近年、ビジネスで「コンプライアンス」という言葉を耳にする機会が増えたと感じる方は多いのではないでしょうか。
コンプライアンスとは、実際に英語にある言葉で直訳すると「法令遵守」になります。日本のビジネスの場においても、同じような意味合いで使用されていますが、具体的にどのような場面でコンプライアンスが問題となるのかわからない方は少なくないかもしれません。
この記事では、コンプライアンス違反の類型や起きる原因に加え、対策の重要性、具体的に取り組み方法などについて解説します。
コンプライアンスとはsection
冒頭でもお伝えしたとおり、コンプライアンスとは直訳で法令遵守を意味しますが、ビジネスの場においては、法律や規則のみならず、倫理や社会規範も含めて守ることをいいます。この項目では、コンプライアンスの意義や似た用語との違いを確認しましょう。
コンプライアンス対策の意義
コンプライアンス対策と言われると何か難しいことを行うように思うかもしれませんが、変に身構える必要はありません。端的に言えば、コンプライアンス対策とは、「ルールを守ろう」「非常識な行動は避ける」など、当たり前のことを当たり前に行おうということです。
働くことに慣れてくると、緊張感や倫理観の薄れからか、普通ならしないであろう行動をとってしまいがちです。そうした油断から引き起こされた行動は、本人だけの問題で済まず、会社にも大きな影響を与えかねません。
そのため、会社として社員のあるべき姿・取るべき行動を明確にするのがコンプライアンス対策の意義といえます。
ガバナンスとの違い
コンプライアンスと同じく、近年よく聞くのが「ガバナンス」ではないでしょうか。ガバナンスとは直訳すると「統治」や「管理」を意味する英語で、ビジネスにおいてはコーポレートガバナンスとも呼ばれ、「企業における適切な管理体制」のことを指します。
コンプライアンスとガバナンスは、それぞれ異なる意味を持ちますが、全く別物というわけではなく、実は近しい関係です。
適切な管理体制を作る上でルールやモラルは欠かせませんし、そのまた逆も然りです。ルールやモラルなくして適切な管理体制の構築はできないことを踏まえると、コンプライアンスはガバナンスの一部でもあるといえるでしょう。

CSRとの違い
CSRとは、英語の「Corporate Social Responsibility」の頭文字をとって作られた言葉で、「企業の社会的責任」を意味します。
営利組織である企業には、利益追求の使命があるとはいえ、社会への影響を気にせず、企業活動にいそしめば、その不利益を被るのは社会全体です。
もちろん、企業活動が社会に与える影響は悪いものばかりではありません。良いことにしろ、悪いことにしろ、社会に大きく影響を与えてしまうほど、企業の影響力は大きいということであり、その自覚を通じて「企業価値を高めること」がCSRの役割だといえます。
コンプライアンスとCSRは密接な関係にあり、企業が社会的責任を果たす上で、ルールや指針の取り決めを行い、遵守することは欠かせません。そのため、コンプライアンスはCSRの根幹をなすものといえるでしょう。
コンプライアンス対策の重要性が高まっている理由section
近年、これほどまでにコンプライアンス対策の重要性が増している理由は主に3つ。
- 企業責任の増加
- 企業による不正・不祥事の増加
- 企業価値向上に不可欠
それぞれ確認していきましょう。
企業責任の増加
コンプライアンス対策の重要性が高まった理由の一つは、規制緩和の影響です。1990年代後半以降、さまざまな規制の解除が進んだことで、企業は以前にまして自由に経済活動を営めるようになりました
しかし、いくら規制が取り除かれたとはいえ、企業の思うままに経済活動を行わせてしまうと、利益の追求にのみひた走り、世間一般に対する不利益を度外視してしまうかもしれません。なので、規制を緩和するかわりに、コンプライアンス対策をきちんと実施し、自分たちで自由な経済活動に対する責任を果たすことが企業に求められるようになったのです。
企業による不正・不祥事の増加
近年、コンプライアンス対策の重要性が語られるようになったのは、それだけ企業による不正や不祥事が多くなったことの裏返しともいえるでしょう。実際、東京商工リサーチが行った全上場企業における「不適切な会計・経理の開示企業」調査によれば、集計を開始した2008年以降、上昇傾向が続いています。

しかも、上記調査の対象となっているのは、上場企業による不適切会計のみ。その他の企業やコンプライアンス違反事例は含まれていないため、実情はもっと多い可能性があるでしょう。
加えて、不正・不祥事は関係各所を裏切る行為です。ビジネスにおいて信用は最も欠かせない要素であることを考えると、損害は計り知れません。

最悪の場合、会社が倒産することも十分に起こり得るでしょう。
主なコンプライアンス違反の類型section
そもそもコンプライアンス違反とは、どのような行為をいうのかわからないという方も少なくないでしょう。この項目では、主なコンプライアンス違反の類型を紹介します。
そもそもコンプライアンス違反とは、どのような行為をいうのかわからないという方も少なくないでしょう。この項目では、主なコンプライアンス違反の類型を紹介します。
不正会計
不正会計とは、財務諸表に計上すべき金額を計上しない、必要な開示を行わないなど、意図的に虚偽表示をする行為を指し、粉飾決算とも呼ばれます。
偽装表示
偽装表示とは、主に商品を実勢価格よりも高値で売ることを目的に、性能や産地、銘柄、期限などの商品情報を実際とは異なる内容で表示することをいいます。
不正受給
不正受給とは、本来受け取る資格がないにもかかわらず、虚偽の申告で国や自治体からの助成金・補助金を不正に受給する・しようとすることをいいます。
不当な労働環境
コンプライアンス違反は、消費者に対して発生する問題と思われがちですが、対従業員でも問題となり、その最たるものが不当な労働環境です。長時間労働や賃金・残業代の未払いなどの労働基準法違反はもちろんのこと、セクハラやパワハラなどもコンプライアンス違反に含まれます。
情報漏えい
顧客や取引先に関する情報や、社外秘のプロジェクトに関する情報など、会社が扱う機密情報を漏えいさせることもコンプライアンス違反に該当します。
出資法違反
出資法違反とは、主に法律で認められていないにもかかわらず、業務として不特定多数から元本保証や根拠のない高利回りなどをうたって、資金集めを行うことです。
知的財産権侵害
知的財産権の侵害は、著作権や特許権、商標権など、権利者に独占的に利用が認められている創作や製品について、権利を無視して無断利用することをいいます。
コンプライアンス違反が起きる原因section
コンプライアンス違反は最悪の場合、倒産に繋がる恐れがあるにもかかわらず、なぜ違反をしてしまう企業があるのでしょうか。この項目では、コンプライアンス違反が起きる原因について確認していきましょう。
過剰なノルマや目標を課している
企業が成長するにあたって、ノルマや目標の達成は欠かせませんが、適切な数値設定がなされていてこそです。まっとうに仕事をしていては到底達成できないようなノルマや目標が課されており、かつ未達では理不尽な仕打ちを受ける状況にあれば、社員もコンプライアンスを守りようがありません。
役員や管理職などの無茶な要求が、コンプライアンス違反を引き起こしているといえるでしょう。
ずさんな管理体制が敷かれている
ずさんな管理体制もコンプライアンス違反が発生する要因となります。
例えば、重要な書類や資料などがきちんとファイリングされておらず、デスクに置きっぱなしになっていれば、紛失のリスクは高まりますし、PCにセキュリティソフトが導入されていなければ、外部からの攻撃を防ぐことはできないでしょう。また、上長や管理部門によるチェックが行われておらず、あずかり知らぬところでコンプライアンス違反が発生し、気づいたときには取り返しのつかない事態に発展しているということもありえます。
個人任せにせず、会社としてコンプライアンスを守る体制を作ることが大切だといえます。
是正の仕組みがない
是正の仕組みがないことも、コンプライアンス違反を生み出す原因です。コンプライアンス違反は基本的に社員が勝手に行うよりかは、上司の指示や組織内の暗黙の了解によって行われます。
仮に違反を行う社員自身はやりたくないと思っていても、上司や会社に逆らうのは難しいでしょう。そのため、会社の不正を告発できるような仕組みが、コンプライアンス違反を防ぐためには必要だといえます。
コンプライアンス違反の具体的なケースと罰則section
この項目では、実際、過去にコンプライアンス違反が行われたケースにおいて、どのような罰則が行われたかを紹介します。
東芝の不正会計事件
2015年に証券取引等監視委員会の実施した検査により、発覚した東芝の不正会計事件。累計で2,300億以上の利益の水増しが行われていました。不正会計を行った東芝に対し、金融庁は金融商品取引法違反で、不正会計の課徴金としては過去最高の73億7,350万円の納付を命じています。
加えて、国内外の個人や機関投資家により、不正会計問題をめぐる損失の損害賠償を求めた訴訟が起こされており、請求額は総額約1,780億円にも上っています。
東洋ゴムの製品偽装事件
免震ゴムの免震材料性能評価・大臣認定の取得にあたり、性能データの改ざんを行い、製品を偽装した事件です。不正競争防止法違反(虚偽表示)罪で起訴され、罰金1,000万円の支払いが命じられています。
また不動産会社から免震ゴムに欠陥が原因で発生した住宅の売買契約解除及び解除に伴う違約金の支払いに関する損害賠償を請求する訴訟がなされ、3億円以上の損害賠償を命ぜられた判決が出ています。
電通社員過労自殺事件
新入社員の女性が過労自殺した事件です。遺族側の弁護士によれば、自殺した女性社員の1か月の時間外労働は約130時間にも及んでいたとされており、電通の労務管理体制が問題視されました。
亡くなった女性の遺族による損害賠償請求が電通に対しなされており、最終的に約1億6,800万円の損害賠償で和解となっています。また、違法な時間外労働を防ぐ措置を怠った電通は、労働基準法違反罪に問われ、東京簡裁から罰金50万円の有罪判決を受けています。
コンプライアンス違反防止に向けて企業が取るべき強化対策4つsection
コンプライアンス違反を防ぐためには、組織としてしっかりと対応を取ることが重要です。この項目では、コンプライアンス違反を防止するために、企業が取るべき対策を4つ紹介します。
ルールやガイドラインの策定する
何をしたら違反になるのか、社員としてあるべき姿とはどのようなものなのかなど、何の方針も示さずにコンプライアンスについて理解してもらうのは困難です。なので、コンプライアンス違反の防止にあたって、ルールやガイドラインの策定は欠かせません。
管理体制を構築する
コンプライアンス違反を防ぐためには、管理体制の構築も重要です。業務フローに不透明な部分があると、コンプライアンス違反を見逃す可能性が高まりますし、責任の所在もあいまいとなり、適切な改善策を取ることができなくなってしまいます。
また相談窓口の設置も重要です。コンプライアンス違反を見つけた際に誰でも報告できるような体制が整っていれば、問題が大きくなる前に対処できるでしょう。
社外役員を選任する
コンプライアンス対策の強化にあたっては、社外役員を選任するのも有効です。利益の追求を目指す企業にとって、ときにコンプライアンス対策は足かせとなることもあります。利益とコンプライアンスを天秤にかけた際、コンプライアンスを優先する判断を選ぶことは、自社社員のみの組織では難しいでしょう。
しかし、社外役員がいれば状況は変わります。社外役員は経営に対するアドバイザーとしての役割に注目されがちですが、企業が不正を行わないよう監督する役目も担っています。
優秀な社外役員を選任できれば、ビジネスを加速させるだけでなく、間違った道に進んでしまったときのストッパーとしての活躍も期待できるでしょう。

研修を実施する
いくらルールやガイドラインを策定しても、各社員が内容を理解していなければ、違反の抑止には繋がりません。また最初のうちは気をつけていても、時間が経過するにつれて、コンプライアンスに対する意識が薄れてしまいます。
そのため、定期的に研修を実施することで、コンプライアンスに対する理解を深めてもらうと同時に、改めて違反防止の意識を強めてもらうことが大切です。
コンプライアンス違反防止の取り組み事例section
コンプライアンス対策が必要なのはわかっていても、ゼロから始めるのは腰が上がらないという企業は少なくないかもしれません。この項目では、コンプライアンス違反防止のための取り組み事例をいくつか紹介します。
ヤフー株式会社
ECサイトの運営にあたり、出店する店舗にきちんと法令やガイドラインを遵守してもらえるよう、パトロールを行う専門部署を設け、監視する仕組みを構築。
違反を発見した場合は、対象店舗に連絡、是正措置などを依頼するとともに、出店者用サイトにて、法令違反事例や法改正等についての情報を掲載し、出店者に情報の周知を図っています。
東京都の中堅小売業
ハラスメント対策を行うにあたり、まずコンプライアンス体制と研修の充実に着手。本部にコンプライアンス室を設け、毎週コンプライアンスに関する情報の発信を全店に向けて行っています。加えて、社内に相談窓口を設置し、定期的にその存在が従業員に知られているかをチェックしています。
株式会社JKB
株式会社JKBは金属の難加工形状品や微細加工品を提供する会社で、以前、取引先に金型作りのノウハウを求められ提供したところ、取り引きの打ち切りにあった経験から情報管理の重要性を認識し、管理体制の改善を実施。
具体的には、
- 金型や部品、プレス機などが第三者の目に入らないよう対策
- 重要データはネットに繋がっていないPCにて管理
- 契約書に自社ノウハウを提供しない旨を明記
などの対策を行ったところ、取引先からの信頼性が高まり、業績UPにもつながりました。
まとめ
ビジネスの場におけるコンプライアンスとは、法律や規則、倫理、社会規範など、世間一般で守るのが当たり前とされていることをしっかりと守ることを意味します。
近年ではコンプライアンス対策の重要度が増しており、利益を追及することばかりに目を向け、対策をおろそかにしていると、突然足元をすくわれるかもしれません。これからの時代で企業が生き残るためには、コンプライアンス対策が欠かせないといっても過言ではないでしょう。
コンプライアンス対策を始めるにあたり、重要なのは以下の4点です。
- ルールやガイドラインの策定する
- 管理体制を構築する
- 社外役員を選任する
- 研修を実施する
決して社員各々に対応を任せるのではなく、会社としてコンプライアンス体制の構築を進めていきましょう。