【弁護士が解説】デジタルマーケティングに関する法務|実務や最新の法規制

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旭合同法律事務所

川村将輝(弁護士)

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デジタルマーケティングの世界は急速に進化を続けています。

しかし、その進化と共に法的リスクも複雑化しており、企業のマーケティング担当者や法務部門は、これまで以上に慎重な対応が求められています。

2023年のステルスマーケティング規制強化、Googleのサードパーティクッキー廃止決定、生成AI活用の普及など、デジタルマーケティングを取り巻く法的環境は劇的に変化しています。

これらの変化に適切に対応できていない企業は、意図せず法的リスクを抱え、最悪の場合、行政処分や損害賠償責任を負う可能性があります。

本記事では、デジタルマーケティング担当者、法務担当者、経営層に向けて、現在のデジタルマーケティングにおける法務上の課題と実務的な対策を体系的に解説します。

規制の概要だけでなく、実際の業務で使えるチェックポイントや体制構築のノウハウまで、実務に即した内容をお届けします。

目次
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デジタルマーケティングの主なカテゴリー

デジタルマーケティングの法務リスクを理解するためには、まずマーケティング手法の全体像を把握する必要があります。それぞれの手法には固有の法的リスクが存在するためです。

リスティング広告

検索エンジンの検索結果に表示されるテキスト広告であるリスティング広告は、多くの企業が活用する基本的なデジタルマーケティング手法です。Google広告やYahoo!広告が代表的なプラットフォームとなります。

リスティング広告における主な法的リスクは、広告文における誇大表現や競合他社の商標権侵害です。

特に、競合他社の商標を広告キーワードとして使用する場合は、商標法上の問題が生じる可能性があります。

また、広告文に「最安値」「業界No.1」などの最上級表現を使用する場合は、景品表示法上の合理的根拠が必要となります。

SNS広告・SNSマーケティング

Facebook、Instagram、Twitter、TikTok、YouTubeなどのSNSプラットフォームを活用した広告配信とマーケティング活動です。

各プラットフォームには独自の広告ポリシーが存在し、これらに違反すると広告配信停止や アカウント凍結のリスクがあります。

SNSマーケティングで特に注意が必要なのは、ステルスマーケティング規制です。

2023年10月から施行された景品表示法の改正により、事業者が自社の商品・サービスについて一般消費者の投稿を装った宣伝を行うことが明確に禁止されました。

インフルエンサーマーケティングや口コミマーケティングを実施する際は、適切な表示義務を果たす必要があります。

ターゲティング広告

ユーザーの属性、行動履歴、興味関心に基づいて最適化された広告を配信するターゲティング広告は、デジタルマーケティングの効果を大きく向上させる手法です。

リターゲティング広告、行動ターゲティング、デモグラフィックターゲティングなどが含まれます。

ターゲティング広告において最も重要な法的論点は個人情報保護です。

Cookieやデバイス識別子を活用してユーザーの行動を追跡する場合、個人情報保護法やGDPRなどの規制に適切に対応する必要があります。

特に、第三者へのデータ提供や海外へのデータ移転については、厳格な手続きが求められます。

インフルエンサーマーケティング

YouTuber、インスタグラマー、TikTokerなどのインフルエンサーに商品やサービスのPRを依頼するマーケティング手法です。特に若年層へのリーチに効果的であり、多くの企業が活用しています。

インフルエンサーマーケティングでは、ステルスマーケティング規制への対応が最重要課題です。

インフルエンサーとの契約においては、広告であることの明示義務、投稿内容の事前確認プロセス、問題が発生した場合の責任分担などを明確に定める必要があります。

また、薬機法や景品表示法の規制対象となる商品・サービスの場合は、より厳格な表現チェックが必要です。

動画マーケティング

YouTube、TikTok、Instagramなどの動画プラットフォームや自社ウェブサイトでの動画コンテンツを活用したマーケティングです。動画の訴求力の高さから、多くの企業が積極的に活用しています。

動画マーケティングにおける法的リスクは主に著作権法に関連します。

BGMや映像素材、出演者の肖像権など、様々な権利が関わるため、制作段階から権利処理を適切に行う必要があります。

特に、生成AIを活用した動画制作が普及する中で、学習元データの著作権侵害リスクにも注意が必要です。

コンテンツマーケティング・ホワイトペーパー

ブログ記事、事例紹介、業界レポート、ホワイトペーパーなどの有益なコンテンツを提供することで、潜在顧客との関係構築を図るマーケティング手法です。BtoBマーケティングにおいて特に効果的とされています。

コンテンツマーケティングでは、他社の著作物の引用や転載に関する著作権法上の問題、競合他社に関する記述における営業誹謗中傷、統計データや調査結果の正確性に関する景品表示法上の問題などに注意が必要です。

また、ホワイトペーパーのダウンロード時に取得する個人情報の取扱いについても適切な対応が求められます。

Webサイト運用・オウンドメディアのSEOマーケ

自社ウェブサイトやオウンドメディアの検索エンジン最適化を通じて、オーガニック検索からの流入を増やすマーケティング手法です。

長期的な集客力向上に効果的であり、多くの企業が投資を拡大しています。

SEOマーケティングにおいては、コンテンツの著作権侵害、競合他社の商標を含むキーワード戦略、過度なSEO施策による検索エンジンのガイドライン違反などが主要なリスクとなります。

また、ユーザーの滞在時間や行動を分析するためのアクセス解析ツールの利用においても、個人情報保護法への対応が必要です。

MA

MA(マーケティング・オートメーション)は、見込み顧客の行動に基づいて、メール配信、広告配信、スコアリングなどを自動化するシステムです。

効率的なリードナーチャリングを実現し、営業チームとの連携を強化できます。

MAシステムの運用においては、メール配信における特定電子メール法への対応、個人情報の取得・利用・第三者提供に関する個人情報保護法への対応、海外のMAベンダーを利用する場合の国際データ移転規制への対応などが重要となります。

デジタルマーケティングにおいて関連する法律

デジタルマーケティング活動は多数の法律の規制対象となります。

ここでは、実務上特に重要な法律について詳しく解説します。

景品表示法

景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)は、デジタルマーケティングにおいて最も重要な法律の一つです。

商品・サービスの品質、価格等について、実際よりも著しく優良または有利であると消費者に誤認させる表示を禁止しています。

優良誤認表示の禁止

商品・サービスの品質、規格、効果・効能、安全性等について、実際よりも著しく優良であると一般消費者に示す表示が禁止されています。

デジタル広告において「業界最高品質」「完全無添加」「100%効果保証」などの表現を使用する場合は、客観的な根拠資料の準備が必要です。

有利誤認表示の禁止

価格やその他の取引条件について、実際よりも著しく有利であると一般消費者に示す表示が禁止されています。「最安値」「他社比50%オフ」「限定価格」などの表現には、比較対象や条件の明示が必要です。

ステルスマーケティング規制

2023年10月から新たに施行された規制により、事業者が自社の商品・サービスについて、一般消費者の投稿や第三者の客観的な評価を装った広告表示を行うことが禁止されました。

インフルエンサーマーケティングや口コミサイトでの宣伝活動において、広告であることを明確に表示する必要があります。

著作権法

デジタルマーケティングにおいては、写真、イラスト、動画、音楽、テキストなど、様々な著作物を利用します。これらの利用には著作権法の規制が適用されます。

著作物の利用と権利処理

他人が作成した写真、イラスト、動画、楽曲などを広告やコンテンツで使用する場合は、著作権者からの許諾取得が必要です。

ストックフォトサービスやフリー素材を利用する場合も、利用条件を詳細に確認する必要があります。

引用の要件

他社のブログ記事、調査レポート、ニュース記事などを引用する場合は、著作権法第32条の引用の要件(公正な慣行、正当な範囲内、明瞭区分、主従関係、出所明示)を満たす必要があります。

二次的著作物の取扱い

既存の著作物を翻案・翻訳・編曲等して作成した二次的著作物については、原著作物の著作権者と二次的著作物の著作権者の両方の許諾が必要となる場合があります。

商標法

企業のブランド戦略において商標権は重要な知的財産権です。デジタルマーケティングにおいても、自社商標の適切な使用と他社商標権の尊重が必要になります。

商標権侵害のリスク

他社の登録商標と同一または類似する標章を、同一または類似する商品・サービスに使用することは商標権侵害となります。

リスティング広告のキーワード設定、ドメイン名の選択、商品名やサービス名の決定において注意が必要です。

商標的使用と権利侵害

商標法上の「使用」に該当するかどうかは、使用態様や文脈によって判断されます。

比較広告における他社商標の言及、アフィリエイト広告での商品名表示、SEO対策としてのキーワード使用などについて、個別の検討が必要です。

個人情報保護法/GDPR

デジタルマーケティングでは大量の個人情報を取り扱うため、個人情報保護法(日本)やGDPR(EU)などのプライバシー規制への対応が不可欠です。

個人情報の定義と範囲

氏名、メールアドレス、電話番号などの直接的な個人情報に加え、IPアドレス、Cookie ID、デバイス識別子なども個人情報として扱われる場合があります。マーケティングオートメーションツールやアクセス解析ツールの利用においても注意が必要です。

取得時の利用目的通知・明示

個人情報を取得する際は、利用目的を本人に通知または明示する必要があります。ウェブサイトのお問い合わせフォーム、メルマガ登録、ホワイトペーパーダウンロードなどの場面で適切な対応が必要です。

第三者提供の制限

個人情報を第三者に提供する場合は、原則として本人の同意が必要です。広告配信パートナー、マーケティングツールベンダー、データ分析業者などとのデータ連携において、適切な手続きを踏む必要があります。

国際データ移転の規制

海外のマーケティングツールやクラウドサービスを利用する場合は、個人情報の海外移転に関する規制に注意が必要です。移転先の国・地域によって必要な手続きが異なります。

電気通信事業法

2023年6月に改正された電気通信事業法により、Cookie等の外部送信に関する新たな規制が導入されました。

外部送信の同意取得義務

利用者の端末に保存されている情報(Cookie等)を外部に送信する場合、または利用者の端末から外部に送信される情報を利用する場合は、原則として利用者の同意を得る必要があります。

対象となるサービスと情報

検索サービス、SNS、ECサイト、動画配信サービス、アプリストアなどのサービスが対象となります。送信される情報には、Cookie、広告識別子、位置情報、閲覧履歴などが含まれます。

特定商取引法

通信販売や電子商取引を行う事業者には、特定商取引法の規制が適用されます。

通信販売における表示義務

事業者名、住所、電話番号、商品価格、送料、支払方法、返品・交換条件などの表示が義務付けられています。ランディングページや商品ページでの適切な表示が必要です。

誇大広告の禁止

商品・サービスの性能、効果、価格等について、著しく事実に相違する表示や実際よりも著しく優良または有利であると一般消費者を誤認させる表示が禁止されています。

特定電子メール法

営利目的の電子メール送信には、特定電子メール法の規制が適用されます。

事前同意の原則

営利目的の電子メールを送信する場合は、原則として受信者の事前同意を得る必要があります。メルマガ配信やMAツールを活用したメール配信において重要な規制となります。

表示義務

送信者の氏名・名称、住所、電話番号、メール送信に関する苦情・問い合わせ窓口、配信停止の方法などの表示が義務付けられています。

デジタルマーケティングにおける主な法務上の論点

実務において特に問題となりやすい法務論点について、具体的な事例と対策を交えて解説します。

比較広告のケース

競合他社との比較を行う広告は、消費者の商品選択に有用な情報を提供する一方で、法的リスクも高い広告手法です。

適法な比較広告の要件

公正競争規約では、比較広告が適法となるための要件として、以下の8項目を定めています。

  • 比較対象の明示
  • 客観的実証
  • 正確性
  • 誤認惑を与えない表示
  • 競業誹謗の回避
  • 適正な比較
  • 立証可能性
  • 継続性

これらの要件を満たさない比較広告は、景品表示法や不正競争防止法の問題となる可能性があります。

デジタル広告における比較表現のリスク

リスティング広告の限られた文字数の中で適切な比較広告を行うことは困難であり、誤解を招く表現となりやすいリスクがあります。

また、競合他社の商標を含む比較広告は、商標権侵害のリスクも併せ持ちます。

実務上の対策

比較広告を実施する場合は、比較対象、比較項目、調査方法、調査時期などを明確にし、客観的な根拠資料を整備する必要があります。

また、法務部門による事前チェックプロセスを確立し、リスク評価を行うことが重要です。

不実証広告規制のケース

景品表示法には、措置命令を受けた事業者が広告の根拠資料を提出できない場合に、その広告を不当表示とみなす不実証広告規制があります。

対象となる表示

商品・サービスの効果、性能に関する表示のうち、消費者庁長官が指定する表示が対象です。健康食品、美容器具、学習教材、語学教材、パソコン用ソフト、投資関連商品などが指定されています。

立証責任の転換

通常は消費者庁が表示の虚偽性を立証する必要がありますが、不実証広告規制の対象となる表示については、事業者が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す必要があります。

必要な根拠資料

根拠資料は、客観性、関連性、十分性の要件を満たす必要があります。具体的には、学術論文、公的機関の調査データ、専門機関による試験結果、臨床試験データなどが該当します。

ステルスマーケティング規制のケース

2023年10月から施行された景品表示法の改正により、ステルスマーケティングが明確に規制されました。

規制対象となる表示

事業者が自社の商品・サービスについて行う表示のうち、一般消費者が事業者による表示であることを判別することが困難であると認められるものが規制対象です。

インフルエンサーへの依頼投稿、社員による口コミ投稿、第三者になりすました投稿などが該当します。

広告であることの表示義務

規制対象となる表示を行う場合は、一般消費者が事業者による表示であることを明確に認識できる表示を行う必要があります。「PR」「広告」「プロモーション」「○○社から商品提供」などの表示が必要です。

インフルエンサーマーケティングでの対応

インフルエンサーとの契約においては、広告表示義務の履行、投稿内容の事前確認、規制違反時の責任分担などを明確に定める必要があります。また、継続的なモニタリング体制の構築も重要です。

Cookieなどのデータトラッキングの規制のケース

個人の行動データを活用したターゲティング広告には、厳格なプライバシー規制が適用されます。

ファーストパーティCookieとサードパーティCookie

自社ドメインで発行するファーストパーティCookieと、外部のドメインで発行されるサードパーティCookieでは、法的取扱いが異なる場合があります。

Googleは2024年後半にサードパーティCookieの廃止を予定しており、代替手段への移行が必要です。

同意取得の実務

GDPR圏内のユーザーに対しては、Cookie利用についての明確な同意取得が必要です。

同意は、自由意思、特定性、十分な情報提供、明確性の要件を満たす必要があり、同意の撤回も容易に行えるように設計しておくことも外せません。

電気通信事業法による規制

2023年6月から施行された電気通信事業法の改正により、Cookie等の外部送信について利用者の同意取得や情報提供が義務化されました。Cookieポリシーの整備とCookieバナーの実装が必要です。

クリエイティブの著作権等侵害のケース

デジタル広告で使用する画像、動画、音楽、テキストなどのクリエイティブ素材には、様々な知的財産権が関わります。

ストック素材利用時の注意点

ストックフォト、ストックビデオ、フリー音楽素材を利用する場合も、ライセンス条件を詳細に確認する必要があります。商用利用の可否、利用期間、改変の可否、クレジット表示の要否などが重要なポイントです。

生成AI利用時のリスク

ChatGPT、Midjourney、Stable Diffusionなどの生成AIを活用してクリエイティブを制作する場合、学習元データの著作権侵害リスクがあります。

既存の著作物に酷似した出力が生成される可能性があるため、人間による最終チェックが不可欠です。

従業員・外注先の著作権処理

社員や外注先が制作したクリエイティブについても、適切な著作権処理が必要です。職務著作の要件確認、著作権譲渡契約の締結、著作者人格権の処理などを行う必要があります。

デジタルマーケティングの法務における実務上のチェックポイント

法的リスクを最小化するためには、体系的なチェック体制の構築が重要です。以下、実務で活用できるチェックポイントを段階別に解説します。

デジタルマーケティングのスキームチェック

新たなマーケティング施策を実施する前に、法的リスクを包括的に評価するスキームチェックが重要です。

事前リスク評価の実施

マーケティング施策の企画段階で、関連する法令、想定されるリスク、必要な対策を整理します。

チェック項目には、対象商品・サービスの規制業界該当性、広告配信地域の法規制、利用するプラットフォームのポリシー、取得・利用する個人情報の種類と量、第三者との契約関係などが含まれます。

ステークホルダーの役割分担

マーケティング部門、法務部門、システム部門、外注先の役割と責任を明確に定義します。また、意思決定プロセスと承認フローを整備し、適切な牽制機能を働かせることが重要です。

継続的モニタリング体制

施策の実施後も継続的にリスクをモニタリングし、法改正や規制変更に応じて適時見直しを行う体制を構築します。

クリエイティブのチェック

広告クリエイティブの法務チェックは、デジタルマーケティングの法務において最も頻繁に発生する業務です。

表現チェックの観点

景品表示法の観点から、優良誤認・有利誤認となる表現がないかをチェックします。具体的には、最上級表現の根拠確認、比較表現の適切性、効果・効能表現の科学的裏付け、価格表現の正確性などの確認です。

知的財産権チェック

使用する画像、動画、音楽、フォント、キャラクターなどについて、適切な権利処理が行われているかを確認します。また、他社の商標・ロゴ・キャッチコピーの無断使用がないかもチェックします。

業界固有規制のチェック

薬機法、健康増進法、金融商品取引法、宅地建物取引業法など、業界固有の規制に抵触する表現がないかを確認します。特に、健康食品、化粧品、医療機器、金融商品、不動産などの広告では厳格なチェックが必要です。

マーケティングツールや媒体ごとのチェック

デジタルマーケティングでは多様なツールやプラットフォームを利用するため、それぞれの特性に応じたチェックが必要です。

広告プラットフォーム別の対応

Google広告、Facebook広告、Twitter広告、TikTok広告など、各プラットフォームには独自の広告ポリシーが存在します。プラットフォームのポリシー違反は広告配信停止やアカウント凍結につながるため、事前の確認が重要です。

MAツール・アクセス解析ツールの設定チェック

HubSpot、Marketo、Pardot、Google Analytics、Adobe Analyticsなどのツールを利用する際は、個人情報保護法への適合性を確認します。データの取得方法、保存期間、第三者提供の有無、海外移転の有無などの内容です。

プライバシーポリシー・利用規約の整合性確認

マーケティング活動で取得・利用する個人情報の内容と、プライバシーポリシーの記載内容が整合しているかを定期的に確認します。新たなツールの導入やデータ利用方法の変更に応じて、ポリシーの更新も必要です。

デジタルマーケティングで必要な法務とマーケの協働

効果的なデジタルマーケティングを実現するためには、マーケティング部門と法務部門の密接な連携が不可欠です。

広告法務の重要性

デジタル広告の法的リスクは、従来の広告媒体と比較して格段に高まっています。

リアルタイムでの広告配信、パーソナライズされた広告表示、ユーザーの行動データ活用など、技術的な複雑さが法的リスクの複雑さと直結しています。

リスクの早期発見と対策

広告法務の専門知識を持つ人材による継続的なリスクモニタリングが重要です。競合他社の行政処分事例、プラットフォームのポリシー変更、関連する法改正情報などを常に収集し、自社の施策への影響を評価します。

業界別の専門知識の蓄積

健康食品、化粧品、医療、金融、教育、不動産など、規制の厳しい業界でデジタルマーケティングを行う場合は、業界固有の法規制に関する専門知識が必要です。

社内での知識蓄積と外部専門家との連携体制を構築します。

マーケティングの戦略立案における法務の活用

法務チェックを単なる事後確認ではなく、マーケティング戦略の立案段階から活用することで、より効果的で持続可能なマーケティング活動を実現できます。

競合優位性の創出

適切な法務対応は、競合他社との差別化要因にもなります。厳格なコンプライアンス体制を構築している企業は、消費者や取引先からの信頼度が高く、中長期的なブランド価値の向上につながるでしょう。

また、法的リスクを適切に管理することで、競合他社が参入しにくい市場ポジションを確立できる場合もあります。

新規事業・新規市場参入時の法務DD

新たな事業領域や海外市場に参入する際は、事前の法務デューデリジェンスが重要です。

対象市場の法規制環境、競合他社の法的課題、必要な許認可、想定される法的コストなどを詳細に調査し、事業計画に反映させる必要があります。

データ活用戦略と法務の整合性

顧客データやマーケティングデータの活用戦略を策定する際は、個人情報保護法、業界固有の規制、海外の規制などとの整合性を確保する必要があります。

データの取得方法、分析手法、活用範囲、保存期間などについて、法務の観点から最適化を図ります。

法務×マーケの体制構築のあり方

効果的な法務・マーケティング連携体制を構築するためには、組織体制、業務プロセス、人材育成の3つの観点からアプローチする必要があります。

組織体制の設計

小規模企業では法務とマーケティングの兼務者を配置し、中規模企業では法務部門にマーケティング法務の専門担当者を配置します。大規模企業では、マーケティング部門内に法務専門のポジションを設置するか、法務部門内にマーケティング専門チームを設置する体制が効果的です。

定期的な連携会議の実施

法務部門とマーケティング部門の定期的な連携会議を設置し、法改正情報の共有、リスク事案の報告、新規施策の法的検討などを継続的に実施します。また、緊急時の連絡体制と意思決定プロセスも明確に定義します。

外部専門家との連携体制

社内リソースだけでは対応困難な専門的な法的論点については、弁護士、弁理士、税理士などの外部専門家との連携体制を構築します。顧問契約だけでなく、案件ごとの委託や、定期的なコンサルティングなど、多様な連携形態です。

人材育成とスキル向上

マーケティング担当者向けの法務研修、法務担当者向けのマーケティング研修を定期的に実施し、相互理解を深めます。また、デジタルマーケティング法務に特化した専門資格の取得支援なども検討します。

デジタルマーケティングにおける最新の法務トピック

デジタルマーケティングの法的環境は急速に変化しています。最後に、現在進行形で重要性が高まっている最新の法務トピックについて解説します。

AIによるクリエイティブと著作権や商標

AI技術の急速な普及により、マーケティングクリエイティブの制作プロセスが大きく変化しています。しかし、この変化には新たな法的リスクも伴います。

生成AIと著作権法の課題

現在の著作権法では、AIが生成した作品の著作権の帰属は、明確ではありません。

もちろん、AIサービスのそれぞれの利用規約の中で、基本的にユーザーが出力したアウトプットはユーザーに帰属することが定められています。

しかし実質的には、プロンプト入力の回数、プロンプト自体に内在する創作的意図の有無・程度(独自性)、フィードバックの回数などによりAIによる機械学習の出力に対して人の創作的寄与や意図があるといえるかによって判断されます。

こうした観点から、マーケティングクリエイティブにAI生成素材を使用する場合は、著作権の帰属と利用権限の明確化が必要です。

学習データの著作権侵害リスク

AIの学習データに著作権で保護された作品が含まれている場合、生成された作品が既存作品に酷似し、著作権侵害となるリスクがあります。

特に、特定のアーティストの作風を模倣した画像生成や、既存楽曲に類似した音楽生成では注意が必要です。

実務上の対策とガイドライン

AI生成クリエイティブを利用する際は、以下の対策が重要です。生成されたコンテンツの類似性チェック、人間による最終的な創作判断の介在、AI利用の明示、生成プロセスの記録保存、利用規約での責任制限の明記などです。

また、社内でのAI利用ガイドラインを策定し、従業員への教育も重要になります。

商標権との関係

AI生成画像に他社の商標が含まれる場合の商標権侵害リスクも新たな課題です。特に、ロゴやブランドマークが学習データに含まれている場合、意図せず他社商標が生成される可能性があります。

商標権侵害を防ぐため、生成画像の事前チェック体制を整備する必要があります。

No1広告規制の強化

「業界No.1」「売上No.1」「満足度No.1」などの最上級表現を用いた広告に対する規制が強化されています。

合理的根拠の厳格化

消費者庁は、No.1表示の根拠となる調査データについて、より厳格な基準を適用するようになっています。調査対象の代表性、調査方法の客観性、調査時期の妥当性、比較対象の適切性などが詳細に検証されます。

表示方法の具体的要件

No.1表示を行う場合は、調査機関名、調査時期、調査対象、調査方法などの詳細情報を併記することが求められます。また、調査結果の一部のみを抜粋して表示することは、消費者の誤認を招く可能性があるため注意が必要です。

デジタル広告での表示上の制約

リスティング広告やバナー広告など、表示スペースが限られたデジタル広告では、必要な根拠情報をすべて表示することが困難です。このような場合は、詳細情報を記載したランディングページへの導線を明確にするなどの工夫が必要になります。

業界団体の自主規制強化

各業界団体も、No.1表示に関する自主規制を強化しています。業界固有のガイドラインや規約に違反した場合、行政処分とは別に、業界内での制裁措置を受ける可能性もあります。

ターゲティング広告規制の強化

個人データを活用したターゲティング広告に対する規制が、世界的に強化されています。

プライバシー規制の国際動向

GDPR(EU)、CCPA(カリフォルニア州)、LGPD(ブラジル)など、世界各国でプライバシー規制が強化されています。これらの規制は域外適用されるため、日本企業であっても、対象地域のユーザーに対してサービスを提供する場合は規制の対象となります。

Cookie規制とポストCookie時代への対応

2024年7月にGoogleはサードパーティCookie廃止計画を撤回し、ユーザーが自身でプライバシー設定を選択できる仕組みを維持する方針に転換しました。

しかし、Safari(2020年から制限)、Firefox、Edgeなど他のブラウザでは既にサードパーティCookieの制限が実施されており、全体の約4分の1のユーザーが影響を受けています。

このため、Cookieに依存しないマーケティング手法への移行は引き続き重要な課題となっています。ファーストパーティデータの活用強化、コンテキストターゲティングの導入、プライバシー保護技術の活用などが必要です。

同意管理プラットフォーム(CMP)の導入

GDPR等の規制に適合するため、Cookie利用についてのユーザー同意を適切に管理するシステムの導入が必要です。同意取得の方法、同意内容の記録、同意撤回の仕組み、同意状況の継続的な管理などを体系的に行うプラットフォームの活用が重要になります。

データクリーンルーム技術の活用

個人を特定しない形で顧客データを活用するデータクリーンルーム技術の活用が拡大しています。GoogleやAmazonなどのプラットフォームが提供するデータクリーンルーム環境を活用することで、プライバシーを保護しながら効果的なターゲティング広告を実現できます。

行動ターゲティングの透明性向上

ユーザーに対して、どのような情報が収集され、どのように広告配信に利用されているかの透明性を高める必要があります。プライバシーダッシュボードの提供、データ利用目的の詳細説明、オプトアウトの容易化などが求められます。

まとめ

デジタルマーケティングにおける法務は、単なるリスク管理を超えて、事業戦略の重要な構成要素となっています。適切な法的対応は、消費者からの信頼獲得、競合優位性の確立、持続可能な成長の実現に直結します。

重要なポイントの再確認

デジタルマーケティングの法務において最も重要なのは、予防的リスク管理の徹底です。事後対応では、行政処分、損害賠償、ブランド毀損などの深刻な影響を回避することが困難です。企画段階からの法務チェック、継続的なモニタリング、迅速な制度変更への対応が不可欠になります。

また、デジタル技術の進歩に伴い、新たな法的論点が継続的に生まれています。生成AI、ブロックチェーン、メタバース、Web3など、新技術の活用においては、既存の法的枠組みだけでは対応困難な課題も多く、専門家との連携や業界動向の継続的な調査が重要です。

今後の展望と課題

デジタルマーケティングの法的環境は、今後も急速に変化し続けると予想されます。個人情報保護規制の強化、AI技術の普及、国際的な規制調和、新たなマーケティング手法の登場など、多様な変化要因があります。

これらの変化に適切に対応するためには、社内の法務体制の強化だけでなく、外部専門家との連携、業界団体での情報共有、海外の規制動向の継続的な調査などが必要です。また、マーケティング担当者の法的リテラシー向上と、法務担当者のデジタルマーケティング理解の深化も重要な課題になります。

デジタルマーケティングの法務は、企業の競争力を左右する重要な要素です。適切な知識と体制を構築し、変化に柔軟に対応することで、法的リスクを最小化しながら、効果的なマーケティング活動を実現していくことが求められています。

実務への活用指針

本記事で解説した内容を実務に活用する際は、自社の事業特性、対象市場、リソース状況に応じたカスタマイズが必要です。まずは現状の法的リスクを包括的に評価し、優先度の高い課題から順次対策を実施することをお勧めします。

また、法的対応は一度整備すれば完了するものではありません。法改正、ガイドライン変更、行政処分事例、技術革新などを継続的にモニタリングし、必要に応じて対策の見直しを行う仕組みを構築することが重要です。

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司法試験受験後、人材系ベンチャー企業でインターンを経験。2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。【愛知県弁護士会所属】

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