執行役員制度とは - 役割・取締役や執行役との違い・適任者の特徴を弁護士が解説

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阿部由羅【弁護士】

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株式会社では、取締役による業務執行を補佐するため、「執行役員制度(しっこうやくいんせいど)」が導入されることがあります。執行役員制度とは、取締役とは別の役職である「執行役員」を設置し、代表取締役と執行役員が協力して会社の業務を執行する仕組みです。

執行役員制度を導入すると、会社のガバナンス機能の改善や、従業員のモチベーションアップなどが期待できます。ある程度以上の事業規模に達した会社は、従業員や外部人材の中から適任者を見定めたうえで、執行役員制度の導入を検討してみましょう。

今回は、執行役員の役割・取締役や執行役との違い・適任者の特徴や、執行役員制度を導入する際の手続きなどを解説します。

目次
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執行役員制度の概要・目的・歴史section

執行役員制度の導入が進んだのは、1990年代後半から2000年代半ばごろまでとされています。現在では上場企業を中心に、多くの企業で定着している執行役員制度につき、概要・目的・歴史を確認しておきましょう。

「執行役員」とは?

「執行役員」とは、取締役とは別に設けられた、会社の業務執行を担当する役職です。執行役員の会社内での立場は、「雇用型」か「委任型」かによって異なります。

①雇用型

執行役員はと会社の間で雇用契約を締結します。執行役員は、会社の「従業員」の立場となります。

②委任型

執行役員と会社の間で委任(業務委託)契約を締結します。執行役員は、会社の従業員ではなく、会社と対等な立場で業務を行います

執行役員制度導入の目的は「監督と執行の分離」

執行役員制度は、取締役会が担う「経営監督」と「業務執行」という2つの機能を、緩やかに分離することを目的としています。監督機能と執行機能を分離することで、後述するように、会社のガバナンスを強化する効果が期待できます。

監督機能と執行機能の分離は、会社法上認められている「委員会等設置会社」への転換によっても実現できますが、会社法上の様々な規制・制約を受けるのが難点です。これに対して執行役員制度は、会社法上の制度ではないため、自社の判断で柔軟に制度設計を行うことができる長所があります。

執行役員制度の歴史

執行役員制度は、日本では1997年6月に、ソニー株式会社において初めて導入されました。ソニー株式会社には当時38名の取締役がいたところ、取締役を10名に削減したうえで、34名の執行役員(うち7名は取締役と兼務)が就任しました。

ソニー株式会社における執行役員制度の導入は、取締役会の監督機能と執行機能の分離などを、主な目的としたものです。その後商法改正やコーポレートガバナンス強化へのニーズなどが追い風となり、1990年代後半から2000年代半ばごろにかけて、上場会社を中心に執行役員制度の導入が進んでいきました。

〈ソニー〉ソニーは、1997年6月、多様な事業群がグローバルに展開するソニーグループの経営を束ねる中枢機構(グループ本社)を確立し、企業価値創造を目指したコーポレート・ガバナンスの機能を強化するために、取締役会の改革を行った。その改革によって、取締役会は、グループ本社の中核に位置付けられ、その役割は、商法が要請する責任に加え、新たに「グループとしての経営方針の決定と、各事業主体の経営の監督」にあると定められた

この新たな取締役会の役割に照らして、グループ全体の経営に専心できる立場にある者のみが取締役に選任され、個々の事業の執行の任にある者(いわゆる使用人兼務取締役)は、執行役員に任命された。これは、執行役員制度の走りとなった。

その結果、取締役は38人から10人に削減され、取締役会の規模の適正化が実現した。これと合わせて、1970年に導入された社外取締役の役割も見直された。ソニーグループの事業領域が多様化する中で、社内取締役にない経験・知識・専門性を持った人材が取締役会に加わることによって、議論・経営判断の質を高め、監督機能を充実させることが、社外取締役に期待されているのである。

引用元:日本における取締役会改革|東洋大学学術情報リポジトリ

[参照]
https://www.works-i.com/works/item/w147_toku2.pdf
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/cgs_kenkyukai/pdf/002_03_00.pdf

執行役員・取締役・執行役の違いsection

執行役員は、「取締役」や「執行役」といった会社法上の役員と並べて論じられることが多く、しばしば混同されがちです。執行役員・取締役・執行役の違いについて、正確に理解しておきましょう。

執行役員は従業員or業務委託|取締役の決定に従って業務執行を担当

執行役員は、会社法上の役員ではありません。前述のとおり、雇用型であれば会社の従業員、委任型であれば委任・業務委託契約の受任者(受託者)という立場です。

執行役員の権限内容は契約等の規定によりますが、基本的には取締役を補佐する立場で、会社の業務執行の一部を担当するケースが多いです。

取締役は株式会社の役員|業務執行決定と経営監督の両方を担当

取締役は、株式会社の役員として、株主総会によって選任されます。取締役会設置会社では、取締役は取締役会の構成員として、会社の業務執行の決定と経営監督の両方を担当します(会社法362条2項1号、2号)。

(株主総会以外の機関の設置)第三百二十六条 株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。 株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。

引用元:会社法362条2項1号、2号

なお、業務執行そのものは代表取締役(およびその他の業務執行取締役)が担当します。

執行役は指名委員会等設置会社の役員|業務執行のみを担当

執行役は、株式会社の一類型である「指名委員会等設置会社」に設置される役員で、取締役会の決議により選任されます。指名委員会等設置会社では、経営監督機能と業務執行機能が法令上分離されている点が大きな特徴です。

具体的には、取締役によって構成される指名委員会・監査委員会・報酬委員会が経営監督を担当し、執行役が業務執行を担当します。執行役が担当するのは業務執行のみであり、一般的な株式会社の取締役とは異なり、経営監督機能は有しません。

その一方で、執行役は株式会社の役員である点で、執行役員とは異なります。

アメリカの取締役会はオフィサーを兼ねる社内取締役と非オフィサーである社外取締役から構成される。アメリカでの「社内取締役」とは,企業と雇用関係のある取締役であり,「社外取締役」とは,それ以外の取締役を意味し,「関連取締役」と「独立取締役」に区分される。「関連取締役」とは,前従業員,コンサルタント,顧問弁護士,親族など一定の関係を有する取締役であり,「独立取締役6)」とは,そのような関係のない独立した取締役である。

引用元:執行役員制度の導入背景と今後の動向

執行役員に期待される主な役割は?section

執行役員には、その立場や権限内容に鑑み、一般的に以下の役割が期待されています。

経営に関する能力を活かして会社に貢献する

執行役員が会社の業務を執行するに当たっては、取締役の指示をそのまま実行に移すのではなく、より良い経営を行うためのアイデアをプラスすることが求められます。身の経営に関する経験を活かして、会社に付加価値をもたらすことができれば、執行役員としての役割は十全に果たせていると評価できるでしょう。

取締役の業務負担を軽減する

執行役員は、代表取締役および業務執行取締役による業務執行を、側面から補佐する役割も期待されています。中核的な取締役に偏りがちな業務執行の負担を、執行役員がある程度肩代わりすることで、取締役はより重要な意思決定や経営監督に注力できます。

したがって、執行役員に就任する際には、「取締役の業務負担を軽減するために何ができるか」という視点も重要になるでしょう。

特定の部署の従業員を統括する

執行役員は、それまでの経験やキャリアを活かして、特定の部署の統括を担当するケースもあります。この場合、一般的な管理職(部長など)と執行役員の区別は相対的なものになります。

特定の部署の統括を任された場合は、マネジメントとしてリーダーシップを発揮することが求められるでしょう。

執行役員制度を導入するメリットは?section

執行役員制度を適切な形で導入すれば、会社は以下のメリットを享受できる可能性があります。

会社のガバナンスを改善できる

執行役員制度の導入により、会社の経営監督機能と業務執行機能を分離することで、業務執行への監督を実効的に及ぼすことができるようになります。

また、多忙を極める取締役の業務負担を軽減することは、取締役の能力を十全に発揮させることにも繋がります。執行役員制度の導入は、上記の観点から、健全な経営を実現するコーポレートガバナンスの強化に効果的であると考えられます。

モチベーション向上に繋がる

会社の従業員にとっては、「成果を上げれば出世に繋がる」という意識を持てるかどうかが、仕事に当たってのモチベーションを左右するポイントになることが多いです。従来であれば、従業員にとってのゴールは取締役への就任でした。

しかし、取締役の人数は限られており、ほとんどの従業員にとって現実的な目標ではありません。執行役員制度を導入することにより、目指すべきポストの数が増えるため、従業員のモチベーション向上に繋がることが期待されます。

外部人材向けの新規ポストを用意できる

外部に経営に長けた優秀な人材がいるものの、取締役など役員のポストは用意できないというケースもあろうかと思います。取締役の選任は株主総会決議によって行うため、選任手続きの負担が大きい点も懸念されます。

執行役員であれば、人数を柔軟に調整できるうえ、取締役会決議による選任が可能です。外部人材をヘッドハンティングするに当たり、ふさわしいポストを機動的に用意するという観点から、執行役員制度は使い勝手の良い制度と言えるでしょう。

執行役員制度の導入における問題点・デメリットsection

執行役員制度を導入する際に注意しなければならないのは、取締役と執行役員の間の権限分掌や、執行役員と一般の従業員の間の職制などが複雑・曖昧になりやすい点です。

権限分掌や職制が不明確だと、社内での指揮系統が混乱し、意思決定の遅延や矛盾などを招きかねません。そのため、執行役員制度を導入する際には、執行役員規程などによってルールをきちんと整備しておくことが大切です。

執行役員として適任な人材の特徴は?section

執行役員に期待される役割を踏まえると、以下の資質を持った方は、執行役員として適任と考えられます。

経営に関する豊かな経験を持っている

執行役員は会社法上の役員ではないとはいえ、本来は取締役の職掌である、会社の業務執行を担当することになります。そのため、過去に会社経営に携わったことがある方は、執行役員としてもその経験を生かして活躍できる可能性が高いでしょう。

取締役や他の従業員と円滑にコミュニケーションをとれる

執行役員は、取締役と従業員の間のパイプ役、中間管理職的な役割も担うケースが多いです。取締役・従業員のどちらとも、壁を作ることなくコミュニケーションをとることができる能力があれば、執行役員として社内の潤滑油となることができるでしょう。

将来的に取締役を任せたいという期待が持てる

従業員を執行役員に登用する場合には、将来的な取締役就任へのステップアップという側面があります。社内的にも「取締役候補」として認識されることになるでしょうから、公正・適切に人事評価を行い、客観的にも優秀と認められる人材を執行役員に登用すべきでしょう。

執行役員制度を導入する際の手順section

執行役員制度を新規に導入する場合、以下の流れで手続きを踏む必要があります。

執行役員規程を制定する

執行役員の権限・社内での位置づけを明確化するため、執行役員規程を制定しておきましょう。執行役員規程において定めておくべき主な事項は、以下のとおりです。

  • 執行役員の定義
  • 選任方法
  • 地位、権限
  • 任期
  • 退任事由
  • 解任手続き
  • 業務上の義務内容、禁止事項
  • 機密保持義務
  • 報酬の決定方法、支払方法(別途定めてもよい) など

執行役員規程の内容が固まったら、取締役会決議により、正式に制定します。

執行役員の候補者を選定する

執行役員規程の制定と並行して、執行役員の候補者を選定します。執行役員に与える権限や業務内容を踏まえて、適任者を探しましょう。リクルートの方法としては、経営者仲間に紹介を求めたり、ヘッドハンターに求人を依頼したりすることが考えられます。

執行役員の待遇(報酬等)を決定する

執行役員の候補者が見つかったら、候補者と条件交渉を行い、執行役員としての待遇(報酬等)を決定します。

報酬の金額については、特に具体的な相場はありません。しかし大半の場合、執行役員としての業務に専念してもらうことになるので、フルタイム勤務を前提としたふさわしい報酬を準備する必要があるでしょう。あくまでも目安ですが、部長などの上位管理職の給与を基準として、それを一定程度上回る報酬を設定するケースが多いです。

執行役員を取締役会決議で選任する

執行役員は、会社の業務執行に関与するため、「重要な使用人」に該当すると考えられます。重要な使用人の選任は、取締役会の専権事項であり、個々の取締役に委任することはできません(会社法362条4項3号)。

(取締役会の権限等)

第三百六十二条 取締役会は、すべての取締役で組織する。

 取締役会は、次に掲げる職務を行う。

 取締役会設置会社の業務執行の決定

 取締役の職務の執行の監督

 代表取締役の選定及び解職

 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。

 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。

 重要な財産の処分及び譲受け

 多額の借財

 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任

 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項

 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除

 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。

引用元:会社法362条4項3号

そのため執行役員を選任する際には、必ず取締役会決議を行い、その内容を議事録に残しておきましょう。

ヘッドハンティング等の場合|執行役員候補者と契約を締結する

従業員を執行役員に登用する際には、従前の雇用契約を維持することになりますので、新規に契約を締結する必要はありません。これに対して、外部人材を執行役員に選任する際には、新たに雇用契約または委任契約(業務委託契約)を締結する必要があります。

執行役員候補者とのトラブルを防ぐため、顧問弁護士などにアドバイスを求めながら、適切な内容の契約書を作成しましょう。

執行役員を解任する際の手続きsection

最後に、執行役員の解任手続きについても触れておきます。執行役員を解任するには、取締役会決議を経ることのほか、一定の要件を満たす必要がある点に注意しましょう。

執行役員の解任は取締役会決議で行う

前述のとおり、執行役員は「重要な使用人」に該当します。選任と同様に、重要な使用人の解任は、取締役会の専権事項です(会社法362条4項3号)。そのため、執行役員を解任する際には取締役会決議を行い、議事録にその内容を記録しておきましょう。

雇用型の場合|解雇できる場合は厳しく制限されている

雇用型の執行役員は、会社の従業員という立場であるため、解任等についても労働法の規定が適用されます。執行役員の解任によって従業員としての給与を減らすには、労働条件の変更に当たるため、従業員の同意が必要となります(労働契約法8条の反対解釈)。

もし同意が得られない場合には、執行役員としては解任するものの、給与は執行役員時代と同水準にするなどの対応が求められるでしょう。

また、執行役員の解任と同時に従業員を解雇することは、よほどの事情がなければ認められません。

「解雇権濫用の法理」(労働契約法16条)により、客観的に合理的な理由がなく、社会的に相当と認められない解雇は違法・無効となるからです。執行役員が悪質な犯罪行為をした場合など、懲戒解雇相当と認められるケースを除いて、執行役員の解任に伴う従業員の解雇は避けるべきでしょう。

委任型の場合|解任手続きは契約の規定に従う

委任型の執行役員は、会社の従業員としての身分を有しないため、執行役員の解任と同時に契約終了となるケースが多いです。委任型の場合、労働法の規制が適用されないため、雇用型よりも柔軟に契約終了が認められます。

基本的には、委任契約(業務委託契約)上の契約終了(解除・解約)事由に該当すれば、執行役員の解任に伴い契約を終了させることが可能です。なお、執行役員の解任事由については、執行役員規程に規定されることが多いです。その場合は、「執行役員規程に基づき解任された場合」を、委任契約(業務委託契約)上の契約終了事由として規定しておきましょう。

まとめ

執行役員制度は、ガバナンス強化等の観点から、ある程度以上の規模に至った会社にとって導入を検討すべき価値のある制度です。執行役員制度を導入する際には、権限分掌や職制が混乱しないように、注意深く制度設計を行うことが大切です。

執行役員制度の導入に必要な社内規程の整備・契約書作成等の手続きについては、必要に応じて弁護士にご相談ください。

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西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。(埼玉弁護士会)

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