2020年前後から、リーガルテックが活況を帯び、法務分野における様々なサービスにおいて急速に成長を遂げています。とりわけ、AIは、企業法務の現場を中心に契約書レビューのプロダクトを中心に発展を遂げています。
2023年初頭から、ChatGPTを皮切りに生成AIの普及が著しく、一般ユーザーの中でもAIの利用が進んでいます。このようにAIは、今後人類にとって無くてはならない存在であり、我々の生活をより豊かにしてくれる手段として用いられています。
一方で、様々な職種において、人の活躍できる領域が奪われていくのではないかとの議論もなされています。
法務も例外ではなく、上記のように企業法務の基礎の基礎である契約業務がAIにリプレイスされている過渡期であるという事実があります。今後も、AIが法務の現場で活用されていく幅は、技術の進展に伴いより広範になっていくでしょう。
この記事では、法務におけるAIの導入事例や業務分野、法務業務においてAIを導入するためのステップやポイント、汎用型AIの時代を見据えた法務人材の役割や価値形成について解説していきます。
- 企業法務におけるAIの導入は、契約書レビュー業務などを中心とする定型的なものを中心に普及している
- AIを法務に導入することにより、正確性や迅速性の向上とそれに伴う業務効率化、法務のリソース不足の解消にもつながる。そして、法務人材がより複雑で高度な課題に取り組む余地が生まれ、より企業価値の向上に貢献していくことができる
- 法務におけるAIの効果的な活用をするには、AIによるアウトプットのイメージを正確に把握し、個々のツールの技術レベルを踏まえて人が担う役割を明確に定義づけしていくことが重要
法務業務におけるAIの導入分野・事例section
法務業務におけるAIの導入例として、具体的にどのようなものが挙げられるでしょうか。ここでは3つご紹介していきます。
リーガルチェック
リーガルチェックにカテゴライズされるタスクは様々ありますが、典型的なAIサービスとしては、契約書のレビューが挙げられます。
法務は、事業部が作成した契約書を、形式面・内容面ともに不備がないか、何重にも渡ってチェックされてきました。自社ひな形の中で限られた入力項目を記入する場合には、それほどの時間を要せず、むしろチェックをスキップすることも可能です。
一方で、取引先から送られた契約書案のレビューに関しては、法務部に丸投げされることもあります。この場合のレビューには、自社ひな形のチェックや、予めチェックポイントを整理している場合でも、一定の工数がかかります。
また、厳密には取引先とのパワーバランスや取引の背景、事業部がグリップしたいポイントやビジネス上実現したいことや意図を汲み取った上でのリスク判断を細かく行うことが最適ですが、そこまでやるには相当な時間と労力を要します。
さらには、法令の改正の対応に併せてアップデートとバージョン管理もあります。これらすべてを人の手で一挙に担うことは困難です。そこで、契約書の記載内容における定型的なポイントに従い、体裁の不備や条文の誤り、変換ミス等をチェックしてくれるAI の導入により、迅速な業務遂行が可能となります。
法令改正に伴うアップデートなども、一般的な情報の収集と反映作業をAIが行うことで、業務効率化を図ることができます。
契約書管理
企業が扱う契約書の数は膨大であり、管理もまたかなりの労力を要します。電帳法の改正などもあり、電子取引が普及する中で、契約書管理の仕組みも重要なインフラです。
具体的には、契約書管理における網羅性や一元性、そして、真実性、可視性・可用性といった要件です。
契約書を紙媒体で締結した場合、書類の数が膨大になり、実際に契約書を見直す際に探す手間がかかります。そこで、紙媒体の契約書をPDF化し、検索機能や締結日付、契約当事者名、終了日などのステータスを管理することができるサービスの導入が考えられます。
その際に、AIは、PDF化された契約書から必要な情報を自動で抽出し、管理台帳を作成します。電子契約による場合も、同様に管理することができます。
過去の契約書や修正プロセスなどをデータ管理することで、ナレッジを蓄積して活用することもできます。また、AI が契約更新日や解約日をリマインドしてくれる機能もあり、適切な管理を実現することが可能となりました。
案件管理と質問応答(交通整理)
様々な法務相談対応も、雑多の定型業務として法務業務におけるボリュームを占めます。契約業務のボリュームが少ない企業でも、法務相談対応がボリュームを占めることがあります。
その際の課題となるのが、ビジネスマターとリーガルマターの区別・交通整理です。また、前提となり事実関係の整理やヒアリングを行うことも、内容によっては複雑で時間がかかる場合もあります。
AIが案件の受付管理や種別を分けてくれたり、どのような法務相談であるのかの概要を整理することができるツールもあります。
相談内容から回答の検討までのプロセスや、過去の案件をすべてストックしつつ管理することができます。また、企業法務に限らずより一般的なものとして、AIによる法律相談の自動応答システムも開発されています。
AIを活用した法務サービスの例section
次に、AIを用いた法務サービスの事例を2つご紹介します。
LegalForce(リーガルフォース)
AIを活用したものではおそらく最も有名な契約書レビューサービス。
株式会社LegalOn Technologies(旧株式会社リーガルフォース)が開発・運用する法務SaaSで、契約書をアップロードするだけで、リスクの網羅的な把握をAIがサポート。修正における論点の把握や、修正後のダブルチェックに活用することで、契約審査の品質向上と効率化を同時に実現することが可能です。
2023/12時点では70種類以上の契約書に対応しています。近年契約書の管理を目的とした派生サービス、LegalForeceキャビネも展開。
同種のサービスでは『LAWGUE』もあります。
TM-RoBo
こちらは株式会社IP-RoBoが開発・運用する、AIを用いた商標調査ツールです。
基本となる称呼判定機能に加え、2020年8月には商標判定にも対応。商標調査業務に慣れていない方でも簡単に商標調査を行うことことが可能です。マーケティング部門や現場クラスの人間が商標調査のファーストスクリーニングを行い、知財部にて最終判断するという二段階調査を実現。
特許庁・裁判所の判断、商標専門家のノウハウを機械学習させることで、商標専門家の人工知能(AI)化を実現。 専門的な知識がなくても商標の使用、権利取得、権利行使等に関するリスクを人工知能が判定します。
ChatGPTと連携させることで、2023年10月2日(月)より『商標生成機能』を実装。AIサポートのもとで商標の作成から調査までのワンストップが可能になりました。
同種のサービスでは特許調査プラットフォーム「Amplified」があります。
AI導入によるメリットsection
正確性と迅速性
法務業務の特質上、法令に従った文書作成や細かな用語の使い方、体裁、根拠とする文献や資料などにおいて正確性が求められます。そのため、一つのミスが致命的な損害となり得ることから、慎重な作業が必要となります。
一方で、ビジネスの現場では迅速性が求められます。一つひとつの契約書のチェックに数日を要し、作成に1週間を要するようなスピード感では、事業の停滞を招いてしまいます。
このような正確性、迅速性が求められるところ、ヒューマンエラーやマンパワーによる限界もあります。そこで、定型的な処理にあたる作業、文字の差分を検知することや情報の所在の特定等は、AIが行うことで極めて正確かつ迅速に処理することができます。
業務効率化
AIは、既存の情報に対する処理と、与えられた前提条件や基準をもとに判断をすることに長けている特徴があります。そこで、まさに契約書のひな形をもとに差分を検知し、パターン化することができる定型的な業務の処理を正確かつ迅速に行うことができます。
その結果、書類に誤字や脱字がないか、必要とする書類はどこに格納されているか等、単なる事務作業的なことはAIに任せることにより、上記のような正確かつ迅速なタスク処理を行うことができるとともに、AIによる処理と並行して別のタスクを処理することも考えられます。
このように、業務における作業効率が飛躍的に上がるといえます。
データドリブン
AIを活用することにより、データに基づくアウトプットの幅が広がります。また、過去のナレッジの蓄積とその分析を踏まえ、暗黙知が可視化されるというメリットがあります。
業務処理のDX化とセットで考えていくことになりますが、様々なタスク処理をプロセス全体としてデータでストックしておくことにより、可視化された状態でデータがストックされていきます。
AIはデータをもとに分析することに長けていることから、データに基づく根拠をもとにアウトプットをすることができます。この長所を活用してAIの支援を受けることにより、法務人材のアウトプットも、より客観的に、実証的なソースと分析に基づいたリスク判断をすることができる可能性があります。
リソース不足の解消
法務にAIを導入することにより、既に述べたような正確かつ迅速な処理、作業効率の向上の効果として、法務人材が注力するリソースを拡大することができます。その結果、中長期的な課題や、既存の枠組みにないような課題に対して取り組む余地が生まれます。
法務人材の採用において、法務の事務作業的な側面の担う人件費に係るコストパフォーマンスと比較して、合理性が高い解決策になる可能性もあります。
2021年、株式会社インフォマートが、法務担当者を対象にした調査によると、企業の5社に1社が「ひとり法務」であることが公表されました。
引用元:https://www.infomart.co.jp/contract/navi/navi012.asp
企業の5社に1社が「ひとり法務」
事前の調査で、法務業務を担当していると回答した247名に対し、自社の法務担当者の人数について聞いたところ、「2人~5人未満」が最も多く37.7%でした。中には、「20人以上」という大規模な企業も18.2%存在しています。一方で、「1人」の企業も18.6%あり、およそ5社に1社が「ひとり法務」を行っていることが分かりました。
「ひとり法務」とは、法務が行うべき業務を、全てワンオペで担うことを意味します。また、法務担当者のうち、法務以外にも業務を兼任していること(法務専任ではない者)が半数以上いるという結果となっています。
さらに、株式会社リーガルオンテクノロジー(旧株式会社リーガルフォース)Leaが2022年に法務部と法務業に携わった経験のある者500人を対象にした調査では、31.8%(159名)が他の業務と兼任しているとの結果となっています。
参考:https://legalontech.jp/wp-content/uploads/2022/07/legalissues.pdf
以上の調査結果からわかるように、企業は財政面や人材の採用面等、様々な要因から法務にリソースを割くことが困難となっています。
法務の役割は、会社にとって重要であることはすでに述べたとおりですが、現実問題、法務にまで手が回らない実情もあります。その中で、日常の定型的な業務をAIに任せることで、弁護士や優秀な法務人材はより複雑で高度な課題に取り組むことを可能にするのです。
リスク予防
AIによるアウトプットの正確性の側面から敷衍すると、属人的な能力や経験値による差分なく、一定の水準が保たれたリスクの抜け漏れを防ぐことができる点もメリットとして挙げられます。
例えば、契約書レビュー業務において、リスク検討に差異が表れやすい点が、契約書に書かれていない不足条項に対しての指摘や修正提案です。書面の記載内容や条文に間違いがあったり、記入漏れや重大な文言の抜け落ち等があったりする場合、会社が損害を被りかねません。
しかし、そうした事項の指摘は個々の法務担当者のスキルや経験に依存する側面があります。そうした差分を埋めるために法務人材を多く採用することや、複数人で膨大な契約書等の書類を二重三重にチェックするには相当な時間と労力を要すると考えられます。
AIであれば、プロンプトによってある程度求める水準を予め設定した上で、予測可能な範囲でのアウトプットを求めることができます。また、定型的に落としてはいけないポイントなどを正確に拾い上げることや、形式的な不備を瞬時に発見することができます。
このように、AIは、人間の能力や経験による差異によって生じうる抜け漏れの可能性を可及的に低くすることができ、その点においてリスク予防に効果的であるといえるでしょう。
AIを法務に導入する際のステップsection
AIを法務業務に取り入れてく際には、どのような段階を踏んでいくべきでしょうか。1つの考え方としては、次のようなものが考えられます。
- 法務が所管する業務を棚卸し
- 組織図と業務フローをもとにカテゴライズする
- 各業務にかけている工数の算出
- 特に中長期的に取り組むべき課題を抽出
- 法務におけるリスクマネジメントの言語化→AIに適切な出力をさせるため
- 定型業務と非定型業務の棲み分け
- 法務がAIから出力された内容をもとに判断する際の基準イメージを作る
- 既存の業務フローとの位置づけ整理
- セグメントごとの検討
- 事業部への説明と法務の位置づけの周知
- プロンプトの検証とマニュアル化
ポイントとしては、既存の法務業務の棚卸しを網羅的に行うことと、業務効率の算出、そしてAIを活用する際のアウトプットイメージを明確に行うことです。特にAIのアウトプットイメージを正確に把握することは重要です。
法務業務へAIを導入する際のポイント3つsection
法務業務にAIを導入する際に注意すべきポイントはどのようなものでしょうか。ここでは、3つを解説していきます。
AIによるアウトプットイメージを正確に把握する
1つは、先に述べたAIによるアウトプットのイメージを正確に把握することです。具体的には、どのような情報を与えることでどの程度の情報が返ってくるのか、アウトプットの仕方についてどのような定義づけが必要であるかといった観点です。
また、プロンプト入力(前提条件の設定)の手法を把握しつつ、そこからアウトプットされる内容を細かく検証しながら使いこなしていく必要があります。
AIは、入力された情報に対しての評価と共に、アジャイル的に精度を上げていく性質があることから、出力検証に比重を置くことで効果的に活用することができます。
AIへのインプットの範囲
また、個人情報保護や機密情報の保護の観点から、法令上インプットできる範囲を明確に認識しておく必要があります。他部署によるAI利用を想定する場合には、ガイドラインの策定やコンプライアンス研修などで必要なリテラシーを啓蒙することも、法務におけるAI導入にあたって不可欠な要素です。
この点については、一般社団法人日本ディープラーニング協会によるガイドラインが参考になります。
- 生成AIの利用ガイドラインの作成にあたって[14.71 KB] ダウンロード
- 生成AIの利用ガイドライン【条項のみ】(第1.1版, 2023年10月公開)[24.14 KB] ダウンロード
- 生成AIの利用ガイドライン【簡易解説付】( 第1.1版, 2023年10月公開)[33.45 KB] ダウンロード
生成AIの利用ガイドライン
引用元:https://www.jdla.org/document/
生成AIの活用を考える組織がスムーズに導入を行っていただけるように、利用ガイドラインのひな形を策定し、公開します。
このひな形を参考に、それぞれの組織内での活用目的等に照らして、適宜、必要な追加や修正を加えて使用ください。
※2023年5月に公開した第1版に改訂を加えた第1.1版を公開(2023年10月~)しています。
※『生成AIの利用ガイドライン』に関するご意見やご感想はこちらよりお寄せください。
※JDLA公式Youtubeチャンネルにて公開中の記者発表の模様は、2023年5月1日公開の第1版の内容に基づいています。現在公開中のバージョンとは異なりますのでご留意ください。
弁護士法との関係
コンプライアンスの観点からは、企業がAIを導入するにも、ツールの適法性が担保されたものであることも不可欠なポイントです。
そこで問題となるのは、AIによる契約書審査をはじめとした法務サービスに関して、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うこと、いわゆる非弁行為として禁止した弁護士法72条の抵触に関する論点があります。
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC1000000205
特に、「報酬を得る目的」の対価性要件、「・・・その他一般の法律事件に関して」といういわゆる事件性要件の点、そして「鑑定、・・・その他の法律事務」にあたるかという行為要件との関係で議論があります。
法務省の見解
法務省は令和5年8月1日、AIによる契約書審査サービスをはじめとするAIを活用した法務サービスと弁護士法72条との関係性に関する整理・考え方を公表しました(以下本記事において「法務省見解」といいます)。
AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第 72 条との関係について
引用元:https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf
令和 5 年 8 月 法務省大臣官房司法法制部
弁護士法第 72 条で禁止される、いわゆる非弁行為に該当するか否かについては、それが罰則の構成要件を定めたものである以上、個別の事件における具体的な事実関係に基づき、同条の趣旨(最高裁判所昭和46 年 7 月 14 日大法廷判決・刑集第 25 巻 5 号690 頁)に照らして判断されるべき事柄であり、同条の解釈・適用は、最終的には裁判所の判断に委ねられるものである。
そのため、飽くまで一般論とならざるを得ないが、AI等を用いて契約書等(契約書、覚書、約款その他名称を問わず、契約等の法律行為等の内容が記載された文書又はそれらの内容が記録された電磁的記録をいう。以下同じ。)の作成・審査・管理業務を一部自動化することにより支援するサービス(以下これらを総称して「本件サービス」という。)の提供と同条との関係についての考え方を以下に示した。
本件サービスが、下記1から3までに記載した「報酬を得る目的」、「訴訟事件…その他一般の法律事件」又は「鑑定…その他の法律事務」の各要件のいずれかに該当しない場合には、本件サービスの提供は、弁護士法第 72 条に違反せず、本件サービスが下記1から3までの要件のいずれにも該当する場合であっても、下記4に該当する場合には、当該サービスの提供は、同条に違反しないと考えられる。
なお、下記1から4までに示した各例は、当該事項に関して明確に判断し得る具体例を参考として示したものである。また、いわゆる生成AIを用いたサービスの提供と同条との関係についても、原則として同様の枠組みで判断されるべきものと考えられる。
法務省見解によれば、法務にAIサービスを導入することと弁護士法72条との関係は、以下のように整理されます。
法務AIサービスと弁護士法72条の関係
- 「報酬を得る目的」であること
- 「報酬」とは、サービスの提供に対して支払われる対価を意味する。利用料等一切の利益を受けることなく無償でサービスを提供する場合には、報酬を得る目的が否定される。
- 外観上事業者がサービスを無償で提供している場合であっても、当該事業者の他の有償サービスを利用するよう誘導する、サブスクリプションや会費制というビジネスモデルで一定の対価性のある利用資格者にサービスを提供する場合のように実質的な対価関係が認められるような場合には「報酬を得る目的」に該当し得る。
- 「訴訟事件…その他一般の法律事件」に関する業務であること
- 典型例は、例えば紛争当事者間で和解契約書を締結する場合
- 他方、継続的に行われている取引において契約書のチェックを行う場合や、業務フローを明確にする目的で作成する契約書は「訴訟事件…その他一般の法律事件」には該当しないと考えられる
- 企業法務における契約業務のうち、通常の業務に伴う契約締結に向けた議論や論点の検討においては、多くの場合は事件性がないと判断されうる
- 事件性要件の該当性判断については、個々の取引の内容を踏まえ個別具体的に判断される
- 「鑑定…その他の法律事務」を取り扱うこと
- 抽象的な基準としては、利用者が入力した個別具体的な入力内容を法的に処理し、事案に応じた具体的な契約書等を提供する場合である
- 使用者による非定型的なプロンプト入力、個別具体的な背景事情や契約内容に関する入力に対し、法的な処理やリスク分析の判断が介在した上で、それに応じた契約書案の作成、契約書審査、管理上の対応の指示が出力されるような設計のサービス
- 上記の判断は、サービスにおいて提供される具体的な機能や利用者に対する表示内容から判断される。
なお、法務省見解によると、上記3要素を全て満たす場合であっても、弁護士が補助的にサービスを利用する場合などは、72条に違反しないとの見解も示しています。
AIを活用した契約業務支援サービスはじめ、AIによる法務業務の支援を内容とするサービスを導入する場合、あるいはAIを活用した法務プロダクトを開発する際には、上記の3つの要件を中心にサービスの設計(UI/UX)を綿密に検討する必要があります。
- 基本的に、既存の大手リーガルテックベンダーが提供するサービスは、特に違法となる可能性は低いものと整理されます。
AI時代に果たすべき法務の役割section
現在は、生成AIの技術が急速に向上し社会に普及していますが、5年後10年後には分掌生成、画像生成、動画生成などの生成AIの時代からそれらが統合された汎用型AIの時代になると考えられます。
そうした時代の進展の中で、法務人材はどのような役割を担い、価値を見出していく必要があるでしょうか。
弁護士、パラリーガル、法務の仕事は奪われるのか
AIは、情報の管理・抽出、書面の形式的な不備の発見等、これまで人間が時間と労力をかけて行ってきた業務を瞬時に処理することができます。そして、AIは与えられた前提条件の範囲で、効果的なアウトプットをすることに長けています。
一方で、既存の枠組みにおける課題や問題点を抽出し、それに対する最適な解決策を仮設として定立し、そこから既存の枠組みと異なる新しい仕組みを構築するようなことは、守備範囲外であるとされています。
より厳密には、AIは、解決策の提案までは行うことができても、そこから最適解を「判断」することに関しては人の意思決定が介在せざるを得ないということです。
また、可視化されていない人間の感情などの内面の動きや価値観の変化をもとに、社会の在り方を決定していくことができるのは、人の判断や意思決定によらざるを得ません。
法務の現場においては、契約書のチェック等効率化すべき業務はAIによる支援が重要であると考えられる反面、実際に取引を動かすのが人である限りは、契約交渉が進んでいく場面における対応は人の感情に基づく言動をもとに人が分析、判断をしていくことが重要であるといえるでしょう。
このように、人がやることであるからこそ価値がある領域は、多くあるといえます。
AIによる法務支援とヒトによる法務の価値の再定義
また、AIという技術を人間が制御しつつ発展していくためには、AIが果たすべき役割と、人が持つ価値を改めて定義づけしていうことが重要です。
AIの活用と法務の将来性
法務の現場では、これまで人材確保や人材育成という面でのリソース不足や契約書の管理等、様々な課題がありました。
この課題を解決する存在こそがAIであり、AIの導入によって、法務がさらに強化していくことが可能となりました。むしろ今後は、AIを活用できているか否かで、法務のみならず企業価値評価における差が出てくるのではないでしょうか。
AI活用と並行で法務人材の確保も重要section
AIの導入・活用の如何で、法務のみならず企業価値評価における差が出てくるのではないかとお伝えしましたが、法務機能の強化はAIだけに頼るのではなく、自社に法務知識を持った人材を確保することも重要です
下記では、法務人材の採用支援に強みを持つ人材紹介サービスをいくつかご紹介します。
NO-LIMIT(ノーリミット)
弁護士・法務人材の採用に特化した人材紹介サービスです。5大法律事務所出身や準大手企業法務系事務所・ブティック系事務所出身の弁護士を専門的に扱う転職エージェントで、企業内弁護士の採用を考えているならおすすめ。
アドバイザーも弁護士の実務に詳しい人間たちで構成されている為、弁護士のスキル・経験を細かく把握、企業が求める人材とのミスマッチのなさに定評があります。
公式サイト:https://no-limit.careers/recruitment/
C&Rリーガル・エージェンシー
『弁護士転職.jp』という老舗サービスを運営(会社名は株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社)。2007年に設立され、弁護士・法務人材一本で15年以上運営してきた歴史があります。
弁護士を中心としたリーガル・プロフェッショナルのキャリア形成だけではなく、独立・マーケティング支援なども行い、弁護士としての一生涯サポートがコンセプト。法人サービスとしては、法律事務所・企業の採用支援、事業承継、事業提携の支援も行っている。
公式サイト:https://legal-agent.jp/
BEET-AGENT
管理部門・法務人材の採用支援に特化した転職支援サービス。弁護士有資格者やパラリーガル経験者、法務部門での経験10年以上のベテランなど、企業のニーズに幅広く対応できる求職者を多数抱えている。
採用活動のサポートを行うアドバイザーは、長年、弁護士の独立・集客支援に携わってきた経験を持ち、業界事情に精通。初めての法務人材採用でもミスマッチとならない丁寧なサポートが魅力。
公式サイト:https://beet-agent.com/recruitment/
Ms-Japan
士業・管理部門特化型の人材紹介サービスとしては30年以上の歴史がある老舗サービス。管理部門の転職・採用ならという知名度の高さがあります。弁護士も人材プールも多いですが、管理部門がメインのため、経理人材が多いのが実情。
最近はMSキャリアというダイレクトリクルーティングサービスに力を入れており、人材紹介とスカウトの両面からアプローチができます。
公式サイト:https://www.jmsc.co.jp/
まとめ
AIにより定型的な業務を徹底的に効率化しつつ、人がより法務組織やガバナンス、あるいは既存のルールの枠組みを変えて市場を形成していくような中長期的で戦略的な課題を担うことで、企業価値の向上につながると考えられます。
AIが持つ優れた特性は最大限に活用し、その他の業務を法務が集中して行う、役割分担を明確にすることによって、これからの法務は飛躍的な成長を遂げるのではないでしょうか。