があります。

このようにステークホルダーに不利益を与えることがないように、企業は取り組む必要があります。具体的には、社外取締役や社外監査役を設置して監視の目を光らせるなどです。

トヨタ自動車の例

トヨタ自動車では、コーポレートガバナンス体制をホームページ上に明確に掲載しています。どのようなプロセスで企業としての意思決定がされていくかが一目瞭然です。また、サイバー攻撃に対する対応方法などの情報セキュリティに関する方針も開示しています。他にも、納税に関する考え方を従業員・グループ会社・ステークホルダーとシェアするために、「トヨタの税務ポリシー」という資料が公開されています。

参照:トヨタ自動車|ガバナンス | ESG(環境・社会・ガバナンス)に基づく取り組み | サステナビリティ | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト (global.toyota)

SDGsとの違いsection

ESGとよく比較されるのがSDGsです。SDGsは「Sustainable Development Goals」の略称で、「持続可能な開発目標」という意味があります。

2015年の国連で採択され、17の目標を2030年までに達成することを目指しています。目指す方向性としてはESG似ていますが、ESGは企業が主体となり達成することであるのに対し、SDGsは国家や個々人が解決したい問題である点が異なります。

CSRとの違いsection

CSRは「Corporate Social Responsibility」の略語で企業の社会責任という意味です。企業の活動をステークホルダーへアピールするという点はESGと同じですが、ESGで意識される投資家からの視点はCSRでは意識されません。

ESG経営のメリットsection

資金調達しやすい

ESG経営は投資判断の一つとなりつつあります。従来は財務諸表を見て投資判断をしていましたが、投資家の目線もESG経営をしているかが判断基準に加わっています。ESG経営を意識していない企業は長期的に見たら利益を出せなくなってくると判断されるためです。

そのため、ESG経営の取り組みが評価されれば銀行などからの評価も上がりますし、上場している場合には株主から投資もしてもらいやすくなるでしょう。また、取り組みが評価されればクラウドファンディングなどで資金を集めることもできるのではないでしょうか。

人材の確保がしやすい

ESG経営では、従業員にとって働きやすい配慮がされているかも評価の対象となります。そのため、ESG経営に取り組んでおり、労働環境が良い職場と判断されれば優秀な人材を確保しやすいというのもメリットです。

特に、日本では少子高齢化の影響により人材不足が叫ばれています。人材の海外流出なども相まって優秀な人材の確保は難易度が上がっています。そのため、労働環境の改善にフォーカスしたESG経営をしている会社は良い人材を採用できる可能性が上がる点でもメリットがあるといえるでしょう。

働きやすい環境整備につながる

ESG経営では、人権問題やハラスメントを許さないという信念で運営されます。その結果、従業員一人一人が働きやすい環境にしようという意識となり、結果働きやすい環境ができていきます。

働きやすい環境が整えば、従業員が辞めにくくなり、採用コストを下げられます。また、従業員の定着率が高いと安定的な会社運営ができていると評価され、金融機関や株主などからの評価も上がる可能性があるでしょう。

ブランド力の向上

ESG経営に取り組むとブランド力の向上にもつながります。例えば、スターバックスコーヒーはいち早くプラスチックストローから紙ストローへ切り替えましたが、その取り組みが評価されブランド力の向上につながりました。このように、ESGへの取り組みをすることがブランドイメージを上げて、結果的に顧客の購買意欲へつながるという良いサイクルとなります。

多様性の推進

ESG経営には多様性の推進にも効果があります。例えば、日本はジェンダーギャップが世界的に見ても激しい国です。2021年の調査によると、日本のジェンダーギャップ指数は156位中120位で、G7の中では最下位という結果でした。

しかし、ESG経営に取り組む企業は女性の社会進出にも力を入れており、能力があれば管理職や取締役への就任もしやすい環境となっています。女性の雇用だけではなく、障がい者雇用、外国人雇用などの多様性が推進されれば社会からの評価も高まります。

参照:ジェンダーギャップ指数2021、日本は120位 G7最下位は変わらず低迷 | ハフポスト (huffingtonpost.jp)

経営リスクの軽減

ESG経営ではガバナンスへの取り組みもしますが、ガバナンスを意識することで経営リスクを軽減することができます。

企業が不祥事を起こすと、信頼回復までに長い年月を費やすことになります。例えば、粉飾決算などの不正が働かないように徹底的に監視や指導すべきですし、情報漏洩などのミスが起こらないためにマニュアルを作成して従業員に意識を徹底させるべきでしょう。

経営リスクがなくクリーンな印象の企業は、資金調達がしやすくなりますし、取引先との取引や雇用も安定しやすくなります。

ESG経営実現のポイントsection

ここでは、ESG経営実現のポイントについてお伝えします。

取締役会が積極的に関与

ESG経営を成功させる一番のポイントとしては、取締役会の積極的な参加です。現場レベルに任せるのではなく、経営陣が積極的にESGに関する知識を得て指揮をする必要があります。

例えば、取締役会が廃プラスチック削減を課題だと意識しなければ、予算が回らず、対応も遅れてしまいます。競合企業が早く対策してブランドイメージを上げれば、売上を持っていかれてしまうかもしれません。そのため、取締役会がESG経営を指揮する当事者として、会社の中にある様々な問題に対して積極的に解決しようという姿勢をとることが必要です。

事業戦略とESG戦略を統合させる

事業戦略とESG戦略は合わせて考えるべきといえるでしょう。それぞれを切り離して考えると経営がスムーズに進まなくなってしまうからです。実際、ESGの観点から、中~長期の目標や課題を定め、経営・事業戦略に組み込む企業が増えているようです

ESGを単なる社会貢献と考えるのではなく、ESG経営をしながらブランドイメージを向上させて利益を得られるような戦略にすることが大切です。

従業員一人一人に ESG経営を意識させる

従業員一人一人にESG経営について意識させることも大切です。特にパワーハラスメント・セクシャルハラスメント・マタニティハラスメントなどは従業員単位で起こることです。なぜハラスメントがいけないかという問題意識を従業員一人一人が持つこと、ハラスメントが発生しない環境にすること、ハラスメントが起きてしまった場合にはすぐに対処できることなどが大切といえます。

ESG経営のためにやるべきことsection

ここでは、ESG経営のためにやるべきことについて説明します。

多様性の活用・雇用の創出

多様性の活用・雇用はESG経営において大きな課題です。例えば、発展途上国で雇用創出すれば社会的貢献にも繋がります。ジェンダーギャップを埋めるべく、女性の管理職・取締役就任も注目されています。

働きがいの創出

働きがいの創出をすることで、結果的に従業員が活き活き働き生産性が上がります。例えば、人事評価を明確化し、挑戦したり、頑張ろうという気持ちにさせたりするのが大切です。また、環境に対する対策や地域貢献をすることでブランド力が上がり、ブランド力の高い会社で働くことが働きがいと感じる人もいるでしょう。

環境に配慮した取り組み

環境に対する取り組みもESG経営では必須の項目です。脱プラスチックの活動やCO2の削減など、環境保護のために企業としてできることを考えていきましょう。工場や社屋、店舗で太陽光発電をする、飲食関係はプラスチック類の提供を止めるなどがあります。

情報開示

投資家としても投資判断をするためにESGに関する情報開示が求められています。日本取引所グループではESG課題の取り組みについて情報開示をするポイントを紹介しています。情報開示を効果的にすることがスムーズな資金調達にも繋がるため、しっかり対応しましょう。

参照:ESG情報開示実践ハンドブック | 日本取引所グループ (jpx.co.jp)

ESG経営の今後section

2019年にダウ・ジョーンズが発行する週刊投資金融情報専門紙バロンズ(Barron's)の調査「サステナブル企業トップ100」に選ばれた企業の平均リターンは34.3%であり、S&P500指数の31.5%を上回っています。このようにESG経営をすることでリターンが増えるということもわかってきたので、ESG経営に取り組む企業は今後も増えていくのではないでしょうか。

特に、ESGの活動を「社会貢献」としての枠組みと捉えるのではなく、経営戦略の一環と考え利益に結び付けることが大切です。例えば、ESG経営に取り組むことで消費者からのブランドイメージを向上させ購買に繋げるといったイメージです。

また、経営陣が主体的にESGの知見を深め、的確な指示を現場レベルまで行い、組織全体でESG経営の推進に取り組むことも不可欠といえます。ESG経営に切り替えるためには長い年月を要する可能性があるため、なるべく早く取り組んだ方がいいといえるでしょう。

まとめ

ESG経営では、環境・社会・ガバメントに配慮した経営をします。ESG経営をすることにより、金融機関や投資家からの評価も上がり資金調達がしやすくなることが大きなメリットです。それまでは財務諸表で企業の価値を評価していましたが、長期的な企業の価値を図るためにはESGの観点は必要不可欠となっています。

実際に、ESG経営をしている企業はブランドイメージも向上しやすく利益を上げられているというデータも出てきました。ESG経営を意識する企業は今後も増えることが予想されます。

ESG経営をするには、まず経営陣が当事者意識を持ちESGに関する知見を深めることが大切です。事業戦略にESG戦略を合わせて考え、単なる社会貢献ではなくESG経営をした上で利益を追求することが必要です。また、従業員一人一人がESG経営を意識できるような教育をしていくことも求められます。


上場支援、CGコードの体制構築などに長けた、専門性の高い「弁護士」を社外取締役候補としてご紹介。事業成長とガバナンス確保両立に、弁護士を起用したい企業様を支援している。

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