ストックオプションの行使タイミングや権利行使について解説|導入のメリットや注意点まで

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ストックオプションという言葉を聞いたことがあっても、どんな仕組みなのかについて理解できていない方もいらっしゃるでしょう。ストックオプションを導入することで、従業員のモチベーションが上がるなどのメリットがあるので、特にIPOを考える企業では導入を考えてみても良いかもしれません。

この記事では、ストックオプションの種類、ストックオプションの行使方法、メリット・デメリットなどをお伝えします。

目次
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ストックオプションとはsection

ストックオプション(取締役・従業員割当型新株予約権)とは、あらかじめ定められた価額で、一定期間内に自社株式を購入できる権利を付与することです。アメリカでは1950年の税制改正により一気に拡大しましたが、日本では1997年までストックオプションという制度は認められていませんでした。

しかし、景気対策の一環として認められるようになってからは導入する企業が増えています。

例えば、「今後3年間であればいつでも500円で自社株を買っていい」というストックオプションが付与されたとしましょう。現在の市場価格が1株1000円だったとしても、ストックオプションを行使すれば500円で購入することができ、1株あたり500円の利益が出ます。すぐに売却することもできますし、その後さらに値上がりすることを見越して保有し続けることもできます。

ストックオプションの行使タイミングは結局いつ?

結論からいうと、行使に明確なルールはありませんので、株価が上がると思うのであれば、行使せずにしばらく権利を持ち続けて、株価が上がりきったと思うタイミングで行使するのもいいでしょう。

ストックオプションは権利付与と権利行使の手続きは、ストックオプションを発行する会社と役員・従業員等との間で行われます。振替株式の交付は、株式等振替制度における新規記録もしくは振替の手続きが行われます。

ただ、ベストは「行使価額<自社の株価」になったタイミングと言えます。例えば、1株あたりの行使価額100円でストックオプションを付与されていた場合、株価が100円を上回ったタイミングで行使・取得した株式を売却することで、利益が得られます。

後述しますが、ストックオプションの権利行使タイミングは自由であるものの、SO付与時に「権利行使期間」が個別に定められているケースがほとんどです。例えば、ストックオプション行使の権利を使って自社株を購入できる期間は『上場後1年以降』など。

他には、税制適格無償ストックオプションの場合・・・

 当該新株予約権の行使は、当該新株予約権に係る付与決議の日後二年を経過した日から当該付与決議の日後十年を経過する日までの間に行わなければならないこと。

引用元:租税特別措置法第29条の2

と法律で義務付けられています。

ストックオプションの種類section

ストックオプションには、様々な種類があります。ここでは、ストックオプションの種類を説明します。

税制非適格ストックオプション

税制非適格ストックオプションは、税的な優遇を受けられないストックオプションで、2回課税されるのが特徴です。まず、ストックオプションの権利を行使した時に株価が取得価格を上回っている場合、差額は給与所得として所得税が課税されます。所得税は累進課税となり最大で55%課税されてしまいます。

現金がない状態で課税されるので負担は大きくなる点がデメリットです。そのため、税金を納めるだけの現金が別で用意できない場合には、ストックオプションで得た株を売却して現金を作るしかないケースもあります。また、株式を売却した時には利益に対して譲渡所得がかかり、所得税が課せられます。

例えば、権利付与されたときの株価が100円で権利行使した時の株価が1000円とします。この時に株式が付与されますが、900円の権利行使益に対して所得税がかかります。また、売却時の株価が1500円になれば、500円の売却益に対して所得税がかかります。

税制適格ストックオプション

税制適格ストックオプションは、税制適格の条件を満たした場合に限り新株予約権を無償で付与することです。税制非適格ストックオプションで課税される権利行使時には課税されずに、譲渡所得のみ課税される点がメリットです。

税制適格ストックオプションは付与する対象者にも条件があり、下記のケースでしか認められません。

  • 発行会社の取締役(執行役を含み、監査役・会計参与・会計監査人を含まない)又は使用人等の個人
  • 新株予約権の決議時において大口株主に該当しないこと
  • 大口株主とは、未上場会社の場合は発行済株式総数の3分の1超を有する者

税制適格ストックオプションは付与された直後に行使することはできず、オプションの付与決議から2年後〜10年後の8年間のみ行使可能となります。そのため、2年間で業績や外部環境が理由で株価が暴落してしまうというリスクがある点は注意しましょう。

また、契約締結時の株価より高い価格が権利行使価額となります。ストックオプションは、株価が上がることによるキャピタルゲインをインセンティブと考え、従業員が株価を上げるための努力をすることを目的としています。付与した株価より低い金額を行使価格にしてしまうと、その時点で対象者の利益が出てしまい、株価を上げようと努力しなくなってしまうので、権利行使価格は契約締結時より高く設定する必要があるのです。

さらに、権利行使価額が年間で1,200万円を超えないというルールもあります。

特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)
第二十九条の二
二 当該新株予約権の行使に係る権利行使価額の年間の合計額が、千二百万円を超えないこと。

引用元:租税特別措置法

1,200万円を超えると、1,200万円を超えた部分だけではなく、権利行使価額全てが課税対象になってしまいます。上場により株価を押し上げて大きなキャピタルゲインを狙いたい場合、この1,200万円の枠が足かせとなるケースもあるでしょう。

そのような場合は税的な優遇は受けられなくても税制非適格ストックオプションを利用したほうがメリットがあります。他にも、他人への譲渡禁止、会社法に反しないこと、証券会社との間で一定の管理等信託契約を締結し、一定の保管の委託等がなされていることというルールを守る必要があります。

無償ストックオプション

無償ストックオプションとは、ストックオプションが付与されるときにお金がかからないものです。無償でストックオプションを得ることができるので、付与された人が損することがないのが大きな特徴です。

有償ストックオプション

有償ストックオプションは、権利付与したときの株価で新株予約権を発行します。ストックオプションの行使の時期に権利付与された時よりも株価が下がれば損してしまう点がデメリットです。

通常型ストックオプション

通常型ストックオプションは、無償で付与されるストックオプションの一種で、会社の業績が向上したときのインセンティブの意味を持たせるために付与します。権利行使価格は現在の株価よりも高く設定されます。

例えば、権利付与されたときの時価が400円であれば、権利行使価額を500円に設定します。権利行使した人は、株価が上がらないと利益が得られないため、役員や従業員が業績を上げるために業務に邁進するモチベーションにつながります。

株式報酬型ストックオプション

株式報酬型ストックオプションは、役員や従業員等に対して報酬として金銭を支給するのではなく、ストックオプションを付与するものです。株式報酬型ストックオプションは権利行使価格を1円に設定することが多く、必ず利益が出るのが特徴です。たとえば、ストックオプション付与時の株価が100円でも1円で付与するので必ず利益が出ます。

株価が上昇するほど、自分たちが得られる利益も大きくなるので従業員が業務に真剣に取り組んでくれることに期待できます。退職金として使うケースも多いです。

信託型ストックオプション

信託型ストックオプションは、発行したストックオプションを信託に預け、付与者にはストックオプションに交換できるポイントを付与するスタイルです。信託終了時にポイントに応じてストックオプションを配分するので、発行時にどれだけストックオプションを付与するかを決める必要はありません。

ストックオプションの発行方法section

ここでは、ストックオプションの発行方法について説明します。

自己株式方法

自己株式方法は、会社が株式市場から自社株を取得して、取締役や従業員に自社株を付与する方法です。株式上場していない中小企業などの場合は、自社株が売買されている市場はないので、自社株を所有する株主から自社株を買い戻すことになります。

原則として、自己株式の取得は禁止されていますが、ストックオプション付与に限り一定の条件をクリアすれば認められています。

新株引受権方式

新株引受権方式は、自己株式方法のように市場から自社株を取得するのではなく、増資のために新株を発行することによって、ストックオプションを付与する方法です。自己株式方法と新株引受権方式は併用できないので、運用は注意しましょう。

ストックオプションの付与から行使までの流れsection

次に、ストックオプションの付与から行使までの流れについて説明します。

発行条件の設計

ストックオプションを付与する際には、まず発行条件の設計から始めます。発行数・発行条件を決めるのはもちろん、今後の戦略も議論しましょう。尚、IPO時のストックオプションの比率は10%以下に抑えるのが望ましいとされています

将来新しい人材を採用する際の付与割合、配布対象なども考えて足元の発行条件を決めなくてはいけません。10%を超えると資金調達に影響が出る可能性があるので注意しましょう。

 JASDAQマザーズ
オーナー34.6%(37.3%)37.0%(47.6%)
持株会社10.8%(25.1%)12.4%(26.7%)
オーナー一族49.9%(53.7%)50.7%(65.2%)
非同族役員6.7%(6.7%)10.9%(11.8%)
金融機関3.3%(9.2%)0.6%(4.1%)
金融商品取引業者1.7%(11.7%)0.1%(1.2%)
<2016年 新規上場会社の平均持株比率>
(注)カッコ書は、持株のない会社を除いた平均値

募集事項の通知、公告

募集事項が決まったら、ストックオプションの引受予定者に募集事項を通知します。公開会社で取締役会決議により決定した場合には、株主への通知又は公告も行います。

募集新株予約権の割当て、払込み

引受希望者からの申し込みに対して、ストックオプションを発行する会社は割当ての対象者および割当て数を決定しなければいけません。この決定には株主総会の特別決議(取締役会設置会社は取締役会決議)が必要です。有償ストックオプションの場合は払い込みも行います。

募集新株予約権の登記

株式会社が新株予約権を発行したときは、その割当日から2週間以内に登記を行う必要があります。新株予約権の登記では、下記の情報が必要です。

  • 新株予約権の名称
  • 新株予約権の数
  • 新株予約権の目的である株式の数又はその数の算定方法
  • 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
  • 金銭以外の財産を新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
  • 新株予約権を行使することができる期間
  • 新株予約権の行使の条件を定めたときは、その条件
  • 新株予約権の取得条項を定めたときは、その取得条項
  • 募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
  • 有償で新株予約権を発行する場合には、募集新株予約権の払込金額又はその算定方法
  • 新株予約権を発行した日

例えば、取締役や従業員でなければ権利行使ができないという内容にする場合は「本新株予約権者は、当社の取締役、監査役又は従業員であることを要する。」という条件を付けることができます。

また、退職者には行使させたくない場合には「ストックオプションとして新株予約権を保有している役員や従業員が当該株式会社を退職したときは、当該株式会社が取得する」というような取得条件を付けておけば安心です。

ストックオプションの行使

税制適格ストックオプションの場合、証券会社でストックオプション口座を作成してストックオプションを保管していますが、行使する場合にはストックオプションの発行会社に権利行使請求書を提出して手続きを行います。

その後、信託銀行で発行手続きが行われ証券会社の口座に入庫します。なお、税制非適格・有償の場合はストックオプション口座の開設は不要です。行使後は、好きなタイミングで株を売却します。

ストックオプションの発行費用section

ストックオプションの発行は弁護士に依頼することも可能です。登記などの実費と登記にかかる印紙税などの実費と弁護士報酬として15万円から20万円ほどを支払えば任せることが可能です。

ストックオプションのメリットsection

ここでは、ストックオプションを付与するメリットを紹介します。

従業員のモチベーションアップ

ストックオプションを付与する一番のメリットは、株価の値上がりがモチベーションとなり、従業員のやる気が出ることです。特に、IPOを目指す企業にとっては上場が一つの目標となりますが、上場会社の基準に合わせた会社運営に切り替えることは簡単ではありません。従業員にも負荷がかかるので、全員が同じ方向に向かって進まなければ上手くいかなくなるでしょう。

そこに、業務を頑張ったことで得られるインセンティブとして通常の給与や賞与とは別にストックオプションが付与されれば、従業員のモチベーションを上げることができるでしょう。IPOを目指すベンチャー企業やスタートアップ企業にとってはメリットがある制度です。

優秀な人材を採用しやすくなる

資金力の乏しいベンチャー企業は、優秀な人材を採用するために大きな報酬を用意することができません。そのかわりにストックオプションを付与すれば、将来利益が得られる可能性があることにメリットを感じて、優秀な人材が集まる可能性も高くなるでしょう。

上場企業に転職することはあっても、まさに上場準備中の企業に転職し、上場までの道のりを体験できる機会は人生でそう何度も経験することではありません。その一環で、ストップオプション付与は中途採用時の大きなアピールポイントになります。

従業員が頑張れば頑張るだけ企業価値が上がり、会社へのリターンも大きくなるので、その点もメリットです。

社外の協力者にも付与できる

ストックオプションは社内の人間だけではなく社外の協力者に対しても付与できます。事業をスタートさせた時は資金がなくて、高単価で仕事を依頼できないこともあるでしょう。しかし、ストックオプションを渡すことで協力者を集めることもできるのです。

協力者としても、会社の業績が上がれば上がるほど自分へのリターンも増えるので、上手く活用すればWin-Winとなるでしょう。

ストックオプションのデメリットsection

ストックオプションを付与するデメリットについても説明します。

景気・業績の影響を受ける

景気や業績の影響を受けるのはストックオプションのデメリットです。例えば、ストックオプションの行使する時期にリーマンショックのように世界中の景気を左右するようなことが起こるとします。

そうすれば、事業を頑張っていたとしても外部的な要因で株価が暴落してしまう可能性があるのです。また、株価は会社の業績の影響も大きく受けます。新型コロナウイルスのような不測の事態で、今まで好調だった航空業界・旅行業界・外食産業などの業界が大打撃を受けました。

このように、思ったように株価が上がらなかったり、価格が下がってしまったりする可能性があることも理解しておきましょう。

株価が下がると従業員の士気が落ちる

上場企業の株価は常に動くものです。そのため、ストックオプション付与時の価格より行使価格が下がることは大いにありえることです。事業は順調でも、日本の株式市場全体が下がることで連れ下げとなったり、新型コロナウイルス感染症の影響のように想定外の自体で株価は下がったりします。

どんな理由であっても、株価が下がると従業員の士気にも影響する可能性があります。

従業員同士の不公平感が出る

ストックオプションを従業員に対して行う場合、付与する基準を明確にしておく必要があります。ストックオプションを付与された従業員とされていない従業員が混在する状態となれば不公平感が生まれてしまうからです。

その結果、ストックオプションを付与されていない従業員のモチベーションを保ちにくいというケースも出てくるでしょう。

ストックオプション行使後に人材が社外流出する可能性がある

ストックオプションは、行使時まで会社の従業員でいることが条件となるケースが多いです。そのため、従業員がストックオプションの行使を目標に頑張っていた場合、ストックオプション行使後に人材が流出する場合があります。

実際に、IPO準備中に入社した役員がIPOと同時にストックオプションを行使し、多額の報酬を手にして退職していってしまうというケースも散見されます。特に、業務に対してのやりがいが少なく、ストックオプションでの利益だけがやりがいとなっている場合は注意です。

ストックオプションを行使する際の注意点section

最後に、ストップオプションを行使する際の注意点を説明します。

権利行使と売却のタイミングがずれる可能性がある

ストックオプションは権利行使と売却のタイミングがずれるのが一般的です。株価は毎日動くので、少しのタイミングで利益が減ることもあるでしょう。その結果、権利行使時には満足する利益が出ていたのに売却時には利益が減ってしまい損した気分になることもあるかもしれません。

ストックオプション行使・売却後に株価が上がれば損した気分になる

ストックオプションは、税金の関係から行使後にすぐ売却するケースもあります。しかし、売却後に後に株価が上がれば、たとえ自分が売却した時にも利益が出ていたとしても損した気分になるでしょう。

行使期間が過ぎると失効する

ストックオプションは行使期間が定められています。この期間に行使しないと権利が失効してしまいますので、株価が上がるのを待ちすぎて

ストックオプションを導入にメリットがない会社もある

ストックオプションを導入してもメリットがない会社もあることは理解しましょう。具体的には、大きな成長が見込めず株価が上がりにくいケースです。また、株を自由に売れるところがメリットなので上場しない会社ではメリットがありません。

まとめ

ストックオプションは、期間内であればあらかじめ決められた行使価格で株式を購入できる仕組みです。市場価格より行使価格が低ければ、売却することで利益を得ることができます。株式は上場することで銃に売買ができるようになるので、ストックオプションは上場企業やIPOを目指す企業に向いています。

導入することで、従業員のモチベーションに繋がったり、優秀な人材を確保できたりといったメリットがありますので、効果に期待できそうな場合は導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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上場支援、CGコードの体制構築などに長けた、専門性の高い「弁護士」を社外取締役候補としてご紹介。事業成長とガバナンス確保両立に、弁護士を起用したい企業様を支援している。

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