会社が社外取締役を選任することには、経営陣の多様性やコンプライアンスなどの観点からさまざまなメリットがあります。
社外取締役が適切に役割を果たせば、会社の成長スピードを維持・加速することに繋がるでしょう。日本取締役が調査した「上場企業のコーポレート・ガバナンス調査(2020)」というレポートによれば、2020年時点における社外取締役/独立社外取締役 人数(東証1部)は6,733名で、2010年における1,581名から約4.26倍に増加。その必要性は高まっていると言えます。
表:社外取締役/独立社外取締役 人数(東証1部)
比率 | 2004年 | 2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 |
社外取締役選任企業 | 30.2% | 35.0% | 39.1% | 44.0% | 45.0% |
独立社外取締役選任企業 | |||||
2009年 | 2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | |
社外取締役選任企業 | 46.3% | 48.2% | 51.4% | 54.2% | 62.2% |
独立社外取締役選任企業 | 31.6% | 34.6% | 37.5% | 46.7% | |
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | |
社外取締役選任企業 | 74.4% | 94.7% | 98.9% | 99.6% | 99.8% |
独立社外取締役選任企業 | 61.7% | 87.7% | 97.2% | 98.8% | 99.4% |
2019年 | 2020年 | ||||
社外取締役選任企業 | 99.9% | 99.9% | |||
独立社外取締役選任企業 | 99.7% | 99.7% |
自社に社外取締役の設置をするためには、自社において求める役割を明確化したうえで、適切な人材に社外取締役への就任を依頼することが大切です。この記事では、社外取締役を選任するメリットや、社外取締役に期待される役割・選任時の注意点などについて解説します。
社外取締役を選任する主なメリット4つsection 01
会社法上、社外取締役の設置が義務付けられているのは、上場会社や委員会設置会社に限られます。しかし、企業が社外取締役を設置することにより、以下のようにさまざまなメリットを得られる可能性があります。
経営層の視点を多様化させる
社外取締役として選任する人材は、自社以外の場所で多様な経験を積んできています。そのような人材を社外取締役として登用することで、生え抜きの経営者にはない視点が経営陣にプラスされ、より多様な観点から経営判断を行うことができるようになるでしょう。
その結果、クライアントや消費者のニーズを幅広く汲み取れるような、よりよい経営判断が下せる可能性があります。
経営層に専門性をプラスする
法務・税務・会計・IT・マーケティングなど、専門性を持った人材は、社外取締役として適任といえます。総合的な経営判断を行う取締役とは別に、専門性に特化したアドバイザーのような位置づけで社外取締役を登用することで、経営陣全体の専門性向上に繋がります。
経営陣の相互監視を強化する
取締役会の重要な職務の一つとして、「取締役の職務の執行の監督」(会社法362条2項2号)があります。コーポレートガバナンスを十全に機能させ、健全な企業経営を行うためには、取締役間の相互監視を適切に機能させることが必要不可欠です。
しかし、内部出身者だけでは癒着が生じ、結果的に相互監視による監督が機能不全に陥ってしまうおそれがあります。そこで、経営陣の相互監視機能を強化するために、会社からの独立性が高い社外取締役を登用することが有効です。
社外取締役が選任されれば、生え抜きの経営者も含めて、会社経営の緊張感が増すことでしょう。その結果として、経営陣の相互監視が強化され、ひいてはコンプライアンス・コーポレートガバナンスの強化に繋がります。
対外的に「フェアな組織」という印象を与える
社外取締役が設置されている企業は、社会に対して「コーポレートガバナンスが適切に機能している健全な企業」という印象を与えやすい傾向にあります。
特に近年では、「クリーン」「フェア」な企業が社会的に高く評価されています。そのため社外取締役を選任することで、結果的に企業イメージが向上し、売上や収益の増加に繋がる可能性があるでしょう。
社外取締役の選任が必須の場合|設置が義務化されるケースsection 02
改正会社法の施行により、上場会社では2021年3月から、社外取締役の設置が完全義務化されています(会社法327条の2)。
(社外取締役の設置義務)第三百二十七条の二 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならない。
引用元:会社法327条の2
実際には改正法の施行以前から、ほとんどの上場企業において、社外取締役が選任されていました。しかし、今回の義務化に伴い、上場企業は例外なく社外取締役の選任が必須となります。社外取締役の設置義務化については、以下の記事を併せてご参照ください。
社外取締役が果たすべき役割とは?section 03
社外取締役が果たすべき役割は、どのような資質に着目して選任されたか、あるいは会社にとって足りない要素は何かなどによって変わってきます。その中で、社外取締役が果たすべき役割に関して、あえて一般論を述べるとすれば以下のとおりです。
コーポレートガバナンス・コードで指摘されている社外取締役の役割
社外取締役が共通して果たすべき役割を理解するためには、コーポレートガバナンス・コードの記述が参考になります。参考:コーポレートガバナンス|日本取引所グループ
コーポレートガバナンス・コード原則4-7では、社外取締役の役割として、以下の4つが指摘されています。
- 経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと
- 経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
- 会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
- 経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること
②③④に注目すると、経営に対する監督機能や少数株主の保護など、会社からの独立性を強みとして役割を果たすことが期待されていることがわかります。
しかし、社外取締役は生え抜きの取締役と同様に、経営陣の一人であることも事実です。
①の記述からもわかるように、社外取締役には、自らの知見に基づいた主体的な経営判断を行うことも同時に期待されているといえるでしょう。
業務執行取締役と非業務執行取締役について
取締役会設置会社では、代表取締役以外に、会社の業務を執行する取締役を取締役会決議で選定できます(会社法363条1項2号)。社外取締役が、業務執行取締役と非業務執行取締役のどちらに当たるかによって、求められる役割にも差が出てきます。
業務を執行する社外取締役の役割
業務を執行する社外取締役には、生え抜きの取締役と同等の役割が求められているといえます。そもそも会社法上は、社内取締役と社外取締役の権限に差はなく、等しく経営判断に関与することが求められています。そのうえ会社の業務を執行するのであれば、社外取締役といえども、中核的な取締役として役割を果たす必要があるでしょう。
業務を執行する社外取締役は、「社外取締役=外部者」という意識ではなく、企業価値向上のために積極的に活動すべきといえます。
業務を執行しない社外取締役の役割
業務を執行しない社外取締役にも、他の取締役と同様に経営判断へ関与することが求められます。しかしその一方で、社外取締役が非業務執行取締役である場合には、以下の役割の方がより重視されているケースが多いです。
- 他の取締役に対する監視役としての役割
- 専門性を活かしたアドバイザーとしての役割
社外取締役について、具体的にどのような役割が求められるかは、会社によって異なります。社外取締役を十分に機能させるためには、会社が社外取締役に就任する人と十分にコミュニケーションをとり、社外取締役の役割について認識のずれを解消することが大切です。
社外取締役を選任する際の注意点section 04
社外取締役を選任するからには、経営陣の一人として、その能力を遺憾なく発揮してもらわなければなりません。
そのためには、人選の段階から自社にフィットする人材を見極めることが大切です。社外取締役を選任する際に、会社が注意すべき主なポイントは、以下のとおりです。
どのようなプラスをもたらす人材であるかよく分析する
社外取締役は重要な経営陣の一人であり、決して「置き物」ではありません。そのため、社外取締役の候補者には、企業価値を向上させるために積極的に貢献する意欲があることが大前提となります。
そのうえで、どのような得意分野を持っているのか、それが自社のビジネスを改善・向上させるのにどのように役立つのかを具体的にイメージしながら人選を進めるのが大切です。特に、自社の経営陣に欠けているスキルがあるならば、そのスキルを持った人材を積極的に社外取締役として登用するのがよいでしょう。
社外取締役候補者の兼任状況に注意する
社外取締役の資質を持つ人材は、複数社の社外取締役を兼任していることも多いです。しかし、あまりにも兼任数が多いと、一社当たりに割ける時間と労力が限られてしまいます。社外取締役として、責任ある仕事を行ってもらうためには、合理的な範囲に数を絞って役員を担当している人を選んだ方がよいでしょう。
会社が社外取締役の候補者を選定する際には、候補者の役員の兼任状況を把握して、自社の経営にきちんと注力してくれるかどうかを見極めるべきといえます。
責任限定契約を締結する際には株主への説明を尽くす
社外取締役への就任のハードルを下げるために、会社が社外取締役との間で「責任限定契約」を締結する場合があります(会社法427条1項、非業務執行取締役のみ)。
複数の社外取締役を兼任する人は、一社について過大な責任を負担することを敬遠する傾向にあります。この点、責任限定契約を締結すると、社外取締役の任務懈怠責任が一定の範囲に限定されます。
そのため「責任限定契約」には、社外取締役就任への抵抗感を減らし、人材確保を容易にする効果があると考えられるのです。その一方で、責任限定契約によって社外取締役の責任を限定することは、株主の視点からは「無責任」に移りやすいという難点があります。
そのため、社外取締役と責任限定契約を締結する際には、その必要性についてきちんと株主に説明することが大切です。責任限定契約については、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。
弁護士は社外取締役候補として有力section 05
社外取締役に求められる主な資質は、得意領域における高度な専門性と、会社からの独立性の大きく2つに集約されます。この点、弁護士は専門性および独立性の観点から、社外取締役として適任の人材といえるでしょう。
法務・コンプライアンスに関する専門性
弁護士は、法務・コンプライアンスの分野において高い専門性を有しています。ビジネスの世界で生きてきた人材で経営陣が構成されている場合、法務・コンプライアンスの領域は、経営陣の中でウイークポイントになることも多いでしょう。
そこで、弁護士を社外取締役として登用することにより、ビジネス寄りに偏っていた取締役のスキル構成のバランスを改善できます。また、コンプライアンスの重要性が高まっている昨今では、自社内部のオペレーションに関するリーガル・コンプライアンスチェックを推進する意義は大きいといえます。
社外取締役弁護士が積極的に主導して、社内のコンプライアンスを強化することにより、企業の持続的・安定的な成長の基礎となる「クリーンな経営」が実現できるでしょう。
高い独立性
弁護士は職務上の高い独立性を有しており、会社内部のしがらみに縛られずに、忌憚のない意見を述べることが可能です。社外取締役には、取締役相互間の監視機能を充実させ、かつ経営層の価値観を多様化させるという大きな役割が課されています。
コーポレートガバナンスを十全に機能させる観点からも、社外取締役が上記の役割を果たすことはきわめて重要です。
この点弁護士は、立場と倫理の両面において、会社からの独立性が確保されています。したがって弁護士は、多くの会社において、社外取締役として適任の人材になり得るでしょう。
まとめ
上場会社・非上場会社にかかわらず、社外取締役を選任することには、コーポレートガバナンスを強化する観点から数多くのメリットが存在します。社外取締役の人選は、自社のコーポレートガバナンス強化に貢献する人材であるかどうかに注目して行う必要があります。
どのような人材がフィットするかについては、既存の経営陣のスキル構成・業態・ビジネスのフェイズなどによっても異なるので、事前に自社のニーズを分析・検討することが大切です。
社外取締役には総じて、高い専門性と会社からの独立性が求められます。特に、現経営陣に法務・コンプライアンスに関するスキルが欠けている場合には、弁護士を社外取締役として登用するのが有効です。
近年ではコンプライアンスの重要性が強く認識されるようになっているので、弁護士を社外取締役として登用することで、対外的なアナウンス効果も期待できるでしょう。