近年、企業に求められるコンプライアンスの高まりもあって、企業の拡大やガバナンス強化のために新たに内部監査人を採用したいと考え始める会社も増えてきています。
監査とは、監査法人に委託をして外部監査を行うことがポピュラーですが、社内の法令を遵守したり、システムが正しく機能していることを確認したりすることで、内部統制を高めていく企業も多いです。
ただ、先にお伝えすると内部監査の中途採用は難しいと言えます。もともと少ない監査経験者ですが、数が少ない上に多くが監査法人を目指して転職することになり、一般企業の監査室に転職しようと考える人が少ないことが理由に挙げられます。
このように、難航しやすい内部監査の採用ですが、どの部分に気をつけて採用活動をすれば良いのか?どのような人物が内部監査人に向いているか?などをご紹介します。
内部監査の採用状況section 01
まず、内部監査の採用状況についてお伝えします。上でも触れましたが、内部監査の採用は難航することが予想されます。どのような理由で内部監査の採用が難しくなるのかを知っておきましょう。
基本的には経験者を採用する
内部監査の仕事は、高い専門性や知識を要することになるため、基本的には監査の経験者を採用することになるでしょう。
ただし、後述するように監査の経験者の数が少ない上に、多くが監査法人を転職先として考えています。
そのような転職市場でのライバルに勝っていくためには、企業としての魅力や報酬面での優遇などで差を出していく必要があります。
内部監査の経験者は少ない
繰り返しますが、監査法人で働いていた人は、そのまま監査法人での求人を探すことが多いので、内部監査としての求人になかなか応募してくれないこともあります。
特に監査法人で働く人であれば誰もが目指す「BIG4監査法人」の平均年収は1,000万円を超えてくるため、条件面で不利になってしまうことも起こり得るでしょう。
このようなことから、内部監査の採用が難航してしまうことも予想されます。内部監査の採用がうまくいかない時の対処法についても本記事で解説します。
優秀な人材は大手監査法人に流れがち
上でも触れましたが、監査の経験・知識を十分に持っている人は、大手監査法人を目指していく方も少なくありません。
平均年収1,000万円を超える高待遇も人気の要因ですが、教育・研修の充実度や顧客に日本を代表する大手企業が多数あり、監査人としての成長も大きく見込める働き先であるため、優秀な人であれば少なくとも転職先の候補には入れていることでしょう。
そのような強力なライバルに勝って採用を勝ち取るためには、自社の魅力を十二分に理解してもらって共に働きたいと思ってもらえる組織作り、大手にはない部分での好条件の工夫などを凝らして挑む必要があります。
採用する人の年齢が高くなりがち
内部監査を遂行するためには、高い知識とスキル、経験が求められます。そのため、即戦力の内部監査を採用しようとすると、40代の応募が主になってくることでしょう。
例えば、若くして急成長した企業であれば、社長を含めた他の従業員との年齢差が出てしまうこともありますし、年齢に応じて給料も高くなってしまうようなことも起こり得ます。
内部監査の主な仕事内容section 02
こちらでは、内部監査の主な業務内容や外部監査との違いをご紹介します。内部監査の採用を考えているのであれば、具体的に採用する人にどの業務を担当してもらうかあらかじめ決めておきましょう。
内部監査の業務内容
内部監査の主な目的は、社内で法令が守られているか?会計帳簿が正しく記されているか?などを確認することです。主な業務内容として、次の監査があります。
- 会計監査
- 適法性監査
- IT監査
会計監査
会計監査では、経理部門でのお金の流れに不正や誤りがないかを確認し、間違いがあれば正していく役割があります。
監査を行う立場であるということは、会計に関する知識は必須で、公認会計士などの資格をもつ人物が監査人になっていることも多いです。
適法性監査
社内業務や職務に不正がないかどうかを調べ、法律・社内規則が遵守されているかを確認する適法性監査も内部監査の重要な仕事内容です。不正や違法性があった場合には、即座に経営者に報告し、指導して改善を求める必要があります。
こちらも法律に詳しい人物でないと監査できる立場にもなれないため、社会保険労務士の資格を持つ人などが監査人を務めることも多いです。
IT監査
会計や労務など、会社内の業務の中に様々なITツールを導入することが当たり前になってきています。そこで、ITツールが正しく機能しているか?正しく使えているか?などを監査する必要性も出てきます。
会計・法律の知識に加えて、ITに関する知見も必要とされます。
内部監査と外部監査の違い
内部監査と外部監査の大きな違いは、監査する人物が社内の人が外部の人かの違いです。通常、内部監査では社内で雇っている内部監査人が行いますが、外部監査では、委託した公認会計士や監査法人が監査を行います。
また、監査の対象も違いがあり、内部監査では上記のような企業活動全般に関わる内容を監査することに対し、外部監査では決算書の適正性を監査する会計監査が主になります。
内部監査を外部に委託することも可能
会社法における大会社(資本金5億円以上等)は、内部統制を取ることが義務付けられていますが、それ以外の会社は内部監査がなくても問題ありません。
ただし、健全に会社を運用していくためには内部統制を行う必要性は高く、大会社以外でも内部監査を行うことは望ましいです。
ここまでお伝えしたように、内部監査の採用が難航しやすかったり、採用・教育等のコストもかかったりすることも考えると、内部監査の一部を外部委託する選択肢も持っておいて良いでしょう。
内部監査ということで自社社員をイメージされる方も多いでしょうが、内部監査業務を外部の監査法人等に委託する方法もあります。
内部監査の給与の目安section 03
内部監査の採用をする場合、どの程度の給与に設定しておけば良いのか頭を悩ませてしまいますね。こちらでは、内部監査の平均年収をご紹介しますので、参考にしながら求人の給与を決めていってください。
まず、各転職サイトで出されていた内部監査の平均年収をまとめると次の通りになりました。
職業 | 平均年収 | 平均月収(÷14ヶ月分) | 参照サイト |
---|---|---|---|
内部監査 | 699万円 | 49.9万円 | doda |
内部監査 | 625万円 | 44.6万円 | 求人ボックス |
監査担当者 | 611万円 | 43.6万円 | Indeed |
内部統制 | 568万円 | 40.5万円 | 転職会議 |
内部監査の平均年収は600万円前後、月収にすると40万円前後が相場になりそうですね。ここから未経験OKの求人であれば、少し下限を下げるなどして調整していきます。
参考までに、監査法人の平均年収を挙げると次の通りになります。
法人規模 | 平均年収 |
---|---|
BIG4監査法人 | 1,161万円 |
準大手監査法人 | 653万円 |
参考:マイナビ会計士
大手と言われるBIG4監査法人は、平均年収が1,000万円を超えてきますので、公認会計士などの監査に有利な資格を保有している方らかも応募も多い人気の法人に挙げられます。
その一方で、倍率も非常に高くなりますので、BIG4監査法人で採用されなかった方を、内部監査として迎え入れるような戦略を取ることもできますね。
内部監査の採用で求められる人材section 04
内部監査の人材を採用しようとしている方は、滅多に採用する職種でもないため、どのような人を採用すべきか分からない部分も多いことでしょう。内部監査に向いている人の特徴を挙げていきますので、どのような人を本採用にしていくべきか決める参考にされてください。
経験者や類似業務の経験をもつ人
上記で監査の経験者を採用することが通常だとはお伝えしましたが、監査の経験者が転職市場に出回っていなくて、なかなか応募が来ないようなことも起こり得るでしょう。
その場合、監査業務は未経験でも類似業務の経験があれば、内部監査として働く際の知識を吸収しやすく、比較的に早くから業務に馴染むことが期待できます。
具体的には、会計事務所での勤務経験や財務諸表に関する業務、金融機関での営業経験などが挙げられます。
また、どうしても採用が難航しているようであれば、自社内で上記の業務を携わっていた人物に対して、監査室への人事異動を検討してみても良いかもしれません。
コミュニケーション能力が高く、指摘・指導ができる人
内部監査人は、他部署の従業員に細かい部分を指摘する場面も出てくるため、残念ながら嫌われてしまうような役回りになってしまうこともあります。反対に距離が近すぎることで客観的な監査に支障が出てきてしまうため、適度な距離感も必要です。
しっかりと監査の任務を遂行しつつも、従業員に気持ちよく働き・改善してもらうためには、優れたコミュニケーションによる伝え方ができることが重要です。
また、普段は十分なコミュニケーションが取れる方でも、人に対して指摘をすることが苦手で強いストレスを感じてしまう人もいます。面接時などでは、過去の経験から問題があった社員や部下に対してどのような指導をしてきたか聞いてみても良いでしょう。
客観的に判断できて洞察力がある人
内部監査人は社内の人物とは言っても、他の部署・従業員と少し距離を置いて客観的に法律や就業規則の判断をしなくてはなりません。上でコミュニケーション能力の高さは大事だとお伝えしましたが、特定の人と親密になりすぎて不公平な判断をしてしまうようであれば、内部監査人には向いていません。
また、社内の不正やシステムの不具合をいち早く発見するためには、「人・物・金」の動きには常に敏感である必要があり、洞察力に優れている人が求められます。
ITリテラシーが高い人
近年では、経営をする中でも様々なITを取り入れる企業が増えてきています。そこで、ITツールが正しく機能しているかを監査するIT監査も重要な業務に挙げられるようになりました。
ITになじみの深い若年層はともかくとして、監査業務をやってきた人だけで見ればITが苦手という人も多いので、面接時には業務でITに関わった経験をきちんと確認しておきたいですね。
特に内部監査の求人では、応募者の年齢層が高くなることも予想されますので、これまでにITに触れて来なかった方がいきなりIT監査を開始することで、1つのハードルが生じてしまうことにもなるでしょう。
内部監査の採用で重要視する資格section 05
内部監査には高い知識と経験が必要だとお伝えしましたが、関連資格の有無はその人の技術や知識を手っ取り早く判断できる大きな材料となります。もしも次の資格を保有している人からの応募があったなら、積極的に話を聞いて採用候補に挙げていきましょう。
公認内部監査人(CIA)
公認内部監査人の資格は、内部監査を行う監査人の能力を示すための国際的な資格で、資格認定試験は世界190ヵ国の国と地域で実施されています。
日本においては、2020年時点で資格保有者が1万人ほどしかいない珍しい資格ですが、もしCIAの資格保有者からの内部監査への応募があった場合には、内部監査の能力は申し分ないと判断できますので、積極採用したいですね。
また、有価証券報告書でCIA資格保有者がいることを情報開示することもでき、社外からの信頼も高めることができる非常に価値のある資格です。
公認リスク管理監査人(CRMA)
公認リスク管理監査人の資格は、内部監査に欠かせないリスクマネジメントに必要とされる能力の高さを証明する資格となります。2023年段階では、英語での試験しか実施されておらず、国内での資格保有者は非常に少ないです。
採用活動中に巡り会える可能性も非常に低い資格ですが、資格保有者は高いリスクマネジメント管理ができると判断できますので、もし応募者の中に保有者がいればそれだけで採用の最有力候補にできるほどの資格と言えるでしょう。
内部監査士(QIA)
内部監査士は、日本内部監査協会が主催する内部監査士認定講習会を終了した人に与えられている称号です。
内部監査にまつわる一通りの知識・技術を学べるカリキュラムが用意されていますので、内部監査に対する知見がある証明にすることができます。
また、受講に20万円以上かかり(非会員の場合)、安易な気持ちで受講できる額でもないため、内部監査に対して高い意欲があると判断することもできるでしょう。
公認会計士
監査法人の求人でも、多くが必須とされている公認会計士の資格ですが、内部監査業務でも公認会計士の資格は非常に有効です。
公認会計士は、企業の財務情報の監査のスペシャリストですので、会計監査での応募をするのであればぜひ保有者を見つけていきたいですね。
その一方で、難易度も高い資格ですので、資格保有者は非常に優秀で、多くの企業からも引く手数多でしょうから、採用する条件面での折り合いもつけていかなくてはならなくなるでしょう。
内部監査人の採用が難航している場合の対処法section 06
何度かお伝えしているように、内部監査人の採用は、経験者が市場に出てきにくかったり、監査法人に応募が流れてしまったりして、採用活動が難航することも予想されます。
内部監査の採用がなかなか決まらないようなケースでは、次のような方法も取ってみてください。
内部監査を外注する
外部監査と別で内部監査人を採用しようとしているとは思いますが、実は外部の専門家や監査法人に代理人となるように委託して、内部監査員にすることも可能です。
社内で内部監査人を任命しようとすると、採用から教育・研修などのコストもかかってきます。将来的にも内部統制をしっかり整えていきたいようであれば、地盤を固めることも大事ですが、目の前のコストだけで考えると、委託の方が簡単に低コストで内部統制を整えられることもあります。
事業で関わっている社労士や公認会計士、監査法人などを探ってみると、案外低コストでの内部監査が実現できるかもしれません。
社内での異動を行う
内部監査の業務に必要な資格はありませんので、現社員に異動してもらって監査室を作る・人員を補充する方法もあります。
内部監査と関連が深い職種といえば、財務や経理、会計、労務などがありますが、そちらの方が応募も多く採用もしやすいでしょう。上記の部署から監査室に移動してもらって、減った人材を新たな採用で補充していく方法です。
ただし、本人の意思と乖離していると不満や退職に繋がることも起こり得るため、本人に内部監査業務の理解と納得をしてもらってから異動を決めると良いでしょう。
内部監査人は、将来的に幹部職や役員になるためのステップにしている企業も多くあります。そのような将来的なビジョンも一緒に伝えて提案することで、相手も納得して応じてくれる可能性が高まるでしょう。
まとめ
こちらの記事では、内部監査の採用についてお伝えしました。要点をまとめると次のようになります。
採用の傾向 | 経験者が求められるが転職市場に少ない 優秀な人材は監査法人に流れがちである 経験者は40代以降の場合が多い |
---|---|
求める人物像 | 経験者または類似業務の経験をもつ コミュニケーション能力が高く、指摘・指導ができる 客観的に判断できて洞察力がある ITリテラシーが高い 公認会計士や内部監査関連資格の保有者 |
採用以外の方法 | 外部に委託する 会計・労務・経理などの現社員を異動する |
給料の相場 | 年収:600万円前後 月収:45万円前後 |
内部監査の採用に難航してしまうことも予想されますが、求人を出す際も管理部門に特化している転職サイトに絞って掲載したり、他の内部監査の応募を参考にしながら条件を固めたりするなどの工夫をして、少しでも応募が多くなるように取り組みましょう。
また、応募が来なかった場合には外部委託や社内での異動などでの対応も可能です。臨機応変に、転職市場の状況に合わせて最適な方法を取っていきましょう。