株主総会(かぶぬしそうかい)とは、株式会社に関する重要な事項を決定するための機関です。実質的なオーナーである株主によって構成されるため、株式会社においてもっとも重要な機関と位置付けられています。
株式会社には他にも、取締役・監査役・会計監査人・会計参与といった「役員」や、役員で構成される「取締役会」「監査役会」「委員会」といった組織が存在します。しかし、これらの役員の選任は、すべて株主総会決議によって行われます。また、会社の事業の根幹に関わる重要な事項は、取締役(会)だけで決めることはできず、株主総会決議が要求されるケースがほとんどです。
つまり株主総会は、役員やその他の機関よりも上位に位置する、株式会社の最高意思決定機関であると言えます。
株式のすべてを創業者の身内が保有する同族会社などを除けば、株式会社の経営者にとって、株主総会への対応はたいへん骨の折れる作業です。会社法に定められたルールを正しく踏まえたうえで、滞りなく株主総会を終えられるように、準備と対応を進めましょう。
必要に応じて、弁護士のアドバイスを受けることも効果的です。本記事では、株主総会における決定事項・招集手続き・決議の種類や、オンライン開催に関する最新の事情などを解説します。
株主総会で決定すべき事項section
株主総会で決定すべき事項は、大まかに以下の3つのカテゴリーに分類されます。
- 会社の根幹に関わる重要な事項
- 役員の選任・解任に関する事項
- 役員報酬に関する事項
- 株主の重要な経済的利益に関する事項
それぞれ、具体的にどのような決議事項が存在するのかを見ていきましょう。
会社の根幹に関わる重要な事項
会社の在り方を根本的に変えてしまうような重要事項は、最高意思決定機関である株主総会で決議すべき事項です。たとえば、以下の事項が株主総会決議の対象となっています。
・定款の変更(会社法466条)
・事業譲渡(会社法467条)
・合併などの組織再編行為の承認(会社法783条1項など)
また、会社の会計が適正に行われていることは、企業不祥事等を防止する観点から非常に重要です。そのため、会計の適正性を株主の視点から確認する機会を確保すべく、計算書類の承認も株主総会決議事項とされています(会社法438条2項)。
役員の選任・解任に関する事項
会社の経営を担う取締役や、監査を担う監査役などは、実質的なオーナーである株主のために職務を行います。株主としては、会社の価値を維持・向上させるため、自らが信頼できる役員を選任したいところです。そのため、すべての役員の選任(会社法329条1項)・解任(会社法339条1項)は、株主総会決議事項とされています。
役員報酬に関する事項
役員の報酬についても、株主総会で決議する必要があります(会社法361条1項)。事業経費の使い方は、本来であれば、会社の経営を担う取締役が裁量的に決められるものです。しかし、役員報酬を取締役が決めることを許すと、以下のような弊害が生じかねません。
- 取締役の報酬を過大に計上してしまう(お手盛り)
- 報酬カットなどを脅し文句にして、監査役に圧力をかけてしまう
これらの弊害を防ぐため、役員報酬については株主総会決議事項とされています。
株主の重要な経済的利益に関する事項
株主としての経済的な利益に大きな影響を与える事項については、株主によるコントロールを及ぼす必要があります。株主の経済的利益に関する主な株主総会決議事項は、以下のとおりです。
・資本金の減少(会社法447条1項)
・剰余金の配当(会社法454条1項)
・譲渡制限株式の譲渡承認※(会社法139条1項)
- 取締役会設置会社の場合、または定款で別段の定めがある場合は、取締役会決議事項
株主総会はいつ開催する?定時株主総会と臨時株主総会についてsection
株主総会は、開催するタイミングや頻度によって、「定時株主総会」と「臨時株主総会」の2種類に分かれます。
定時株主総会|毎年1回開催
定時株主総会は、毎事業年度が終了した後、一定の時期に招集されます(会社法296条1項)。定時株主総会が開催されるのは、基本的に年1回だけです。開催時期は実務上、事業年度終了後3か月以内に設定されることが多くなっています。
特に日本では、3月決算の上場企業が多数のため、毎年6月に定時株主総会を開催するケースが多いです。そのため、株式を所有している複数の上場会社が、同じ日に定時株主総会を開催する場合もよくあります。
事業年度終了月 | 法人数 | 利益計上法人 | 欠損法人 | |||
事業年度数 | 所得金額 | 事業年度数 | 所得金額 | |||
事業年度年1回 | 2月 | 176,981 |
52,954 |
百万円 1,618,851 |
124,027 |
百万円 1,134,759 |
3月 | 543,709 | 199,039 | 22,339,454 | 344,670 | 10,003,818 | |
4月 | 195,243 | 61,668 | 840,184 | 133,575 | 692,764 | |
5月 | 216,449 | 72,594 | 1,175,731 | 143,855 | 986,474 | |
6月 | 252,265 | 82,629 | 1,327,199 | 169,636 | 1,008,479 | |
7月 | 202,806 | 64,893 | 855,463 | 137,913 | 843,519 | |
8月 | 238,234 | 74,731 | 1,082,650 | 163,503 | 796,273 | |
9月 | 290,587 | 96,870 | 1,743,827 | 193,717 | 1,503,898 | |
10月 | 114,052 | 35,817 | 572,295 | 78,235 | 516,806 | |
11月 | 70,919 | 22,304 | 645,343 | 48,615 | 512,344 | |
12月 | 245,664 | 83,631 | 3,082,667 | 162,033 | 1,905,830 | |
1月 | 94,398 | 28,816 | 747,668 | 65,582 | 657,096 | |
計 | 2,641,307 | 875,946 | 36,031,331 | 1,765,361 | 20,562,061 | |
事業年度年2回以上 | 2・8月 | 3,105 | 945 | 23,476 | 5,273 | 154,322 |
3・9月 | 6,859 | 2,063 | 1,095,487 | 11,671 | 350,030 | |
4・10月 | 2,931 | 654 | 15,979 | 5,216 | 91,600 | |
5・11月 | 3,411 | 740 | 35,584 | 6,092 | 170,736 | |
6・12月 | 7,011 | 2,003 | 217,966 | 12,031 | 329,239 | |
7・1月 | 3,065 | 1,017 | 17,240 | 5,120 | 199,463 | |
計 | 26,382 | 7,422 | 1,405,732 | 45,403 | 1,295,389 | |
合計 | 2,667,689 | 883,368 | 37,437,062 | 1,810,764 | 21,857,450 |
臨時株主総会|いつでも招集可能
臨時株主総会とは、定時株主総会以外の株主総会を意味します。臨時株主総会は、必要があるときはいつでも招集できるとされています(会社法296条2項)。議題の内容はケースバイケースですが、役員の選解任・減資・M&Aなどを臨時で行うことになった際に、臨時株主総会が招集されることが多いです。
株主総会の招集手続きについてsection
株主総会を招集する際には、株主に対して招集通知を発送する必要があります。
招集通知発送のタイミングは?
株主総会招集通知の発送は、公開会社の場合は開催日の2週間前まで、非公開会社の場合は開催日の1週間前までに完了しなければなりません。株主が多数の場合には、招集通知発送に関する事務負担も大きくなるため、人員を確保して計画的に準備を進めましょう。
招集通知に記載すべき事項は?
株主総会招集通知には、以下の事項を記載する必要があります(会社法299条4項、298条1項)。
①株主総会の日時・場所
以下のいずれかに該当する場合には、その理由の記載も必要です。
- 定時株主総会の開催日が、前年の開催日から著しく離れた日である場合
- 公開会社において、集中日(同日に定時株主総会を開催する他の会社が著しく多い日)に定時株主総会を開催する場合
- 株主総会の開催場所が、過去のいずれの株主総会の開催場所からも著しく離れている場合
②株主総会の目的事項
株主総会によって決議すべき議題や、株主総会に対して報告すべき議題を記載します。
③出席しない株主に書面による議決権行使を認める場合は、その旨
書面による議決権行使ができる旨や、行使方法・行使期限などについての案内を記載します。併せて、株主総会参考書類の添付も必要です(会社法301条1項)。
④出席しない株主に電磁的方法による議決権行使を認める場合は、その旨
電磁的方法による議決権行使ができる旨や、行使方法・行使期限などについての案内を記載します。書面による議決権行使の場合と同じく、株主総会参考書類の添付が必要です(会社法302条1項)。
⑤会社法施行規則63条で定める事項
そのほか、株主総会の議題内容などに応じて、追加で記載すべき事項が定められています。
招集通知の発送方法は?
株主総会招集通知は、以下の場合には書面で発送しなければなりません(会社法299条2項)。ただし株主の承諾を得た場合には、書面に代えて、招集通知を電磁的方法により発することも認められます(同条3項)。
- 出席しない株主に書面による議決権行使を認める場合
- 出席しない株主に電磁的方法による議決権行使を認める場合
- 取締役会設置会社の場合
上記に該当しない場合、法的には、口頭や電話により招集通知を行うことも可能です。しかし、会社法上の招集手続きを適切に履践したことを明確にするため、書面により招集通知を発送することが望ましいでしょう。
なお、株主全員の同意がある場合には、招集手続きを経ることなく株主総会を開催しても構いません(会社法300条)。
株主総会決議の種類|普通決議・特別決議・特殊決議section
株主総会における決議要件は、決議対象となる事項によって異なります。
具体的には、「普通決議」「特別決議」「特殊決議」の3種類があり、それぞれ決議に必要な定足数や賛成数に違いがあります。
普通決議
「普通決議」(会社法309条1項)は、役員の選解任を含めた多くの決議事項に適用される、もっとも原則的な株主総会決議の形態です。普通決議に必要な定足数および賛成数は、以下のとおりです。
<定足数>
行使可能議決権の過半数を有する株主の出席
※定款によって排除可能
<賛成数>
出席株主の過半数の賛成
特別決議
「特別決議」(会社法309条2項)は、会社や株主にとって重要度の高い事項を決定する際に行われます。
(例)定款変更、事業譲渡、合併、会社分割、株式交換、株式移転など
特別決議に必要な定足数および賛成数は、以下のとおりです。
<定足数>
行使可能議決権の過半数を有する株主の出席
※定款によって、行使可能議決権の3分の1まで緩和可能(完全に排除することは不可
<賛成数>
出席株主の3分の2以上の賛成
特殊決議
「特殊決議」とは、普通決議・特別決議以外の株主総会決議で、以下の2つのパターンが存在します。
①パターン1
以下のいずれかの場合に行われる特殊決議です。
- 発行株式の全部につき、譲渡制限を設ける旨の定款変更の承認(会社法309条3項1号)
- 公開会社を消滅会社として、既存株主に譲渡制限株式が交付される、吸収合併契約または株式交換契約の承認(同項2号)
- 公開会社を消滅会社として、既存株主に譲渡制限株式が交付される、新設合併契約または株式移転契約の承認(同項3号)
パターン1の特殊決議に必要な定足数および賛成数は、以下のとおりです。
<定足数>
行使可能議決権の過半数を有する株主の出席
※定款による緩和は不可
<賛成数>
行使可能議決権の3分の2以上を有する株主の賛成
②パターン2
非公開会社において、以下の3つの権利につき株主ごとに異なる内容を定める旨の定款変更を行う場合、パターン2の特殊決議による承認が必要となります(会社法309条4項)
- 剰余金の配当を受ける権利
- 残余財産の分配を受ける権利
- 株主総会における議決権
パターン2の特殊決議に必要な定足数および賛成数は、以下のとおりです。
<定足数>
総株主の半数以上の株主の出席
※定款による緩和は不可
<賛成数>
総株主の議決権の4分の3以上を有する株主の賛成
バーチャル株主総会とは?最新のオンライン開催事情section
2020年以降、新型コロナウイルス感染症が流行したことに伴い、株主総会をオンラインで開催する「バーチャル株主総会」がいっそう注目を集めています。
バーチャル株主総会の種類
バーチャル株主総会は、開催形態に応じて、以下の3種類に分類されます。
①ハイブリッド参加型株主総会
物理的な会場を設けて株主総会を開催しつつ、オンラインでもオブザーバーとして株主総会を傍聴できる形態です。オンラインで株主総会を傍聴する株主は、議決権等の株主権を行使できません。
②ハイブリッド出席型株主総会
物理的な会場で参加する株主と、オンライン参加の株主に、同等の権利行使の機会を与える開催形態です。オンライン参加の株主も、議決権等の株主権を行使できます。
③バーチャルオンリー株主総会
物理的な会場を設けず、オンラインのみで株主総会を開催する形態です。従来は認められないと解されていましたが、2021年6月16日に施行された改正産業競争力強化法により、上場会社に限って開催可能となりました。
バーチャル株主総会のメリット
バーチャル株主総会の主なメリットは、以下のとおりです。
- 遠方からでも参加しやすい
- 集中日に開催される複数の株主総会に参加しやすい
- 参加株主数が増えることにより、株主総会の透明化に繋がる
- 会場使用にかかるコストを削減できる
- 感染症対策になる など
特に新型コロナウイルス感染症の流行によって、感染症対策の観点から、バーチャル株主総会の有用性に注目が集まりました。産業界の強い要望もあり、2021年の株主総会が集中的に行われる時期に合わせて、従来は認められていなかったバーチャルオンリー株主総会が認められるに至った事情があります。
バーチャル株主総会に関する注意点
バーチャル株主総会の開催に当たっては、当日にトラブルが発生するリスクが、リアルのみの開催の場合よりも強く懸念されます。もっとも注意すべきポイントは、当日の回線トラブルです。
回線トラブルが発生すると、オンライン参加の株主から、権利行使の機会を奪ってしまうことになりかねません。会社としては、オンライン参加のシステムを万全に構築・整備することが大前提です。
そのうえで、当日に回線トラブルを訴える株主の対応を行うため、サポートデスク等を設けることも必要となるでしょう。これらの対応に伴い、バーチャル株主総会を開催するためには、かなりのコストを要する点に注意が必要です。
2021年の定時株主総会の開催状況section
直近の年度である2021年に開催された定時株主総会について、データからその特徴を検討してみましょう。
「集中率」の低下
東証のデータによると、2021年に開催された3月期決算会社の株主総会は、最集中日への集中率が1983年の集計開始以来最低の「26.9%」となりました。1995年には「96.2%」と圧倒的に高い集中率を記録したことに比べると、直近30年弱の間に、集中率はかなり下がったことになります。
集中率の低下の背景には、株主総会を株主との重要な対話の場として捉える認識が、各会社の間で広まった事情があると考えられます。
バーチャル株主総会の増加
同じく東証のデータによると、2020年3月期の定時株主総会において、バーチャル株主総会を実施した会社は「5.2%」にとどまっていました。これに対して、2021年3月期の定時株主総会では、バーチャル株主総会を開催した会社は「14.0%」にまで拡大しています。
総会形式 | 割合(社数) |
---|---|
実出席のみ | 86.0%(1,421社) |
バーチャル総会を実施予定 | 14.0%(232社) |
内、ハイブリッド参加型 | 12.6%(208社) |
内、ハイブリッド出席型 | 1.1%(19社) |
内、バーチャルオンリー型 | 0.3%(5社) |
2020年3月期の定時株主総会は、コロナ禍突入からわずか数か月後の時期であったため、バーチャル開催の準備が整わなかった会社が多かったのでしょう。その後コロナ禍が長期化するに伴い、バーチャル開催の可能性を1年間にわたって検討した結果、2021年からバーチャル株主総会を導入するに至った会社が増えたものと考えられます。
出典:2021年3月期決算会社の定時株主総会の動向について|株式会社東京証券取引所
議案への賛成率は高水準を維持
大和総研のデータによれば、2021年6月に開催されたTOPIX500採用企業の株主総会では、全議案の平均賛成率は95.9%でした。2018年から2020年までの3年間も、一貫して95%前後を推移しており、2021年についても高い賛成率が維持されたことになります。
したがって、一般的な議案であれば、議案が否決される可能性は低い状況と言えるでしょう。ただし買収防衛策の導入は「67.2%」、退職慰労金等の支給については「74.5%」など、議案の内容によっては賛成率が低くなっている点に注意が必要です。
株主総会に向けて企業が行うべき準備section
株主が身内のみである同族企業を除けば、株主総会対策は、会社にとってかなり気を遣わなければならないポイントです。滞りなく株主総会を終えるため、以下の内容を踏まえて、万全の準備を整えましょう。
スケジュールを立てて計画的に準備を進める
株主総会への準備は、決算後からすぐに始めることが望ましいです。3月決算の会社の場合、おおむね以下の要領でスケジュールを立てるとよいでしょう。
- 4月~決算整理の開始
- 4月半ば:株主名簿の書き換え締め切り
- 4月下旬~5月上旬:決算書類を監査役・会計監査人に提出
- 5月下旬:監査報告書を取締役会に提出
- 6月上旬:株主総会関係書類の完成・印刷
- 6月上旬~中旬:株主総会招集通知の発送
- 6月中旬~:計算書類・附属証明書・監査報告書の本社据え置き
- 6月中旬~下旬:株主総会開催
必要な手続きから逆算してスケジュールを立て、計画的に株主総会の準備を進めてください。
株主からの想定質問と回答をまとめておく
株主の質問に対して、適切な回答をできるかどうかは、株主の経営陣に対する信頼を左右する重要なポイントです。イレギュラーな質問が飛ぶケースもある一方で、あらかじめ予想できる質問もあります。
事前に想定される質問については、回答案を検討して、想定問答集にまとめておくとよいでしょう。
計算書類・招集通知・報告書などに不備がないかチェックする
株主総会に関する資料に不備があると、株主からの問い合わせやクレームを誘発し、会社の事務負担が増えてしまいます。そのため、株主向けに発送・公表する前に、関連書類に不備がないかを再三にわたって確認しましょう。
弁護士に株主総会対策のアドバイスを求める
株主総会対策については、顧問弁護士などにアドバイスを求めることも効果的です。会社法上の手続きに加えて、株主への質問対応についても、他社事例の経験等を踏まえてアドバイスを受けられます。
バーチャル株主総会を導入する際にも、弁護士に相談すれば、よくあるトラブル等を踏まえた適切な設計が可能となります。株主総会を効率的に運営しつつ、株主とのトラブルを回避したい会社は、弁護士へのご相談をご検討ください。