コーポレートガバナンス・コードとは|目的や責務・直近の改訂概要[弁護士監修]

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阿部由羅【弁護士】

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東証の上場会社には、適切な企業統治を実現するため、「コーポレートガバナンス・コード」の遵守等が求められています。直近では2021年6月に改訂が行われ、さらに2022年4月には東証市場の再編が始まります

今回の改正は、金融庁及び当取引所が事務局をつとめる「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」からの提言を踏まえ、当該提言に沿って改正を行うものです。コーポレートガバナンス・コードの改訂の主なポイントは以下の通りです。

1. 取締役会の機能発揮

■プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)
■指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)
■経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
■他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任

2. 企業の中核人材における多様性の確保

■管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定
■多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表

3. サステナビリティを巡る課題への取組み

■プライム市場上場企業において、TCFD 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
■サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示

4.上記以外の主な課題

■プライム市場に上場する「子会社」において、独立社外取締役を過半数選任又は利益相反管理のための委員会の設置
■プライム市場上場企業において、議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示の促進

引用元:改訂コーポレートガバナンス・コードの公表

各上場企業は、コーポレートガバナンス・コードに関する最新の実務を踏まえて、自社のガバナンス体制を見直さなければなりません。今回は、コーポレートガバナンス・コードの全体像や、直近で行われた2021年6月の改訂内容などについて解説します。

目次
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コーポレートガバナンスの定義

「コーポレートガバナンス」は、日本語では「企業統治」などと訳されます。いささか抽象的な概念ですが、端的には「よりよい企業運営を行うための仕組みやルールの総称」と理解しておけばよいでしょう。

コーポレートガバナンス・コードでは、「コーポレートガバナンス」について、以下のとおり定義を行っています。

「本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・ 従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。」
出典:コーポレートガバナンス・コード|株式会社東京証券取引所

上記の定義からは、

  • 上場会社が様々なステークホルダーと連関しており、それに伴ってクリーンな経営が求められること
  • 企業の成長を目指すため、適切なリスクテイクを適時に行うこと

といった問題意識を読み取ることができます。こうした問題意識は、後にご紹介するように、コーポレートガバナンス・コードの各原則の随所に表れています。

コーポレートガバナンス・コードとはsection

「コーポレートガバナンス・コード」とは、上場会社の企業統治に関する、金融庁と東京証券取引所(東証)が共同で策定したガイドラインです。東証の上場規則の一部として、東証各市場の上場会社に適用されています。

参考:コーポレート・ガバナンス|日本取引所グループ

コーポレートガバナンス・コードの目的

コーポレートガバナンス・コードが策定された目的は、上場企業に対して、

  • 「持続的な成長」
  • 「中長期的な企業価値の向上」

を促すことです。

短期的な利益を重視するのではなく、中長期にわたって安定的な成長を目指すことこそ、グローバル競争に勝利できるタフな企業経営であるとの考え方が背景にあります。特に上場会社の場合、株主その他のステークホルダーが、非常に多数存在するのが特徴です。

ステークホルダーに対する責任という観点からも、長きにわたって企業価値を向上させることで、ステークホルダーも巻き込んだ繁栄を目指すべきであるとの思想が窺えます。

コーポレートガバナンス・コードの構成

コーポレートガバナンス・コードは、以下の3段階によって構成されています。

  1. 基本原則:コーポレートガバナンスに関して、抽象的なレベルでの大原則を示したものです。
  2. 原則:上場会社がどのような問題意識を持って対応すべきかという観点から、基本原則をより具体化したものです。
  3. 補充原則:上場会社が具体的にどのような行動をとるべきかという観点から、原則をさらに具体化し、行動レベルにまで落とし込んだ内容となっています。

コーポレートガバナンス・コードの適用対象

コーポレートガバナンス・コードがどの範囲で適用されるかは、株式を上場している東証の市場によって異なります。具体的には、

  • 東証第一部・第二部の上場会社
    • →全原則
  • マザーズ・JASDAQの上場会社
    • →基本原則のみ

が適用されるのが、現状の取扱いです。ただし、2022年4月4日に東証市場が再編されることに伴い、適用区分が変更される予定となっています(後述)

【2021年6月改訂】コーポレートガバナンス・コードの変更点section

コーポレートガバナンス・コードは、直近では2021年6月に改訂が行われました。改訂の概要は、以下のとおりです。参考:コーポレートガバナンス・コードの改訂に伴う実務対応|株式会社東京証券取引所

原則・補充原則の変更・新設

改訂前と比較して、基本原則は変更・新設されていませんが、原則および補充原則には変更・新設が行われました。内訳としては、3つの原則および8つの補充原則が変更され、さらに5つの補充原則が新設されています。

コーポレートガバナンス・コードの全原則が適用される上場会社は、改訂後の内容を踏まえて、ガバナンス報告書の記載事項を調整することが必要です。

東証市場再編への対応

2022年4月4日より、現状の東証の市場区分は一新され、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つに再構成されます。市場再編に伴い、コーポレートガバナンス・コードの適用区分は、以下のとおり変更されます。

  • プライム市場・スタンダード市場の上場会社
    • →全原則
  • グロース市場の上場会社
    • →基本原則のみ

なおプライム市場の上場会社には、スタンダード市場の上場会社よりも、さらに高い水準でコーポレートガバナンスの要請を満たすことが求められます。

コーポレートガバナンス・コードの内容|5つの基本原則とはsection

コーポレートガバナンス・コードの根幹となるのは、5つの基本原則です。

以下では基本原則に沿いつつ、その下に連なる原則・補充原則(改訂内容を含む)にも触れながら、コーポレートガバナンス・コード全体の内容を概観してみましょう。

基本原則1|株主の権利・平等性の確保

基本原則1
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

基本原則1では、株式会社のオーナーである株主の重要性に着目して、権利行使機会の確保や実質的平等の確保が提唱されています。特に、権利を害されやすい少数株主の保護や、株主権行使の前提となる情報提供の意義などが強調されています。

なお直近の改訂により、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべき旨が規定されました(補充原則1-2④)。

上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。特に、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきである。

これは、多種多様な株式を有する機関投資家が、保有株式数に応じた権利行使機会を確保できるように配慮されたものです。

基本原則2|株主以外のステークホルダーとの適切な協働

基本原則2
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

基本原則2では、株主以外にも多数存在する、会社のステークホルダーと適切に協働すべき旨が提唱されています。ステークホルダーの代表例としては、従業員・顧客・取引先・債権者・地域社会が挙げられています。

特に近年の問題意識を反映して、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティ(原則2-3)や、女性の活躍促進を含む社内の多様性確保(原則2-4)に言及している点が注目されます。

【原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題】
上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである。

【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。

直近の改訂において、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にも繋がる重要な経営課題であるとの指摘が新たに盛り込まれました(補充原則2-3①)

2-3①
取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

また社内の多様性確保に関する具体的な取り組みとして、人材登用における多様性確保についての考え方や、測定可能な目標を策定・開示すべき旨が新たに規定されています(補充原則2-4①)

2-4①
上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。

基本原則3|適切な情報開示と透明性の確保

基本原則3
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

基本原則3では、上場会社の社会的立場等を踏まえ、経営や財務に関する情報開示の重要性が強調されています。また、株主との「建設的な対話」は、コーポレートガバナンスの精神に通ずる重要なキーワードです。

株主との建設的な対話を実現するためのベースとしても、適切な情報開示を行うべき旨が指摘されています。直近の改訂では、プライム市場上場会社は、英語での情報開示・提供を行うべき旨が新たに定められました(補充原則3-1②)

3-1②
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。

海外投資家からの投資を、積極的に呼び込みたいという意図が窺えます。さらに近年の問題意識を踏まえて、サステナビリティについての取り組みを適切に開示すべき旨も、新規に定められました(補充原則3-1③)。

3-1③
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。

特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。

特にプライム市場上場会社は、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDや、それと同等の枠組みによる充実した開示を進めるべきとされています。

基本原則4|取締役会等の責務

基本原則4
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、

(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うことをはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。


こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

基本原則4では、会社の「持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」を目指すに当たり、経営陣が果たすべき役割・責務が示されています。特に、「適切なリスクテイク」と「経営陣に対する実効性の高い監督」が、基本原則4の2本柱と言えるでしょう。

直近の改訂では、やはりサステナビリティに関して、取締役会が果たすべき役割等が新たに規定されました(補充原則4-2②)。

4-2②
取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。
また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。

また、独立社外取締役の人数要件についても、改訂が行われています。従来、東証第一部・第二部の上場会社は、独立社外取締役を「2名以上」選任すべきであるとされていました。東証市場再編後は、スタンダード市場上場会社は引き続き「2名以上」である一方で、プライム市場上場会社は「3分の1以上」に引き上げられます(原則4-8)。

【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである。

また、上記にかかわらず、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社(その他の市場の上場会社においては少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社)は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。

なお支配株主を有する場合、プライム市場上場会社は過半数、スタンダード市場上場会社は3分の1以上の独立社外取締役選任が求められています(補充原則4-8③)。

4-8③
支配株主を有する上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任するか、または支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行う、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべきである。

基本原則5|株主との対話

基本原則5
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

基本原則5では、株主との「建設的な対話」の重要性が、改めて強調されています。特に上場会社の場合、株主と接する機会は限られています。そのため、経営陣の側が。株主の意見を積極的に傾聴する姿勢を持つことが重要です。

直近の改訂では、事業ポートフォリオ(自社の事業の一覧図表)に関する規定が新たに追加されました。経営戦略等の策定・公表に当たっては、事業ポートフォリオに関する基本的な方針や、事業ポートフォリオの見直し状況などをわかりやすく示すべきとされています(補充原則5-2①)。

5-2①
上場会社は、経営戦略等の策定・公表に当たっては、取締役会において決定された事業ポートフォリオに関する基本的な方針や事業ポートフォリオの見直しの状況について分かりやすく示すべきである。

コーポレートガバナンス・コードを遵守しなかった場合の罰則は?section

コーポレートガバナンス・コード自体に法的拘束力がないということは、すでに解説したとおりです。しかし、コーポレートガバナンス・コードを遵守しないと、企業にとって事実上の不利益が及んでしまう可能性も否定できません。

以下では、東証の上場企業がコーポレートガバナンス・コードを遵守しないとどうなってしまうのかについて解説します。

直ちに罰則の対象になるわけではない

コーポレートガバナンス・コードには法的拘束力がないので、罰則がすぐに適用されるわけではありません。たとえば役員が逮捕されたり、会社や役員が罰金などを課されたりすることもありません。

コーポレート・ガバナンス報告書において理由説明が求められる

コーポレートガバナンス・コードには「コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)」の原則が採用されています。つまり東証の上場企業は、コーポレートガバナンス・コードを「遵守する」か、さもなければ「遵守しない理由を説明する」かのどちらかの行動を取らなければなりません。

コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない場合の理由説明については、上場会社が東証に対して提出するコーポレート・ガバナンス報告書に記載することが求められます。

(参考:「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」(日本取引所グループ)

コーポレートガバナンス・コードにおける「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原則について

コーポレートガバナンス・コードには、「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)」の原則が採用されています。「コンプライ・オア・エクスプレイン」とは、上場会社に対して、以下のいずれかの対応を求めることを意味します。

  1. コーポレートガバナンス・コードを「遵守する」
  2. 遵守しない場合は、その「理由を説明する」

一律強制遵守とされていないのは、個々の会社の状況に応じて、各原則の導入が適切である場合とそうでない場合があり得るからです。しかし、恣意的な不遵守を避けるために、コーポレートガバナンス・コードを遵守しない場合には、「ガバナンス報告書」にてその理由を記載する必要があります。

上記の義務をいずれも果たさなかったとしても、上場会社に罰則や課徴金が科されることはありません。コーポレートガバナンス・コードには、法的拘束力がないとされているためです。

ただしコーポレートガバナンス・コードを遵守せず、その理由の説明も適切に行わなかった場合には、東証の上場規程違反に該当する可能性があります(有価証券上場規程436条の3)。

(コーポレートガバナンス・コードを実施するか、実施しない場合の理由の説明)
第436条の3
上場内国株券の発行者は、別添「コーポレートガバナンス・コード」の各原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を第419条に規定する報告書において説明するものとする。この場合において、「実施するか、実施しない場合にはその理由を説明する」ことが必要となる各原則の範囲については、次の各号に掲げる上場会社の区分に従い、当該各号に定めるところによる。
(1) 本則市場及びJASDAQの上場会社 基本原則・原則・補充原則
(2) マザーズの上場会社
基本原則 追加〔平成27年6月1日〕、一部改正〔令和2年11月1日〕

引用元:有価証券上場規程436条の3

上場規程違反に該当する場合、企業名の公表措置がとられるおそれがあるので(有価証券上場規程508条の1項1号)、上場会社には慎重な対応が求められます。

(公表措置
第508条
当取引所は、次の各号に掲げる場合であって、当取引所が必要と認めるときは、その旨を公表することができる。
(1) 上場会社が第4章第2節の規定に違反したと当取引所が認める場合
(1)の2 上場会社が第427条の2第1項の規定に違反したと当取引所が認める場合
(1)の3 上場会社が第421条の3(第4項を除く。)又は第421条の4の規定に違反したと当取引所が認める場合
(2) 上場会社が第4章第4節第1款の規定に違反したと当取引所が認める場合
(3) 上場会社が会社法第331条、第335条、第337条又は第400条の規定に違反した場合2 第435条から第439条までの規定のいずれかに違反した場合又は前項第3号に該当した場合は、上場会社は、直ちに当取引所に報告するものとする。
 一部改正〔平成20年2月6日、平成21年8月24日、平成24年4月1日、平成25年7月16日〕

理由説明がない場合には公表措置等の対象となる可能性がある

コーポレート・ガバナンス報告書において、コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しないことの理由が十分に説明されない場合、東証の上場規則違反に該当します。

(コーポレートガバナンス・コードを実施するか、実施しない場合の理由の説明)
第436条の3
 上場内国株券の発行者は、別添「コーポレートガバナンス・コード」の各原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を第419条に規定する報告書において説明するものとする。この場合において、「実施するか、実施しない場合にはその理由を説明する」ことが必要となる各原則の範囲については、次の各号に掲げる上場会社の区分に従い、当該各号に定めるところによる。
(1) 本則市場の上場会社
 基本原則・原則・補充原則
(2) マザーズ及びJASDAQの上場
 会社
 基本原則
 追加〔平成27年6月1日〕

引用元:有価証券上場規程436条の3

この場合、東証の判断によって、理由説明義務に違反した企業名が公表されてしまう可能性があります(同規程508条1項1号)。

(公表措置)
第508条
 当取引所は、次の各号に掲げる場合であって、当取引所が必要と認めるときは、その旨を公表することができる。
(1) 上場会社が第4章第2節の規定に違反したと当取引所が認める場合
(1)の2 上場会社が第427条の2第1項の規定に違反したと当取引所が認める場合
(1)の3 上場会社が第421条の3(第4項を除く。)又は第421条の4の規定に違反したと当取引所が認める場合
(2) 上場会社が第4章第4節第1款の規定に違反したと当取引所が認める場合
(3) 上場会社が会社法第331条、第335条、第337条又は第400条の規定に違反した場合
2 第435条から第439条までの規定のいずれかに違反した場合又は前項第3号に該当した場合は、上場会社は、直ちに当取引所に報告するものとする。
 一部改正〔平成20年2月6日、平成21年8月24日、平成24年4月1日、平成25年7月16日〕
引用元:有価証券上場規程508条

上場企業にとっては、東証によって企業名が公表されることは、コーポレートガバナンスがしっかりしていない会社であるという烙印を押されることと同じです。会社の評判を落とさないためにも、上場会社には「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原則に従った行動が求められているといえます。

まとめ

コーポレートガバナンス・コードが適用されるのは東証の上場会社のみですが、それ以外の会社にとっても、企業統治に関する考え方は参考になる部分があります。特に、「株主との建設的な対話」や「ステークホルダーとの協働」といった考え方は、中長期的な成長を目指す企業にとっては必須と言えるでしょう。

東証の上場会社はもちろんのこと、それ以外の会社も、コーポレートガバナンス・コードのエッセンスを取り入れた健全な企業経営を続けていただければと思います。

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西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。(埼玉弁護士会)

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