POSTED 2022/01/05

スチュワードシップ・コードとは|制定背景や目的・責任をわかりやすく解説

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阿部由羅(弁護士)

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スチュワードシップ・コードとは、企業のコーポレートガバナンスを向上させるために、機関投資家が果たすべき役割をまとめた原則です。現時点での最新版は、2020年3月24日より施行されています。

コーポレートガバナンス・コードとの両輪を構成する「ソフト・ロー」として、近年その意義が注目されていおり、機関投資家は、上場企業の経営に大きな影響力を及ぼす存在です。そのため、機関投資家の行動規範であるスチュワードシップ・コードは、コーポレートガバナンスを理解するうえできわめて重要な位置づけとなります

機関投資家は、企業の株式を大量保有するため、議決権行使を通じて企業経営に重大な影響力を及ぼします。そのため機関投資家は、自身の利益を追求することにとどまらず、株主共同の利益を実現することにも一定の責任を負うと考えられています。

すなわち機関投資家には、経営陣と両輪を形成して、企業の持続的な成長と中長期的な価値向上を実現する役割が期待されているのです。スチュワードシップ・コードは、機関投資家が上記の責任を果たすための行動規範であり、機関投資家にはスチュワードシップ・コードの遵守が求められています

2014 年 2 月 26 日に、「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」によりスチュワードシップ・コードが策定され、その後、2017 年 5 月 29 日に、「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」によって同コードが改訂されてから約 3 年が経過した。これまで、スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家は 280 を超えるに至り、また、2018 年 6 月には、コーポレートガバナンス・コードも改訂された。両コードの下で、コーポレートガバナンス改革には一定の進捗が見られるものの、より実効性を高めるべきではないか、との指摘もなされている。

2. こうした中、2019 年 4 月 24 日、金融庁・東京証券取引所に設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、「フォローアップ会議」という。)において、「コーポレートガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性」と題する意見書(以下、「意見書」という。)が公表された。意見書においては、コーポレートガバナンス改革の実効性を高めるためには、投資家と企業の対話の質の向上が必要であるほか、議決権行使助言会社や年金運用コンサルタントなどによる機関投資家への助言やサポートがインベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう促すことが重要であるとされ、スチュワードシップ・コードの更なる改訂が提言された。

「責任ある機関投資家」の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~|金融庁

この機会に、スチュワードシップ・コードについての理解を深めておきましょう。この記事では、スチュワードシップ・コードの目的・法的拘束力・内容などを詳しく解説します。

目次

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スチュワードシップ・コード制定の経緯と目的section

スチュワードシップ・コードが制定された経緯・背景

スチュワードシップ・コードは、もともと英国に起源を持つ原則です。英国でスチュワードシップ・コードが制定された背景には、2008年に発生したリーマン・ショックへの反省がありました。すなわちリーマン・ショックが発生し、その後深刻化したのは、金融機関(機関投資家)による投資先企業の経営監視が不十分であったためだという説が定説化しました。

その際、機関投資家の責任がクローズアップされ、何らかの規制的アプローチを行うことが議論されたのです。上記の反省を背景として、2010年に英国において、機関投資家の責務をまとめたスチュワードシップ・コードが制定されました。

日本版スチュワードシップ・コードとは

日本版スチュワードシップ・コードは、英国のバージョンを参考として、2014年に策定されたものです。当時の日本は、円高・デフレを原因として、全体的に経済が低迷していました。

このような状況から脱却して強い経済を取り戻すため、経済対策・成長戦略の一環として、企業に持続的な成長を促し国際競争力を高めることが目指されました。このような国家成長戦略の一環として、機関投資家の役割を規定するスチュワードシップ・コードが策定されたのです。

なおスチュワードシップ・コードと並行して、コーポレートガバナンス向上に関する企業側の行動規範である「コーポレートガバナンス・コード」が策定され、2015年に適用が開始されています。

参考:「コーポレートガバナンス・コード」|株式会社東京証券取引所

スチュワードシップ・コードの目的

スチュワードシップ・コードは、機関投資家が顧客・受益者と投資先企業の双方を視野に入れ、スチュワードシップ責任を果たすに当たり有用と考えられる諸原則を定めることを目的としています。

「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が投資先企業の企業価値向上と持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味します。

具体的には、機関投資家は投資先企業と建設的な「目的を持った対話」をベースとして、中長期的に投資先企業のプラスとなるような議決権行使を行うことが求められるのです。スチュワードシップ・コードにおいて、企業側の責務と機関投資家の責務(スチュワードシップ責任)は「車の両輪」と表現されています。

つまり、経営陣と機関投資家がそれぞれの役割・責務を果たすことで、両者が適切に相まって質の高いコーポレートガバナンスの実現が期待されているのです。

スチュワードシップ・コードの法的拘束力等section

スチュワードシップ・コードは、法的拘束力のない「原則」であり、いわゆる「ソフト・ロー」に分類されます。以下では、スチュワードシップ・コードの法的拘束力と、特徴的な考え方である「プリンシプルベース・アプローチ」「コンプライ・オア・エクスプレイン」の2つについて解説します。

法的拘束力はなし

スチュワードシップ・コードは、金融庁が定めているガイドラインのような位置づけであり、法令とは異なります。したがって、スチュワードシップ・コードに法的拘束力はなく、そもそも受け入れるかどうかは機関投資家の選択に委ねられています。

プリンシプルベース・アプローチ

スチュワードシップ・コードは、機関投資家が取るべき行動を具体的かつ詳細に規定しているわけではありません(「ルールベース・アプローチ」を採用していない)。スチュワードシップ・コードの8原則はいずれも抽象度が高い内容になっていますが、これは機関投資家が各々の状況に応じて原則を解釈し、それぞれのスチュワードシップ責任を実質的に果たすべきと考えられているためです。

このように、あえて抽象的な原則を定め、各機関投資家の柔軟な解釈・運用によってベストプラクティスを目指す考え方を「プリンシプルベース・アプローチ」といいます。

プリンシプルベース・アプローチは、コーポレートガバナンス・コードでも同様に採用されています。

コンプライ・オア・エクスプレイン

機関投資家がスチュワードシップ・コードを受け入れる場合でも、原則のすべてを実施しなければならないわけではありません。機関投資家は状況に応じて、一部の原則を実施しないことも認められますが、その場合は理由を公表することが求められます。

このように「遵守するか、さもなくば説明するか」のいずれかを求める考え方を「コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)」と呼び、コーポレートガバナンス・コードでも同様に採用されています。

スチュワードシップ・コードの各原則を解説section

スチュワードシップ・コードでは、機関投資家等が果たすべきスチュワードシップ責任の内容として、8つの原則を定めています。以下では、8つの原則の概要をそれぞれ見ていきましょう。

スチュワードシップ責任を果たすための方針策定・公表

<原則1>

機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。機関投資家は、まず自らがスチュワードシップ責任を負っていることを認識する必要があります。そのうえで、自らがどのようにスチュワードシップ責任を果たしていくのかを検討し、方針を策定・公表することが求められています。

方針策定の際には、「顧客・受益者から投資先企業へと向かう投資資金の流れ(インベストメント・チェーン)の中での自らの置かれた位置」を踏まえるべきとされています。これは、機関投資家が「顧客・受益者」と「投資先企業」の中間に位置していることを踏まえて、両方に対して責任あるアプローチをすべきであることを示唆しています。

なお機関投資家は、「アセットオーナー」と「運用機関」の2種類に大別されます。アセットオーナー:巨額の資産を保有する資金の出し手であり、運用機関に資産運用を委託する。

(例)年金基金・生命保険会社・損害会社など

運用機関:アセットオーナーから資産運用を受託し、実際に企業に対する投資を行う資産運用会社。

(例)投資信託会社・投資顧問会社・信託銀行など

アセットオーナーと運用機関では、果たすべきスチュワードシップ責任の内容が異なるため、策定すべき方針の内容も自ずと異なり得ることが指摘されています。

利益相反に関する方針策定・公表

<原則2>

機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。機関投資家は、顧客・受益者の利益を第一として行動すべき立場にあります。しかし議決権の行使などに際しては、顧客・受益者の利益と、機関投資家(またはそのグループ会社)の利益が相反する事態も想定されます。

このような事態に備えて、機関投資家は、利益相反を適切に管理するための方針を策定・公表する責務を負います。特に運用機関については、具体的に利益相反状況を特定して対策を講ずるほか、独立した取締役会・第三者委員会などのガバナンス体制を整備・公表することが求められています。

投資先企業の的確な状況把握

<原則3>

機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。機関投資家がスチュワードシップ責任を適切に果たすためには、投資先企業に関する情報収集がきわめて重要です。

機関投資家は、財政面・非財政面を問わずさまざまな情報を収集し、適切な状況把握に基づいてスチュワードシップ責任を果たす必要があります。機関投資家が把握すべき事項の例は、以下のとおりです。

  1. ガバナンス
  2. 企業戦略
  3. 業績
  4. 資本構造
  5. 事業におけるリスク
  6. 収益機会
  7. リスクや収益機会への対応 など

特に、投資先企業の企業価値を毀損するおそれのある事項は、早期に把握するよう努めるべきことが指摘されています。

投資先企業との建設的な対話

<原則4>

機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。機関投資家が投資先企業(の経営陣)と建設的な対話をすることで、相互により良い状況把握が行われ、経営の改善へ向けたアイデアが創出されやすくなります。

対話による認識共有が適切に行われれば、その結果として、投資先企業の中長期的な企業価値・資本効率の向上や持続的成長に繋がるでしょう。また機関投資家は、単独で投資先企業と対話を行うほか、必要に応じて他の機関投資家と協働することが有益になり得ることも指摘されています。

議決権行使等に関する方針策定・公表

<原則5>

機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。

機関投資家がスチュワードシップ責任を果たしているかどうかは、外部の目線から監視できるようになっている必要があります。よって、機関投資家の議決権行使については、透明性・可視性を高めなければなりません。

なお、議決権行使の方針策定・公表に加えて、個別の議決権行使結果についても、議案毎に公表すべきことが指摘されています。その際、賛否の理由を対外的に明確に説明することも、議決権行使の可視性を高めるために有益と考えられます。

スチュワードシップ責任の履行状況の顧客・受益者に対する報告

<原則6>

機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。スチュワードシップ責任の履行状況を明らかにするため、顧客・受益者に対する直接の報告も重要になります。

報告の頻度については、運用機関の場合は定期的に、アセットオーナーの場合は少なくとも年に1度の報告を行うべきとされています。

機関投資家自身の研鑽

<原則7>

機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。機関投資家は、投資先企業との建設的な対話に耐え得るだけの実力を備えなければなりません。

そのためには、機関投資家内部の体制整備が重要になります。特に機関投資家の経営陣は、スチュワードシップ責任を実効的に果たすための能力・経験を備えるべきです。

大規模なグループを形成する機関投資家の場合、時としてグループ内部の政治的論理などに基づいて経営陣が選出されるケースがあります。しかし、期間投資家がスチュワードシップ責任を適切に果たす観点からは、このような方式による経営陣の人選は好ましくないと認識しなければなりません。

機関投資家向けサービス提供者による貢献

<原則8>

機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである

2020年3月24日の直近の改訂において、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たってサポート役となる「機関投資家向けサービス提供者」の責務が、原則8として新たに追加されました。

「機関投資家向けサービス提供者」の例としては、議決権行使助言会社や、年金運用コンサルタントなどが挙げられます。特に議決権行使助言会社は、機関投資家のスチュワードシップ責任の中核となる「議決権行使」に大きな影響を与える立場にあります。

そのため、議決権行使助言会社においては、適切な助言を行うための人的・組織的体制を整備すべきです。また議決権行使助言会社は、その業務の透明性確保のために、助言策定プロセスを具体的に公表することが求められます。

さらに、公表情報に依拠するのみならず、機関投資家の投資先企業と自ら積極的に意見交換して情報を得ることも推奨されています。

スチュワードシップ・コードの受入れについてsection

スチュワードシップ・コードを受け入れるかどうかは、機関投資家が自身で判断すべき事項です。スチュワードシップ・コードを受け入れた場合、機関投資家は「有言実行」のプレッシャーに晒されることになります。

しかし機関投資家が株式を大量保有する場合には、いずれにしても株主その他のステークホルダーから、スチュワードシップ責任を果たすよう期待されるでしょう。よってスチュワードシップ・コードを受け入れ、「責任ある機関投資家」であることを内外に発信することは、機関投資家にとってメリットのある選択と考えられます。

「受入れ表明」をした企業は金融庁HPで公表される

スチュワードシップ・コードの「受入れ表明」をした機関投資家の名称は、金融庁のホームページで公表されます。

参考:「スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリストの公表について|金融庁

受け入れを表明した機関投資家は、2021年4月30日時点で307件で、その内訳は以下のとおりです。

信託銀行等6
投信・投資顧問会社等199
生命保険・損害保険会社24
年金基金66
その他(機関投資家向けサービス提供者等)12
合計307

スチュワードシップ・コードの受入れを
表明した機関投資家がすべきことsection

スチュワードシップ・コードの受入れを表明する機関投資家は、以下の対応を行うことが求められます。

  1. (1)自社のウェブサイト上で以下の事項を公表すること
    ①スチュワードシップ・コードを受け入れる旨
    ②スチュワードシップ・コードの公表項目事項の公表
    ③実施しない原則がある場合には、その理由の説明
  2. (2)(1)②③について、毎年見直し・更新を行うこと(更新した場合は、その旨を公表すること)
  3. (3)(1)(2)の公表を行ったウェブサイトのURLを金融庁に通知すること

このように機関投資家には、スチュワードシップ・コードに沿った社内体制の整備等を行うことに加えて、その実効性を検証・アップデートしていくことも求められるのです。

投資先企業が置かれている状況は日々刻々と変化し、議決権行使の在り方も、その状況に応じて変化します。そのため機関投資家も、投資先企業に対する考え方をアップデートし、時流に合わせた方法で議決権を行使する責務を負うのは当然といえるでしょう。

まとめ

スチュワードシップ・コードは、企業自体を規律する「コーポレートガバナンス・コード」との両輪として、機関投資家のスチュワードシップ責任を定めています。スチュワードシップ・コードを受け入れた機関投資家は、投資先企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上のために、建設的に議決権を行使する責務を負います。

投資先企業としては、大口の株主(または潜在的株主)である機関投資家とどのように向き合うかは、経営上も重要なテーマになるでしょう。コーポレートガバナンスを十全に機能させるため、経営陣と機関投資家の双方が果たすべき役割を踏まえて、両者による建設的な対話が期待されます。

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阿部由羅(弁護士)

西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。(第二東京弁護士会)