サステナブルファイナンスとは、金融庁によると『持続可能な社会と地球を実現するための金融』と定義され、環境(E)・社会(S)、ガバナンス(G)課題の解決を目指して様々な配慮を織り込んだ投融資(ESG投資・ESG金融)、債券発行、その他様々な幅広い金融サービスを含む広い概念とされています。
国際的にも環境保全や社会問題の解決が叫ばれる中、日本国内でもサステナブルファイナンスは年々活況となっています。
サステナブルファイナンスは今後も多くの投資を集めることが予想されるため、資金調達を行う企業側・投資家側の双方にとって、いっそう重要性を増していくと考えられます。今後の資金調達戦略・投資戦略を練るにあたっては、サステナブルファイナンスに関する国内外の状況を、十分に検討することが望ましいでしょう。
この記事では、サステナブルファイナンスが注目されている背景や主な手法、企業側・投資家側双方の留意点などについて解説します。
サステナブルファイナンスとは?section
「サステナブルファイナンス」が、環境問題や社会問題を解決することの重要性がクローズアップされる中で、近年注目を集めている金融手法とおつたえしましたが、実際にどのような手法なのか解説します。
グローバル課題の解決を目的とした資金調達
環境問題や社会問題を解決するためには、改善事業に取り組むに当たって、巨額の資金が必要となります。当然ながら、一企業が自前で資金を賄うことは困難ですし、公的資金の注入にも限界があります。
そのため、プロジェクトの資金をどのように調達するかが、環境問題や社会問題の解決に取り組むための大きな課題となるのです。サステナブルファイナンスは、こうしたグローバル課題を解決するために用いられる、資金調達のスキーム全般を意味します。
サステナブルファイナンスの多種多様な手法については、後で詳しく紹介します。
サステナブルファイナンスが注目される背景
サステナブルファイナンスが注目を集めている背景には、世界的な環境問題・社会問題に対する関心の増大があります。特に以下のような問題は、年々緊急性・深刻度が上がっており、世界全体として解決に向けた問題意識が高まっている状況です。
- 地球温暖化による気候変動
- 海洋汚染による漁獲量の減少
- 人口増加による貧富格差の拡大
- 化石燃料の枯渇
こうした背景の下で、サステナブルファイナンスにより、各種グローバル課題の解決を促進する必要性が強調されています。
それに伴い機関投資家がCSRの一環として資金を出動させたり、個人投資家も社会の潮流に呼応してESG投資を行ったりするなど、サステナブルファイナンスは全体的に活況の様相を呈しています。
サステナブルファイナンスは収益性も大いに期待されている
サステナブルファイナンスは、グローバル課題の解決という社会的意義を持つだけでなく、その収益性についても大きな期待を集めています。以下の東京都政策企画局のページにまとめられているように、各調査会社が発表したデータによれば、ESG関連企業の株価は市場平均を大きく上回るパフォーマンスを示す傾向にあります。
例えば、Schrodersの調査によると、2020年1月~3月における米国株式市場におけるESGランキング上位20%の銘柄のパフォーマンスは、市場平均を大きく上回る結果になりました(ⅱ) 。また、MSCIの報告によると、2020年1月~4月にかけて、SRIをはじめとしたESG目標を開示するMSCIの4つのインデックスと、気候関連目標を開示する2つのインデックスの双方が、市場平均(MSCIワールド・インデックス)を大きく上回りました(ⅲ)。
[参照]:ウィズコロナ/アフターコロナ時代のサステナブルファイナンス(東京都政策企画局)
サステナブルファイナンスの収益性がよい傾向にある理由としては、対象企業が時流に即した経営を行っている点や、コンプライアンスを徹底して安定した経営を行っている優良企業である点などが考えられます。
いずれにしても、サステナブルファイナンスの思想と収益性は十分両立し得るものと認識されており、そのことがいっそうサステナブルファイナンスの注目度を高めているといえるでしょう。
日本におけるサステナブルファイナンスに関する近年の動き
サステナブルファイナンスが世界的に活況を呈する中で、日本でも行政が主導して、サステナブルファイナンスに関連するさまざまな取り組みが行われています。
2050年までのカーボンニュートラル化に関する宣言
2020年10月に、当時の菅義偉首相が所信表明演説において、2050年までに温室効果ガスの排出を実質的にゼロにすること目指すと宣言しました。
参考:脱炭素ポータル|環境省
カーボンニュートラル化に関する宣言の背景には、2015年に第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択され、世界的に温室効果ガス削減の潮流が高まっているという事情があります。
同宣言をベースとして、政府内でもサステナブル志向の検討会議などが活発化しており、今後もサステナブルファイナンスに対する追い風として働くと考えられます。
サステナブルファイナンス有識者会議報告書の公表
2021年6月18日に、金融庁が設置した「サステナブルファイナンス有識者会議」が、サステナブルファイナンスに関する報告書を公表しました。
参考:「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」の公表について|金融庁
報告書の概要は、大要以下のとおりです。
①総論
サステナブルファイナンスは、持続可能な経済社会システムを支えるインフラであり、民間セクターの取り組みに加えて政策的な後押しをすべきであるとの一般論を提示しています。さらに、国際的議論への参画や、分野別ロードマップの策定の重要性なども強調されています。
②企業開示の充実
企業が投資家や金融機関と建設的な対話を行うに当たって、サステナビリティ情報に関する適切な開示のあり方を幅広く検討すべきであることが指摘されています。
③市場機能の発揮
国内外の資金を呼び込み、グリーンボンドなどの取引が活発に行われる「グリーン国際金融センター」を実現するとの理念が提唱されています。さらに、「グリーン国際金融センター」の理念実践のため、市場の主要なプレイヤーである機関投資家・金融機関・取引所・ESG評価機関などが果たすべき役割について述べられています。
④金融機関の投融資先支援とリスク管理
間接金融の比率が高い日本においては、銀行をはじめとする金融機関が、サステナブルファイナンスの推進に当たって果たすべき役割は重要であることが強調されています。金融機関には、投融資先支援やリスク管理に当たってサステナビリティに関する視点を戦略に盛り込み、実体経済の移行を支えることが求められています。
こうした取り組みは、行政が中心となって今後も継続されることが想定されます。それに伴い、サステナブルファイナンスはますます一般的な考え方になっていく可能性が高いでしょう。
サステナブルファイナンスの主な手法section
サステナブルファイナンスは、グローバル課題の解決という目的に焦点を当てた広い概念であり、具体的な金融手法にはさまざまなバリエーションが存在します。
サステナブルファイナンスの主な手法は、以下のとおりです。
ESG投資
「ESG投資」は、以下の3つの要素に配慮した経営を行う企業に対する投資を意味します。
①環境(environmental)
以下に挙げるような、環境に配慮した取り組みを行っているかどうか
- 二酸化炭素排出量の削減
- 環境汚染対策
- 再生可能エネルギーの使用 など
②社会(social)
以下に挙げるような、社会的な課題の解決に企業として取り組んでいるかどうか
- 地域振興
- 労働環境の改善
- ジェンダー格差の解消
- 貧困地域への寄付 など
③コーポレートガバナンス(corporate governance)
企業不祥事を防ぐことができる社内体制が整っているかどうかESG投資は、機関投資家によっても盛んに行われている一方で、個人投資家も気軽に取り組むことができる点が大きな特徴です。
個人・機関投資家ともに、ESG投資の残高は年々拡大しており、今後もますます活況が予想されます。ESG投資の対象となる金融商品の具体例は、以下のとおりです。
(a)個別株式(ESG関連企業)
ESGに関する取り組みに注力する企業の株式を購入します。銘柄選択の方法としては、国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)が7つの切り口を提唱しています。
(b)投資信託
さまざまな銘柄に投資する「ファンド」(投資家から資金を集める箱のようなもの)の持分を購入し、分配金や売却差益による利益の獲得を目指します。投資対象のパターンは株式・債券・不動産・金・バランス型……など多岐にわたり、リスク・リターン・信託報酬(手数料)などの条件も、ファンドによって多種多様です。
(c)サステナブル債(グリーンボンド・ソーシャルボンドなど)
グローバル課題の解決に関する特定の使途に限定した資金を募るために、企業が発行する社債です。ESG関連の事業に直接資金が使われるため、ESG投資の社会貢献的な側面に意義を感じている方には、お勧めの投資手法といえます。
(d)プライベート・エクイティ・ファンド
機関投資家や富裕層をターゲットとして、少人数の参加者からファンドに対する投資資金を募ります。ハイリスクかつ複雑な金融商品であるため、個人がプライベート・エクイティ・ファンドに投資する際には、高い金融リテラシーが求められます。
ESG投資については、以下の記事でも詳しく解説しているので、併せてご参照ください。
サステナブルローン
サステナブルファイナンスは、銀行によってもローンの形で行われています。一般的な事業に対する融資と同様に、環境問題・社会問題の解決に関するプロジェクトごとに、銀行が収益性や返済見込みなどを審査したうえでローンを実行します。
事業会社に対してローンが実行されるケースもあれば、プロジェクト専用のビークル(会社など)を立ち上げたうえでローンを実行するケースもあり、複雑な金融スキームが組まれることもしばしばです。
また、ESG投資やサステナブルローン以外にも、以下のような金融手法が、サステナブルファイナンスの例として挙げられます。
ブレンディッドファイナンス(Blended Finance)
資金の出し手・リスク&リターンなどが異なる手法を混在させて実行されるファイナンスです。ESG関連プロジェクトに対して、公的資金を先行して投入し、民間の投資の呼び水とする手法などが一例として挙げられます。
クラウドファンディング(Crowdfunding)
一定の返礼品を見返りとして、不特定多数の出資者から小口の資金を募るファイナンス手法です。数千円・数万円といった少額から投資できるのが特徴であり、企業のみならず、個人が募ることもできます。
インパクト投資(Impact Investing)
特定の社会課題解決を明確な目的に持つ投資です。通常のESG投資とは異なり、経済的リターンをある程度犠牲にしても、社会課題の解決を強く志向する特徴があります。
成果連動型民間委託契約(Pay for Success:PFS)
国や地方公共団体が、行政課題の解決を目的として、民間事業者と締結する業務委託契約です。解決すべき行政課題に対応した成果指標が設定され、達成度に応じて報酬額が変動する仕組みが採用されています。
サステナブルファイナンスを募集する企業が重視すべき観点section
企業が環境問題や社会問題の解決に取り組むことは、CSR(企業の社会的責任)を果たすうえで非常に意義深いことであり、投資家からも歓迎されることでしょう。
サステナブルファイナンスを募集する企業は、投資家に対して適切にアプローチを行うため、以下の各点に留意しておくことが大切です。
投資家に対してESG関連の情報開示を十分に行う
ESG投資を行う投資家は、企業の財務状況のみならず、ESGに関してどのような取り組みを行っているかにも気を配っています。そのため、ESG関連の取り組み内容について、投資家向けに具体的な情報開示を行うことが大切です。
個人投資家に対しても、幅広く投資機会を提供する
日本では、個人金融資産の総額に対して、現預金が大きな割合を占めています。そのため、サステナブルファイナンスを効率的に実施するには、個人投資家が保有する現預金の活用も重要な課題といえます。
機関投資家による出資や、銀行によるサステナブルローンに加えて、株式やサステナブル債を活用した小口資金の調達の可能性も検討してみるとよいでしょう。ESG投資に関心を持つ個人投資家層にアピールできれば、中長期的な企業イメージの向上にも繋がります。
国際的な潮流を踏まえた対応を行う
サステナブルファイナンスに関しては、現状では、特にEUが積極的に取り組んでいます。その一例として、2021年4月には「EUタクソノミー」が公表され、環境に良い事業に関する基準案が示されました。
参考:EU taxonomy for sustainable activities|European Commission
日本の金融市場では、EUを中心としたグローバルなサステナブルファイナンスに対して、一歩遅れて追随するような動きが発生しています。つまり、現在EUなどでサステナブルファイナンスに求められる要素は、日本でも早晩要求されるようになる可能性が高いということです。
サステナブルファイナンスを募集する企業としては、世界的なESGに対する「常識」を踏まえたうえで、投資家に対して実効的なメッセージを発信する必要があります。
サステナブルファイナンスに関する情報のアップデートについては、特にメガバンク系または外資系の銀行・信託銀行・証券会社などが積極的に取り組んでいるので、取引のある金融機関に相談してみましょう。
個人投資家がサステナブルファイナンスに参加するには?section
ESG投資の各手法やクラウドファンディングを活用すれば、個人投資家でも気軽にサステナブルファイナンスへ参加することが可能です。
証券会社を通じて投資信託等を購入する
証券会社では、ESG関連の投資信託などを盛んに販売しており、個人投資家がアクセスできるESG投資商品は非常に多い状況です。投資信託などの購入は、数千円~数万円程度の小口からでも可能なため、まずは証券口座を開設してESG関連の投資商品を購入してみましょう。
なおESG投資に限らず、投資を実行する際には、対象となる投資商品の性質を十分に理解することが大切です。
ローリスク・ローリターンの商品、ハイリスク・ハイリターンの商品のいずれも存在するほか、信託報酬や売買手数料の体系も商品によって異なります。本格的に投資に取り組む際には、ご自身がどの程度のリスクを許容できるか、どの程度のリターンを目指すかなどを明確にしたうえで十分な情報収集を行うことをお勧めいたします。
クラウドファンディングに参加する
環境問題や社会問題の解決に向けたクラウドファンディングは、小規模なケースが多いものの、サステナブルファイナンスの一つであることには変わりがありません。クラウドファンディングも、数千円~数万円程度の小口から参加可能なので、関心のあるプロジェクトに参加してみるとよいでしょう。
ただし、クラウドファンディングの返礼品の価値は、一般的に投資した金額よりも少額となります。
そのため、投資からリターンを得るというよりは、プロジェクトの社会的意義に賛同して寄付を行うという側面が強い点に留意しましょう。
サステナブルファイナンスを募集する企業が弁護士に相談すべき理由section
企業がサステナブルファイナンスを募る場合、目的に応じて最適な手法は異なります。
株式発行・社債発行・ローン・プロジェクトファイナンスなど、さまざまな手法が考えられるところ、それぞれの手法に応じた法律上の留意事項にも配慮しなければなりません。
サステナブルファイナンスに関しては、大規模な企業法務系の法律事務所が中心となって、総合的なリーガルサポートを提供しています。サステナブルファイナンスのスキーム構築から、契約交渉や締結、さらに期中管理に至るまでサポートを受けることが可能です。
ファイナンスの領域で経験を積んだ弁護士は、資金調達の手法について豊富なアイディアを有しているため、まずは自社のニーズを叶えるための資金調達手法についてアドバイスを求めるとよいでしょう。
そのうえで資金調達の取引全体の監修を弁護士に依頼すれば、円滑かつ安定したスキームによって、サステナブルファイナンスによる資金調達を実現できる可能性が高まります。サステナブルファイナンスは、多くの企業にとって新しい取り組みになると思いますので、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
環境問題・社会問題に対する関心が世界的に増大する中で、ESG投資をはじめとしたサステナブルファイナンスが、近年急速に注目を集めています。
ESG投資やクラウドファンディングなどは、個人投資家でも気軽に参加できるサステナブルファイナンスの手法です。投資商品の特性や、リスク・リターン・コストなどを理解したうえで、ご自身の目的に応じた商品を選んで投資してください。
また企業にとっても、CSR(企業の社会的責任)を果たすため、サステナブルファイナンスの募集に取り組むことは有力な選択肢になりつつあります。サステナブルファイナンスの手法は多種多様ですので、自社の状況にフィットした手法を吟味して選択しましょう。
また、実際にサステナブルファイナンスのスキームを検討する際には、弁護士に相談することをお勧めいたします。弁護士に取引の監修を依頼すれば、契約交渉・締結やプロジェクトの期中管理についても、一貫してリーガルサポートを受けることができます。
企業・個人のいずれにとっても、今後サステナブルファイナンスの存在感はさらに増大していくことが予想されます。それぞれの立場で、サステナブルファイナンスに関する世界的な動向を注視していきましょう。