ガバナンスとは何か?意味や効かせる重要性・組織体制の整備も詳しく解説

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ゆら総合法律事務所

阿部由羅【弁護士】

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会社が自律的に業務の適正化を図る「コーポレートガバナンス」の重要性は、企業不祥事への警戒等が背景となって、近年いっそう強調されています。安定的・中長期的な会社の成長を目指すためには、コーポレートガバナンスを強化することが必要不可欠です。

効果的にコーポレートガバナンスを強化するためには、相互監視を実効的に行うことができる適切な組織体制の整備がポイントになり、企業の内部統制を徹底して管理できていることを「ガバナンスが効いている」と言ったりします。

反対に、統制が取れていない状態は、「ガバナンスが効いていない」と言います。また、客観的な立場から忌憚のない意見を述べられる、外部人材を積極的に登用することも重要です。今回は、会社のガバナンス(コーポレートガバナンス)に関して、強化のメリット・整備すべき組織体制・外部人材登用の重要性などを解説します。

目次
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会社の「ガバナンス」とは?section

会社の「ガバナンス(governance)」とは、会社組織を適切にコントロールし、ステークホルダーに対する責任を果たせるような意思決定を行うための仕組みを意味します。「会社の」ガバナンスである点と併せて、「コーポレートガバナンス(corporate governance)」と表記されることが多いです。

コーポレートガバナンスには、主に以下の要素が含まれていると考えられます。

  1. 株主の権利と平等性の確保
  2. 多様なステークホルダーとの協働
  3. 公正・透明な経営の実現
  4. 迅速な経営判断を行うためのリーダーシップ

これらの要素をバランスよく備えて、ステークホルダーを巻き込んだ安定的・中長期的な成長を目指せる意思決定の仕組みを整えることが、コーポレートガバナンスの本質と言えるでしょう。

コーポレートガバナンスの重要性が高まっている理由section

近年コーポレートガバナンスの重要性が強調されているのは、主に以下の背景事情によるものと考えられます。

企業不祥事への警戒感の増大

1990年代初頭にいわゆる「バブル経済」が崩壊して以降、日本では企業による不祥事が相次ぎました。具体的には、不正会計・品質管理の不備・偽装表示・違法な時間外労働などが例に挙げられます。

またSNSを中心とした通信サービスの発展に伴い、いったん企業不祥事が発生すると、瞬く間に拡散されてしまう世の中になりました。

企業不祥事は株価の暴落を招き、ステークホルダーに大きな悪影響を与えるため、経営陣が主導して厳に回避に努めなければなりません。企業不祥事のリスクを限定するために、コーポレートガバナンスによる自浄作用の強化の重要性が注目されています。

機関投資家・外国人投資家の持ち株比率の上昇

日本の上場企業には、ここ数十年で、機関投資家や外国人投資家の持ち株比率が上昇する傾向が顕著に見られます。

一般論として、機関投資家や外国人投資家は日本国内の個人投資家に比べて、株主として積極的に経営に関心を持つ傾向にあると考えられます。例えば定時株主総会では、機関投資家や外国人投資家が「モノ言う株主」となって、経営陣に対して厳しい意見や質問を投げかける場面も珍しくありません。

機関投資家・外国人投資家の持ち株比率の上昇により、経営陣が株主と「対話」をすることの重要性がいっそう高まりました。会社としては普段から強固なコーポレートガバナンス体制を築き、公正・透明な経営に努めることが、株主との対話に耐え得る健全な組織体制の維持に繋がります。

ステークホルダーの多様化

日本国内の市場が停滞する状況下において、上場会社は取引先を海外に広げたり、支店を海外にオープンしたりするなど海外進出・グローバル化の取り組みを進めてきました。

海外進出・グローバル化に伴い、ステークホルダーも必然的に多様化する傾向にあります。ステークホルダー間の利害は時に対立するケースもあるところ、経営陣は会社の置かれた状況を総合的に考慮したうえで、迅速かつ適切な意思決定を行わなければなりません。

ステークホルダーが多様化した状況を踏まえて、経営陣が迅速・適切な意思決定を行うためには、コーポレートガバナンスの整備が必要不可欠です。コーポレートガバナンス体制を通じて多様な意見を吸い上げたうえで、透明性のあるプロセスを通じて経営判断を行うことが、ステークホルダーからの信頼獲得に繋がります。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの関係性section

コーポレートガバナンスは、企業が法令をはじめとした各種の規範を遵守する「コンプライアンス」と密接に関連しています。なぜなら、コーポレートガバナンスには「公正・透明な経営の実現」という要素が含まれているところ、コンプライアンスを徹底することは、公正・透明な経営の実現に大きく寄与すると考えられるからです。

コンプライアンスを徹底すれば、企業不祥事が発生するリスクは低減します。経営の健全化により、株主をはじめとしたステークホルダーに対する説明責任を果たしやすくなりますし、中長期的な付き合いのできる取引先の獲得もしやすくなるでしょう。

このように、強固なコーポレートガバナンス体制を構築するうえで、コンプライアンスはきわめて重要な要素と位置付けられます。そのためコーポレートガバナンスとコンプライアンスは、互いに異なるものとして理解するのではなく、一体・密接不可分なものとして理解すべきでしょう。

企業のガバナンスを効かせる・強化するで得られるメリットsection

コーポレートガバナンスを強化するには、会社は多大なコストを投下しなければなりません。その一方で、コーポレートガバナンスの強化が短期的な収益向上に繋がるとは限らないので、対応が後回しになってしまうケースもよくあります。

しかし中長期的な視点で見れば、コーポレートガバナンスの強化は、間違いなく会社にとってメリットがあります。コーポレートガバナンスを強化することの主なメリットは、以下のとおりです。

株主・取引先等からの信頼を得られる

会社が事業活動を継続していくためには、株主や取引先からの信頼獲得が欠かせません。会社の活動資金や収益の源泉となるのは、株主や取引先をはじめとしたステークホルダーとの信頼関係であるためです。

コーポレートガバナンスを強化すると、企業不祥事が発生するリスクが減るため、ステークホルダーは安心して出資や取引を行うことができます。また対話や情報開示を進めれば、ステークホルダーに会社のことをより良く知ってもらうことができ、ステークホルダーとの信頼関係はさらに強固となるでしょう。

経営陣としても、株主や取引先からの信頼が得られた状況であれば、解任等を恐れることなく思い切った経営判断ができます。

不祥事による損失リスクを低減できる

企業不祥事が発生すると、損害賠償・行政上のペナルティ・レピュテーションの失墜などによって、会社は多大な損失を被ってしまいます。企業不祥事によって経営に大打撃を受けた場合、会社の中長期的な成長戦略は崩れ、そのまま市場における勢いを失ってしまうことにもなりかねません。

コーポレートガバナンスの強化を通じて、経営陣相互間および会社の内部組織に対する監視を十分に及ぼすことにより、企業不祥事のリスクは最小化されます。公正・透明・健全な経営により足元を固めることで、会社は中長期的な成長戦略を安心して推し進めることができるでしょう。

資金調達がしやすくなる

コーポレートガバナンス体制が確立した会社は、金融機関による融資や投資家による出資を集めやすくなります。企業不祥事等によって資金を回収できなくなるリスクが低く、金融機関や投資家が安心して資金を拠出できるからです。

資金調達の条件が改善すれば、会社の営業利益率は向上し、いっそう大規模な取引にチャレンジすることも可能になります。会社の業績を右肩上がりに高めていくためには、コーポレートガバナンスの強化によって金融機関や投資家の信頼を勝ち取り、有利な資金調達を実現することが非常に効果的です。

コーポレートガバナンスの強化に必要な組織体制の整備section

コーポレートガバナンスを強化するためには、適切な監視機構と情報開示体制を備えた組織づくりを行うことがポイントになります。具体的には、以下の要点を踏まえた組織体制を整備することが、コーポレートガバナンスの強化に当たってはきわめて重要です。

相互監視が可能な役員構成

経営陣の不祥事等を予防するためには、取締役会および監査役(会)による監視機能を実効的に確保する必要があります。

しかし、取締役や監査役の全員が長年会社の内部にいる者の場合、経営陣に対する監視が機能しないことがあります。役員相互間の癒着や馴れ合いが生じ、違法行為等が見逃されてしまいやすいからです。

経営陣に対する監視を実効化するためには、社外取締役や社外監査役を積極的に選任することが効果的です。客観的な視点を持った外部人材を役員に招聘すれば、経営陣相互間の監視が緊張感をもって行われるようになることが期待されます。

法務・内部監査等のバックオフィスの充実

現場のオペレーションの隅々までコーポレートガバナンスを及ぼすためには、法務部門や内部監査部門など、バックオフィスを充実させることも大切になります。

バックオフィスの主な役割は、各事業を所管する部署の業務遂行に対するダブルチェック・トリプルチェックです。バックオフィスの有する専門性を活用して、会社の業務が適正に行われているかどうかを二重・三重にチェックすることにより、コーポレートガバナンスが全社的に浸透します。

バックオフィスは、会社の収益に直接的なプラスを生み出さない「コストセンター」です。そのため短期的な成長を目指す会社では軽視されがちですが、中長期的な視点で成長を目指すに当たっては、バックオフィスが安定的に役割を果たすことが非常に重要です。

株主等に向けた広報・情報開示体制

株主その他のステークホルダーとの間で健全に対話を行うためには、会社に関する重要な情報をタイムリーに開示する体制を整える必要があります。

上場会社であれば、金融商品取引法や証券取引所の上場規則に基づく開示が義務付けられるため、上場前の段階で広報・情報開示体制を整えることが必須です。上場会社以外の会社であっても、株主その他のステークホルダーからの信頼を得るためには、広報・情報開示体制を整備して積極的な発信を行うことが効果的でしょう。

従業員教育を通じた全社的なガバナンス意識の浸透

経営陣主導のトップダウンで会社全体をコントロールしようとするだけでは、コーポレートガバナンスを十全に機能させることはできません。それ以上に、従業員を含めた会社の構成員が、コーポレートガバナンスの精神を正しく理解したうえで日々の業務に取り組むことが重要となります。

個々の従業員に対してコーポレートガバナンスの精神を浸透させるには、適切な従業員教育を行わなければなりません。

日々の業務の中で取り組み方についての指導を行い、注意深い業務遂行に関する意識を持たせることも必要でしょう(OJT=On the Job Training)。また、外部講師を招聘して定期的に従業員研修を行い、コーポレートガバナンス(特にコンプライアンス)についての意識を浸透させることも効果的と考えられます。

コーポレートガバナンス・コードとはsection

コーポレートガバナンスの在り方を考えるうえで大いに参考となるのが、東証の上場規則である「コーポレートガバナンス・コード」です。

コーポレートガバナンス・コードについて

コーポレートガバナンス・コードについて

本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
本コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。
参考:コーポレート・ガバナンス|日本取引所グループ

コーポレートガバナンスに関する東証の上場規則

「コーポレートガバナンス・コード」は、上場会社の企業統治に関して、金融庁と東京証券取引所(東証)が共同で策定したガイドラインです。東証の上場規則の一つとして位置づけられています。

本ガイドラインは、コーポレートガバナンスを巡る現在の課題を踏まえ、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードが求める持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた機関投資家と企業の対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたものである。機関投資家と企業との間で、これらの事項について建設的な対話が行われることを通じ、企業が、自社の経営理念に基づき、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現し、ひいては経済全体の成長と国民の安定的な資産形成に寄与することが期待される。

本ガイドラインは、両コードの附属文書として位置付けられるものである。このため、本ガイドラインは、その内容自体について、「コンプライ・オア・エクスプレイン」を求めるものではないが、両コードの実効的な「コンプライ・オア・エクスプレイン」1を促すことを意図している。企業がコーポレートガバナンス・コードの各原則を実施する場合(各原則が求める開示を行う場合を含む)や、実施しない理由の説明を行う場合には、本ガイドラインの趣旨を踏まえることが期待される。

なお、コーポレートガバナンスを巡る課題やこうした課題に対処する際の優先順位は、企業の置かれた状況により差異があることから、対話に当たっては、形式的な対応を行うことは適切でなく、個々の企業ごとの事情2を踏まえた実効的な対話を行うことが重要である。
参考:(金融庁策定)投資家と企業の対話ガイドライン(2021年6月版)

コーポレートガバナンス・コードの主な内容

コーポレートガバナンス・コードは、「基本原則」「原則」「補充原則」の3段階で構成されています。

  1. 基本原則:コーポレートガバナンスに関する重要かつ基本的な考え方・大原則を示しています。
  2. 原則:基本原則を実現するに当たって、上場会社がどのような問題意識を持って対応すべきかを具体的に示しています。
  3. 補充原則:原則で示されている問題意識に基づき、上場会社が具体的にどのような行動をとるべきかを示しています。

基本原則として挙げられているのは、以下の5点です。

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

各上場企業は、各基本原則の内容を自社の事業に即して解釈・具体化し、コーポレートガバナンスの強化に努めることが期待されています。

コーポレートガバナンス・コードの適用対象

コーポレートガバナンス・コードが適用されるのは、東証の各市場に株式を上場している会社です。東証の証券取引市場は、2022年4月4日の市場再編以降、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つに区分されています。

このうち、プライム市場とスタンダード市場の上場会社については、基本原則・原則・補充原則のすべてが適用されます。これに対して、グロース市場の上場会社については、基本原則のみが適用されます。なお、プライム市場の上場会社については、スタンダード市場の上場会社よりも高水準のコーポレートガバナンスを実現することが求められています。

コーポレートガバナンス・コードには「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)」の原則が採用されており、適用されるすべての原則を実践することが必須ではありません。自社において実施することが適切ではないと判断した原則については、実施しない判断もあり得ます。

ただしコーポレートガバナンス・コードを遵守しない場合には、東証に提出する「ガバナンス報告書」にその理由を記載し、説明責任を果たす必要があります。

コーポレートガバナンス・コードは上場会社以外の会社にも参考になる

適用対象からは外れるものの、上場会社以外の会社にとっても、コーポレートガバナンス・コードに規定された各原則は参考になります。コーポレートガバナンス・コードには、コーポレートガバナンスの実現に当たって重要な考え方や取り組み方がまとめられているからです。

今後コーポレートガバナンスを強化しようと考えている企業は、コーポレートガバナンス・コードの各原則を踏まえて、自社の組織体制の整備等に取り組むのがよいでしょう。特に、将来的に東証の各市場への上場(IPO)を検討している場合は、早い段階からコーポレートガバナンス・コードに沿った体制整備を進めるに越したことはありません。

コーポレートガバナンスの強化には社外取締役などの外部人材活用が重要section

コーポレートガバナンスの実践には、社内特有の物の見方に捉われない外部人材を活用することがポイントになります。

客観的な視点から会社運営の問題点を指摘できる

外部人材は、生え抜きの人材とは異なる独自の経験や視点を持っていることが多いです。そのため、長年当然のものとして受け入れられてきた会社の業務運営についても、客観的な視点から改善点を指摘できる可能性が高いでしょう。

既存のオペレーションを抜本的に改善し、コーポレートガバナンスの実効性を高めるために、外部人材に期待される役割は大きいと言えます。

生え抜き経営陣との癒着が生じにくい

経営陣に対する監視機能を強化する観点からも、社外取締役や社外監査役として外部人材を招聘することは効果的と考えられます。外部人材は、生え抜き経営陣との間で人間関係上の癒着が生じにくいからです。

外部出身の取締役や監査役を選任することは、コーポレートガバナンスの強化に関する取り組みについて、対外的なメッセージを発信することにも繋がります。

経営判断のアイデアの幅が広がる

社外取締役として外部人材を招聘することには、経営判断のアイデアの幅を広げる目的もあります。自社に足りない専門性や経験を有する外部人材を招聘すれば、経営陣全体の保有スキルバランスが改善し、より良い会社経営の実践に繋がるでしょう。

なお最近では、経営陣の有するスキルのバランスを可視化した「スキルマトリックス」を公表する上場企業が増えてきています。スキルマトリックスの詳細については、以下の記事を併せてご参照ください。

まとめ

会社が安定的・中長期的な成長を目指すに当たっては、コーポレートガバナンスを強化することは非常に重要です。多様なステークホルダーのニーズを踏まえたうえで、公正性・透明性の保たれた会社経営を行う必要があります。

コーポレートガバナンスの強化に当たっては、外部人材を効果的に活用することが求められます。社外取締役や社外監査役として、自社に足りない専門性を備えた外部人材を招聘し、盤石のコーポレートガバナンス体制を構築しましょう。

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西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。(埼玉弁護士会)

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