内部統制システムとは、企業の不祥事を防いで損失を回避し、対外的な信頼性を向上させるための社内体制です。会社法や金融商品取引法において、一部の会社には内部統制システムの整備が義務付けられています。
それ以外の会社も、企業を持続的に成長させ、中長期的に企業価値を向上させるためには、内部統制システムの要素について理解しておくことは有益でしょう。
この記事では、内部統制システムに関する会社法・金融商品取引法の規制内容や、整備のメリット・注意点などについて詳しく解説します。
会社法上の内部統制システム
会社法362条4項6号では、取締役会の専権事項として、内部統制システムの整備につき以下のように定めています。
(取締役会の権限等)
引用元:会社法362条4項6号
第三百六十二条
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
上記のように、会社法上の内部統制システムは、株式会社およびグループ会社における業務の適正を確保するための体制として位置付けられています。
金融商品取引法上の内部統制システム
金融商品取引法24条の4の4第1項では、上場会社等に対する開示規制の一環として、内部統制報告書の提出が義務付けられています。上場会社等においては、投資対象として健全な企業統治を行いつつ、ガバナンスに関して投資家に対する透明性を確保する必要があります。
上記の趣旨から上場会社等は、適切な内部統制システムを構築したうえで、その内容を開示することが義務付けられているのです。金融商品取引法上の内部統制システムは、投資家保護を主眼に置いています。
そのため、会社法上の内部統制システムとは方向性が異なり、財務計算に関する書類を中心とした情報の適正性確保にフォーカスされているのが特徴的です。
内部統制システムを整備する義務を負う会社は?section
会社法・金融商品取引法のそれぞれにおいて、内部統制システムの整備を義務付けられている会社は、以下のとおりです。
会社法|大会社である取締役会設置会社
会社法362条5項では、大会社である取締役会設置会社について、会社法上の内部統制システムの整備を義務付けています。なお大会社に該当するのは、「資本金5億円以上」または「負債200億円以上」のいずれかを満たす株式会社です(会社法2条6号)。
金融商品取引法|有価証券報告書を提出する上場会社
金融商品取引法24条の4の4第1項により、金商法上の内部統制システムの整備を義務付けられているのは、「有価証券報告書の提出義務を負う上場有価証券等の発行会社」です。基本的には「上場会社」であれば、金融商品取引法に基づく内部統制システムを整備したうえで、その内容を内部統制報告書にまとめて開示しなければならないと理解しておきましょう。
会社法上の内部統制システムの構成要素section
会社法上の内部統制システムを整備するに当たって、取締役会で決定しなければならない要素は、会社が採用する組織ごとに定められています。
共通
会社法上の内部統制システムの整備が義務付けられる会社が、共通して決定しなければならない事項は、以下のとおりです。
共通(会社法施行規則100条1項)
- 会社の取締役の職務の執行に係る情報を保存・管理する体制
- 会社の損失の危険を管理する体制
- 会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
- 会社の使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制
- 企業グループにおける業務の適正を確保するための体制(たとえば以下のもの)
- 子会社の取締役、執行役、業務執行社員等の職務の執行に係る事項の報告体制
- 子会社の損失の危険を管理する体制
- 子会社の取締役、執行役、業務執行社員等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
- 子会社の取締役、執行役、業務執行社員等および使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制
監査役設置会社でない株式会社
会社に監査役が設置されていない場合は、取締役の業務執行に対して株主が実効的に監視を行えるように、以下の体制を整備することが求められます。
<監査役設置会社ではない株式会社(会社法施行規則100条2項)>
⑥取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制
監査役設置会社
監査役が設置されている場合は、監査役の監視機能を十全に発揮させるために、以下の事項をカバーした体制を整備しなければなりません。
監査役設置会社(会社法施行規則100条3項)
- 監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における、当該使用人に関する事項
- ❶の使用人の、取締役からの独立性に関する事項
- 監査役による、⑦の使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
- 監査役への報告に関する体制(たとえば以下のもの)
- 取締役、会計参与、使用人が、監査役に報告をするための体制
- 子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役、業務執行社員等および使用人、またはこれらの者から報告を受けた者が、監査役に報告をするための体制
- ❹の報告をした者が、当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
- ❺監査役の職務の執行について生ずる費用または債務の処理に係る方針に関する事項
- ❻監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
金融商品取引法にみる、内部統制システムの全体的な考え方section
会社法に比べて、金融商品取引法上の内部統制に関するルールは、法令・ガイドライン類を含めてかなり詳細なものになっています。上場会社ではない会社には、ここまで厳格な水準の体制整備が求められるものではありません。
しかし、コンプライアンスやコーポレートガバナンスを強化する観点からは、金融商品取引法における内部統制システムの基準が大いに参考となるでしょう。
内部統制システムに関する評価・監査基準について
上場会社等が開示義務を負う内部統制報告書には、原則として会社と利害関係のない公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければならないとされています(金融商品取引法193条の2第2項)。
監査証明においては、「一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準」に準拠して、内部統制報告書の中で必要な事項が表示されているかどうかの意見が述べられます(内部統制府令※6条1項1号ロ)。
※財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令
内部統制の評価・監査基準は、以下の金融庁ホームページで公表されています。
つまり上場企業等は、上記の内部統制の評価・監査基準に従って、内部統制システムを整備しなければなりません。以下では、内部統制の評価・監査基準に示されている、内部統制システムに関する基本的な考え方を紹介します。
内部統制の4つの目的
内部統制とは、以下の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスと定義されています。
業務の有効性および効率性
事業活動の目的の達成のため、業務の有効性および効率性を高めること
財務報告の信頼性
財務諸表および財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること
事業活動に関わる法令等の遵守
事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進すること
資産の保全
資産の取得、使用および処分が正当な手続および承認の下に行われるよう、資産の保全を図ること。実際に内部統制システムを整備する際には、システムの中に上記4つの目的が体現されているかについて、具体的なオペレーションを検証することが必要です。
内部統制の基本的要素
内部統制の基本的要素は、以下の6つとされています。6つの要素はそれぞれ、内部統制の目的を達成するために必要な構成部分であり、内部統制システムの有効性の判断基準となります。
上場企業等が内部統制システムを整備する際には、以下の6つの要素がバランスよく整っているかどうかをチェックすべきでしょう。
統制環境
会社組織の気風を決定し、内部統制の基盤をなす要素です。具体的には、以下の要素が例として挙げられています。
- 誠実性、倫理観
- 経営者の意向、姿勢
- 経営方針、経営戦略
- 取締役会や監査役等の有する権能
- 組織構造、慣行
- 権限、職責
- 人的資源に対する方針、管理
リスクの評価と対応
会社組織の目標達成を阻害する要因を、リスクとして識別・分析・評価し、適切な対応を行うプロセスを整備する必要があります。
統制活動
経営者の命令や指示が適切に実行されることを確保するために、方針および手続きを定める必要があります。特に権限や職責の付与、職務の分掌などが、統制活動の重要な要素となります。
情報と伝達
必要な情報が識別・把握・処理され、組織内外や関係者相互に正しく伝えられる仕組みを確保する必要があります。
モニタリング
内部統制システムが有効に機能していることを、継続的に評価する仕組みを導入する必要があります。日々の業務の中で常にモニタリングを行うとともに、取締役・監査役・社内の監査部門などは、独立した視点から定期的にモニタリングを行うべきです。
ITへの対応
会社組織の目標を達成するための方針・手続きを定め、それを踏まえて、組織の内外のIT要素について適切に対応する必要があります。
内部統制についての関係者の役割と責任
内部統制システムは、企業内のすべての者が有機的に連関することで、その実効性が確保されます。そのためには、それぞれの関係者が適切に役割を果たせるような仕組みを整え、実際の業務を日々検証すべきです。
各関係者が、内部統制システムにおいて果たすべき役割は、大要以下のとおりです。
経営者
会社のすべての活動について最終的な責任を負う立場として、内部統制システムを整備・運用する役割と責任を負います。そのため経営者は、会社のオペレーション全体についての情報を絶えず収集し、内部統制システムの維持・アップデートに努めなければなりません。
取締役会
経営者を監督する立場として、内部統制システムの整備・運用に関する基本方針を決定する役割と責任を負います。経営者への監督を機能させるためには、取締役会において、取締役各自が自由闊達に意見を述べられる環境を整える必要があるでしょう。
監査役等
経営監査の一環として、内部統制システムの整備・運用状況を、独立した立場から監視・検証する役割と責任を負います。監査役等による監督機能を実効化させるため、人選の段階から、経営陣から独立した人材を探しましょう。
内部監査人
内部統制システムの整備・運用状況を検討・評価し、改善を促して実効性を高める役割と責任を負います。社内の監査部門はコストセンターとして認識されがちですが、現場レベルでの自浄作用を高める大切な役割を担っていますので、高い資質を持った人材を採用しましょう。
組織内のその他の者
内部統制システムは、会社組織内のすべての者によって遂行されるプロセスです。したがって上記に当てはまらないその他の企業内部者も、自らの業務に応じて、内部統制システムの整備・運用に関与する職責を負います。
内部統制システムを整備することのメリットsection
大会社や上場会社はもちろんのこと、それ以外の会社においても、内部統制システムを整備することにはさまざまなメリットがあります。
不祥事リスクの低減・損失回避
内部統制システムが整備されれば、会社に関連するリスクが適切に管理されるようになります。さらに、会社内部の指揮命令系統が整備され、情報伝達ミスも少なくなるでしょう。その結果として、オペレーション上の見落としなどによる不祥事のリスクが低減し、会社が巨額の損失を被る事態を回避しやすくなります。
マニュアル化による業務の効率化
内部統制システムを整備する際には、全社にわたる業務を体系化して整理する必要があります。その副次的な効果として、各業務についてのマニュアルが整備され、結果的に業務効率の上昇が期待できます。
対外的な会社の信頼性向上
内部統制システムを整備し、その内容を社外に公表することによって、コンプライアンス・コーポレートガバナンスが十全に機能している会社という印象を与えることができます。
特に既存株主・潜在的株主に対してポジティブなメッセージを発信できれば、株価の向上にも繋がりやすいでしょう。さらに、中長期的な目線で株式を保有する株主が増えることにより、株主構成が安定化するメリットもあります。
安定株主が増えれば、株主総会の運営も円滑化し、経営陣が適切にリスクテイクをすることも容易になるでしょう。
内部統制システムを適切に整備するためのポイントsection
企業が内部統制システムを整備する際には、以下の各点に留意して対応を行いましょう。
法令上の要件を漏れなくカバーする
会社法・金融商品取引法上、内部統制システムの整備が義務付けられている場合には、各法令で求められている要件をカバーすることが必須となります。また、内部統制システムの整備が義務でない会社についても、各法令の要件をカバーするように内部統制システムを整備すると、システムが適切に機能しやすいと考えられます。
構成員の役割を明確化する
内部統制システムが実効的に機能するかどうかは、会社の各構成員がそれぞれの役割をきちんと果たすかどうかによって左右されます。特に金融商品取引法上の評価・監査基準では、各構成員が内部統制システムの構築に関して果たすべき役割が具体的に規定されています。
金融商品取引法上の評価・監査基準を一定の参考として、自社の状況に応じて適材適所の役割分担を行い、各構成員の役割と責任を明確化することが大切になるでしょう。
全社的にシステムを浸透させる
全構成員が、内部統制システムへの貢献を意識して業務を行えば、必然的に内部統制システムの実効性は高まります。しかし、普通に仕事をしている中では、内部統制システムの一部を担っているという意識を持つことができる構成員はごく少数でしょう。
そのため、社内研修やOJTを通じて、内部統制システムの内容・重要性・ケーススタディなどを全社的に浸透させる必要があります。
弁護士に相談しながらシステム内容を検討する
法令やガイドラインを踏まえた内部統制システムの整備は、弁護士に相談するとスムーズに行うことができます。特に金融商品取引法の内部統制関連規定は複雑なので、対応が必要な上場企業等は、弁護士と綿密に打ち合わせを行うのがよいでしょう。
また、企業構成員に対する研修等が必要となる場合には、実務を踏まえた内部統制システムについての講義を弁護士に依頼することもできます。このように、内部統制システムの整備に関しては、弁護士が幅広いサポートを行えます。
社外取締役に弁護士を加えれば、定期的に内部統制システムの見直しをすることも可能ですので、上場を見据える企業などは弁護士の選任をご検討ください。
まとめ
内部統制システムは、企業の業務・財務を適正化するための社内体制をいい、会社法・金融商品取引法によって一部企業に整備が義務付けられています。
法令上の義務であるか否かにかかわらず、社内の内部統制を強化することは、企業の持続的成長・中長期的な企業価値向上を実現するに当たって非常に重要です。経営陣としては、全社を統括する責任者として、全構成員が適正に業務を行う体制が整っているかどうかに目を光らせておく必要があります。
内部統制システムを整備する場合、弁護士と協働することにより、法令とリスク管理の観点を適切に踏まえた体制整備を行うことができます。また、社外取締役として弁護士を選任することは、コーポレートガバナンス・コンプライアンス強化の観点から非常に有益です。
成長・拡大を目指す企業は、社外取締役として弁護士の選任を検討してみてはいかがでしょうか。