コーポレートガバナンスはなぜ必要なのか|大企業・中小企業も知るべき重要性

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コーポレートガバナンスという言葉自体は、2,3年で現れたものではありません。しかし、大企業における不祥事など,事あるごとに論じられてきました。そして、会社法改正、東証のコーポレートガバナンス・コードの改定に伴い注目されるポイントの1つが、コーポレートガバナンスです。

コーポレートガバナンスは、今、なぜ必要なのか。その目的や背景、コーポレートガバナンス・コードとの関係、メリット・デメリット、不祥事事例などを徹底解説していきます。

目次
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コーポレート・ガバナンスとは?section

コーポレート・ガバナンスとは、コーポレートガバナンス・コードによれば、次のように定義されています。

「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な」意思決定を行うための仕組みを意味して」いる。

出典:コーポレートガバナンス・コード原案|金融庁 平成26年12月12日 2頁

そして、企業を統治していくことには、しばしば様々な不祥事を起こさないようにするという守りの側面が意識されがちです。しかし、本来的には「攻めのガバナンス」の実現を目指すものです。この点について、コーポレートガバナンス・コードの原案では、次のように指摘されています。

 「本コード(原案)では、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることを主眼に置いている。」
出典:コーポレートガバナンス・コード原案|金融庁 平成26年12月12日 2頁

つまり、コーポレートガバナンスは、経営陣は株主から付託を受けた立場として、事業活動を遂行する上で様々なステークホルダーに対する責務を負ってところ、その責務に関し適切な説明責任を果たすこと、そして会社としての意思決定の透明性と公正性を担保し、事業の遂行を通じた社会への価値提供とその収益化を図る戦略を組むということです。

コーポレート・ガバナンスの必要性とは
目的と背景・企業別に考察section

コーポレートガバナンスの目的や背景は、どのようなものでしょうか。
また、似て非なる概念として内部統制というものがありますが、どのように違うのでしょうか。

目的

コーポレート・ガバナンスの目的は、会社の事業活動を制約することではありません。経営における意思決定過程の合理性を確保するためのものであって、その仕組みを整備することで経営陣の結果責任を回避し、果断な経営判断を志向することにあります。

事業を遂行することは、必然的にリスクを取ることが伴うからです。むしろ、そのリスクを取るにあたっての判断の合理性が担保されないまま、経営陣の恣意的な判断がされるおそれのある状態が、忌避されるべきことです。

背景

コーポレート・ガバナンス強化に関する取り組みが高まったのは、平成25年6月の閣議決定における「日本再興戦略」が契機とされています。そこでは、「『機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップ・コード)について検討し、取りまとめる」ことを内容とする施策が盛り込まれました。

そこで、平成25年8月に金融庁に「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」での検討が開始されました。さらに、法制審議会では、平成24年9月から、「会社法制の見直しに関する要綱」が採択されました。その後、監査等委員会設置会社や、社外取締役を選任しない場合の説明義務に関する規定が新設された平成26年改正の会社法が成立するに至りました。

これは、現在のコーポレートガバナンス・コードの基盤となる、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」の1つの表れといえます。そして、上場企業を中心に、投資家にとっての判断基準の1つとしてガバナンス体制の整備という点がクローズアップされるようになり、平成26年6月時点での閣議決定で、コーポレートガバナンス・コード策定への施策が盛り込まれました。

内部統制との違い

コーポレートガバナンスは、内部統制の上位にある概念として位置づけられます。すなわち、内部統制は、コーポレートガバナンスの枠組みの一環です。そもそも、コーポレートガバナンスは、すでに述べたように、経営陣のリスクテイク・経営判断を加速させることを志向するものです。そのため、むしろ細目的なルールを定めて行動を縛ることを目的とするものではありません。

そこで、コーポレートガバナンスの定める規範構造は、いわゆる「ルールベース・アプローチ」ではなく、「プリンシプルベース・アプローチ」を採用しています。プリンシプルベース・アプローチは、個々の経営判断の場面で、細目的なルールに従うことを求めるのではなく、具体的な状況における最適な判断を志向して、合目的的な判断の正当性を担保しようとするものです。

また、規範を守ることを目的とするものではないことから、準則に反すること自体に対する制裁を定めるものではありません。それが、コンプライ・オア・エクスプレインの発想の基礎です。

他方、内部統制は、上記のようなコーポレートガバナンスの実効性を確保するため、組織構築とその運用の観点から、コーポレートガバナンスを確保する仕組みを要求するものです。

したがって、コーポレートガバナンスと内部統制は、両者の位置づけが異なるのです。言い換えれば、コーポレートガバナンスのための内部統制はあっても、内部統制のためのコーポレートガバナンスはありえないということです。

大企業・上場企業におけるコーポレート・ガバナンスの必要性section

大企業や上場企業において、コーポレートガバナンスは、具体的にどのような場面で必要になるのでしょうか。

投資家の信頼獲得と維持

企業が中長期的に成長曲線を描く上で、資本政策は、死活的に重要です。それは、資金調達という側面だけでなく、他社とのシナジーを創出していくM&A(特に買収)の場面にも及びます。

個人投資家、投資ファンド、証券会社のように投資による収益獲得を志向するステークホルダーとの関係では、企業側としていかに経営判断におけるリスクテイクの判断過程を担保し、投資家に伝えていくかが重要です。

経営陣は、株主から経営を付託されているという理論的なものだけでなく、リスクテイクをすることが必然的に伴う以上、事業活動に投資する立場としては、事業における業務執行の主体がどのように判断の合理性を説明するのかが判断材料になるからです。

そして、経営判断の合理性を説明するのも、そもそも判断過程の仕組みの合理性が確保されていれば、単に個々の取引ごとに場当たり的に説明するよりも、理解しやすいからです。よりかみ砕いて説明すれば、経営判断自体の合理性を説明するには、取締役会の中で供された情報や資料のすべてを網羅的に開示するわけではないことから、投資家が個別の経営判断を事後的に評価することに限界があるからです。

むしろ投資家としては、経営判断の過程に合理性があるかどうかを判断することで、リスクテイクの妥当性を評価することにつながります。

また、経営陣がガバナンスの仕組みをどのように構築しているのか、そして実際にガバナンスの仕組みを運用して収益を伸ばしていることを示していくことで、他社が業務提携をしていく上で、安心材料にもなります。特に、ベンチャー企業がIPOを完了した後に、大手企業との提携をしていく場合には、企業のガバナンスの状態が確保されていなければ共倒れになるリスクがあるからです。これは、逆も然りともいえます。

社会課題の解決を志向する意識の向上

ガバナンスの仕組みを確保することは、ESGやSDGsを軸とする社会の構造に適合する上でも必要になります。

ESGやSDGsが社会で受容される共通の価値観とされている現在、株主が投資判断をする上でも、社会課題の解決を志向する事業を行っているかが重要な指標となります。なぜなら、現代において、大きく注目され売れていく商品やサービスは、何らかの社会課題に対するソリューションを提供することに価値が見出されるからです。

そうすると、ステークホルダーの利益を志向することは、短期的にみて商品が売れるかどうかという視点だけでなく、そうした社会課題の解決への志向と密接に関わるのです。したがって、ガバナンスの仕組みを確保することは、社会課題の解決を志向する商品やサービスを構築して事業を遂行する上で必要になります

イノベーション創出のためのリスクテイクの促進

そして、先端ビジネスに挑戦し、高度なリスクテイクを促進していく上でも必要です。

例えば、宇宙ビジネスの分野では、特に法務の視点からして、ルールの整備が途上にあります。そのため、既存の法律の枠組みを単純にあてはめるだけで解が出てくるわけではありません。そうすると、宇宙空間でビジネスを展開していく上では、網羅的かつ明確にリスクを抽出した上での経営判断が困難です。

他方で、未開拓の分野である分、ブルーオーシャンで市場を独占しやすい点において、今までにないサービスの提供がもたらる利益は果てしないものになります。

そうした先端ビジネスの開拓は、意思決定までのスピードが重要になります。そのため、明確な解が出た上での判断を求めていては、先端ビジネスへの進出が阻害されます。そこで必要になるのが、判断過程の合理性を担保する仕組みを確保するコーポレート・ガバナンスの考え方なのです。

このように、イノベーション創出のためにも、コーポレート・ガバナンスが必要になります。

中小企業におけるコーポレート・ガバナンスの必要性section

では、コーポレート・ガバナンスは、中小企業では不要なのでしょうか。その射程範囲は、どのように考えればよいのでしょうか。

コーポレートガバナンスコードの適用範囲

コーポレートガバナンス・コードの適用範囲は、上場企業を適用対象とするものです(コーポレートガバナンス・コード原案4頁)。そのため、上場企業でない企業、特に非公開会社の場合には、コーポレートガバナンス・コードにいう諸原則が適用されないことになります。

しかし、中小企業においてコーポレートガバナンスの考え方が無関係であるということではありません。実際に、金融庁でのコーポレートガバナンス・コードの策定過程でも、かかるニュアンスが示唆されています。

 「本則市場(市場第一部及び市場第二部)以外の市場に上場する会社に対する本コード(原案)の適用に当たっては、例えば体制整備や開示などに係る項目の適用について、こうした会社の規模・特性等を踏まえた一定の考慮が必要となる可能性があり得る。この点に関しては、今後、東京証券取引所において、本コード(原案)のどの部分に、どのような形での考慮が必要かについて整理がされることを期待する。」

中小企業においてコーポレートガバナンスを実装する意義

中小企業でも、コーポレートガバナンスを実装していくことは、成長を持続させる上での要素になります。同族会社などの小規模で閉鎖的な企業では、体質的に、内部浄化の仕組みを作ることが困難ですし、そもそもガバナンスに対する経営者の志向が希薄であると考えられます。

しかし、企業が行う事業活動は、社会に還元されます。そのため、ガバナンスの不備がもたらす悪影響を受けるのは、経営陣ではない企業内外のステークホルダーです。そのため、ステークホルダーの意向を反映するコーポレート・ガバナンスの仕組みは、社会全体の価値提供にもなりえます。

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コーポレートガバナンスを疎かにするリスクと不祥事事例3つsection

コーポレート・ガバナンスを確保しないことによるリスクは、実際の企業活動においてどのような形で発現するのでしょうか。ここでは、実際に、ニュースでも取り上げられた大手企業の不祥事事例を検討してみていきます。

東芝の不正会計問題

東芝の不正会計問題は、記憶に新しいですよね。今年も、株主総会での紛糾が取りざたされており、混迷を深めています。第三者委員会の報告書によれば、いわゆるリーマンショックによる2008年の世界的な金融恐慌を契機として、不適切な会計慣行を繰り返していたとされています。

その原因として、「東芝においては、上司の意向に逆らうことができないという企業風土が存在していた」との指摘があります。参考:日産、東芝、オリンパス……日本を揺るがせた5つの企業スキャンダル|BBC NEWS JAPAN

上記のような企業風土に内在するのは、上司と部下の関係そのものというより、むしろその仕組みにメスを入れることができない内部統制の脆弱性であるといえます。

日産の排ガス不正

ゴーン氏の話題もありますが、日産の排ガス不正問題もありました。これは、企業内部における不祥事が社会全体の不利益、ステークホルダーへの悪影響につながることの最たる例です。

環境基準の遵守は、法的な意味として、規律を遵守すること自体を目的とするわけではありません。日産の排ガス不正問題は、企業側視点で利潤を追求することが、社会の価値判断の基準が社会課題解決への志向に転換していることを認識し、それを実現するガバナンスの仕組みが整っていなかったことを示したといえます。

レオパレス21の施行不備問題

2,3年前のものとしては、不動産賃貸・仲介の大手のレオパレス21での施行不備問題も挙げられます。すでに述べたような、日産の排ガス不正問題でのステークホルダーへの悪影響という点に加えて、説明責任の点でも問題が見られた事例です。

不動産業でも、カスタマーサクセスが重視されるところ、サービスの品質維持を志向して、常に契約後の施工管理を意識すること、その仕組み構築が不十分であったことが問題の1つとして挙げられます。

コーポレート・ガバナンス強化の為に取り組むべきこと3つsection

最後に、コーポレート・ガバナンス強化の上で、企業が取り組むべきポイントを3つ解説します。

外部人材の登用

今般の改正会社法にもありますように、経営陣の中に社外人材を盛り込むことです。

コーポレート・ガバナンスの実効性を確保する上では、社外人材が重要です。コーポレートガバナンス・コードにおいても、独立社外取締役の位置づけを明確にし、上場企業における経営人材として、経営のモニタリングと専門的知見に基づく判断材料の提供を期待しているからです。

また、コーポレートガバナンス・コードの改訂では、社外人材が経営陣の中の利害関係に固執することなく、忌憚ない意見や助言を示していくことを原則としています。社外取締役の積極的な活用は、コーポレート・ガバナンス強化の上で必要な事項の1つであるといえるでしょう。

不祥事の際のケーススタディ

業務執行の過程で生ずる様々な障害(不祥事)に対して、予め対応方法を検討しておくことにも取り組むべきです。

すでにご紹介したような大企業の不祥事は、世間的には、いずれも「まさか、そんな大企業が?」というようなものばかりです。もちろん、想定できないようなものであるからこそ、不祥事の対応を「マニュアル化」することは困難ですし、すべきでもありません。

しかし、事業の内容、性質に照らして、組織系統のいかなる部分で不祥事の火種が生ずるのか、類似事例をもとに議論検討していくことで、「想定外」の範囲を狭めることができます。

そして、コーポレートガバナンス・コードにあるようなプリンシプルベース・アプローチに則り、可能な限り多くのコンセンサスの裏付けがある根拠に基づく判断と、その確実な実行を担保する指揮系統を整備しておくことで、致命的な判断ミスのリスクを防止できます。

不祥事が発生した際を想定した事前の仕組み構築

さらに、不祥事が発生した際の対応の具体的な仕組みづくりも重要です。これは、個別の事案を想定した方策ではなく、原理原則を実行していくためのものです。ポイントとなるのは、いかなる立場のステークホルダーへの影響が出るのか、どのように説明責任を果たしていくのか、善後策を策定していくために必要なプロセスの検討の3点です。

ステークホルダーへの影響の検討は、事業の内容、性質、取引先や顧客の属性に照らして、いかなるトラブルの発生が見込まれるのか、法的なリスクを多角的に検討することになります。その際は、やはり法務人材の知見を活用することが必須となるでしょう。

説明責任を果たしていくことには、迅速性と正確性の確保が要求されます。その上で、善後策を提示していくには、不祥事の原因の正確な把握と、ガバナンスの原則に基づいた判断過程を経ることが重要です。

まとめ

ガバナンスの仕組み確保は、企業の継続的な成長の為に必要不可欠です。その実効性を確保するために、社外人材の効果的な活用が鍵になります。

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上場支援、CGコードの体制構築などに長けた、専門性の高い「弁護士」を社外取締役候補としてご紹介。事業成長とガバナンス確保両立に、弁護士を起用したい企業様を支援している。

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