弁護士有資格者で企業や官公庁、学校などの組織内に籍を置くいわゆる「インハウスローヤー」の数は、ここ20年で飛躍的な伸びを見せています。
弁護士としてのキャリアアップを目指す、あるいは現職とはひと味違う新鮮な職場環境を求める、といったマインドを満たす職業として認識されつつあるインハウスローヤー。
職務内容やなり方について、興味をお持ちの弁護士の方も少なくないと思います。そこで本記事ではインハウスローヤーの実態と、その立場を目指すうえで必要不可欠な準備と方法についてご紹介いたします。
インハウスローヤー(企業内弁護士)とは?section
弁護士法人を除く一般企業、あるいは学校法人や公益法人、行政機関などに所属し、役員や社員として働く弁護士のことを、総じてインハウスローヤーと呼びます。厳密には、企業に属する者を「企業内弁護士」、官公庁に勤務する者を「行政庁内弁護士」と呼び分けることもあります。
顧問弁護士とは異なり、所属組織が扱う業務に対しプロジェクトの一員として携わることが多く、法廷に立つような機会はほとんどありません。
【2025年3月時点】インハウスローヤーの人数推移
2001年当時には66人だった企業内弁護士も、2025年には約54.5倍の3,596人(日本組織内弁護士協会調べ)となっています。
年代 | 女性(人) | 男性(人) | 合計 |
---|---|---|---|
2001年 | 13 | 53 | 66 |
2002年 | 18 | 62 | 80 |
2003年 | 23 | 66 | 89 |
2004年 | 29 | 81 | 110 |
2005年 | 30 | 93 | 123 |
2006年 | 47 | 99 | 146 |
2007年 | 71 | 117 | 188 |
2008年 | 97 | 169 | 266 |
2009年 | 122 | 232 | 354 |
2010年 | 157 | 271 | 428 |
2011年 | 229 | 358 | 587 |
2012年 | 311 | 460 | 771 |
2013年 | 390 | 563 | 953 |
2014年 | 482 | 697 | 1,179 |
2015年 | 583 | 859 | 1,442 |
2016年 | 689 | 1,018 | 1,707 |
2017年 | 764 | 1,167 | 1,931 |
2018年 | 869 | 1,290 | 2,159 |
2019年 | 982 | 1,436 | 2,418 |
2020年 | 1069 | 1,560 | 2,629 |
2021年 | 1,156 | 1,664 | 2,820 |
2022年 | 1,232 | 1,733 | 2,965 |
2023年 | 1,322 | 1,862 | 3,184 |
2024年 | 1,385 | 2,006 | 3,391 |
2025年 | 1,474 | 2,122 | 3,596 |
【参考】
日本組織内弁護士協会|企業内弁護士数の推移(2001年~2025年)
日本組織内弁護士協会|企業内弁護士の男女別人数(2001年~2025年)
インハウスローヤーの増加背景
最大の要因は、企業のコンプライアンス(法令遵守)意識の高まりです。相次ぐ不祥事などを背景に、社会的に企業を見る目が厳しくなり、法令違反がもたらす経営リスクへの対策が急務となりました。これに伴い、問題が発生してから対応する「臨床法務」だけでなく、事前にリスクを回避する「予防法務」の重要性が増し、法務の専門家を常に社内に置く必要性が高まったのです。
また、ビジネスのグローバル化と複雑化も需要を後押ししています。海外企業との取引や海外進出が当たり前になる中で、各国の異なる法制度に迅速かつ的確に対応することが不可欠となりました。さらに、規制緩和やIT技術の進化により、これまでにない新しいビジネスモデルが登場し、法的な論点が多様化・複雑化したことも、社内に専門家を置く動機となっています。
これらの変化に対応するため、外部の弁護士にその都度相談するよりも、事業内容を深く理解したインハウスローヤーが社内にいる方が、迅速かつ効果的に、結果としてコストを抑えて法的課題に対応できるという経営判断が広がっています。
こうした企業側のニーズの高まりが、インハウスローヤーの増加を支える大きな要因となっています。
インハウスローヤーの主な業務内容
一方インハウスは、企業に採用される弁護士のため、業務内容は下記のように変化します。
- 一般企業法務全般
- 契約書の作成、審査、交渉
- サービスの利用規約の作成、審査
- サービスの企画、運営に対する法的支援
- 子会社管理(取締役会、株主総会の運営含む)
- 株主総会対応
- M&Aの法務対応(DD対応、PMI時の買収先出向など)
- グループの登記実務
- 業法(資金決済法など)対応
- 社内規程の作成、管理
- 訴訟管理
- その他予防法務全般 など
インハウスは、採用された企業の企業法務に従事していくのが最大の特徴でもあります。そのため、求められる法務レベルは多岐に渡ります。法律事務所の弁護士と異なり、さらに案件の入り口から出口までの管理も期待されているのがインハウスローヤーです。
法律事務所における業務との違い
法律事務所での業務内容は、主に下記の内容です。
- 企業法務
- 刑事事件
- 一般民事事件
- 雑務
上記のように法律事務所での業務は、クライアント側の問題を解決する臨床法務と呼ばれる働き方が一般的で、案件処理能力が期待されています。個人受任が、基本的に認められているところが特徴です。

顧問弁護士業務との大きな違い
企業などの顧問弁護士は、当然のことながら外部からクライアント企業に関わる立場です。法務的なトラブル、各種法律に関する相談などを引き受けることになりますが、ほとんどの場合、依頼があった時点でピンポイントに案件に携わるというスタンスです。
一方のインハウスローヤーは企業の社員ですから、内部のスタッフのひとりになります。例えば何かあったトラブルが発生した際、その企業の社員であるインハウスローヤーは、社内の問題点や情報をまとめたうえで、顧問弁護士に対処を依頼します。
インハウスローヤーは、ひとつの社内業務に長く、日常的に関わり続けることが多いという点も、顧問弁護士とは異なります。継続して管理し続けることが重要な自社が持つ知財、社員や顧客の個人情報などを担当するインハウスローヤーは、その部署の担当者として長きにわたって業務に携わることもあります。
インハウスローヤーの多い業界
問5あなたの勤務先の業種を教えてください。 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
メーカー(家電、自動車、化学、医薬品、機械等) | 118 | 32.9% |
金融(銀行、証券、保険等) | 61 | 17.0% |
IT(情報通信、ネットサービス等) | 51 | 14.2% |
その他 | 129 | 35.9% |
インハウスローヤーの勤務先を見ると、最も多いのがメーカーで、全体の32.9%を占めているのがわかります。
エンドユーザーのコンプライアンス意識の高まりを受け、商品の開発段階、あるいはプロジェクトのスタート時点で法知識が必要になるという傾向の高まりが見受けられます。
また、工場の海外進出などに積極的なメーカー、M&Aなどを通じて企業規模を拡大しようと計画するメーカーも、インハウスローヤー採用に積極的です。
企業内でのポジションや残業の実態
実際のところ、組織内弁護士はどのような立場として勤務しているのでしょうか。
企業内での職種・ポジション
問6 あなたの勤務先でのポジションを教えてください。 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
一般従業員(法務・知財・コンプライアンス部門) | 133 | 37.0% |
一般従業員(法務・知財・コンプライアンス部門以外) | 16 | 4.5% |
管理職(法務・知財・コンプライアンス部門) | 161 | 44.8% |
管理職(法務・知財・コンプライアンス部門以外) | 16 | 4.5% |
役員・ジェネラルカウンセル | 33 | 9.2% |
日本組織内弁護士協会がインハウスローヤーに対して行ったアンケートの結果によると、担当している仕事で最も多いのが組織内の管理職(法務・知財・コンプライアンス部門)での業務となっています。
企業で訴訟代理人になるのは13.2%
問8 あなたは勤務先の訴訟代理人となることがありますか。 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
ある | 58 | 16.2% |
ない | 301 | 83.8% |
勤務先の訴訟代理人になることがあるか、という問いに対し、86.8%の人が「ない」と回答しており、訴訟に対応する代理人としての業務を担当する確率は非常に低いと言えます。
企業内弁護士としての勤務時間・残業時間
問17 あなたの1日の平均的な勤務時間は何時間くらいですか。 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
8時間未満 | 39 | 10.9% |
8時間~9時間未満 | 148 | 41.2% |
9時間~10時間未満 | 103 | 28.7% |
10時間~12時間未満 | 57 | 15.9% |
12時間~14時間未満 | 12 | 3.3% |
14時間以上 | 0 | 0.0% |
勤務時間については9時間~10時間未満が最も多く残業もほとんどないと言って良いでしょう。もし4大法律事務所出身であれば、多少物足りなさを感じる可能性もありますが、ワークライフバランス的にも良好な環境で働けるケースが多いことが推測されます。
副業/兼業の可否について
2025年3月に実施されたアンケート調査によると、企業内弁護士が所属する会社での副業・兼業の許容状況は以下の通りです。
- 認められている(実際に副業/兼業していない): 162人 (45.1%)
- 認められていない: 104人 (29.0%)
- 認められている(実際に副業/兼業している): 93人 (25.9%)
この結果から、約半数の企業内弁護士が勤務先で副業・兼業が認められているものの、実際に副業・兼業を行っているのはそのうちの約半分(全体の25.9%)であることがわかります。また、約3割の企業では副業・兼業が認められていません。
個人受任の可否について
2025年3月に実施されたアンケート調査によると、企業内弁護士が所属する会社における個人事件の受任の可否については、以下の結果が示されています。
- 認められていない: 185人 (51.5%)
- 認められている(実際に受任したことはない): 121人 (33.7%)
- 認められている(実際に受任したことがある): 53人 (14.8%)
このデータから、半数以上の企業(51.5%)では個人事件の受任が認められていないことがわかります。一方で、約3割の企業(33.7%)では認められているものの、実際に受任した経験はないと回答しており、実際に個人事件を受任したことがある企業内弁護士は全体の14.8%に留まっています。
【2025年】インハウスローヤーの平均年収section
転職を志す人が最も気にする要件と言えば新しい職場の待遇。それは、インハウスローヤーに転身しようとする弁護士のみなさんも同様でしょう。特に収入面での変化は生活のあり方を左右するだけでなく、自分自身の弁護士としての評価に直結する者でもありますから、提示される給与額は入念にチェックするべきです。
平均年収は750万円〜1250万円
最も多くの企業内弁護士が該当する年収帯は1000万円~1250万円未満であり、全体の23.1%を占めています。
次いで多いのは750万円~1000万円未満で20.3%です。このことから、多くの企業内弁護士が750万円から1250万円の範囲の年収を得ていることがわかります。
問16 あなたの年収(支給総額)を教えてください。 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
250万円未満 | 0 | 0.0% |
250万円~500万円未満 | 4 | 1.1% |
500万円~750万円未満 | 35 | 9.7% |
750万円~1000万円未満 | 73 | 20.3% |
1000万円~1250万円未満 | 83 | 23.1% |
1250万円~1500万円未満 | 54 | 15.0% |
1500万円~2000万円未満 | 49 | 13.6% |
2000万円~3000万円未満 | 39 | 10.9% |
3000万円~5000万円未満 | 17 | 4.7% |
5000万円以上 | 5 | 1.4% |
この2ゾーンで43.4%を締めますから、中央値は1,000万円の間とみることができそうです。
年収にプラスできる主要な福利厚生3つ
弁護士が法律事務所から企業内弁護士(インハウスローヤー)へ転職する際、額面の年収だけでなく、福利厚生による経済的な恩恵も考慮することが重要です。企業に所属することで、これまで自己負担だった費用が会社負担になったり、法律事務所にはない制度の恩恵を受けられたりします。
以下に、年収に加味できる代表的な福利厚生項目を3つ挙げ、それぞれ解説します。
弁護士会費の会社負担
弁護士として活動を続けるためには、日本弁護士連合会(日弁連)および所属する各都道府県の弁護士会への会費納入が義務付けられています。この会費は年間で50万円から100万円程度にのぼることもあり、法律事務所に勤務する弁護士の場合は自己負担となるのが一般的です。
しかし、企業内弁護士として雇用される場合、この弁護士会費を会社が負担するケースが多く見られます。これは、弁護士資格を維持することが会社の業務に直接的に貢献すると見なされるためです。
年間数十万円の固定費がなくなることは、可処分所得がその分増えることを意味し、実質的な年収アップに直結する大きなメリットと言えるでしょう。
ストックオプション(SO)
ストックオプションとは、従業員や役員が、あらかじめ定められた価格(権利行使価格)で自社の株式を購入できる権利のことです。特に成長段階にあるベンチャー企業やIT企業などで、優秀な人材を確保するためのインセンティブとして付与されることが多くあります。
弁護士が法務部長や役員候補として迎えられる際に付与されるケースも少なくありません。将来、会社の業績が向上し、株価が権利行使価格を大幅に上回った時点で権利を行使し、株式を売却すれば、大きな利益(キャピタルゲイン)を得ることが可能です。
これは給与や賞与とは別に得られる報酬であり、数千万円単位の収入になる可能性も秘めているため、年収を大きく押し上げる要因となり得ます。
住宅手当・退職金制度
多くの企業では、社員の生活をサポートするための多様な福利厚生制度が整備されています。これには、家賃の一部を補助する住宅手当や社宅制度、将来の資産形成に繋がる退職金制度や企業型確定拠出年金(DC)などが含まれます。
法律事務所、特に中小規模の事務所では、こうした制度が整っていない場合も多く、弁護士は個人事業主として自身の将来設計を行う必要があります。企業に所属することで、こうした手厚い福利厚生の恩恵を受けられるようになります。
例えば、毎月の家賃補助は可処分所得を直接的に増やしますし、退職金制度は長期的な経済的安定に大きく寄与します。これらは額面の年収には現れないものの、生涯にわたる経済的な価値は非常に大きいと言えるでしょう。
インハウスローヤーのメリット・転職で変わる仕事やライフスタイルsection
法律に関する業務に従事するという意味で、インハウスローヤーになったからと言って大きな環境の変化は感じないと思う人もいるかと思います。しかし、生活環境も弁護士時代と全く変わらないかというと、そんなことはありません。
場合によってはライフスタイルがガラッと変わり、より有意義な生活を手に入れる人もいるようです。
激務は緩和される
弁護士の業務はどうしても不規則・長時間になりがちな部分がありますが、インハウスローヤーになった場合、その部分が緩和される可能性は高くなります。会社が定めた規定などが根底にはありますが、与えられた業務を1人きりで背負い込むことが少なるという側面もあります。
もちろん繁忙期には通常は認められていない時間外勤務を経験することもありますが、昨今の労働環境改善の機運の後押しもあり、サービス残業や不必要と思われる休日出勤などは減少の一途をたどっています。
プライベート時間の確保とワークライフバランスの向上は見込める
空いた時間を趣味や家族サービスに費やしてもいいですし、自身の研鑽を積むために使ってもいいでしょう。いずれにせよ、規則正しく余裕のある生活を送ることは、よりより業務のために不可欠なもの。
全ての場合に当てはまることではありませんが、実際にその環境が手に入るのであれば、インハウスローヤーになることの大きなメリットになります。
新たな目標設定が必要
より優秀なインハウスローヤーとして活躍するためには、短・長期的ないくつかの目標設定が必要になります。それは、専業弁護士時代と異なり、所属企業内での立場や所属部署、役職などを考慮したものになります。
知識として吸収しなくてはならない物の中には、法律とは全く関連性のない事項が含まれているかもしれません。より深く学ぶ必要があれば、勉強会やビジネススクールなどに通う必要が生じる場合もあります。
そういった変化に対応し、やるべきことを整理し、遂行するという考え方が重要です。
ライフプランにも変化が出る
企業に就職した時点で、収入は専業弁護士時代と大きな差が無かったとしても、そこからの伸びに大きな違いが生まれることもあります。社員として働いている間は、規定値を超えるレベルで収入がジャンプアップすることはほとんどありません。
一方で、社員でいる限り、毎月、毎年、ある程度安定した額が入ってくるという安心感はあります。それを踏まえたうえで、転職を決断した際には自分が思い描く将来のプランを再考する必要があるでしょう。
仕事を通じて得られるスキルにも変化
インハウスローヤーになって得られるスキルの代表的なもののひとつは、属する企業や組織、あるいはその業界の専門知識でしょう。
特定の企業のインハウスローヤーになるからには、当然のことながらその企業の専門分野についての深い知識が必要になります。法律に関する情報だけではなく、マーケットの特徴やエンドユーザーの動向、さらには経営に関するノウハウに至るまで。
社外の弁護士として勉強をしても同様の知識は手に入るかもしれませんが、自らその業界の一部となって周囲の事柄を把握しようと努めることで、得られるものはよりリアルで有益なものに感じられるはずです。
それはインハウスローヤーとしての成長を促すことはもちろんのこと、専業の弁護士に戻ることになった場合にも必ず役に立つ経験となります。
インハウスローヤーに転職する3つのリスクsection
法律事務所への復帰は難しくなる
インハウスローヤーとしてのキャリアを数年積んだ後、再び法律事務所へ戻りたいと考えても、そのハードルは高くなる傾向があります。
企業内では契約書のレビューやコンプライアンス体制の構築といった予防法務が中心となり、法律事務所で求められる訴訟対応や一般民事事件などの実務経験を積む機会が大幅に減少するためです。
特に弁護士としてのキャリアの早い段階でインハウスに転身した場合、訴訟実務の経験不足を理由に法律事務所への転職が難しくなる可能性があります。キャリアの柔軟性が失われ、選択肢が狭まるリスクがあることは認識しておく必要があります。
収入が頭打ちになる可能性
法律事務所、特にパートナーを目指せるような事務所では、個人の実績や案件の成功報酬によって数千万円以上の高収入を得ることも可能です。しかし、企業内弁護士は会社員として雇用されるため、給与は社内の給与テーブルに基づいて決定されます。
そのため、収入が安定する一方で、法律事務所勤務時代のような大幅な収入アップは期待しにくくなります。特に大手法律事務所で高年収を得ていた弁護士の場合、転職によって年収が下がってしまうケースも少なくありません。
企業の業績に連動した賞与やストックオプションが付与されることもありますが、収入に上限があることは覚悟しておくべきリスクと言えるでしょう。
業務範囲の限定と専門性の変化
法律事務所では多様なクライアントから様々な分野の案件を経験できますが、インハウスローヤーの業務は所属する企業の事業内容に大きく依存します。
そのため、特定の業界の法務には詳しくなる一方で、それ以外の法律分野に触れる機会は減少し、弁護士としての知識や経験に偏りが生じる可能性があります。また、法務部門の一員として、他部署との調整やマネジメント業務など、純粋な法律業務以外の役割を求められることも増えます。
弁護士としての専門性を深く追求したいと考える人にとっては、業務内容が定型的で物足りなく感じられるリスクがあります。
インハウスローヤーになる・転職する際のスキルと経験7つsection
企業が求めるインハウスローヤー像を考えた時に、必要とされるスキルや知識、人間性について考えてみましょう。
企業内弁護士(インハウスローヤー)は、単なる法律の専門家としてだけでなく、企業の成長を支えるビジネスパートナーとしての役割を期待されます。
そのため、法律事務所での経験に加えて、企業組織の一員として貢献するための多様なスキルや経験が求められます。
高度なコミュニケーションスキル
インハウスローヤーは、法務知識を持たない他部署の従業員や経営陣に対して、複雑な法律問題を分かりやすく説明する能力が不可欠です。
法律事務所のように法律家同士で話すのとは異なり、相手の知識レベルに合わせて専門用語を避け、ビジネス上の影響やリスクを具体的に伝える必要があります。また、新しい事業やサービスのリスクを把握するためのヒアリングを行ったり、各部署間の利害を調整したりと、円滑な人間関係を築きながら業務を進める協調性も極めて重要です。
法的な正論を主張するだけでなく、相手の立場を理解し、組織全体として最適な解決策を導き出すための対話力が求められます。
企業法務に関する実務経験
インハウスローヤーの求人では、即戦力として活躍できる実務経験が重視されます。特に、契約書の作成・審査・管理の経験は、ほとんどの企業で必須スキルと見なされています。
これに加えて、取締役会や株主総会の運営支援、コンプライアンス体制の構築・運用、社内規程の整備、知的財産管理、紛争対応といった企業法務全般にわたる経験があると、高く評価されます。
法律事務所で顧問先の法務に携わった経験は大きな強みとなります。特定の専門分野だけでなく、企業活動で発生しうる幅広い法律問題に対応できるジェネラリストとしての素養が、インハウスローヤーには求められます。
ビジネス視点と事業への理解
インハウスローヤーに最も求められる資質の一つが、法的な観点だけでなく、ビジネスの視点から物事を判断し、提案できる能力です。
法的にリスクがゼロの選択肢が、必ずしもビジネスの成長にとって最善とは限りません。自社の事業内容、業界動向、競合の状況などを深く理解した上で、許容できるリスクの範囲を見極め、事業を前に進めるための代替案や解決策を主体的に提示することが期待されます。
単なる「法務リスクの番人」ではなく、経営陣や事業部門の戦略的パートナーとして、企業価値の最大化に貢献するという意識を持つことが重要です。
社内外での交渉力・調整力
インハウスローヤーの業務には、交渉や調整が伴う場面が数多く存在します。例えば、取引先との契約条件の交渉、M&Aにおける相手方との交渉、あるいは利害が対立する社内部署間の調整などです。
法律事務所での訴訟代理人としての交渉とは異なり、相手を論破するのではなく、自社の利益を確保しつつ、相手との良好な関係も維持し、双方にとってメリットのある着地点を見出す能力が求められます。
法的な知識を交渉の武器としつつも、ビジネス上の目的を達成するための柔軟な姿勢と、落としどころを探るバランス感覚が不可欠なスキルです。
マネジメント能力
法務部門の規模が大きくなると、インハウスローヤーには法務部長や法務担当役員として、チームを率いるマネジメント能力が求められます。具体的には、部下の育成や業務の進捗管理、目標設定、評価といった人材マネジメントのスキルです。
また、限られた法務リソース(人員、予算)を、会社の事業戦略や優先順位に基づいて最適に配分する能力も重要になります。将来の幹部候補として採用される場合、単なる一人のプレイヤーとしてだけでなく、組織全体を俯瞰し、法務部門の価値を最大化するためのリーダーシップを発揮することが期待されます。
法律事務所でのチームリーダーや後輩指導の経験があれば、効果的なアピール材料となるでしょう。
語学力(特に英語力)
グローバルに事業を展開する企業や、海外企業との取引が多い企業では、ビジネスレベルの英語力が必須スキルとなります。
英文契約書の読解・作成・交渉はもちろんのこと、海外の現地法人や提携先弁護士とのメールや会議でのコミュニケーションなど、英語を使用する場面は多岐にわたります。求められるレベルは企業によって異なりますが、一般的にはTOEICスコアなどが一つの目安とされます。
外資系企業でなくとも、将来的な海外展開を見据えている企業は多く、高い語学力を持つ弁護士は高く評価される傾向にあります。法務知識と語学力を兼ね備えることで、活躍の場は大きく広がります。
危機管理・不祥事対応の経験
企業活動には、情報漏洩や製品事故、役職員による不正行為など、様々なリスクが内在しています。こうした危機が発生した際に、迅速かつ的確に対応し、企業の損害を最小限に抑える能力は、インハウスローヤーにとって非常に重要です。
具体的には、事実関係の調査、原因究明、再発防止策の策定、マスコミや監督官庁への対応、被害者への対応など、多岐にわたる業務を冷静に遂行する能力が求められます。法律事務所でクライアント企業の不祥事対応に関与した経験は、この能力を証明する上で大きな強みとなります。
平時の予防法務だけでなく、有事の際にリーダーシップを発揮して事態を収拾できる能力は、経営陣から厚い信頼を得る上で不可欠です。
インハウスローヤーに向いている・転職をおすすめする弁護士の特徴section
インハウスローヤーへの転職は、法律事務所での働き方とは大きく異なるため、向き不向きがあります。自身のキャリアプランや価値観、性格などを踏まえて、インハウスローヤーという働き方が合っているかを見極めることが重要です。
ここでは、インハウスローヤーへの転職をおすすめできる、向いている人の特徴を解説します。
ワークライフバランスを重視し、安定した働き方を求める人
インハウスローヤーは企業の正社員として勤務するため、労働時間や休日がカレンダー通りに定められている場合が多く、ワークライフバランスを保ちやすい傾向にあります。
法律事務所のように個人の売上目標に追われたり、深夜や休日に緊急対応を迫られたりする場面は比較的少なく、安定した収入とプライベートの時間を確保しやすくなります。家庭との両立を目指したい方や、趣味の時間を大切にしたい方など、仕事と生活の調和を重視する人にとっては魅力的な環境です。
高収入を追求するよりも、予測可能で安定した生活基盤を築きたいと考える人に適しています。
企業の成長に当事者として貢献したい人
法律事務所の弁護士が外部の第三者としてクライアントに関わるのに対し、インハウスローヤーは企業組織の一員として、内側から事業の成長を支える役割を担います。
自社の製品やサービスが世に出ていく過程に法務の立場から深く関与し、事業部門と一体となって目標達成を目指すことにやりがいを感じる人に向いています。単に法的リスクを指摘するだけでなく、事業を成功させるために何ができるかを考え、主体的に提案していく姿勢が求められます。
自分の仕事が会社の成長に直結しているという手応えや、チームで一体となって成果を出すことに喜びを感じられる人におすすめです。
ビジネスや経営に強い関心がある人
インハウスローヤーは、日々の業務を通じて経営陣と近い距離で仕事をする機会が多く、企業の意思決定プロセスを間近で見ることができます。
法務の観点から経営戦略について意見を求められたり、M&Aのような経営の根幹に関わるプロジェクトに参加したりすることもあります。そのため、将来的に独立開業を考えている人や、法務の専門性を活かして経営層を目指したい人など、ビジネスそのものに強い興味・関心を持つ人にとって、非常に学びの多い環境です。
法律の専門家であると同時に、ビジネスパーソンとしての視点を養い、企業経営のダイナミズムを肌で感じたいという知的好奇心旺盛な人に適しています。
チームワークを大切にし、協調性のある人
インハウスローヤーの仕事は、法務部内だけでなく、他部署の様々なメンバーと連携しながら進めることがほとんどです。営業、開発、マーケティングなど、異なる専門性を持つ人々と円滑にコミュニケーションを取り、共通の目標に向かって協力していく必要があります。
法律事務所のように個人の裁量で仕事を進める場面は少なく、組織の一員としての協調性が強く求められます。自分の意見を主張するだけでなく、相手の意見にも耳を傾け、チーム全体として最善の結論を導き出すプロセスを楽しめる人に向いています。
個人プレーよりも、チームで成果を上げることに価値を見出す人にとって、充実した環境でしょう。
特定の業界・事業領域への探求心がある人
インハウスローヤーとして働くことは、特定の業界や事業領域の専門家になることを意味します。例えば、製薬会社のインハウスローヤーになれば薬事法に、IT企業であれば個人情報保護法や知的財産法に深く精通していくことになります。
自分が興味を持つ業界や、将来性を感じる事業領域に身を置き、その分野の法務のプロフェッショナルとしてキャリアを築いていきたいと考える人にとって、インハウスローヤーは最適な選択肢です。
法律という軸足を保ちながら、特定のビジネス領域に関する知見を深めていくことに面白さを感じられる人に向いています。
地道な作業を厭わない几帳面な人
インハウスローヤーの日常業務には、契約書のレビューや社内規程の整備、コンプライアンス研修の準備といった、地道で定型的な作業が多く含まれます。
訴訟のような華々しい案件ばかりではなく、企業の足元を支えるためのコツコツとした作業が大部分を占めることもあります。細かな文言の違いが将来の大きなリスクに繋がる可能性を理解し、隅々まで注意深く確認する几帳面さや、地道な作業にも真摯に取り組める姿勢が求められます。
目立つ仕事でなくても、会社の基盤を支える重要な役割を担っていることに誇りを持ち、責任感を持って業務を遂行できる人に向いています。
ジェネラリストとしてのキャリアを志向する人
法律事務所では特定の専門分野を深く追求するスペシャリストが評価される傾向にありますが、インハウスローヤーには企業活動で発生する様々な法律問題に幅広く対応できるジェネラリストとしての素養が求められます。
契約法務から労働法、会社法、知的財産法まで、多様な相談に一次対応できる知識と経験が必要です。もちろん特定の強みを持つことは重要ですが、それ以上に、未知の分野についても臆することなく調査し、外部の専門家とも適切に連携しながら問題を解決に導く柔軟性が重視されます。
幅広い知識を身につけ、企業の法務課題を総合的に解決できる存在になりたいと考える人に適したキャリアパスです。
インハウスローヤーのキャリアパスsection
インハウスローヤー(企業内弁護士)としてキャリアをスタートさせた後、その道は多岐にわたります。法律の専門知識とビジネス現場での実践的な経験を掛け合わせることで、多様なキャリアパスを描くことが可能です。
所属企業内での昇進(法務部長・CLO・役員)
最も代表的なキャリアパスは、所属する企業内で昇進を重ねていく道です。一般社員からスタートし、法務チームのリーダー、課長、そして最終的には法務部門全体を統括する法務部長やCLO(最高法務責任者)を目指します。
このキャリアパスでは、単なる法務の専門家としてだけでなく、組織を率いるマネジメント能力が求められます。部下の育成や予算管理、部門全体の戦略策定など、業務の幅は大きく広がります。
さらに、法務のトップとして経営会議に参加し、企業の重要な意思決定に直接関与する機会も増えます。法的リスクの分析・提言を通じて経営を支える役割は、大きなやりがいを感じられるでしょう。法務での実績が評価されれば、法務担当の執行役員や取締役といった経営陣の一員に登用される可能性もあります。
自社の事業や文化に深く精通し、会社と共に成長していきたいと考える弁護士にとって、非常に魅力的な選択肢と言えます。この道を歩むには、高度な法務スキルに加え、リーダーシップや経営的視点が不可欠です。
他の企業への転職(キャリアアップ転職)
一つの企業で得たインハウスローヤーとしての経験やスキルを武器に、より魅力的な条件や環境を求めて他の企業へ転職するのも一般的なキャリアパスです。
例えば、中小企業やスタートアップで幅広い法務経験を積んだ後、より専門性の高い業務や大規模な案件に携わるために大手企業へ移籍するケースが考えられます。
逆に、大手企業で特定の分野の専門性を磨いた後、スタートアップの法務部門立ち上げ責任者として、裁量権の大きなポジションに挑戦することもあります。
このキャリアパスのメリットは、業界や企業規模を変えることで、自身の経験値を多様化させ、市場価値を高められる点にあります。給与や役職といった待遇面でのステップアップはもちろんのこと、これまで経験したことのない新しいビジネス領域(例:FinTech、AI、再生可能エネルギーなど)に挑戦する機会も得られます。
転職市場では、2〜3年以上のインハウス経験を持つ弁護士の需要は非常に高く、特にマネジメント経験や特定の専門分野(M&A、国際法務、知的財産など)での実績があれば、有利な条件で転職活動を進めることができるでしょう。
法律事務所へ戻る【簡単ではないが一定のニーズがある】
インハウスローヤーとして企業で実務経験を積んだ後、再び法律事務所の世界に戻るという選択肢もあります。これは、一度企業の内側からビジネスを見た経験を持つ弁護士が、クライアントである企業のニーズや悩みをより深く、的確に理解できるという大きな強みを持つためです。
例えば、企業の法務部がどのような点に悩み、外部の弁護士に何を期待しているかを肌で知っているため、かゆい所に手が届く質の高いリーガルサービスを提供できます。
特に、M&Aや事業再生、新規事業の立ち上げといった複雑なプロジェクトにおいて、ビジネスサイドの事情や意思決定プロセスを理解していることは、円滑な案件遂行に大きく貢献します。
そのため、企業法務を専門とする法律事務所からは、「元インハウス」という経歴は高く評価される傾向にあります。ただし、法律事務所では訴訟対応などの純粋な法廷実務の経験が重視される側面もあるため、インハウス時代にどのような経験を積んできたかが問われます。
企業での経験を活かし、クライアントに寄り添えるパートナー弁護士を目指すキャリアパスです。
独立開業
企業法務の専門家として、自身の法律事務所を立ち上げる道です。インハウスローヤーとしての経験は、独立開業において大きなアドバンテージとなり得ます。
最大の強みは、企業が抱える法的な課題やニーズを熟知していることです。どのような契約書でつまずきやすいか、どのようなトラブルが社内で起こりがちか、経営陣が法務に何を求めているかを実体験として理解しているため、企業の「顧問弁護士」として非常に価値の高いサービスを提供できます。
また、インハウス時代に築いた社内外の人脈は、独立後の重要な顧客基盤となり得ます。元同僚や取引先から仕事の依頼を受けたり、新たなクライアントを紹介してもらったりするケースも少なくありません。
特定の業界(IT、製造、金融など)に長く身を置いていた場合は、その業界に特化した専門性を打ち出すことで、他の法律事務所との差別化を図ることも可能です。企業の経営者に近い視点を持ち、ビジネスの成功を法務面からサポートしたいという志向を持つ弁護士にとって、非常にやりがいのあるキャリアと言えるでしょう。
法務以外の部門へのキャリアチェンジ
インハウスローヤーとして培った法的知識とビジネス感覚を活かし、法務部門以外のポジションへキャリアを広げる選択肢もあります。弁護士としての論理的思考力やリスク分析能力は、他の多くの職種でも高く評価されます。
例えば、M&Aやアライアンスを推進する「経営企画部門」、新規事業の立ち上げを担う「事業開発部門」、あるいはコンプライアンスやリスク管理を専門とする部門などが考えられます。
これらの部門では、法的な視点を持ちながらビジネスを推進できる人材が強く求められており、インハウスローヤーの経験は大きな武器となります。法務部門にいると、どうしても事業に対して「ブレーキ役」と見られがちですが、事業部門側に移ることで、法的なリスクを適切にコントロールしながら事業を前に進める「アクセル役」としての役割を担うことができます。
経営の中枢により近い場所で、会社の成長にダイレクトに貢献したいという思いを持つ弁護士にとって、刺激的で可能性に満ちたキャリアパスです。
社外役員(社外取締役・社外監査役)への就任
豊富なインハウス経験を持つ弁護士のキャリアの到達点の一つとして、他の企業の「社外役員」に就任する道があります。
近年のコーポレートガバナンス改革の流れの中で、企業経営の透明性・客観性を担保するため、独立した立場から経営を監督する社外取締役や社外監査役の重要性が増しています。特に、法律の専門家であり、かつ企業経営の実情にも通じている弁護士は、社外役員の候補として非常に高い需要があります。

この役割を担うには、法務部長やCLOとして企業の重要な意思決定に関わった経験や、コンプライアンス体制の構築・運用に深く携わった実績など、長年にわたる豊富な経験と高い見識が求められます。
通常は、一つの企業でキャリアを終えるのではなく、複数の企業で法務責任者を歴任したようなベテランが就任するケースが多いです。自身の知識と経験を活かして、特定の企業だけでなく、社会全体の健全な企業統治に貢献したいと考える弁護士にとって、究極のキャリアパスの一つと言えるでしょう。

公的機関への転身(任期付公務員など)
民間企業での経験を活かし、官公庁や政府系機関、地方自治体といった公的機関で働くキャリアパスも存在します。特に、新しい技術やサービスに関連する法整備やルールメイキングが急がれる分野では、民間企業の実務に精通した法律専門家の知見が強く求められています。
例えば、経済産業省や金融庁などで「任期付公務員」として数年間勤務し、業界の発展に貢献するという道です。このキャリアの魅力は、個別の企業の利益のためではなく、より広い視点から社会や国民のために自身の専門性を活かせる点にあります。
官民連携のプロジェクトを推進したり、業界全体のガイドラインを作成したりと、その影響力は一企業の枠を超えます。また、公的機関での勤務経験は、その後のキャリアにも大きなプラスとなります。
任期終了後に再び民間企業に戻る際には、行政の動向や政策決定のプロセスを深く理解している人材として、市場価値がさらに高まることが期待できます。民間と行政、双方の視点を持つ稀有な専門家として、ユニークなキャリアを築くことが可能です。
インハウスローヤーに転職する具体的な方法section
インハウスローヤー(企業内弁護士)への転職を実現するためには、多様なアプローチが存在します。自身の経験やキャリアプラン、活動にかけられる時間などを考慮し、最適な方法を組み合わせることが成功の鍵となります。
弁護士専門の転職エージェントを活用する
最も一般的かつ効果的な方法として、弁護士の転職に特化したエージェントの利用が挙げられます。これらのエージェントは、法曹界のキャリアパスや企業の法務部門が求める人材像を深く理解しています。
最大のメリットは、一般には公開されていない「非公開求人」にアクセスできる点です。インハウスローヤーの求人は、企業の戦略に関わる重要なポジションが多いため、非公開で募集されるケースが少なくありません。エージェントに登録することで、大手企業から成長中のスタートアップまで、幅広い選択肢の中から自身の希望や経験に合った求人の紹介を受けられます。
また、担当のキャリアアドバイザーから専門的なサポートを受けられるのも大きな利点です。職務経歴書の添削や面接対策はもちろんのこと、企業文化や配属先のチーム構成といった内部情報も提供してくれます。
さらに、自分では直接交渉しにくい年収や待遇面についても、客観的な市場価値に基づいて企業側と交渉を代行してくれるため、より良い条件での転職が期待できます。
特に初めてインハウスローヤーを目指す方や、効率的に転職活動を進めたい方にとっては、心強いパートナーとなるでしょう。
スカウト型転職サイトに登録する
自分のペースで転職活動を進めたい方や、すぐに転職する意思はなくても良い案件があれば考えたいという方には、スカウト型の転職サイトが有効な手段です。
この方法は、自身の職務経歴やスキル、希望条件などをサイト上に登録しておくと、そのプロフィールに興味を持った企業や転職エージェントから直接オファーが届く仕組みです。最大のメリットは、受け身の姿勢で新たなキャリアの可能性を探れる点にあります。
自分では想定していなかった業界や企業から声がかかることもあり、キャリアの選択肢を広げるきっかけになります。
このサービスを最大限に活用するためには、プロフィールの充実が鍵となります。これまでの経験、特に企業法務に関連する実績(契約書レビュー、M&A、コンプライアンス体制構築など)や、語学力、マネジメント経験などを具体的に記載することで、企業側の目に留まりやすくなります。
また、希望する業種や職務内容、働き方などの条件を明確にしておくことで、よりマッチ度の高いオファーを受け取ることが可能です。多忙な業務の合間を縫って転職活動をしたい弁護士にとって、効率的に情報収集ができる便利なツールと言えるでしょう。
知人からの紹介(リファラル採用)を活用する
既にインハウスローヤーとして働いている友人や知人、あるいは法曹界のネットワークを通じた紹介(リファラル採用)も、有力な転職方法の一つです。企業によっては、優秀な人材を確保するために、社員からの紹介を制度として推奨している場合があります。
この方法の最大のメリットは、入社後のミスマッチを大幅に減らせる点です。紹介者から、企業のカルチャーや部署の雰囲気、具体的な業務内容、働き方の実態といった、求人票だけでは分からないリアルな情報を事前に詳しく聞くことができます。
また、選考プロセスがスムーズに進む可能性が高いことも利点です。紹介者という信頼できるフィルターを通しているため、企業側も安心して選考を進めることができ、書類選考が免除されたり、面接が和やかな雰囲気で進んだりすることが期待できます。
ただし、人脈に依存するため、誰にでも使えるわけではないという側面もあります。また、もし内定を辞退する場合や、入社後に早期退職するようなことになれば、紹介者との関係にも何らかの悪影響が出る可能性もあるので、慎重に行動する必要があります。
企業の採用サイトから直接応募する
特定の企業や業界に強い関心があり、志望先が明確に決まっている場合には、企業の公式採用サイトから直接応募する方法も有効です。
多くの企業は自社のウェブサイトに採用ページを設けており、インハウスローヤーを含むキャリア採用の募集要項を掲載しています。この方法の最大のメリットは、その企業で働きたいという強い熱意や意欲を直接アピールできる点です。なぜ他の企業ではなく、その企業を選んだのかという志望動機を具体的に伝えることで、他の応募者との差別化を図ることができます。
また、転職エージェントなどを介さないため、自分のペースで選考プロセスを進められる自由度の高さも魅力です。ただし、求人情報の収集から書類作成、面接の日程調整、条件交渉まで、すべてを自分一人で行う必要があります。
特に、インハウスローヤーの求人は常時募集しているとは限らないため、希望する企業の採用情報を定期的にチェックする手間がかかります。
また、客観的な立場からのアドバイスやサポートが得られないため、自身の市場価値を正確に把握し、適切な条件交渉を行うための自己分析と情報収集が不可欠となります。
法律事務所からの出向・研修を経て転籍する
大手法律事務所などに所属している場合、クライアントである企業へ一定期間出向して法務業務をサポートする機会を得ることがあります。
これは、クライアントのビジネスへの理解を深める研修の一環として行われることが多いですが、結果的にインハウスローヤーへの転職につながるケースも少なくありません。
この方法の最大の利点は、実際にその企業で働く経験を通じて、自身がインハウスという働き方に合っているか、またその企業の文化が自分にフィットするかをじっくりと見極められる点です。
出向期間中は、社員と同じ立場でビジネスの最前線に立ち、法務だけでなく事業部門とも密接に連携しながら業務を進めます。この経験を通じて、企業の意思決定プロセスや内部事情を深く理解することができます。
出向期間の終了後、本人と企業の双方の意向が合致すれば、そのままその企業へ転籍するという道が開かれます。企業側にとっても、既によく知る弁護士を採用できるため、ミスマッチのリスクが低く、即戦力として期待できるというメリットがあります。
ただし、これは所属する法律事務所とクライアント企業との良好な関係が前提となるため、誰にでも開かれているルートではない点に注意が必要です。
弁護士に特化した転職エージェントおすすめ7社を厳選section
インハウスローヤーへの転職は、通常の弁護士の転職に比べて難しくなる場合があります。少しでも転職活動を有利にするために、必ず転職エージェントを活用しましょう。
転職エージェントでは、弁護士の転職に必要な求人から情報、アドバイスまで的確に行ってくれますので、いちいち求人を細かくチェックする手間が省け、さらに転職希望者がアピールできるポイントをできる限り提示する方法を教えてくれます。
No-Limit弁護士|弁護士・インハウス転職に強い転職エージェント

『No-Limit弁護士』は弁護士の転職に特化した転職エージェント。
利用者ひとりひとりに寄り添った対応を心がけており、求める条件をしっかヒアリングし、ミスマッチを減らすために力を入れています。
また、望んだ求人がない場合には、条件に沿えるよう新規求人開拓も随時行っています。登録は無料で、非公開求人も観覧できるようになりますので、気になる方は登録してみてください。
【公式サイト】https://no-limit.careers/
BEET-AGENT|法務・コンプライアンス求人・管理部門特化

「BEET-AGENT」は、法務人材、管理雨部門特化型の転職エージェントです。
- 法務求人・ガバナンス・コーポレート職種の転職に特化
- 法務部リーダークラス、CLOを含む企業法務求人を専門に扱う
- 上場企業、IPO準備中の法務などの求人多数
- ストックオプションあり、年収600万円以上の方におすすめ
BEETAGENTの特徴は、企業の法務求人を専門に紹介している点、特化型のため非公開法務求人、業務内容に精通したアドバイザーが在籍し、ミスマッチのない求人紹介ができる点です。
未上場でも、最近話題のリーガルテック企業やIPO準備中で法務部強化をしているリーダーポジションなど、法務部でキャリアを積んだ方一人ひとりとマッチした求人を紹介するため、しっかりとした面談を設定。
スキルマッチと転職で叶えたい要望に対するミスマッチのない求人提案に定評があります。
公式サイト:https://beet-agent.com/
アガルートキャリア

アガルートキャリアは、大手法律事務所、人気企業の企業内弁護士、PEファンド、ベンチャーキャピタルなどの非公開求人を多数保有しています。
アガルートが展開しているアガルートアカデミーで積み上げたデータベースをもとに最適な求人を紹介してもらうことができます。
対応職種 | 弁護士(事務所/インハウス・アソシエイト~パートナー) 法務マネージャー、コンプライアンスなど |
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対応地域 | 日本全国 |
サポート体制 | 求人提案、面談日程調整、条件交渉などの転職活動サポート |
相談形式 | 電話、オンライン |
提示年収幅 | 800万〜 3,000万※ポジションによります |
運営会社 | 株式会社ファンオブライフ |
公式サイト | https://agaroot-career.jp/ |
MS Japan|弁護士・法務の転職に強い

『MS Japan』は、管理部門に特化した転職エージェントとして25年の歴史を持ちます。
また、弁護士・法律事務所に関する転職サービスは10年前から本格始動しており、25年間で培った転職サービスとしてのノウハウを十分に活かしてくれています。もともと管理部門に力を入れている転職エージェントですので、インハウスの求人には非常に大きな強みを持ちます。
公式サイト:https://ms-japan.jp
リーガルジョブボード

株式会社WILLCOが運営する、弁護士・司法書士・社労士など、士業専門の転職求人サイトです。
サービス系、建築系、金融、IT、マーケティンブ分野など、法律事務所に限らず、法務部門がある企業を多数紹介しています。
特徴的なのは直接応募型の求人だけではなく、スカウト機能がある点です。また、給与や勤務形態の代理交渉・書類添削や面接対策・事務所の口コミや求人情報には掲載していない情報の提供・面接同行など、基本的な転職サポートを受けられます。
公式サイト:https://legal-job-board.com/
弁護士転職.jp

弁護士転職.jpは、株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社の転職サービスです。
対応職種 | 民事系事務所・渉外系事務所、インハウス |
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対応地域 | 全国、海外 |
サポート体制 | 求人紹介企業との面談調整転職サポート |
相談形式 | 対面、メール、電話、オンライン |
提示年収幅 | 〜 2,500万円 |
受付時間 | 9:30~18:30(土日祝日除く) |
運営会社 | 株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社 |
公式サイト | https://www.bengoshitenshoku.jp/ |
様々な弁護士の「将来」や「課題解決」実現のためのプラン設計や、具体的な勤務先の紹介、給与・待遇面の交渉などの対応をしてくれます。
C&Rリーガル・エージェンシー社だけが抱える求人情報が豊富にあることが強みです。また、転職活動が終了した後も生涯サポートしてくれるので、次のキャリアアップ時にも引き続き頼ることができます。
弁護士ドットコムの弁護士キャリア

日本最大級の弁護士相談ポータルサイトである「弁護士ドットコム」が運営する、弁護士業界に強いネットワークを持った転職エージェントサービスです。
運営母体の弁護士ドットコム株式会社は、登録弁護士数10,000人、月間サイト訪問者数923万人の日本最大級の法律相談ポータルサイトを運営しています。
対応職種 | 民事系事務所・渉外系事務所インハウス |
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対応地域 | 全国 |
サポート体制 | 求人紹介企業との面談調整転職サポート |
相談形式 | 対面またはメール・電話 |
提示年収幅 | 500万円 〜 2,000万円 |
運営会社 | 弁護士ドットコム株式会社 |
公式サイト | https://career.bengo4.com/ |
まとめ|企業法務に関わるなら早い方が良い
インハウスローヤーになると決意する理由は人それぞれではありますが、「弁護士としての資格をうまく活かし、新たな挑戦をする」という意味において、非常に前向きな目標だと言えます。
また、企業法務は実務を理解し法的な業務を一人で行えるまでに何年も時間を要しますから、スタートはできるだけ若いほうが望ましいです。一般民事案件を自分の裁量で回すようになった弁護士が、一から企業法務を修行し直すのは、本人にも、指導者にもストレスが大きくなってしまうからです。
下積み仕事に“やりがい”を見出せずに、一般民事に転向する弁護士もいますが、経験不足でも参入できる市場であれば、若いうちからチャレンジすることを強くおすすめします。