監査役という役職名は知ってはいるものの、どんな企業で必要になる役職なのか、どんな役割があるのかまで正確に答えられる方は少ないでしょう。監査役は、企業が不正等を図らないように監視するのが主な役割です。
この記事では、監査役が具体的にどんな仕事をして、どんな義務があるのかについて説明します。
企業における監査役とはsection
監査役とは、株主総会で選任され、取締役の職務の執行を監査する役割です。企業は、取締役が中心に目標などを決めて運営を行います。
しかし、企業は株主のものです。オーナー企業の場合は取締役=株主であることがほとんどですが、上場会社の場合はそうではありません。そのため、監査役が株主に代わり経営がきちんとできているかを監査する必要があるのです。
参考:監査役とは(監査役制度)|公益社団法人 日本監査役協会 (kansa.or.jp)
監査役になるための要件
監査役は基本的には誰でもなれますが、以下に監査役になれない場合をご紹介します。
- 法人
- 成年被後見人・被保佐人
また、会社法335条2項では兼任禁止についての説明があり、以下の役職との兼任は禁止されています。
- 会社の取締役・支配人・従業員
- 子会社の取締役・支配人・従業員
- 子会社の会計参与・執行役
(監査役の資格等)
引用元:会社法
第三百三十五条 第三百三十一条第一項及び第二項並びに第三百三十一条の二の規定は、監査役について準用する。
2 監査役は、株式会社若しくはその子会社の取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若しくは執行役を兼ねることができない。
3 監査役会設置会社においては、監査役は、三人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない。
これらを除けば監査役になることはでき、学歴・資格・性別などは関係ありません。
監査役の設置が必要な「監査役設置会社」について
監査役が必要なのは「監査役設置会社」です。取締役会を設置している、または「資本金として計上した額が5億円以上」あるいは「負債として計上した額の合計額が200億円以上」という場合には監査役が必要です。そのため、日本に存在するほとんどの企業(中小企業・未上場会社)等では監査役は必要ありません。
監査役の選任方法
監査役の選任するためには株主総会の決定が必要です。監査役としてふさわしい人を選び、面談をして承諾を得た後に、まずは監査役会で新しい監査役就任の同意が必用となります。
監査役会で同意を得られたら、株主総会で決議をするという流れになります。
監査等委員会設置会社は監査役を設置しない
監査等委員会設置会社では監査役は設置しません。監査等委員会設置会社は、2015年5月の会社法改正により導入された制度で、監査役を任命する必要はありません。しかし、過半数の社外取締役を含む取締役3名以上で構成される監査等委員会を運営する必要があり、この委員会が取締役の職務執行に関する監査を担当します。
監査役設置会社の場合は、社外監査役を監査役全体の過半数(2人以上)設置する必要がありますので、監査等委員会設置会社の場合は社外役員を少なく抑えることができます。
会計参与を設置している会社は監査役を設置しない
会計参与を設置している会社も監査役は必要ありません。会計参与は、株式会社の規模、株式の譲渡制限等に関係なく任意に設置することが可能です。
会計参与になれるのは、税理士(税理士法人を含む)・公認会計士(監査法人を含む)に限られます。また、顧問税理士も会計参与になることができます。
監査役の任期
監査役の任期は4年です。取締役の任期は2年であるため、監査役の任期のほうが長いです。
また、再任することも可能です。任期満了に伴い一度退任したのちに、株主総会の決議で選任します。退任・再任の登記も必要になるので、手続きを忘れないように気を付けなくてはいけません。登記は就任から2週間以内に行う必要があります。
社内監査役と社外監査役の違いsection
社内監査役は、一般的にはその企業の生え抜き社員から選ばれます。法務部や財務部、内部監査等を担当していた法律・会計に詳しい社員の中から選ばれることが多いようです。
一方、社外監査役は非常勤です。監査役会や取締役会などが行われるときだけ出勤します。社外監査役として就任する企業を外部の視線からより厳しく監査するために、利害関係のない人物が選ばれます。
会社法2条16号
引用元:会社法
社外監査役 株式会社の監査役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員。ロにおいて同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ロ その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
監査役の主な役割section
それでは、監査役の主な役割について紹介します。
業務監査
監査役の一つ目の役割は、職務執行が法令や定款に違反していないか、取締役会決議・株主総会決議に則った運営をしているかを監査することです。
企業が法令違反をすると、企業に対する信頼感が失われます。取引先や消費者が商品やサービスを購入してくれなくなれば、企業運営が適切にできなくなってしまいます。
その結果、投資家である株主は大きな損害を被ることになるでしょう。株主は企業の運営を常に監視することはできないので、株主総会や取締役会で決まった内容に従い企業が確り運営できているかを監査することを監査役には求められます。
業務監査については、法律・コンプライアンスに詳しい人材が適任といえるでしょう。
会計監査
監査役の二つ目の役割は、企業会計に関する監査を行うことです。具体的には以下のような内容となります。
- (1)計算関係書類の記載項目の適法性
- 会社計算規則に規定されている事項が記載されているか確認
- (2)計算関係書類の数値の適正性
- 会計基準 ・貸借対照表の中で特に重要な項目
- 損益計算書の中で特に重要な項目 ・繰延税金資産の回収可能性の判断
- 減損会計における減損認識の要否や資産のグルーピングの判断
- その他、個々の会社の固有リスク項目
例えば、企業が赤字になると株価が落ちたり、銀行から資金調達ができなくなったり、経営陣の責任追及があったりという懸念が出てきます。その結果、決算内容を改ざんする粉飾決算を行い、決算内容をよく見せようとする企業もあります。しかし、粉飾決算がわかれば企業に対する信頼はなくなります。このような不正を未然に防ぐために、監査を行います。
具体的には、経理部門から説明を受けたり、根拠資料で確認をしたり、現場往査や現物(固定資産、在庫、有価証券等)実査を行ったりして監査を行います。
監査役の責任と義務section
それでは、監査役の責任(義務)について説明します。参考:公益社団法人 日本監査役協会関西支部
善管注意義務
株式会社と監査役の関係か委任契約ですが、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」(民法644条)という規定があります。
そのため、監査役に選ばれたら、「取締役の職務執行が適正に行われているか監査する職務を適切に遂行する」必要があるのです。
取締役会出席・意見陳述
監査役は取締役会への出席が義務であり、必要があれば取締役会内で発言します。取締役会は年に4回以上となっていますが、実務的には毎月行うことが多いようです。取締役会参加前には、取締役会の議案を事前に入手して内容を確認する監査役が多いです。
重要会議への参加
取締役会だけではなく、企業として重要な会議があれば監査役も参加します。例えば、リスク管理・コンプライアンス・経営監査等の内容の会議です。
ただし、効率的な監査活動を遂行するのが監査役に求められています。重要な会議が多い場合は、選定したものにだけ参加、または監査役間で選定した監査役が出席するという方法も取れます。
代表取締役との会合
必要があれば代表取締役との会合に参加します。会合では、会社を取り巻くリスク、監査上の重要課題等について意見交換をします。特に企業の運営方針を決断していく代表取締役は、事業の推進するための方法については詳しいかもしれませんが法律などの知識は少ない場合もあります。
法改正などがあれば代表取締役へ伝えて、企業としてどのように対処していくかを考えることもあるでしょう。
事務所(本社・営業所・工場)等の往査
不正は本社以外で起こることもあります。特に、教育が不十分な現場では従業員のコンプライアンス意識が低いことが原因で不祥事が発生することもあるでしょう。
地方の営業所や工場などに出向き、「オペレーションに問題はないか」「従業員の教育はできているか」などを確認し、不祥事の芽を摘んでおくことも監査役の仕事です。実態を知るためには、代表者だけではなく現場社員、一般社員等から本音を聞くというのも大切です。
具体的な監査事項としては、法令遵守状況の確認、内部統制システムの構築・運用状況の確認、経営状況の浸透の確認などがチェック項目となります。
子会社の往査
子会社で不祥事が起こったとしても、親会社の管理不足ととらえられ信用が落ちる可能性があります。特に、企業文化が異なる企業を子会社として買収する場合、従業員の教育を親会社の水準に合わせなければいけません。監査役は、子会社への往査をして、オペレーションや教育ができているかを確認する必要があります。
具体的には、面談・現地視察・内部監査部に同行という形で往査は行われます。
計算書類・事業報告・附属明細書の監査
計算書類・事業報告・附属明細書の監査などの会計書類監査も監査役の重要な仕事です。上場企業では、会計書類を公開しますが、取締役が作成した決算資料を監査役が監査します。
監査報告作成
決算書類の監査が完了したら、監査役は監査報告を作成する必要があります。
株主総会議案・提出書類の調査
取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類、電磁的記録その他の資料が法令や定款に違反していないかを調査するのも監査役の仕事です。会社法384条では、提出資料に著しく不当な点があるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならないと記載があります。
常勤監査役の選定及び解職
常勤監査役の選定・解職は、監査役会の同意が必要です。監査役会での同意を得た後に、株主総会での決議で決定します。
社外取締役(子会社含む)との連携
監査役は、社外取締役との連携も必要です。社外取締役は、企業を監視するという点では監査役と同じような役割ですが、元経営者などが社外取締役として就任すると、企業の成長を図る「攻めのガバナンス」になりやすいです。一方、監査役は企業の不祥事を未然に防ぐための「守りのガバナンス」です。
そのため、社外取締役と監査役は、お互いの特徴を踏まえて連携を深め、企業が不正を図ることなく成長するようにサポートすることが大切なのです。
具体的には、経営課題等についての意見交換の場を設置、監査役会に社外取締役にオブザーバー参加してもらうという連携方法があります。
企業内部監査部門との連携
企業には内部監査に対応する部門があります。監査役と内部監査部門では、監査の対象・内容は異なりますが、監査結果を強要することで企業としての課題が見え、改善につながる可能性もあるでしょう。
また、内部監査部門の監査対応が甘かったり、従業員への指示が弱かったりする場合、従業員のコンプライアンス意識が育ちません。その結果、小さな不正が積み重なり大きな不祥事と発展したり、一人の従業員が重大な過失(横領や情報漏洩など)を起こしたりする可能性もあるでしょう。
このような問題を未然に防ぐためには、勉強会の実施やマニュアル作成などが考えられます。企業の体制としてどんな問題があるのかを確認して、それに対する解決策を提示するのも監査役の役割です。
監査役の権限section
ここでは、監査役の権限について説明します。
取締役から業務状況に関する報告を受ける
会社法357条1項・2項では、取締役から報告を受ける権限についての記載があります。例えば、取締役会時の取締役からの報告だけでは情報が足りないと判断する場合には、取締役に追加報告を依頼することができます。
事業内容について独自で調査
監査役は事業内容を独自の方法を用いて調査することも可能です。例えば、取締役からの事業に対する情報が少ない、虚偽の報告をしている懸念があるという場合には独自の調査で不正が行われていないかを調査します。
取締役会へ報告
企業運営で重大な過失などが発覚した場合、監査役は取締役会に報告しなければいけません。取締役会は、監査の内容を受けて改善すべき点は改善します。
株主総会で監査内容を報告
監査役は、監査内容を株主総会で発表します。会社法384条では、「法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならないと」いう記載があります。
一方で、不当な事項が確認されない場合、監査役が報告する必要があると記載しているものはありません。ただし、監査役が株主総会にて監査の内容が正しい旨を報告するのが一般的になっています。
状況に応じて監査役が実施しなければいけないことsection
最後に、監査役が状況に応じて対応することについて説明します。
株主総会における質問への説明
株主総会で監査に対する特定の質問があった場合には、監査役は説明しなければいけません。こちらについては、会社法314条に記載があります。
取締役の不正行為の阻止
取締役が不正を働こうとしていることに気づいた場合、監査役は未然に防ぐ必要があります。
取締役・会社の訴訟
取締役・会社が過失を犯した場合には、監査役は訴訟を起こす必要があります。
監査役には損害賠償責任があるsection
監査役は、善管注意業務を怠り、会社や株主に不利益が生じた場合損害賠償をされる可能性があります。
会社に対する損害賠償責任
取締役は、任務を怠ったときに会社生じた損害を賠償する「任務懈怠(けたい)責任(会社法423条)」を負います。
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
4 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。引用元:会社法第423
ステークホルダーに対する損害賠償責任
取締役が、意図的・重大ミスによりステークホルダーに損害を発生させた場合、ステークホルダーは、取締役個人を訴えて会社に対する損害賠償を請求できます。
まとめ
監査役の役割は業務監査と会計監査です。業務監査では、法律や定款に違反しない方法で企業運営ができているかを監査します。一方、会計監査では企業が粉飾決算などをしてステークホルダーに損害を与えないように、会計方法が正しく行われているかを監査します。
監査役には社内監査役(常勤)と社外監査役がいます。外部の目線で監査するために社外監査役は重要な役割を果たすのです。
監査役の仕事は、決算資料を確認する、取締役会・監査役会に参加するということだけとどまりません。時には代表取締役や社外取締役との会合をしたり、本社・営業所・工場・子会社などの往査をしたりします。このように監査役の仕事は多義にわたります。
また、善菅注意義務が課せられるので、きちんと役割を果たさなかった場合には損害賠償を請求される恐れがあり、責任が重い仕事といえるでしょう。