M&Aでよく利用される株式譲渡とは?特徴や手続きの流れ、注意点を解説

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事業承継や事業規模の拡大、経営の立て直しなどさまざまな目的をもって行われるM&A。国内のM&A件数は2010年以降右肩上がりで上昇を続けており、M&A市場は活性化しています。近年は中小企業の後継者不在問題を解消する手段としてM&Aが活用されています。

M&Aにはいくつかの手法がありますが、もっとも手続きが簡便でスピーディーだといわれるのが「株式譲渡」です。株式譲渡はその名のとおり株式を他者に譲渡することをいいますが、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。また事業譲渡や会社合併などほかの手法とはどう違うのでしょうか。

この記事では株式譲渡によるM&Aに着目し、株式譲渡の特徴やほかの手法との違い、株式譲渡を行う際の注意点などを解説します。あわせて、株式譲渡の方法や手続きの流れも確認しましょう。

目次
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M&Aにおける株式譲渡とはsection

株式譲渡はM&Aの際に採用される手法のひとつです。とくに中小企業のM&Aでよく用いられる手法ですが、ほかの手法とどのような違いがあるのか詳しく分からないという方もいるでしょう。以下では株式譲渡の概要と、事業譲渡や会社合併との違いについて解説します。

M&Aの手法は複数ある

M&Aの手法は大きくわけて「買収」と「合併」の2つがあります。買収には「株式取得」と「事業譲渡」の2つがあり、株式取得はさらに「株式譲渡」「新株引受」「株式交換」などにわかれます。また合併は「吸収合併」と「新設合併」があります。

このようにM&Aの手法は複数あり、株式譲渡はそのなかのひとつの手法を指します。

株式譲渡はM&Aでよく使われる手法のこと

株式譲渡とは個人または企業が保有する株式を譲渡することです。買い手側はその対価として買収費用を支払います。株式譲渡により、会社の経営権が売り手側から買い手側に移転します。

株式譲渡はとくに中小企業のM&Aでよく用いられる手法です。日本では少子高齢化や価値観の多様化などを背景に中小企業の多くが後継者不在問題に悩みを抱えていることから、手続きが簡便でスピーディーな株式譲渡がよく利用されています。

株式譲渡と事業譲渡の違い

事業譲渡とは事業の全部または一部をほかの会社に譲ることです。事業譲渡も株式譲渡と同様に、M&Aでよく用いられる手法です。株式譲渡と事業譲渡のもっとも大きな違いは取引対象です。株式譲渡では株式を譲渡しますが、事業譲渡では事業を譲渡します。

また株式譲渡は経営権そのものの譲渡なので、簿外債務を含めてすべての資産・負債が買い手企業に引き継がれます。そのため不採算事業がある場合などは買い手がつかない、買収価格が大きく下がるといったケースも想定されます。

一方、事業譲渡では取得したい資産や従業員、取引先との契約などは個別に選定できます。そのため、簿外債務など想定外のリスクを回避しやすいのが特徴です。ほかにも採算事業のみに経営資源を投入できる、残しておきたい資産や従業員を個別に確保できるといったメリットもあります。

ただし資産や契約を包括的に承継できる株式譲渡と異なり、事業譲渡では契約のまき直しや取引先からの個別の合意を取り付けることなどに手間や時間がかかります。従業員の雇用契約が変わることで反発を招くおそれもあります。

株式譲渡と会社合併の違い

会社合併とは複数の会社が1つの会社になることです。一方の会社の法人格を消滅させたうえで存続する会社に消滅した会社の権利義務が移転する「吸収合併」と、すべての法人格を消滅させたうえで新たに設立した会社に権利義務が移転する「新設合併」があります。

上記のように会社合併では法人格が消滅する会社が必ずありますが、株式譲渡では消滅する会社はありません。売り手企業は買い手企業の子会社となって存続します。

株式譲渡で親会社と子会社の関係になっても、会社そのものは別会社です。取引には一定の制限があるため子会社は独立性が保たれる一方で、シナジー効果が現れにくい面があります。これに対して会社合併は完全に1つの会社にするため高いシナジー効果が出やすいという違いもあります。

ただし組織風土や制度などが似ている企業でないと合併が成功しにくく、中小企業のM&Aではあまり用いられません。

株式譲渡制限会社の株式譲渡section

株式譲渡によるM&Aを行う際には、対象企業が株式譲渡制限会社かどうかの確認が必要です。株式の譲渡制限は定款に定められているため、対象企業の定款を確認する必要があります。

株式譲渡制限会社とは

すべての株式に譲渡制限に関する規定がある会社のことを「株式譲渡制限会社」といいます。会社が望まない相手に自社の株式が渡るのを避けるために設けられる規定で、中小企業では制限がついているケースがほとんどです。たとえば家族経営の企業において、不適切な第三者が株主になることで円滑な経営が阻害される場合があります。このような事態を避けるために株式の譲渡に制限をかけてあるのが株式譲渡制限会社です。

株式譲渡制限会社でも譲渡できる

株式譲渡制限会社でも手続きを経れば譲渡は可能です。定款に記載された承認機関の譲渡承認が必要となり、一般的には取締役会または株主総会による承認を得て手続きを進めます。手続きについては後述します。

株式譲渡によるM&Aの特徴section

株式譲渡によるM&Aの特徴を整理してみましょう。

M&A後も売り手側の独立性を維持できる

売り手企業は株主が変わるだけで会社やビジネスはそのまま残るため、独立性を維持できます。売り手の株主が少数株主として残れば、経営にも引き続き関与することが可能です。

すべての資産や取引上の契約が引き継がれる

株式譲渡では債権債務や許認可などはそのまま引き継がれます。従前の契約や取引を維持できるため面倒な手続きは必要ありません。

これに対して事業譲渡の場合、譲渡する資産や契約について個別の移転手続きが必要となります。許認可についても自動的に引き継ぐことはできないので、買い手企業が再取得しなければなりません。また取引先との契約関係を買い手企業に移転させるには原則として取引先の同意が必要です。

従業員の雇用契約も引き継がれる

M&Aで非常に重要かつセンシティブな問題として、従業員の雇用契約はどうなるのかという点が挙げられます。売り手側の経営者としてはこれまで会社を支えてくれた従業員に迷惑をかけたくないという気持ちが大きいでしょう。

株式譲渡における雇用契約の大きな特徴は、従業員の個別同意が不要という点です。株式譲渡では従業員が所属する会社そのものは変わらないため、一人ひとりの同意を得る必要はなく、雇用契約はそのまま引き継がれます。これに対して事業譲渡の場合は雇用条件が変わる可能性があるため個別同意が必要です。

したがって、株式譲渡によるM&Aでは従業員への影響は少なくて済みます。経営方針や社内風土が変わるため買収直後は従業員が慣れないことは多いでしょうが、雇用契約を引き継げるのは安心材料です。廃業のように雇用が失われることもありません。

手続きが簡便で迅速に完了できる

株式譲渡では株主が変わるだけなので役所や法務局への手続きがほとんどなく、基本的には株式譲渡契約の締結と対価の支払い、株式名簿の書き換えといった手続きだけで完結できます。許認可の再取得や取引先との契約、従業員との雇用契約をまき直す必要もありません。原則として株主総会が不要で取締役会の決議のみで実行可能です。このように手続きが簡便で迅速に完了できるのは株式譲渡の大きなメリットです。

税金を抑えやすい

株式譲渡にかかる税金はほかの手法と比べると抑えやすいのもメリットです。株式譲渡の場合、買い手には税金がかかりません。事業譲渡の場合は買い手に消費税や不動産取得税、登録免許税などがかかりますが、株式譲渡ではかかりません。

株式譲渡では譲渡所得に対して税金がかかるので、課税されるのは売り手です。株式譲渡による課税関係は基本的に譲渡所得に対する所得税(復興特別所得税含む)、住民税、法人税だけです。売り手の株主が個人なら所得税と住民税、法人なら法人税がかかります。

M&Aにおける株式譲渡の方法section

株式譲渡は株式の買い付け方法によって「相対取引」「市場買い付け」「株式公開買い付け(TOB)」の3つに分類されます。それぞれの方法の特徴を解説します。

相対取引

相対取引とは、買い手と売り手が個別に交渉を行い、契約を締結する取引形態のことです。

対象会社が未上場会社であれば必ず相対取引になるため、中小企業のM&Aでは基本的に相対取引が採用されます。相対取引は当事者が1対1で取引する形態ですが、実際には仲介会社を通じて取引が行われます。

市場を介した取引の場合、取引の流動性が高く、取引価格には一定の相場があります。これに対して相対取引は市場の価格変動に影響されることなく当事者の交渉によって価格を決めることができます。交渉には時間がかかりますが、価格や決済方法を当事者が決められるのはM&Aにおいて大きなメリットです。

ただし取引相手によっては不当に高い価格で買収させられるリスクもあるため慎重なやり取りが求められます。

市場買い付け

上場会社の株式を、株式市場から直接買い付ける方法です。株式市場では一定量の株式が流通しているため、短期間で多くの株式を集めやすいのがメリットです。また株価が低いときに多く買い付けることで、投資コストの圧縮が可能です。

ただし大量の株式を買い付けようとする場合、その過程で株価が上昇していき予算内での買い付けが難しくなるリスクがあります。そのため買い付けに必要な費用の見通しが立ちにくいです。また株式総数の5%を超えて取得した場合には大量保有報告書を財務局へ届け出なければなりません。

株式公開買い付け(TOB)

上場企業の株式を、株式市場外で買い付ける方法です。TOBは「Take Over Bid」の略で株式公開買い付けという意味です。TOBで買い付ける際には、株数や価格、期間を株主へ通知する必要があります。金融商品取引法では、会社の経営権に影響を与えるような一定の株式取得については、TOBによることを義務付けています。

TOBはあらかじめ買い付け期間や価格などの条件を公開してから実施するため、市場買い付けのように株価が変動するリスクがありません。M&Aが成立するまでの見通しが立ちやすいのがメリットです。

ただし、TOBの買い付け価格は市場価格よりも高めに提示されることが一般的なので(プレミアム分)、市場買い付けに比べてコストがかかります。

【売り手側】株式譲渡によるM&Aをする場合の注意点section

ここからは、株式譲渡によるM&Aの注意点を紹介します。まずは売り手側に関する注意点を確認しましょう。

業績が悪い事業があると売却価格が下がる

売り手側にとって売却価格は大きな関心事項であり、できるだけ高い価格で売りたいと考えるでしょう。しかし、必ずしも想定した価格で売却できるとは限りません。とくに業績が悪い事業があると売却価格が下がります。事業譲渡の場合は不採算部門があれば切り離して譲渡することも可能ですが、株式譲渡は会社のすべてを譲渡するためこれができません。

また、負債が大きければ、買い手企業が引き継ぐリスクが大きくなるため、そもそも譲渡先が見つからない可能性もあります。その場合、廃業を選択せざるをえないケースも出てくるでしょう。

株主全員の同意が必要

中小企業の株式譲渡によるM&Aでは、発行済株式のすべてを譲渡するのが一般的です。そうすることですべての意思決定が可能になるためです。株式のすべてを中とするには株主全員の同意が必要ですが、所在がわからず連絡が取れない株主がいる場合やM&Aに反対している株主がいる場合などはすべての株式を譲渡することができません。

スクイーズアウトという手法を用いて少数株主から強制的に株式を買い取ることも可能ではありますが、手続きが煩雑で時間やコストもかかるため友好的なM&Aには不向きな場合が多いでしょう

なお、株式譲渡制限会社の株式譲渡も、株主全員の同意があれば可能です。これは、そもそも株式譲渡制限をつける理由として、不適切な第三者が株式を取得するのを防ぎ株主の利益を図ることがあるためです。株主全員の同意があれば譲渡は有効となります。

【買い手側】株式譲渡によるM&Aをする場合の注意点section

続いて、買い手側から見たときの注意点を確認しましょう。

簿外債務を引き継ぐリスクがある

株式譲渡は会社そのものの買収なので、簿外債務も含めてすべてを引き継ぐことになります。簿外債務とは貸借対照表には掲載されていない債務のことで、たとえば未払いの残業代や退職給付引当金、訴訟案件などがこれにあたります。M&A成立後に多額の簿外債務が発覚した場合は、予定していた事業計画が思うように進まないだけでなく、莫大な損失を被るおそれがあります

デューデリジェンスが欠かせない

簿外債務などのリスクを事前に把握するために欠かせないのがデューデリジェンスです。買収前に売り手企業の財務状態を明らかにしておくことで、簿外債務による想定外の損失を避けることができます。デューデリジェンスは財務・税務、法務などさまざまな種類があり、実施する場合は各分野の専門家へ依頼するのが一般的です。

デューデリジェンスの結果次第ではM&Aを中止にする、事業譲渡に切り替えるといった選択肢を取ることもできます。またリスクを許容したうえでM&Aを実施する場合は、リスクを買収価格へ反映させて交渉することも可能です

またデューデリジェンス以外のリスク回避法として、契約書に表明保証を記載する方法があります。これは対象企業の財務・税務・法務などに関する事項が真実かつ正確だと保証させるものです。デューデリジェンスで見つけられなかった問題がM&A後に発覚した場合でも表明保証違反による損害賠償請求を行ったり、契約を無効にしたりできます。

すべての株式を取得できない場合がある

中小企業のM&Aでは多くのケースで株式の大部分をオーナーやその一族が所有しています。しかし従業員や第三者が株式の一部を所有しているなど、株式が分散している場合があります。

株主が複数いる場合はそれぞれの株主から買い付ける必要があるため、すべての株式を取得できない場合があることに注意が必要です。株式を譲渡するかどうかは株主に委ねられるため、基本的には譲渡を強制することはできません。

すべての株式を取得できなくても過半数を取得すれば経営権は確保できますが、3分の2未満の議決権の場合は株主総会の特別決議を単独で通せないなどのデメリットがあります。

株式譲渡によるM&Aの流れsection

株式譲渡によるM&Aはどのような流れで行われるのでしょうか?以下では、対象会社が株式譲渡制限会社である場合を想定して流れを解説します。

株式譲渡承認請求

株式の譲渡を希望する株主は、会社に対して株式譲渡を承認するよう請求します。その際、株式数や譲受人の氏名・名称などを明示します。

取締役会・株主総会での承認

取締役会がある会社では取締役会が、取締役会がない会社では株主総会が承認を行います。承認を得ないでした譲渡は、対象会社に対してその効力を主張できません。

株式譲渡承認通知

取締役会または株主総会で譲渡が承認されたら、会社から各株主に対して承認した旨の通知が行われます。譲渡承認請求の日から2週間以内に通知がなかった場合は、譲渡承認の決定があったものとみなされます。

なお、取締役会または株主総会で承認されなかった場合は、承認請求者に対して2週間以内に不承認である旨が通知されます。

株式譲渡契約の締結

譲受人と譲渡人のあいだで株式譲渡契約を締結します。これにより、法的に株式譲渡によるM&Aが成立します。契約書に法律上決められた書式はありませんが、買収価格や支払方法、表明保証や誓約事項などを漏れなく記載します。

また株券発行会社の場合は株券の交付も必要です。

株主名簿の書き換え

譲受人と譲渡人が原則共同で、会社に対して株主名簿の書き換えを請求します。請求を受けた会社は株主名簿を書き換えます。株券発行会社の場合は株券を提示することで譲受人が単独で書き換えを請求できます。

譲受人は書き換えの後に株主名簿の交付を受け、自身が新しい株主になったことを確認します。

決済

株式譲渡契約書に記載された決済日には、対価の支払いがあります。また株券、役員の辞任届や譲渡承認議事録などの重要物品の引き渡しも行われます。売り手側は株式譲渡契約書に記載された金額が間違いなく振り込まれたことを確認し、手続きは完了となります。

その後、売り手側の役員が辞任して買い手側の役員が就任することが一般的です。

まとめ

株式譲渡は個人または企業が保有する株式を他者に譲渡する手法のことです。株式譲渡では帳簿に記載されていない簿外債務も含めて売り手企業のすべてをそのまま引き継げるため、手続きが簡便でスピーディーに完了するメリットがあります。一方、売り手にとっては業績が悪いと売却価格が下がる、買い手にとっては簿外債務を引き継ぐリスクがあるなど注意点も存在します。

参考文献
栗林総合法律事務所|M&Aにおける株主の特定と少数株主から株式の買い集め
M&A総合法律事務所|譲渡制限付き株式の譲渡も株主全員の同意があれば有効ですか?
中小企業庁|3 M&A実施企業の実態
第2節 M&Aの現状と実態 - 中小企業庁
M&Aに取り組む 中小企業の実態と課題 - 日本政策金融公庫

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上場支援、CGコードの体制構築などに長けた、専門性の高い「弁護士」を社外取締役候補としてご紹介。事業成長とガバナンス確保両立に、弁護士を起用したい企業様を支援している。

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