企業が成長を目指すに当たっては、法的な観点から企業をサポートする顧問弁護士の役割は重要になってきます。法律トラブルによって足下を掬われてしまうことがないように、早い段階から顧問弁護士への依頼をご検討ください。
ただし、顧問弁護士として適任かどうかについては、弁護士によって大きく異なります。自社のビジネスに対する理解をはじめとして、顧問弁護士としての適性を備えた弁護士を見つけてください。この記事では、顧問弁護士の選び方について、求められる資質や適任者を探す方法などの観点から解説します。
顧問弁護士の5つの役割section
顧問弁護士は、クライアント企業のビジネスに寄り添うパートナーとして、さまざまな場面・観点において法的なアドバイスを行います。顧問弁護士が果たすことのできる役割は多種多様ですが、代表的なものは以下のとおりです。
日常的な法律問題についての相談を受け付ける
企業は、営業活動の中でさまざまな取引を行います。また業種によっては、規制権限を行使する官公庁への対応が必要になる場合もあるでしょう。さらに対内的には、従業員の雇用に関する労務問題や、株主総会・取締役会等の社内機関の運営に関する悩みもしばしば発生します。
顧問弁護士は、このような企業が抱える日常的な法律問題に対して、法的な観点からアドバイスを行います。法律問題についていつでも相談できるアドバイザーがいるということは、企業にとって心強いポイントでしょう。
社内規程の見直しなど、会社内部の体制整備に協力する
会社の規模が大きくなればなるほど、社内規程をきちんと整備して、ルールに則った社内運営(コーポレート・ガバナンス)を図る必要があります。コーポレート・ガバナンスが強化されれば、社内で違法行為等が発生するリスクが減少し、会社経営が安定するからです。
顧問弁護士は、クライアント企業の求めに応じて社内規程などを全般的にチェックし、コーポレート・ガバナンス上の改善点をアドバイスすることがあります。
法改正などの最新情報を顧客に提供する
各種法令は、社会の実情に合わせて年々アップデートされており、企業は法改正の内容にも適応していかなければなりません。顧問弁護士によっては、クライアント企業に対してニュースレターを発行し、法改正に関する最新情報をアナウンスするなどの取り組みを行っているケースがあります。
顧問弁護士のニュースレターを確認すれば、最新の法改正等に関する問題意識を頭に置いておけるので、早期に法改正への対応を行うきっかけが得られるでしょう。
定期的に社内研修を行う
社内でコンプライアンス研修などを行う場合、顧問弁護士に講師を依頼するのがお勧めです。法律と実務の両面から、顧問弁護士にコンプライアンス上の留意点をわかりやすく講義してもらうことで、従業員のコンプライアンスに対する知識と意識を向上させることに繋がります。
訴訟などの有事についてスムーズに対応する
万が一会社が他社から訴えられるなどの非常事態が発生した場合でも、顧問弁護士と契約を結んでいれば、すぐに対応策について相談することが可能です。顧問料とは別料金での対応になるケースが多いですが、早期に顧問弁護士に相談することで、有事対応の初動が早くなることは大きなメリットでしょう。
顧問弁護士の選び方|顧問として重要な資質とは?section
顧問弁護士は、クライアント企業に密着した法務アドバイザーとしての役割を果たす存在です。その性質上、顧問弁護士は以下の資質を備えている必要があります。
顧客企業のビジネスに対する深い理解
顧問弁護士を付けることの大きなメリットは、自社のビジネスや組織に沿ったオーダーメイドのアドバイスが受けられる点にあります。顧問弁護士は、日常的にクライアント企業と付き合う中で、クライアント企業のビジネスについての理解を深める必要があります。
そうすれば、法律を杓子定規に適用するだけではなく、クライアント企業にとって真に有益なアドバイスができるようになるからです。したがって顧問弁護士は、元々クライアント企業のビジネスについて深い知見を備えているか、少なくともビジネスを深く理解しようとする姿勢を持っていることが求められるでしょう。
企業法務に関する知識・経験
顧問弁護士としての業務は、個人を顧客とした業務(いわゆる「一般民事」)と比較した場合、着眼点や扱う法令の内容が大きく異なります。そのため、企業向けの法務に関する経験が豊富な弁護士の方が、顧問弁護士としては信頼に値する可能性が高いでしょう。
レスポンスの速さ
顧問弁護士は、企業の日常的な法律相談に対して、タイムリーに回答することが求められます。そのため、クライアント企業の連絡に対するレスポンスの速さは、顧問弁護士として必須の資質と言うべきでしょう。もしメール等で連絡をした際に、何日も返信が返ってこないとすれば、その弁護士は顧問弁護士としての適性がない可能性が高いと言えます。
相談しやすさ
クライアント企業が法律問題への対応に迷った際に、いつでも気軽に相談できるようでなければ、顧問弁護士と契約する意味が半減してしまいます。そのため、どんなことでも気軽に相談できる雰囲気を備えているかどうかは、顧問弁護士を選ぶ際に重要なポイントです。
なお弁護士によっては、顧問契約上相談回数が制限されているケースもあるので、必ず事前に契約内容を確認してください。
グローバル企業の場合、国際法務の経験も重視
海外との取引を頻繁に行う企業の場合、国際法務の経験を豊富に有する弁護士に、顧問弁護士を依頼することを強くお勧めいたします。特に英文契約書類のレビューについては得意・不得意の差が大きく、誰に顧問弁護士を依頼するかによって、レビューの質が全く異なります。
大手法律事務所に勤務していた経験があったり、国際法務を積極的に取り扱う法律事務所に参画していたりする場合は、グローバル企業の顧問弁護士として適任である可能性が高いでしょう。
顧問料とサービス提供範囲の費用対が適切であること
顧問弁護士の顧問料は、これまで日本弁護士連合会の報酬基準規定において、事業者向けの弁護士顧問料の最低金額は月額5万円と定められていたため、撤廃されたあとも5万円と設定している法律事務所が多いのが実情です。
5万円の顧問料でどこまでのリーガルサービスを提供するかは法律事務所によって異なりますが、同様のサービスを3万円以下という極めて安い顧問料で提案している法律事務所もあります。同じサービス範囲であれば安い方に依頼する方がコストを削減できるのでその方が良いのですが、デメリットもあります。
一般的に顧問料が安い法律事務所の場合、顧問料の範囲内で受けられるサポートは非常に限定的で、時間単位で区切られているケースがあります。そのサポート時間を超えた範囲での依頼をする場合、タイムチャージ(いらゆる追加料金)がかかる料金システムになっている可能性が高いです。
そのため、依頼内容によっては、かえって支払う弁護士費用が高くなることがあり得ます。特に、スタートアップやベンチャー企業では『法務ニーズ』は高くともそこにかけれる予算が少ない場合が往々にしてありますので、顧問料だけではなく、『提供サービスの範囲がどこまでか』は、必ず確認することが大切です。
顧問弁護士としての適任者を探す方法は?section
顧問弁護士を探すルートには、経営者の方の個人的な繋がりのほか、インターネットや弁護士会を経由する方法などが考えられます。
友人・知人の弁護士に相談する
友人や知人の中に弁護士がいる場合には、人柄や能力などをよく知っている分、顧問弁護士への就任を依頼しやすいでしょう。また、本人が顧問弁護士への就任を受けられない場合でも、信頼できる弁護士の紹介を受けることができます。
経営者ネットワークを活用する
経営者同士のネットワークに参加している場合は、他の経営者に相談してみると、知り合いの弁護士を紹介してもらえる可能性があります。特に一定規模以上の会社の経営者は、顧問弁護士を付けているケースが多いので、自社の顧問弁護士を紹介してくれるかもしれません。
実際に依頼したことのある経営者からの紹介であれば、顧問弁護士の能力や人柄についても信頼がおけるでしょう。
弁護士ポータルサイトなどを活用する
最近では、弁護士に関する情報をまとめたポータルサイトなどが発展しているので、インターネットを活用して顧問弁護士の候補者を探すのも有力な方法です。
弁護士ポータルサイトでは、多くの場合、地域や得意分野ごとに弁護士を検索できる仕様になっています。顧問弁護士を探す際には、企業法務を得意としており、自社の本店所在地に近い地域に事務所を構える弁護士を探すとよいでしょう。
ポータルサイト経由の法律相談を無料にしている弁護士も多いので、正式に依頼する前に一度面談を申し込んでみてください。
主な弁護士ポータルの例
企業法務弁護士ナビ|掲載法律事務所50事務所以上(所属弁護士数:300名以上)
会社設立 / IT・誹謗中傷削除 / 人事・労務 / 訴訟 / クレーム・不祥事
上記分野の法律助言実績10社以上
M&A・事業承継 / 国際取引 / IPO / 事業再生・破産・清算 / 知的財産
上記分野の法律助言実績5社以上
特定の業界に属する企業と5社以上との顧問契約実績、もしくは10件以上の法務の解決実績がある弁護士のみを掲載。
公式サイト:https://houmu-pro.com/
企業法務ナビ|掲載弁護士数200名以上(弁護士個人単位)
企業法務に役立つニュース、コラム、ノウハウ、セミナー、Webセミナーの情報が検索できます。企業法務に精通した弁護士の検索もできます。
公式サイト:https://www.corporate-legal.jp/
弁護士会に相談する
弁護士との個人的な繋がりがない場合には、弁護士会に紹介を求めるのも一つの方法です。弁護士会では、その都道府県における弁護士の情報を集約しているので、顧問弁護士として適任の弁護士を紹介してもらえる可能性があります。
特に大都市圏以外の地域であれば、各弁護士の取り扱い分野や人柄までよく把握しているケースが多いので、一度弁護士会に足を運んでみることをお勧めいたします。
公式サイト:https://www.nichibenren.or.jp/
顧問弁護士を選任するまでの流れsection
顧問弁護士を正式に選任・依頼するまでには、適宜無料相談などを活用して、複数の弁護士を比較することをお勧めいたします。また、顧問弁護士との委任契約を締結する際には、契約内容をよく確認しましょう。
法律相談を申し込む
自社の顧問弁護士としての適性を見極めるため、まずは心当たりの弁護士に法律相談を申し込みましょう。初回の法律相談は無料で実施している弁護士も多いので、比較的気軽に利用できます。
法律相談の場では、
- 自社がどのようなビジネスを展開しているのか
- 顧問弁護士にどのような役割を求めているのか
- 顧問料の予算はどのくらいか
など、依頼に当たってポイントとなる事項を説明しましょう。特に自社ビジネスの説明をした際に、弁護士が示す反応に着目すると、自社にマッチした顧問弁護士に出会えるかもしれません。
必要に応じて複数の弁護士を比較する
弁護士によって得意分野は異なりますし、人柄や雰囲気も千差万別です。また、提供している顧問契約のプランについても、弁護士ごとにかなりのバリエーションがあります。そのため、顧問弁護士として適任の弁護士を見つけるには、複数の弁護士を比較してみることをお勧めいたします。
無料相談を実施している弁護士であれば、何人に相談しても費用はかからないので、納得がいく弁護士に当たるまで相談し続けてもよいでしょう。
委任契約書を締結する
最終的に顧問弁護士としての適任者が見つかったら、委任契約を締結して顧問弁護士に就任してもらいます。委任契約書には、顧問契約の具体的な内容が記載されているので、締結する前に内容を必ず確認してください。
顧問弁護士との委任契約において、主に確認すべきポイントは以下のとおりです。
①月々の弁護士費用
顧問弁護士の報酬は、サポート業務の範囲に応じて月額制で定められるのが一般的です。弁護士との間で合意した料金が、契約書上も明記されているかどうかを確認しましょう。
②サポート業務の範囲
弁護士は、顧問契約の枠内で何でも対応してくれるわけではありません。月額固定の報酬に応じて、合理的な範囲に業務が収まるように、サポート範囲を限定しているケースが多いです。
そのため、顧問契約の枠内でどの範囲まで対応してもらえて、どこから追加料金が発生するのかを必ず確認しておきましょう。なお、複数の顧問契約プランを用意している弁護士の場合、サポート業務の範囲は契約するプランによって異なります。
弁護士にプラン内容の詳細を確認したうえで、自社のニーズと予算に合わせたプランを選択してください。
③解約の手続き
顧問契約を終了する際の手続きも、契約締結時に念のため確認しておきましょう。解約前の予告期間が定められていたり、依頼者都合での解約時には解約金の支払いが必要であったりするケースがあるので、きちんと解約条件を把握することが大切です。
顧問弁護士を付けるべきタイミングは?section
顧問弁護士を付けるタイミングについては、企業によってさまざまな考え方があろうかと思います。会社がかけられる予算との兼ね合いもありますが、一般的には以下のようなタイミングで顧問弁護士の選任を検討するケースが多いです。
顧問契約のプランはさまざまであり、ミニマムな予算から依頼できる場合もあるので、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
従業員数が多くなってきたタイミング
従業員の数が増えてくると、労務管理に関する法律問題が発生するリスクが高まります。
たとえば、
- 残業代の未払い
- ハラスメント
- 従業員の懲戒処分
など、法的な観点から対応しなければならない労務問題が増えてくるのです。特に日本の労働法は、労働者を厚く保護する反面、使用者にとって厳しい制約を課す内容になっています。そのため、企業は慎重に対応しなければならないところ、いつでも相談できる顧問弁護士と契約しておけば心強いでしょう。
また、数の増えた従業員を適切に律するためには、社内規程などを整えてコーポレート・ガバナンスを強化することも大切です。顧問弁護士には、コーポレート・ガバナンスの観点から社内体制をチェックしてもらい、改善点についてのアドバイスを求めることもできます。
契約締結の頻度が増えてきたタイミング
取引の規模が拡大し、新規の契約を締結する頻度が増えてきた場合は、顧問弁護士と契約すべきタイミングが訪れているかもしれません。契約書は、当事者間の権利義務を規律する重要な書類です。
そのため、自社にとって不測の損害を被らないように、契約締結前には必ず弁護士のリーガルチェックを受けることをお勧めいたします。顧問弁護士を選任していれば、契約書のレビューは顧問契約の枠内で対応してもらえるケースもあり、企業にとっては経済的な利点があります。
また顧問弁護士に対して、いつでも気軽に契約書についての質問ができることも大きなメリットです。
起業当初から顧問弁護士を付けることも有効
起業した会社を急速に成長させたい場合には、最初から顧問弁護士を付けておくことも考えられます。企業の成長とトラブル・リスクは常に表裏一体で、企業の規模が拡大するに連れて、法的なトラブルに見舞われるリスクは増大します。
トラブルによって会社の成長をストップさせないためにも、発生した法律問題には迅速に対処することが大切です。そのためには、顧問弁護士にいつでも相談できるようにしておくことが有益でしょう。
また事業の立ち上げ当初から関与した顧問弁護士は、会社のビジネスや特徴についても深く理解するようになり、会社が成長した際にも心強いパートナーとなってくれるでしょう。
まとめ
顧問弁護士の選任を検討している場合、友人・知人の紹介やインターネット・弁護士会などを通じて、自社のビジネスに対して理解のある弁護士をピックアップするとよいでしょう。
無料相談などを活用して、複数の弁護士と面談をしてみれば、どの弁護士が自社の顧問弁護士として適任であるかが見えてくると思います。顧問弁護士は、日常的な法律問題などを気兼ねなく相談できるので、企業が安定的・継続的な成長を遂げるうえで心強いパートナーになります。
従業員や取引先の増加などにより、法律問題に関わる機会が増えてきた企業経営者の方は、一度弁護士に顧問契約について相談してみてはいかがでしょうか。