企業の法務部門の責任者であると同時に経営判断にも影響を与える経営陣の役割を担う重要な役職として、CLOが注目されています。
CLOとは、Chief Legal Office(チーフリーガルオフィサー)の略で、日本では最高法務責任者といわれるポジションです。
本記事では、「法曹資格や法務部門での実務経験を活かして、今以上にキャリアアップしたい」と考えている方向けに、注目を集めている最高法務責任者であるCLOの役割や、CLOに転職するためのポイントなどについて分かりやすく解説します。
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CLO(最高法務責任者)とは?section
ガバナンス徹底・企業の事業活動のリスクヘッジの必要性などが高まっている現在、多くの企業でCLOという役職を設定して、優秀な人材を登用する動きが強まっています。
まずは、CLOの定義や関連概念との違いについて解説します。
CLOはCxOの1つ
CLO(Chief Legal Officer)とは、「最高法務責任者」のことです。
近年普及している「CxO」のひとつに位置付けられます。
CxOは「Chief x Officer」の略称です。「Chief(組織の責任者)」「Officer(執行役)」の間にある「x」に役割・業務に対応する言葉を入れて、「xという役割・業務に対する組織のなかの最高位のポジション・人物」を示すことができます。
日本語に訳するときには、「最高〇〇責任者」という表現方法が用いられるのが一般的です。取締役やその他役員とは異なり、CxOに関する法律上の根拠は存在しません。
そのため、各企業にCxOの設置義務が課されているわけではなく、どの種類のポジションを設けるかなどについては全て企業側の自主性に委ねられているのが実情です。
もっとも、現在、コーポレートガバナンスを徹底する傾向が強まっており、企業側には事業活動などに対する責任の範囲・所在の明確化が求められています。
そして、CxOはコーポレートガバナンスの機能強化、意思決定の迅速化、経営と現場の連携強化というメリットをもたらすと考えられているため、今では多くの企業でCxOが設置されています。
CxOの代表例として、以下のものが挙げられます。




CLOの役割
CLOに求められる役割は、法務分野に関する業務の責任を全うすることです。
事業活動を展開する過程では、契約書の作成・レビュー、内部統制システムの構築・監視、法改正や業界規制への対応など、さまざまな場面で法律問題が生じます。
そして、CLOはこれらの全ての業務の責任者として機能しなければいけません。
たとえば、各従業員が適切に法務関係業務を処理できるような環境・教育システムを整備したり、法的トラブルが発生したときには先陣を切って対応策に踏み出して責任をとる必要があります。
また、CLOは経営陣の一角としての役割も担うため、経営判断に対して法的な視点からレビューをしたり、CLO自身が大きな経営判断に関与することも必要です。
詳しくは後述します。
企業内弁護士との違い
企業に対して高度なリーガルサービスを提供する人材として「企業内弁護士」が挙げられます。
企業内弁護士とは、企業の社員として雇用される弁護士のことです。「インハウスローヤー」と呼ばれることもあります。
CLOも企業内弁護士も、企業のために法的スキルを発揮する点では同じです。
ただし、CLOと企業内弁護士には以下のような違いがあります。
- CLOは会社の役員であり経営陣の一角を担う、企業内弁護士は会社に雇用される従業員という立場
- CLOは従業員に対して指揮監督権・人事権を行使する、企業内弁護士は会社からの指示に従う義務を負う
- CLOは法的な観点を経営判断に組み込む役割まで求められる、企業内弁護士は法律家として法的側面に関するスキルを発揮する
法的スキルの発揮だけではなく、企業の経営判断や企業統治にまで踏み込んで仕事をしたいと考えているのなら、企業内弁護士として働くのではなく、CLOを見据えたキャリア形成を目指しましょう。


顧問弁護士との違い
CLOは役員として企業の内側で法的スキルを発揮するのに対して、顧問弁護士は企業の外側からリーガルサービスを提供するということです。
そのため、企業に対して発揮するリーガルサービスの質・内容に関して、CLOと顧問弁護士とで大きな違いはないでしょう。
「ひとつの企業を成長させるために、経営判断まで踏み込みながら法的スキルを活かしたい」と考えるならCLOを目指すのがおすすめです。
日本企業と外資企業での違い
外資系企業の場合、CLOの役職を設けるのが一般的です。
これは、1990年代にはすでにCxOの考え方が普及しており、ガバナンスの徹底・強化のために当然設けるべき役職だと考えられているからです。
そのため、外資系企業では、CLOに関する求人が定期的に出されています。一方で日本企業の場合、CLOを設けている企業はまだ多くはありません。
また、CLOを設けている企業についても、いきなり外部から優秀な人材をCLOとしてヘッドハンティングしてくるのではなく、企業のなかで法務関係でキャリアを積んだ人材がCLOに就任するという形式が採られるのが一般的です。
CLO候補の形式で求人案件が出されることはありますが、いきなりCLOを募集するための求人が出されるケースは多くはありません。
このように、日本企業と外資系企業とではCLO採用の扱いが大きく異なります。
CLOを見据えたキャリア形成をする場合には、どのようなスキルが必要なのか、どのような人脈を構築していくべきかなど、中長期的な視点で戦略的に成長し続ける姿勢を大切にしましょう。
CLO(最高法務責任者)の主な役割section
CLO(最高法務責任者)の主要な7つの役割について解説します。
経営陣への戦略的アドバイザー
CLOの最も重要な役割の一つは、単なる「法律の専門家」にとどまらず、経営トップの戦略的パートナーとして機能することです。具体的には、取締役会やCEO、その他Cレベルの経営幹部に対し、企業の重要な意思決定に際して法的観点から深い洞察と助言を提供します。
これには、新規事業の立ち上げ、海外市場への進出、大規模な投資、事業再編といった企業の将来を左右するテーマが含まれます。CLOは、計画されている戦略が法的に実行可能か、どのような法的リスクが潜んでいるか、そしてそのリスクをどのようにすれば最小限に抑えられるかを分析し、具体的な解決策を提示します。
この役割は、守りの法務(コンプライアンスやリスク回避)だけでなく、ビジネスの成長を法的に後押しする「攻めの法務」の実践でもあります。企業の持続的な成長と企業価値の向上を実現するためには、事業戦略と法務戦略が一体となって推進される必要があります。
CLOはその中心的役割を担う、まさに経営における羅針盤のような存在と言えるでしょう。
コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの推進
CLOは、企業の健全な経営を支えるコーポレート・ガバナンス(企業統治)体制の構築と、全社的なコンプライアンス(法令遵守)の徹底において中心的な役割を果たします。
株主、従業員、顧客、社会といった多様なステークホルダーからの信頼を得るために、透明性が高く公正な経営体制は不可欠です。CLOは、取締役会の運営が法令や定款に則って適切に行われるよう監督し、株主総会の準備・運営を法務面から支援します。
また、インサイダー取引の防止、贈収賄防止規定の策定、データプライバシー保護など、企業活動に関わるあらゆる法令や社会規範を全従業員が遵守するための体制を構築・維持します。これには、社内規程の整備、定期的な従業員研修の実施、内部通報制度の適切な運用などが含まれます。
コンプライアンス違反は、巨額の罰金やブランドイメージの失墜など、企業に計り知れない損害を与える可能性があります。CLOは、こうした事態を未然に防ぎ、企業が社会的責任を果たしながら持続的に成長していくための基盤を築く、いわば「企業の良心」を守る番人です。
法務リスクマネジメントの統括
企業活動には、常に様々なリスクが伴いますが、その中でも法的な問題に起因するリスク、すなわち「法務リスク」を特定、分析、評価し、その影響を最小限に抑えるための体制を構築・指揮するのがCLOの重要な役割です。
法務リスクは、契約違反、規制変更、訴訟、知的財産権の侵害など多岐にわたります。CLOは、各事業部門と密に連携しながら、事業活動のあらゆる側面に潜む潜在的なリスクを洗い出します。そして、そのリスクが発生する可能性と、発生した場合に企業が被る損害の大きさを評価し、優先順位をつけて対策を講じます。
具体的な対策としては、契約書の雛形を見直して自社に有利な条件を盛り込む、新しい法律の施行に備えて社内プロセスを変更する、従業員向けの研修を強化して人為的ミスを防ぐ、といったものが挙げられます。この活動は、問題が発生してから対応する「事後対応型」ではなく、問題の発生そのものを防ぐ「予防法務」の考え方に基づいています。
CLOによる効果的なリスクマネジメントは、予期せぬ損失から会社を守り、経営の安定化に大きく貢献します。
訴訟・紛争解決の最高責任者
企業がビジネスを行う上で、顧客、取引先、競合他社、あるいは従業員との間で発生する訴訟や紛争を完全に避けることは困難です。
CLOは、こうした訴訟・紛争案件における企業の最高責任者として、戦略の立案から最終的な解決までを統括します。まず、訴訟が提起された場合、その内容を精査し、企業の法的立場、勝訴の可能性、そして訴訟を継続した場合の費用や時間、評判への影響などを総合的に分析します。
その上で、徹底的に争うべきか、あるいは和解による早期解決を目指すべきかといった大局的な方針を決定し、経営陣に提言します。具体的な訴訟活動においては、外部の専門弁護士(法律事務所)を選定し、彼らと緊密に連携しながら証拠の収集や準備書面の作成などを指揮します。
また、訴訟の進捗状況を常に把握し、必要に応じて戦略を修正しながら、企業にとって最善の結果を導き出すことに全力を尽くします。CLOの的確な判断とリーダーシップは、紛争によるダメージを最小限に食い止め、企業の中核事業への悪影響を防ぐ上で極めて重要です。
M&A・戦略的提携の主導
企業の成長戦略において、M&A(合併・買収)や他社との戦略的な事業提携は非常に重要な手段です。CLOは、こうした企業の将来を左右するような大規模な取引において、法務面からディール全体を主導し、成功に導く役割を担います。
M&Aのプロセスは、非常に複雑で多くの法的課題を伴います。CLOは、まず対象企業の法的リスクを洗い出す「法務デューデリジェンス」を指揮し、買収後に予期せぬ問題が発生しないかを徹底的に調査します。
この調査結果に基づき、買収価格や契約条件の交渉に深く関与し、自社の利益を最大化し、リスクを最小化するための契約内容を詰めていきます。契約交渉がまとまった後も、独占禁止法などの関連法規に基づく許認可の取得、契約締結、そして買収後の事業統合(PMI)に至るまで、あらゆる法的手続きを監督します。
M&Aは、成功すれば企業を飛躍的に成長させることができますが、法的な見落としがあれば巨額の損失につながりかねません。CLOは、その専門知識と交渉力を駆使して、戦略的取引を法的に盤石なものにする、プロジェクトの成功に不可欠な存在です。
知的財産戦略の構築と管理 (Intellectual Property Strategy)
現代の企業経営において、特許、商標、著作権、営業秘密といった知的財産(IP)は、競争優位性を確立するための最も重要な経営資源の一つです。
CLOは、これらの無形の資産を法的に保護し、さらに事業の成長のために戦略的に活用するための方策を立案・実行する責任を負います。まず、自社が生み出した発明やブランド、コンテンツなどが他社に模倣されたり、無断で使用されたりしないよう、特許出願や商標登録といった法的な権利保護手続きを確実に進めます。
同時に、他社の知的財産権を侵害していないかを常に監視し、侵害のリスクを未然に防ぎます。さらに、単に守るだけでなく、保有する知的財産をライセンス供与することで収益を上げたり、他社の特許を分析して自社の研究開発の方向性を定めたりといった「攻め」の活用も推進します。
グローバルな競争が激化する中で、知的財産戦略は企業の収益性や将来性を直接的に左右します。CLOは、法務とビジネスの両方の視点から知的財産ポートフォリオを管理し、その価値を最大化させる司令塔としての役割を担います。
法務部門の組織運営と外部弁護士の管理
CLOは、一人の法律専門家としてだけでなく、法務部門という組織全体を率いるリーダーでもあります。法務部門がその機能を最大限に発揮できるよう、組織のビジョンを示し、適切な人材の採用と育成を行い、予算を管理し、業務プロセスを効率化する責任を負います。
具体的には、部門内の弁護士や法務スタッフの専門性やキャリアプランを考慮して担当業務を割り振り、彼らの成長を支援します。また、契約書のレビューシステムやコンプライアンスに関するデータベースなど、最新のリーガルテックを導入することで、部門全体の生産性向上を図ることも重要な責務です。
さらに、企業が直面する法的課題は、社内のリソースだけでは対応しきれない場合も少なくありません。その際には、特定の分野に高い専門性を持つ外部の法律事務所や弁護士(外部弁護士)を適切に選定し、彼らとの連携を管理します。
CLOは、外部弁護士に依頼する業務の範囲を明確にし、コストが適切であるかを監督し、彼らから提供される法的サービスが企業の利益に最大限貢献するよう、効果的なコミュニケーションとマネジメントを行います。
CLO(最高法務責任者)が必要とされている理由section
CLOが必要とされている理由の根本は、法務の重要性が高まっていることにあります。
具体的には以下のような点が挙げられます。
コンプライアンスの重要視
現在、企業には高いコンプライアンス精神が求められています。
コンプライアンスとは、法令・業界ルール・一般常識・モラル・公序良俗などを遵守して公平・公正に事業活動を展開することです。
ただ単純に法律を守れば良いというわけではなく、一般常識やモラルなどの価値観によって左右される事項も守らなければいけません。
つまり、事業活動や従業員の行動がコンプライアンスを遵守したものであり続けるには、組織全体がコンプライアンスを遵守できるような環境・指揮官が必要だということです。
そのため、高度な法的専門性を活かしながら、事業活動・組織構成に関する判断、従業員の教育訓練のあり方、トラブル発生時の対応などの指揮を取ることができるCLOが必要とされています。
一般社団法人日本CLO協会の発足
2020年4月に、一般社団法人日本CLO協会が設立されました。
その結果、日本のビジネスシーンにおいても諸外国と同じようにCLOの必要性が高まっています。
特に、国際的にビジネスを主導する訴訟社会のアメリカでは、社内の人事部門・財務部門に相談しても結論が得られないような懸案事項を抱えている場面での対応について、CEO(最高経営責任者)が相談相手に選ぶのは、顧問弁護士のような外部リソースではなく、社内の最高法務責任者です。
外資系企業では、最高法務責任者をCLOではなく、GC(General Counsel/ゼネラル・カウンセル)と呼ぶケースがあります。
つまり、CLOなどの組織内の機能を強化することによって、重要な経営判断を自社内で完結することが意識されているということです。
設立された目的は、「複雑化・国際化するビジネスにおいて、企業経営の現場をリードできる実践的な法務部員・法務領域における高い専門性をもって経営意思決定をおこなう経営者・CLOを育成して、その機能を確立すること」です。日本企業の国際的な競争力を高めるために、「CLOに就任できるような人材の確保」が喫緊の課題だと考えられています。
この動きを受けて、多くの日本企業でも社内の法務部門の機能強化・経営基盤の強化を目的として、CLOを設置して優秀な法務スキル保有者を迎える動きが高まっています。
新しいビジネスモデルの展開に伴う戦略法務への対応
多様化する国際社会において継続的に事業活動を展開するには、常に新しいビジネスモデルを模索する必要があります。
その際には、新しい技術を生み出して積極的にビジネスを展開することだけではなく、他にも「現行法の制度・システムを踏まえてビジネス展開をするうえでの障壁を分析し、障壁を上手く交わすような合法的なビジネスモデルを創造すること」も重要です。
たとえば、現行法制度の規制にかからないような合法的なビジネスモデルを創出すれば、そのアイディアを技術開発に活かすことも可能です。また、競合他社が気付いていない市場を新規開拓するチャンスにもめぐりあえるでしょう。
このような背景から、現行法制度の仕組みや抜け穴を正しく理解したうえでクリエイティブな発想をおこなうことができるCLOの存在が強く求めれています。
CLO(最高法務責任者)の業務範囲section
企業の役員としてCLOが対応する業務内容について解説します。
コーポレートガバナンス
コーポレートガバナンスとは、株主・顧客・投資家・従業員・地域社会などの立場を踏まえたうえで、会社が透明・公正・迅速・果断な意思決定をするための仕組みのことです。
そもそも、企業は自社の利益を追求するのが本来の姿です。利益を得なければ、事業活動を継続することができません。
もっとも、自社の利益を追求する”だけ”の姿勢では、持続的な企業活動は難しいのが実情です。
というのも、企業はあくまでも社会の一員として事業活動を営むものである以上、全てのステークホルダーに配慮した姿勢を見せなければ、株主や投資家、地域社会などからの批判に晒されて、業績が低下するリスクに晒されるからです。
そのため、企業が自社の利益だけを追求してステークホルダーを置き去りにしないように、コンプライアンスやコーポレートレートガバナンスを重視した内部システムを構築しなければいけません。
CLOは社内の監視役として、コーポレートガバナンスを強化する諸施策の実行を求められます。
予防法務
IT化・情報化が進んだ現在、企業が不祥事を起こすと、その情報は凄まじいスピード・範囲に拡大されます。
そして、不祥事が世間に明るみに出ると、ブランド価値・社会的評価が凄まじく毀損されますし、インターネット上にさまざまな情報が残り続けるために信用回復をするのが大変です。
つまり、事業活動を展開するときには、普段から不祥事などの経営リスクが生じないようなリスクヘッジが必要だということです。
CLOには、企業が不祥事を起こさないような環境作りや、従業員への指導・教育の徹底が求められます。


法規制への対応
事業活動を展開する以上、さまざまな法規制や業界・業種独自のルールを守らなければいけません。
また、法律や各種規制は時代によって適宜改正・変更が加えられるので、事業活動をその時々の枠組み・制度にフィットさせる必要があります。
そのためCLOには、現行法制度の状況や今後の改正動向などの情報を踏まえて、事業活動を常に合法的な範囲でおこなうことができるような舵取りが求められます。
外部弁護士との連携
企業が事業活動を進めるとき、案件の規模・大きさ・専門性など次第では、外部の弁護士・公認会計士などの専門家との連携が必要なケースも少なくありません。
そして、外部の専門家と連携するときには、企業側の人材も高度な知識を有している必要があります。
なぜなら、外部専門家と同程度の知識量・スキル・能力がなければ、建設的なコミュニケーションを図ることができず、自社の利益を最大化できない恐れが生じるからです。
このようなケースで、CLOは自社を代表して外部の専門家と連携する役割を担います。
CLO(最高法務責任者)に求められる資質section
CLOになるために、必要な資質・スキルについて解説します。
高いコミュニケーションスキル
CLOは、経営陣の一角として企業の法務関係の業務を統括しなければいけません。
そのためには、日常的に法務部員などと丁寧に意思疎通を図ったり、トラブル発生時に柔軟な姿勢で事情聴取を実施できるスキルが必要です。
また、考えや悩みを上手く引き出したり、誰もが理解しやすいように法的事項などを嚙み砕いて説明できることも求められます。
リーダーシップ・マネジメントスキル
CLOは、法務部門が組織として統一的に活動できるように方向性を確立したり、法務部員の知識・スキルを底上げするために教育訓練機会を提供したりする必要があります。
また、企業活動に関してリーガルリスクが生じたときには、CLOが先頭に立って対策に踏み出さなければいけません。
したがって、CLOには法務部門の代表者として機能するために、強いリーダーシップや高いマネジメントスキルが必要です。
戦略立案力
CLOは、法的専門性を活かして経営判断に関与することが求められます。
その際には、現行の法制度・世間の動向を踏まえたうえで、戦略的にビジネスを展開する舵取りをおこなわなければいけません。
CLOとしてのキャリアを形成するには、高い戦略的立案力が必要です。
語学力
ビジネスが多様化・国際化している現在、企業が継続的に事業活動を展開するには、国内市場をターゲットにするだけでは不十分です。
企業の業種・業態・経営規模にもよりますが、ときには海外市場への進出や、海外企業との取引が選択肢に入ってくることもあるでしょう。
その際、CLOとして能力を発揮するには、高い語学力があった方が望ましいのは言うまでもありません。
海外市場の動向・法制度などを理解したり、国際的なビジネスパーソンとしてキャリアを形成するためには、最低でも英語力、他にも、中国語やスペイン語などの語学力が必要だと考えられます。
CLO(ジェネラルカウンセル)の年収は2000万円から3000万円が相場section
CLO(最高法務責任者)の年収相場は、企業の規模や業種によって大きく変動しますが、一般的に2,000万円~3,000万円程度が中心的なレンジとされています。
CLOという役職に特化した公的機関の統計データは存在しませんが、日本組織内弁護士協会(JILA)が実施したアンケート調査(2022年3月実施時点)が有力な参考資料となります。
この調査によると、役員やジェネラル・カウンセル(CLOに相当)として勤務する企業内弁護士の年収で最も多いボリュームゾーンが「2,000万円~3,000万円未満」でした。


※2023年以降のアンケート結果から『役員・ジェネラルカウンセル』における年収表記はなし
この水準は、一般的な法務部長クラス(1,000万円~1,500万円程度)を大きく上回ります。CLOは単なる法務部門の長ではなく、経営戦略やガバナンスに直接関与する役員の一人であり、その経営責任の重さが報酬に反映されるためです。
特に、売上高が数千億円を超える大手企業や、複雑な国際取引を多く手掛けるグローバル企業、あるいは外資系企業においては、CLOの役割が極めて重要になるため、年収はさらに高くなる傾向があります。
そうした企業では、ストックオプションなどのインセンティブ報酬を含めると、年収が5,000万円を超えるケースも珍しくありません。逆に、中堅・中小企業の場合は、上記の相場よりも低い水準となることが一般的です。
CLO(最高法務責任者)の就任・選任事例5選section
近年、企業経営における法務の役割は、単なるリスク管理(守りの法務)に留まらず、事業成長を積極的に後押しする戦略的な役割(攻めの法務)も担うようになり、CLO(最高法務責任者)の重要性が増しています。以下に、CLOの就任・選任事例として5社の詳細を解説します。
株式会社LegalOn Technologies
AI契約審査プラットフォームを提供するLegalOn Technologies(旧:LegalForce)は、経営体制強化を目的として、佐々木毅尚氏をCLOに迎えました。
佐々木氏は、YKKや太陽誘電といった大手企業で法務部長を歴任し、企業法務、コンプライアンス、リスクマネジメント、国際法務など幅広い経験を有します。特に、太陽誘電では法務部門のマネジメントやリーガルテック活用による改革を推進した実績を持ちます。
同社では、その豊富な知見を活かし、事業成長を支えるための内部統制やコンプライアンス体制の強化をCLOとして主導しています。法務サービスの提供企業として、法務のプロフェッショナルを経営の中枢に置くことで、事業と組織の両面を強化する狙いがあります。
参考:LegalForce 経営体制強化CLO(最高法務責任者)に元太陽誘電 佐々木毅尚氏が就任
株式会社メドレー:今仲 翔氏
株式会社メドレーは、2021年11月1日付で今仲翔氏を執行役員 法務統括責任者に選任しました。 今仲氏は、大手法律事務所である森・濱田松本法律事務所のパートナー弁護士として、M&Aを中心に幅広いコーポレート案件に従事してきた経験を有します。
メドレーは、同氏の豊富な経験と法務に関する深い知見が、事業の成長とガバナンス体制の強化に不可欠であると判断しました。法務の専門家としてだけでなく、経営陣の一員として事業成長を法務面から力強く牽引する役割が期待されています。
参考:https://www.medley.jp/notice/20211101.html
株式会社LIFULL
2024年4月、不動産情報サービス大手のLIFULLは、新CLO(最高法務責任者)に平島亜里沙氏を任命しました。これは、同社が「第2創業期」と位置づけ、「チーム経営」を強化する一環です。
平島氏は弁護士としてキャリアをスタートし、大手法律事務所や日本マイクロソフトでの勤務を経て2017年にLIFULLへ入社、法務部門の責任者を務めてきました。今回のCLO就任では、従来のコンプライアンスやガバナンス体制の維持・向上といった「守りの法務」に加え、事業の伴走者・牽引者としてビジネスを加速させる「攻めの法務」機能の強化が期待されています。
経営陣の一員として、より高い視点から事業推進を法務面で積極的に支援する役割を担います。
参考:株式会社LIFULL、チーム経営強化に向けた新CxO および事業CEO・責任者就任のお知らせ
ソフトバンクグループ株式会社
グローバルに多様な投資・事業を展開するソフトバンクグループは、2020年9月にティム・マキ氏をグループ・コンプライアンス・オフィサー(GCO)に任命しました。
これは実質的にグループ全体の法務・コンプライアンスを統括するCLOに近い重要な役割です。同氏は2018年から同社の法務部門に在籍し、それ以前はグローバルな法律事務所で13年以上の勤務経験を持つなど、国際的な法務実務とコンプライアンス体制構築に豊富な知見を有しています。
複雑化する事業環境や多様な国際取引に対応するため、グループ全体で最高水準の法的・倫理的行動を推進することが求められており、マキ氏の就任は、グローバルベースでのコンプライアンス体制を一層強化するための戦略的な判断と言えます。
参考:ティム・マキのソフトバンクグループGCO就任について
パナソニック ホールディングス株式会社:松本 道正氏
パナソニック ホールディングス株式会社では、松本道正氏が常務執行役員としてCLO(チーフ・リーガル・オフィサー)を務めています。
同氏は、リスクマネジメントや薬事担当も兼務しており、法務領域にとどまらない広範な責任を担っています。 グローバルに事業を展開し、多岐にわたる製品・サービスを提供する同社にとって、グループ全体のコンプライアンス体制の強化、法的リスクの適切な管理は経営の根幹に関わる重要課題です。
CLOとして、経営戦略に法務の視点を統合し、持続的な成長を支えるためのガバナンスを構築する役割が求められています。
CLO(最高法務責任者)になる3つの方法section
CLOをなるための代表的な3つの方法をご紹介します。
社内でCLOポジションに昇進する
CLOなどの役職が普及し始めた段階の日本のビジネスシーンでは、いきなり外部の人材をCLOとして招聘するのではなく、「社内でキャリアを積んだ優秀な従業員が出世をしてCLOになる」というパターンが一般的です。
法務部門で着実に成果を上げながら主体的に法的専門性や経営ノウハウを習得し、時間をかけてCLOへの昇進・昇格を目指すのがもっとも現実的な方法だと考えられます。
CLOポジションがある企業に転職する
CLOの重要性に対する認識が広まっている現在、まだまだ数は少ないですが、CLOの求人を出している企業が増えています。
もちろん、CLO求人の転職倍率は高く、また、相当のキャリアや即戦力性がなければ採用には至らないでしょう。
すでに法務部門で一定のキャリアを積んでいたり、転職希望先企業が求める人材像にフォーカスできたりすれば、CLOとしての採用も不可能ではありません。
なお、CLOを目指す転職活動をおこなうなら、自分だけの力で情報を収集したりするよりも、転職エージェントなどを活用して効率的に転職活動を進めるのがおすすめです。
弁護士資格を取得してCLOに転職する
CLOには、高い法的専門性が求められます。
たとえば、高い法的スキルを示す材料として、法務部門での実務経験が挙げられます。法務でのキャリアがあればあるほど、CLOの転職市場でも高い評価を得られるでしょう。
そして、CLOの転職活動でもっとも強い武器になるのが「弁護士資格」です。
法律の専門家として最高基準の資格であり、弁護士としての実務経験・企業法務経験は、CLOとしての転職活動が有利になります。
しかし、難易度が高い資格です。
弁護士資格を取得するには、司法試験予備試験に合格するか法科大学院を卒業するかによって司法試験受験資格を取得し、そのうえで、司法試験に合格する必要があります。
社会人が司法試験合格を目指すなら、予備校の利用なども視野に入れながら戦略的に行動しなければいけないので、丁寧に中長期的なプランで臨みましょう。
まとめ
CLOへのキャリアルートを描くには、法務部門での実務経験や法律関係の資格などの即戦力性のある法的素養や、経営陣の一員として組織を束ねることができるリーダーシップ性などを備えていることを客観的にアピールできる材料が必要です。
たとえば、すでにCLOに就任できるだけのスキルを有しているなら、積極的に各種転職サービスを利用して、CLO求人情報にアクセスするべきでしょう。
その一方で、現段階では即戦力としてCLOに就任できるほどのキャリア・スキルを保有していないなら、CLOへのキャリアアップを見据えた中長期的な成長プランを作成しなければいけません。
ハイクラス転職エージェントを利用すれば、専門の担当者が現在の市場価値を分析したうえで、CLOを目指すために役立つキャリアパスを提案してくれます。
法的スキルの習得や法務での実務経験は短期間では習得できないので、できるだけ早いタイミングで転職活動に踏み出しましょう。






















