役員報酬の変更方法を解説|変更ルールと事業年度途中に変更する注意点まで

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業績が思ったよりも好調に推移した場合や、逆に業績が悪くなった際、役員報酬をの増減をして利益を調整したいケースがあるかもしれません。しかし、役員報酬の変更には細かいルールがあり、ルールを違反すると損してしまう可能性があります。

この記事では、役員報酬を変更する際のルールや役員報酬を変更する際の注意点などを説明します。役員報酬の変更方法に疑問を抱いている方はぜひ参考にしてください。

目次
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役員報酬の変更するのは基本的にはできないsection

役員報酬には定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与がありますが、ほとんどの会社では定期同額給与を採用しています。定期同額給与は1カ月以内の決められたサイクルで同額の給与を支払う方法です。

例えば、毎月30万円ずつ支給すると言った形です。ほとんどの企業が毎月同額を支給していますが、同額を支給できるのであれば毎週に設定することも可能です。

定期同額給与は、ルールに沿った運用をすれば役員報酬を全額損金として計上ができますが、基本的に後から役員報酬の金額を変更する場合には損金算入できません。簡単に変更できてしまうと、利益をコントロールできるようになってしまうからです。

定期同額給与とは、次に掲げる給与です。

(1) その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます。)で、その事業年度の各支給時期における支給額または支給額から源泉税等の額(注)を控除した金額が同額であるもの

(注) 源泉税等の額とは、源泉徴収をされる所得税の額、特別徴収をされる地方税の額、定期給与の額から控除される社会保険料の額その他これらに類するものの額の合計額をいいます。

(2) 定期給与の額につき、次に掲げる改定(以下「給与改定」といいます。)がされた場合におけるその事業年度開始の日または給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日またはその事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額または支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額であるもの

イ その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月(確定申告書の提出期限の特例に係る税務署長の指定を受けた場合にはその指定に係る月数に2を加えた月数)を経過する日(以下「3月経過日等」といいます。)まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定で、その改訂が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にはその改訂の時期まで)にされる定期給与の額の改定

ロ その事業年度においてその法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(以下「臨時改定事由」といいます。)によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(上記イに掲げる改定を除きます。)

ハ その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(以下「業績悪化改定事由」といいます。)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限られ、上記イおよびロに掲げる改定を除きます。)

(3) 継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの

引用元:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

企業に対する法人税は、売上から売上原価、役員報酬を含む販売管理費、営業外収益・営業外費用、特別利益・特別損失などを差し引いた税引前利益に対してかかります。そのため、利益が大きく出た際に、役員報酬をコントロールすれば法人税を減らすことが可能なのです。

しかし、このようなコントロールが簡単にできれば、国としては税収を得られなくなってしまいます。そのため、一度決めた役員報酬の金額は簡単には変更できない決まりになっているのです。ただし、損金算入せずにただ役員報酬を増額したい場合には、増額することも可能です。

役員報酬の変更する際のルールsection

ここでは、役員報酬を変更する際のルールを説明します。

事業年度開始から3カ月以内

定期同額給与を採用していて役員報酬を変更したい場合、事業年度開始から3カ月以内であれば変更することができます。たとえば、業績予想が上向きで前年度より役員報酬を増やしたいという場合には増やすことができるのです。

役員報酬の金額を変更したい場合、株主総会での決議が必要になります。例えば、事業年度が4/1に開始する場合、6/30までに株主総会での決議をすれば変更することができます。

事業年度開始から4カ月以降

事業年度開始から4カ月を過ぎた後に役員報酬を変更すると、損金算入ができなくなります。ただし、経営が著しく悪化して、株主・債権者・取引先などとの関係上、役員報酬の変更がどうしても必要だと認められた場合や役職が変わり役員報酬の増額が必要になった場合には議事録に残すことで変更することは可能です。

しかし、株主・債権者・取引先などとの関係上に影響がないレベルなのに役員報酬を変更すると、後から税務署の調査で指摘されるケースもあります。たとえば、数%売上が下がったり、業績予想を少し下回ったりするくらいでは認められません。税務署から損金として認められないと指摘されば、後から当該の法人税額を支払う必要が出てきてしまいます。

もし、損益算入できなくなったとしても役員報酬の増減をしたいという場合には、変更することはできます。

役員報酬(定期同額給与)の変更時期を誤った場合section

定期同額給与の変更時期を誤った場合は、増額部分が損金として計上されなくなってしまいます。例えば、事業年度開始から4カ月を過ぎた後に毎月30万円の役員給与を50万円に増額したケースで考えてみましょう。

増額した20万円分は翌年度事業開始するまで損金算入することができなくなり、法人税算出の計算に入れられてしまいます。その場合、増額した20万円分については法人として徴収される法人税と個人の所得にかかる所得税の二重課税となり損をすることになるので、変更時期を誤らないように注意しましょう。

役員報酬を変更しても損金算入が認められるケースsection

役員報酬を変更しても損金算入できるケースは2つの事由に限られます。どのような事由なのかを紹介します。

業績悪化改定事由

業績が悪化した場合には、業績悪化改定事由として役員報酬額を変更しても損金算入が認められるケースもあります。

国税庁のホームページの記載は下記の通りです。

その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由

国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

具体的には、株主との関係から、業績の悪化等についての経営上の責任で役員給与の額を減額せざるを得ないケースや業績の悪化により銀行への返済ができなくなりリスケジュールをしなければいけなくなったケースなどが業績悪化改定事由に認められます。

ただし、この業績悪化改定事由となるハードルは厳しいです。業績悪化改定事由として認められるのは、第三者である利害関係者(株主、取引銀行、取引先等)との関係上、役員給与を減額せざるを得ない事情が生じたケースに限定されます。そのため、業績が数%ほど減少した、目的の業績に届かなかったというレベルでは変更できないのです。

国税庁の役員給与に関するQ&Aという資料には下記のような記載があります。

株主が不特定多数の者からなる法人であれば、業績等の悪化が直ちに役員の評価に影響を与えるのが一般的であると思われますので、通常はこのような法人が業績等の悪化に対応して行う減額改定がこれに該当するものと考えられます。

国税庁|役員給与に関するQ&A

一方、同族会社のように株主が少数の者で占められ、かつ、役員の一部の者が株主である場合や株主と役員が親族関係にあるような会社についても、上記1※に該当するケースがないわけではありませんが、そのような場合には、役員給与の額を減額せざるを得ない客観的かつ特別の事情を具体的に説明できるようにしておく必要があることに留意してください。

国税庁|役員給与に関するQ&A

※株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合

国税庁|役員給与に関するQ&A

この通り、業績悪化について客観的に説明できるレベルでなければ業績悪化改定事由として認められないケースもあるのです。

また、現状では経営状況が悪化していなくても将来的に悪化することが予想できる場合にも認められます。例えば、大手取引先の手形が業績悪化により不渡りとなり、その取引先が倒産してしまえば自社の売上が大きく減る可能性がある場合です。この場合、現状では数値的に業績悪化しているとは言えませんが、業績悪化の影響を受ける可能性が高いので業績悪化改正事由として認められます。

また、自社商品の瑕疵が判明しリコールが避けられないケースなども、業績悪化改正事由として認められるので、事業年度内に役員報酬額を変更しても損金算入できます。

取引先の関係が悪化するほどではないのにも関わらず事業年度途中に役員報酬額を変更した場合、後から税務署の調査が入った場合に「損金に算入できない」と法人税の追徴される場合がありますので注意しましょう。

減額せざる得ないかどうかについては、その策定された経営状況の改善を図るための計画によって判断できるものと考えられます。この場合、その計画は取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保することを目的として策定されるものであるので、利害関係者から開示等の求めがあればこれに応じられるものということになります。
引用元:国税庁|役員給与に関するQ&A

臨時改定事由

臨時改定事由には、「職制上の地位の変更」や、「職務内容の重大な変更等」があります。

国税庁のホームページの記載は下記の通りです。

その事業年度においてその法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情

出典|国税庁

臨時改定事由が認められる場合には、事業年度の途中に役員報酬額を変更しても損金算入できます。例えば、社長の退任にあたり副社長が社長に就任する場合、副社長から社長になった人の役員報酬を増額することは一般的です。

このように職務が変わる場合には、事業年度内に役員報酬額を変更するのも問題ありませんし、変更部分についても損金算入できます。また、病気で入院のため働くことができなくなった役員に対して、入院期間中は役員報酬を減額し、退院後に通常の金額に戻しても損金算入できるのです。

他にも、やむおえない事情として会社や役員が不祥事を起こしたことにより行政処分を受けた場合には変更しても損金として認められます。

役員変更をする際の具体的な手続きsection

ここでは、役員報酬を変更する際の具体的な手続きを紹介します。

株主総会での決議

役員報酬を変更する際には、株主総会の決議が必要です。株主総会の決議では2分の1以上の賛成を得なくてはいけません。役員報酬を全額損金に計上したい場合には、事業年度開始から3カ月以内に株主総会を開き役員報酬の額を決定する必要があります。

また、株主総会では役員報酬の総額だけを決めて、各役員に支給する役員報酬は取締役会で決定することも可能です。

議事録の作成

株主総会で役員報酬を変更する場合、決議内容を議事録に残す必要があります。議事録を残しておかなければ、税務調査に入った場合に、損金算入を否認されてしまい、法人税を追加で払わなければいけなくなる可能性があります。

議事録に残す内容としては、株主総会が行われた日時と場所、出席者、議長、変更後の役員報酬の額、出席者の署名・捺印、会社の署名捺印です。定期同額給与だけではなく、事前確定届出給与、業績連動給与などの役員報酬の内容を決める際にも議事録の作成は必須です。

届出の提出

定期同額給与の変更をする際には届出は必要ありません。事業年度が始まって3カ月以内に変更する場合も業績悪化改定事由や臨時改定事由により事業年度開始から4カ月を過ぎて役員報酬額を変更する場合にも、議事録を作成しておけば損金として認められます。

議事録がない場合、税務署の調査が入った際に損金として認められないと指摘される可能性もあるでしょう。そうなれば後から法人税を支払う必要が出てきてしまうので注意してください

また、定期同額給与以外に事前確定届出給与という形で役員賞与を与えることも可能ですが、事前確定届出給与は税務署に事前に届出を提出すれば報酬額を損金計上することができるようになります。議事録さえ作れば税務署への申告が必要ない定期同額給与とは異なり、必ず届出の提出が必要になりますので注意しましょう。

事前確定届出給与を利用する場合、下記の期限までに届出を提出する必要があります。

役員賞与の額や支払時期について、

  • 株主総会の決議をした日から1ヵ月経過日、または支払う事業年度が始まってから4ヵ月経過日のいずれか早い日まで
  • 法人設立日から2ヵ月経過日まで
  • 職務などに重大な変更があった場合は変更があった日から1ヵ月経過日まで

ただし、届出の内容の時期・金額とは異なる内容ものを報酬にしてしまうと損金計上できません。例えば、届出提出時から給与の支払日までに業績が悪化したので支給額を減らすということはできないのです。

このようなケースでは、たとえ給与を届出より減額することになったとしても損金算入できなくなるので注意しましょう。

役員報酬を変更する際の注意点section

最後に、役員変更を変更する際の注意点を説明します。

役員報酬を少なくしすぎると法人税の支払いが増える

法人税は、さまざまな費用などを差し引いた税引前当期利益に対してかかります。そのため、役員報酬を少なくしすぎると法人税の支払いが増えます。法人税をたくさん払いたくないという場合には、役員報酬を少なくしすぎないように注意しましょう。

しかし、法人税を支払ってでも自己資本を増やすのには意味があります。特に規模が小さい企業の場合、自己資本が少ないと業績が悪化したら一気に経営が傾きます。赤字になった時の対応は、過去から積み上げた資産で対応することになりますが、資産が少なければ資金繰りが逼迫してしまうからです。

そのため、特に小規模の会社は自己資本を増やすべきですし、自己資本を増やすためには法人税の支払いは免れないということは理解しておきましょう。

役員報酬を増やしすぎると自己資本が増えない

法人税の節税をしたいケースでは、役員報酬を増やすことで、法人税の支払いを減らすことができます。しかし、それだけを考えると自己資本は一向に増えていきません。

税引後当期利益を内部留保として蓄積することで自己資本が増えていきます。自己資本は、会社の実績により蓄えた自分たちの財産なので、自由に使えますし借入金のように利息を支払う必要がありません。金融機関の多くは自己資本比率を企業の財務状況を見る指標にしています。

そのため、金融機関から融資を好条件で借りたいと考えるのであれば、自己資本を増やす努力をする必要があるのです。自己資本比率の目安はどんな業種でも30%以上、できることなら50%以上を目指せるといいと言われています

昨今では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、業績悪化の影響を受ける企業も多かったですが、自己資本比率が高かった企業は助かっています。現状の業績が良かったとしても、今後の業界を取り巻く環境や外部環境によって業績は一気に悪化するかもしれないので、中小企業は保守的に自己資本を積み上げるべきといえます。そのため、いくら業績がいいからと言っても役員報酬は増やしすぎるのは危険と言えるでしょう。

事業計画がくるうと予想外の納税が必要になる

業績が思った以上に好調に推移した場合、予定より多くの法人税の支払いが必要になるケースもあります。役員報酬の額は何回も変更することはできませんので、変更する場合には慎重にするべきといえます。

期間外の変更は減額する場合も損金にすることができない

事業年度開始から3ヶ月以内に変更が可能ですが、4ヶ月以降に変更する場合、減額するケースでも損益参入できなくなりますので注意しましょう。

定期同額給与の変更金額が大きいときは社会保険の月額変更届の提出も必要

定期同額給与の変更額が大きくなる場合、社会保険の月額変更届の提出も必要になります。具体的には、社会保険の「標準報酬月額」の等級が2等級以上増減する場合に手続きをしなくてはいけません。

まとめ

多くの企業が採用する定期同額給与の役員報酬を変更して損金算入できるのは、事業年度が始まって3カ月以内です。3カ月以内に株主総会の決議を行い、議事録を残せば変更後も問題なく損金算入できます。

事業年度が始まって4カ月を過ぎてから変更する場合は、臨時改定事由と業績悪化改定事由が認められる場合にしか損金算入ができなくなります。業績悪化事由については、業績が数%悪化したレベルではなく、業績が悪化したことにより株主や金融機関に影響を与えるレベルのみ認められます。

臨時改定事由・業績悪化事由で役員報酬額を変更する場合にも、株主総会で決議した後に議事録を残さなくてはいけません。このように、役員報酬の変更は簡単にはできません。

役員報酬を決めるときには慎重に決めるべきといえるでしょう。

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