IT法務とは、文字通りITに関連した法務のことを指します。
世の中に出回っているサービスや製品にITが関連していることは多く、それらを提供する企業側はIT法務を意識する必要があります。また、ITサービスや製品を利用する側も、利用する側の立場としてIT法務の知識をは知っておくべきです。
IT技術は常に進化しており、それに伴い、IT法務の分野でも新たな課題や法規制が生まれています。 企業は、これらの最新動向を把握し、適切な対応を講じる必要があります。
IT法務の最新動向
・AIの利用に関する規制: AIの開発において倫理的な問題、法的責任、知的財産権など、解決すべき課題も多く存在します。 AIの利用に関する法的枠組みの整備が急務となっています。
・データガバナンス: 個人情報保護法の改正やEUの一般データ保護規則(GDPR)など、データの取り扱いに関する規制が強化されています。 企業は、個人情報を含むデータを適切に管理し、法令を遵守することが求められます。
・サイバーセキュリティ対策の強化: サイバー攻撃の増加に伴い、企業のサイバーセキュリティ対策の重要性が高まっています。 最新のセキュリティ技術を導入し、従業員へのセキュリティ教育を徹底するなど、多層的な対策が必要です。
・リーガルテックの進化: AI、RPAなどの技術を活用したリーガルテックサービスが普及し、法務業務の効率化が進んでいます。 AIによる契約書レビュー、法律相談チャットボットなど、様々なサービスが登場しており、企業の法務担当者の負担軽減に貢献しています。
本記事では、IT法務の概要、一般的な法務との違いに加えて、起こりうるトラブルやリスク対策について具体例を用いて解説していきます。
IT法務とは?section
IT法務とは、IT全般に関わる法務のことです。ここでは、サービス・製品を提供する企業側とそれらを利用する側でのIT法務の目的を説明していきます。
IT法務に関連する法律・規制
IT法務に関連する法律・規制は多岐にわたります。主なものを以下の表にまとめました。
法律・規制 | 説明 | ITとの関連性 |
---|---|---|
サイバーセキュリティ基本法 | サイバーセキュリティに関する基本的な理念を定め、国、地方公共団体、事業者、国民の責務を明確化 | 企業は、サイバーセキュリティ対策を講じる法的義務を負う |
個人情報保護法 | 個人情報の適切な取り扱いについて定め、個人の権利利益を保護 | 企業は、個人情報を適切に管理する法的義務を負う |
不正アクセス禁止法 | コンピュータへの不正アクセスを禁止し、情報セキュリティを確保 | 企業は、不正アクセスからシステムを保護する法的義務を負う |
電子契約法 | 電子契約の有効性を定め、電子商取引の促進を図る | 電子契約を利用する際の法的要件を定める |
特定商取引法 | インターネット通販など、消費者取引における事業者の義務を定め、消費者保護を図る | ECサイト運営など、消費者取引を行う際の法的義務を定める |
著作権法 | 著作物の保護、利用について定める | ソフトウェア、コンテンツなどの著作物を保護 |
特許法 | 発明の保護、利用について定める | IT関連技術の発明を保護 |
商標法 | 商標の保護、利用について定める | IT関連サービスのブランドを保護 |
不正競争防止法 | 営業秘密の保護、不正競争の防止について定める | 企業のIT関連技術やノウハウを保護 |
刑法 | サイバー犯罪に関する規定を設ける | サイバー犯罪に対する罰則を定める |
特定電子メール法 | 迷惑メールの送信を規制 | 迷惑メール対策 |
資金決済法 | 電子マネーなど、資金決済に関する規制を設ける | 電子決済サービスを提供する際の法的義務を定める |
金融商品取引法 | 暗号資産など、金融商品取引に関する規制を設ける | 暗号資産取引サービスを提供する際の法的義務を定める |
IT企業側の法務
IT業界は日々技術の開発が進んでおり、それによって新しいサービスや製品が生まれている業界です。そのため、IT企業の法務にはスピード感のある対応が求められます。
また、新しいサービスや製品が生まれると、法改正が施行されて法務の対応領域が広がることもあるため、最新情報のキャッチアップ力も必要です。
主な業務は、サービス・製品を提供する側の立場として
- 契約書が法律に違反した内容ではないか
- 不利な契約内容を提示されていないか
などのチェックがあります。
加えて、締結した契約通りにサービスが提供できているか、利用者側の企業から提供された情報を適切に扱えているかについて確認する役割も担っています。契約を守れていないと報酬が支払われてもらえず、会社としては大きな損失を被ります。
そして、何にも成果にならず従業員のモチベーション低下にもつながる原因になるでしょう。
利用者側の法務
IT企業でなくても、ITサービスや製品を利用する際にはIT法務の知識が求められます。
代表的な例は、開発業務で業務委託契約をした場合です。
業務委託契約の方法としては、「請負契約」もしくは「準委任契約」が使われます。
請負契約は下記のとおり民法第632条で定められており、システム開発の場合はシステムを完成(仕事の完成)させたことに対して、利用者側の企業が報酬を支払う契約です。
(請負)
民法 第632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
つまり、受注企業が当初の請負契約で予定していた最終工程を終えていない場合には、「完成」させたとはいえず、原則として利用者側の企業は報酬を支払う義務はありません(ただし、成果の一部を引き渡して利用者側の企業に利益がある場合は出来高報酬の支払い義務が発生する可能性はあります)。
一方の準委任契約は、民法第656条で定められているとおり、システム開発側は利用者側の企業から依頼された内容を契約期間内に対応することが目的で締結されます。
(準委任)
民法 第656条
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
もし、システム開発が完成しなくても開発業務の過程に対して、利用者側の企業には報酬の支払いが求めらます。
業務委託契約をする際に、上記2つの契約方法の違いを知らないとただ報酬を支払っただけで、成果物は受け取れないというトラブルに発展する恐れがあります。
IT法務は契約トラブル防止に重要
IT企業側と利用者側、どちらの立場からみても法務機能がなければ会社の利益は生まれません。
トラブルがなく、サービス・製品の提供、報酬の支払いがおこなわれて取引が完了するには、法務を通して双方が納得した契約内容の締結が必要です。
IT企業の法務と企業法務の業務内容に違いはある?section
IT企業の法務も一般的な企業法務と同様、下記業務に対応します。
- 契約書の作成・レビュー・締結
- 知的財産の管理
- 紛争対応
- 社内コンプライアンス対応
- 情報管理
- 機関法務
- 法律相談
- 債権回収・債権管理 など
しかし、対応業務は基本的に同じですが、業務の内容に違いがあります。次の項目で、IT法務特有の業務内容について説明していきます。
IT法務の業務内容section
IT法務ならではの業務としては、次のようなものがあります。
契約書の作成・レビュー・締結
取り扱う主な契約書は、下記が挙げられます。
- 業務委託契約書
- ソフトウェアライセンス契約書
- SES(システムエンジニアリングサービス)契約書
- 秘密保持契約(NDA)書
- 開発制作契約書(システム・プログラム・アプリ開発、WEBサイト制作 等)
- 保守契約書(サービス・製品の保守、修正、修理)
- コンサルティング契約書(SEO対策、WEBサイトの改善施策 等)
- 広告運用代行契約書(広告キーワードの選定・入札、アフィリエイトの利用、SNS広告の運用 等) など
これらの契約書の作成、レビューするポイントとなる項目は、以下の内容が挙げられます。
- 何に対する契約であるかが明確に記載されている
- 提供するサービス・製品の完成形は何か
- 契約期間
- 修正はどこまで対応するか
- 追加費用がかかるケース など
「契約書を締結した=契約書の内容に記載された内容について、契約をする双方が納得している」ことを意味します。そのため、契約書の締結後の内容に対して変更したい場合は、再度双方の合意がないと変更はできません。
取引先企業に変更内容を断られるケースもあるので、そこからトラブルに発展する可能性もあります。
契約書の作成・レビュー・締結は、最悪のトラブルを想定した話し合いを取引先企業とおこない、手続きを進めていくことがポイントです。
知的財産の管理
提供したサービス・製品が、契約書の内容どおりに完成しているか確認する業務も担います。また、知的財産基本法に定められている内容に違反していないかも確認が必要です。
(定義)
知的財産基本法
第二条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。
たとえば、第三者の知的財産権を侵害してしまうと、損害賠償請求や刑事告訴のトラブルが発生し、取引先にも迷惑をかけることになります。
情報管理
システム開発やプロダクト開発をおこなう際、企業が保持している事業内容や技術情報などの秘密情報の共有がされるため、秘密保持契約(NDA)を締結するケースは多いです。
そのほか、ネットワーク上で情報を安全に取り扱えるように対策するサイバーセキュリティの実施、個人情報の取り扱いに必要な個人情報保護法などの扱いが増えます。
これらの重要な情報の取り扱いは、法務目線での適切な管理体制の構築、対応が欠かせません。
IT法務の主な対象範囲section
ITは幅広い業務に関わっているため、どの業界にも関係があります。とくにIT法務として関わる範囲は、以下が挙げられます。
システム・プロダクト開発
取引を開始するにあたって、必要な契約書類作成をします。法律に則った内容が反映されているか、自社に不利な内容でないか、記載された内容で起こる最悪なケースはあるのかを想定し、法律の視点を踏まえたチェックが必要です。
また、契約上でトラブルが発生した場合には、大きなトラブルに発展する前に収める対応を求められます。
Webサイト
Webサイト制作において、著作権違反、商標権侵害をしていないかの確認は外せません。
- 他社サイトの文章をコピーして利用
- 画像の無断利用
- WEBサイトを構成するソースコード
とくに上記3点は、トラブルの原因となりやすいです。
ソースコードのコピーについては、IT企業ならではの著作権問題かもしれません。個人が作成したソースコードであっても、著作権が企業にある場合によっては、個人側が著作権違反とみなされる可能性もあります。
Web広告
Web広告では、下記に注意が必要です。
- 景品表示法
- ステマ
- 不正競争防止法
実際と異なる情報や誤解を与える情報を加えた広告は、景品表示法違反とみなされます。2023年10月からは、景品表示法にステルスマーケティング(ステマ)も追加されました。
また、サイトのドメイン名が自社とは関係ない他社商品と同一名だった場合、不正競争防止法違反の扱いです。利用者に誤解を与えるような広告をしていないかの判断を求められます。
メタバース
メタバースは、現実と同様のやり取りがインターネット上の仮想空間で体験でき、なおかつ誰がどこにいても利用ができるという点がメリットです。
しかし、誰でも自由に使える空間だからこそ、安全に利用できる空間には以下のような法的課題があり、対応が求められます。
- 知的財産権の侵害
- 知的財産法の違反
- 個人情報やプライバシーの侵害
- 不正利用(アカウントの乗っ取り、ハッキング)
- 匿名であることの悪用(詐欺、嘘の悪評を拡散される) など
メタバースは発展最中の分野であるため、今ある法律では安全性を保てきれていないのが現状です。
ゲーム
ゲーム事業は、新しい作品を生み出すことが主な業務です。そのため、新しいゲームが開発される度に知的財産を侵害していないかのチェックが欠かせません。
ゲームユーザーを楽しませるコンテンツとして、多くのオンラインゲームで取り入れられている「有料ガチャ」においては、景品表示法の注意が必要です。
実際、2018年にオンラインゲームの「パズル&ドラゴン(パズドラ)」を運営しているガンホー・オンライン・エンターテイメントが、景品表示法違反(優良誤認)として課徴金5,020万円の納付命令を受けたという事例があります。
事前に告知されていた有料ガチャの内容と、実施されたガチャの内容が異なっていたことで発生した問題です。
参考:パズドラで景表法違反 特別キャラ13体が実は2体だけ | 日本経済新聞
また、アイテム購入やステージアップができる等の課金における決済方法においては、資金決済法の前払式支払手段に該当する場合は、規制に対応する必要があります。
開発に時間をかけて満を持してリリースしたゲームが法律を違反しないよう、事前の調査も担当します。
AI関連サービス
AIは契約書レビューや訴訟業務の効率化に活用されています。例えば、LegalForceのようなサービスは契約書の自動チェックを行い、リスクの把握や修正点の特定を支援する、業務効率化ツールとしては便利なものではあります。
他方、AIによる法務サービスは弁護士法72条(非弁行為の禁止)との関係が問題となります。法務省は2023年8月に見解を公表し、以下の3要素を満たす場合に違法となる可能性があるとしています。
- 報酬を得る目的であること
- 法律事件に関する業務であること
- 法律専門家でなければ適切に遂行できない業務であること
[参照]法務省|AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第 72 条との関係について
AIの開発・利用段階の法的リスク例
- 著作権侵害
- 開発・学習段階:AI開発者が著作物を無断で収集し、モデルに学習させる行為が著作権侵害に該当する可能性
- 利用段階:AIが生成したコンテンツが既存の著作物と類似している場合、著作権侵害となる可能性
- 既存の著作物をAIに直接入力した場合
- 著作物のタイトルなど固有名詞を入力した場合
- 生成物が既存の著作物と高度に類似している場合
- 個人情報保護:AIの学習データに個人情報が含まれる場合、個人情報保護法に違反するリスク
- 機密情報の漏洩:企業の機密情報や顧客情報をAIに入力することで、情報漏洩のリスク
- プロンプトインジェクション:悪意のあるユーザーが特殊な指示を入力し、AIから機密情報を引き出す攻撃手法
- その他のリスク
- ディープフェイクによる肖像権侵害
- AIが生成した誤情報(ハルシネーション)の拡散
- 倫理的に不適切なコンテンツの生成
ウェブサイト上のデータをAI学習に使ってよいか?
ウェブサイト上で公開されているデータをプログラムにより自動で取得し(スクレイピング、クローリング)、AIに入力することにより学習させることを検討しています。このようなデータ利用は問題があるでしょうか。著作権法上、このようなデータ利用は原則として許容されています。他方で、取得先のウェブサイトによっては、このようなデータ取得行為やデータ利用行為が利用規約によって禁止されている場合もあります。このような場合に、利用規約違反の問題が生じるのでしょうか。利用規約と著作権法のいずれが優越するのか、いわゆるオーバーライド問題が生じます。
引用元:ウェブサイト上のデータをAI学習に使ってよいか? | IT法務.COM|システム・ソフトウェア・ネットビジネスに関するご相談なら弁護士法人内田・鮫島法律事務所
IT法務に強みを持つ弁護士の特徴section
IT法務に強みを持つ弁護士・法律事務所の特徴や弁護士の経験・スキルについて説明していきます。
IT系の専門知識
IT業界ならではの問題が発生するので、最新のIT技術や業界動向に関する深い知識と理解を有しています。これは、法律問題の解決において、技術的な背景を理解することが不可欠だからです。
例えば、クラウドサービスに関する契約トラブルでは、クラウドの仕組みやデータセキュリティに関する知識がなければ、適切な法的アドバイスを提供できません。また、ソフトウェア開発に関する紛争では、プログラミング言語や開発プロセスに関する理解がなければ、問題の本質を捉え、効果的な解決策を提案することは難しいでしょう。
さらに、AI、IoT、ブロックチェーンなどの新興技術に関する知識も重要です。これらの技術は、新たな法的課題を生み出す可能性が高く、弁護士はこれらの技術の仕組みや社会への影響を理解することで、将来起こりうる法的リスクを予測し、適切な対策を講じることができます。
そのため、IT法務に強みを持つ弁護士は、常に最新の技術動向をキャッチアップし、自己研鑽を怠りません。彼らは、技術的な専門書や論文を読んだり、技術セミナーやカンファレンスに参加したりすることで、常に知識のアップデートを図っています。
IT関連訴訟の実務経験
IT法務に強みを持つ弁護士は、IT関連の法的紛争や契約交渉など、豊富な実務経験を有しています。彼らは、実際に多くのIT関連案件を扱うことで、法律知識と技術的知識を融合させ、実践的な解決策を導き出す能力を磨いています。
例えば、システム開発プロジェクトの失敗による損害賠償請求案件では、単に契約書の内容を解釈するだけでなく、開発プロセスのどこに問題があったのか、技術的な観点から分析し、責任の所在を明らかにする必要があります。
また、個人情報漏洩事件では、被害状況の調査、関係当局への報告、被害者への対応など、迅速かつ適切な対応が求められます。このような実務経験を通じて、弁護士は、法的な知識だけでなく、危機管理能力やコミュニケーション能力も向上させることができます。
豊富な実務経験を持つ弁護士は、クライアントの抱える問題を正確に理解し、現実的な解決策を提案できるため、高い信頼を得ています。
ビジネスモデルへの理解
IT法務に強い弁護士は、IT企業のビジネスモデルに対する深い理解を持っていることも重要です。単に法律や技術を理解しているだけでなく、クライアントのビジネスがどのように機能し、どのような価値を提供しているかを把握しています。
これにより、法的アドバイスをビジネスの文脈に適切に位置づけ、クライアントの事業目標を支援することができます。例えば、新しいITサービスの利用規約を作成する際には、そのサービスの特性や収益モデルを理解した上で、適切な条項を盛り込むことができます
知的財産権・ライセンス契約の実務経験
業務内容でも説明したとおり、IT法務の業務には知的財産権関連の対応が度たび発生します。加えて、自社で保持している技術やサービスを提供する取引が発生する機会も多いです。
そのため、知的財産権やライセンス契約の実務経験があれば、スムーズに対応できるでしょう。
知的財産権に関して
IT分野における知的財産権は、特許権、著作権、商標権、意匠権など、多岐にわたります。特にソフトウェアに関しては、特許権と著作権のどちらで保護すべきか、あるいは両方で保護すべきかといった複雑な問題が生じます。
例えば、ソフトウェアの違法コピー、ウェブサイトのコンテンツの無断転載、商標権の侵害など、様々な形態の侵害が考えられます。実務経験豊富な弁護士は、これらの侵害に対して、迅速かつ適切な対応を行うことができます。
彼らは、侵害の事実確認、証拠収集、警告書の送付、差止請求、損害賠償請求など、一連の手続きを熟知しており、クライアントの権利を効果的に保護することができます。また、訴訟に発展した場合でも、豊富な経験に基づいた戦略的な訴訟活動を展開し、クライアントの利益を最大化することができます。
ライセンス契約の交渉・作成に関して
IT分野では、ソフトウェアやコンテンツの利用許諾に関するライセンス契約が頻繁に締結されます。これらの契約は、権利の範囲、使用料、保証責任、秘密保持など、様々な条項が含まれ、複雑な交渉が必要となります。
過去の経験から、どのような条項が問題になりやすいか、どのようなリスクが潜んでいるかを把握しているため、クライアントにとって有利な契約条件を引き出すことができます。また、契約書のドラフト作成においては、曖昧さを排除し、明確かつ正確な表現を用いることで、将来の紛争を予防することができます。
オープンソースソフトウェアのライセンスにも精通
近年、オープンソースソフトウェア(OSS)の利用が拡大しており、OSSライセンスに関する知識は、IT法務において不可欠となっています。OSSライセンスには、GPL、LGPL、MITライセンスなど、様々な種類があり、それぞれ異なる利用条件が定められています。実務経験豊富な弁護士は、これらのOSSライセンスに精通しており、クライアントがOSSを適切に利用するためのアドバイスを提供することができます。
例えば、OSSを利用したソフトウェア開発においては、ライセンスの遵守が重要であり、違反すると、著作権侵害に問われる可能性があります。弁護士は、クライアントが利用するOSSのライセンスを正確に把握し、ライセンス違反のリスクを回避するための対策を提案することができます。
社内向けのコンプライアンス研修実施経験
法務部門主導で行えるものとして、IT関連法務に関するコンプライアンス研修もあります。
サービスに対する営業や開発のフロントは現場であるため、プレイヤーひとりひとりが法務リスクを理解していることで、会社単位で法務レベルを引き上げることができます。
1回では理解できないことも多くありますから、定期的な開催と理解度チェックの実施、あるいはセミナーを開催し外部講師を呼ぶなど、社内で関心を持ってもらうための取り組みや企画・運営・実施経験があると、市場価値向上に寄与します。
コミュニケーション能力
IT法務では、技術者やビジネス担当者など、様々なステークホルダーとの円滑なコミュニケーションが不可欠です。そのため、IT法務に強みを持つ弁護士は、専門用語をわかりやすく説明し、相手の立場を理解した上で、適切なコミュニケーションを図る能力を有しています。例えば、システム開発契約の交渉では、法務部門だけでなく、開発部門や経営層とも協議を行い、契約内容について合意を得る必要があります。
また、法的紛争が発生した場合には、相手方との交渉や裁判所への説明など、様々な場面で高いコミュニケーション能力が求められます。
IT法務に強みを持つ弁護士は、法律の専門家であると同時に、クライアントと他のステークホルダーとの橋渡し役としても重要な役割を果たします。彼らは、相手の立場や意図を正確に理解し、双方が納得できる解決策を導き出すために、優れたコミュニケーション能力を発揮します。
IT法務で起こりうるトラブル事例とリスクsection
IT法務は幅広い業界に関係する分、トラブルも発生しやすいです。実際に起こったトラブルをリスクと一緒にご紹介します。
漫画の無断掲載・データ配信による著作権侵害事例
発生トラブル
インターネット上に無断で漫画のデータを掲載したことにより、4億円の損害賠償を求める裁判の発生。
リスク
著作権侵害をしたことにより、社会的信用が低下する。また、多額の損害賠償の支払いが発生して、最悪の場合倒産に追い込まれる。
参考:漫画海賊版サイトのデータ配信で著作権侵害 出版大手4社が米国のIT企業を提訴へ | 東京新聞 TOKYO Web
システム開発の遅延による請求
発生トラブル
システム開発を依頼されたが、作業が大幅に遅延ししたことにより完成が3年以上と大幅にずれた。そのことにより、契約解除、8億円近い請求をされた。
リスク
社会的信用が低下して、取引数が減少してしまう。また、予定していた売り上げも見込めず、むしろ売り上げはマイナスになってしまう。
参考:システムズが京都市を提訴、2億円の未払い金を求める | 日経クロステック(xTECH)
IT企業への外注システムの開発頓挫
発生トラブル
システム開発を外注依頼したが、納品されたシステムに不具合が発生した。損害賠償を請求したが、契約書の内容により満額請求ができなかった。
リスク
システムが正常に動かず、利用者からクレームを受けてクレーム対応の人件費が余計にかかってしまう。
参考:Z会がシステム開発裁判勝訴も、日立子会社から「11億円しか」賠償されないワケ | 日経クロステック(xTECH)
元社員による個人情報漏洩
発生トラブル
元社員が個人情報を不正に持ち出し、名簿業者に渡していたことによる個人情報漏洩のトラブル発生。
リスク
元社員が原因であったとしても、管理体制を指摘されて社会的信用の低下につながる。また、被害者への謝罪に対してコスト負担がかかる。
参考:NTT西日本子会社元社員、個人情報900万件流出 名簿業者にも |日本経済新聞
IT法務に強い弁護士に相談したい場合におすすめのサイト5選section
ベンナビIT
ベンナビITは、株式会社アシロが運営する、IT分野に強い弁護士を検索・比較できるポータルサイトです。以前は「IT弁護士ナビ」という名称でしたが、リニューアルされ、現在は「ベンナビIT」となっています。最大の特徴は、IT分野に特化している点です。
システム開発、ウェブサービス、データ問題、ネットトラブルなど、IT関連の様々な分野を得意とする弁護士が登録されており、地域や相談内容、費用など、様々な条件で検索することができます。
各弁護士のプロフィールページでは、経歴、得意分野、料金体系、解決事例などが詳細に掲載されており、事前に弁護士の人となりや実績を把握することができます。
さらに、サイトを通じて、弁護士に無料で相談メッセージを送ることができるため、気軽に相談を始めることができます。IT問題に特化したサイトで、専門性の高い弁護士を探している方におすすめです。
公式サイト:https://itbengo-pro.com/
弁護士ドットコム
弁護士ドットコムは、弁護士ドットコム株式会社が運営する、日本最大級の法律相談ポータルサイトです。登録弁護士数は国内最大規模で、IT法務を含む幅広い分野の弁護士が登録されています。地域や相談内容で弁護士を検索できるほか、無料の法律相談Q&Aサービス「みんなの法律相談」を利用できるのも特徴です。
「みんなの法律相談」では、ユーザーが投稿した法律相談に対して、複数の弁護士が無料で回答してくれます。自分の抱えている問題と似た相談事例を探したり、実際に質問を投稿したりすることで、問題解決のヒントを得ることができます。
また、弁護士のプロフィールページでは、経歴、得意分野、料金体系などが掲載されており、弁護士選びの参考にすることができます。IT法務に強い弁護士も多数登録されているため、幅広い選択肢の中から、自分に合った弁護士を見つけたい方におすすめです。
公式サイト:https://www.bengo4.com/
ココナラ法律相談
ココナラ法律相談は、株式会社ココナラが運営する、オンラインで弁護士に法律相談ができるサービスです。ココナラは、スキルシェアサービスとして有名ですが、その中で法律相談に特化したサービスが「ココナラ法律相談」です。
最大の特徴は、オンラインで相談が完結する点です。ビデオ通話、電話、テキストチャットなど、自分の都合に合わせた方法で、全国の弁護士に相談することができます。
また、料金が明確に設定されており、予算に合わせて弁護士を選ぶことができる点も魅力です。相談時間は15分から設定されているため、ちょっとした疑問を気軽に相談したい場合にも便利です。
IT法務に強い弁護士も登録されており、オンラインで手軽に相談したい方や、費用を抑えたい方におすすめです。ただし、複雑な案件の場合は、対面での相談の方が適している場合もあるため、注意が必要です。
公式サイト:https://legal.coconala.com/
弁護士会
各都道府県にある弁護士会では、法律相談センターを運営しており、IT法務を含む様々な分野の法律相談を受け付けています。弁護士会の法律相談は、地域に密着した弁護士に相談できる点が大きなメリットです。
地元の事情に詳しい弁護士から、適切なアドバイスを受けることができます。また、多くの弁護士会では、電話やオンラインでの相談にも対応しているため、遠方に住んでいる場合でも、気軽に相談することができます。
相談料は、30分5,000円程度が一般的ですが、自治体によっては、無料相談を実施している場合もあります。また、収入が一定以下の方を対象とした、無料の法律相談制度(法テラス)を利用できる場合もあります。弁護士会のウェブサイトでは、法律相談の予約方法や、所属弁護士の情報などを確認することができます。
公式サイト:https://www.nichibenren.or.jp/
個別の法律事務所について
インターネットで検索すると、IT法務を専門とする法律事務所のウェブサイトが数多く見つかります。これらの事務所のウェブサイトでは、所属弁護士の経歴、得意分野、料金体系、解決事例などが詳細に掲載されていることが多く、事前に事務所の特色や強みを把握することができます。
また、多くの事務所では、ウェブサイトを通じて、無料相談の申し込みを受け付けています。
個別の法律事務所に相談するメリットは、特定の分野に特化した、専門性の高い弁護士に相談できる点です。例えば、システム開発紛争、インターネット上の誹謗中傷、データセキュリティなど、特定の分野に強みを持つ事務所を選ぶことで、より専門的なアドバイスを受けることができます。
また、事務所のウェブサイトには、弁護士が執筆したコラムや、セミナー情報などが掲載されている場合もあり、IT法務に関する最新情報を得ることもできます。特定の分野に精通した弁護士に相談したい方におすすめです。
IT法務におけるトラブル対策9つsection
IT法務でおこりうるトラブルの発生リスクを最小限にするためには、事前対策の実施がポイントです。
システム開発・運用保守に関するトラブル対策
システム開発や運用保守は、多くのITトラブルの温床となります。開発の遅延、成果物の品質問題、納品後のバグ発生、運用保守におけるシステム障害など、様々な問題が発生する可能性があります。これらのトラブルを未然に防ぐためには、契約段階での対策が重要です。
まず、契約書には、開発のスコープ、納期、成果物の仕様、検収基準、瑕疵担保責任、運用保守の範囲、SLA(サービスレベルアグリーメント)などを明確に定義する必要があります。特に、要件定義や仕様変更に関するプロセスを詳細に定めることで、後々のトラブルを回避できます。
また、プロジェクトの進捗管理を徹底し、問題が発生した場合には、早期に協議を行い、解決策を模索することも重要です。
さらに、開発ベンダーとの信頼関係構築も不可欠です。定期的なミーティングを通じて、情報共有を密に行い、双方の認識の齟齬を解消することが重要です。
万が一、紛争に発展した場合には、契約書に基づいて、交渉、調停、訴訟などの手段を検討する必要があります。経験豊富な弁護士は、これらのプロセスを適切にサポートし、クライアントの利益を最大化することができます。
データセキュリティ・個人情報漏洩対策
情報漏洩は、企業の信用失墜や法的責任追及など、深刻な問題を引き起こします。特に、個人情報の漏洩は、個人情報保護法に基づく厳しい罰則が科される可能性があり、十分な対策が必要です。
まず、企業は、個人情報保護法や関連するガイドラインを遵守し、適切な安全管理措置を講じる必要があります。具体的には、情報セキュリティポリシーの策定、従業員への教育・研修、アクセス制御、データの暗号化、ログの取得・分析などの対策が挙げられます。また、セキュリティインシデント発生時の対応計画を策定し、定期的に訓練を実施することも重要です。
万が一、情報漏洩が発生した場合には、迅速な対応が求められます。原因の特定、影響範囲の調査、関係当局への報告、被害者への対応、再発防止策の策定など、一連のプロセスを迅速かつ適切に実行する必要があります。IT法務に強い弁護士は、これらの対応を法的な観点からサポートし、企業のリスクを最小限に抑えることができます。
インターネット上の誹謗中傷・風評被害対策
インターネット上の誹謗中傷や風評被害は、企業のブランドイメージを毀損し、経営に悪影響を与える可能性があります。特に、SNSの普及により、情報は瞬時に拡散されるため、迅速な対応が求められます。
対策としては、まず、インターネット上の情報を定期的にモニタリングし、誹謗中傷や風評被害の兆候を早期に発見することが重要です。問題のある書き込みを発見した場合には、削除要請や発信者情報開示請求などの法的手段を検討します。ただし、これらの手段は、表現の自由との関係で慎重に判断する必要があります。
また、平時からの情報発信も重要です。企業の公式ウェブサイトやSNSを通じて、正確な情報を積極的に発信することで、誹謗中傷や風評被害の影響を軽減することができます。弁護士は、これらの対応を法的な観点からサポートし、企業のレピュテーション保護に貢献することができます。
知的財産権侵害への対策
IT分野では、ソフトウェアの違法コピー、ウェブサイトのコンテンツの無断転載、商標権の侵害など、様々な知的財産権侵害が発生する可能性があります。これらの侵害は、企業の収益機会を奪い、ブランド価値を毀損するリスクがあります。
対策としては、まず、自社の知的財産権を適切に管理し、権利侵害を未然に防ぐことが重要です。具体的には、特許権、著作権、商標権などの権利を取得し、適切に管理することが必要です。また、従業員に対して、知的財産権に関する教育・研修を実施し、意識向上を図ることも重要です。
万が一、権利侵害を発見した場合には、迅速な対応が求められます。警告書の送付、差止請求、損害賠償請求などの法的手段を検討し、必要に応じて、訴訟を提起することも必要です。経験豊富な弁護士は、これらのプロセスを適切にサポートし、クライアントの知的財産権を保護することができます。
クラウドサービス利用に関するトラブル対策
クラウドサービスの利用は、コスト削減や業務効率化などのメリットがある一方で、セキュリティリスクやベンダーロックインなどの問題も存在します。これらのトラブルを回避するためには、契約段階での対策が重要です。
まず、契約書には、サービスの範囲、SLA、データセキュリティ対策、責任範囲、契約解除条件などを明確に定義する必要があります。特に、データの所有権やアクセス権、データのバックアップや復旧に関する条項は、慎重に検討する必要があります。また、ベンダーのセキュリティ対策やコンプライアンス体制を事前に確認することも重要です。
さらに、クラウドサービスの利用に伴う法的リスクを理解し、適切な対策を講じることも重要です。例えば、個人データの越境移転に関する規制や、データ侵害発生時の責任問題など、様々な法的課題が存在します。弁護士は、これらの法的リスクを分析し、クライアントがクラウドサービスを安全かつ適切に利用するためのアドバイスを提供することができます。
その他基本的な対策4つ
契約は必ず書面で行う
契約は、口頭でも双方が同意をしていれば成立が可能です。
しかし、言った言わないのトラブルが発生するリスクは残ります。そのため、必ず書面に契約内容を記載し、合意のサインをして契約締結とましょう。
作成した契約書はリーガルチェックにまわす
契約書にサインをしたら、合意したとみなされます。
そのため、契約締結する前には法律の観点から契約書の内容に問題がないかを、リーガルチェックでおこなってください。
個人情報の管理システムを導入する
個人情報漏洩のトラブルは、利用者がいる限り発生しやすいトラブルです。大企業になるほど取り扱う個人情報は膨大になるので、人力での管理は難しくなります。
個人情報の管理システムの導入には費用がかかりますが、個人情報漏洩のトラブルが発生した場合の損害を考えるとシステムの導入はおすすめです。
コミュニケーションを怠らない
業務を委託する側、受託する側に関係なく、契約書を締結したら全て任せっぱなしは避けましょう。
開発や制作をおこなっている最中に、仕様の変更や開発期間が足りないというトラブル発生の可能性はゼロではありません。
スムーズに取引を完了させるために、こまめな進捗報告をおこない、コミュニケーションをとりましょう。
まとめ
最後にIT法務におけるトラブル対策を9つ解説しました。これらの対策を講じることで、企業はIT関連のトラブルを未然に防ぎ、万が一、問題が発生した場合でも、迅速かつ適切に対応することができます。
IT法務に強みを持つ弁護士は、これらの対策を法的な側面から強力にサポートし、企業のビジネスを成功に導くことができます。