取締役会は、すべての取締役で構成される合議体です(会社法362条1項)。
(取締役会の権限等)
第三百六十二条 取締役会は、すべての取締役で組織する。
引用元:会社法362条
他方で、取締役会には、しばしば監査役の関与が不可欠とされています。このことは、会社法上、取締役会における監査役の出席義務、ないし必要な場合における意見陳述義務(383条1項本文)からも裏付けられます。
(取締役会への出席義務等)
第三百八十三条 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。ただし、監査役が二人以上ある場合において、第三百七十三条第一項の規定による特別取締役による議決の定めがあるときは、監査役の互選によって、監査役の中から特に同条第二項の取締役会に出席する監査役を定めることができる。
2 監査役は、前条に規定する場合において、必要があると認めるときは、取締役(第三百六十六条第一項ただし書に規定する場合にあっては、招集権者)に対し、取締役会の招集を請求することができる。
3 前項の規定による請求があった日から五日以内に、その請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監査役は、取締役会を招集することができる。
4 前二項の規定は、第三百七十三条第二項の取締役会については、適用しない。
引用元:会社法383条
今回は、取締役会とは独立の機関とされながら、取締役会に不可欠とされる監査役の役割について、職務内容や権限、委員会設置会社の場合との比較も含めて、解説します。
取締役会の意義、役割section
取締役会は、取締役会設置会社における業務執行の意思決定を行います(362条2項1号)そして、業務執行は、代表取締役によって行われます(363条1項柱書、同条項1号)。
ゆえに、取締役会の役割は、会社が事業活動を行う根拠となる経営判断を行うことにあります。
(取締役会設置会社の取締役の権限)
第三百六十三条 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。
一 代表取締役
二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの
2 前項各号に掲げる取締役は、三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。
引用元:会社法第363条
特に、すべての株式会社において必置とされているのではない点を考慮すれば、それが合議体による意思決定である点に意義があると考えられます。
取締役会の開催と監査役の扱いsection
取締役会の開催・招集手続において、監査役はどのように扱われるのでしょうか。
招集通知の発出
取締役会の構成員は取締役であることから、取締役会の招集通知は、本来すべての取締役に対し発出すれば足ります。もっとも、取締役会設置会社は、原則として監査役を置くことになります(327条2項本文)。そして、監査役設置会社の場合、取締役会の招集通知は、各取締役および各監査役に発出する必要があります(368条1項かっこ書き)。
(取締役会等の設置義務等)
第三百二十七条 次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。
2 取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社については、この限りでない。
引用元:会社法第327条
そうすると、取締役会設置会社は、原則として監査役の設置が義務付けられ、取締役会の開催にあたり監査役の存在を前提としていることがわかります。
招集手続の省略をする場合
上記のように、監査役設置会社の場合、監査役も取締役会の開催にあたり不可欠であることから、招集手続を省略する場合は、取締役だけでなく監査役の同意も必要となります(368条2項かっこ書き)。
(招集手続)
第三百六十八条 取締役会を招集する者は、取締役会の日の一週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会は、取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。
引用元:会社法第368条
監査役の欠席が取締役会に及ぼす影響の有無section
監査役が取締役会に欠席した場合、決議にはどのような影響があるのでしょうか。取締役会での決議の効力には、直ちに影響しません。なぜなら、取締役会はあくまで取締役が構成員であって、会議体としての成立要件たる定足数にも監査役はカウントされないからです(369条1項)。
(取締役会の決議)
第三百六十九条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。
5 取締役会の決議に参加した取締役であって第三項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。
引用元:会社法第369条
監査役個人にとっての影響
冒頭で述べた通り、監査役には、取締役会の出席義務があります(383条1項本文)。そのため、監査役が出席しなかった場合、その監査役は取締役会の出席義務違反が問われる場合があります。
もっとも、出席義務違反があるからといって、刑事罰に処せられるものではありません。あくまで、取締役会に欠席したことで、当該取締役会で合理性を欠いた意思決定が行われた結果、会社に損害が発生した場合に、監査役の出席義務違反ないし意見陳述義務違反による任務懈怠責任(423条1項)に問われることが理論上考えられるだけです。
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元:会社法第423条
ただし、現実問題としては、監査役の取締役会への出席義務違反ないし意見陳述義務違反を根拠に、会社に対する損害賠償責任が発生する場合は考えにくいといえます。
なぜなら、仮に取締役会に出席できない事情があったとしても、取締役会での意思決定内容は、事業の報告あるいは業務の調査権限に基づき把握することができる場合もあるため(383条2項)、出席義務違反あるいは意見陳述義務違反で直ちに責任が問われるというより、かかる調査権限の不行使にかかる善管注意義務違反(330条、民法644条参照)を根拠とする場合がほとんど(あるいは因果関係が否定される)と考えられるからです。
監査役の欠席が取締役会の決議の効力に影響を与える場合
監査役に対する招集手続が欠けた場合、それにより監査役が取締役会に欠席した場合、その取締役会の決議の効力は、無効になると考えられています。その理由は、取締役会の招集手続は、取締役会の開催にあたり必要な人を招集する機会を確保する趣旨であるため、招集手続自体を怠ることは、そのような機会を与えない点で重大性が高いことにあります。
監査役の職務と取締役会との関係section
監査役の職務は、取締役会の運用あるいは個々の取締役の職務執行とどのような関係にあるのでしょうか。
監査役に与えられる6つの権限
監査役には、会社法上、主に次のような6つの権限があります。
- 取締役(会)の業務執行・意思決定の適法性監査(381条1項前段)
- 取締役等に対する事業の報告を求めること(381条2項)
- 監査役設置会社の業務及び財産状況の調査(同条項)
- 子会社に対する業務及び財務状況の調査(同条3項)
- 取締役による法令定款違反等の行為の差止め請求(385条1項)
- 取締役と会社との間の訴訟における訴訟追行上の代表(386条)
いずれも重要な権限ですが、特に太字で示した3つは、業務執行において違法がないように、また会社の事業活動に不利益がでないようにするために重要といえます。
なお、非公開会社の場合、定款で監査役の権限の範囲を会計に関するものに限定することができますが(389条1項)、その場合の監査役の権限は、会計監査のみになります。
監査役の義務
監査役の義務としては、次のような5つが挙げられます。
- 監査報告の作成義務(381条1項後段)
- 取締役会への出席義務
- 必要な場合における取締役会での意見陳述義務(383条1項本文)
- 取締役の不正行為あるいは法令もしくは定款違反行為の報告義務(384条)
- 会計監査(435条1項参照)
取締役会との関係では、太字で示した出席義務と意見陳述義務を徹底する必要があります。また、監査報告の作成は、その内容が取締役会で上程された資料などを必要とするため、取締役会との密接な関係があります。
取締役会での職務
取締役会での職務は、すでに述べているような取締役会の出席ないし意見陳述のほか、取締役による取締役会の招集が適切に行われない場合における取締役会の招集もあります(383条3項)。
取締役会の決議と監査役section
取締役会の決議において、監査役はどのように関わるのでしょうか。
決議要件
取締役会の決議は、定足数と可決要件が定められています(369条1項)。定足数は、すべての取締役の過半数になります。そのため、監査役は、定足数のカウント対象ではありません。
また、可決要件は、出席した取締役の過半数です。いずれにしても、決議自体との関係では、監査役は、影響しません。もっとも、決議の前提に当たっての合議には、出席して、必要な場合に意見を述べることになります。
例えば、利益相反取引にあたる場合において、重要な事実の開示(365条2項)に関して、不足がある場合には十分な資料の提示を求めるなどの意見陳述が考えられます。
特別利害関係人に関する規定と監査役
取締役に関しては、「特別の利害関係を有する」場合に、議決から除かれる規定があります(369条2項)。監査役は、議決に加わることがないため、そもそもこの規定が準用される余地もありません。
書面決議を行う場合の注意点
また、取締役会における意思決定の効率を図る便宜を認める趣旨から、取締役会の決議の省略が認められる場合があります(370条)。手続上書面による同意を行うため、書面決議とも呼ばれます。
もっとも、書面決議には、注意すべき点があります。上記の通り、監査役には取締役会における議決権行使は認められていませんが、決議の省略は、取締役の提案した決議の対象たる議案について監査役が異議を述べた場合には、認められません(370条かっこ書き)。
(取締役会の決議の省略)
第三百七十条 取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
引用元:会社法第370条
取締役会の運営における監査役の役割と業務section
取締役会の運営において、監査役はどのような役割を担うのでしょうか。
議事録の作成
議事録は、法務省令である会社法施行規則に定められる事項に沿って作成する必要があります(会社法施行規則101条)。作成主体は、監査役である必要はありませんが、法律上作成が義務付けられるものであるため、業務の適法性監査の対象になります。
そのため、監査役は、議事録のチェックに関わることになります。
取締役会に対する報告を行う場合
監査役は、取締役会に報告すべき事項を省略することができる場合があります。すなわち、監査役設置会社において、取締役および監査役の全員に対し、取締役会に報告すべき事項を通知した場合であれば、改めて取締役会を招集して当該事項を通知する必要はありません(372条1項)。
代表取締役の四半期に一度の業務執行の状況報告には適用されませんが(同条2項、363条2項)、監査役の取締役会に対する報告事項に関しては、適用されます。取締役会への報告の省略は、方式に限定はありませんが、後日の証拠として残すために書面で行うことが無難でしょう。
取締役会を評価する際のポイント
監査役は、取締役による会社の業務執行と会計の監査を行いますが、取締役会設置会社では業務執行の意思決定を行う取締役会の評価を行います。その際のポイントは、まず、客観的に個々の業務執行に関して、法令・定款の内容に即しているのかどうか、基準へのあてはめ・検証を行うことです。
それだけでなく、業務執行の判断過程における議論の内容の中で、個々の取締役の意見や提案の内容が、合理的な根拠に基づくものであるかをチェックする必要があります。
合理的な根拠に基づくものであるかどうかは、資料や調査の収集、検討と、それに基づく判断の過程のそれぞれに合理性があるかどうかを検証することがポイントです。会計監査は、会計書類あるいは計算書類の作成の根拠となる資料がもれなく存在するかどうか、そもそもその収集と保存の制度設計が構築されているか、運用がされているのかどうかという点からチェックする必要があります。
その上で、経理部がまとめた会計に関する書類について、各種法令に適合しているかどうかをチェックします。
委員会設置会社における監査委員取締役と監査役の違いsection
監査役設置会社では、取締役会と、取締役会による経営の監督・監視を行う監査役とで役割が別々の機関に分かれます。
他方で、監査等委員会設置会社あるいは指名委員会等設置会社の場合は、監査役の設置が認められません(327条4項)。では、監査役と、監査委員取締役との違いはどのような点にあるのでしょうか。
委員会設置会社における監査委員
委員会設置会社は、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社の2つの形態があります。それぞれ、委員の種類や構成が異なるため、それぞれ解説します。
監査等委員会設置会社
監査等委員会設置会社は、取締役会の中に設置される機関で、取締役であるすべての監査等委員によって構成されます(399条の2第1項、同条2項)。監査等委員は、いわば取締役会の構成員たる取締役としての地位でありながら、監査役としての役割を担っています。
監査等委員には、通常の取締役会の場合とは異なり、他の取締役の職務執行の「監査」権限と監査報告の作成に係る職務があります(399条の2第3項1号)。また、監査役と同様に、監査等委員には、取締役等に対する職務執行に関する報告の要求や、会社の業務及び財産状況に関する調査権限が与えられています(399条の3第1項)。
子会社に対する業務及び財産状況の調査権限についても同様です(同条2項)。取締役による行為に関し、不正の行為あるいは法令もしくは定款違反の事実があると認められる場合には取締役会への報告義務が課せられるとともに(399条の4)、株主総会への報告義務があります(399条の5)。
このように、監査等委員は、取締役会の中で、取締役でありながら監査役が行う職務を担っています。
指名委員会等設置会社
指名委員会、監査委員会、報酬委員会の三委員会を設置する会社です。各委員会は、委員である取締役3人以上によって構成され、取締役会決議によって選定されます(400条2項、同条3項)。
特に、監査役に置き換わるのが、監査委員会です。監査委員会は、業務執行を担う執行役と取締役の職務執行の監査と監査報告の作成を行います(404条2項1号)。また、執行役等の職務執行に関する事項の報告及び業務及び財産状況の調査権限(405条1項)、子会社に対する業務及び財産状況の調査権限(同条2項)もあります。
なお、これらの事項について監査委員会での決議がある場合、監査委員は、その意思決定に従う必要があります(同条4項)。取締役会への報告義務(406条)、執行役または取締役の行為の差止請求権限(407条1項)についても、監査等委員の場合と同様です。
さらに、いずれの委員会設置会社の形態においても共通するのが、取締役会の運営とは別に、監査等委員会あるいは監査委員会の運営が行われる点です(399条の8から399条の12、410条から414条)。
構成員は取締役であり、経営の最適化を目指す点で目的を共通にしている一方、権限の分掌を行い、異なる立場・グループで経営の監督・監視を行うことが、委員会設置会社の特徴です。
監査役との役割の違い
監査役設置会社の場合との違いは、取締役としての属性である点が異なります。監査役は、取締役とは別個独立の機関であるため、経営判断を行う立場と離れて客観的に行う役割があります。そして、個々の監査役の独立性が重視されます。
他方、監査等委員あるいは監査委員である取締役は、経営を、経営陣の内側から監視・監督する役割があります。そして、監査委員会という小さな組織を形成していることから、多角的に経営の監督・監視について議論を行い、業務執行の判断とは別に意思決定を行うことが特徴であるといえます。
まとめ
以上の検討を踏まえてまとめると、取締役会において、監査役には次のような3つの役割があることがわかります。
- 独立かつ客観的な立場で、取締役会での議論の過程から意思決定まで、業務として適法性があるかどうかをチェックする
- 取締役会のメンバーである取締役の個々の職務執行の適法性をチェックし、必要に応じて、ブレーキをかける
- 会社の業務・財産状況を把握し、またステークホルダーに対して適切な開示を行うこと
このような監査役の役割を踏まえて、取締役と監査役の適切な協働関係を構築していくことが重要です。