企業を取り巻く社会環境の変化により、コーポレートガバナンスを強化することの必要性は年々高まっています。しかし、コーポレートガバナンスを強化するために、具体的にどのような取り組みを行えばよいのかイメージが湧かないという企業経営者の方もいらっしゃるかと思います。
コーポレートガバナンスに関する取り組みは、取締役会(=経営陣)のレベルから現場レベルまで、会社組織の隅々まで浸透させることが大切です。この記事では、コーポレートガバナンス強化の必要性や、社内の各機関において求められる取り組み内容などを中心に解説します。
コーポレートガバナンス強化の必要性とは
企業が社会的存在としてその役割を十全に果たすためには、「企業の持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」を実現することが不可欠です。そのためには、コーポレートガバナンスを強化することがさまざまな観点から重要になります。
株主からの信頼を獲得する
コーポレートガバナンスを構成する大切な要素の一つとして、「経営陣と株主の対話」があります。そもそも株主は、会社の実質的な所有者であり、会社経営は株主の信頼の下で行われることが大前提です。
経営陣(あるいは会社全体)が株主の信頼を勝ち取るためには、株主との対話を丁寧に繰り返す姿勢を持つことが重要となります。また、株主に信頼されている企業は、株主総会を円滑に運営できる・取締役が解任されにくいといった特徴があります。そのため、経営陣がフラットな目線で経営判断に注力できるので、適切なリスクテイクを行いやすい点もメリットと言えるでしょう。
ステークホルダーとの協働により企業価値を向上させる
企業は、従業員・顧客・取引先・債権者・地域社会など、さまざまな関係者(ステークホルダー)と関わり合いながら日々のビジネスを行っています。これらのステークホルダーとの協働も、コーポレートガバナンスの要素の一つとされています。
現代の産業は総じて分業制であり、複数の主体が得意分野を持ち寄って協働することにより、大きな価値を生みます。ステークホルダーの協働は、企業の持続的成長を実現するために必要不可欠であり、コーポレートガバナンスを強化してステークホルダーのニーズを適切に吸い上げることが重要です。
不祥事のリスクを低減させる
企業が不祥事を起こしてしまうと、ブランドイメージの毀損や売り上げの減少などが生じ、企業にとって予期せぬ損失を被ることに繋がります。そのため、企業が不祥事のリスクをできる限り回避することは、中長期的な企業価値を向上させる観点からはきわめて重要です。
企業が不祥事リスクを回避するために重要な観点として「コンプライアンス」が知られていますが、コーポレートガバナンスは、コンプライアンスの要素も内包しています。コーポレートガバナンスの考え方では、企業が株主や社会に対して適切な情報開示を行うことにより、企業経営の公正性・透明性を確保することが必要とされているのです。
公正性・透明性の保たれた環境で企業経営を行うことにより、不正行為に対する抑止力が生じ、企業の不祥事リスクが軽減されます。
社会的信用が増し、資金調達が容易になる
コーポレートガバナンスが充実した企業は、中長期的な観点から成長のポテンシャルが高く、不祥事による凋落のリスクも低いとみなされます。このような企業に対しては、銀行や投資家などから見ても、融資や出資を行いやすくなります。つまり、コーポレートガバナンスを強化することは、企業にとって資金調達を容易にすることを意味し、ひいては事業展開の可能性を広げることにも繋がるのです。
近年コーポレートガバナンスの重要性を高めている3つの要因
近年の社会情勢の変化によって、コーポレートガバナンスの重要性がますます高まっていると考えられます。
その理由は、以下のとおりです。
機関投資家や外国人投資家の持ち株比率の上昇
近年の上場企業では、機関投資家や外国人投資家の持ち株比率が上昇し、株主総会における株主の発言機会が増えています。このようないわゆる「モノ言う株主」の割合が増えたことにより、企業の株主に対する説明責任がクローズアップされるようになりました。そのため企業には、コーポレートガバナンスを充実させ、経営の公正性・透明性を高める努力がますます求められています。
グローバル化によるステークホルダーの増加
インターネットの発展などに伴うグローバル化によって、企業の活動範囲が増えたことにより、ステークホルダーの種類や数も必然的に増えています。多種多様なステークホルダーとの間でいかに協働を実現するかは、国際競争力を高める観点からもきわめて重要です。
そのためには、コーポレートガバナンスの仕組みを整備して、ステークホルダーのニーズを適切に吸い上げることが必要になります。
SNSの発展による、会社に対する社会の監視強化
SNS全盛の現代では、企業の不祥事は、内部リークなどによって以前よりも発覚しやすい環境にあるといえます。また一度企業不祥事が発覚すると、SNSなどを通じて社会全体から一斉に批判を受け、企業のブランドイメージが一挙に失墜してしまうことにもなりかねません。
そのため、コーポレートガバナンスの中でも重要な要素の一つであるコンプライアンスを整備することにより、企業の自浄作用を機能させることの重要性が飛躍的に高まっています。
非上場会社でもコーポレートガバナンス強化が重要な理由
コーポレートガバナンスの重要性は、特に上場企業の場合に強調されることが多いです。しかし非上場企業であっても、コーポレートガバナンスを強化することの意義は、主に以下の理由から急速に高まりつつあります。
将来的な上場を見据えるならば必須
将来的に上場を目指す企業の場合、上場前の業務執行体制についても、上場後の段階で遡って社会からの評価対象になり得ます。たとえ過去の体制不備などであっても、上場後の株価には敏感に反映される可能性が高いので、上場前から襟を正してコーポレートガバナンスに取り組むことが重要です。
ステークホルダーとの協働が必要な点は上場会社と異ならない
株主・従業員・顧客・取引先・債権者・地域社会など、多様なステークホルダーとの協働が必要となる点は、企業の規模にかかわらず同様です。コーポレートガバナンスを充実させ、ステークホルダーからの信頼を得ることで、円滑な協働による持続的な成長が実現する可能性が高まります。
社会の監視は非上場会社にも向けられている
非上場会社であっても、社会規範に違反する経営を行っていることが発覚した場合、やはり社会から批判の対象になってしまいます。特にSNS全盛の現代では、企業イメージが売り上げに与える影響は甚大です。コーポレートガバナンス(特にコンプライアンス)の充実により、不祥事のリスクを低減させることは、非上場会社にとっても重要な課題といえるでしょう。
会社の機関別|コーポレートガバナンスを
強化する12のチェックポイント
コーポレートガバナンスは「企業統治」と訳されることからもわかるように、企業全体を統治するために必要な考え方を含んでいます。言い換えれば、企業が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するには、コーポレートガバナンスの考え方を全社的に隅々まで浸透させることが大切です。
以下では、「取締役会」「監査役会」「株主総会」「現場の従業員レベル」の4つの観点から、コーポレートガバナンスを強化するためのチェックポイントを整理します。
取締役会での取り組み5つ
取締役会は、コーポレートガバナンスのいわば「司令塔」として、以下の取り組みを心がけることが大切です。
中長期的な経営計画を策定・公表・アップデートする
コーポレートガバナンスの目的は、企業の持続的な成長・中長期的な企業価値の向上を実現する点にあります。取締役会は、経営の中枢を担う機関として、会社としての中長期的なビジョンを内外に示すという大切な役割を果たす必要があります。
また、中長期的な経営計画を策定・公表した後でも、実践を踏まえてその内容をアップデートすることが求められます。特に株主をはじめとするステークホルダーからのフィードバックがあった場合には、その内容を適切に経営計画に反映していくことで、ステークホルダーからの信頼を得ることにも繋がります。
取締役間での相互監視の実効性を高める
取締役による業務執行の公正性・透明性を確保するためには、取締役会の役割である「取締役の職務の執行の監督」(会社法362条2項2号)を実効的に行う必要があります。取締役同士の相互監視を実効的に機能させるためには、社外取締役や、業務を執行しない取締役を積極的に登用・活用するなどの方法が有効です。
取締役の報酬体系を適切に設計する
取締役の報酬体系は、企業の持続的な成長・中長期的な企業価値の向上に向けた適切なインセンティブとなるように設計される必要があります。具体的には、短期的な業績だけでなく、中長期的に会社にとってプラスとなる取り組みを評価できるような業績連動型報酬を導入することが求められます。
現場とのホットラインを開設する
現場レベルの従業員は、会社にとっては日々のオペレーションを支える重要なステークホルダーです。さらに現場レベルの従業員は、日々のオペレーションで多様なステークホルダーと接しています。より良いコーポレートガバナンスを実現するためには、経営陣が現場レベルの従業員との間で密接にコミュニケーションをとり、多様なステークホルダーのニーズを吸い上げるべきといえるでしょう。
株主との対話を積極的に行う
特に上場会社では、経営陣が株主と接する機会は少ないので、経営陣の側から積極的に株主との対話を求める必要があります。株主との対話を深めることで、株主との信頼関係をベースとした円滑な経営を行うことができるようになります。
監査役会(監査役)での取り組み2つ
監査役会(監査役)は、経営陣の暴走を阻止するブレーキとして、コーポレートガバナンスの安定性を高める役割を担っています。
監査権限を能動的・主体的に行使する
監査役会(監査役)は、経営陣と対等な立場で監査を行い、会社内部での不正行為の芽を摘むことが求められます。
その役割を十全に果たすためには、渡された資料に目を通すだけというような受動的な姿勢では不十分です。もし深掘りすべきポイントがあれば、監査役会(監査役)が自ら能動的に会社に対して追加の資料を要求し、実効性のある監査を行う必要があります。
そのうえで、監査役会(監査役)が独立した立場から、経営陣に対して能動的・主体的に意見を述べることが重要です。
社外取締役と連携する
社外取締役は取締役の中でも会社からの独立性が高く、監督機能を期待されている部分も大きいことから、監査役の職務と親和性があります。監査役会が必要に応じて社外取締役と連携を行うことで、取締役会に関する情報をタイムリーに得ることができ、実効的な監査に繋がるでしょう。
株主総会での取り組み3つ
株主総会は、経営陣が株主の意見を吸い上げることができる貴重な場です。したがって、経営陣が株主総会を運営するに当たっては、「株主ファースト」の姿勢で臨む必要があります。
少数株主の意見を尊重する
株主総会決議には、原則として多数決の論理が採用されているものの、それは少数株主の意見は無視して良いということを意味しません。むしろ、少数株主の建設的な意見の中にこそ、よりよい会社経営を行うためのヒントが詰まっていることが多いといえます。
したがって株主総会では、多数決の論理で押し切る議事進行をするのではなく、少数株主が持っている考え方の背景などをよく理解して積極的に対話を行うことが大切です。
多様な株主に配慮した運営を行う
外国人投資家などの場合、日本語による説明資料を理解することが難しいこともあります。また、海外在住であるなど、株主総会への出席が物理的に難しい株主も存在します。このように幅広い属性の株主がいることを踏まえて、会社としては、できるだけ多くの株主に権利行使の機会を確保すべきといえます。
たとえば英訳資料を準備したり、書面投票・電子投票を認めたりすることが、このような株主の権利行使の機会確保に繋がるでしょう。
わかりやすい言葉・論理で株主に説明する
経営陣が株主総会での説明・回答などを行う際には、株主の疑問に対して率直に答えることが「対話」の促進に繋がります。そのため経営陣は、過度に婉曲的な言い回しを用いるのではなく、わかりやすい言葉・論理による説明を株主に対して行うべきです。
現場レベルでの強化方法2つ|コンプライアンス意識・内部通報制度の整備を徹底
取締役会などの上層部がコーポレートガバナンスに関する意識を高めても、その考え方が現場の従業員レベルまで浸透しなければ、真の意味での企業統治は成立しません。特に、現場の従業員レベルにおいては、コンプライアンスを徹底することが重要なポイントになります。
コンプライアンス意識を浸透させる
会社におけるコンプライアンス違反は、日々のオペレーションの中で生じることが多いです。そのため、コーポレートガバナンスの重要な要素であるコンプライアンスを徹底するには、現場レベルにコンプライアンス意識を徹底させる必要があります。たとえばOJT(On the Job Training、実地研修)やコンプライアンス研修を通じて、従業員一人一人にコンプライアンス意識を徹底させるような取り組みを、全社的に推進すべきでしょう。
内部通報制度を整備する
社内で行われている違法行為を放置すると、企業にとって潜在的なレピュテーションリスク等が増大します。現場レベルで違法行為の芽を摘むためには、「内部通報制度」を充実させることが有効です。特に弁護士などを活用して社外窓口を設置すれば、従業員による通報の心理的なハードルが下がり、結果として現場レベルでのコンプライアンスを実効的に機能させることに繋がります。
内部通報制度に関しては、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。
(参考:「内部通報窓口を弁護士に任せる5つのメリットと弁護士に依頼した際の実務とは」(労働問題弁護士ナビ))
企業統治を考えるうえで参考になる
「コーポレートガバナンス・コード」
東証の上場会社向けの企業統治に関するガイドラインとして、「コーポレートガバナンス・コード」が策定されています。
(参考:「コーポレートガバナンス・コード」(株式会社東京証券取引所))
コーポレートガバナンス・コードは、以下の5つの基本原則と、それぞれの基本原則を補充する原則・補充原則から成り立っています。
コーポレートガバナンス・コード
5つの基本原則クション
- 株主の権利・平等性の確保
- 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 適切な情報開示と透明性の確保
- 取締役会等の責務
- 株主との対話
コーポレートガバナンス・コードは上場会社向けではあるものの、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方や具体的な取り組みなどについて、非上場会社にとっても参考になる部分が多いです。これからコーポレートガバナンスの体制整備を行う企業は、コーポレートガバナンス・コードの内容を一定の参考にするとよいでしょう。
コーポレートガバナンスの強化は弁護士に相談を
今後上場を目指す、または中長期的な企業価値を高めたいなどの理由からコーポレートガバナンスを強化しようとする場合は、弁護士のアドバイスを受けながら対応に着手することが有益です。
企業法務に精通した弁護士であれば、コーポレートガバナンス強化に関する社内の体制整備や、株主やステークホルダーとの対話に際しての留意点などについてアドバイスを提供することができます。また弁護士は、社外取締役・監査役・内部通報制度の社外窓口など、さまざまな立場から企業のコーポレートガバナンスを支える主体としてもコミットすることも可能です。
コーポレートガバナンスを実効的に機能させるためには、弁護士の有する法的知見を会社経営に取り入れるメリットは大きいといえます。これからコーポレートガバナンスの強化を目指す企業経営者・担当者の方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
コーポレートガバナンスの強化に社外役員の選任を
社外役員選任サービス『ExE(エグゼ)』は、上場準備中のスタートアップ、コーポレートガバナンス・コードを見据えた体制構築などに長けた、専門性の高い弁護士をご紹介するサービスです。事業成長とガバナンス確保両立の為に、弁護士を起用したい企業様を支援します。
まとめ
コーポレートガバナンスを強化すると、株主などのステークホルダーや社会からの信頼を獲得することで、企業の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促すことに繋がります。
コーポレートガバナンスを適切に強化するためには、コンプライアンスをはじめとした各機関における取り組みについて、弁護士のアドバイスを受けることが有効です。コーポレートガバナンスを強化するための方策を練っている企業経営者・担当者の方は、一度弁護士のアドバイスを求めてみると、新たな発見が得られるかもしれません。