【2026年最新】リーガルチェックと非弁行為に関する境界は?様々なリーガルチェックサービスとAIの進化、今後の業界展望を解説

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川村将輝(弁護士)

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企業法務の現場で日常的に行われるリーガルチェック業務。契約書のレビューから新規事業の法的適合性確認まで、その範囲は多岐にわたります。

しかし、リーガルテクノロジーの急速な発展とともに、一つの重大な問題が浮上してきました。それが「非弁行為」との境界線です。

弁護士法第72条は、弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁止しています。

この規定は、国民の権利利益を保護し、質の高い法的サービスを確保するために設けられたものです。

しかし、AI契約書レビューサービスをはじめとするリーガルテックサービスが普及する中で、「どこまでが適法で、どこからが違法なのか」という線引きが曖昧なままでした。

この状況を受けて、法務省は2023年8月1日に「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」というガイドラインを公表しました。

このガイドラインは、リーガルテック業界にとって画期的な転換点となり、企業法務の予測可能性を大きく高めることとなりました。

出典:法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」 

本記事では、リーガルチェックサービスの多様な形態を整理した上で、非弁行為の要件と法務省ガイドラインの詳細を解説します。

さらに、国内外のリーガルテック業界の最新動向を踏まえ、今後10年間で予測される技術革新とビジネスモデルの進化についても考察します。

関連記事:AIによる契約書チェックは違法か?最新の議論の動向やプロダクトの進化と弁護士による対応が必要なポイント

目次
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リーガルチェックサービスの種類8つ

リーガルチェックと一口に言っても、その対象と目的は極めて多様です。

ここでは現代の企業法務において主要な8つのリーガルチェックサービスについて解説します。

契約書レビュー

契約書レビューは、リーガルチェックの中で最も一般的かつ重要な業務です。

取引先から提示された契約書について、法的リスクの有無、自社に不利な条項の存在、必要条項の欠落などを検証します。

具体的には、秘密保持契約、業務委託契約、売買契約、ライセンス契約など、あらゆる契約類型が対象となります。

近年ではLegalForce、GVA assist、LegalOn Cloudなどのサービスが提供する契約書レビュー支援サービスが急速に普及しています。

これらのサービスは、AIが契約書を自動でスキャンし、リスクのある条項や不足している条項を指摘する機能を持っています。

従来は弁護士や法務部員が数時間から数日かけて行っていた作業が、数分から数時間で完了するようになりました。

AIによる契約書レビューの適法性については、2023年8月の法務省ガイドライン公表まで議論が続いていました。

現在では、一定の条件下で適法であることが明確化されています。

出典:株式会社LegalOn Technologies「LegalForceと弁護士法72条の関係について」https://www.legalon-cloud.com/news/22

電子契約・契約管理(CLM)

契約ライフサイクル管理(Contract Lifecycle Management: CLM)は、契約の作成、交渉、締結、履行管理、更新、終了までの全プロセスをデジタル化するサービスです。

電子契約システムと統合されることで、紙ベースの契約業務を完全にオンライン化できます。

CLMシステムのリーガルチェック機能としては、契約書テンプレートの法的適合性確認、契約条項の自動チェック、契約締結前の承認フロー管理、契約更新時期のアラート機能などがあります。

クラウドサイン、ContractS CLM、DocuSignなどが代表的なサービスです。

これらのサービスは、契約書の形式的なチェックや管理機能を提供するものであり、個別の法律相談や具体的な法的判断を行うものではないため、非弁行為のリスクは比較的低いとされています。

広告表現チェック

景品表示法、薬機法(医薬品医療機器等法)、特定商取引法など、広告表現には多数の法規制が存在します。

広告表現チェックサービスは、企業のマーケティング資料や広告コピーが、これらの法令に違反していないかを確認するサービスです。

特にEC事業者、化粧品・健康食品メーカー、広告代理店などにとって、広告表現の適法性確認は事業継続の生命線となっています。

「効果効能を謳いすぎていないか」「誇大広告に該当しないか」「必要な表示が欠けていないか」などを専門的にチェックします。

このサービスは、弁護士事務所が提供する場合もあれば、薬機法専門のコンサルタントが提供する場合もあります。

後者の場合、法的助言を伴うサービスであれば非弁行為に該当する可能性があるため、サービス設計には慎重な配慮が必要です。

労務ドキュメントチェック

就業規則、雇用契約書、労使協定、賃金規程など、労務関連の文書は労働基準法をはじめとする労働法規の複雑な規制を受けています。

労務ドキュメントチェックは、これらの文書が法令に適合しているかを確認するサービスです。

特に2019年の働き方改革関連法施行以降、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、同一労働同一賃金などの新たな規制に対応するため、就業規則の見直しが急務となりました。

また、テレワーク規程やフレックスタイム制度など、新しい働き方に対応した規程の整備も求められています。

社会保険労務士が行う場合は社会保険労務士法に基づく業務として適法ですが、弁護士資格も社労士資格も持たない者が有償で行う場合は、非弁行為に該当する可能性があります。

ウェブサイト・SNSコンテンツの適法性

企業のウェブサイトやSNS投稿における法的リスクは多岐にわたります。

利用規約やプライバシーポリシーの適法性、著作権や商標権の侵害の有無、名誉毀損やプライバシー侵害のリスク、ステルスマーケティング規制への対応など、確認すべき事項は膨大です。

2023年10月からは景品表示法の指定告示により、ステルスマーケティングが不当表示として規制対象となりました。

インフルエンサーマーケティングやアフィリエイト広告を展開する企業にとって、投稿内容の適法性チェックは必須となっています。

また、個人情報保護法の改正により、プライバシーポリシーの記載事項も複雑化しています。

Cookie利用に関する同意取得、個人データの第三者提供に関する記録義務など、技術的・法的な両面からのチェックが必要です。

個人情報・データプライバシーシステムのチェック

GDPRをはじめとする世界各国のデータプライバシー規制の強化を受けて、企業の個人データ管理体制の重要性が高まっています。

個人情報・データプライバシーシステムのチェックは、企業が構築した個人情報管理体制が法令要件を満たしているかを確認するサービスです。

具体的には、個人情報の取得・利用・提供プロセスの適法性、安全管理措置の妥当性、委託先管理の適切性、データ主体の権利対応体制、個人データ漏洩時の対応フローなどを評価します。

Pマーク(プライバシーマーク)やISMS認証の取得支援と連動する場合もあります。

このサービスは、弁護士、個人情報保護士、システム監査技術者など、複数の専門家が協働して提供することが一般的です。

純粋な技術的評価と法的評価を明確に区分することで、非弁行為のリスクを回避しています。

M&AのスキームやDD

M&A取引におけるリーガルチェックは、取引スキームの適法性確認と法務デューデリジェンス(DD)の2つの側面があります。

取引スキームでは、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、株式交換など、どの手法を採用すべきか、税務・会計・法務の観点から検討します。

法務DDでは、対象会社の定款・株主構成、重要契約、訴訟・紛争、知的財産権、労務コンプライアンス、許認可など、あらゆる法的リスクを調査します。

DDの結果は買収価格の調整や表明保証条項の内容に直結するため、極めて重要です。

M&A案件は典型的な「法律事件」であり、弁護士が関与すべき領域です。

弁護士資格を持たない者がM&Aアドバイザリー業務を行う場合、非弁行為に該当するリスクが高いため、サービス提供者の資格確認が不可欠です。

新規事業の適法性チェック

スタートアップ企業や既存企業が新規事業を立ち上げる際、そのビジネスモデルが法令に違反していないかを事前に確認することは極めて重要です。

新規事業の適法性チェックでは、事業に関連するあらゆる法規制を洗い出し、必要な許認可の取得、禁止事項の回避、グレーゾーンのリスク評価などを行います。

例えば、シェアリングエコノミーサービスであれば旅館業法や道路運送法、フィンテックサービスであれば銀行法や金融商品取引法、ヘルスケアサービスであれば医療法や薬機法など、業界特有の規制への対応が必要です。

新規事業は前例のないビジネスモデルが多く、法的判断が難しい領域です。

このため、弁護士による法的助言が不可欠であり、弁護士以外の者が法的見解を示すことは非弁行為に該当するリスクが高いといえます。

非弁行為とは?

そもそも「非弁行為」とは何でしょうか?

言葉の響きだけで中身はよく分からないという人のために、概要を解説していきます。

弁護士法72条に違反する場合のこと

弁護士法第72条は、弁護士および弁護士法人以外の者による法律事務の取扱いを禁止しています。

この規定の正式名称は「非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止」であり、いわゆる「非弁行為」を規制するものです。

条文は以下の通りです。

「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」

出典:弁護士法第72条https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205#Mp-Ch_9-At_72

この規定の趣旨は、法律事務の専門性に鑑み、資格を持たない者による不適切な法的サービスの提供を防止し、国民の権利利益を保護することにあります。

仮に非弁行為が野放しになれば、誤った法的助言により国民が不利益を被ったり、法律秩序が乱れたりする危険性があります。

弁護士法72条の構成要件

弁護士法第72条違反、すなわち非弁行為が成立するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

第一に「主体要件」です。行為者が「弁護士又は弁護士法人でない者」であることが必要です。

逆に言えば、弁護士や弁護士法人が行う場合は、そもそも同条の適用対象外となります。

ただし、司法書士、行政書士、弁理士、税理士などの隣接法律専門職については、それぞれの資格法で認められた範囲内であれば適法に法律事務を取り扱うことができます。

第二に「報酬性」です。「報酬を得る目的で」行うことが要件となっています。

無償で行う場合は非弁行為に該当しません。ここでいう「報酬」とは、法律事務取扱いの対価として支払われる金銭その他の経済的利益を指します。

直接的な対価でなくても、実質的に対価関係が認められる場合は報酬性が肯定されます。

第三に「事件性」です。「訴訟事件、非訟事件及び審査請求…その他一般の法律事件」に関することが必要です。

ここでいう「法律事件」とは、法律上の権利義務に関して争いまたは疑義があり、法律判断を必要とする案件を指します。

第四に「行為態様」です。「鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱う」ことが必要です。

「鑑定」とは、法律的見解を示すことを意味します。契約書のリーガルチェックにおいて、具体的な法的リスクを指摘し、修正案を提示する行為は「鑑定」に該当し得ます。

第五に「業として」行うことです。「業とする」とは、反復継続の意思をもって行うことを意味し、必ずしも実際に反復継続して行っている必要はありません。

一回限りの行為であっても、反復継続の意思があれば「業として」に該当します。

前掲:法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」 

違反するとどうなる?

弁護士法第72条に違反した場合、刑事罰の対象となります。

弁護士法第77条第3号により、「二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金」が科される可能性があります。

これは非常に重い罰則であり、違反行為の悪質性が高いことを示しています。

また、非弁行為であることを知りながら依頼した側も、共犯として刑事責任を問われる可能性があります。

弁護士法第77条は「第七十二条…の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する」と規定しており、サービス提供者だけでなく利用者側も処罰対象となり得るのです。

さらに、非弁行為によって締結された契約や作成された文書の効力にも影響が及ぶ可能性があります。

公序良俗違反(民法第90条)として契約が無効とされるケースや、錯誤(民法第95条)による取消しが認められるケースもあり得ます。

企業にとっては、コンプライアンス違反として社会的信用を失うリスクも深刻です。

取引先や監査法人から、リーガルチェック体制の適法性について説明を求められた際に、非弁行為のリスクがあるサービスを利用していたことが判明すれば、取引停止や監査意見への影響も考えられます。

リーガルチェックと非弁行為該当性の議論のポイント

リーガルチェックサービスが非弁行為に該当するか否かは、弁護士法第72条の各要件を個別に検討する必要があります。

ここでは特に重要な3つの論点について解説します。

①対価性

対価性要件、すなわち「報酬を得る目的」があるか否かは、サービスの運営形態や課金モデルによって判断されます。

法務省ガイドラインでは、以下のような考え方が示されています。

まず、明確に対価性が認められる典型例として、「契約書レビューサービスの利用に対して直接的に利用料金を課金する場合」があります。

例えば、1件の契約書レビューにつき5,000円を課金するようなサービスは、対価関係が明確です。

また、「月額利用料を支払ったユーザーのみが契約書レビュー機能を利用できる場合」も対価性が認められます。

たとえサービス全体の一部機能に過ぎなくても、実質的に法律事務への対価と評価される可能性があります。

さらに注意が必要なのは、「無料サービスを提供した上で、有料の弁護士サービスに誘導し、成約時に紹介料を受け取る場合」です。

これは法律事務の周旋に該当し、非弁行為となる可能性が高いとされています。

一方、対価性が否定される例としては、「完全無料で提供されるサービス」があります。

ただし、広告収入モデルの場合、実質的に対価関係があるとみなされる可能性もあり、慎重な判断が必要です。

出典:法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」1-2頁 

②事件性

「その他一般の法律事件」に該当するか否かは、リーガルチェックサービスの適法性を判断する上で最も重要な論点の一つです。

法務省ガイドラインでは、この点について画期的な見解が示されました。

ガイドラインによれば、「いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合『事件性』がない」とされています。

これは極めて重要な指摘です。つまり、企業が日常的に行っている取引のための契約書レビューは、原則として「法律事件」に該当しないということです。

売買契約、業務委託契約、秘密保持契約など、通常の事業活動に伴う契約は、特段の紛争や疑義がない限り、事件性要件を満たさないと解釈されます。

ただし、以下のような場合は事件性が認められる可能性があります。

第一に、既に紛争が顕在化している場合です。

例えば、契約違反を理由とする損害賠償請求が予想される状況での契約書レビューは、事件性が認められるでしょう。

第二に、法的に複雑な問題や重大な争点が含まれる場合です

M&A取引や大規模なジョイントベンチャー契約など、高度な法的判断を要する案件は事件性が肯定される可能性があります。

この事件性要件の緩和により、多くの日常的な契約書レビューサービスが非弁行為のリスクから解放されることとなりました。

ただし、個別具体的な判断は最終的には裁判所に委ねられるため、グレーゾーンは依然として存在します。

前掲:法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」2頁 

③法律事務

「鑑定…その他の法律事務」に該当するか否かは、サービスが提供する機能の内容によって判断されます。

ここでいう「鑑定」とは、法律的知見に基づいて、具体的な事案について法律上の判断を示すことを指します。

法務省ガイドラインでは、契約書関連業務を「契約書作成支援サービス」「契約書審査支援サービス」「契約書管理支援サービス」の3つに分類し、それぞれについて鑑定該当性を検討しています。

契約書審査支援サービスについては、以下のような区分が示されています。

鑑定に該当しない例として、「レビュー対象契約の記載内容と、サービス事業者がシステムに登録したチェックリストの文言との間に、一致・類似が認められる場合に、かかるチェックリストに紐づいた一般的な条項例や解説が、レビュー対象契約の記載内容に応じた個別の修正を行わずに表示されること」が挙げられています。

つまり、あらかじめ登録された一般的なチェックリストに基づいて、機械的に条項例を表示するだけであれば、鑑定には該当しないということです。

これは多くのAI契約書レビューサービスが採用している方式であり、適法性が明確化されたことは業界にとって大きな前進でした。

一方、鑑定に該当し得る例として、「非定型的な入力内容に応じて個別の事案における背景事情を法的に処理して、具体的な提案を行うもの」が挙げられています。

ユーザーが入力した具体的な取引内容や背景事情を踏まえて、個別にカスタマイズされた法的助言を提供する場合は、鑑定に該当する可能性が高いのです。

前掲:法務省「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」3-5頁

法務省が示したガイドラインの重要ポイント5つ

2023年8月1日に公表された法務省ガイドラインは、リーガルテック業界にとって画期的な意義をもつ文書となりました。

ここでは、ガイドラインの5つの重要ポイントについて詳しく解説します。

対価性要件について

ガイドラインでは、報酬性の判断について「サービスの運営形態、支払われる金銭の性質や支払目的等を考慮し、利益とサービス提供との間に対価関係が認められるか否かを判断」するとされています。

具体的には、以下のような分類が示されています。

通常、報酬を得る目的があると認められる例として、第一に「金銭等を支払って、利用資格を得た者に対してのみサービスを提供するとき」、第二に「第三者が提供する有償サービスの契約に誘導した上で、有償サービスが利用された際に当該第三者から金銭等を受け取るとき」が挙げられています。

前者は典型的な有料サブスクリプションモデルであり、後者はアフィリエイトモデルや紹介料モデルです。

特に後者については、「法律事務の周旋」として非弁行為に該当する可能性が高いとされており、ビジネスモデル設計において注意が必要です。

一方、通常、報酬を得る目的がないと認められる例として、「一般に無償で提供されるサービス」が挙げられています。

ただし、無償サービスであっても広告収入を得ている場合など、実質的な対価関係が認められるケースでは、報酬性が肯定される可能性もあります。

事件性要件について

前述の通り、ガイドラインの最大の成果の一つは、企業法務における通常の契約業務について事件性を否定したことです。

ガイドラインでは、「訴訟事件…その他一般の法律事件」の解釈として、「いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合『事件性』がない」と明記されました。

この見解により、日常的な取引に関する契約書レビューサービスは、事件性要件を満たさないため、非弁行為に該当しないことが明確になりました。

これは、リーガルテック企業が安心してサービスを提供し、企業がそれを利用できる法的基盤を提供するものです。

ただし、「通常の業務に伴う契約」「通常の話合い」という文言には解釈の余地があります。

例えば、高額な取引、複雑なストラクチャー、海外法が関わる取引などが「通常」に含まれるかは、個別の判断が必要です。

また、既に紛争が発生している場合や、訴訟提起が予想される状況での契約書レビューは、明確に「法律事件」に該当すると考えられます。

この場合は弁護士が関与すべき領域であり、弁護士以外の者が有償で法的助言を提供することは非弁行為となります。

法律事務について

ガイドラインでは、「鑑定…その他の法律事務」の該当性について、契約書作成支援、契約書審査支援、契約書管理支援の3つのカテゴリーに分けて詳細に検討しています。

契約書作成支援サービスについては、「あらかじめ設定された複数の雛形から選択するような形式的なもの」は鑑定に該当しないとされています。

一方、「非定型的な入力内容に応じて個別の事案における背景事情を法的に処理して、具体的な提案を行うもの」は鑑定に該当し得るとされています。

契約書審査支援サービスについては、前述の通り、チェックリストに基づいて一般的な条項例や解説を表示するだけであれば鑑定に該当しないとされています。

重要なのは、「レビュー対象契約の記載内容に応じた個別の修正を行わずに」という部分です。

つまり、個別事案に応じたカスタマイズを行わない限り、鑑定には該当しないということです。

また、「チェックリストに紐づいた一般的な条項例や解説がレビュー対象契約の文言の表現に合わせて修正されること」も、形式的な調整に過ぎず、鑑定には該当しないとされています。

これにより、AIが契約書の表現を自動的に整える機能についても、適法性が認められました。

契約書管理支援サービスについては、契約書の保管、検索、期限管理などの機能は、そもそも法律事務に該当しないため、非弁行為の問題は生じないとされています。

サービスの提供主体

ガイドラインでは、サービスの提供主体によって弁護士法第72条の適用が異なることが明確化されました。

まず、サービス提供者が弁護士または弁護士法人である場合は、そもそも弁護士法第72条の規制対象外となります。

弁護士法第72条は「弁護士又は弁護士法人でない者」を規制する規定であるため、有資格者が提供するサービスには適用されません。

したがって、弁護士法人がAIを活用して契約書レビューサービスを提供する場合、AIはあくまで弁護士業務を補助するツールと位置づけられ、最終的な法律判断や法的責任は弁護士が負うことになります。

このようなサービス提供形態であれば、非弁行為の問題は生じません。

一方、サービス提供者が弁護士資格を持たない事業者である場合は、サービスの設計において弁護士法第72条への抵触を回避する必要があります。

多くのリーガルテック企業は、「あくまでユーザー自身の判断を支援するツールであり、法的助言を提供するものではない」という位置づけでサービスを設計しています。

サービスの客体

ガイドラインでは、サービスの利用者が誰であるかによっても、適法性の判断が異なることが示されています。

特に重要なのは、弁護士がサービスを利用する場合の扱いです。

ガイドラインでは、「提供されるサービスが上記①~③の要件に該当する場合であっても、弁護士が弁護士法の趣旨に沿った形で利用する場合は、違法性が阻却される場合がある」とされています。

つまり、仮にサービス自体が非弁行為に該当し得る要素を含んでいたとしても、弁護士が自らの責任において利用し、最終的な法律判断を弁護士自身が行う場合は、適法と評価される可能性があるということです。

具体的には、弁護士がAI契約書レビューサービスを利用して契約書をチェックし、AIの指摘内容を弁護士自身が精査・検証した上で、クライアントに法的助言を提供する場合などが該当します。

この場合、AIはあくまで弁護士の業務を補助するツールに過ぎず、法律事務を行っているのは弁護士自身と評価されます。

この見解により、弁護士向けのリーガルテックツールの開発と提供が促進されることが期待されます。

法律事務所がAIツールを積極的に活用することで、業務効率化とサービス品質の向上を両立できる環境が整いつつあります。

リーガルチェックの適法・違法の境界は?

法務省ガイドラインの公表により、リーガルチェックサービスの適法性判断の予測可能性は大きく高まりました。

しかし、依然としてグレーゾーンは存在します。

ここでは、具体的な判断基準について解説します。

弁護士が主体かどうか

サービス提供者が弁護士または弁護士法人であるか否かは、最も明確な判断基準の一つです。

弁護士が提供するサービスであれば、弁護士法第72条の規制対象外となるため、非弁行為の問題は原則として生じません。

ただし、弁護士が形式的に関与しているだけで、実質的には弁護士資格を持たない者が法律事務を行っている場合は、脱法行為として違法と評価される可能性があります。

例えば、弁護士の名義だけを借りて、実際のサービス提供は無資格者が行っているような場合は、非弁提携(弁護士法第72条の2)として処罰対象となります。

また、弁護士法第74条は「弁護士又は弁護士法人でない者は、…弁護士又は法律事務所の表示又は記載をしてはならない」と規定しています。

弁護士資格を持たない事業者が、あたかも弁護士が提供しているかのような誤解を招く表示を行うことは、それ自体が違法です。

弁護士に向けたサービスであるか

サービスの利用者が弁護士であるか、一般企業であるかも重要な判断要素です。

前述の通り、弁護士が自らの業務の補助ツールとして利用する場合は、違法性が阻却される可能性があります。

弁護士向けサービスの典型例として、判例検索システム、法令データベース、契約書ドラフティングツールなどがあります。

これらは弁護士の業務効率化を支援するものであり、最終的な法律判断は弁護士が行うことが前提となっています。

一方、一般企業向けサービスの場合は、サービスの設計において慎重な配慮が必要です。

「あくまでユーザー自身の判断を支援するツールである」という位置づけを明確にし、「本サービスは法的助言を提供するものではありません」といった免責条項を設けることが一般的です。

事件性要件との関係

企業の通常業務に伴う契約については事件性が否定されることが明確化されましたが、以下のような場合は事件性が肯定される可能性があります。

第一に、既に紛争が顕在化している場合です。

契約違反を理由とする損害賠償請求が予想される状況、取引先との間で法的見解の対立がある場合などは、明確に「法律事件」に該当します。

第二に、高度に専門的な法的判断を要する取引です。

M&A、大規模な資本業務提携、クロスボーダー取引、知的財産権のライセンス契約など、複雑な法的問題を含む案件は、事件性が認められる可能性があります。

第三に、新規性の高いビジネスモデルや、法的評価が確立していない領域での契約です。

シェアリングエコノミー、フィンテック、Web3関連事業など、既存の法規制との関係が不明確な分野では、法的判断そのものが争点となるため、事件性が肯定される可能性があります。

法律事務の定義との関係

「鑑定」に該当するか否かの判断において、重要なのは「一般的な情報提供」と「個別具体的な法的助言」の区別です。

一般的な情報提供とは、不特定多数の者に向けて、抽象的・一般的な法律知識を提供することです。

例えば、「秘密保持条項には一般的に以下のような内容を記載します」という説明は、一般的な情報提供であり、鑑定には該当しません。

一方、個別具体的な法的助言とは、特定の者の具体的な状況に即して、法律的見解を示すことです。

「御社の契約書の第5条は、このような法的リスクがあるため、以下のように修正すべきです」という助言は、個別具体的な法的助言であり、鑑定に該当し得ます。

AIサービスの場合、この境界線をどう設計するかが重要です。

多くのサービスは、あらかじめ設定されたチェックリストに基づいて一般的な指摘を行う設計とすることで、個別具体的な法的助言には該当しないよう配慮しています。

アメリカのリーガルテックに見る示唆

米国はリーガルテック先進国であり、日本よりも早くから同様の議論が行われてきました。

米国では、弁護士資格を持たない者による法律業務をUnauthorized Practice of Law (UPL)として規制していますが、その運用は州によって異なります。

興味深いのは、LegalZoom、Rocket Lawyerなどのサービスが、「文書作成支援」という位置づけで適法性を確保している点です。

これらのサービスは、ユーザーが質問に答えることで契約書や遺言書などの法的文書を自動生成しますが、「法的助言を提供するものではない」という明確な免責を行っています。

US Legal Help in Japan
Rocket Lawyer

ただし、米国でも規制当局との間で訴訟が提起されるケースが少なくありません。

リーガルテック企業は、サービス設計において弁護士と緊密に協力し、適法性を確保する努力を続けています。

日本のリーガルテック業界にとって、米国の経験は重要な示唆を与えます。

規制との適切なバランスを保ちながら、イノベーションを推進していくことが求められています。

既存のリーガルチェックサービスと非弁行為の分析

ここでは、具体的なリーガルチェックサービスについて、非弁行為該当性の観点から分析します。

契約書レビューサービス

LegalForce、GVA assist、LegalOn Cloudなどの主要な契約書レビューサービスは、法務省ガイドラインの公表を受けて、適法性が明確化されました。

これらのサービスの共通点は、あらかじめ設定されたチェックリストに基づいて契約書を分析し、リスク条項や不足条項を指摘する点です。

指摘内容は一般的な法律知識に基づくものであり、個別の取引背景を踏まえた法的助言ではありません。

LegalForceを提供する株式会社LegalOn Technologiesは、ガイドライン公表後に声明を発表し、「本ガイドラインの公表により、LegalForceが弁護士法72条に違反しないことがより一層明確になりました」としています。

これらのサービスも、弁護士監修のもとで開発されており、提携法律事務所による法律相談サービスをオプションで提供しているケースが多くあります。

つまり、AIによる自動レビューと弁護士による法律相談を明確に区分することで、適法性を確保しているのです。

LegalOn Cloud
AI契約書レビュークラウド「LeCHECK(リチェック)」 | 株式会社リセ
MNTSQ(モンテスキュー) AI契約レビュー

広告チェック

広告表現の適法性チェックサービスは、景品表示法、薬機法、特定商取引法などへの適合性を確認するものです。

このサービスは、法規制の内容を踏まえた専門的判断を伴うため、非弁行為該当性が問題となりやすい領域です。

弁護士が提供する場合は問題ありませんが、広告審査専門会社やコンサルタントが提供する場合は、サービス内容の設計に注意が必要です。

一般的には、「法的助言ではなく、法令遵守のためのチェックリストに基づく確認業務である」という位置づけでサービスを提供しています。

弁護士が開発した広告表示適法性チェックアプリ「ad-vis」の正式リリースのお知らせ
トラスクエタ アド
AdKura、広告クリエイティブのAIチェック機能ベータ版をリリース

ただし、グレーゾーンの表現について「この表現は違法である」「このように修正すべきである」と明確に判断を示す場合は、法的助言に該当する可能性があります。

このため、多くのサービスでは「リスクの可能性を指摘するが、最終判断はクライアント企業が行う」という形式を採用しています。

SNSにおける違法性投稿のチェック

企業のSNS投稿について、炎上リスクや法的リスクをチェックするサービスも増えています。

名誉毀損、プライバシー侵害、著作権侵害、ステルスマーケティング規制違反などのリスクを事前に検出し、投稿を差し止めるシステムです。

SNSリスク即時検知サービス(風評調査) | ネットパトロール・モニタリング | サービス紹介 | イー・ガーディアン
オンラインレピュテーション調査 | SNSリスク調査ならエルテス
侵害コンテンツ検知 | NTTデータ

このサービスは、AIによる自動検出機能と人間による最終確認を組み合わせているケースが多く見られます。

AIが特定のキーワードや表現パターンを検出し、人間の審査担当者が最終判断を行うという仕組みです。

非弁行為該当性については、プリセットした特定のキーワードとの機械的な対象比較によるリスクチェッカー(法的な評価や認定ではない形)という位置づけであれば非弁行為として問題が生じる可能性は低いと考えられます。

ただし、個別の投稿について「これは名誉毀損に該当する」と法的判断を示す場合は、弁護士が行うべき業務となります。

知財戦略のリスクチェック

商標登録、特許出願、著作権管理など、知的財産権に関するリーガルチェックは、弁理士の専門領域でもあります。

弁理士法第4条により、弁理士は特許、実用新案、意匠、商標に関する事項について、独占的に業務を行うことができます。

したがって、知財戦略のリスクチェックを弁理士が行う場合は、弁護士法第72条の問題は生じません

ただし、知財権侵害訴訟の見通しや損害賠償額の予測など、訴訟法務に関わる部分については、弁護士の関与が必要となります。

AI商標調査サービスなどは、既存の商標データベースを検索し、類似商標の存在を機械的に抽出するものであり、法的判断を伴わないため、非弁行為の問題は生じにくいと考えられます。

知財情報管理システム IP Compass|中央光学出版株式会社
特許検索システム「SRPARTNER」:株式会社日立システムズ
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M&AのDDにおけるリーガルチェック

M&Aの法務デューデリジェンスは、典型的な法律事件であり、弁護士が関与すべき領域です。

対象会社の法的リスクを包括的に調査し、買収価格や契約条件に反映させる作業は、高度な法的専門性を要します。

近年では、AIを活用したDD支援ツールも登場しています。

これらのツールは、大量の契約書や社内文書を自動的に分類・抽出し、リスク条項を検出する機能を持っています。

ただし、最終的な法的評価や判断は弁護士が行うことが前提となっており、AIはあくまで弁護士の業務を補助するツールと位置づけられています。

弁護士資格を持たない者が、M&AのDD業務を有償で受託することは、非弁行為に該当する可能性が極めて高いといえます。

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三井住友FG、AIで弁護士の定型業務を代替 M&Aの契約書分析を自動化 - 日本経済新聞

リーガルチェックサービスの今後の進化の方向性

リーガルテック業界は急速に進化しており、今後10年間でさらなる技術革新とビジネスモデルの多様化が予想されます。

ここでは、国内外の動向を踏まえ、現実的に予測される5つの方向性について解説します。

リーガルリスクと損益分岐点の分析

現在のリーガルチェックサービスは、主にリスクの「検出」に焦点を当てています。

しかし、今後はリスクの「定量化」と「経営判断への統合」が進むと予測されます。

具体的には、契約書に含まれるリスク条項について、「このリスクが顕在化した場合の損失額」を統計的に予測するサービスが登場するでしょう。

過去の訴訟データ、判例分析、業界統計などを活用し、「この契約条件で取引を行った場合、年間○○万円の期待損失が発生する」といった定量的な分析を提供します。

これにより、企業は法務リスクとビジネス機会のトレードオフを、より合理的に判断できるようになります。

「リスクは高いが収益性も高い取引」と「リスクは低いが収益性も低い取引」を、同じ土俵で比較評価できるのです。

米国ではすでに、Legal Analytics(法律分析)の分野で、訴訟結果の予測や弁護士の勝訴率分析などが商業化されています。

日本でも同様のサービスが発展する可能性があります。

シナリオ分析とリーガルリスクの数値化

リーガルリスクの数値化をさらに進めた形として、シナリオ分析機能の実装が予想されます。

これは、複数の法的シナリオを想定し、それぞれのシナリオにおけるリスクとリターンを比較するものです。

例えば、新規事業の立ち上げにおいて、「シナリオA:許認可を取得して完全に適法な形で事業を行う」「シナリオB:グレーゾーンのまま事業を開始し、規制動向を見ながら対応する」「シナリオC:業界団体と協議しながら規制緩和を働きかける」といった複数のシナリオを設定します。

各シナリオについて、必要なコスト、事業化までの期間、規制違反のリスク、競合優位性などを多角的に分析し、最適なシナリオを提案します。

このような意思決定支援は、経営コンサルティングと法務アドバイザリーの融合領域であり、今後の成長が期待されます。

訴訟ファイナンス

訴訟ファイナンス(Litigation Finance)は、第三者が訴訟費用を負担し、勝訴時の賠償金から回収するビジネスモデルです。

米国や英国では既に市場が形成されており、年間数千億円規模の投資が行われています。

日本では弁護士法第27条により、弁護士報酬の後払いや成功報酬が一定の範囲で認められていますが、第三者による訴訟投資は法的にグレーゾーンです。

しかし、知的財産権侵害訴訟や株主代表訴訟など、高額な訴訟費用が必要となる案件において、訴訟ファイナンスのニーズは高まっています。

今後、日本でも訴訟ファイナンスの法的位置づけが明確化され、市場が形成される可能性があります。

その際、AIによる訴訟結果予測技術が、投資判断の重要なツールとなるでしょう。

勝訴確率、予想賠償額、訴訟期間などをAIが分析し、投資家に提供するサービスが登場すると予想されます。

AIエージェントによる法務オートメーション

生成AIの進化により、単なる情報提供を超えた「自律的なタスク実行」が可能になりつつあります。

AIエージェント(AI Agent)とは、ユーザーの指示に基づいて、複数のタスクを自律的に実行するAIシステムです。

法務領域においては、「契約書ドラフトの自動作成」「契約条件の自動交渉」「契約締結プロセスの自動化」などが実現する可能性があります。

例えば、ユーザーが「新規取引先との秘密保持契約を締結したい」と指示すると、AIエージェントが以下のタスクを自動実行します。

第一に、取引先の情報を収集し、適切な契約テンプレートを選択します。

第二に、自社の標準条項と取引先の要望を踏まえて、契約書ドラフトを作成します。

第三に、取引先にドラフトを送付し、修正要望を受け取ります。

第四に、修正要望について自社の許容範囲内かを判断し、自動的に調整します。

第五に、最終版を作成し、電子署名を取得します。

このような高度な自動化が実現した場合、弁護士法第72条との関係が再び問題となる可能性があります。

AIエージェントが行う「自動交渉」や「条件調整」が「法律事務」に該当するか、新たな議論が必要となるでしょう。

LaaS

LaaS(Legal as a Service)の概念は、今後10年間で多層的な進化を遂げると予測されます。

単なる法務機能のサービス化を超えて、訴訟のサービス化、法的データの民主化、そして分散型技術との融合により、法務インフラそのものが再構築される可能性があります。

Litigation as a Service:訴訟プロセスのサービス化

Legal as a Serviceがさらに進化した形態として、Litigation as a Service(訴訟のサービス化)が登場すると予測されます。

これは訴訟対応に特化したサービスモデルであり、訴訟準備から判決執行までの全プロセスをプラットフォーム上で管理・実行します。

具体的には、AIによる訴訟戦略の立案、過去の判例データベースからの類似事案検索、勝訴確率の統計的予測、最適な弁護士のマッチング、証拠書類の自動整理、訴状や準備書面のドラフト作成支援、電子法廷での訴訟進行管理などが統合されたサービスとして提供されます。

米国では既に、訴訟結果予測AI(Lex Machinaなど)が商業化されており、弁護士が訴訟戦略を立案する際の重要なツールとなっています。

日本でも、最高裁判所が公開している判例データベースや下級審の裁判例を活用したAI分析サービスが発展する可能性があります。

Lex Machina | LexisNexis Intellectual Property Solutions

特に注目すべきは、訴訟ファイナンスとの統合です。

AI予測に基づいて勝訴確率が高いと判断された案件に対して、第三者投資家が訴訟費用を提供し、勝訴時の賠償金から回収するビジネスモデルが確立されれば、資金力のない中小企業や個人でも大企業相手に訴訟を提起できるようになります。

これは司法アクセスの民主化につながる重要な変革です。

Legal Data as a Service:法的データプラットフォームの形成

Legal Data as a Serviceは、法令、判例、契約書、訴訟記録、弁護士情報など、法的データをAPI経由で提供するサービスです。

これにより、リーガルテック企業やAI開発者は、高品質な法的データに容易にアクセスでき、革新的なサービスを開発できるようになります。

現在、日本の法的データは分散しており、統合的なアクセスが困難です。

判例はe-Gov法令検索や裁判所ウェブサイトに、法令は官報に、契約書のひな形は各省庁や業界団体に、それぞれ個別に存在しています。

これらを統合し、標準化されたAPIで提供するプラットフォームが構築されれば、リーガルテック市場の発展が加速します。

Legal Data as a Serviceの重要性は、データの「量」だけでなく「質」にあります。

AIの性能はトレーニングデータの質に大きく依存するため、正確で包括的な法的データへのアクセスが、競争力の源泉となります。

米国では、Westlaw、LexisNexisなどの法律情報サービス企業が、長年にわたって蓄積した判例データベースをAPI化し、リーガルテック企業に提供しています。

日本でも、第一法規、LIC、TKCなど、法律情報サービスを提供する企業が同様のビジネスモデルに転換する可能性があります。

Web3.0技術を活用した分散型法的データエコシステム

Web3.0の中核技術であるブロックチェーンは、法務領域においても革新的な可能性を秘めています。

特に注目されるのは、非中央集権的(Decentralized)なPeer to Peer技術を活用した、法的データの安全な共有と活用です。

従来の法的データ管理は中央集権型であり、特定の企業や組織がデータを独占していました。

しかし、ブロックチェーン技術を活用することで、データの所有権を個々の企業や個人が保持しながら、必要に応じて安全に共有できる分散型エコシステムが構築可能です。

具体的には、以下のような仕組みが考えられます。

分散型契約書データベース

企業が締結した契約書を、機密情報を暗号化した上でブロックチェーン上に記録します。

契約条件の統計分析や市場相場の把握には協力する一方、個別の契約内容は完全に秘匿されます。

これにより、業界全体として契約条件の透明性が向上し、不公正な取引慣行を是正できます。

分散型判例データベース

裁判所が公開していない下級審判決や、和解により終了した事件の情報を、当事者の同意のもとで匿名化してブロックチェーン上に記録します。

これにより、より包括的な判例データベースが形成され、AIの予測精度が向上します。

スマートコントラクトによる自動執行

契約条件をプログラムコードとして記述し、条件が満たされた時点で自動的に契約が履行されるスマートコントラクトは、契約管理の効率化に寄与します。

例えば、納品確認がブロックチェーン上で記録された瞬間に、代金が自動的に支払われるシステムが実現できます。

NFTによる知的財産権管理

特許権、商標権、著作権などの知的財産権をNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)として発行し、ブロックチェーン上で権利移転を記録します。

これにより、知的財産権の所有者と利用許諾関係が透明化され、権利侵害の防止や権利処理の効率化が実現します。

分散型IDによる本人確認

契約締結や訴訟手続きにおいて、分散型ID(Decentralized Identity)を活用することで、プライバシーを保護しながら確実な本人確認を実現します。

これは、リモート契約やオンライン訴訟の信頼性を高めます。

ビッグデータ形成のインセンティブ設計

Web3.0技術を活用した分散型エコシステムの成否は、データ提供者に対する適切なインセンティブ設計にかかっています

企業や個人が自発的に法的データを提供し、エコシステム全体の価値を高めるためには、以下のような仕組みが必要です。

第一に、トークンエコノミーです。

法的データを提供した企業や個人に対して、独自のトークン(暗号資産)を報酬として付与します。

トークンはプラットフォーム内でのサービス利用に使用でき、また二次市場で換金することも可能です。

データ提供が多いほど多くのトークンを獲得でき、高品質なデータには追加のボーナスが付与されます。

第二に、データ協同組合モデルです。

データ提供者が協同組合を形成し、データから生じる利益を組合員で分配します。

個々の企業は自社の契約データを提供することでプラットフォームの価値向上に貢献し、その見返りとして全体のデータにアクセスできる権利と、収益の分配を受けます。

第三に、レピュテーションシステムです。

高品質なデータを継続的に提供する企業や個人は、プラットフォーム内で高い評価(レピュテーション)を獲得します。

高いレピュテーションを持つ参加者は、優先的にサービスを利用できたり、プラットフォームのガバナンスに参加する権利を得たりします。

技術的課題とセキュリティ

Web3.0技術を法務領域に適用する上での最大の課題は、機密性の確保です。

契約書や訴訟資料には、企業の営業秘密や個人のプライバシー情報が含まれるため、不正アクセスや情報漏洩は絶対に防がなければなりません。

この課題に対しては、以下の技術が活用されます。

  • ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof):データの内容を明かすことなく、データが特定の条件を満たしていることを証明する暗号技術です。例えば、「この契約の金額は1億円以上である」という事実を、契約書の内容を開示することなく証明できます。
  • 準同型暗号(Homomorphic Encryption):暗号化されたデータに対して、復号化することなく演算を行える暗号技術です。契約書を暗号化したまま統計分析を行い、結果のみを復号化して取得できます。
  • 秘密分散技術(Secret Sharing):データを複数の断片に分割し、複数の参加者に分散保管する技術です。一部の断片が漏洩しても、元のデータを復元できないため、セキュリティが向上します。

実現に向けた法的・制度的課題

分散型法的データエコシステムの実現には、技術的課題だけでなく、法的・制度的な整備も必要です。

第一に、データの所有権と利用権の明確化です。

契約書データや訴訟データの所有権は誰にあるのか、どのような条件で利用が許されるのか、法的な整理が必要です。

特に、個人情報保護法との関係で、匿名化の基準や同意取得の方法について明確なガイドラインが求められます。

第二に、スマートコントラクトの法的効力です。

プログラムコードによって自動執行される契約が、民法上の契約として有効かどうか、契約不適合やバグがあった場合の責任はどうなるか、判例や学説の蓄積が必要です。

第三に、ブロックチェーン上の記録の証拠能力です。

訴訟において、ブロックチェーン上の記録が証拠として採用されるための要件を明確化する必要があります。

電子署名法や民事訴訟法の改正により、ブロックチェーンの特性を踏まえた証拠法の整備が求められるでしょう。

リーガルチェックと非弁行為の今後の議論の方向性

法務省ガイドラインの公表により、現時点での議論は一定の結論に達しました。

しかし、技術革新とビジネスモデルの進化に伴い、新たな論点が浮上することが予想されます。

ここでは、今後の議論の方向性について考察します。

弁護士が提供するリーガルサービスの再定義

AI技術の発展により、従来は弁護士の専門領域とされてきた業務の一部が、自動化可能になりつつあります。

契約書のドラフト、判例検索、法令調査など、定型的な作業はAIが人間を上回る精度とスピードで実行できるようになっています。

このような状況において、「弁護士の本質的な価値は何か」「弁護士でなければできない業務は何か」という問いが重要性を増しています。

おそらく、弁護士の役割は以下の3つに集約されていくでしょう。

第一に、複雑な法的判断です。前例のない新しい法的問題、複数の法領域にまたがる問題、価値判断を伴う問題など、高度な専門的判断を要する業務は、引き続き弁護士の専門領域であり続けるでしょう。

第二に、交渉と紛争解決です。当事者間の利害調整、合意形成、訴訟戦略の立案など、人間的な洞察力とコミュニケーション能力を要する業務は、AIには代替困難です。

第三に、倫理的・社会的判断です。法的には問題なくても、倫理的に疑義がある行為、社会的批判を招く可能性がある行為について、適切な助言を行うことは、弁護士の重要な役割です。

これらの本質的業務に焦点を当て、定型業務はAIに委ねるという分業モデルが、今後の弁護士業務の標準となる可能性があります。

司法インフラの再定義

リーガルテックの発展は、司法制度そのものの変革も促しています。

オンライン裁判、AIによる争点整理、電子証拠の管理など、訴訟プロセスのデジタル化が進んでいます。

日本でも、2022年5月に民事訴訟法が改正され、オンライン申立てや訴訟記録の電子化が段階的に導入されることとなりました。

これにより、訴訟プロセス全体がデジタル化され、リーガルテックとの親和性が高まります

さらに進んで、「オンライン紛争解決(ODR: Online Dispute Resolution)」の普及も予想されます。

ODRは、オンラインプラットフォーム上で紛争を解決する仕組みであり、少額事件や消費者紛争などで活用が進んでいます。

将来的には、AIが紛争の事実認定や法的評価を補助し、人間の調停者や裁判官が最終判断を行うというハイブリッド型の紛争解決が一般化する可能性があります。

これは司法アクセスの向上に貢献する一方、司法の質や公正性をどう確保するかという新たな課題も提起します。

弁護士法72条の改正?

現行の弁護士法第72条は、1949年に制定された規定であり、インターネットもAIも存在しない時代に作られたものです。

リーガルテックの発展により、同条の解釈では対応しきれない問題が生じる可能性があります。

諸外国では、法律サービス市場の規制緩和が進んでいる国もあります。

英国では2007年のLegal Services Actにより、弁護士以外の専門家や企業が法律サービスを提供することが一定の範囲で認められました。

また、Alternative Business Structures(ABS)という仕組みにより、弁護士と非弁護士が共同で法律サービス会社を経営することも可能になりました。

日本でも、将来的に弁護士法第72条の改正が議論される可能性があります。

ただし、国民の権利保護という同条の趣旨を損なわない範囲で、どのような規制緩和が適切かは慎重な検討が必要です。

当面は、法務省ガイドラインのような解釈指針の公表や、グレーゾーン解消制度の活用により、個別の事案に柔軟に対応していくことになるでしょう。

しかし、技術革新のスピードに法制度が追いつかない状況が続けば、抜本的な法改正の議論が避けられなくなる可能性もあります。

まとめ

リーガルチェックと非弁行為の境界線は、2023年8月の法務省ガイドライン公表により、大きく明確化されました。

企業の通常業務に伴う契約については事件性が否定され、チェックリスト型のAI契約書レビューは鑑定に該当しないという見解が示されたことで、リーガルテック業界の予測可能性が大幅に向上しました。

しかし、技術革新とビジネスモデルの進化に伴い、新たなグレーゾーンが生じることも予想されます。

AIエージェントによる自動交渉、訴訟ファイナンス、LaaSなど、従来の法的枠組みでは想定されていなかったサービスが次々と登場するでしょう。

企業の法務担当者にとって重要なのは、利用するサービスの適法性を常に確認し、必要に応じて弁護士の助言を得ることです。

コスト削減と業務効率化を追求する一方で、コンプライアンス違反のリスクを回避しなければなりません。

リーガルテックサービス提供事業者にとっては、法務省ガイドラインを遵守したサービス設計を行うとともに、弁護士と協働してイノベーションを推進することが求められます。

適法性を確保しながら、ユーザーにとって真に価値あるサービスを提供し続けることが、業界の持続的成長につながります。

リーガルチェックと非弁行為をめぐる議論は、今後も続くでしょう。

しかし、その議論の中心には常に「国民の権利利益の保護」「司法アクセスの向上」という2つの価値があることを忘れてはなりません。

技術と法制度の適切なバランスを保ちながら、より良い法務サービスの提供を目指していくことが、すべての関係者に求められています。

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司法試験受験後、人材系ベンチャー企業でインターンを経験。2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。【愛知県弁護士会所属】

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