コーポレートガバナンスという言葉自体は、2,3年で現れたものではありません。しかし、大企業における不祥事など,事あるごとに論じられてきました。そして、会社法改正、東証のコーポレートガバナンス・コードの改定に伴い注目されるポイントの1つが、コーポレートガバナンスです。
コーポレートガバナンスは、今、なぜ必要なのか。その目的や背景、コーポレートガバナンス・コードとの関係、メリット・デメリット、不祥事事例などを徹底解説していきます。
コーポレート・ガバナンスとは?section
コーポレート・ガバナンスとは、コーポレートガバナンス・コードによれば、次のように定義されています。
「上場会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な」意思決定を行うための仕組みを意味して」いる。
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日改訂、株式会社東京証券取引所)
そして、企業を統治していくことには、しばしば様々な不祥事を起こさないようにするという守りの側面が意識されがちです。しかし、本来的には「攻めのガバナンス」の実現を目指すものです。この点について、コーポレートガバナンス・コードの原案では、次のように指摘されています。
「本コード(原案)では、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることを主眼に置いている。」
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日改訂、株式会社東京証券取引所)
つまり、コーポレートガバナンスは、経営陣は株主から付託を受けた立場として、事業活動を遂行する上で様々なステークホルダーに対する責務を負ってところ、その責務に関し適切な説明責任を果たすこと、そして会社としての意思決定の透明性と公正性を担保し、事業の遂行を通じた社会への価値提供とその収益化を図る戦略を組むということです。
川村将輝弁護士実務上、経営判断の適法性は結果の当否ではなく判断過程の合理性で評価されます(経営判断原則)。
取締役会議事録に検討過程・根拠資料を具体的に残しておくことが、株主代表訴訟等における最大の防御材料になります。
コーポレート・ガバナンスの必要性とは
目的と背景・企業別に考察section
コーポレートガバナンスの目的や背景は、どのようなものでしょうか。
また、似て非なる概念として内部統制というものがありますが、どのように違うのでしょうか。
目的
コーポレート・ガバナンスの目的は、会社の事業活動を制約することではありません。経営における意思決定過程の合理性を確保するためのものであって、その仕組みを整備することで経営陣の結果責任を回避し、果断な経営判断を志向することにあります。
事業を遂行することは、必然的にリスクを取ることが伴うからです。むしろ、そのリスクを取るにあたっての判断の合理性が担保されないまま、経営陣の恣意的な判断がされるおそれのある状態が、忌避されるべきことです。


背景
コーポレート・ガバナンス強化に関する取り組みが高まったのは、平成25年6月の閣議決定における「日本再興戦略」が契機とされています。そこでは、「『機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップ・コード)について検討し、取りまとめる」ことを内容とする施策が盛り込まれました。
そこで、平成25年8月に金融庁に「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」での検討が開始されました。さらに、法制審議会では、平成24年9月から、「会社法制の見直しに関する要綱」が採択されました。その後、監査等委員会設置会社や、社外取締役を選任しない場合の説明義務に関する規定が新設された平成26年改正の会社法が成立するに至りました。
これは、現在のコーポレートガバナンス・コードの基盤となる、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」の1つの表れといえます。そして、上場企業を中心に、投資家にとっての判断基準の1つとしてガバナンス体制の整備という点がクローズアップされるようになり、平成26年6月時点での閣議決定で、コーポレートガバナンス・コード策定への施策が盛り込まれました。
もっとも、コーポレートガバナンス・コードは制定後も社会情勢の変化に応じて改訂が重ねられています。2018年の改訂では、経営陣の指名・報酬決定に関する手続の透明性向上や政策保有株式の縮減等に関する開示強化が図られました。
さらに2021年6月の改訂では、プライム市場上場会社に独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(必要な場合は過半数)選任することを求めるとともに、取締役会の多様性(ジェンダー・国際性・職歴等)やスキル・マトリックスの開示、人的資本・知的財産への投資等に関する情報開示の充実が新たに盛り込まれました。
加えて、2022年4月には東京証券取引所の市場区分が見直され、従来の市場第一部・市場第二部・マザーズ・JASDAQという枠組みから、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3市場制に再編されています。
この市場再編に伴い、コーポレートガバナンス・コードの適用範囲及び適用原則の内容も市場区分ごとに異なるものとなっており、自社がどの市場区分に該当するかを踏まえた対応が必要です。
内部統制との違い
コーポレートガバナンスは、内部統制の上位にある概念として位置づけられます。すなわち、内部統制は、コーポレートガバナンスの枠組みの一環です。そもそも、コーポレートガバナンスは、すでに述べたように、経営陣のリスクテイク・経営判断を加速させることを志向するものです。そのため、むしろ細目的なルールを定めて行動を縛ることを目的とするものではありません。
そこで、コーポレートガバナンスの定める規範構造は、いわゆる「ルールベース・アプローチ」ではなく、「プリンシプルベース・アプローチ」を採用しています。プリンシプルベース・アプローチは、個々の経営判断の場面で、細目的なルールに従うことを求めるのではなく、具体的な状況における最適な判断を志向して、合目的的な判断の正当性を担保しようとするものです。
また、規範を守ることを目的とするものではないことから、準則に反すること自体に対する制裁を定めるものではありません。それが、コンプライ・オア・エクスプレインの発想の基礎です。
他方、内部統制は、上記のようなコーポレートガバナンスの実効性を確保するため、組織構築とその運用の観点から、コーポレートガバナンスを確保する仕組みを要求するものです。
したがって、コーポレートガバナンスと内部統制は、両者の位置づけが異なるのです。言い換えれば、コーポレートガバナンスのための内部統制はあっても、内部統制のためのコーポレートガバナンスはありえないということです。



内部統制はガバナンスを実現する手段の一つに過ぎません。「規程は整備したが運用が伴っていない」状態は、監査で厳しく指摘されがちです。
規程と実際の業務フローが一致しているか、定期的な棚卸しをおすすめします。
大企業・上場企業におけるコーポレート・ガバナンスの必要性section
大企業や上場企業において、コーポレートガバナンスは、具体的にどのような場面で必要になるのでしょうか。
投資家の信頼獲得と維持
企業が中長期的に成長曲線を描く上で、資本政策は、死活的に重要です。それは、資金調達という側面だけでなく、他社とのシナジーを創出していくM&A(特に買収)の場面にも及びます。
個人投資家、投資ファンド、証券会社のように投資による収益獲得を志向するステークホルダーとの関係では、企業側としていかに経営判断におけるリスクテイクの判断過程を担保し、投資家に伝えていくかが重要です。
経営陣は、株主から経営を付託されているという理論的なものだけでなく、リスクテイクをすることが必然的に伴う以上、事業活動に投資する立場としては、事業における業務執行の主体がどのように判断の合理性を説明するのかが判断材料になるからです。
そして、経営判断の合理性を説明するのも、そもそも判断過程の仕組みの合理性が確保されていれば、単に個々の取引ごとに場当たり的に説明するよりも、理解しやすいからです。よりかみ砕いて説明すれば、経営判断自体の合理性を説明するには、取締役会の中で供された情報や資料のすべてを網羅的に開示するわけではないことから、投資家が個別の経営判断を事後的に評価することに限界があるからです。
むしろ投資家としては、経営判断の過程に合理性があるかどうかを判断することで、リスクテイクの妥当性を評価することにつながります。
また、経営陣がガバナンスの仕組みをどのように構築しているのか、そして実際にガバナンスの仕組みを運用して収益を伸ばしていることを示していくことで、他社が業務提携をしていく上で、安心材料にもなります。特に、ベンチャー企業がIPOを完了した後に、大手企業との提携をしていく場合には、企業のガバナンスの状態が確保されていなければ共倒れになるリスクがあるからです。これは、逆も然りともいえます。



投資家対応では、個別の経営判断の当否よりも判断に至るプロセスの整備状況が問われます。
取締役会付議基準や利益相反取引のチェック体制を書面化しておくことで、有事の際の説明責任を果たしやすくなります。
社会課題の解決を志向する意識の向上
ガバナンスの仕組みを確保することは、ESGやSDGsを軸とする社会の構造に適合する上でも必要になります。
ESGやSDGsが社会で受容される共通の価値観とされている現在、株主が投資判断をする上でも、社会課題の解決を志向する事業を行っているかが重要な指標となります。なぜなら、現代において、大きく注目され売れていく商品やサービスは、何らかの社会課題に対するソリューションを提供することに価値が見出されるからです。
そうすると、ステークホルダーの利益を志向することは、短期的にみて商品が売れるかどうかという視点だけでなく、そうした社会課題の解決への志向と密接に関わるのです。したがって、ガバナンスの仕組みを確保することは、社会課題の解決を志向する商品やサービスを構築して事業を遂行する上で必要になります。
イノベーション創出のためのリスクテイクの促進
そして、先端ビジネスに挑戦し、高度なリスクテイクを促進していく上でも必要です。
例えば、宇宙ビジネスの分野では、特に法務の視点からして、ルールの整備が途上にあります。そのため、既存の法律の枠組みを単純にあてはめるだけで解が出てくるわけではありません。そうすると、宇宙空間でビジネスを展開していく上では、網羅的かつ明確にリスクを抽出した上での経営判断が困難です。
他方で、未開拓の分野である分、ブルーオーシャンで市場を独占しやすい点において、今までにないサービスの提供がもたらる利益は果てしないものになります。
そうした先端ビジネスの開拓は、意思決定までのスピードが重要になります。そのため、明確な解が出た上での判断を求めていては、先端ビジネスへの進出が阻害されます。そこで必要になるのが、判断過程の合理性を担保する仕組みを確保するコーポレート・ガバナンスの考え方なのです。
このように、イノベーション創出のためにも、コーポレート・ガバナンスが必要になります。
中小企業におけるコーポレート・ガバナンスの必要性section
では、コーポレート・ガバナンスは、中小企業では不要なのでしょうか。その射程範囲は、どのように考えればよいのでしょうか。
コーポレートガバナンスコードの適用範囲
コーポレートガバナンス・コードの適用範囲は、上場企業を適用対象とするものです。
詳細には、2022年4月の東京証券取引所における市場区分の見直し後、プライム市場及びスタンダード市場の上場会社には全原則(基本原則・原則・補充原則)が適用され、グロース市場の上場会社には基本原則のみが適用されるという整理がされています。
上場企業でない企業、特に非公開会社の場合にはコーポレートガバナンス・コードにいう諸原則が適用されませんません。
したがって、中小規模であってもプライム市場又はスタンダード市場に上場している限り、コーポレートガバナンス・コードの全原則の対象となる点に留意が必要です。
参照元:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日改訂、株式会社東京証券取引所)
非上場の中小企業においてコーポレートガバナンスを実装する意義
非上場の中小企業においてコーポレートガバナンスを実装していくことは、成長を持続させる要素になります。
同族会社などの小規模で閉鎖的な企業では、体質的に、内部浄化の仕組みを作ることが困難ですし、そもそもガバナンスに対する経営者の志向が希薄であると考えられます。
しかし、企業が行う事業活動は、社会に還元されます。そのため、ガバナンスの不備がもたらす悪影響を受けるのは、経営陣ではない企業内外のステークホルダーです。
そのため、ステークホルダーの意向を反映するコーポレート・ガバナンスの仕組みは、社会全体の価値提供にもなりえます。



非上場の中小企業でもコードの直接適用はなくとも、取引先や金融機関からガバナンス体制を問われる場面は増えています。
取締役会を開催した体裁だけでなく、議事録に実質的な議論の跡を残すことが第一歩です。


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コーポレートガバナンスを疎かにするリスクと不祥事事例3つsection
コーポレート・ガバナンスを確保しないことによるリスクは、実際の企業活動においてどのような形で発現するのでしょうか。ここでは、実際に、ニュースでも取り上げられた大手企業の不祥事事例を検討してみていきます。



不祥事の多くは、現場が異変を察知していながら経営陣に届かなかったことに起因します。
内部通報窓口の実効性(匿名性・第三者性・報復禁止の周知徹底)をいま一度点検することを強くおすすめします。
東芝の不正会計問題
東芝の不正会計問題は、記憶に新しいですよね。近年も株主総会での紛糾が取りざたされており、混迷を深めています。
第三者委員会の報告書によれば、いわゆるリーマンショックによる2008年の世界的な金融恐慌を契機として、不適切な会計慣行を繰り返していたとされています。
その原因として、「東芝においては、上司の意向に逆らうことができないという企業風土が存在していた」との指摘があります。
上記のような企業風土に内在するのは、上司と部下の関係そのものというより、むしろその仕組みにメスを入れることができない内部統制の脆弱性であるといえます。
なお、東芝は、この会計不正が発覚した後も、原子力事業に伴う巨額損失や経営体制の混乱が続き、2017年3月期には債務超過に陥ったことから、いったん東証1部から2部へ降格しました。さらに、その後も複数のアクティビスト株主との対立や会社分割構想の頓挫等を経て、2023年に投資ファンド陣営による公開買付け(TOB)が成立して株式が非公開化され、同年12月には上場廃止となりました。
ガバナンス不全が長期間是正されないまま推移した結果、最終的に上場企業としての地位そのものを失うに至った点は、コーポレートガバナンスの実効性の重要性を象徴する事例といえます。
参考:日産、東芝、オリンパス……日本を揺るがせた5つの企業スキャンダル|BBC NEWS JAPAN
日産の排ガス不正
ゴーン氏の話題もありますが、日産の排ガス不正問題もありました。これは、企業内部における不祥事が社会全体の不利益、ステークホルダーへの悪影響につながることの最たる例です。
環境基準の遵守は、法的な意味として、規律を遵守すること自体を目的とするわけではありません。日産の排ガス不正問題は、企業側視点で利潤を追求することが、社会の価値判断の基準が社会課題解決への志向に転換していることを認識し、それを実現するガバナンスの仕組みが整っていなかったことを示したといえます。
レオパレス21の施行不備問題
2,3年前のものとしては、不動産賃貸・仲介の大手のレオパレス21での施行不備問題も挙げられます。すでに述べたような、日産の排ガス不正問題でのステークホルダーへの悪影響という点に加えて、説明責任の点でも問題が見られた事例です。
カスタマーサクセスが重視されること、サービスの品質維持を志向して常に契約後の施工管理を意識すること、その仕組み構築が不十分であったことが問題の1つとして挙げられます。
ビッグモーター(旧)の保険金不正請求問題
2023年に社会を大きく揺るがしたのが、中古車販売大手であった株式会社ビッグモーター(現・株式会社BALM及び株式会社WECARS)における保険金不正請求問題です。
同社が設置した特別調査委員会の報告書では、板金・修理を担当する全国の工場において、損傷のない箇所をあえて破損させたり、必要のない部品交換を行うなどして保険金を水増し請求していた実態が明らかにされました。
同報告書は、不正の原因として、①現場に対する不合理な収益目標の設定、②コーポレートガバナンスの機能不全とコンプライアンス意識の鈍麻、③経営陣に盲従し忖度する歪んだ企業風土、④現場の声を拾い上げる仕組みの欠如、⑤人材育成の不足を指摘しています。
金融庁は、同社に対して保険代理店としての登録を取り消すという、保険業法上最も重い処分を下しました。
この事例は、内部通報が機能しなかったことや、経営陣による恣意的な人事(頻繁な降格処分)が企業風土を歪めたことなど、まさに本記事で述べてきたコーポレートガバナンスの欠如が具体的な損害と行政処分に直結した典型例です。
ダイハツ工業の型式指定不正問題
2023年末に発覚したダイハツ工業における型式指定不正問題も、近時のガバナンス不全を象徴する事例です。
第三者委員会の調査により、型式指定申請に必要な衝突試験等において、長年にわたり試験手順の不正な省略やデータの改ざんが行われていたことが判明しました。調査報告書は、開発日程を優先するあまり現場に過大な負荷がかかっていたこと、不正を発見しても現場から経営陣に是正の声を上げられない組織風土があったことを主要な原因として指摘しています。
この結果、対象車種の出荷停止や認証手続のやり直しを余儀なくされるなど、企業に極めて大きな経営上の打撃が生じました。
開発現場における無理な目標設定と、それを是正できないガバナンス体制の欠如が長期間にわたり品質不正を招いた点は、適切なリスクテイクを支える仕組みが機能していなかったことを示しています。
小林製薬の紅麹サプリメント問題
2024年には、小林製薬が製造・販売する紅麹を含む健康食品を摂取した消費者に腎疾患等の健康被害が発生し、複数の死亡事例も報告されるという重大な事案が発生しました。
本件では、同社が最初の健康被害情報を把握してから消費者への注意喚起や自主回収の公表に至るまでの対応の遅れ、原因物質の特定・情報開示のあり方が厳しく問われ、最終的に当時の会長及び社長が引責辞任する事態となりました。
健康被害という重大な結果を招くリスクがある事業を営む企業にとっては、危機発生時に迅速かつ正確に情報を開示し説明責任を果たす体制、すなわち後段で述べる「不祥事が発生した際を想定した事前の仕組み構築」がいかに重要であるかを、あらためて示す事例です。
コーポレート・ガバナンス強化の為に取り組むべきこと3つsection
最後に、コーポレート・ガバナンス強化の上で、企業が取り組むべきポイントを3つ解説します。
外部人材の登用
2019年に成立した改正会社法により、監査役会設置会社である上場会社等については社外取締役の設置が義務付けられました(2021年3月1日施行)。この法改正を踏まえ、経営陣の中に社外人材を積極的に盛り込むことが求められています。
コーポレート・ガバナンスの実効性を確保する上では、社外人材が重要です。コーポレートガバナンス・コードにおいても、独立社外取締役の位置づけを明確にし、上場企業における経営人材として、経営のモニタリングと専門的知見に基づく判断材料の提供を期待しているからです。
また、コーポレートガバナンス・コードの改訂では、社外人材が経営陣の中の利害関係に固執することなく、忌憚ない意見や助言を示していくことを原則としています。社外取締役の積極的な活用は、コーポレート・ガバナンス強化の上で必要な事項の1つであるといえるでしょう。
さらに、2021年6月改訂のコーポレートガバナンス・コードでは、プライム市場上場会社は独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきものとされ、業種・規模・事業特性等によっては過半数の選任が必要と考えられる場合もあるとされています。
また、支配株主を有する上場会社については、独立社外取締役を過半数選任するか、支配株主と少数株主の利益相反を審議する特別委員会を設置すべきとされており、グループ経営を行う企業にとっても対応が求められる項目です。
実務上は、こうした独立社外取締役の比率要件を形式的に満たすことにとどまらず、候補者が真に独立した客観的な立場から発言できる人物であるかを見極めることが重要です。
なお、2026年7月21日改訂のコーポレートガバナンス・コードでは、支配株主を有するプライム市場上場会社について独立社外取締役を過半数選任すべきことが、従来の補充原則(特別委員会の設置との選択制)から原則本文に格上げされ、より強い規範として明確化されました。
あわせて、独立社外取締役の「数」だけでなく「質」に着目した新たな原則(独立社外取締役の質の確保)が新設され、取締役会での率直・活発な議論に貢献できる資質を備えた人物を選任することの重要性が明文化されています。
詳細は後述「最新の改訂について」をご参照ください。



社外取締役は「独立性」の形式要件を満たすだけでなく、実質的に経営陣へ意見できる関係性の構築が重要です。
選任前に、候補者と経営陣との取引・人的関係の有無を具体的に確認しておきましょう。
不祥事の際のケーススタディ
業務執行の過程で生ずる様々な障害(不祥事)に対して、予め対応方法を検討しておくことにも取り組むべきです。
すでにご紹介したような大企業の不祥事は、世間的には、いずれも「まさか、そんな大企業が?」というようなものばかりです。もちろん、想定できないようなものであるからこそ、不祥事の対応を「マニュアル化」することは困難ですし、すべきでもありません。
しかし、事業の内容、性質に照らして、組織系統のいかなる部分で不祥事の火種が生ずるのか、類似事例をもとに議論検討していくことで、「想定外」の範囲を狭めることができます。
そして、コーポレートガバナンス・コードにあるようなプリンシプルベース・アプローチに則り、可能な限り多くのコンセンサスの裏付けがある根拠に基づく判断と、その確実な実行を担保する指揮系統を整備しておくことで、致命的な判断ミスのリスクを防止できます。
不祥事が発生した際を想定した事前の仕組み構築
さらに、不祥事が発生した際の対応の具体的な仕組みづくりも重要です。これは、個別の事案を想定した方策ではなく、原理原則を実行していくためのものです。ポイントとなるのは、いかなる立場のステークホルダーへの影響が出るのか、どのように説明責任を果たしていくのか、善後策を策定していくために必要なプロセスの検討の3点です。
ステークホルダーへの影響の検討は、事業の内容、性質、取引先や顧客の属性に照らして、いかなるトラブルの発生が見込まれるのか、法的なリスクを多角的に検討することになります。その際は、やはり法務人材の知見を活用することが必須となるでしょう。
説明責任を果たしていくことには、迅速性と正確性の確保が要求されます。その上で、善後策を提示していくには、不祥事の原因の正確な把握と、ガバナンスの原則に基づいた判断過程を経ることが重要です。
最新の改定(2026年7月21日版)についてsection
本記事の内容は、株式会社東京証券取引所が2026年7月21日に改訂したコーポレートガバナンス・コード(以下「新コード」といいます)を踏まえて更新しています。
新コードでは、独立社外取締役の質・数と、サステナビリティに関する情報開示を中心に実務対応上重要な見直しが行われており、以下では本記事のテーマと特に関連する変更点を取り上げます。
第一に、独立社外取締役に関するルールが整理されました。
従来、支配株主を有するプライム市場上場会社が独立社外取締役を過半数選任すべきことは、特別委員会の設置との選択制を伴う補充原則の一つとして位置付けられていましたが、新コードでは、次のとおり原則本文において明確化されています。
支配株主を有するプライム市場上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも過半数(支配株主を有するその他の市場の上場会社においては3分の1以上)選任すべきである。
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月21日改訂、株式会社東京証券取引所)
また、独立社外取締役の「数」だけでなく「質」に着目した新たな原則(独立社外取締役の質の確保)が新設され、取締役会における率直・活発で建設的な議論への貢献が期待できる資質を備えた人物を選任することの重要性が明文化されました。これは、本記事で述べた、独立社外取締役の比率要件を形式的に満たすことにとどまらず候補者の資質を見極めることの重要性とも軌を一にするものです。
第二に、サステナビリティに関する取締役会の役割・責務についての解釈指針が拡充されました。
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が策定した基準と整合的で、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)による開示基準に基づく有価証券報告書での開示が、一定のプライム市場上場会社に義務付けられていることが明記されました。人的資本や気候変動対応等に関する情報開示は、任意の取組みという位置づけから、法定開示事項としての性格を強めていると言えます。
あわせて、取締役会が構築・監督すべき内部統制・全社的リスク管理の対象として、サイバーセキュリティリスクや、地政学的要因によるサプライチェーン途絶リスク等が新たに明記されており、内部統制の範囲は、財務報告の信頼性確保にとどまらない広がりを見せています。



コーポレートガバナンス・コードはコンプライ・オア・エクスプレインが原則であり、法的拘束力はありません。
もっとも、開示内容は株主・投資家との対話材料となるため、形式的な開示に終始せず自社の実情に即した説明を心がけるべきです。
まとめ
ガバナンスの仕組み確保は、企業の継続的な成長の為に必要不可欠です。その実効性を確保するために、社外人材の効果的な活用が鍵になります。
また、2023年3月期決算以降、有価証券報告書において人的資本や多様性に関する情報(女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差等)の開示が上場企業に義務付けられており、人的資本経営の実践もコーポレートガバナンスの重要な一要素として位置づけられています。



ガバナンス体制の構築は一度整えて終わりではなく、継続的な見直しが必要です。
年に一度は取締役会の実効性評価を行い、規程と実務の乖離がないかを弁護士等の専門家を交えて点検することをおすすめします。



















