今年2022年4月の再編にもあるように、株式市場は、これまで様々な変遷がありました。様々なIPO事例もあり、歴史があります。また、IPOは、主体となる企業側の視点、実際に市場で株式取引を行う投資家側の視点とで大きく2つの視点があります。
この記事では、IPOの概要、IPOのこれまでの歴史、注目のIPO事例のほか、IPOのスケジュールなど具体的なステップを概説し、企業側の視点、投資家の視点、そして事業戦略とIPOの関係の観点から解説していきます。
IPOとはsection
IPOとは、Initial Public Offering(新規株式公開)のことです。会社が発行している株式を、市場(証券取引所)での取引対象とし、株式の流動化を図る効果があります。IPOについて、歴史など大局的な視点から、俯瞰的に解説していきます。
全社をあげた3年以上のプロジェクト
IPOは、詳しくは後で述べますが、3年以上の期間をかけて行われる、全社レベルの一大プロジェクトです。会社におけるプロジェクトといえば、多くの場合、事業単位、あるいは部署ごとのレベルでのものをイメージすると思います。
他方で、IPOは、未上場の段階では意思決定のスピードや対内的な団結の中で事業を発展させてきたところから、会社の基盤である株式を市場に公開し、多くの投資家、社会大衆の的となりながら事業を行うことになる点で、全社的な構造変化を伴います。
IPOの意義や目的4つ|何のためにIPOを目指すのか?
そもそも、何のためにIPOを目指すのでしょうか。具体的な意義は、それぞれの企業の中で定義づけされますが、一般論として語られることは少ないかと思います。
経営者としての1つの憧れ
上場により社会的な知名度が上がり、事業としての一定の成功体験を裏付けることができる点が挙げられます。野球で例えるなら、アマチュア野球からプロ野球への挑戦ともいえるでしょう。
資金調達
未上場の段階では、株式を公衆が自由に売買できるものではないので、資金調達の伝手や金額的な規模にも限りがあります。上場することで、市場で広く一般に流通することで、広範で大規模な資金調達の可能性を拡げることになります。
この点については、後でさらに詳しく述べます。
知名度や社会的信用の向上
上場すると、様々な形でプレスリリースされる機会が増えます。それにより、知名度が高まり、広告や販売が促進されていきます。また、上場することは取引所の基準をクリアして、企業として良い意味で一定の社会的影響力をもち、価値のある事業を展開しているという評価の裏付けでもあります。その意味で、事業自体に対しても社会的信用が高まります。
良い人材が集まりやすくなる
上記の、知名度や社会的信用の向上とも関連しますが、良質な人材の目に留まり、採用応募を向上させる契機にもなります。上場審査では、企業の組織あるいは事業としてコーポレートガバナンス・コードへの対応について一定のお墨付きが与えられます。
そのため、事業自体の価値のほか、社内のガバナンス体制に対し、信用のある評価があることを社会に認知させることができます。上場することで、事業や組織が成長し、そしてより良い人材を確保するきっかけにつながり、さらに事業や組織の成長につながっていく好循環が生じていくのです。
IPOの歴史|ここ20年の遍歴
IPOは、ここ20年の中で様々な変遷、歴史を描いています。
IPOがブームとなったのは、1999年に発足した当時の東証マザーズ市場にあります。現在のグロース市場と同様のコンセプトで、特に成長性の高い企業に着目して、今後より安定的かつ継続的にステップアップしていく市場として、活況を帯びました。
当時の東証マザーズの上場基準は、株主数は200人以上で東証一部の10分の1程度、流通株式数は2000単位以上で東証一部の10分の1程度といったように、緩やかな内容でした。当時は、ホリエモンが世間をにぎわせたライブドアが記憶に新しいですが、インターネットの急速な普及により、IT関連の新興企業が急成長を遂げ、続々とIPOを実現させていました。
上記のようなIPOブームでは、資金調達の側面だけでなく、上記で述べた知名度・社会的信頼の向上という側面で、注目されていたといえます。他方で、粉飾決算・不正会計が相次いだため、上場基準に対する見直しを問題提起されるようになりました。粉飾決算や不正会計は、投資家にとって投資判断の基礎となる情報操作や歪曲となる点で、忌避されるべき事象として重大な問題とされました。
こうした財務・会計の適正を確保する体制の構築と、開示の適正さを裏付ける仕組みづくりと、そのチェックが制度化されました。それが、『内部統制報告制度(J-SOX)』です。もっとも、2009年には、リーマンショックによる世界的な金融恐慌による経済不況により、株式市場も低迷し、それ以降のIPO件数も減少していきました。
近年では、J-SOXの拡充やコーポレートガバナンス・コードの整備が進む中で、新興市場の信頼性も向上してきました。上場に向けた準備期間は長期化することになりますが、綿密なガバナンス体制に支えられた企業の成長戦略に対して投資する動きが再度高まっています。

IPOのメリットとデメリット
IPOには、どのようなメリットあるいはデメリットがあるでしょうか。企業側の視点と投資家側の視点それぞれ考えられますが、ここでは概要についておさらいします。
IPOにはすでに述べた通り、様々な効果がありますが、株主構成の流動化、投下資本の回収または差益獲得の機会、資金調達の拡大、知名度・社会的信頼性の向上、事業拡大と多角化といった視点で整理することができます。それぞれの項目ごとに企業側および投資家側の視点それぞれで、メリットあるいはデメリットを整理すると、次のようになります。
企業側 | 投資家側 | |
---|---|---|
株主構成の流動化 | 経営における意思決定の中で、必ずしも会社にとって友好的でない場合がある | 会社に対する経営評価を行い、自らの判断に基づいて退出の機会が確保される |
投下資本の回収等 | より投機的な投資を呼び込むことができる | 会社の業績による差損のリスクを自らコントロールでき、あるいは業績が向上すれば市場における株価上昇により差益を得られる |
資金調達の拡大 | 広範かつ大規模な資金調達を期待できる | 安定的な収益のある企業から、成長性の高い企業まで様々な中から投資の機会が得られる |
知名度・社会的信頼性の向上 | マーケットの拡大、広告・宣伝効果 | 企業側の知名度・社会的信頼性の向上の度合いによって、株式の保有価値が高まる |
事業拡大・多角化 | 業績の向上の反面、M&Aなどにより自社のオリジナリティが失われるおそれもある | 個人投資家にとっては、M&Aに伴い、突如強制的に退出させられる場合もありうる |

企業におけるIPOのメリット・デメリット
企業側の視点に立ったとき、IPOは、どのような意義があるのでしょうか。IPOのメリットは、すでに述べた通り、資金調達の拡大、認知度や社会的信頼性の向上によるマーケットの拡大、株式を活用したM&Aの機会が広がること、海外市場への事業展開を図る機会が生まれることなどが挙げられます。
デメリットとしては、経営の多角化・M&Aなどに際して少数株主が強圧的に退出させられる場合があること、経営陣が積み上げてきたオリジナリティのもとでの事業が失われる場合もあること、市場という外的要因によって企業価値が左右され必ずしも事業の価値と連動しない場合があるという点です。

マーケットの拡大
IPOによる認知度の向上などが、どのようにしてマーケットの拡大につながるのでしょうか。認知度の向上により、会社がそれまで展開してきた事業の中でのマーケットが、株式市場を通じた評価を通じて拡大します。その中で、未上場の段階では届かなかった潜在的な顧客層に対してリーチすることができます。
また、上場により、それ自体各種メディアによる注目度が高まります。メディアによるクローズアップのされ方は、事業の内容から可能性、社長のキャラクター、経歴など様々な切り口が考えられます。
どのような切り口であっても、現代では、特に社会課題解決を志向する、ソーシャルビジネスに対する注目から、そのような角度での位置づけを与えることができると、注目が高まります。
このように社会の耳目を集める中で、従前のサービスに対して、他の業界やサービス、事業モデルを織り交ぜた視点で議論の的となることで、コラボレーション的にマーケットの拡大につながっていきます。
経営の多角化
上記の中で、コラボレーション的な視点が生まれていくという点と関連して、経営の多角化が一層高まります。
未上場でも、合併や会社分割、事業承継などにより、事業同士の掛け合わせを図る機会はあります。もっとも、これらの組織行為も、会社法上は、単なる過半数による意思決定ではなく、相当程度の割合を占める議決権をもって行われます(会社法309条2項12号)。
未上場だと、あくまで創業時の株主を中心とする経営陣、あるいは影響力を持ってきた提携先などの大株主の間でのみ、経営の多角化に対する意思決定が行われます。
しかし、上場することにより、株主構成の流動化が生じ、経営陣以外の株主からのアプローチで、経営の多角化を図ることが可能になります。具体的には、一定程度の株式比率を持つことにより、TOB(公開買い付け)を発動させることができます。
これにより、企業の外側からのアプローチにより、経営の意思決定に影響を及ぼすことができます。ただ、デメリットでも挙げたように、企業の買収の機会にさらされることは、敵対的買収などのケースで、大きく株価が下がるリスクも孕んでいるということでもあります。
創業時以来の経営陣側としては、株主構成の変動がありうるということは、株主の評価に依存した経営判断になりがちになる側面もあります。
従業員にとってのメリット・デメリット
従業員としては、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。最近では、ベンチャー企業を中心に、従業員持株の例が増えています。特に、業績連動型のストックオプションの付与も活用されているところです。
特に、上場を1つの目標点として、上場時点での株式取得のオプションを設定することで、上場審査に向けた団結の機運を高める手法は、IPOが単に経営陣が実現したいことではなく、全社的に事業をグロースさせていく位置づけを後押しすることにつながります。
他方で、デメリットとしては、現場レベルの問題として、上場審査をクリアするために様々な形で従業員に対する縛り付けの強化が行われる点が挙げられます。特に、コンプライアンス体制の整備と運用の面で、労務管理、経費精算を中心とする経理、会計管理の点で、監査をクリアするために、従業員に対する厳しいチェックが行われます。
社内規程や稟議のフローの徹底も求められます。その中で、酷な場合になると、かえってパワハラの原因となったり、従業員のストレスとなって業務効率や生産性が下がる要因にもなります。
大切なことは、そのような厳しい管理のもと上場を目指していくこと、事業をグロースさせていくことの意味を常に確認し合う、役員と従業員の間のコミュニケーションです。
資金調達手段としてのIPOという選択
資金調達の手段としてのIPOは、IPOに伴う資金調達の規模と、IPO後の資金調達の2つの側面から考えることができます。IPOに伴う資金調達の側面では、未上場から上場に至るという点で、社会的な注目を集めやすく、事業の内容や性質、社会情勢などに照らした時機的な意味でのマーケットフィットにより、調達の規模が格段に大きくなりうる点が特徴です。
IPO後の資金調達の側面では、株価の上昇率によって、調達額が非常に大規模なものになります。特に、他社との業務提携、資本提携を伴う形でのものは、プレスリリースとともになされることで、より社会的な注目度も高まります。
市場戦略として世界市場への事業展開も
また、市場戦略として、プライム市場への上場を進めていくことにより、より外資を取り込みやすくなります。
海外市場への進出するためには、コーポレートガバナンス・コードなどの水準を高めて世界市場の標準に合わせていくことなどが必要となります。そうして、市場をより高いステップのものに上げていくことにより、マーケットを世界に広げていくきっかけにもなります。

国内注目のIPO事例|時価総額・準備期間・女性起業家目線で比較section
一般的に、会社を設立してからIPOまでは30年程度かかると言われています。その中でも、国内で注目を集めたIPO事例を、時価総額、スピード感、そして女性起業の3つの観点から、いくつかご紹介していきます。
時価総額(参照:日本のIPOランキング(歴代)~上場時の時価総額)
時価総額では、NTT、NTTドコモの上場が注目を集めました。その額は、合わせておよそ32兆7600億円を超え、圧倒的なスケールのものでした。その次には、郵政民営化など大規模な公共インフラに関わる事業として、ゆうちょ銀行、日本郵政がそれぞれ7兆円規模で続きます。
そして、JR東日本、JTが2兆円規模の時価総額でのIPOでした。さらにその次には、2014年10月のリクルートホールディングスです。リクルートは、人材IT系ベンチャーですが、ベンチャーのIPOとして最大の成功事例として挙げられるでしょう。
上場までの期間
2017年のデータではありますが、オプティマスグループという企業が、約2年11か月という、3年に満たない期間で上場した例があります(参照:設立10年以内でIPOした企業はどこ?事業規模、初値調査【2017年度版】)。
同社は、ニュージーランド向けに中古自動車を輸出する、自動車貿易を中心とする企業です。当時の従業員数は、456人と言われており、日本では多くのベンチャー企業が100人前後の人数であることからすると、上場までの期間の短さもさることながら、規模の拡大スピードも圧倒的であったことが推察されます。
女性起業家
最近注目を集めるのが、女性起業家の台頭です。その筆頭は、トレンダーズ株式会社です。その当時の社長が、経沢香保子氏です。
経沢氏は、2000年26歳のときに同社を立ち上げ、2006年10月19日に当時の東証マザーズへの上場を成し遂げ、当時日本で女性最年少での上場を果たした例として脚光を浴びました。同社は、当時、女性のネットワークに着目したマーケティングにより、業績を向上させました(「女性最年少上場」で話題のトレンダーズ 経沢香保子社長に聞く|東洋経済ONLINE|2021年10月29日)。
現在、経沢氏は、ベビーシッター・家事代行のマッチングサービスを手掛ける株式会社キッズライン(旧カラーズ)の代表取締役社長を務めています。同社も創業から8期目を迎えており、今後のIPOへの動向に注目が集まります。
また、最近、経沢氏の記録を塗り替えようかという女性起業家が現れました。それが、DINETTE社長の尾崎美紀氏です。尾崎氏は、2017年にD2Cのコスメ商品販売事業を手掛ける同社を起業しました。オウンドのECからスタートアップし、現在に至るまで女性最年少上場を射程圏内とするまで業績を伸ばしています。
コロナ禍にあっても、マスク社会の中での女性の化粧品需要と、DINETTEのコスメ製品のバリューがマッチし、年商は15億円にまで達したといいます。
今後、実際に女性最年少上場となるか、期待と注目が高まっています。女性起業家の躍進は、女性活躍を後押しする流れとしても意義深いものとなると考えられます。
IPOに至るまでの具体的な流れとスケジュールsection
IPOの具体的な流れやスケジュールは、どのようなものでしょうか。
N-3から上場までのスケジュール
N-3から上場までは、ざっくりとまとめれば、次のようなスケジュールになります。
時期 | 準備すべき事項 |
上場申請3期前(N-3) | 株式の上場を行う上で整備すべき社内体制、会計制度、資本政策などの課題抽出→ショートレビュー |
上場直前々期(N-2) | 財務諸表監査 内部統制報告制度対応など |
上場直前期(N-1) | |
上場申請年度(N期) | 上場企業として備えるべきガバナンス体制、IR制度の構築と運用 |
この時期に行うのが、いわゆるショートレビューです。
『ショートレビュー』は、現状の会社組織内において、上場に向けてクリアすべき課題、必要な施策を洗い出すための調査のことです。通常は、監査法人や公認会計士事務所が行います。
担当者が現地に赴いて行う現地調査のほか、企業の担当者からの聞き取りを行ったりします。期間としては、2日から1週間程度で、遂行されます。その後報告書がまとめられますが、それまでにさらに1週間程度かかります。
そのため、全体として、半月程度のスケジュール感で進められていきます。報告書は、主に会計処理基準、貸借対照表やPLシートに関すること、内部監査の状況、開示制度の体制の現状などが含まれます。
N-2期からN-1期にかけては
財務諸表監査とJ-SOX対応が中心に行われます。財務諸表監査は、貸借対照表、PL計算書、キャッシュフロー計算書の、いわゆる財務3表です。これは、財務諸表の内容に関して、その適正性をチェックすることを目的としています。
もっとも、あくまで会計の基準に照らして行われるものであって、出てきた数字の根拠を1つ1つすべてチェックしていくこと、すなわち作成のプロセスまで網羅することを目的とするものではないことに注意が必要です。
そのため、財務諸表監査では、出てきた数字と項目の中で、会計基準に照らして監査意見を得るものになります。他方、そうした財務書類の適正な作成などに関し評価ないし監査による客観的なチェックを行うプロセスが、内部統制報告制度(J-SOX)です。
財務・会計書類の作成の前提となる、1つ1つの業務フローや具体的な内容を記述した書類、そしてリスクマトリクスの3点セットを中心に、実際に事業活動における会計のもととなる活動と、そこから財務・会計書類の数字に表れるまでのプロセスについて、違法の有無はもちろん、不正の有無ないしそのリスクを洗い出し、評価していきます。
そのほか、コンプライアンス・ガバナンス体制の整備ないし運用も、N-3期から申請期までを通じて行われるIPOへの準備作業があります。


IPO全体としての事業計画
ショートレビューの前後では、IPO全体としての事業計画が行われます。そこでは、IPOの前後を通じて、事業の拡大に向けたプロセスの確認と、IPOの実現に向けた全社的な体制の構築についての計画が示されることになります。
また、個々の事業部ごとに、現状の事業の段階と業績、将来的に達成可能性がある結果を意識しつつ、いつまでにどの程度の業績ノルマを達成していくことが必要か、明確に計画を立てていきます。

投資家にとってのIPO株section
次に、投資家の視点から、IPOをみていきます。
ハイリスク・ハイリターン
投資家にとって、新規上場株は、ハイリスク・ハイリターンの部類に属する株式にあたります。リスクという側面では、新規上場した企業は、市場での取引実績がなく、事業自体の成長可能性がある程度予測できるとしても不確実な要素が多いです。
上場審査を通ったこと自体から、事業が拡大・発展していく一定の裏付けはあります。反面、社会情勢の変化の中で、事業の方向性が時代に適合するのかどうか、マーケットを掌握して安定的な発展をしていく可能性がどのくらいあるかは、不透明といえます。このような意味で不確実であり、投資の観点からはリスクの要素です。
他方で、リターンに着目すると、事業の成長可能性が図り知れないという側面があります。特に、新規上場株の場合、通常はグロース市場に上場することになります。グロース市場は、東証の市場再編のコンセプトでは、確かな業績がなくても成長可能性に着目して投資を呼び込むことにあります。上場審査基準でも、グロース市場では、後掲の表の通り、成長可能性に相当の根拠となる数字があります。
そのため、新規上場、グロース市場への上場株は、高いリターンが期待できるのです。
成長可能性に対する投資(中長期的な保有)
上記の通り、IPO株は、成長可能性に対する投資という側面が重視されますが、中長期的な保有を志向する点に特徴があります。IPO株、特にIPO直後は、事業の展開が予測しにくい側面があります。もちろん、開示情報に基づく財務情報等により、展開の予測などは可能です。
しかし、特に発展する可能性、将来性のある事業であるほど、大手との業務提携やM&Aが想定されます。それは、必ずしも友好的なものもあれば、いわゆる敵対的買収になるようなケースもあります。
そうした様々なシナリオが考えられる中で、IPO株は、株価の変動も小さくないです。中長期的には、業績の向上につながっていくと考えられますが、短期的に利確して運用していきたいと考える投資家にとっては、ハードな性質のものであるといえます。
その他IPO株のメリット・デメリット
未上場ではあるが、相対取引などでの売買が可能な株式もありますが、その場合と比べて、市場価格があることや開示制度により投資判断の材料となる情報が確実に得られるという点がメリットとして挙げられます。
デメリットとしては、すでに触れましたが、特に個人投資家で単元株ぎりぎりの場合のほか持株比率が低い場合、買収などに際して強制的な退出を余儀なくされる場合がある点が挙げられます。
たとえ会社の事業に賛同し、株主であり続けたいと思っていたとしても、買収には勝てないという側面があります。
事業戦略と資本政策は密接に関わるsection
IPOの資金調達の側面に関連して、近時では、IPO以外にも資金調達の手段がありうる中で、事業戦略と資本政策との密接な関連性について、解説します。
様々な資本政策のバリエーション
資本政策のバリエーションには、様々あります。上記の通り、IPOも一種の資本政策です。IPO後にも増資あるいは減資、ストックオプションの活用といったものがあります。
他方で、IPOだけでなく、最近では未上場株のセカンダリーマーケットとして、ネット売買できる制度もあるほか、クラウドファンディング、VC、民間で小規模な集団投資スキームの活用など様々な資金調達の手段があります。
事業戦略ごとの手段選択が必要
どこまでの事業のスケールを意図するのか、どのような形で投資家の関わりを求めるのか、あるいはユーザーと投資家の地位の境界を戦略的になくすことにより、一種のエコシステムあるいは経済圏の形成を意図するマーケティング戦略を打つのか、いかなる事業戦略を構想するかにより、妥当な手段も異なります。
事業戦略ごとに、IPOを含めて、それぞれのメリット・デメリットを比較検討することが必要です。
IPOに向けて適時の実行が重要
特にIPOは、上記の通り、スピード感の高いベンチャーでも、およそ10年前後のスパンで準備して実現していく必要がある全社的なプロジェクトです。IPOに向けては、計画や準備の段階から、人材の確保、安定的な収益を得る事業スキームの構築、社内体制の整備を適時に行っていくことが重要です。
まとめ
IPOは、全社をあげた3年以上、スピード感が早くても10年前後のスパンを要する一大プロジェクトです。これまで様々な遍歴がありつつも、IPOは、多くの企業が目指す大きな通過点として重要な指標であるといえます。
そして、IPOは、企業側としては、業績の拡大、資金調達の拡充、認知度や社会的信頼性の向上、経営の多角化といった意義があります。
投資家側としては、投下資本の回収や株価上昇による差益獲得の機会が生まれること、ハイリスク・ハイリターンの投資でありつつコーポレートガバナンス・コードがより充実したことで投資判断のための情報が充実するようになり、投資対象として非常に魅力があります。
IPOとは何か、その視点の整理として、本記事が一助となれば幸いです。