コンプライアンス(Compliance)とは、直訳で法令遵守を意味し、ビジネスの場においては法律や規則のみならず、倫理や社会規範や道徳、企業の利益を守ることも含まれます。
昨今、コンプライアンスという言葉を耳にする機会が増えたと感じる方は多いのではないでしょうか。コンプライアンスは直訳すると「法令遵守」になり、特に会社においては適切な体制のもと実現するものという多面的な意味合いで利用されています。
類似の用語や概念としてコーポレートガバナンス、CSR(Corporate Social Responsibility)など、企業が果たすべき社会的責任、法律に明文化されていない社会的ルールも遵守し、企業活動を行うという意味もあります。
端的に言えば、コンプライアンスとは、「ルールを守ろう」「非常識な行動は避ける」など、当たり前のことを当たり前に行おうということです。働くことに慣れてくると、緊張感や倫理観の薄れからか、普通ならしないであろう行動をとってしまいがちです。
そうした油断から引き起こされた行動は、本人だけの問題で済まず、会社にも大きな影響を与えかねません。そのため、会社として社員のあるべき姿・取るべき行動を明確にするのがコンプライアンスの意義といえます。
コンプライアンスという場合には「①法令・規則を順守する行動」と狭い範囲のことを指すこともあるが、むしろ「②企業倫理・経営理念等を順守する行動」を含めて理解することが、現代の企業にとっては重要となってきている(KPMG ビジネスアシュアランス株式会社・吉川吉衛:2003)。とくに業界で最先端をいく企業にとっては上記の①の平均的期待水準をクリアするのは当然のことでそれだけでは、社会的・倫理的責任を果たしていると認められなくなってきている。
引用元:独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)|企業のコンプライアンスと社会的責任(CSR)
つまり、成熟した社会における企業活動では順守すべき規範(ルール)として、法律や条令などの法規範、社内ルールや業務マニュアルなどの社内規範、日本経済団体連合会の「企業行動憲章」などの倫理規範の 3 つレベルがあり、それらにのった行動をすることが求められており、それを指してコンプライアンス重視の経営という。そして、企業のコンプライアンスの実現には、積極的に従業員が関与することが求められるようになってきており、最近では「公益通報者保護法」が成立し、従業員は企業の不正行為の摘発者(内部告発者)としても役割が期待されるように大きく変化してきている
ただ、具体的にどのような場面でコンプライアンスが問題となるのかわからない方は少なくないかもしれません。
本記事では、コンプライアンスの意味や重要性、コンプライアンス違反の類型や起きる原因に加え、具体的な対策方法などについて解説します。
コンプライアンスとは何か|主な目的と注目の背景section
法令や規則・倫理・道徳基準に従って行動すること
コンプライアンス(compliance)とは、法令や規則、倫理・道徳基準に従って行動することを意味します。具体的には、企業や組織が事業活動を行う際に、関連する法律や規制を遵守するだけでなく、社会的責任や倫理的基準に従うことも含まれます。
コンプライアンスは、企業の信頼性や透明性を高め、不正行為やリスクを回避するために不可欠な要素です。
企業におけるコンプライアンスの重要性は、以下の理由から強調されます。まず、法令遵守は企業の基本的な義務であり、違反すれば法的な制裁や罰金が課される可能性があります。これにより、企業の財務的な負担が増加し、信用も失われます。次に、倫理的な行動は企業の社会的信用を維持し、ステークホルダー(顧客、取引先、従業員、株主など)との信頼関係を強化します。特に、グローバルなビジネス環境では、国や地域ごとの法規制に適応することが求められるため、国際的なコンプライアンス体制の整備が重要です。
また、コンプライアンスは内部統制やリスク管理と密接に関連しており、不正防止や内部監査の強化により、企業の健全な経営を支えます。これにより、長期的な成長と持続可能な発展が可能となります。企業はコンプライアンス教育や研修を通じて、全社員に法令遵守の意識を浸透させることが重要です。
コンプライアンス対策が重要視される4つの背景
近年、これほどまでにコンプライアンス対策の重要性が増している理由は主に4つです。
- 企業責任の増加
- 企業による不正・不祥事の増加
- 労働基準法順守の意識の高まり
- 人的資本の情報開示の義務化
それぞれ確認していきましょう。
企業責任の増加
コンプライアンス意識が高まった理由の一つは規制緩和の影響です。1990年代後半以降、さまざまな規制の解除が進んだことで、企業は以前にまして自由に経済活動を営めるようになりました。
しかし、いくら規制が取り除かれたとはいえ、企業の思うままに経済活動を行わせてしまうと、利益の追求にのみひた走り、世間一般に対する不利益を度外視してしまうかもしれません。なので、規制を緩和するかわりに、コンプライアンス対策をきちんと実施し、自分たちで自由な経済活動に対する責任を果たすことが企業に求められるようになったのです。
企業による不正・不祥事の増加
企業による不正や不祥事が多くなったことも関係しています。実際、東京商工リサーチが行った全上場企業における「不適切な会計・経理の開示企業」調査によれば、集計を開始した2008年以降、上昇傾向が続いています。
しかも、上記調査の対象となっているのは、上場企業による不適切会計のみ。その他の企業やコンプライアンス違反事例は含まれていないため、実情はもっと多い可能性があるでしょう。
加えて、不正・不祥事は関係各所を裏切る行為です。ビジネスにおいて信用は最も欠かせない要素であることを考えると、損害は計り知れません。
最悪の場合、会社が倒産することも十分に起こり得るでしょう。
労働基準法順守の意識の高まり
企業がコンプライアンスの対象としている領域は『商品・サービスの安全性』『不正防止』が主ではありますが、実態としては雇用関係(労働基準法、労働組合法、男女雇用機会均等法、労働安全衛生法等」に加え、「ハラスメント」「過労死」「雇用」に重きを置いている状況と言えます。
労働市場の構造変化やLGBTによる雇用形態の多様化などが進むなかで、従業員の「差別禁止」や「雇用機会均等」の促進やサービス残業の防止を含む「労働基準法の順守」などがより強く意識され、「内部公益通報対応体制」の義務化や「企業の説明責任」「情報の開示」などがトレンドになっています。
内部公益通報対応体制とは、本法第11条第2項に定める、事業者が内部公益通報に応じ、適切に対応するために整備する体制をいいます。常時使用する労働者の数が300人を超える事業者に対しては内部公益通報対応体制の整備が義務付けられています(常時使用する労働者の数が300人以下の事業者に対しては努力義務)。
引用元:消費者庁|内部公益通報対応体制の整備に関するQ&A
(目的)
第一条 この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置等を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。
参考:公益通報者保護法
人的資本情報開示の義務化とコンプライアンスの開示
金融商品取引法第24条における「有価証券報告書」を発行する約4,000社の大手企業が人的資本情報開示の義務化対象になっています。(令和5年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用)
そもそも人的資本とは、内閣官房の非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」によれば、下記のように記載されています。
人材が教育や研修、日々の業務等を通じて自己の能力や経験、意欲を向上・蓄積することで付加価値創造に資する存在であり、事業環境の変化、経営戦略の転換にともない内外から登用・確保するものであることなど、価値を創造する源泉である「資本」としての性質を有することに着目した表現
参考:内閣官房|非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」
これまで、自社の人的資本への投資は財務会計上、固定資産の製造に携わった従業員の人件費が固定資産の残高の一部として資産計上されるだけ、つまり固定費として処理されていましたが、企業活動における価値向上に寄与するのは人材の努力によるものである。
ひいては中長期的な競争力強化や企業価値向上を実現することになる。人材戦略が取締役会やCEO・CXO間で活発に議論されることで、現場従業員の共感を得て浸透し、企業にとっては戦略の強靱性を高める上で重要であるという認識が高まった、というのが背景です。
参考:経済協力開発機構(OECD)「人的資本:知識はいかに人生を形作るか(Human Capital : How what you know shapes your life)」
基本的に下記のような内容を開示していく必要があり、この中にコンプライアンス関係のものが含まれています。
開示事項(例) | 任意の開示基準 | 制度開示・準制度開示 | ||||||
ISO | WEF | SASB | GRI | 日本 | 米国 (SEC) | 欧州(ESRS (CSRD)(草案)) | ||
(有報) | (CGコード) | |||||||
離職率 | ○ | ー | ○ | ○ | • 人材育成方針と社内環境整備方針につき、方針と整合的で測定可能な指標、その目標・進捗状況と併せて開示 | • 取締役会は、会社の目指すところや具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者等の後継者計画の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督(補充原則4-1③) | • 企業が事業運営をする上で重視する人的資本の施策・目的として、「従業員の採用及び維持に対応するための施策・目 的」を例示 | ー |
定着率 | ○ | ー | ー | ー | ー | |||
新規雇用の総数・比率 | ー | ー | ー | ○ | ー | |||
離職の総数 | ー | ー | ー | ○ | ー | |||
採用・離職コスト | ○ | ー | ー | ー | ー | |||
人材確保・定着の取組の説明 | ー | ー | ○ | ー | ー | |||
移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント | ー | ー | ー | ○ | ー | |||
後継者有効率 | ○ | ー | ー | ー | ー | |||
後継者カバー率 | ○ | ー | ー | ー | ー | |||
後継者準備率 | ○ | ー | ー | ー | ー | |||
求人ポジションの採用充足に必要な期間 | ○ | ー | ー | ー | ー |
コンプライアンスとコーポレートガバナンス・CSRとの違いsection
コーポレートガバナンスとの違い
コンプライアンスと同じく、近年よく聞くのが「ガバナンス」ではないでしょうか。ガバナンスとは直訳すると「統治」や「管理」を意味する英語で、ビジネスにおいてはコーポレートガバナンスとも呼ばれ、「企業における適切な管理体制」のことを指します。
コンプライアンスとガバナンスは、それぞれ異なる意味を持ちますが、全く別物というわけではなく、実は近しい関係です。
適切な管理体制を作る上でルールやモラルは欠かせませんし、そのまた逆も然りです。ルールやモラルなくして適切な管理体制の構築はできないことを踏まえると、コンプライアンスはガバナンスの一部でもあるといえるでしょう。
CSRとの違い
CSRとは、英語の「Corporate Social Responsibility」の頭文字をとって作られた言葉で、「企業の社会的責任」を意味します。営利組織である企業には、利益追求の使命があるとはいえ、社会への影響を気にせず、企業活動にいそしめば、その不利益を被るのは社会全体です。
もちろん、企業活動が社会に与える影響は悪いものばかりではありません。良いことにしろ、悪いことにしろ、社会に大きく影響を与えてしまうほど、企業の影響力は大きいということであり、その自覚を通じて「企業価値を高めること」がCSRの役割だといえます。
コンプライアンスとCSRは密接な関係にあり、企業が社会的責任を果たす上で、ルールや指針の取り決めを行い、遵守することは欠かせません。そのため、コンプライアンスはCSRの根幹をなすものといえるでしょう。
コンプライアンス違反のリスクと類型section
そもそもコンプライアンス違反とは、どのような行為をいうのかわからないという方も少なくないでしょう。この項目では、主なコンプライアンス違反の類型を紹介します。
そもそもコンプライアンス違反とは、どのような行為をいうのかわからないという方も少なくないでしょう。この項目では、主なコンプライアンス違反の類型を紹介します。
不正会計
不正会計とは、財務諸表に計上すべき金額を計上しない、必要な開示を行わないなど、意図的に虚偽表示をする行為を指し、粉飾決算とも呼ばれます。
偽装表示
偽装表示とは、主に商品を実勢価格よりも高値で売ることを目的に、性能や産地、銘柄、期限などの商品情報を実際とは異なる内容で表示することをいいます。
不正受給
不正受給とは、本来受け取る資格がないにもかかわらず、虚偽の申告で国や自治体からの助成金・補助金を不正に受給する・しようとすることをいいます。
不当な労働環境
コンプライアンス違反は、消費者に対して発生する問題と思われがちですが、対従業員でも問題となり、その最たるものが不当な労働環境です。長時間労働や賃金・残業代の未払いなどの労働基準法違反はもちろんのこと、セクハラやパワハラなどもコンプライアンス違反に含まれます。
情報漏えい
顧客や取引先に関する情報や、社外秘のプロジェクトに関する情報など、会社が扱う機密情報を漏えいさせることもコンプライアンス違反に該当します。
出資法違反
出資法違反とは、主に法律で認められていないにもかかわらず、業務として不特定多数から元本保証や根拠のない高利回りなどをうたって、資金集めを行うことです。
知的財産権侵害
知的財産権の侵害は、著作権や特許権、商標権など、権利者に独占的に利用が認められている創作や製品について、権利を無視して無断利用することをいいます。
コンプライアンス違反の具体的なケースと罰則section
この項目では、実際、過去にコンプライアンス違反が行われたケースにおいて、どのような罰則が行われたかを紹介します。
労務違反
会社による従業員の雇用については、労働基準法・労働契約法その他の労働法令において、詳細なルールが定められています。特に時間外労働との関係では、労働基準法が正しく適用されず、適切に残業代が支払われないケースが多いです。
他にも不当解雇・ハラスメントの問題は、会社と従業員との間で深刻なトラブルを生じやすい傾向にあります。従業員との労務トラブルが発生してしまうと、会社としてはトラブル対応に大きな時間的・経済的コストを費やすことになります。
また、違法な労務管理が露見すれば、今後の採用活動にも悪影響を及ぼしかねません。よって企業としては、労務管理に関するコンプライアンスを徹底し、従業員とのトラブルを回避するように努める必要があります。
不正会計事件
2015年に証券取引等監視委員会の実施した検査により、発覚した東芝の不正会計事件。累計で2,300億以上の利益の水増しが行われていました。不正会計を行った東芝に対し、金融庁は金融商品取引法違反で、不正会計の課徴金としては過去最高の73億7,350万円の納付を命じています。
加えて、国内外の個人や機関投資家により、不正会計問題をめぐる損失の損害賠償を求めた訴訟が起こされており、請求額は総額約1,780億円にも上っています。
製品偽装事件
免震ゴムの免震材料性能評価・大臣認定の取得にあたり、性能データの改ざんを行い、製品を偽装した事件です。不正競争防止法違反(虚偽表示)罪で起訴され、罰金1,000万円の支払いが命じられています。
また不動産会社から免震ゴムに欠陥が原因で発生した住宅の売買契約解除及び解除に伴う違約金の支払いに関する損害賠償を請求する訴訟がなされ、3億円以上の損害賠償を命ぜられた判決が出ています。
個人情報や営業秘密などの不正流出
情報管理体制がずさんなために、メールの誤送信やハッキングなどにより、個人情報や営業秘密が流出するケースがあります。また、退職する従業員によって、営業秘密が持ち出されるケースもしばしば見受けられます。
機密情報の不正流出は、個人情報保護法やNDAへの違反に該当し、企業は罰則・行政処分・損害賠償などのペナルティを受ける可能性があります。特に営業秘密が流出した場合、自社のノウハウを他社に流用されるなどして、自社の売上に対して直接的なインパクトを生じるおそれが否定できません。
近年では、情報管理の重要性は社会的にも非常に強調されています。自社の利益を守ると同時に、企業が社会から非難されることを防ぐためにも、情報管理を徹底することが求められます。
ジャニーズ性加害事件
故:ジャニー喜多川氏によるジャニーズJrへの性加害問題は昨今最も有名な事件といえます。所属するジャニーズタレントら(未成年を含む)に対して児童性的虐待を半世紀以上に渡って続けていた問題のことで、人権コンプライアンス違反として、外部の専門家からなる「再発防止特別チーム」による独立調査につながっています。
社員過労自殺事件
新入社員の女性が過労自殺した事件です。遺族側の弁護士によれば、自殺した女性社員の1か月の時間外労働は約130時間にも及んでいたとされており、電通の労務管理体制が問題視されました。
亡くなった女性の遺族による損害賠償請求が電通に対しなされており、最終的に約1億6,800万円の損害賠償で和解となっています。また、違法な時間外労働を防ぐ措置を怠った電通は、労働基準法違反罪に問われ、東京簡裁から罰金50万円の有罪判決を受けています。
コンプライアンス違反が起きる原因section
コンプライアンス違反は最悪の場合、倒産に繋がる恐れがあるにもかかわらず、なぜ違反をしてしまう企業があるのでしょうか。この項目では、コンプライアンス違反が起きる原因について確認していきましょう。
過剰なノルマや目標を課している
企業が成長するにあたって、ノルマや目標の達成は欠かせませんが、適切な数値設定がなされていてこそです。まっとうに仕事をしていては到底達成できないようなノルマや目標が課されており、かつ未達では理不尽な仕打ちを受ける状況にあれば、社員もコンプライアンスを守りようがありません。
役員や管理職などの無茶な要求が、コンプライアンス違反を引き起こしているといえるでしょう。
ずさんな管理体制が敷かれている
ずさんな管理体制もコンプライアンス違反が発生する要因となります。例えば、重要な書類や資料などがきちんとファイリングされておらず、デスクに置きっぱなしになっていれば、紛失のリスクは高まりますし、PCにセキュリティソフトが導入されていなければ、外部からの攻撃を防ぐことはできないでしょう。
また、上長や管理部門によるチェックが行われておらず、あずかり知らぬところでコンプライアンス違反が発生し、気づいたときには取り返しのつかない事態に発展しているということもありえます。
個人任せにせず、会社としてコンプライアンスを守る体制を作ることが大切だといえます。
是正の仕組みがない
是正の仕組みがないことも、コンプライアンス違反を生み出す原因です。コンプライアンス違反は基本的に社員が勝手に行うよりかは、上司の指示や組織内の暗黙の了解によって行われます。
仮に違反を行う社員自身はやりたくないと思っていても、上司や会社に逆らうのは難しいでしょう。そのため、会社の不正を告発できるような仕組みが、コンプライアンス違反を防ぐためには必要だといえます。
コンプライアンス違反防止に向けて企業が取るべき強化対策6つsection
コンプライアンス違反を防ぐためには、組織としてしっかりと対応を取ることが重要です。この項目では、コンプライアンス違反を防止するために、企業が取るべき対策を6つ紹介します。
社内ルール・ガイドラインの策定する
何をしたら違反になるのか、社員としてあるべき姿とはどのようなものなのかなど、何の方針も示さずにコンプライアンスについて理解してもらうのは困難です。なので、コンプライアンス違反の防止にあたって、ルールやガイドラインの策定は欠かせません。
管理体制を構築する
コンプライアンス違反を防ぐためには、管理体制の構築も重要です。業務フローに不透明な部分があると、コンプライアンス違反を見逃す可能性が高まりますし、責任の所在もあいまいとなり、適切な改善策を取ることができなくなってしまいます。
内部通報窓口の設置
内部通報窓口は、企業にとっての不祥事を早期発見・早期対応することを目的に設置します。内部通報窓口を設置することで、不正リスクに対する自浄作用を高めることができるため、より公正かつ透明性の高い企業経営が図れます。
もし内部通報窓口が設置されていない場合、企業内部での不正リスクを十分に把握することができないため、不正会計やデータ隠ぺい、セクハラやパワハラなどの不正または不適切行為が横行する恐れがあります。
コンプライアンス違反を見つけた際に誰でも報告できるような体制が整っていれば、問題が大きくなる前に対処できるでしょう。
社外役員の設置
コンプライアンス対策の強化にあたっては、社外役員を選任するのも有効です。利益の追求を目指す企業にとって、ときにコンプライアンス対策は足かせとなることもあります。利益とコンプライアンスを天秤にかけた際、コンプライアンスを優先する判断を選ぶことは、自社社員のみの組織では難しいでしょう。
しかし、社外役員がいれば状況は変わります。社外役員は経営に対するアドバイザーとしての役割に注目されがちですが、企業が不正を行わないよう監督する役目も担っています。
優秀な社外役員を選任できれば、ビジネスを加速させるだけでなく、間違った道に進んでしまったときのストッパーとしての活躍も期待できるでしょう。
コンプライアンス研修の実施・徹底
いくらルールやガイドラインを策定しても、各社員が内容を理解していなければ、違反の抑止には繋がりません。また最初のうちは気をつけていても、時間が経過するにつれて、コンプライアンスに対する意識が薄れてしまいます。
そのため、定期的に研修を実施することで、コンプライアンスに対する理解を深めてもらうと同時に、改めて違反防止の意識を強めてもらうことが大切です。
最低限抑えておくべき法律が何か弁護士に相談する
企業の形態によって、最低限抑えるべき法律が異なります。これは業態による違いも関係するため、事前に重要な法律は顧問弁護士や法律の専門家に確認しておきましょう。会社の経営陣が率先して、コンプライアンスに関する理解を深めることが非常に大切です。
コンプライアンス違反防止の取り組み事例section
コンプライアンス対策が必要なのはわかっていても、ゼロから始めるのは腰が上がらないという企業は少なくないかもしれません。この項目では、コンプライアンス違反防止のための取り組み事例をいくつか紹介します。
ヤフー株式会社
ECサイトの運営にあたり、出店する店舗にきちんと法令やガイドラインを遵守してもらえるよう、パトロールを行う専門部署を設け、監視する仕組みを構築。違反を発見した場合は、対象店舗に連絡、是正措置などを依頼するとともに、出店者用サイトにて、法令違反事例や法改正等についての情報を掲載し、出店者に情報の周知を図っています。参考:事業者団体のコンプライアンスの取組|東京くらしWEB
東京都の中堅小売業
ハラスメント対策を行うにあたり、まずコンプライアンス体制と研修の充実に着手。本部にコンプライアンス室を設け、毎週コンプライアンスに関する情報の発信を全店に向けて行っています。加えて、社内に相談窓口を設置し、定期的にその存在が従業員に知られているかをチェックしています。参考:職場のパワーハラスメント対策取組好事例集|厚生労働省
株式会社JKB
株式会社JKBは金属の難加工形状品や微細加工品を提供する会社で、以前、取引先に金型作りのノウハウを求められ提供したところ、取り引きの打ち切りにあった経験から情報管理の重要性を認識し、管理体制の改善を実施。
具体的には、
- 金型や部品、プレス機などが第三者の目に入らないよう対策
- 重要データはネットに繋がっていないPCにて管理
- 契約書に自社ノウハウを提供しない旨を明記
などの対策を行ったところ、取引先からの信頼性が高まり、業績UPにもつながりました。
参考:秘密情報の保護・活用事例集|経済産業省
コンプライアンス強化を弁護士に相談する5つメリットsection
専門的な法的知識の提供
弁護士は法律の専門家であり、企業が遵守すべき法令や規制について深い知識を持っています。企業が直面する複雑な法的問題に対して的確なアドバイスを提供し、違反リスクを最小限に抑える手助けをします。例えば、新しい法規制が施行された場合、その影響を迅速に評価し、必要な対応策を講じることができます。これにより、企業は適法かつ倫理的な運営を継続することができます。
リスク管理と予防
弁護士は、企業の業務プロセスやビジネスモデルを分析し、潜在的な法的リスクを特定・評価する能力を持っています。この分析に基づいて、具体的な予防策や改善策を提案し、リスクの発生を未然に防ぎます。例えば、契約書のレビューや取引先の信頼性評価などを通じて、問題が発生する前に対策を講じることができます。これにより、企業のリスク管理能力が向上し、長期的な安定性が確保されます。
法令遵守プログラムの設計と実施
弁護士は、企業に適した法令遵守プログラムの設計と実施を支援します。このプログラムには、コンプライアンス方針の策定、社員教育、内部監査の実施などが含まれます。例えば、従業員向けの研修プログラムを開発し、法令遵守の重要性を周知徹底させることができます。また、内部監査を通じて、プログラムの効果を定期的に評価し、必要な修正を行うことも可能です。
法的トラブルへの迅速な対応
法的トラブルが発生した場合、弁護士のサポートにより迅速かつ適切に対応することができます。訴訟や紛争において、弁護士は企業の利益を守るために法的手続きや交渉を代行し、最良の解決策を模索します。例えば、不正行為が発覚した場合、速やかに調査を行い、適切な対策を講じることが求められます。このような対応により、企業の評判を守り、被害を最小限に抑えることができます。
企業の信頼性とブランド価値の向上
弁護士のアドバイスを受けることで、企業の法令遵守姿勢が強化され、社会的信用が向上します。これにより、顧客や取引先、投資家からの信頼を得ることができ、ブランド価値が向上します。例えば、コンプライアンスに関する取り組みを公表することで、企業の透明性や責任感をアピールすることができます。長期的には、信頼性の高い企業として認識され、市場競争力が強化されるでしょう。
まとめ
ビジネスの場におけるコンプライアンスとは、法律や規則、倫理、社会規範など、世間一般で守るのが当たり前とされていることをしっかりと守ることを意味します。
近年ではコンプライアンス対策の重要度が増しており、利益を追及することばかりに目を向け、対策をおろそかにしていると、突然足元をすくわれるかもしれません。これからの時代で企業が生き残るためには、コンプライアンス対策が欠かせないといっても過言ではないでしょう。
コンプライアンス対策を始めるにあたり、重要なのは以下の6点です。
- 社内ルールやガイドラインの策定する
- 管理体制を構築する
- 社外役員の設置
- コンプライアンス研修の実施・徹底
- 内部通報窓口の設置
- 弁護士に相談する
決して社員各々に対応を任せるのではなく、会社としてコンプライアンス体制の構築を進めていきましょう。