M&Aとは|M&Aの意味や種類、メリット・デメリットなど基本事項を解説

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M&AはMergers(合併)and Acquisitions(買収)の略で、企業の合併買収のことです。合併は2つ以上の法人を1つにすること、買収はある会社がほかの会社の株式を取得して経営権をもつことをいいます。

M&Aというと、ひと昔前は身売りや会社の乗っ取りといったネガティブなイメージがありました。しかし今では後継者不在問題の解消や成長戦略など、売り手企業と買い手企業の双方にメリットがあるM&Aを中心に行われています

オンラインのM&Aマッチングサービスが登場するなどM&A業界は活性化しており、2022年には日本企業が関与したM&A件数が過去最多を更新しました。

自社の状況を鑑みて、M&Aも選択肢に入るのではないかと考えている経営者の方は、まずはM&Aについて理解を深めることが大切です。この記事ではM&Aをテーマに、種類やメリット・デメリット、費用や流れなどさまざまな観点から解説します。

目次
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M&Aとはsection

まずはM&Aの意味や歴史、種類などM&Aの基本情報を解説します。

M&Aとは企業の合併買収のこと

広義のM&Aには資本の移動をともなわない業務提携も含む場合があります。

日本では1980年代のバブル期にクロスボーダー型のM&Aが活発化しましたが、2000年代に入るまでM&A自体の社会的な認知度は高くありませんでした。M&Aはあくまでも大企業が行うものという認識であって、中小企業のM&Aはごく一部にとどまっていたのです。

しかし2000年代に入るとIT企業が台頭し、株価が上昇するとともに徐々に中小企業のM&Aも増えていきます。そして2006年に中小企業庁から事業継承ガイドラインが公表されたのをきっかけに事業継承の手段としてM&Aが広く認知されます。2010年代に入ってからは、国内におけるM&Aの件数は右肩上がりで上昇を続けています。

※参考:MARR Online|グラフで見るM&A動向

M&Aの件数

レコフデータが運営するM&A情報・データサイト「マールオンライン」によると、日本企業に対するM&A件数は2017年に初めて3,000件を超え、2019年には初めて4,000件を突破しました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年は減少に転じましたが、2022年1~12月の件数は4,304件と2年連続で最多を更新しています。日本におけるM&Aは活発化しているといっていいでしょう。

  1. MARR Online|グラフで見るM&A動向
  2. MARR Online|2022年のM&A回顧(2022年1-12月の日本企業のM&A動向)

M&Aの主な種類section

M&Aにはさまざまな手法があります。主な手法である「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」「会社分割」の4つについて解説します。

株式譲渡

M&Aにおける買収には「株式取得」と「事業譲渡」の2つがあります。株式取得はさらに「株式譲渡」「株式交換」「株式移転」といった種類があり、なかでももっともオーソドックスなのが株式譲渡です。株式譲渡は売り手企業の株式を買い手企業に売却し、株主の地位を譲る手法です。株式譲渡では株主が変わるだけでスムーズにM&Aが完了することから、とくに中小企業のM&Aでは株式譲渡が多く用いられています。

事業譲渡

事業譲渡は、売り手企業がもつ事業の一部または買い手企業に譲り渡す手法です。中小企業のM&Aでは株式譲渡以外の買収はほとんどが事業譲渡です。

株式譲渡では株主そのものが変わりますが、事業譲渡は事業のみを譲り渡すという違いがあります。そのため売り手企業は事業譲渡後も引き続き会社を所有し、運営できます。また譲渡範囲を決められるため、売り手企業は不採算部門のみを切り離す、買い手企業は欲しい事業のみを引き継ぐといったことも可能です。

合併

合併には「吸収合併」と「新設合併」があります。吸収合併は一方の法人格のみを残して他方の法人格を消滅させ、消滅した法人の権利義務は存続する法人に引き継がせる手法です。これに対し、新設合併ではすべての法人格を消滅させたうえで新たな法人を設立します。手続きの煩雑さやコスト面での理由から、合併のうちほとんどのケースで吸収合併が行われています。

会社分割

会社分割は会社の一部または全部を切り離して別の会社に移転させ、事業に関する権利義務を承継させる手法です。既存の会社に移転させる「吸収分割」と、新設した会社に移転させる「新設分割」があります。混同されやすい事業譲渡との違いとして、資産や負債、契約のすべてを包括的に移転できる点が挙げられます。

売り手側の企業がM&Aを行うメリットsection

M&Aを行うメリットについて、売り手側企業と買い手側企業の視点から解説します。まずは売り手企業のメリットを確認しましょう。

後継者不在問題を解決できる

少子高齢化が加速する日本では企業における後継者不在問題が深刻化しています。とくに中小企業では大きな問題となっており、黒字にもかかわらず廃業する黒字廃業が後を絶ちません。後継者不在によって優れた技術力やノウハウが失われることは、日本経済にとって深刻な影響を与えかねないでしょう。

M&Aをすれば社外の第三者に事業を継承させられるため、後継者不在問題を解決できます。

従業員の雇用を継続できる

廃業した場合、従業員は新たな勤め先を探さなければなりません。とくに企業が少ない地方や、年齢が高い従業員は、再就職先を見つけるのに苦労するケースは多いでしょう。しかしM&Aでは通常、買い手側企業は従業員を含めて買取を検討するため、従業員の雇用は守られる可能性が高まります。

また、買い手企業が大手や上場企業であれば従業員はこれまでよりもよい労働条件・労働環境で働ける可能性もあるでしょう。

事業を継続、強化、拡大できる

M&Aを行うと売り手企業は廃業を回避して事業を継続できます。買い手企業とのシナジー効果によってブランド力や認知力が向上すれば、既存事業の強化や事業の拡大、新規事業の創設などにつながります。また事業譲渡で不採算部門を切り離した場合は、主軸部門に経営資源を集めて注力できます。

技術やノウハウを継承できる

廃業するとこれまで培ってきた技術やノウハウを継承する先がなく失われてしまいます。従業員も再就職先ではこれまで積み重ねた経験やノウハウを活かし続けられるか分かりません。M&Aでは会社や事業だけでなく貴重な技術やノウハウも後世に残すことができます。

創業者利益を得られる

廃業する場合は従業員への補償や資産の処分などで費用がかかりますが、売却する場合は保有している自社の株式を譲渡することで創業者利益を得られます。バイアウトした資金を元手に新たな事業を始める、アーリーリタイアするといった選択肢も可能です。

買い手側の企業がM&Aを行うメリットsection

続いて、買い手企業のメリットを解説します。

事業拡大や新規事業創設までの時間を短縮できる

事業の拡大やゼロからの新規事業創設を目指す場合、人材の獲得から始まり販売網や供給網の構築、ノウハウの蓄積までに長い時間がかかります。M&Aでは売り手企業が長年築き上げてきた販売網やノウハウ、技術力を含めて譲り受けるため、この時間を大幅に短縮できます。

業界内でのシェアを拡大できる

業界内での市場シェアを拡大できるのも大きなメリットです。シェアを拡大できればブランド力や認知度の向上、ひいては利益率の向上につながります。業界内における支配力が強まり、価格競争に巻き込まれるリスクも低くなるでしょう。認知度向上による広告費の削減や大量仕入れによる材料費の削減といったスケールメリットも得られます。

経営資源を確保できる

売り手企業がもつ「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」などの経営資源を継承できます。とくに「ヒト」については技術や知識、情報の担い手であり、経営資源の中でも上位に位置する重要な資源です。多くの企業で人手不足が課題となっている中、採用によって優秀な人材を獲得するのは簡単ではありません。

しかしM&Aであれば売り手企業の従業員をそのまま引き継ぐことができ、従業員がもつ技術力や知識を自社で活用できます。

シナジー効果(相乗効果)を得られる

M&Aにおけるシナジー効果とは2つ以上の会社や事業が合わさったときに、単純に足し算したとき以上の効果が生じることを指します。得られる可能性があるシナジー効果としては、売上増やコストの削減、価格交渉力や販売チャネルの強化など多岐にわたります。

M&Aにおける売り手側企業の懸念材料section

売り手企業と買い手企業の双方にメリットがあるM&Aですが、懸念材料も存在します。売り手企業の主な懸念材料は以下のとおりです。

想定した価格で譲渡できない

M&Aでは売り手側の将来の企業価値を見据えて売却価格が決定します。買い手企業が高い収益性は見込めないと判断すると、想定よりも売却価格が低くなる場合があります。

従業員の雇用条件が悪くなる

売り手企業のもっとも大きな懸念材料は従業員の雇用です。心配なのは、これまでより悪い条件になってしまわないかという点でしょう。とくに事業譲渡を選択した場合、雇用契約を締結し直すことになるため、M&A前よりも雇用条件が悪くなるおそれがあります。

組織風土のミスマッチが起きる

M&Aで問題になりやすいのが組織風土のミスマッチです。異なる組織同士が統合する以上、ミスマッチは起こりますが、問題はその度合いの大きさです。時間とコストをかけても埋まらない大きなミスマッチが生じた場合、売り手企業の従業員が一斉に離職し、次世代に残したはずの技術やノウハウが失われてしまうおそれがあります。

取引先からの反発が生じる

M&Aをきっかけに、売り手企業の既存顧客との取引条件が見直される場合があります。担当者が変わる場合もあるでしょう。こうした場合、取引先からの反発が生じるおそれがあります。売り手企業としては、長年の取引の中で築き上げた関係性を崩してしまうのは心苦しく、M&A後の取引に悪影響をおよぼすことが懸念されます。

M&Aにおける買い手側企業の懸念材料section

買い手企業の懸念材料は以下のようなものがあります。

期待したシナジー効果を得られない

M&A実施後の擦り合わせがうまくいかなかった場合、期待したシナジー効果を得られない可能性があります。シナジー効果が現れたかどうかは中長期的な視点で見る必要がありますが、想定以上の時間を要してしまうケースもあります。

単に売り手企業の事業が魅力的であるといった理由だけでは、期待したシナジー効果を得るのは難しいでしょう。自社の強みや弱みを理解したうえで、自社との相性がよい企業を選ぶことが重要です。

M&Aをきっかけに優秀な人材が流出する

優秀な人材の獲得はM&Aにおける買い手企業の大きなメリットですが、M&Aをきっかけに流出してしまうリスクもあります。とくにM&A前よりも悪い雇用条件になった場合や、企業文化や仕事の進め方などの違いから従業員が働きにくい労働環境になった場合は、離職を選択する従業員も出てくるでしょう

時間をかけずに統合を進めようとするとせっかく獲得した人材が流出してしまうため、雇用条件の見直しも含めて慎重に進めることが大切です。

簿外債務などのリスクが発生する

簿外債務やのれん代の減損リスクが発生する懸念があります。簿外債務とは貸借対照表には記載されない債務のことです。のれん代とは技術力やノウハウ、人材などの無形固定資産のことをいい、期待したシナジー効果が得られなかった場合にのれん代の減損が発生します。

簿外債務やのれん代の減損リスクを排除するためにデューデリジェンスを慎重に行う必要があります。

M&Aで発生する費用section

M&Aに必要な費用は売り手企業と買い手企業で種類や金額が異なります。

売り手側企業にかかる費用

売り手企業にかかる主な費用は以下のとおりです。

M&A仲介会社への手数料

M&A仲介会社へ支払う費用としては、まず仲介を依頼する前の相談料があります。最近は無料で相談を受け付けてくれる会社も少なくありません。仲介を依頼する場合は着手金や中間金、月々のコンサル料や成功報酬などを支払います。金額は仲介会社によってさまざまですが、一応の目安として相場を紹介します。

  • 着手金:無料~100万円
  • 中間金:50万~200万円
  • 月々のコンサル料:30万~300万円
  • 成功報酬:売却価格の1~5%

税金

税金の種類や金額についてはM&Aの手法や譲渡の金額、個人か法人かなどによって異なります。個人オーナーによる株式譲渡の場合は、株式の売却価格や受け取った退職金に対して所得税や住民税がかります。法人の株式譲渡や事業譲渡の場合は法人税がかかります。

株券発行費

会社の定款で株券を印刷する旨が記載されている場合は、株券の印刷費用が発生します。定款で株券に関する定めがない場合には株券発行費はかかりません。

買い手側企業にかかる費用

買い手企業が負担する主な費用は以下のとおりです。

買収費用

費用のうちもっとも大きいのが買収費用です。株式譲渡なら株式の対価、事業譲渡なら事業資産の対価にあたるため、金額は個別のケースによって大きく異なります。相場と呼べるものはありません。重要なのは、買収する企業の価値に合った金額になるよう交渉することです。

とにかく安く買おうと企業価値に見合わない価格で交渉した結果、相手企業が納得できず交渉が決裂するケースもあります。

M&A仲介会社への手数料

M&A仲介会社への手数料は買い手企業も発生します。相場は前述のとおりです。また、デューデリジェンス費用はM&A仲介会社ではなく各専門家へ支払うケースが一般的ですが、買い手企業が負担します。分野ごとに10万~200万円が相場です。

税金

事業譲渡の場合は消費税がかかります。また、譲渡対象に土地や建物が含まれていれば不動産取得税がかかり、所有権移転登記をするための登録免許税が必要です。

株式譲渡の場合は基本的に買い手企業に税金は発生しませんが、時価よりも非常に安く譲り受けた場合などは受贈益を得たとして、例外的に法人税を課せられる場合があります。

登記費用

そのほかに、商業登記や所有権移転登記など、登記申請手続きにともなう登記費用がかかる場合があります。

M&Aの流れsection

M&Aのおおまかな流れを解説します。ここではM&A仲介会社を利用する場合を想定しています。

相談・問い合わせ、仲介契約

まずはM&Aに関する情報収集を行います。相談先は日頃から取引のある金融機関や顧問先の会計事務所、付き合いが深い他社の経営者などが挙げられます。

情報収集をした結果、自社ではM&Aが有力な候補になりそうだと感じたらM&A仲介会社へ相談・問い合わせを行います。M&A仲介会社では過去の事例にもとづくアドバイスが受けられるため、M&Aの具体的なイメージを抱きやすいでしょう。M&Aへの決心が固まったら仲介会社と仲介契約を結びます。

準備

売り手企業はM&A相手を選定する前に自社の企業価値を知る必要があり、企業価値を判断するための資料として決算書や財務諸表などの書類を集めます。自社についてさまざまな角度から詳しくまとめた企業概要書を作成する準備もあります。これらをM&A仲介会社やコンサルタントに提出し、企業価値を判断してもらいます。

買い手企業は買収の目的を明確にしたり、買収先の業界や条件を絞り込んだりして準備を進めます。

M&A先の選定

売り手企業は業種や事業規模、業績、社風なども含めて相手先を検討・選定します。できるだけ自社と相性のよい企業を探すためには、ノンネームシート(匿名で会社の概要を記載した資料)を作成して多くの候補企業と接触を図る必要があります。

買い手企業はシナジー効果や成長戦略の視点から相手先を探し、気になる企業が見つかったらオファーをかけます。

交渉

売り手企業と買い手企業の双方が検討を進めたいという気持ちになったら、まずは経営トップ同士の面談を行い、相互理解を深めていきます。トップ面談の段階では条件交渉などはせず従業員同士の相性はよいか、企業の文化はどうかなど相手を見極めることに注力します。お互いが前向きに交渉を進める気持ちが固まったら交渉に移ります。

基本合意の締結

売り手企業と買い手企業のあいだで基本合意を締結します。基本合意はM&Aの成立を約束するものではなく、合意までに必要なプロセスやスケジュールなどを明確にするために結ばれます。基本合意により相手企業のみと交渉を行う独占交渉権が発生します。

デューデリジェンスの実施

買い手企業によるデューデリジェンス(DD)が実施されます。DDは買い手企業が売り手企業の実態を把握するために、財務・税務や法務、労務などの各分野で行う調査のことです。

公認会計士や弁護士といった専門家に依頼して行うケースが多いでしょう。買い手企業は売り手企業に対してDDに必要な書類の提出を求め、売り手企業は買い手企業のDDに協力して自社のすべての問題点を明らかにします。

最終契約

DDの結果を踏まえて最終的な条件の調整を行い、すべての条件で合意したら最終契約を締結します。契約書には売却価格や支払方法、表明保証、誓約事項などの必要事項を漏れなく盛り込みます。その後、譲渡代金の決済や会社代表印など重要物品の引き渡しを経て、従業員や取引先、金融機関などへの情報開示が行われます。

最後にM&Aの総仕上げとして、PMI(統合プロセス)が実施されます。PMIは統合後の体制下で、計画したシナジー効果を発揮させるための重要なプロセス・マネジメントの仕組みです。

まとめ

M&Aとは企業の合併買収を指す言葉です。売り手企業は後継者不在問題の解決や従業員の雇用継続、買い手企業は事業拡大や市場シェアの獲得といったさまざまなメリットがあります。ただし、メリットのみを見てM&Aを決めてしまうと思わぬ事態になりかねないため、事前の情報収集や相手企業の見極めは欠かせません。

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上場支援、CGコードの体制構築などに長けた、専門性の高い「弁護士」を社外取締役候補としてご紹介。事業成長とガバナンス確保両立に、弁護士を起用したい企業様を支援している。

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