コーポレートガバナンス(企業統治)とは何かを簡単に解説|意味や目的・強化の方法まで

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川村将輝(弁護士)

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コーポレート・ガバナンス(英:Corporate Governance)とは、簡単にいうと会社が、株主をはじめ顧客・ 従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みのことで、企業が社会における多様なステークホルダーと協働し、持続的に成長していくために必要不可欠なものです。

企業に対する社会の監視が強まる中、「コーポレート・ガバナンス」の重要性は年々増しています。

日本では1990年代に企業の不祥事や経営悪化が続発したことにより、米国型の経営者を監視するコーポレート・ガバナンスの考え方が注目された。従来型の取締役を監査役が監視するという仕組みに加え、新たに「委員会設置会社」という米国型の統治形態も導入された。また、金融商品取引法では、有価証券報告書において「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載が義務づけられており、会社の機関の内容、内部統制システムの整備状況、リスク管理体制の整備の状況、役員報酬の内容、監査報酬の内容などの統制環境にかかわる内容の開示が要請されている。

引用元:分かりやすい「会計・監査用語解説集」:コーポレート・ガバナンス(企業統治) | 日本公認会計士協会

他方、コーポレートガバナンスは抽象的とも思われる概念なので、どういうことなのかうまく理解できないという方も多いかと思います。そこで本記事では「コーポレートガバナンス」について、定義・目的・背景・強化のメリットや、コーポレートガバナンス・コードの内容などを中心に幅広く解説します。

目次
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コーポレートガバナンス(企業統治)とはなにかsection

そもそも、コーポレートガバナンスとはどのようなものでしょうか。字面ではよくわかりませんよね。ここでは、その定義などを解説していきます。

コーポレートガバナンスの目的

コーポレートガバナンスの究極的な目的は、「会社の持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」にあるとされています。経営陣が事業売却により利益を得ることを目的に経営を行ったり、投機的な取引に熱を上げたりすることは、コーポレートガバナンスの観点からは不適切です。

そうではなく、会社が周囲の人々や社会にとってのメリットをもたらすべき「社会的存在」であることを意識して、その特性を長きにわたって発揮することがコーポレートガバナンスの本質といえるでしょう。

会社が事業活動を行う上では、様々な立場で多数の人が関わり合いを持ちます。そのため、

事業を円滑に遂行するには、多数の利害関係人に対し、それぞれの立場に応じて必要な情報の開示や手続などを行い、事業を執行していくための仕組みを構築することになります

このような会社内の事業運営の仕組みづくりと言えます。

コーポレートガバナンスと内部統制との違い

内部統制は、より対内的に、業務の有効性、効率性、財務報告に対する信頼、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全が確保される保証を裏付ける仕組みづくりをいいます。

「内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。」

引用元:金融庁|内部統制の基本的枠組み

これに対し、コーポレートガバナンスは、上記の定義で示される通り、「顧客」「地域社会等」といったように、事業活動において会社が対外的に関わる人や社会との関係を含めた、いわば事業活動におけるエコシステムの構築を志向する広い概念です。

コーポレートガバナンス・コードとの関係

コーポレートガバナンスといっても、定義だけでは具体的にどのような仕組みづくりが必要なのかは不明確です。他方で、企業における事業ごとにどのような仕組みづくりが必要なのか、事業に応じた内容を定めることも困難です。

そこで、特に社会的に影響力の高い上場企業において、コーポレートガバナンスにおいて必要な原理・原則を定めたのが、コーポレートガバナンス・コードです。

【基本原則1】
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。
また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。
少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

引用元:コーポレートガバナンス・コード|東証

コーポレートガバナンスが重要視・注目される主な3つの背景section

近年、日本においてもコーポレートガバナンスの重要性が盛んに指摘されています。その背景には、以下のような理由があるものと考えられます。

コーポレートガバナンスは、すでに述べた通り、特に大企業はもちろん上場企業全般において、コーポレートガバナンス・コードの遵守が求められます。投資家の評価を得て、その信頼を継続させるとともに、事業活動が及ぼす社会的な影響力ゆえに、コーポレートガバナンス・コードに照らし、これをもとにコーポレートガバナンスを徹底する必要があります。

もっとも、コーポレートガバナンス・コードは、コンプライ・オア・エクスプレインの原則で成り立っています。コンプライ・オア・エクスプレインは、文字通り「遵守せよ、そうでなければ、説明せよ」との考え方です。

そのため、コーポレートガバナンス・コードで定められる内容を全て遵守することまでが求められるわけではありません。その代わりに、遵守しない事項は、なぜその事項を遵守しないのか、合理的な理由を開示することが必要です。他方、非上場企業は、コーポレートガバナンス・コードの適用が及びません。もっとも、そうであるからといって、コーポレートガバナンスが不要であるというわけではありません。

IPOを目指すベンチャー企業であれば、上場後を見据えて、コーポレートガバナンス・コードに定められる事項を意識する必要があります。上場を目指さない場合でも、コーポレートガバナンスの構築と運用に取り組み、社会に発信することで、社会からの信用を得ることにもつながります。

企業不祥事の増加

1990年代のバブル崩壊以降、不正会計・品質管理の不備・偽装表示・違法な時間外労働など、企業不祥事が発覚する事例が増加しました。また最近ではSNSの発展により、企業の不祥事が社会に向けてリークされるケースも多く、いっそう公明正大な経営が求められています。

このような背景から、企業不祥事を防止するためのソリューションとして、コーポレートガバナンスの重要性が強調されている面があると考えられます。

機関投資家などの影響による株主の発言力の増大

近年では、機関投資家・外国人投資家の持ち株比率が上昇し、株主総会等でも株主が積極的に発言するようになりました。その結果、株主に対する説明に耐えうるように、コーポレートガバナンスを機能させて透明性のある経営を行う要請が高まったといえます。

グローバル化によるステークホルダーの増加

企業経営の規模が海外にも広がれば、必然的にステークホルダーの種類や数も増加します。特にグローバル企業では、多様なステークホルダーの利益を調整するための仕組みとして、コーポレートガバナンスを充実させることが重要です。

コーポレートガバナンス主な5つの目的section

株主の権利と平等性の確保

会社の実質的所有者である株主の声に耳を傾けることは、コーポレートガバナンスの重要な要素です。特に経営陣が、少数株主の意見を適切に吸い上げる姿勢を持つことで、株主の権利と平等性を確保することに繋がります。

多様なステークホルダーとの協働

会社の持続的に成長を続け、中長期的な企業価値を創出するには、顧客・ 従業員・地域社会等の多様なステークホルダーとの協働が不可欠です。したがって、経営陣がステークホルダーとの有機的な連関を意識することが、コーポレートガバナンスを機能させるうえで大切と考えられています。

公正・透明な経営の実現

コーポレートガバナンスを十全に機能させる前提として、経営が公正・透明に行われていることが不可欠となります。経営の公正性・透明性が確保されていれば、会社への信頼の向上や、株主とのコミュニケーションを充実させることにも繋がります。

迅速な経営判断を行うためのリーダーシップ

近年は社会の変化が加速しているため、リーダーシップの重要性はさらに強調されるべきでしょう。個々の取締役の資質も重要ですが、同時に会社の機関や、報酬などのインセンティブを適切に設計することも大切です。このような会社の仕組みを整えることも、コーポレートガバナンスの重要な要素となります。

サステナビリティを志向する経営体制

最近ではサステナビリティを志向する経営体制が求められていますが、コーポレートガバナンスは、それを裏付ける1つの仕組みとしての要素です。

中長期的にみて持続的な経営体制を確保するためには、経営に対するモニタリングが行われ、経営状況や財務会計の適正な処理が開示されていること、コンプライアンス体制などの体制構築が十分に行われている必要があります。

事業の戦略のみならず、その前提となる経営の仕組みにおいて信頼できる体制があってはじめて、株主や社内外のステークホルダー、ひいては社会との友好な関係性の構築を行うことが可能となるからです。

コーポレートガバナンスを強化する重要性とメリットsection

コーポレートガバナンスの強化は、専ら上場会社の課題として捉えられることもあります。しかし上場・非上場にかかわらず、コーポレートガバナンスを強化することは、会社にとって多くのメリットをもたらします。

株主その他のステークホルダーからの信頼向上

コーポレートガバナンスを強化して公正・透明な経営を行うことは、株主からの信頼を得ることに繋がります。株主からの信頼が得られれば、株主総会の運営をはじめとして、会社経営を円滑に行いやすくなります。

また、株主総会で取締役が解任されるリスクも減るため、思い切った経営判断が可能となるでしょう。さらに、コーポレートガバナンスがしっかりした会社は、その他のステークホルダーからも厚い信頼を獲得できます。ステークホルダーの協力も得ながら企業経営を行うことで、さらなる企業規模の拡大・企業価値の増加に繋げることができるでしょう。

経営陣・管理職の不正によるリスクの低減

経営陣などの不正が発覚した場合、損害賠償などで会社財産が流出する可能性があることに加えて、レピュテーションの毀損にも繋がりかねません。コーポレートガバナンスを充実させて公明正大な経営を行うことにより、このような不正リスクを低減させる効果があります。

融資・出資を受けやすくなる

コーポレートガバナンスの効果により、公正・透明な経営が行われていることが分かれば、融資や出資を行う側(銀行・投資家など)にも安心感を与えることになります。つまり、コーポレートガバナンスには、資金調達を円滑化する効果があるといえます。資金調達を円滑に行うことができれば、事業投資が促進され、さらなる企業価値の向上に繋がるでしょう。

非上場企業でもコーポレートガバナンスは必要か?

非上場の企業ではコーポレートガバナンスの原則が適用されないため必須ではありませんが、資金調達や顧客とのリレーションを円滑化するためにも、コーポレートガバナンスに取り組む姿勢を見せることは非常に重要です。

そのため、上場・非上場や企業規模の大小にかかわらず、コーポレートガバナンスの強化に取り組むべきだと言えます。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの関係性section

コーポレートガバナンスとともに、「コンプライアンス」という概念が近年注目されています。コンプライアンスは、実はコーポレートガバナンスと非常に親和性の高い概念ですので、ここで両者の関係性について考えてみたいと思います。

コンプライアンスとは?

コンプライアンスの意義については諸説ありますが、一般的には法令・社内規則・社会倫理などの各種規範を遵守し、公明正大な会社経営を行うことを意味すると考えられます。法令だけでなく、さまざまな社会規範が遵守対象とされていることがポイントで、会社が「社会的存在」であることを反映しているといえるでしょう。

コンプライアンスはコーポレートガバナンスに内在する

コンプライアンスを徹底することにより得られるメリットは、コーポレートガバナンスを強化するメリットとかなり重なる部分があります。その一例を挙げると、以下のとおりです。

コンプライアンスを徹底することで得られるメリット

  1. 株主やステークホルダーからの信頼向上
  2. 経営陣・管理職の不正によるリスクの低減
  3. 融資・出資を受けやすくなる(透明性が向上するため)など

コンプライアンスは、コーポレートガバナンスの中でも、特に「公正・透明な企業経営を行う」という要素と密接に関連しています。そのため、コーポレートガバナンスとコンプライアンスの両者のメリットが共通しているのも納得できるところでしょう。

企業は各種の社会規範を「自社が守るべきルール」として内在化させ、コーポレートガバナンスを実践するに当たっての規範としても位置付けているといえます。

つまりコンプライアンスは、コーポレートガバナンスに内在する重要な一要素なのです。

コーポレートガバナンス・コードとは?基本的な概要についてsection

コーポレートガバナンスに関して、現時点で実務上もっとも重要と考えられる資料が「コーポレートガバナンス・コード」です。(参考:「コーポレートガバナンス・コード」(株式会社東京証券取引所)

コーポレートガバナンスの在り方を考えるに当たっては、このコーポレートガバナンス・コードの内容を押さえておくことが不可欠といえます。まずは、コーポレートガバナンス・コードの基本的な概要を理解しておきましょう。

コーポレートガバナンスに関する東証のガイドライン

「コーポレートガバナンス・コード」は、金融庁と東京証券取引所(東証)が共同で策定した、コーポレートガバナンスに関する企業指針です。現在は、東証の上場企業が遵守すべき企業統治のガイドラインとして位置づけられています。コーポレートガバナンス・コードは、以下の3段階の原則によって構成されています。

  • 基本原則:企業統治の基本的な考え方や理念を示したもの
  • 原則:基本原則を実現するために、会社が留意すべきポイントを示したもの
  • 補充原則:原則を実現するために、会社がとるべき具体的な行動を示したもの

参照:コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~

コーポレートガバナンス・コードの適用対象は東証の上場企業

コーポレートガバナンス・コードの適用を受けるのは、東証の上場企業のみです。東証第一部・第二部に上場している企業は全原則を、マザーズとNASDAQに上場している企業は基本原則を遵守することが求められます。これに対して、東証の上場会社でない企業は、コーポレートガバナンス・コードを遵守することは必ずしも求められません。

しかしコーポレートガバナンス・コードは、企業統治の在り方を考えるうえで有用な参考資料となるため、自社の経営にその考え方を生かすことは有益といえるでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの法的拘束力・事実上の拘束力

コーポレートガバナンス・コードには法的拘束力はないため、不遵守に対する罰則や課徴金などは存在しません。しかし、違反企業は東証による公表措置の対象になります(有価証券上場規程436条の3、508条1項1号)。

コーポレートガバナンス・コード違反の事実が公表されると、企業にとってはレピュテーションに傷がついてしまうため、事実上の拘束力が働いているといえます。

コーポレートガバナンス・コードの各原則から考える企業統治の取り組み例

コーポレートガバナンス・コードの各原則を読み解けば、コーポレートガバナンスの全体像だけでなく、企業が具体的にどのような行動をとるべきかの指針を知ることができます。以下では、コーポレートガバナンス・コードの各原則に沿って、企業統治の取り組み例を見てみましょう。

株主の権利・平等性の確保

<基本原則1>
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

コーポレートガバナンス・コードでは、株主の重要性について以下のように述べられています。

上場会社には、株主を含む多様なステークホルダーが存在しており、こうしたステークホルダーとの適切な協働を欠いては、その持続的な成長を実現することは困難である。その際、資本提供者は重要な要であり、株主はコーポレートガバナンスの規律における主要な起点でもある。

上記の記述においては、会社の実質的所有者である株主を「重要な要」「主要な起点」と表現し、ステークホルダーの中でもっとも重要な存在として位置づけていると考えられます。そのため、株主の権利と平等性を実質的に確保することは、コーポレートガバナンスを実践するに当たって非常に重要な事項となります。

株主以外のステークホルダーとの適切な協働

<基本原則2>
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

上場会社の取締役会・経営陣は、会社が多様なステークホルダーと関与する公的な存在としての側面を持つことについて、意識的になる必要があります。基本原則2に関しては、近年の社会情勢を踏まえて、コーポレートガバナンスは以下の点も指摘しています。

近時のグローバルな社会・環境問題等に対する関心の高まりを踏まえれば、いわゆるESG(環境、社会、統治)問題への積極的・能動的な対応をこれらに含めることも考えられる

この記述は、会社の対応が社会経済全体に利益をもたらし、その結果として会社自身にもさらに利益をもたらすという好循環を目指すべきことが念頭にあるものと考えられます。

適切な情報開示と透明性の確保

<基本原則3>
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

上場会社には、法令に基づく情報開示だけでなく、それ以外の情報開示もタイムリーに行うことが期待されています。その方法として主として想定されているのは、東証の上場規程に基づく「適時開示」です。しかしそれ以外にも、株主その他のステークホルダーとの対話の観点から望ましいと思われる開示については、積極的に行っていくことが求められます。

取締役会等の責務

<基本原則4>
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、

(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと

をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

コーポレートガバナンス・コードは、上場会社がどのような機関設計を採用するかにかかわらず、「重要なことは、創意工夫を施すことによりそれぞれの機関の機能を実質的かつ十分に発揮させることである。」と指摘しています。

取締役会は、真に株主にとっての利益となるのは何かを考えたうえで、経営判断上のリスクテイクを適切に行うことが求められます。そのためには、コーポレートガバナンス・コードに従い、経営陣による意思決定過程の合理性を担保することが重要です。

株主との対話

<基本原則5>
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

上場会社の経営陣・取締役は、株主と接する機会は限られています。そのため経営陣・取締役の側で、株主の声に耳を傾ける姿勢を持ち、体制整備を行うことはきわめて重要です。もちろん「対話」であるからには、株主の側にも建設的な対話を行う姿勢が求められます(日本版スチュワードシップ・コード参照)。

コーポレートガバナンスを強化する5つの方法section

コーポレートガバナンスの構築や運用を、どのように強化すべきでしょうか。ここでは5つの方法をご紹介します。

まずは業務フローの透明化

まずは、社内の業務運営における問題の把握をする必要があります。そのためには、社内の業務フローを透明化し、それぞれのプロセスでどのように業務が動いて処理されているのかを情報共有できるようにします。

現場でどのような事象が発生し、それに対しどのような仕組みで決裁・意思決定がされているのか、現場判断に対するチェックが行われているのかなど、細かく業務のプロセスを分析していくことで、コーポレートガバナンスの強化につながります。

法務人材の確保

法務人材の確保も欠かせません。事業活動を遂行する上で、労務、財務のほか、事業に関わる法令等の遵守、各種取引のクロージングに至るまで業務の全般において、法務の知見が関わります。

取引の種類が多種多様となり、事業の規模を拡大するほど、法的な課題にも直面してきます。リスクテイクを判断する上で、ロジカルかつ戦略的に意思決定を行うには、やはり法務人材の知見がなければ困難です。

社外役員の積極的な登用

社外役員を積極的に登用することも必要です。特に、令和3年3月施行の改正会社法では、社外取締役の設置義務化が定められました。そのため、最低一人は、社外取締役を設置することが求められるのです。

社外役員を登用することは、社内の事業活動の仕組みの構築とその運用を客観的に評価し、かつ継続的にそのフィードバックを受けることで、ガバナンスの仕組みと実効性を担保することにつながります。

社内通報制度の構築

従業員との関係では、社内通報制度も重要です。公益通報者保護法も制定されましたが、社内の事業活動における問題点を経営陣に集約するには、中間管理職でブロックされがちな情報共有の壁を壊す必要があります。

従業員と役員、特に監査役や社外役員との間で直接情報共有することができる社内通報制度といった仕組みを構築することでガバナンス強化につながります。

情報開示の工夫とメディアリレーションの構築

さらに、株主をはじめとした関係者に対する各種情報開示と、ガバナンス強化の取り組みを対外的にアピールすることも重要です。上場企業であれば、金商法上求められる有価証券報告書等の開示書類のほか、コーポレートガバナンス・コードで定められる報告書類など様々な内容の情報開示が求められます。

投資家をはじめ、社会からの評価をより向上させていくには、社会の動向と自社の事業の位置づけを明確にすることが重要です。開示する際にも、顧客情報にかかるデータ収集をもとに根拠づけをしていくことで、より合理性が増します

そして、ガバナンスに取り組んでいるだけではなく、メディアを通じた広報により、事業に対する社会の評価につながり、顧客拡大と満足度向上につながります。

よりよいサービスと、その根拠となる仕組みづくりをアピールしていくことで、事業の発展につながります。 セミナーの開催、各種メディアとのリレーション構築を通じた発信が考えられます。

コーポレートガバナンスに取り組む企業の例3つsection

コーポレートガバナンスを強化する・高める実際の取り組み方として、3つほど、実際の企業の例をご紹介していきます(参照:コーポレートガバナンスに関する取組事例集|HRガバナンス・リーダーズ株式会社 2021年11月 株式会社東京証券取引所委託調査)。

詳細はこちらの記事もご参照ください

エーザイ株式会社の取組事例

エーザイ社での取組事例は、事業の執行と監督との協働関係の観点から参考になります。

同社は、製薬業界の大手ですが、新薬創出に関する分野は変化が著しく、また特許関係の訴訟リスクも高いことから、合理的なリスクテイクを担保できるような仕組みが必要でした。そこから、2004年には現在の指名委員会等設置会社の機関設計を採用し、外部の監督機能強化を行いました。

事業の執行に関しては執行役の迅速な意思決定を確保しつつ、取締役会全体としては、社外人材による監督権限を高め、戦略とそれに沿ったアプローチ、そしてリスクテイクの合理性を多角的にチェックする体制をとりました。

加えて、事務局から社外取締役への情報提供と説明機会をとること、執行役から取締役への説明を積極的に行わせる取り組みを行いました。

このように、業務執行の部分を行う執行役と、経営戦略の策定や判断にフォーカスする取締役会の機能分担を明確にしていることも相まって、社外役員との連携強化を通じて信頼関係の構築が図られていくことで、ガバナンス機能強化の要因となったとされています。

株式会社リコーの取組事例

リコーの取組事例は、CEOに対する適切な評価の観点から参考になる事例として挙げられます。

同社では、経営の意思決定の属人化を防ぐために、社長の交代後も取締役会の実効性が持続的に確保される仕組みが必要であるとの課題意識に立ち、CEOの評価システムを構築していきました。

全体的な業務執行の評価と、株主・資本市場、非財務の観点からの個別的な評価の二軸として評価体制を整備しました。後者は、定量的評価と定性的評価の2つを織り交ぜ、業務執行の判断の面とそのアウトプットの結果の面で職務継続を判断していく仕組みです。

これにより、財務、株主・資本市場、非財務の観点から、実績に対する経営陣のコミットメントが高まるとともに、業務執行に対するフィードバックを積極的に行う文化が生まれました。また、それによって経営の質が向上していく効果も生まれたとされます。

千代田化工建設株式会社の取組事例

同社は、事業ポートフォリオの見直しによってガバナンス強化に取り組んだ事例として挙げられます。

同社は、現代のESGやSDGsの観点に基づいた経営に対するための仕組みづくりを課題としていたところ、事業ポートフォリオの転換を行う必要があるという点にたどり着きました。

具体的には、脱炭素・カーボン・ニュートラルへの対応ですが、その際には多様なステークホルダーとの関係を意識した事業構築が必要となります。その際に、自社の従前の事業モデルなどに固執することなく、ほかの業界のビジネスモデルなども積極的に取り入れ、経営の見直しを行っていきました。

その過程で、取締役会での議論の質が向上し、事業ポートフォリオ見直しが中長期的な成長戦略に適合し、かつ実現可能性を確保できる形になったとされています。

コーポレートガバナンスとの関連性が高い用語についてsection

コーポレートガバナンスにはいくつか関連する用語がありますが、ここでは、特にCSR、コンプライ・オア・エクスプレイン、そしてリスクガバナンスの3つについて解説していきます。

CSR

CSRは、端的にいえば、企業が社会的存在として果たすべき責任のことをいいます。

企業が行う活動は、多くの人・社会から投資を受け、商品やサービスを提供する事業活動です。その事業活動は、企業が成長・拡大して規模が大きくなるほど、社会に対する影響力も大きくなります。

そのため、企業が持続的に事業を行い、事業を成長・拡大させていく上で、社会に対して与える影響の反作用として、サービスによって価値を受ける人とともに不利益を受ける可能性があるステークホルダーを含めて、適切な利害調整のもとにサービスを提供する必要があります。

このような企業が行う事業の社会的な性質から、企業は、事業の内容、性質、規模などに応じて様々な責任を負うことになります。具体的には、基本的人権、労働環境、自然環境、消費者の保護、様々な法令の遵守、アカウンタビリティなどが項目として挙げられます。

こうしたCSRにおいて重視される項目について、適切な取り組みが維持される仕組みの1つとして、コーポレートガバナンスが位置づけられます。

コンプライ・オア・エクスプレイン

コンプライ・オア・エクスプレインとは、定められる原則の遵守を一律に強制するのではなく、原則の趣旨内容を理解した上で、なお原則の実施が適切でないと判断する場合にその理由の説明を求めることをいいます。

コーポレートガバナンス・コードにおいて採用されている考え方でもあります。

より分析的に説明すると、次の通りです。

コンプライ(Comply)は、コーポレートガバナンス・コードの原則に則り、企業経営において社会的に一定のコンセンサスを得られる行動基準を実践させる点に意義があります。

エクスプレイン(Explain)は、Complyを貫くことが個々の会社の実情、事業段階に沿わない場合に、不都合な形でのComplyを避け、事業活動に最適な形での施策の実施を認めることに意義があります。

原則通りの遵守を求めつつ、企業の実情に合わせた最適解を検討させるとともに、共通ルールを遵守しない場合のあり方として、株主やステークホルダーに対する説明を求めるのがコンプライ・オア・エクスプレインの主旨であるといえます。

コーポレートガバナンスも、すべて企業に対して一辺倒の考え方の遵守を求めるものではなく、コンプライ・オア・エクスプレインの考え方に基づいて柔軟に企業ごとの取り組みを尊重する趣旨が含まれており、コンプライ・オア・エクスプレインは、それを支える考え方であるといえるでしょう。

リスクガバナンス

リスクガバナンスは、コーポレートガバナンスの考え方をリスク面にフォーカスして整理したものです。

考え方の根本としては、リスクに対して単にそれを回避するといったものではなく、誰にとってのどのようなリスクなのか、リスクの内容、性質、大きさなどを分析し、リスクに対してどのように向き合い対処するかの判断を合理化することにあります

例えば、単にリスクマネジメントというと、リスクの特定や様々な観点からの評価をもとに、リスクをヘッジしていく手段や回避するための手段を整理するといったものがあります。しかし、リスクガバナンスは、より広く、受容するリスクと回避するリスクのバランスをどのように図るか、事業戦略上の位置づけや適合性、費用対効果といった経営判断の観点に集約することができるようにすることを目的としています。

このように、リスクガバナンスは、コーポレートガバナンスを実現するための1つの要素として機能します。

コーポレートガバナンスの体制整備は弁護士に相談を

コーポレートガバナンスを適切に機能させるためには、社内における体制整備をどのように行うかが重要なポイントになります。もちろん経営陣のコーポレートガバナンスに関する意識付けも重要ですが、体制整備はコーポレートガバナンスの再現性を高めるものとして、それ以上に重要な側面があるといえるでしょう。

コーポレートガバナンスの体制整備は、取締役会を中心として、全社的にオペレーションの隅々まで取り組むことが大切です。弁護士に相談すれば、コーポレートガバナンスの体制整備に関するさまざまなアドバイスを受けることができます。また、株主やステークホルダーとの対話も、コーポレートガバナンスの非常に重要な要素です。どのように株主やステークホルダーに対峙するかは、会社経営の成否を左右しかねないため、経営陣にとってセンシティブな課題といえます。

弁護士は、株主やステークホルダーへの対応方針についての相談相手としても適任です。これからコーポレートガバナンスを強化し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指そうとする場合には、一度弁護士とのディスカッションを行ってコーポレートガバナンスに関する理解を深めることをお勧めいたします。

まとめ

コーポレートガバナンスは、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を究極的な目的としています。そのためには、株主その他のステークホルダーとの対話や、公正・透明な経営を適切に行うことが求められます。

コーポレートガバナンスの重要性やメリットは、上場会社だけにとどまらず、すべての会社に当てはまり得るものです。コーポレートガバナンス・コードの内容を参考に、自社が実践すべきコーポレートガバナンスの在り方をぜひ模索していただければと思います。

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司法試験受験後、人材系ベンチャー企業でインターンを経験。2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。【愛知県弁護士会所属】

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