上場会社では、2021年3月1日から社外取締役の設置が義務化されました。これから上場を目指す会社は、早い段階から上場に備えた体制整備の一環として、社外取締役を選任しておくことをお勧めいたします。(参考:会社法の一部を改正する法律について)
社外取締役が満たすべき要件や、自社にとって足りない要素などを踏まえて、適任の社外取締役を見つけましょう。この記事では、会社法上の社外取締役の設置義務を中心に解説します。
2021年3月1日から一部の会社で社外取締役の選任が義務化section 01
2021年3月1日に施行された改正会社法に基づき、上場会社において社外取締役の選任が義務化されました。以下では、義務化の対象となる会社の範囲・選任が必要となる時期・選任義務に違反した場合の制裁について解説します。
義務化の対象となった会社の範囲
改正会社法327条の2に基づき、以下のすべての要件を満たす会社は、社外取締役を設置する義務を負うようになりました。
①監査役会設置会社であること
会社法上、監査役会の設置は原則として任意です。ただし、以下の条件を満たす会社は、必ず監査役会を設置しなければならないとされています(会社法328条1項)。
- 大会社であること
- 公開会社であること
- 監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社でないこと
②公開会社であること
発行する株式のすべてにつき、株式譲渡に関して会社の承認を要する旨の定款の定めがない場合、公開会社に該当します(会社法2条5号)。
③大会社であること
最終事業年度に係る貸借対照表上の資本金が5億円以上、または負債総額が200億円以上の会社は、大会社に該当します(会社法6条)。
④金融商品取引法24条1項に基づき、有価証券報告書の提出義務を負っていること
基本的には、金融商品取引所(東証、大証など)に株式を上場している会社が、上記の要件に該当します。
いつから社外取締役を設置する必要がある?
改正会社法の施行後、最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは、社外取締役の設置義務に関する規定(会社法327条の2)を適用しないとする経過措置が設けられています。多くの会社では、定時株主総会が6月に開催されています。その場合、社外取締役選任義務の対象となる会社は、2021年6月の定時株主総会の終結時までに社外取締役を選任しておく必要があります。
社外取締役の設置義務に違反した場合の制裁
社外取締役の選任義務に違反した者に対しては、「100万円以下の過料」の制裁が科されます(会社法976条19号の2)。取締役その他のすべての役員が対象となり、制裁の対象範囲が非常に広いので注意が必要です。
委員会設置会社における社外取締役の設置義務についてsection 02
今回の会社法改正によって、上場会社が新たに社外取締役選任義務の対象となったことは、前述のとおりです。それとは別に、「委員会設置会社」については、従前から社外取締役の選任が必須とされています。
委員会設置会社とは?
委員会設置会社とは、取締役会の中に「委員会」という機関を設置し、経営監督機能と業務執行機能を分離した会社組織の形態をいいます。通常の株式会社では、取締役会が経営監督機能と業務執行機能の両方を担っています。
つまり代表取締役などの業務執行取締役は、自ら業務執行を行うと同時に、他の取締役の職務の監督も行います。これに対して委員会設置会社では、経営監督機能と業務執行機能が分離されています。
委員会設置会社の場合、業務を執行する取締役(執行役)に対して、独立した監督機関が設けられているのです。このように委員会設置会社では、経営監督機能と業務執行機能を分離することによって、コーポレートガバナンスの強化・経営の透明性向上が意図されています。
会社法上、委員会設置会社には、「監査等委員会設置会社」と「指名委員会等設置会社」の2種類があります。
①監査等委員会設置会社
監査等委員会設置会社では、取締役会の中に「監査等委員会」という1つの委員会を設置します。会社の業務執行は取締役が行い、監査等委員会が独立した立場から取締役の業務執行を監査する形で、経営監督機能と業務執行機能の分離が図られています。
②指名委員会等設置会社
指名委員会等設置会社では、取締役会の中に「指名委員会」「監査委員会」「報酬委員会」という3つの委員会を設置します。経営監督機能はこれらの委員会が分担して担当し、業務執行は執行役という別の機関が担当します。
監査等委員会設置会社よりも、経営監督機能と業務執行機能がさらにはっきり分離されている形態といえるでしょう。
委員会設置会社では、社外取締役の選任が必須
監査等委員会設置会社では、監査等委員会を構成する「監査等委員」を取締役の中から選任する必要があります(会社法399条の2第2項)。監査等委員は3人以上で、その過半数は社外取締役でなければなりません(会社法331条6号)。
つまり、監査等委員会設置会社では、最低2人の社外取締役を選任することが必要です。指名委員会等設置会社でも、3つの委員会を構成する委員をそれぞれ3人以上、取締役の中から選任することになります(会社法400条1項、2項)。
各委員会の委員の過半数は、社外取締役でなければなりません(同条3項)。
ただし、複数の委員会の委員を兼任することは可能とされています。したがって、指名委員会等設置会社で選任が必要となる社外取締役の人数も、最低2人となります(2人の社外取締役がすべての委員会を兼任する場合)。
社外取締役が満たすべき要件section 03
一部の会社に社外取締役の選任が義務付けられている理由は、取締役会の運営を健全化する観点から、会社からの独立性が高い人材を経営陣に送り込む必要があるためです。上記の観点から、会社法2条15号により、社外取締役となることができる人の要件が詳細に規定されています。
社外取締役として選任する取締役は、以下の要件をすべて満たしていなければなりません。
当該会社または子会社の業務執行取締役等でないこと(過去の一定期間を含む)
社外取締役には独立性が求められることから、現に会社または子会社の業務執行取締役・執行役・使用人(「業務執行取締役等」)である人は、社外取締役としての要件を満たさないとされています。
また、以下の期間において業務執行取締役等であった場合も、社外取締役として認められません
- 社外取締役への就任前10年間
- 社外取締役への就任前10年間に、会社または子会社の非業務執行取締役・会計参与・監査役であったことがある場合は、その就任前10年間
「親会社等」またはその役員もしくは使用人でないこと
会社の経営を支配していると認められる人は、独立性の観点から社外取締役として不適任です。そのため、会社の「親会社等」またはその役員・使用人については、社外取締役の欠格事由とされています。なお「親会社等」とは、会社の経営を支配している個人または法人をいいます(会社法2条4号の2)。
親会社等に該当するかどうかは、株式保有比率その他の要素を考慮して、会社経営に対して「実質的な支配」が及んでいるかどうかによって判断されます。
兄弟会社の業務執行取締役等でないこと
親会社等が経営を支配している別の会社(いわゆる「兄弟会社」)も、親会社等を介して会社と密接な関連性を持っていると評価できます。そのため、兄弟会社における現役の業務執行取締役等についても、社外取締役として認められません。
会社の経営陣などと近親関係にないこと
会社と資本関係で繋がっていなくても、会社の経営陣と非常に近い親族関係にある場合には、会社からの独立性を確保できないおそれがあります。そのため、以下のいずれかの者の配偶者または二親等内の親族は、社外取締役の欠格事由に該当します
- 取締役
- 執行役
- 支配人その他の重要な使用人
- 親会社等(自然人に限る)
社外取締役はどのように選ぶべきか|着眼すべきポイントsection 04
社外取締役には、経営陣の一人として、会社に対して高い貢献をしてもらわなければなりません。そのためには、自社にフィットする人材であるかどうかをよく見極めて選任することが大切です。以下では、社外取締役を選任する際の大まかな基準について解説します。
現経営陣に不足しているスキルを持った人材を選任する
取締役会は、多様な知識・経験・能力をバランス良く備える必要があります。現経営陣のスキルが偏っている場合や、会社の発展に必要なスキルの一部が欠けていると思われる場合には、それを補う人材を社外取締役として招聘するのがよいでしょう。
社外取締役に対して求めるべきスキルを明らかにするためには、現状の会社・経営陣にとってどのようなスキルが不足しているかを確認する必要があります。取締役のスキル構成を分析する際には、「スキルマトリックス」を作成するのが便利です。
スキルマトリックスを作成してIR資料等で公表を行えば、経営の透明性を高める効果もあります。スキルマトリックスについては、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。
事業内容をよく理解していることも大切
社外取締役も、生え抜きの取締役と対等な立場で、自身の能力を活用して経営に参画する必要があります。客観的な視点を持ちつつも、会社経営にきちんとコミットするためには、会社の事業内容をよく理解していることが大前提です。
そのため可能であれば、同じ業界や分野で経験・実績がある人材を、社外取締役として選任するのが望ましいでしょう。
弁護士は社外取締役の適正が高い
社外取締役を選任する際には、その候補者として弁護士が有力となる場合も多いです。弁護士は、以下の理由により、社外取締役としての高い適正を備えていると考えられます。
①法務、コンプライアンスに関する高い専門性
ビジネス領域に注力してきた経営者にとって、法務・コンプライアンスにおいて信頼できる専門性を備えた弁護士のような人材は、パートナーとしてフィットしやすい傾向にあります。特に近年では、コンプライアンスの重要性が高まりを見せています。そのため、弁護士を社外取締役とすることにより、会社全体のコンプライアンスを強化できるメリットも大きいでしょう。
②幅広い業界との繋がり
弁護士は、依頼案件を通じて、幅広い業界の企業経営者と交流を持っています。多様な経営者とコミュニケーションをとる中で、弁護士は事業内容に関する知見についても、一定以上に持ち合わせていることが多いでしょう。
③独立性、客観性
弁護士はその性質上、高い独立性・客観性を保持しながら職務に当たっています。弁護士の独立性・客観性は、弁護士法や弁護士職務基本規程によって厳しく規律されています。
そのため、社外取締役に求められる「経営陣の価値観の多様化」「取締役間における相互監視の強化」という役割についても、弁護士であれば従前に果たすことができるでしょう。
上記の理由から、弁護士は多くの会社にとって、社外取締役として適任になり得る人材です。これから社外取締役の選任を予定している企業は、ぜひ弁護士を社外取締役として選任することをご検討ください。
まとめ
2021年3月1日に施行された改正会社法の下では、現状社外取締役の選任が義務付けられているのは「上場会社」と「委員会設置会社」です。
社外取締役は、会社からの独立性が確保された人材でなければなりません。そのため会社法上、社外取締役が満たすべき要件が詳細に規定されています。
特に会社と資本関係がある人や、会社経営者などの近親者については、社外取締役の資格を満たさない可能性があるので注意しましょう。社外取締役を選任する際には、自社にとって足りない要素を補い、かつ経営に対する理解と意欲がある人材を見極める必要があります。
この点弁護士は、高い専門性・豊富な経験・独立性・客観性を持ち合わせており、社外取締役として適任になり得る人材です。社外取締役の選任をご予定の企業経営者の方は、ぜひ弁護士の登用をご検討ください。