社外取締役と社外監査役について「どんな違いがあるのかわかりにくい」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。「社外」という言葉があることや、どちらも「役員」ということは共通しますが、異なる役割が求められます。
この記事では、社外取締役と社外監査役の要件・役割・資格・スキル・報酬などにどんな違いがあるかについて説明します。
社外取締役とはsection
まず、社外取締役にはどんな存在なのかについて説明します。
社外取締役が必要になるケース
社外取締役とは、コーポレート・ガバナンスの実現のために企業の経営を監視する役割を担います。2021年3月より、上場企業での社外取締役の設置が義務となりました。そのため、上場企業では、社内取締役の他に社外から取締役を選任する必要があるのです。
一方、非上場企業の場合は、社外取締役の必要がない場合がほとんどです。ただし、元経営者などの社外取締役から経営やIPOのアドバイスを受けたい場合には選任することもできます。
社外取締役の要件
社外取締役になるための要件は以下の通りです。
社外取締役 株式会社の取締役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ 当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役(株式会社の第三百六十三条第一項各号に掲げる取締役及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役をいう。以下同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」という。)でなく、かつ、その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
ロ その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)又は監査役であったことがある者(業務執行取締役等であったことがあるものを除く。)にあっては、当該取締役、会計参与又は監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
引用元:会社法2条15号
社外取締役は、企業を監視する役割なので、企業・取締役とは独立している必要があります。そのため、企業の従業員や家族など利害関係にある人は社外取締役になることはできないのです。
社外取締役の選任方法
社外取締役を選ぶ際には、まず社内取締役のスキルを可視化します。そして、不足するスキルを洗い出し、充当できるような人材を社外取締役の候補として何名か選びます。例えば、社内取締役には法務のスキル人が少ないのであれば、社外取締役として弁護士を迎えるとバランスが取れるでしょう。
具体的には紹介・ダイレクトリクルーティング・転職エージェント・求人サイトなど様々な方法で候補者を探すことができます。候補者と面談をして、条件・処遇などを話し合い、合意を得たら株主総会で選任決議を行います。
社外取締役に向いている人
2020年に発表された経済産業省のデータによると、社外取締役のバックグラウンドは以下の通りでした。(n=1,061)
- 元経営者(46.0%)
- 弁護士(11.8%)
- 公認会計士・税理士(11.1%)
- 金融機関(10.2%)
- 学者(7.6%)
- 官公庁(4.9%)
- コンサルティング(2.4%)
参考:経済産業省
この調査の通り、元経営者が社外取締役として就任するケースが非常に多いです。企業の監視役として設置することが目的の社外取締役ですが、実際には経営に対する助言にも期待する企業も多いからです。経営者は、事業の推進方法だけではなく財務や法務などの幅広い知識を持っているので、社外取締役としては最適な人物といえます。
また、企業が不祥事を起こせば、企業のイメージは悪くなります。その結果、株価が暴落したり、金融機関から資金調達ができなったりして企業運営に大きなダメージをもたらします。そのため、弁護士が社外取締役として運営に入り、企業のコンプライアンス意識を高めるのは企業にとってプラスに働きます。
公認会計士や税理士は企業会計のプロです。企業が会計方法を間違えて後から決算の下方修正をしたり、粉飾決算をしたりすれば、企業は信頼を失います。そんなことを避けるため、公認会計士や税理士が企業会計で間違いがないように目を光らせることは大切なのです。
社外監査役とはsection
監査役とは、取締役がきちんと機能しているか監督する役割を担います。社内から選ばれた監査役ではなく、社外から選ばれた監査役のことを社外監査役といいます。
社外監査役が必要になるケース
監査役の設置にはルールがあります。取締役会を設置している企業、公開会社(自由に譲渡できる株式が1株でもある会社)でかつ大会社(資本金5億円以上又は負債総額200億円以上の会社)の場合にしか監査役会は必要ありません。つまり、ほとんどの会社(非上場会社や取締役会を設置していない中小企業)では監査役は必要ないのです。
また、監査役を設置する場合には、監査役は3人以上必要です。そして、その「半数以上」が社外監査役でなければならないので、社外監査役の人数は最低でも2人以上になります。
会社法第335条
3 監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない。
また、非上場企業・中小企業などでも定款内容を変更すれば監査役及び社外監査役を設置できます。
社外監査役の要件
社外監査役の要件は以下の通りです。社外監査役になるためには、以下の要件全てを満たす必要があります。
社外監査役 株式会社の監査役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員。ロにおいて同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ロ その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
引用元:会社法2条16号
社外取締役と同様に、社外取締役として就任する企業と利害関係がない人しか社外監査役に就任することはできません。また、監査等委員会設置会社の場合は、社外監査役を選任する必要はありません。
社外監査役の選任方法
監査役設置会社では、監査役の過半数以上を社外監査役にしなければいけないので、社外監査役のニーズは高まっています。社外監査役は弁護士・公認会計士などから選任することになりますが、すでに実力がある専門家は多忙であることがほとんどです。そのため、コネクションがない場合には転職エージェント・ダイレクトリクルーティング・マッチングサイトなどを活用して社外監査役候補を探すことが多いです。
社外監査役に向いている人
社外監査役は、公認会計士・税理士・弁護士・元銀行員などが向いています。業務監査と会計監査を主に行うので、正しいオペレーションや会計ができているかが理解できる専門家が求められるからです。そのため、社外取締役は元経営者が多いですが、社外監査役は法律・会計の専門知識を持つ人物が向いているといえるでしょう。
社外取締役の役割section
では、社外取締役の具体的な役割を紹介します。
コーポレート・ガバナンスの実現
社外取締役は、企業が不祥事を起こさないように経営者を監視する役割があります。生え抜きの社員が取締役として集まる土壌の場合、上下関係も厳しく、経営者(代表取締役)の意見が絶対になることもあるでしょう。その結果、組織ぐるみの不祥事が起こったり、不採算の事業を清算できずに経営が傾いたりということが起こりやすいです。
このようなことが起こればステークホルダー(株主・取引先・従業員)に大きな損害をもたらすことになります。ステークホルダーを守るために、上場企業では社外取締役の設置が義務となりました。企業とは利害関係がない人間が社外取締役として就任し、正しく運営できていることを監視・指導することが求められます。
経営陣への助言
社外取締役の多くは元経営者です。元経営者は事業を拡大する方法、新規事業に参入する方法、経営難の時に危機を乗り切る方法など身をもって体験しています。その体験をもとに、社外取締役として就任する企業に対して経営に対するアドバイスすることが期待されています。
ステークホルダーとの橋渡し
ステークホルダー(株主・取引先・従業員など)の存在なしでは、企業活動はできません。そのため、ステークホルダーの意見をよく聞き、運営に反映させていくことは非常に大切なのです。ただし、ステークホルダーの声を経営陣に届けるのは非常に難しいのも現実です。そこで、経営陣と直接対話ができる社外取締役には、ステークホルダーの意見を経営陣に届けるという役割も期待されています。
IPOのサポート
ベンチャー企業では、IPOを目指す企業も多く存在します。IPOとは、企業が資金調達や知名度の向上などを目的として新規に株式を上場することです。IPOをするためには様々な規制をクリアする必要があります。実際にIPOを経験した経営者からのIPOのノウハウやスケジュールについてのアドバイスを期待して社外取締役に迎えることもあります。
社外監査役の役割section
では、社外監査役の役割はどのようなものなのでしょうか。
業務監査
社外監査役の一つ目の役割は、取締役が法令や定款を遵守しているか監督することです。これを「適法性監査」といいます。常任の監査役も同じく適法性監査は行いますが、社外取締役には外部の厳しい目での監査が求められます。監査役は専門の法的資格要件は要求されませんがやはり法務知識があるほうが心強いです。その結果、業務監査を任される社外監査役には弁護士が選ばれることが多いです。
会計監査
もう一つの役目は会計監査です。企業が間違った方法で会計をしていないか、企業ぐるみの粉飾をしていないかを監査します。常勤監査役、内部監査室、会計監査人などと連携して会計が正しく行われているかを確認します。そのため、会計の知識を持つ公認会計士や税理士などが会計監査担当の社外監査役に選ばれることが多いです。
その他|社外取締役と社外監査役の違いとしてあげられる項目section
仕事内容の違い
社外取締役と社外監査役の仕事内容を比べると、どちらも企業を監視する役割という点で同じです。しかし、社外取締役は事業に対する助言をするなど、幅広い仕事内容を求められることが多いです。実際に社外取締役として選ばれる人の約半数は元経営者です。
一方、社外監査役は業務・会計監査に留まります。そのため、社外取締役に比べると法律・会計のプロフェッショナルを選任することが多いです。
社外取締役と社外監査役に求められるスキルの違い
社外監査役は監査をするという役割から企業法務・会計の知識が求められます。一方、社外取締役の場合は特定のスキルが求められることはなく、企業の取締役に不足するスキルを補います。一般的には、経営の知識がある元経営者が選ばれることが多いですが、専門的な知識がある場合には経営者ではなくても起用されることもあります。
例えば、ダイバーシティやESGの知識が社内の取締役に足りないのであれば、社外の人間からそれらの知識を有する取締役を選びます。また、監査という立場ではなく、社員のコンプライアンス意識を改善する取り組みなどが求められる場合には弁護士でも社外監査役ではなく社外取締役として活動します。
社外取締役と社外監査役の年収水準の違い
2014年に行われた三井住友信託銀行の調査によると、社外取締役の1名当たりの年間平均報酬額は6.4百万円でした。また、社外監査役の1名当たりの平均年間報酬額は5.8百万円となっており、社外取締役のほうが報酬は高い傾向にあることがわかります。(参考:三井住友信託銀行)
社外取締役と社外監査役の人数の違い
上場企業における社外取締役の人数は最低でも2名となっています。ただし、コーポレート・ガバナンス強化のため、東証1部では取締役の3分の1以上を社外取締役にすることを要求する予定です。2020年の時点で、社外取締役が3分の1以上の1部上場企業は約60%となっています。
参考:「新1部」は社外取締役3分の1以上 東証改革で企業統治強化―金融庁:時事ドットコム (jiji.com)
一方、監査役設置会社では3名以上の監査役が必要ですが、監査役の半数を社外監査役が占める必要があります。つまり、監査役が3人の会社なら2人が社外監査役である必要がるのです。
社外取締役と社外監査役になる難易度の違い
大企業の場合、社外取締役・社外監査役共に学歴・実績・資格・スキルなどを見られるので、どちらも簡単とはいいがたいです。ただし、社外監査役は弁護士・公認会計士・税理士などの難関資格の保有が必要になりますが、社外取締役ならば経営・マーケティング・海外戦略・M&Aの経験や知識が認められれば選任されるので、社外取締役のほうが門戸は広いといえるのではないでしょうか。
まとめ
社外取締役は、企業経営の監視・経営陣へのアドバイス・ステークホルダーとの橋渡し・IPOのアドバイスなどの役割が求められます。元経営者が就任することが多いですが、弁護士・公認会計士・税理士が就任することもあります。コーポレート・ガバナンス強化により、2021年上場企業では社外取締役の設置が義務となりました。
一方、社外監査役は企業の監査を行うため、弁護士や公認会計士・税理士などの専門家が就任することがほとんどです。社外取締役のように企業のアドバイスなどは求められておらず、企業が不正を行っていないかなどを社内監査役と連携して厳しくチェックします。監査役設置企業では社外監査約の選任をしなければいけない決まりとなっており、監査役の半数を社外取締役が占める必要があります。