執行役員とは|取締役や部長職との違い-執行役員制度導入のメリットまで

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社外役員選任チーム

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執行役員(しっこうやくいん)とは、部長・課長・係長といった役職の一つです。「役員」という名称ですが、会社法上では役員ではなく、あくまで企業の従業員の一員です。

執行役員制度は、1997年にソニー株式会社が「Executive Officer」を「執行役員」と翻訳して導入したことをきっかけに、日本の企業でも広まりました。その当時、以下のメッセージを掲げています。

21世紀に向けて真のグローバル企業を目指して、取締役会の大幅な改革を実行し、併せて「執行役員制」を新たに導入することを決定いたしました。

執行役員制の導入について、「取締役会が決定する基本方針に従い、その監督のもとで、業務を執行する代表取締役以下の業務執行機能を強化するために、執行役員制を導入します。」という説明があります。取締役が「経営」に集中できるように、現場の「業務執行」を推進する役割として導入されたことがわかります。

参考:ソニー株式会社

執行役員はどんな役割が求められているのでしょうか。この記事では、執行役員の仕事内容、導入するメリットなどを紹介します。

目次
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執行役員と執行役員制度の基本知識section

まず、執行役員制度が導入された背景や執行役員についての基本的な知識を紹介します。

執行役員の序列|取締役や社長職との違い

執行役員は、役員ではないですが一般従業員の中ではトップの立ち位置と言ってもいいでしょう。具体的にはどのような序列になるかは以下の通りです。

  • 会長(代表取締役会長等)
  • 社長(代表取締役社長等)
  • 副社長(取締役等)
  • 専務取締役
  • 常務取締役
  • 取締役
  • 監査役
  • 会計参与

これらの役職は会社法として「役員」です。また、「副社長」「専務」「常務」などは取締役の中で順位をつけるための役職名なので、設定していない企業もあります。執行役員は会社法上の役員ではないので、上述の役職の下のポジションです。執行役員の下には、部長・次長・課長・係長と続きます。

会社法上における執行役員の責任

執行役員は、会社法上では従業員です。従業員に対して賠償請求することはできますが「労働契約書または就業規則に損害賠償条項の記載があること」が必要です。そのため、 従業員に「重過失」があったことは明らかであるケース、会社が主張する「損害額」には妥当性があるといった場合にしか損害賠償などをする必要はありません。

一方、取締役に対しては、・会社法423条にて「任務懈怠責任」についての明記があります。

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う
 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。

引用元:会社法第423条

取締役は、企業の運営に関して注意して管理・監視・監督などする必要があり、それを怠った場合には損害賠償を請求されます。賠償責任額は、取締役の行為によって企業として損害を受けた金額です。そのため、執行役員に比べると取締役のほうが責任は重いと言えます。

執行役員の人数

執行役員の設置は任意です。そのため、人数の制限などはありません。企業規模などに合わせて、必要な人数を設置します。

執行役員の任期

執行役員の任期にも決まりはありません。大体の企業では1年の任期にして再任させたり、違う役職に移したりします。また、優秀な成績を収めた人材は取締役に就任することもあります。

執行役員の定年

執行役員は従業員なので、企業の定年退職年齢の時に定年退職になるのが一般的です。

執行役員の福利厚生

取締役には福利厚生はありません。取締役は従業員に対してモチベーションアップなどのために福利厚生を提供する立場にあるからです。一方、執行役員は他の従業員と同じ内容の福利厚生が利用できることが一般的です。

執行役員と取締役・その他従業員との違いsection

それでは、執行役員と取締役や一般従業員との違いを説明します。

執行役員は会社法で定められた役員ではない

執行役員は、会社法で定められた役員ではありません。役員は取締役・監査役・会計参与です。執行役員は単なる社内外の敬称として用いられる役職にすぎないのです。

取締役との違い

取締役とは、企業運営の執行役として企業に必ず一人は設置する必要があります。取締役会設置会社の場合は3名以上取締役を設置しなければいけません(会社法第331条の5)。取締役は会社法の定めがあり、企業とは委任契約を行います。

(株主総会以外の機関の設置)
第三百二十六条 株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。
 株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。

引用元:会社法第326条

(取締役の資格等)
第三百三十一条 次に掲げる者は、取締役となることができない。
 取締役会設置会社においては、取締役は、三人以上でなければならない。

引用元:会社法第331条

取締役は、取締役会において決議に参加したり、経営に関する重要事項を決定したりすることが役割です。取締役の報酬は経費として扱うことはできません。一方、執行役員は従業員であるため労働基準法に基づいた雇用契約を結びます。給与は全額経費に計上することができる点でも取締役とは異なります。

執行役との違い

執行役とは、業務執行を行う役割で委員会設置会社においては設置が義務付けられています。委員会設置会社とは、監査役会を設置するかわりに「指名委員会」、「報酬委員会」、「監査委員会」という3つの委員会を設置する雇用のことです。委員会設置会社では、執行役が取締役会で決まった事項に基づき、業務を遂行します。

 監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役は、三人以上で、その過半数は、社外取締役でなければならない。

引用元:会社法第331条

このように、執行役員と言葉は似ていますが、執行役は取締役としての役職・執行役員は従業員としての役職という点で異なります。そのため、執行役は委任契約、執行役員は雇用契約です。

従業員との違い

執行役員は従業員の役職の一つです。そのため、雇用契約である点ではその他の従業員と変わりありません。役職としては従業員の中で最高位としている企業が多いです。

執行役員に期待される役割・仕事内容section

執行役員は企業内の任意のポジションなので、求められる役割は企業により異なります。具体的に、どんな役割が求められ、どんな仕事をするのかを紹介します。

経営陣と従業員の橋渡し

執行役員は、従業員のトップの役職として、企業運営をおこなう取締役との会議なども多いです。取締役が決定した運営方針を従業員に指示していく、いわば経営陣と従業員の橋渡し的な役割を求められます。また、従業員の意見やアイディアを取締役に伝えるということもできるでしょう。

顧客とのリレーション構築

従業員のトップの役職として、顧客への交渉に部下と一緒に伺うなどして顧客とのリレーション構築を行います。顧客としては、役職の高い執行役員が訪問してくれたら「重要な顧客だと思われている」と感じ、取引がスムーズになる可能性が高いです。

事業のトップとして利益の追求

執行役員は事業のトップの人が選ばれることが多いです。例えば、自動車の会社なら国内営業事業部のトップや海外営業事業部のトップが選ばれるようなイメージです。執行役員として、自分の部署の利益を追求し、ステークホルダーへ還元していきます。

リスクマネジメント

執行役員としてはリスクマネジメントもしていく必要があります。利益を追い求めるあまり、無理な運営を行っていては必ず上手くいかなくなります。そのため、事故・不祥事を未然に防ぐような体制づくりをしていかなければいけません。どんなところにリスクがあるのか、リスクを回避するにはどうすればいいのかなどを常に考え、従業員に指示していく必要があります。

後輩の育成

執行役員は、後輩従業員の育成もする必要があります。従業員が成長しない企業は、企業としても成長していきません。今の取締役や執行役員もいずれは退職するので、事業を安定・拡大させたいのであれば継続的に良い人材を育てなくてはいけないのです。後輩の育成が上手い執行役員は、マネジメントとして評価もされやすいです。

執行役員の設置・執行役員制度導入のメリットsection

執行役員制度の導入は任意ではありますが、導入するのにどんなメリットがあるのでしょうか。

取締役が会社経営に注力できる

取締役が経営、執行役員が執行と業務を分けることで、取締役が経営の意思決定をしたり、企業の監督に集中したりすることができます。

経営陣の声が従業員に届きやすい

執行役員は経営陣と従業員の架け橋的な役割ですが、執行役員を介することにより経営陣の声が従業員に届きやすいという効果があります。例えば、経営陣から無理難題を押し付けられれば反発が生まれるかもしれません。しかし、執行役員が「このような意図でこのような指示が出ている。自分も頑張るから一緒に頑張ろう」といった形で伝えられれば、同じ従業員でもある執行役員の声は響きやすいでしょう。

現場の意見が経営陣へ届きやすい

現場の意見を直接経営陣に届けるのは難しいものです。しかし、時に一緒に仕事をする機会がある事業のトップである執行役員ならば本音を伝えやすいでしょう。執行役員の設置は、経営陣に現場の声を伝えてもらうという効果にも期待ができます。

ポストを狙う従業員の意欲が湧く

執行役員というポストを設置することで、そのポストに就きたいという従業員のモチベーションを上げることができます。報酬面についても他の従業員よりも多いことがわかっていれば、出世を狙い、仕事に対する取り組み方も変わるかもしれません。

優秀な人材を育てる

執行役員として事業トップの経験をさせることにより、マネジメント能力に優れた優秀な人材を育てることもできます。執行役員として優秀な成績を収めた人は、取締役候補にすることも考えられるでしょう。執行役員から取締役という出世のルートが見えていれば、ますます従業員のモチベーションアップにつながります。

報酬は経費扱いできる

取締役の報酬を損金扱いしようとすると、様々な規制があります。たとえば、毎月同額で支給する必要があったり、事前に税務署に届け出をする必要があったりするのです。一方、執行役員は従業員なので特別な手続きをすることなく全額経費扱いにすることができます。

登記などの手続きは必要ない

取締役に就任したら登記をする必要があります。一方、執行役員に就任しても登記の必要はありません。登記するためには手続きや費用がかかるので、コスト・手間を省きたいのであれば執行役員という役職のほうが便利といえるでしょう。

執行役員制度導入のデメリットsection

それでは、執行役員制度度導入するデメリットにはどんなことがあるでしょうか。

組織の複雑化

執行役員の役職を作ることで、ポストが増えることになります。誰が責任者かわかりにくくなる等、組織が複雑化する恐れもあるのです。

他の役職との違いがあいまい

執行役員は任意のポジションのため、その役割について定義しておかなければ他の役職と定義があいまいになってしまいます。部長と執行役員の役割の違い、取締役と執行役員の役割の違いはあらかじめ決めてから運営しなければ、執行役員になった人も何をすればいいかわからない、やりがいを感じられないという状態に陥ってしまう危険性があります。

意思決定が遅くなる

執行役員というポストが増えることにより、意思決定が遅くなることが考えられます。例えば、担当者→課長→部長という承認プロセスに執行役員が追加されれば、それまでより意思決定は遅くなります。

執行役員の選任方法section

執行役員を選任するにはどんな方法があるでしょうか。

事業部トップの従業員を選ぶなど

事業トップの従業員を執行役員として選ぶのが最もわかりやすい方法です。例えば、国内販売部門、海外販売部門、コーポレート部門という3つの部門がある場合には、それぞれのトップを執行役員にします。このように、事業のトップが執行役員になれば、その部門に対して責任を持ちながら業務の執行してくれることに期待できるからです。

親会社から抜擢

親会社の従業員の中から子会社の執行役員に抜擢するという方法も考えられます。特に親会社からのノウハウ等を伝えながら業務推進をしたい場合などに有効です。

学歴は関係ある?

執行役員になるために学歴は関係ありません。学歴は高くなくても、大きなプロジェクトを成功させたような経験があったり、マネジメントが得意で人望が厚かったりすれば執行役員に選ばれる可能性は大いにあるでしょう。

女性でも執行役員になれる?

執行役員になるためには性別も関係ありません。むしろ、ダイバーシティー推進のために女性の管理職を増やそうとしている企業が多いので、女性でも能力ややる気があれば執行役員になりやすいでしょう。

執行役員の報酬は2,000万円が中央値section

デロイト・トーマツ・グループが2018年に行った調査によると、東証1部上場企業(n=431社)の執行役員報酬の中央値は20,097,000円でした。取締役の報酬の中央値は21,600,000円なのでそこまで大きな違いはないことがわかります。

役員でもある常勤監査役の報酬は18,178,000円なので、監査役より執行役員のほうが報酬は高いという結果です。執行役員を設置している企業は大企業の中でも有名企業がほとんどなので、その結果報酬水準は高くなっていると推測できます。

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