取締役(とりしまりやく)とは、会社運営が確り行われるように意思決定・監督する人物です。取締役の存在については会社法で定められており、会社法第348条では、「取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。)の業務を執行する」と明記されています。
(業務の執行)
引用元:会社法第348条
第三百四十八条 取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する。
2 取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。
3 前項の場合には、取締役は、次に掲げる事項についての決定を各取締役に委任することができない。
一 支配人の選任及び解任
二 支店の設置、移転及び廃止
三 第二百九十八条第一項各号(第三百二十五条において準用する場合を含む。)に掲げる事項
四 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
五 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
4 大会社においては、取締役は、前項第四号に掲げる事項を決定しなければならない。
取締役に期待される役割は主に以下の通りです。
- 会社の進む方向性を定める「決定機能」
- 決定したことを各部門などに指示し、実行に移す「執行機能」
- 執行が滞りなくされているかを確認する「監督機能」
- 不祥事などが起こらないように監視する「監査機能」
この記事では、取締役の具体的な役割や仕事内容、求められる人物像、選定方法など紹介します。
取締役と代表取締役(社外含む)・従業員との違いは?section 01
まず、取締役とその他の役職や一般従業員との違いを紹介します。
代表取締役との違い
代表取締役とは、会社法上で定められた企業の最高責任者のことです。取締役の中から代表者が選出されますが、1人が代表取締役になるケースも、会長と社長の複数名が代表取締役になるケースもあります。例えば、2人で起業した場合には2人それぞれが代表取締役になることもあるのです。
会社法第349条において、「取締役は、株式会社を代表する」という記載があり
「社長」とは社内の役職名ですが、「社長=代表取締役」になることが一般的です。例えば、社長=代表取締役ではない場合(社長は取締役、会長が代表取締役など)、社長は社内のプロジェクトなどの遂行の責任者となりますが、社外の責任者ではありません。融資などを受ける場合には、代表取締役の会長が責任を持つことになります。
代表取締役は取締役の代表ですので、取締役から代表取締役に就任することがほとんどです。代表取締役を選出する際には取締役会にて話し合って決めます。
社外取締役との違い
企業の不祥事を防ぎ、ステークホルダーを守るといったコーポレート・ガバナンスの観点から、2021年3月より上場企業の社外取締役の設置は義務となりました。社外取締役には、就任する企業とは利害関係のない人物が株主に代わり企業を監督する役割されています。
社内取締役は、企業内で出世を重ねた生え抜きであることが多いので、内部事情に精通していますが、客観的な見方ができない・上司的な立場の代表取締役に強くものを言えないという弱点もあります。そこを補強できるのが社外取締役です。
社外取締役は、就任する企業の取締役のスキルを補強できる人材が選定されますので、元経営者・弁護士・公認会計士などが選ばれることが多いです。また、社外取締役は常勤ではなく、数社を掛け持ちできる点も社内取締役とは異なります。
一般従業員との違い
取締役と一般従業員は契約形態が異なります。会社と一般従業員との契約が「雇用契約」であるのに対し、会社と取締役との契約は「委任契約」です。社内取締役は、企業内で出世を重ねて取締役に選ばれることが多いですが、その場合は雇用契約から委任契約に切り替える必要があります。
雇用契約というのは「労務に服することを約し(民法623条)」の通り、企業の指示に従い「労働力」を提供するに過ぎません。一方、委任契約は、普通の人ではできないような専門的な処理・難しい処理を行う際に結ぶ契約です。(民法330条)。つまり、取締役は経営の専門家として会社から経営の任されたことになります。
雇用契約では、社員などを簡単には解雇できませんが、委任契約は「相互解除の自由」という大原則があります(民法651条1項)。「役員はいつでも株主総会の決議によって解任することができる」(民法339条1項)という明記があることから、取締役を信頼できなくなった時やスキル不足と判断した場合にはいつでも解任が可能です。逆に、取締役が会社に対するロイヤリティを保てなくなった場合にはいつでも辞任することができます。
執行役員との違い
執行役員とは「役員」という記載はありますが社内の役職名にすぎません。例えば、社員で本部長となった人の役職名として執行役員という肩書をつけることはあります。しかし、執行役員は会社法上の役員ではないので、一般従業員にすぎず、登記なども必要ないのです。
一方、取締役は企業と委任契約になりますし、登記も必要という点で執行役員とは異なります。執行役員が出世して取締役に就任するというルートは充分あり得るでしょう。
常務取締役とは
常務取締役とは、取締役の中の役職の一つです。大手企業の場合には、取締役を多く選任し、その中で序列をつけることが一般的です。取締役の中の序列としては代表取締役、専務取締役、常務取締役、役のない取締役(平取締役)という順番になります。取締役として就任された後に、業務の質や後輩の育成などが認められた場合に常務取締役となることもあるでしょう。
取締役の役割section 02
会社法第348条では、「取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。)の業務を執行する」という記載があります。ここでは、取締役の具体的な役割について紹介します。
取締役会とは
取締役会とは、企業の意思決定を取締役で話し合う場です。企業は株主のものなので、株主の期待に沿った企業運営にするように、企業の方向性などを決定していきます。取締役会は年に4回開催する必要があると会社法上に定められています。
(取締役会設置会社の取締役の権限)
引用元:会社法第363条
第三百六十三条 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。
一 代表取締役
二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの
2 前項各号に掲げる取締役は、三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。
以前は株式会社には取締役会の設置が必須でしたが、2006年の改正により取締役会の設置の義務はなくなりました(上場会社は義務)。そのため、小規模企業などでは取締役会を設置していないケースもあります。
(取締役会等の設置義務等)
引用元:会社法第326条
第三百二十七条 次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。
一 公開会社
二 監査役会設置会社
三 監査等委員会設置会社
四 指名委員会等設置会社
2 取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社については、この限りでない。
3 会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。
4 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、監査役を置いてはならない。
5 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、会計監査人を置かなければならない。
6 指名委員会等設置会社は、監査等委員会を置いてはならない。
取締役会設置会社における3つの役割
公開会社(上場している会社)、監査役会設置会社、委員会設置会社では、必ず取締役会を設置する必要があります。取締役会設置会社における取締役の役割について紹介します。
監督
取締役は、会社運営のために決定した経営方針や業務遂行に関する意思決定が、きちんと進行しているかを監督する責任があります。
決定
株式会社の運営は、株主総会により決定する事項もありますが、株主総会で決定する決議以外の経営や業務遂行に関する意思決定は取締役が行います。会社法362条4項では、以下の内容を取締役会の決定事項としています。
- 重要な財産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
- 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
- 社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
- 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
- 定款の定めに基づく役員及び会計監査人の会社に対する損害賠償責任の免除
監査
取締役は、取締役会で決定した企業の方針に従い会社が運営できているかを監査します。監査を行うにあたり、報告要求・財務調査・違法行為差止請求権といった権利も使うことができます。
取締役会を設置しない会社における役割
次に、取締役会を設置しない企業における取締役の役割を紹介します。
業務の執行
取締役会がない企業では、取締役が業務執行の責任を担います。株主総会での決議事項などを自分でどうすれば実現できるかを考えながら執行していきます。
社の代表(取締役=社の代表)
取締役会の設置がない企業は、「(代表)取締役=社の代表」であることも多いです。このような体制では、事業の成功を目指した意思決定・業務の遂行を積極的に行う必要があります。
取締役に期待される仕事内容section 03
ここでは、取締役に期待される具体的な仕事内容について説明します。
取締役会への参加
取締役会設置会社の場合は、年に4回取締役会を開催します。取締役会に参加し、企業運営の方針や業務の推進方法を決めるのが取締役には求められます。月1回以上取締役会を開催している企業が多いようです。
株主総会での対応
株主総会での対応も取締役の重要な役割です。株主総会では、前年度の事業内容の説明や今後の方針、株主からの質問に対する回答をします。取締役の受け答えの内容が悪かったり、説明が不十分であったりすると株主が「投資する魅力がない」と判断する可能性もあります。準備をきちんとして対応する必要があるといえるでしょう。
経営者(代表取締役)への助言
経営者への助言を行い、ワンマン運営の防止するのも取締役の役割です。企業の運営が上手くいかなくなればステークホルダーに不利益が被ることになります。そのため、取締役として選ばれた人は、取締役のトップである代表取締役に対しても意見する必要があるのです。
ただし、生え抜きの社内取締役の場合は、上下関係もあり現実的には意見が言いにくい環境にあります。そのため、公平で客観的な意見を求めて、元経営者などの社外取締役を選任することも増えています。
顧客とのリレーション構築
取締役自ら顧客への挨拶や交渉の場に出向きリレーション構築する場合もあります。特に重要な案件では、取締役が直接入ったほうがスムーズに話がまとまることもあるでしょう。顧客としても、「取締役が来てくれるということは、重要な顧客と思ってもらえている」という気持ちになります。このように、顧客とのリレーション構築においても取締役は重要な役割を果たすのです。
取締役の責任範囲section 04
取締役はどのような責任があるのかを説明します。
会社に対する損害賠償責任
取締役は、任務を怠ったときに会社生じた損害を賠償する「任務懈怠(けたい)責任(会社法423条)」を負います。
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
引用元:会社法第423
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
4 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。
ステークホルダーに対する損害賠償責任
取締役が、意図的・重大ミスによりステークホルダーに損害を発生させた場合、ステークホルダーは、取締役個人を訴えて会社に対する損害賠償を請求できます。
取締役に課せられる責任と違反行為section 05
取締役に禁止されている行為にはどのようなものがあるのでしょうか。
善管注意義務違反
善管注意義務とは、「善良なる管理者の注意義務」の略したものです。取締役は善管注意義務を違反しないように、監視義務・内部統制システムの構築義務・株主の共同利益に配慮する義務を守り、会社が正しく運営できるよう監視・決定・監査をします。
利益相反行為
取締役は利益相反行為が禁止されています。利益衝突行為とは、取締役が会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図るような取引のことです。例えば、会社の重要な内部事情を公開前に漏らして株でインサイダー取引を行ったり、競業に転職して内部事情を話したりするなどの行為が該当します。
取締役の任期とはsection 06
ここでは、取締役の任期について紹介します。
任期は原則2年
取締役の任期は、会社法第332条1項により2年と決められています。選任された日が起算日になるのではなく、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までという点で注意が必要です。
また、非公開会社(非上場企業)では、最長10年まで延長することが可能です。例えば、小規模の企業やオーナー企業で取締役として他に就任できる人がいない場合などには、登記の際に手間や費用もかかるので期限を延長しておいたほうが良い場合もあります。
(取締役の任期)
引用元:会社法第332条
第三百三十二条 取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
途中解任・辞退も可能
会社は株主総会での議決を得ることでいつでも取締役を解任することができます(会社法339条)。株主総会において、出席株主の議決権の過半数が賛成する必要がありますが、解任の理由は特に必要ないとされ、任期が途中の場合でも可能です。ただし、任期途中の取締役に対し、正当な理由なく任期の終了前に解任した際、会社は解任によって生じた損害の賠償をする必要があります(同条2項)。
(解任)
引用元:会社法第339条
第三百三十九条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
取締役の選任要件section 07
取締役の『選任要件』や『制限』についてを説明します。
取締役の選任要件は3つ
取締役になるために特別必要な資格はありません。以下の欠格事由に当てはまらなければ誰でも就任することが可能です。(会社法第331条)
- 法人
- 成年被後見人もしくは成年被保佐人
- 会社法など一定の法律上の罪を犯し、刑の執行が終わり、または刑の執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
- 上記3以外の罪を犯して禁固以上の刑に処せられ、または刑を受けることがなくなるまでの者(執行猶予中の者は除く)
取締役の選任方法
取締役の就任は、株主総会の普通決議で決めます。あらかじめ取締役で誰を選任するかをピックアップしておき、株主総会で株主に決議してもらいます。普通決議とは、議決権ベースで過半数の株主が出席し、過半数の決議で決定します。株主総会で選任された取締役が承諾することで、正式に取締役として就任することになります。
取締役の人数
取締役は最低1名以上必要です。また、取締役会を設置している場合、最低3名の取締役を選任しなくてはいけませんが、取締役の人数に上限の規定はありません。
企業が取締役を選任する際の選択肢section 08
取締役を選任する際の選択肢としては、どんなものがあるのでしょうか。
親族や知人を取締役にする
オーナー企業の場合は、親族や知人を取締役として選任するという選択肢があります。経営者の意思に近い運営を一緒にサポートしてくれることに期待ができます。例えば、親から子の事業承継で、会社員として他の会社で経験を積んだ子供が親の会社へ入社し、取締役に就任することもあるでしょう。いずれは子が代表取締役となり、会社の代表になることが多いです。
経営と執行を分ける
経営と執行で分けるケースも考えられます。取締役はコーポレート・ガバナンスの観点から代表取締役と社外取締役で固め、監督としての立場を強化します。経営を運営するのは執行役員に任せ経営と執行を分離させることで、不祥事を起こしにくく、迅速な対応ができる組織にすることができます。
合併や買収した企業の幹部を取締役に就任させる
大きな会社が規模の小さい会社を買収した時には、規模が大きい会社の役員比率が高くなることが考えられます。しかし、規模の小さい企業の合併前のポストをできるだけ維持したほうが、事業移管や合併手続きをスムーズに行える効果があります。ポストに就きにくいと優秀な人材の外部流出にもつながる可能性があるので、買収した企業からもなるべく取締役に就任させたほうがいいといえるでしょう。
経営者と似た意見の取締役を集める
経営者の周りに「イエスマン」ばかり集めると、あまり良いイメージはないかもしれませんが、スピーディーな判断ができるという点ではメリットがあります。不祥事が起きそうな局面ではそれを止めるような責任感は必要ですが、普段の経営では経営者の意見に共感し、すぐに行動に移せる取締役で固めたほうが会社の成長スピードも速いでしょう。
各部門のトッププレーヤーを取締役にする
営業部門・財務部門・法務部門など会社では様々な部門に分かれますが、各部門のトッププレーヤーを取締役に就任させるというケースも多いです。各分野に精通した人同士で意見交流できれば、効率的な戦略が立てられるというメリットもありますし、従業員への指示もスムーズにできるでしょう。
取締役の給与・報酬・福利厚生に関してsection 09
取締役の給与・報酬を紹介します。
スタートアップ企業の場合、まだ事業から利益が生まれていない状態であれば取締役の給与は少ないこともあり得ます。従業員への給料を確保するために、取締役は薄給であることもあるようです。しかし、スタートアップ企業がIPOを果たした際には株主である取締役は大きな利益を得られる可能性があります。
取締役に対する福利厚生制度は原則ありません。福利厚生は社員の仕事に対するモチベーションを上げるものだからです。
取締役になる6つの方法section 10
取締役になるためにはどのような方法があるのでしょうか。
所属企業内で昇進を重ねる
所属する企業内で出世を重ね、取締役に就任するケースが一番一般的な流れと言えます。目立った実績を残し、後輩の指導を行い、会社への忠誠心を見せることができれば、取締役候補として選ばれる可能性が高いでしょう。
子会社・グループ企業への出向
大企業では子会社やグループ会社を持つことが多いですが、親会社のノウハウを浸透させるために子会社やグループ会社の取締役に就任することもあります。
M&A(吸収合併)
M&Aで合併した企業の取締役に就任することもあります。M&Aにも様々な種類がありますが、企業文化・システムを上手く統合する必要があります。取締役として就任したら、異なる企業が上手く統合できるような監督が必要です。
事業承継
日本にある企業の99%以上は中小企業ですが、現在多くの中小企業で世代交代の時期になっています。業承継により、子供や親族、従業員が取締役に就任することもあります。
MBO(マネジメントバイアウト)
MBOとは、株式を経営陣が買い取ることです。株式を経営陣が買い取ることにより経営陣=株主となり、企業運営を外部の株主の顔色を伺わずに自由に行えるというメリットがあります。中小企業でも事業承継として後継者(取締役)として就任する人に株式を所有させる目的で行われることがあります。
紹介
取締役には様々なスキルが求められますが、特に元経営者・弁護士・公認会計士を取締役に迎えたいという企業は多いです。そのため、良い人材を紹介してもらうことにより取締役を迎え入れるケースもあります。
ヘッドハンティング
優秀な人材が取締役に就任すれば、企業の将来に期待ができ、価値も上がります。すでに取締役としての実績がある人にヘッドハンティングという形で迎えるケースもあるでしょう。
取締役に求められるスキルsection 11
取締役に求められるスキルにはどんなものがあるのでしょうか。
企業経営
取締役は企業を運営する指揮をする役割を持ちます。そのため、経営者としての業務推進能力や責任感は非常に大切です。
マネジメント経験
取締役は、一般社員を束ねて動かす必要があります。そのため、プレーヤーとして優秀な実績を持っているだけではなく部下をマネジメントできるスキルも重宝されます。
ブランド戦略・マーケティング
取締役は、ブランドに対する正しい戦略・マーケティングを行い、利益を拡大する必要があります。流行や消費者の行動パターンは日々変わるので、キャッチアップする情報収集能力も必要です。
コンプライアンス意識
不祥事を起こさない・起こさないように対策をするというコンプライアンス意識も取締役には求められます。企業が一度不祥事を起こせば、信頼回復までに長い年月やお金が必要になります。そのため、自らがコンプライアンスを意識することはもちろんですが、社内全体でコンプライアンス意識を高めるような取り組みを行う必要があるのです。
ESG経営(環境・社会・ガバナンス)
ESGとは、(環境・社会・ガバナンス)の頭文字をとった言葉で、ESGに配慮しない企業の存続は今後危ういとされています。具体的には、省エネやスマートエネルギー・温室効果ガスの削減、安全性や生産性の確保やワークバランスの向上などを意識した経営が必須です。社会の目も厳しくなっていますので、ESGに対する知見を深めることも取締役として必要といえます。
取締役になるためにあると良い経験section 12
取締役になるために経験しておくと良いことなどを紹介します。必ずしも必須の経験ではありませんが、自身が経験しておくことで現場の動き方は想像しやすく、組織経営の観点では有効なものとして、いくつかピックアップしました。
人事・労務
企業は人で成り立っていることから、企業にとっては良い人材を集めるのが非常に大切です。どんな人材を採用し、どのように育て、労務環境やワークライフバランスを整えて長く働いてくれるように考える必要があります。会社の運営をする取締役としては、このような知識があったほうがいいでしょう。
グローバル経営・事業戦略
日本では人口減少などにより、マーケットの縮小が懸念されています。シェアを広げるためには海外進出や新しい需要を作るなどの事業戦略が必要です。そのため、海外での取引を作った経験や新規事業を成功させた経験は取締役として活かしていけるでしょう。
法務
世間の目も厳しいので企業が法律違反を犯せば一気に信用を失うことになります。信用を失えば商取引での利益が減るだけではなく、資金調達も難しくなります。取締役として「法律を犯さない」という強い責任感は非常に大切です。
財務
経営では財務面も非常に大切です。海外ではCEOに続きCFOの存在が重要視されていますが、財務が安定していないと資金繰りの悪化や債務超過などで会社運営が上手くいかなくなります。会社の財務を見ながら、バランスよく攻めも守りも指示できる取締役は重宝されるでしょう。
取締役に向いている人section 13
取締役にはどのような人が向いているのでしょうか。
マネジメント能力がある
取締役は社員を動かし、会社に利益をもたらすことが求められます。そのため、マネジメント能力は重要です。ワンマンな運営だと人はついてきませんので、思いやりを持ちながらも社員を成長させることができるような指導が期待されます。
特定の分野に強い専門知識がある
営業・会計・法務など特定の分野に強い専門知識がある人も取締役に向いています。例えば、法務であれば弁護士資格を所有していたり、会計であれば公認会計士を所有していたりすると登用される可能性も高くなるでしょう。
企業の成長を真剣に考え、守ろうという意識が強い
企業経営をしていると様々なことが起こります。取締役は、企業の成長を真剣に考え、なるべく長く続くように企業を守るという意識が大切です。例えば、不景気の場合にはどうすれば受注量を増やすことができるか、ニーズの落ち込みを感じた時にはどうすればその時代にあった商品を開発できるかなど真剣に考える必要があるでしょう。また、自分が就任している時だけではなく、未来を見据えた行動をすることで会社を長く存続させることができます。
取締役になるために学歴は必要?
取締役になるためには特別な学歴は必要ありません。中卒でも取締役になることは可能です。ただし、大企業の取締役になりたい場合などには、学歴が関係してくるケースもあるでしょう。
女性取締役は積極的に増やす傾向に
日本は先進国に比べて女性の役員比率が低いため、政府としても女性の役員数を増やそうとしています。そのため、スキルや実績、専門知識がある女性は取締役に選ばれやすい傾向にあります。ただし、ワークライフバランスを考えて取締役になりたいと考える女性自体が少ないのも実情です。スキルが高く取締役としてやっていける女性は希少な存在です。
1 上場企業における女性役員の状況
引用元:女性役員情報サイト | 内閣府男女共同参画局
女性の活躍推進は、少子高齢化に伴う人口減少が深刻化する我が国において、多様な視点によってイノベーションを促進し、我が国の経済社会に活力をもたらすものであり、持続的成長のために不可欠なものです。さらに、昨今の資本市場においては企業の女性活躍状況が投資判断に考慮されるようになっており、女性が企業の責任ある地位で活躍することは、グローバルな競争が激化する中で、企業の持続的な成長にもつながるものです。
取締役の登記についてsection 14
最後に取締役の登記について説明します。
取締役の登記方法
新しい役員の就任、辞任・解任・死亡・任期満了などに伴う退任、重任(任期満了と同時に同じ役員を再任)などの際には登記が必要です。取締役の選任・解任は株主総会で決議が必要ですし、代表取締役の選定を行う場合には取締役会設置会社ならば取締役会の決議が必要です。役員の変更が決定した日から2週間以内に、管轄の法務局で登記を行います。
取締役の登記に必要な費用
取締役の登記は登録免許税が1万円かかります。資本金が1億円超の企業の場合は3万円です。加えて、取締役等個人の印鑑証明書(1通300円)や登記変更後の登記事項証明書の取得費用が必要です。さらに、司法書士に依頼する場合には司法書士への報酬が約3万円程度かかります。
取締役の登記に必要な資料
取締役の登記で必要になる資料は取締役会の設置の有無で異なります。取締役会設置会社と取締役会設非設置会社のそれぞれで必要になる資料を紹介します。
取締役会設置会社
- 変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 本人確認証明書
- 委任状(※司法書士などに手続きを委任する場合)
取締役会非設置会社
- 変更登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 印鑑証明書
- 委任状(※司法書士などに手続きを委任する場合)
取締役の登記が遅れた際の罰則について
取締役の変更があった際の登記は、決定から2週間以内に行う必要があります。この期限を過ぎた場合には、登記の申請を怠った会社の代表者個人が100万円以下の過料(反則金)の制裁を受ける可能性があります(会社法第976条第1項第1号)。登記が遅れないように注意すべきといえるでしょう。
まとめ
取締役とは、一般従業員とは異なり企業と委任契約を結びます。企業が正しく機能するように、企業運営の監視・決定・監査を行います。取締役になるためには学歴や性別などは関係ありませんが、何か専門的な知識を有し、マネジメント能力が高いと評価されるとなりやすいのではないでしょうか。
上場企業の取締役に就任すれば、年収2千万円以上を手にすることができるかもしれません。