取締役会設置会社とは|役割や権限・必要性、取締役会非設置会社との違いなど徹底解説

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旭合同法律事務所

川村将輝(弁護士)

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取締役会設置会社は、文字通り、株式会社における機関として取締役会を置いている会社又は置かなければならない会社のことをいいます(会社法2条7号(以下、法令名の記載がない限り会社法の規定を指します。))。

制度的に、取締役会は、株式会社において機関設計によって設置又は非設置を選択することができる仕組みです。もっとも、会社をどのようにグロースさせていくのかという戦略によっては、取締役会を設置する必要があります。そして、設置する場合としない場合とで、メリット・デメリットも異なります。

この記事では、取締役会設置会社について、そもそもどのような場合に取締役会の設置が必要になるのか、そもそも取締役会が株式会社という仕組みの中でどのような位置づけや役割を占めるのか、取締役会設置会社と非設置会社それぞれのメリット・デメリットなど詳しく解説していきます。

本記事のポイント4つ
  1. 取締役会非設置会社は、会社法上、取締役会を設置せず又は設置義務がない機関設計の株式会社をいう。取締役会設置会社と非設置会社との間では、取締役の数、業務執行権限、監査役の設置義務、株主総会の決議事項の範囲、上場の可否などにおいて違いがある
  2. 取締役会設置会社の場合は、事業をスケールさせやすく資金調達において投資家などの評価を得やすいこと、多角経営に向いている点がメリットとして挙げられます。
    他方で、規模の小さい会社では、役会など各種の会議体の運営工数がかかること、法的な責任の発生リスクがあることがデメリット
  3. 取締役会非設置会社の場合、取締役が業務執行として様々な権限を行使して、機動的な経営を行いやすく、経営安定化まで意思決定を迅速に行うことができるのがメリット
  4. 事業をスケールしにくく、資金調達においてもガバナンス面での不安要素があるとされがちであるといったデメリットがある。そのため、事業の計画や段階を見据えて、取締役会の非設置から設置への移行を計画的に行うことがポイント
目次
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取締役会設置会社とはsection

冒頭で述べた通り、取締役会設置会社は、取締役会を任意に設置している会社と会社法上の規定により設置が義務付けられる会社の2種類です。任意に取締役会を設置する場合は、定款自治の原則に基づき、定款で取締役会の設置を定めている会社の場合です。

そもそも取締役会とは

取締役会とは、端的にいえば、「すべての取締役によって組織される」会議体のことです(326条1項)。本来、業務執行は取締役において実施されるものであり(348条1項)、複数いる場合は原則として業務執行の「決定」について過半数で行うものとされます(同条2項)。

他方で、取締役会では、上程された事項及び法定の事項について、取締役会での「決議」が行われます(369条1項)。

これは、意思決定が多数決で行われればよいというのではなく、取締役会が多数の取締役が参加する合議が行われることを前提としており、構成員である取締役の意見や知見、提案が結集された上で審議の上、多数決原理により採決を行うという一連のプロセスが存在することを意味しています(369条3項から5項などを参照)。

したがって、取締役会は、経営判断・業務執行にかかる意思決定などについて、個々の取締役のジャッジのみならず、その前提となる知見や判断材料を合議して議論をぶつけて、より最適な解を見出していくことを促す趣旨であると考えられます

その結果、取締役会は、業務執行の権限が代表取締役にある(363条1項1号)一方で、業務執行について相互監視を行うことを定めているほか(362条2項1号)、重要な意思決定について代表取締役の独断を防止する権限が与えられている(362条4項参照)といえるでしょう。

取締役会の設置が義務付けられる会社

会社法上取締役会の設置が義務付けられる会社は、次のように定められています。

第三百二十七条 次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。

 公開会社
 監査役会設置会社
 監査等委員会設置会社
 指名委員会等設置会社

2から6 略

引用元:会社法

つまり、公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかにあたる場合、その株式会社は、取締役会を設置することが義務付けられます。

そして、「公開会社」は、その発行する全部又は一部の株式の内容として、譲渡制限を設ける旨の定款の定めがない会社をいいます(2条5号)。譲渡制限というのは、「譲渡による株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けてい」る場合をいいます。

つまり、公開会社は、株式会社のうち、発行するすべての株式について、譲渡が会社の承認を要しない形で行うことができる会社を指します。

そうすると、上場会社の場合、株式の譲渡が株式市場において自由に行うことができることを前提にすることから、すべての上場企業は、取締役会設置会社であるということになります。

したがって、事業のグロースとして、株式市場での株式上場を見据える場合には、タイミングは別として必ず設置する必要があります。

取締役会の設置可否は選択可能|設置義務がある場合も

前半で述べた通り、取締役会の設置は、本来的には任意です。ここでは、取締役会非設置会社の位置づけや機関設計についてお話するとともに、設置する必要がある場合について解説します。

会社法における取締役会非設置会社の位置づけ

取締役会非設置会社は、会社法上、取締役会のように特に項目建てて整理して定められてはいません。もっとも、「取締役会設置会社以外の株式会社」に適用されるルールとして、個別の規定でいくつか存在します。

  • 創立総会の招集通知について、招集通知の発出期間を定款で特に短縮して定めた場合の取扱い(68条1項かっこ書き)
  • 株主総会の招集通知について、招集通知の発出期間を定款で特に短縮して定めた場合の取扱い(299条1項かっこ書き)
  • 株主総会の招集において電子提供制度を採用する場合における招集通知発出期間の取扱いにつき、定款で特に短縮して定めた場合の取扱い(325条の4第1項)

他方で取締役会設置会社である場合について特に定める規定は多くあることから、会社法上は基本的に取締役非設置会社を最もシンプルな機関設計として位置づけていると考えることができます。

取締役会を置かない場合の機関設計

前半で述べた通り、取締役会を設置する必要がある会社について、327条1項各号に掲げられており、一般的にこれは限定列挙であるとされています。そのため、逆に言えば、4つのいずれかに当たらない限り、取締役会を設置しない形での機関設計が可能です。

したがって、例えば、次のような機関設計は、いずれも取締役会を設置する必要はありません。複数の組み合わせでも可能です(326条2項参照)。

  1. 監査役設置会社
  2. 会計監査人設置会社(監査役設置もセット(327条3項))
  3. 会計参与設置会社

上場するなら取締役会の設置が必須

すでに述べたところではありますが、上場企業の場合は、取締役会の設置が必要です。株式の公開化が必要になるというのが根本的な理由ではありますが、現実的な問題として上場審査の段階で監査役会を置く必要もあるからです(有価証券上場規程437条2号、法327条1項2号)。

取締役会の設置時期について特に規定はありません。しかし、実際上は上場の直前々期(いわゆるN-2)の時期より前から設置した上で、株式の公開化に向けた準備を要するほか、J-SOXにかかる内部監査対応を行う必要があります

加えて、上場する場合は、取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保する必要があるので(有価証券上場規程445条の4)、この点にも留意する必要があります。

独立社外取締役に関しては、こちらの記事もご参照ください。

取締役会設置会社と取締役会非設置会社の違いsection

取締役会設置会社と非設置会社の場合とで、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。すでに触れた点も含めて、一覧表で整理していきます。

取締役会設置会社同非設置会社
株主総会の権限会社法及び定款に定められた事項会社に関する一切の事項
取締役の人数3名以上1名以上
監査役の設置原則として必要任意
業務執行の権限代表取締役取締役(複数いる場合は過半数での意思決定)
業務執行権限の制限362条4項などによる制限あり会社法で定められる次のような一定の事項を除いて、基本的には制限なし 新株発行利益相反取引、競業取引事業譲渡M&A       など
上場の可否機関設計としては、加えて次の2つなどを満たすことで可能 ・監査役会、監査等委員会、または指名委員会等設置会社のいずれかであること ・会計監査人の設置不可

取締役会設置会社のメリット・デメリットsection

取締役会設置会社には、どのようなメリット及びデメリットがあるのでしょうか。

取締役会設置会社の3つのメリット

事業をスケールさせるためのミニマムの機関設計

取締役会設置会社の場合、監査役の設置もセットになります。そのため、大きなターニングポイントとして上場を見据えていくような場合は、監査役会を設立段階から置くことで、機関設計としては最小限の装備が整います。

取締役会設置会社は、そうした会社の組織としての設計上におけるメリットがあります。

資金調達がしやすい

取締役会設置会社の場合、取締役の権限集中が抑制されることから、ガバナンスを確保するための最小限の仕組みがあるとの評価につながりやすく、投資家にとっても安心材料の1つになります。

監査役の設置が標準装備であることから、会計書類の作成やチェックについても、ある程度信頼が置かれやすく、それも投資家にとって投資判断を行う材料として正確性が担保されます

また、資金調達を行う際の意思決定も、取締役会設置会社の場合には、本来株主総会の決議によるところ、取締役会の決議によることを委任することができます(201条1項)。そのため、取締役会設置会社の場合は、資金調達の機動性も確保されるメリットがあります。

事業の多角化をしやすい

取締役会を設置しない場合と比較して、取締役会設置会社の場合は、事業の多角化をしやすい点もメリットとして挙げられます。

取締役会非設置会社の場合は、取締役個人又は過半数による意思決定によることになります。そのため、事業が単一であったり小規模である場合は、意思決定を迅速に運びやすく軌道に乗せて安定化させるまではスムーズになると考えられます。

他方で、1つのプロダクトから派生的に横展開していくような多角化を行うには、単独の取締役の意思決定だけでは統括しきれない場合も考えられます。

取締役会設置会社であれば、複数の事業にまたがることも役割分担をしやすくなるほか、知見を結集する機会を確保しやすい点もメリットです。

取締役会設置会社の2つのデメリット

決議等の運営工数

取締役会は、業務執行状況の報告のため、少なくとも四半期に1度の開催が必要です(363条2項参照)。

その際には、決議事項や報告事項にかかる資料などの作成、招集通知の発出、取締役会の運営業務、議事録の作成が必要となります。そして、業務内容的に、法務面で確実に遂行すべき手続もあることから、ミスなく行う必要があります。

ゆえに、会議体としての運営工数や必要な人材確保もセットで考える必要があるなど、小規模な会社では運営が困難になるおそれがあるといえでしょう。

取締役会の構成員としての監視義務

また、取締役会のメンバーは、監視義務(362条1項2号)が課せられているところ、いわゆる名目的取締役の場合にも責任が発生する場合があります(最判昭和48年5月22日)。

取締役会非設置会社の場合は、そのような監視義務まで課せられているかどうかについては判断が分かれうるところである一方、取締役会設置会社の場合は、こうした責任発生のリスクもデメリットの1つとして挙げられるでしょう。

取締役会非設置会社のメリット・デメリットsection

反対に、取締役会非設置会社の場合は、どのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。

取締役会非設置会社であるメリット

スモールビジネスの起業に向いている

取締役会非設置会社であれば、ミニマムの期間設計でいけば取締役のみで運営が可能であることから、起業にあたってのコスト自体が最小限になるというメリットがあります。

特に狭い事業領域での起業や、経営を軌道に乗せるまでの迅速性を高めたい場合には、効率的に運営しやすいと考えられます。

意思決定の迅速性

先に述べた取締役会設置会社の場合のデメリットの裏返しとして、取締役会非設置会社であれば、限られた事業やプロダクトの中での業務執行を迅速に行いやすい点がメリットです。

報酬の取り分が多くなる

1~2名の取締役のみといった規模感であれば、3名以上の取締役が必要で監査役の設置が必要な取締役会設置会社に比べると、少ない売上であっても取締役がもらえる役員報酬分が高くなります。

このようなインセンティブ面でも、スモールビジネスとして展開する上で、取締役会非設置会社はデメリットであるといえます。

取締役会非設置会社であるデメリット

事業をスケールしにくい

メリットの裏返しでもありますが、事業を拡大していくには、取締役会非設置会社の場合だと取締役だけでの運営は困難であり、事業をスケールしにくいというデメリットです。

取締役は、業務執行にかかる経営面だけでなく、会計書類の作成なども自己の責任で行う必要があります。アウトソーシングすることで対応は可能ですが、後で述べるように資金調達もしにくいため、事業をスケールさせていくには限界があります。

ワンマン経営によるリスクもある

取締役会での取締役の業務執行に対する抑制が働かないため、取締役の独断専行による経営になるリスクがあるというデメリットがあります。

一人会社の場合、経営上のリスクも結果として自身に不利益な結果をもたらすため、実際上問題にはなりませんが、小規模の同族会社の場合、人間関係などからパワーバランスが崩れていくと、事業運営にも波及して会社としての合理的な意思決定が担保されない側面が出てきます。

このようなワンマン経営のリスクがあることは、デメリットの1つと言えるでしょう。

資金調達がしにくい

取締役会非設置会社の場合、すでに述べたような点とも関連して、業務執行に対するガバナンスの体制において不安要素が複数あることから、一般論として、資金調達がしにくいというデメリットがあります。

取締役会非設置会社の場合、監査役の設置や、外部顧問の設置など、ガバナンスを確保するための工夫を行うことも必要です。

まとめ

最後に、この記事のポイントについて、4つにまとめます。

  1. 取締役会非設置会社は、会社法上、取締役会を設置せず又は設置義務がない機関設計の株式会社をいう。
  2. 取締役会設置会社と非設置会社との間では、取締役の数、業務執行権限、監査役の設置義務、株主総会の決議事項の範囲、上場の可否などにおいて違いがある。
  3. 取締役会設置会社の場合は、事業をスケールさせやすく資金調達において投資家などの評価を得やすいこと、多角経営に向いている点がメリットとして挙げられます。他方で、規模の小さい会社では、役会など各種の会議体の運営工数がかかること、法的な責任の発生リスクがあることがデメリットとして挙げられる。
  4. 取締役会非設置会社の場合、取締役が業務執行として様々な権限を行使して、機動的な経営を行いやすく、経営安定化まで意思決定を迅速に行うことができるメリットがある。他方で、事業をスケールしにくく、資金調達においてもガバナンス面での不安要素があるとされがちであるといったデメリットがある。そのため、事業の計画や段階を見据えて、取締役会の非設置から設置への移行を計画的に行うことがポイントである。
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司法試験受験後、人材系ベンチャー企業でインターンを経験。2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。【愛知県弁護士会所属】

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