POSTED 2022/06/02

IPO・上場の失敗例や原因に学ぶIPO成功へのステップ

川村将輝(弁護士)のアバター
旭合同法律事務所

川村将輝(弁護士)

  • URLcopy

IPOとは、Initial Public Offering(新規株式公開)のことです。会社が発行している株式を、市場(証券取引所)での取引対象とし、株式の流動化を図る効果があります。IPOには、通常、申請までに2期分~3期分の事業年度を要します。その中でIPOを試行し、上場する企業もあれば、そうでない企業もあります

後者は、8割と言われています。では、IPOを成功に導くにはどのような戦略や取り組みが必要なのでしょうか。

今回は、主な上場の失敗例と主要な原因を分析していきます。また、具体的なケーススタディとともに、考えられる解決策や成功へのステップまで解説していきます。

目次

社外取締役マッチングサービスなら
「ExE(エグゼ)」
Executive Introduction Solution

上場企業等での社外役員経験や非常勤監査役経験を持つ専門家をご紹介。
社外役員兼務社数4社以下、経験年数10年以上、女性社外役員など、
190名以上のプロフェッショナルとマッチングが可能です。

社外役員への就任希望の方はこちら

上場に失敗する主な理由と事例section

株式の上場において、失敗する主な理由は何でしょうか。具体的な事例なども交えてみていきましょう。

内部統制の不備

まず、内部統制の不備が挙げられます。内部統制の不備は、後述するような不祥事が生じた場面で顕在化しますが、内部監査の段階で不備が明らかになることが多いです。内部統制に関する制度構築や運用については、いわゆるJ-SOX(内部統制報告制度)があります。J-SOX対応に際して、自社の内部統制について評価を行い、これを報告した上で監査を受けることになります。

適正な財務書類の作成の観点から、内部統制に不備があると、内部監査ではじかれることになります。法務としても、いわゆる内部統制システムが義務付けられますので、その観点からも影響があります。

制度会計のリスク

制度会計は、会計に関し、会社法や金商法に定められた制度の下、一定の基準に従って行われる会計のことをいいます。制度会計における法律には、会社法、金商法、そして法人税法の3種類があります。これら3つの法律は、通底しているようで異なるため実際上の基準が一致しません。

その点で、制度会計における失敗のリスクがあります。

まず、会社法や金商法では、細かな会計基準が定められているほか、会計士による監査が行われます。そして、それは基本的に、会社の事業活動において公正かつ妥当な会計を規律することにより多数のステークホルダーへの情報提供や投資判断の機会確保を図る趣旨から、上場会社を中心に適用される規律です。

反面、中小企業では、そうした細目的な会計基準や監査などを行う必要がないため、上場会社と同様の水準での会計業務フローが確立されていません。実質的には、会社法の一部や法人税法における会計基準を満たすだけで足ります。

しかし、IPOに際しては、そうした上場企業の制度会計の基準に適合していく必要があります。そうした上場後の基準への適合を考えた会計フローの構築を怠ることで、上場失敗になるリスクがあります。

業績未到達

業績の予実が未到達であることも、上場することを妨げる障害となります。グロース市場では、上場後10年経過後に時価総額が40億円に達していなければ、上場維持基準を満たさないことになります。

上場維持基準における時価総額
時価総額:40億円以上(上場後10年経過後から適用)
・テクニカル上場した会社においては、当該上場会社を上場廃止となった会社と同一のものとみなして、上場期間が引き継がれます。
・上場維持基準に適合しない状態となった場合には、1年内に上場維持基準に適合しなかったときは、上場廃止基準に該当します。
・経過措置を適用しているグロース市場の上場会社は、「40億円以上」を「5億円以上」とします。
[参考]上場維持基準の詳細|日本取引所グループ

上場するまでに、一定の業績規模がなければ、中長期的な経営計画の中で、上場後の時価総額40億円という基準への到達が見込めない場合、一度上場にこぎつけたとしても、結果として失敗に終わるリスクがあります。

不祥事などによるレピュテーション低下

また、上記のような内部統制の不備や、制度会計におけるリスクが顕在化し、事業活動において法令違反や不正会計・粉飾決算などの事例などが生じると、レピュテーションの低下により、上場が見込めなくなる可能性もあります。

そうしたコンプライアンスレベルでの問題でなくても、様々なサービス上のトラブル事案が発生すると、情報が拡散し、レピュテーションの低下を招く例もあります。このようなレピュテーションリスクは、情報社会であることや、ステークホルダーの信用により市場が左右される実情から、上場失敗の原因となりうるのです。

近年のコロナ禍による上場承認後の取消し

上場の「失敗」ではなくても、時期を遅らせる「延期」のパターンもあります。2020年1月から6月の6か月間のうち、東京証券取引所では合計53社(TOKYO PRO Market5社含む。)の新規上場が予定されていたものの、3月と4月に合計18社の上場承認が取り消されました

社会情勢が急転した場合、上場審査を通った後のタイミングであっても、上場後に予想していた業績到達の見込みが立たなくなることもあります。その結果、上場を取り下げ、結果上場承認が取り消しとなるのです。

特に、コロナ禍は社会の産業構造の転換の契機となるものであったことから、多くの企業が、新しい標準に順応し、市場を見極めていくことに非常に苦戦を強いられました。

上場までのフローと主要な失敗例の位置づけsection

より具体的に、失敗例を分析するため、上場までのフローとともに、主要な失敗例を位置づけて分析していきます。

上場までのスケジュールとタスクフロー

上場までのスケジュールは、一般的に、上場申請期をNとし、そこから数えてN-1、N-2、そしてそれ以前の段階という大きく4つに分かれます。初めに、N-2以前の時期に、ショートレビューにより、社内の組織体制、事業実績、内部統制の状況などを分析して、上場するために必要な施策とステップを洗い出す作業を行います。

N-2からN-1(直前期)までは、財務諸表監査と内部統制報告制度(J-SOX)への対応の2つを軸に行われます

財務諸表監査は、会社法上の計算書類に関する監査(会社法436条)のほかに、2人以上の公認会計士又は監査法人により、監査、中間監査、あるいは四半期レビューを受け(有価証券上場規程204条6項、同施行規則207条2項)、金商法に準じて、監査証明を受ける必要があります(金商法193条の2第1項)。

内部統制報告制度対応は、上場後において、内部統制報告書の作成と内部統制監査が行われることから、その実施のための準備をすることになります。内部統制の構築と運用の仕組みづくりを前提として、主に、内部の業務フローの可視化などをした上で、その評価をすることです。

そのほか、全体として、コンプライアンス体制に関し、主幹事証券会社や証券取引所の審査を受けます。一律の基準などはありませんが、個々の事業における法令対応・規制対応がなされる仕組みづくりがチェックの対象になります。

時期準備すべき事項
上場申請3期前(N-3)株式の上場を行う上で整備すべき社内体制、会計制度、資本政策などの課題抽出→ショートレビュー
上場直前々期(N-2)
上場直前期(N-1)
財務諸表監査 内部統制報告制度対応など
上場申請年度(N期)上場企業として備えるべきガバナンス体制、IR制度の構築と運用
株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック|日本公認会計士協会を参考に作成

主な失敗例の位置づけ

上記でご紹介した主な失敗例を、IPOのステップ・フローに位置づけていくと、次のようになります。

  • 内部統制の不備→J-SOX対応のところ
  • 制度会計のリスク→J-SOX対応や、それ以前のショートレビュー
  • 業績未到達→審査基準の未達

イメージすると次の通りです。

上場申請3期前(N-3
制度会計のリスク

【ショートレビュー】
株式の上場を行う上で整備すべき社内体制、会計制度、資本政策などの課題抽出

上場企業として備えるべきガバナンス体制の構築と運用

上場直前々期(N-2
内部統制の不備

【財務諸表監査】
【内部統制報告制度対応】など

上場直前期(N-1
内部統制の不備

上場申請年度(N期)
業績未到達

上場審査

IR制度の構築と運用

失敗が生じやすいステップ・時期

そうすると、上場の失敗、ないし延期が生じやすいタイミングは、次のようなパターンが考えられます。

  • N-3からN-2の時期に、ショートレビュー監査でひっかかる
  • N-2からN-1の時期に内部統制報告における評価から監査の過程でひっかかる
  • N-1から申請期に、業績未到達が上場審査基準でひっかかる

また、様々な不祥事に関しては、すべての期間において、失敗あるいは延期の原因となります。これらは、内部統制の不備や、制度会計への対応における会計業務フローに適合させることができないリスクが顕在化した結果です。

なお、業績の未到達や、それに伴う形での株価上昇が予測より大きく下回るような場合は、上場承認後のステップで上場承認が取り消され、延期となることもあります。

上場失敗の要因4つsection

では、上場失敗の要因は、どのような点にあるのでしょうか。4つご紹介していきます。

ベンチャー・スタートアップの特質

ここにいう「特質」は、中央集権的な指揮系統です。特に先端事業を手掛けるベンチャーやスタートアップを中心に、急速な成長を遂げていく企業ほど、トップの求心力とPDCAの実行力、あるいはカリスマ性により、実績や知名度を猛スピードであげていきます。

その中で、社内外の評価を受けていくため、経営体制が中央集権的になりがちです。他方で、IPOを成功させ事業をより拡大してグロースさせていくには、権限を分散させて、トップの影響力に依存する体制から脱却する必要があります。

一強の経営判断になってしまうと、経営に対する客観的な評価やモニタリングの実効性が低くなるからです。

社内の業務フローや会計フローの不明確さ

小規模の会社では、意思決定の業務フローも簡素で、複雑な稟議なども設けられていません。しかし、業務を多角化させ、拡大していくにつれて、業務も細分化してきます。細分化された業務は、ITなどで効率化したり、人材を採用しつつ業務を整理していくことになります。

もっとも、それを逐一1つの書面に一元化したり、図式化するなどの作業を丁寧にすることには、手が及んでいないこともあります。内部統制報告書の作成にあたっては、業務記述書や業務の流れ図を作成することになりますが、その段階で初めて内部統制や会計フローの問題が表面化することがあります。

危機管理対応フローの不備

事業におけるトラブル事案の予防策は講じていることへの意識は、多くの企業でも力を入れるところです。もっとも、実際にトラブル事案が発生した場合の対応フロー、外部との連携による綿密な対応策が手薄になる場合もあります。

いざ、不祥事が起きた際に、迅速な判断と対応ができないことにより、レピュテーションリスクが高まります。現代では、SNSの発展により、情報の拡散が早く、広範に及びます。特に、ToCのサービスではその傾向にあります。

不祥事やトラブル発生の情報が拡散するまでの対応に不備があることで、業績低下に波及して上場失敗の要因になります。

上場知識のある人材不足

上場に向けては、CEOを中心に役員が、スケジュール感やタスクの実行を管理していくことが重要です。さらに重要なのが、より現場に近い、部署ごとの責任者が役員と同じ目線でスケジュール感やタスク管理・実行を現場に浸透させることができるという点です。

現場の人たちにとって、IPOに向けたスケジュールやタスクの進捗、そして日々の業務がIPOに至る過程でどのように位置づけられるのか、十分に認識できていないと、現場でのスピード感が実際のスケジュールに追いつかないおそれがあります。

社内教育の中で、従業員に対し十分に認識を共有する機会の確保が手薄になることは、上場知識のある人材の不足の要因となります。。

上場の失敗を避けるために考えられる解決策section

上記のような失敗の要因に対して、IPOを成功に導くためにどのような解決策が考えられるでしょうか。

適時適切で段階的な権限の分散化

上場するにあたって内部統制を最適化するには、経営の管理(マネジメント)または監視(モニタリング)を強化することが必要です。こうしたマネジメント機能やモニタリング機能を高めるには、中央集権的な影響力を分散化することで、専横的な意思決定を排除していくことがポイントです。

事業フローと意思決定を明確にする

また、N-3以前の段階から、経営陣の中で上場を明確な目標とした段階で、事業フローの見直しや効率化・自動化しつつ、かつヒューマンエラーを最小限にするなどの工夫をすることが考えられます。

その際に、事業フローを可視化して、それぞれの段階でどのような決裁者がどのような判断材料で意思決定をしているのかを明確にする必要があります。さらには、会計業務に関して、経理を中心に取引がどのように処理されて書類に計上処理されているのか、そのチェックの過程を1つ1つ分析していくことが重要です。

マーケットフィットを志向すること

また、社内の組織に関する改善のほかに、業績向上にあたっては、上場後の事業展開のイメージのもとマーケティング戦略を的確に行うことが重要です。

上場後の事業展開で、業績の拡大を図っていくには、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を軸としていくことがポイントになります。それは、上場申請期を設定した時期の将来予測にとらわれず、実際に上場準備を進行していく中で随時修正を図っていくことが重要です。

最適な社内人材登用・教育を

上場へのステップとプロセスの遂行に長けた人材の登用をしていくことは、重要です。それ以上に、上場を見据えつつ、ショートレビュー以前の段階で、自社の展開する事業の性質と事業課題を特定した上で、課題解決に最適な経営人材を登用していくことも必要です。

上記のように、IPOは経営陣全体として、イニシアチブを取ってIPOに向けた課題解決をしていく必要があるからです。そして、社内の従業員にも、IPOに向けたステップとフロー、そして課題感を共有していくことが重要です。

上場に失敗してから成功させた事例section

上場に失敗してから成功に至った具体例をみていきましょう。モバイルファクトリーに関する事例です。

失敗に至る経緯

モバイルファクトリーは、2000年代から台頭したネット・モバイルに関するサービスを展開する企業です。当時のインターネットサービスの興隆の波に乗り、業績が向上。急成長していたところ、当時の東証マザーズへの上場を目指していました。具体的には、2006年に上場を試みていました。

しかし、ライブドア事件により、モバイルファクトリーも、様々なモバイルサービスを展開していた点でライブドアを含むインターネットビジネスに属していたことから、業績や株価への影響が生じました。結果、上場は失敗に終わりました。また、その後、2009年にも上場に挑戦しますが、ここでも、リーマンショックによる世界的な金融恐慌の波に飲まれました

そのため、やはり業績が目標値に到達せず、上場は見送らざるを得ない状況となり、結果失敗となりました。

原因分析と改善策の実行

いずれも、要因としては、ライブドア事件やリーマンショックなど、外的なものであったといえます。そのため、あえて内部的なところにテコ入れをすることなく、社会情勢を踏まえた市場の再開拓やマーケティング戦略を構築し、改善策を実行していきました

成功に至った要因

2010年代から、高性能電子媒体であるスマホの普及により、日常的に人が様々な場面で使う機能がアプリという形で一元化されていくことになりました。その結果、モバイルファクトリーが開発していたソーシャルアプリがヒットするようになり、業績が回復、ないしはモバイルコンテンツ事業との相乗効果により業績が急成長しました。

そして、2015年3月に、モバイルファクトリーは東証マザーズへの上場を成功させました。

モバイルファクトリーの例では、業界情勢や社会情勢という外的な要因によるものでした。成功への要因となったのは、そのような外的要因に対して、悲観するのではなく、次に大きな市場となるマーケットを見定め、戦略的に既存のプロダクトの向上と、新製品の開発を進めて時機を捉えたことにあるといえるでしょう。

まとめsection

上場の失敗は、様々な原因があり、IPOまでの段階ごとに特徴があることがお分かりいただけたかと思います。失敗から成功に至るには、社内的な改善事項と、対外的な事業戦略構築が重要です。ポイントを4つにまとめていくと、次の通りです。

  1. 相談や適切な知見・フィードバックを得るチャンネルを複数用意する
  2. チャンネルごとに必要な要素ごとに専門家を
  3. 社内外のコミュニケーションを豊富にし、役員だけでなく管理職から従業員まで、IPOに向けたスケジュールやタスク、業績の目標値と必要な業務まで落とし込んで認識を共有すること
  4. マーケティングに重点を置き、現在からIPO申請後1~2年、3~5年スパンでの戦略を綿密に構築すること

上場の失敗をもとに、成功にこぎつけるため、参考になれば幸いです。

[参照]
上場維持基準の詳細|日本取引所グループ
二度の上場失敗、役員の一斉退職……ドン底だった組織が、復活を果たすまでの物語

  • URLcopy
川村将輝(弁護士)のアバター
旭合同法律事務所

川村将輝(弁護士)

司法試験受験後、人材系ベンチャー企業でインターンを経験。2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、ファイナンス、M&Aなどの法務に従事。