役員といえば、一般社員として入社したのちに、管理職となり、そこからさらにステップアップして役員となるというキャリアモデルが一般的でした。しかし、現在では社外役員と呼ばれる、会社外の人材でありながら取締役や監査役として会社の経営に参加するというあり方が一般的になっています。
実際に東京証券取引所によると、東証一部上場企業2191社のうち、2名以上の独立社外取締役を選任している会社は、全体の97%にあたる2126社もあるという結果が出ています。
こうした役員について外部人材を登用するという流れは、後述するようにコーポレートガバナンスコードの要請を受ける上場企業だけではありません。経営ノウハウのないスタートアップ企業においても同様に強いニーズがあることから今後も加速していくことが予想されます。
時代の流れの中で投資家・株主の期待にかなう能力を持つような優秀な人材を確保することは企業にとって重要なミッションの一つといえるでしょう。しかし、役員の採用についてはまだまだノウハウの共有や情報が十分に流通していないのが現実です。
そこで、本記事では役員の採用を考えている企業の方に向けて役員の採用や選考にあたってどのようなことを考慮すべきか、また必要な手続きについて解説します。
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会社法上の役員についてsection
まず、おさえておきたいのが会社法上定められた手続きを行う必要があるのは、会社法上の「役員」を採用する場合です。会社法上の役員とは、以下の者をいいます(会社法第329条)。
- 取締役
- 監査役
- 会計参与
これから採用しようとしている方が上記のいずれかに該当するのかを確認しましょう。一般的な役員という言葉には執行役員などが含まれていますが、会社法上の役員というのはこの3種類のみです。
執行役員は、会社との関係ではあくまでも従業員になるため、一般社員と同様の手続きで足ります。会社法上の役員を選任する場合には株主総会によって選任を受ける必要があり、こうした手続きを経ないで勝手に会社が選任することはできません。
(選任)
引用元:会社法第329条第1項
第三百二十九条 役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第三百七十一条第四項及び第三百九十四条第三項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。
2 監査等委員会設置会社においては、前項の規定による取締役の選任は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別してしなければならない。
3 第一項の決議をする場合には、法務省令で定めるところにより、役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この項において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる。
訴訟リスクを避けるために、まずは会社法上の役員の定義とこれから採用する人をどのポジションで採用しようとしているのか、そのポジションは会社法上の役員に該当するのかという点を確認しましょう。
役員選任のための手続き|株主総会による選任までの流れsection
一般的な社員を採用する場合と異なり、役員を採用する場合には会社法上定められた手続きを経る必要があります。採用スケジュールを立てる上でも、まずはどういった手続きが必要なのかという点から解説していきます。
会社法上、その会社がどのような機関設計を行っているか、また株式の譲渡について制限をしている会社かにより手続きが異なります。以下では、一般的な機関設計であり、役員の選任にあたって投資家・株主の視線を意識する必要のある会社として、取締役会設置会社(公開会社)を念頭におい手続き解説します。
①取締役会での株主総会の日時・場所・目的の事項等の決定
株主総会をいつ、どこで、何を決めるために開催するのかといった点について、取締役会で決める必要があります(会社法第298条第1項第1号、第2号)。したがって、仮に取締役を選任するのであれば、何名を選任するのか、候補者は誰なのかなどについて取締役で決定する事になります。
②株主への通知
①で決定した事項などを総会の日の2週間前までに株主に書面で発送して通知します(会社法第299条)。
この期限は違反すると株主総会の招集の手続きが法令に違反するものとして株主総会決議の取消し事由となります(会社法第831条第1項第1号)。実際に期限から2日過ぎた状態で発送された招集手続きについて重大な瑕疵があると判断した最高裁の判例があります。この期限は絶対に守る必要があるので十分注意しましょう。
③総会での可決
招集手続きが完了したらいよいよ株主総会での承認・可決です。なお、株主総会は議案によって承認可決の要件が異なります。取締役の選任議案は、定款で別の定めをしている場合を除き、過半数の株主が出席し、過半数の賛成を得ることで可決されます(会社法第309条第1項)。
④就任
株主総会で選任されたらご本人から就任の意思を確認しましょう。なお、役員の氏名などは登記事項となるため、就任後は登記手続きを行う必要があります(会社法第911条第3項13号、同条項17号、同条項19号、会社法第915条)。
この手続きは株主総会の日から2週間以内に行う必要がありますので、株主総会が終わったからといって安心すること無く最後までしっかりと手続きを行いましょう。
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株主総会までに社内で必要になる可能性のある手続きsection
次に株主総会までに会社内で必要になる手続きについて解説します。会社法上定められた手続きもあるので、法定された手続きについては法令違反を生じることの無いよう十分注意しましょう。
候補者の人選
取締役会で決定する前提として誰を候補者にするのか社内であらかじめ決定しておく必要があります。また、書類選考や候補者との面談もこの時点で行うことになります。役員の採用では初期の段階から会社の経営層が面談を行う場合が多いため、対応を行う役員のスケジュール調整も必要となります。
なお、どういった方を人選するべきかという点については、後ほど解説します。
監査役を選任する場合には他の監査役(監査役会)の同意を得ておく
役員の中でも取締役や会計参与を選任する場合と異なり、監査役を選任する場合には現在の監査役(監査役会設置会社の場合は監査役会)の同意を得る必要があります(会社法343条1項、同条3項)。
この同意を欠いた場合、監査役を選任する株主総会決議について取消事由があると判示した裁判例(東京地方裁判所平成24年9月11日)もあるため、細かい手続きですが必ず行うようにしましょう。
指名報酬委員会などの任意諮問機関の決議等
社内に取締役会の諮問機関として指名・報酬委員会等を設置している会社の場合にはこうした機関への諮問・答申や決議が必要な場合もあります。この点は会社の規定などのルールによって異なるため、自社でこうした機関を設置している場合には、どういった手続きになっているか確認しておきましょう。
役員の選任はスケジュール管理が重要
株主総会を中心にその前後で必要な手続きについて解説しましたが、重要となるのはスケジュール管理です。特に会社法で定められた手続きは期限がある場合がほとんどである点や株主総会自体が基本的に毎年同じ時期に行われることになるため、株主総会の日から逆算して必要な手続きを行っていく必要があります。
一般的には総会の日の半年ほど前から準備に当たる会社が多いように思われますが、早すぎて困るという事はありません。なるべく早い段階から必要な手続きを確認して準備に着手しましょう。
特に取締役会での決議などは直前になって決めても社内での手続きに思ったより時間がかかってしまう場合があります。会社法上定められた期限に遅れた場合のリスクは非常に大きなものになりますので、時間的な余裕をもって臨めるようにしつつ、タスクが適切に進行しているかを管理することも重要です。
役員にはどんな人材を基準に選任するべきか?section
次に、どのような人材を役員に選ぶべきかについて解説します。
基本的には各会社の裁量で決定すべき事項ですが、前述の通り役員の選任は株主総会決議により決定されるため株主や投資家から支持される人材を選任する必要があります。では、どのような人材が株主や投資家から支持されるのでしょうか。
役員の人材選定に当たっては、ポジションによって求められる能力が異なりますが、ここでは選任の機会が多いと思われる取締役や監査役について解説をします。
取締役の場合
取締役のミッションは会社の業務執行機関として、経営課題の解決を行うことです。したがって、最優先で求められる能力は経営者としての資質や経験となります。しかし、一口に経営者としての資質と言っても様々な能力が要求されるため具体的にどういった点を基準とすれば良いのか分かりません。
そこで、以下のような点を考慮して人選を行う事が一つの基準となるでしょう。
同業他社での経営者としての経験
やはり最も説得力があるのは同業他社での経営者としての経験があることです。同業の場合には会社が現在直面している課題と同じ課題を有している場合も多いため、その解決策に対して何らかの知見を有している事が期待できます。また、ネクションを活かした課題の解決も期待ができます。
このような人材を選定する際に注意が必要な点が、同業他社での役員に就いたまま自社で役員として活動する場合です。
なぜなら、会社と利益相反関係に立つ場面が出てくるため、実際に自社で活動するに当たって会社法上の制約が生じる可能性があるためです(会社法第356条第1項第1号)。
法的なリスク軽減の観点からこうした人材を選任する場合には、自社での業務に専念してもらうために他社を辞められた後で来て頂くのが最も妥当な方法でしょう。
コーポレートガバナンスコードの要請の観点
東証に上場している企業の場合には、東京証券取引所が定める規則であるコーポレートガバナンスコードの要請を意識する必要があります。2021年6月11日にコーポレートガバナンスコードの改訂が行われた結果、取締役の選任に当たっては以下のような点について留意する必要があります。
- プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)
- 指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)
- 経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
- 他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任
独立社外取締役というのは、「一般株主と利益相反が生じるおそれが無い者」として独立役員に該当する者のうち、取締役である者をいいます。独立役員の要件について詳細はリンク先をご参照いただければと思いますが、現在の一部上場企業のうちプライム市場に入ることを検討している会社については、上記の原則を満たす必要があります。
したがって、人選に当たってはこうしたコーポレートガバナンスコードの要請を現在の会社の取締役会の構成が満たしているのかという点に注意する必要があります。また、各取締役が備えるべきスキルについて公表する事になるため、以下のことが求められます。
- 経営戦略上、会社が必要としているスキルを特定しておく事
- その候補者が有するスキルが、会社が必要としているスキルとマッチする事
これらの記載は全ての取締役に適用されることになるため、現在の取締役が持っているスキルとも整合する必要があります。
現在の取締役が持っているスキルを把握した上で、「会社には必要だが現在の取締役が持っていないスキル」を持った候補者を選任するというのは一つの基準となるでしょう。
なお、どういったスキルを会社が取り上げるかは会社の裁量に任されていますが、「経営」「グローバル」「法務・コンプライアンス」「財務・会計」などのスキルを記載している会社が多いようです。上記の例のように、スキルマトリックスと呼ばれる取締役のスキルを表にする場合には、必要なスキルを項目ごとに分ける必要があります。
例えば法務・コンプライアンスの能力を有する人材として、他社で法務・コンプライアンス部門の担当役員であった方や弁護士を起用する事などが考えられます。
監査役の場合
監査役のミッションは、業務執行が適正になされているかの監査を行うことです(会社法381条2項)。したがって、取締役と比較した場合、取締役よりも強い「中立性」が求められることになります。
このような監査役のミッションから財務や会計といった知識は非常にマッチングしやすいといえます。そのため、公認会計士や税理士といった方を起用するのは一つの選択肢と言えるでしょう。
注意が必要なのは、上の事例の園マリ氏の選任の様に自社の監査を担当していたような監査法人などの出身者を起用する場合です。述した監査役の中立性の観点から投資家などから疑問を呈される可能性があります。
上の事例では野村ホールディングスはISSという投資家向けに株主総会における議案の賛否について助言を行う会社から反対推奨をされました。これに対応する形で招集通知の中で独立性について補足を行いました。
しかし、結果的にこの議案の賛成率は他の議案と比較して低い水準となってしまいました。公認会計士や税理士の方を起用する場合には、自社と関係の無い事務所や税理士法人の出身者の方を起用する事が投資家や株主から支持を受けるという観点から一つの基準となるでしょう。
その他の考慮要素
この他に考慮事項となるのが以下の様な点です。
- SDGsについて知見を有している方
- 多様性の観点から歓迎される方(女性役員や外国人取締役など)
これまで挙げてきた基準とも共通しますが、重要なのは投資家や株主からの支持を得られるようなスキルやバックグラウンドを有している人材かという点です。
会社の経営課題を株主や投資家へ説明した上で、こうした課題とマッチする人材であることが説明できるかどうかという点が重要と言えるでしょう。役員の選任は株主総会で否決されてしまうとどんなに魅力的な人材であっても採用することができません。
こうした点を意識して選定を行いましょう。
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役員候補者を見つける方法は?section
では、以上のような役員の候補者は具体的にどうやって見つけるのでしょうか。ここではそれぞれの方法とメリット・デメリットについて解説していきます。
役員選任・管理部門特化の人材紹介会社を利用する
会社法上、上場会社に社外取締役の設置が義務づけられたこと(会社法第327条の2)や前述のコーポレートガバナンスコードの改訂により、社外取締役のニーズが高まりました。
これを受けて、役員クラスの人材の紹介を専門とする人材紹介会社も昨今では増えてきました。
メリット
人材紹介会社を利用するメリットは、候補者になるような人材や業種へのコネクションを持たない会社であっても広い範囲から候補者を選ぶことができるという点です。人材紹介会社を一度通した人になるため、一般的に社外役員に向かないような人をある程度落とした上で選定できるというのもメリットの一つと言えます。
デメリット
人材紹介会社を利用するデメリットは、やはりコスト面での負担が大きくなるという点です。エージェントによって変わりますが、登録費用や初期費用、その他実際に採用に至った費用などが必要になるケースがあります。そのため、利用する場合にはどういった費用が発生するのか、予算の範囲内かといった点を確認しておく必要があります。
相場は大体理論年収(賞与込み)の30%〜35%程度です。
既存の役員から紹介を受ける
昔からある方法ですが、以下のようなメリットがあるため有用な選択肢の一つです。
メリット
この方法のメリットはなんと言っても費用がかからない事です。人材紹介会社を利用する場合に発生する費用を抑えられるのは、予算があまりかけられない場合には大きなメリットとなります。
また、既存の役員が紹介は、ある程度社内の事情を理解した上での紹介となります。そのため、会社とのミスマッチを減らせるという点も魅力の一つと言えるでしょう。
デメリット
デメリットとしては、既存の役員がコネクションを有している範囲に限定されてしまいます。そのため、会社が地方などの場合にはそもそも紹介できるような人材がいないケースや、マッチングする人材が見つからないといった事態が考えられます。
また、紹介された人材が取引先で役員などを兼任している場合には、利益相反の可能性を指摘されるおそれもあります。
弁護士会や公認会計士会などのデータベースから検索する
弁護士や公認会計士などの士業から候補者を選定する場合に、有用な方法として考えられるのがこの方法です。メリットは、既存役員から紹介を受ける場合と同様にコスト面での負担を抑えることができるという点が挙げられます。
こうしたデータベースから検索しても自社でアプローチを行う必要があるため、基本的には交渉や折衝などを自社で行う必要があります。こうした事務手続きの負担が大きくなってしまうのは、この方法のデメリットの一つと言えるでしょう。
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複数の方法を並行して行うのがオススメ
役員候補を見つける方法は一つに限定する必要は無いため、複数の方法を平行して行うのがベターな方法と言えるでしょう。どの方法を採用するかは、どういった候補者を採用したいのかという点によって変わります。そのため、現在の会社の経営課題を分析した上で進める必要があります。
本記事で挙げたような点を考慮して頂き、自社にマッチングする役員の採用に活用してください。
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