内部通報制度とは|重要性や実務運用上の課題を近時の企業不祥事などを踏まえて解説

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旭合同法律事務所

川村将輝(弁護士)

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企業内における様々な不祥事が発覚した場合、どのように対応すればよいでしょうか。

自らその不正の根源にいる人物や、経営のトップにいる人に進言することも考えられますが、必ずしもそれが有効ではないほか、不利益に扱われるリスクもあるかもしれません。また、逆にそうした通報を受けた側としても、どのような枠組みで対応するのか、連携先や対応の在り方が予め明確でなければ、適切な対応をとることが困難になります。

企業活動の適正な運営のため、事業活動においてリスクのある事象が発生した場合の情報共有体制や対応フローの策定に関する枠組みが、内部通報制度です。

この記事では、近時社会的に大きな影響のある不祥事が目立つことからも内部通報制度の重要性が増しているところ、内部通報制度とは何か、ガバナンス・コンプライアンス上どのような必要性があり、位置づけがあるのか、通報者を保護する仕組みのほか、内部通報制度の実際の活用性まで徹底解説します。

本記事のポイントは3つ
  1. 内部通報制度は、社内における様々なリスク事象・問題や不正行為を発見した場合に、社員が社内に設置された窓口に通告できる制度。通報者の保護を通じて委縮効果を排除し、企業の様々な違法・不正行為の検知や情報共有の実効性を確保する目的がある
  2. 内部通報を含む公益通報を制度化する枠組みとして、公益通報者保護法がある。一定規模の会社では内部通報窓口の設置義務付けなどが定められている
  3. 内部通報の構築と運用においては、社外も含め様々なチャンネルを用意することのほか、専門家との相談・連携を行うこと、そして予防的観点からリスクマネジメントの位置づけの中で実施していく必要がある
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内部通報制度とはsection

内部通報制度とは、どのようなものでしょうか。概要と仕組みについて、解説していきます。

概要

内部通報制度は、社内における様々なリスク事象・問題や不正行為を発見した場合に、社員が社内に設置された窓口に通告できる制度です。制度の主眼は、通報者の保護にあります。究極的には、通報者に対する委縮効果を排除することにより、企業の様々な違法・不正行為の検知や情報共有の実効性を確保し、ガバナンスやコンプライアンスを実質化することにあります。

典型的な仕組みと分類

企業や団体内における違法、不正な行為を検知した場合の通報先は、社内と社外両方が考えられます。また、通報先の区別を問わず、企業等の団体内における違法、不正な行為により関係するステークホルダーに対する不利益が発生することが想定される場合に、そうした被害防止のため通報することが社会公益に資する側面があることから、公益通報と呼ばれます。

内部通報制度は、いわゆる社内の担当部署ないし役員に対する通報制度です。

バックオフィスなど経営管理部門あるいは経営層に近い窓口部署(経営企画や社長室など)が窓口になるパターンと、経営層に直接アプローチできるパターンなどがあります。

コンプライアンス上の位置づけ

内部通報制度は、ガバナンス体制、コンプライアンス確保のために非常に重要な位置づけを占めます。経営層が日々の業務執行において目を配ることができる範囲は、限られています。

起業して間もない段階での、従業員数名程度の規模感であれば社員全員の動きを把握して、何か違法や不正な行為があった場合でも即座に対応することができます。

一方で、社員数が増え事業の規模も大きくなると、経営層が日々の業務執行の中で把握しきれなくなってきます。そのために、各部署で現場を統括する管理職の立場の人が必要になります。

そこで、平常業務の中で、リスクや不祥事が起きた場合の迅速な情報共有や対応を講じるため、内部通報制度が必要となります。

内部通報制度を設けることのメリットsection

内部通報制度の特徴について、ポイントを解説していきます。適宜社外への通報(外部通報)との対比を交えながら、メリットにも言及していきます。

情報共有の迅速性

内部通報制度は、情報共有の迅速性が確保される点が、最も効果的な特徴です。日々の業務との接着性があるほか、日常のコミュニケーションの中で検知することができる可能性があるためです。

また、一定の企業規模になって管理部の機能が高まってきた段階では、社内におけるリスク・不祥事に対する対応を行う業務分掌をしていくことが考えられます。その中で、法務部などリーガルリスクはじめリスク面に対して敏感で、業務としてリスク判断を行うような部署であれば、迅速で的確な情報共有を図ることが期待できるでしょう。

正確性が高い

内部通報であれば、情報の正確性が高い点も特徴として挙げられるでしょう。

内部通報は、事象の内容やリスクの程度、性質などによることもありますが、基本的にボードメンバーに共有することになります。そのプロセスで、社内の体制や業務フローの運用状況、背景まで含めて一定の前提理解がある社内メンバーによるものであれば、情報の正確性が高まります

一方で、社外の窓口の場合、日常的に社内の業務フローや体制、そのアップデートを把握しているわけではないため、事象の把握においてより多くの情報が必要となるほか、背景事情を含めた正確な整理までは行き届かないこともあります。

内部通報制度は、情報の正確性を確保する意味でも有益な特徴があります。

内部通報制度のデメリットsection

他方で、内部通報制度も万能なものではありません。

社内のなれ合いや企業風土によって形骸化する恐れ

そもそも、社内の人間関係におけるなれ合いから、内部通報を受けた窓口が情報共有のプロセスで忖度することなどにより、十分な機能が果たされないことも考えられます。

適正な事業活動であることや、事業によって解決すべき課題解決の在り方を考える視点がなくなり、業務執行に対するリスク判断があいまいになって、不都合な事象を隠蔽するような企業風土があると、内部通報制度が機能しなくなる場合もあります。

ビッグモーター事件

実際に、ビッグモーター事件では、社内の内部通報制度の機能が形骸化していたことなどが疑われ、消費者庁による行政指導がなされるといった事案も発生しています。

消費者庁、ビッグモーターに行政指導 通報体制運用巡り

中古車販売大手ビッグモーター(東京・港)の保険金不正請求問題を巡り、河野太郎消費者相は8日の閣議後の記者会見で、同社が公益通報者保護法に基づく内部通報体制を整備したことを明らかにした。消費者庁は通報体制の運用状況について6カ月後をめどに報告するよう行政指導した。

同社では通報体制が整備されていないとして、消費者庁が同法に基づき報告を求めていた。同庁によると、同社から4日に文書で回答があった。

通報受付窓口の設置や内部規定の整備が確認できたものの、河野消費者相は「今後の実効性について注視していく必要がある」と強調。運用状況について定期的な社内点検を実施し6カ月後をめどに文書で報告するよう求めた。

公益通報者保護法は2022年に改正され、常時雇用する労働者が301人以上の事業者に対し、公益通報に対応する窓口の設置や規定の策定などを義務付けている。

引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE081I60Y3A900C2000000/

また、リスク度合いが高い問題や、経営陣に対する責任が問われる可能性がある問題である場合は、内部通報に対する対応が十分に果たされない可能性もあります

こうした場合には、外部通報によって、社内の利害関係の外にある立場の者からの対応がなされる方が効果的である場合もあります。上記のように、内部通報制度にも、効果的な面とともにデメリットとなる場合もあることから、特徴とともに自社の体制や事業サイズを踏まえた体制構築が重要になってきます。

公益通報者保護法についてsection

具体的に、内部通報制度においてどのような枠組みが考えられるでしょうか。公益通報者保護法の内容を参考にみていきましょう。

主な内容

公益通報者保護法は、法律上保護される「公益通報」の定義づけ、保護のメニューとともに、通報先ごとの保護条件や事業者における内部通報体制の整備義務が定められています。

5 事業者の体制整備義務
事業者(※5)に、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設置、「従事者」の指定、内部規程の策定等)を義務付け
○ 体制整備義務違反等の事業者には行政措置(助言・指導、勧告及び勧告に従わない場合の公表)
○ 内部調査等の従事者に対し、通報者を特定させる情報の守秘を義務付け(違反した場合には30万円以下の罰金)

参照:消費者庁|公益通報者保護法の概要

法令のポイント

ここでは、公益通報の意義や保護の内容、通報先と保護条件の3つの観点からポイントを解説していきます。

公益通報の意義

公益通報は、主体、目的、通報対象者及び事実、通報先、行為(通報)という6つの要素から定義されます(公益通報者保護法第2条)。

  • 主体・・・労働者、派遣労働者、あるいは事業を通じて関わっていた労働者や派遣労働者、退職者、役員
  • 目的・・・不正な利益を図ること、他人への損害を加える目的その他の不正な目的でないこと
  • 通報対象・・・勤務先の役員、従業員、代理人その他の者
  • 通報対象となる事実・・・刑事罰や過料の対象となるような事実
  • 通報先・・・当該勤務先あるいは行政機関、報道機関等
  • 行為・・・通報すること

保護の内容

保護の内容としては、次のようなものが挙げられます。

解雇や派遣契約の解除の無効(第3条)、減給などの不利益な取り扱いの禁止(第5条)、役員であれば解任された場合の損害賠償請求(第6条)、通報された事業者の通報者に対する損害賠償請求の制限(第7条)

通報先ごとの保護条件の違い

例えば、事業者による解雇無効の要件としては、通報先によって次のような違いがあります。

  • 勤務先
    • 通報対象の事実が生じ、あるいはまさに生じようとしていると思料する場合
  • 通報対象事実について処分又は勧告等をする権限がある行政機関
    • 通報対象事実が生じ、あるいはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当な理由がある
    • まさに生じようとしている、かつ通報者の指名や通報対象事実等を記載した書面を提出する場合
  • 報道機関など
    • 通報対象事実が生じ、あるいはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当な理由がある
    • かつ、公益通報により解雇その他不利益な取り扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由があるなど6つの事由

ガイドラインについて

事業者がとるべき体制整備などの構築のための指針も定められています。ここでは3つピックアップしてご紹介します。

  1. 1つ目としては、内部通報における窓口従事者に関する定めです。事業者は、内部通報窓口業務を行う者を従事者として定める必要があります。
  2. 2つ目に、内部通報における部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備として、窓口の設置や、独立性確保の措置、公益通報窓口業務の実施に関する措置として検知した違法等の行為に対する調査の実施のほか、コンフリクト防止などの措置を定める必要があります。
  3. 3つ目として、内部通報体制の実効性を確保するための措置としてとるべきものについてです。

例えば、コンプライアンス研修等による窓口設置や対応フローの周知、公益通報に関する対応記録の保管や見直し・改善、内部通報体制に関する内部規程の策定と運用があります。

参照:消費者庁|公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)

内部通報制度の構築・運用のステップsection

内部通報制度の運用・構築のためのステップをどのように検討するべきでしょうか。ポイントを3つ解説していきます。

社内の組織体制や業務分掌の整理

まずは、前提条件となる部分について洗い出しと整理をしていく必要があります。従業員数、事業サイズ、現状の各部署の管理者、経営陣とのコネクションとエスカレーションフローの内容について、図式化しつつ整理していくことが考えられます。

また、部署ごとに発生する可能性のあるリスク事象、違法・不正行為の内容をブレインストーミング的に抽出していきます。その際には、各部署の管理職ポジションの担当者からヒアリングやディスカッションを行うなどするのが有用でしょう。このような作業プロセスは、リスクマネジメントにおいても踏むべき1つのステップでもあります。

分掌できる部署の選定と通報フローの策定

その上で、分掌できる部署を選定していきます。基本的には、管理部門・バックオフィスの部署が想定されます。具体的には、総務、人事などのほか、特に法務があれば最適でしょう。

また、経営層と近いポジションの部署を選定することも考えられます。社長室や経営企画があれば、そこに設置することも、経営陣へのエスカレーションを円滑に行うことが期待できるため、有用であるといえます。

内部通報制度の窓口部署を選定した後は、その部署のメンバーも交えて、通報フローの策定をしていきます。

業務としての位置づけなどを明確にしつつ、ガバナンス・コンプライアンス上の意味合いなども共有することが重要です。また、通報フローの大まかな流れや、役員間の情報共有の流れ、役割分担も含めて確認しつつ、ファーストコンタクトをどこに設定するのか、またエスカレーションすべき共有事項を項目として明確にしておくことで、円滑な内部通報の運用につながります。

実際の運用イメージについて担当者に周知→社内にも周知

通報を受ける窓口としては受動的な側面がありますが、正確に詳細な情報を把握できるように、通報を受けた際のデモンストレーションやヒアリングイメージの実践をしておくのも効果的です。

そして、通報のフローや運用イメージが固まった段階で、コンプライアンス研修や入社時の研修コンテンツに追加し、社内全体への周知を行います。大まかには上記のように、内部通報制度の構築から運用までのイメージが考えられます。

内部通報窓口を導入する際のポイント3つsection

内部通報窓口を導入する際、どのようなポイントに留意すべきでしょうか。ここでは3つ解説していきます。

外部通報窓口との併用

1つは、外部通報窓口との併用です。前記の通り、内部通報窓口は、ケースや企業風土、組織体制の中で形骸化したり、機能不全に陥ることもあります。

その際に、補完的な役割を担う先として、外部通報窓口が考えられます。具体的には、顧問先の法律事務所などの社外関係先を公益通報窓口として設定することです。顧問先以外の事務所を専門の経路として置くことも考えられます。

公益通報によるガバナンスの実効性を確保する観点から、外部通報のチャンネルを用意しておくことも重要なポイントです。

顧問弁護士への相談・連携

実際に違法行為等に関する内部通報を受けた際の対応において、顧問弁護士等の専門家に具体的な対応の相談や連携を図ることができる仕組みづくりも、1つのポイントです。

窓口担当者だけでは、実際にヒアリングなどの対応を行うに際して十分な前提知識がなく、効果的なヒアリングや調査を行うことができないことも考えられます。そこで、弁護士などの専門家がバックアップすることにより、より実効性のある内部通報窓口の運用につながります。

リスクマネジメントの観点から行う

内部通報窓口の体制構築や運用の際に、形式的な運用を行うのではなく、より予防的な観点からリスクマネジメントの視点をもって行うことが重要なポイントの1つです。

内部通報窓口の設置は、シンプルに制度に対応するだけのところでいえば、法制度上定められた内容を言語化し、フローを組むだけで済みます。

それだけでなく、設置準備に際しても、社内におけるリスク要因の特定、評価、分析のフローを辿っていくことにより、単に内部通報の対象となるリスクが発現した際の事後対応だけでなく、予防的にリスクマネジメントを行うことにもつながるのです。

まとめ

最後にこの記事のポイントを3つにまとめます。

ポイント
  • 内部通報制度は、社内における様々なリスク事象・問題や不正行為を発見した場合に、社員が社内に設置された窓口に通告できる制度をいう。通報者の保護を通じて委縮効果を排除し、企業の様々な違法・不正行為の検知や情報共有の実効性を確保する目的がある。
  • 内部通報を含む公益通報を制度化する枠組みとして、公益通報者保護法がある。一定規模の会社では内部通報窓口の設置義務付けなどが定められている。
  • 内部通報の構築と運用においては、社外も含め様々なチャンネルを用意することのほか、専門家との相談・連携を行うこと、そして予防的観点からリスクマネジメントの位置づけの中で実施していく必要がある。
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司法試験受験後、人材系ベンチャー企業でインターンを経験。2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。【愛知県弁護士会所属】

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