POSTED 2021/04/15

コーポレートガバナンスとは|目的や意味・事例などをわかりやすく解説

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阿部由羅(弁護士)

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企業に対する社会の監視が強まる中、「コーポレートガバナンス」の重要性は年々増しています。企業が社会における多様なステークホルダーと協働し、持続的に成長していくためには、コーポレートガバナンスの充実が必要不可欠です。

「コーポレートガバナンス」がどのような意味を持ち、どのような目的から重要とされているのかについてですが、金融庁と東京証券取引所(東証)が共同で策定した「コーポレートガバナンス・コード」では、コーポレートガバナンスは以下のように定義されています。

コーポレートガバナンス
=会社が、株主をはじめ顧客・ 従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み

上記の定義からだけでも、以下の要素を読み取ることができます。

他方、コーポレートガバナンスは抽象的とも思われる概念なので、どういうことなのかうまく理解できないという方も多いかと思います。そこでこの記事では「コーポレートガバナンス」について、定義・目的・背景・強化のメリットや、コーポレートガバナンス・コードの内容などを中心に幅広く解説します。

目次

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コーポレートガバナンス(企業統治)とは何か|仕組みと注目の背景section

そもそも、コーポレートガバナンスとはどのようなものでしょうか。字面ではよくわかりませんよね。ここでは、その定義などを解説していきます。

コーポレートガバナンスがなぜ注目されるのか?

近年、日本においてもコーポレートガバナンスの重要性が盛んに指摘されています。その背景には、以下のような理由があるものと考えられます。

企業不祥事の増加

1990年代のバブル崩壊以降、不正会計・品質管理の不備・偽装表示・違法な時間外労働など、企業不祥事が発覚する事例が増加しました。また最近ではSNSの発展により、企業の不祥事が社会に向けてリークされるケースも多く、いっそう公明正大な経営が求められています。

このような背景から、企業不祥事を防止するためのソリューションとして、コーポレートガバナンスの重要性が強調されている面があると考えられます。

機関投資家などの影響による株主の発言力の増大

近年では、機関投資家・外国人投資家の持ち株比率が上昇し、株主総会等でも株主が積極的に発言するようになりました。その結果、株主に対する説明に耐えうるように、コーポレートガバナンスを機能させて透明性のある経営を行う要請が高まったといえます。

グローバル化によるステークホルダーの増加

企業経営の規模が海外にも広がれば、必然的にステークホルダーの種類や数も増加します。特にグローバル企業では、多様なステークホルダーの利益を調整するための仕組みとして、コーポレートガバナンスを充実させることが重要です。

企業統治と言われる仕組み

コーポレートガバナンスの究極的な目的は、「会社の持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」にあるとされています。経営陣が事業売却により利益を得ることを目的に経営を行ったり、投機的な取引に熱を上げたりすることは、コーポレートガバナンスの観点からは不適切です。

そうではなく、会社が周囲の人々や社会にとってのメリットをもたらすべき「社会的存在」であることを意識して、その特性を長きにわたって発揮することがコーポレートガバナンスの本質といえるでしょう。

会社が事業活動を行う上では、様々な立場で多数の人が関わり合いを持ちます。そのため、事業を円滑に遂行するには、多数の利害関係人に対し、それぞれの立場に応じて必要な情報の開示や手続などを行い、事業を執行していくための仕組みを構築することになります。 このような会社内の事業運営の仕組みづくりと言えます。

コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンスといっても、定義だけでは具体的にどのような仕組みづくりが必要なのかは不明確です。他方で、企業における事業ごとにどのような仕組みづくりが必要なのか、事業に応じた内容を定めることも困難です。そこで、特に社会的に影響力の高い上場企業において、コーポレートガバナンスにおいて必要な原理・原則を定めたのが、コーポレートガバナンス・コードです。
参照:コーポレートガバナンス・コード|東証

具体的な内容については、後述しますが、社外取締役との関連について、こちらの記事もご参照ください。

内部統制との違い

内部統制は、より対内的に、業務の有効性、効率性、財務報告に対する信頼、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全が確保される保証を裏付ける仕組みづくりをいいます。

「内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。」

引用元:金融庁|内部統制の基本的枠組み

これに対し、コーポレートガバナンスは、上記の定義で示される通り、「顧客」「地域社会等」といったように、事業活動において会社が対外的に関わる人や社会との関係を含めた、いわば事業活動におけるエコシステムの構築を志向する広い概念です。

コーポレートガバナンスの必要性とは

コーポレートガバナンスは、すでに述べた通り、特に大企業はもちろん上場企業全般において、コーポレートガバナンス・コードの遵守が求められます。投資家の評価を得て、その信頼を継続させるとともに、事業活動が及ぼす社会的な影響力ゆえに、コーポレートガバナンス・コードに照らし、これをもとにコーポレートガバナンスを徹底する必要があります。

もっとも、コーポレートガバナンス・コードは、コンプライ・オア・エクスプレインの原則で成り立っています。コンプライ・オア・エクスプレインは、文字通り「遵守せよ、そうでなければ、説明せよ」との考え方です。

そのため、コーポレートガバナンス・コードで定められる内容を全て遵守することまでが求められるわけではありません。その代わりに、遵守しない事項は、なぜその事項を遵守しないのか、合理的な理由を開示することが必要です。他方、非上場企業は、コーポレートガバナンス・コードの適用が及びません。もっとも、そうであるからといって、コーポレートガバナンスが不要であるというわけではありません

IPOを目指すベンチャー企業であれば、上場後を見据えて、コーポレートガバナンス・コードに定められる事項を意識する必要があります。上場を目指さない場合でも、コーポレートガバナンスの構築と運用に取り組み、社会に発信することで、社会からの信用を得ることにもつながります。

コーポレートガバナンスの5つの要素section

株主の権利と平等性の確保

会社の実質的所有者である株主の声に耳を傾けることは、コーポレートガバナンスの重要な要素です。特に経営陣が、少数株主の意見を適切に吸い上げる姿勢を持つことで、株主の権利と平等性を確保することに繋がります。

多様なステークホルダーとの協働

会社の持続的に成長を続け、中長期的な企業価値を創出するには、顧客・ 従業員・地域社会等の多様なステークホルダーとの協働が不可欠です。したがって、経営陣がステークホルダーとの有機的な連関を意識することが、コーポレートガバナンスを機能させるうえで大切と考えられています。

公正・透明な経営の実現

コーポレートガバナンスを十全に機能させる前提として、経営が公正・透明に行われていることが不可欠となります。経営の公正性・透明性が確保されていれば、会社への信頼の向上や、株主とのコミュニケーションを充実させることにも繋がります。

迅速な経営判断を行うためのリーダーシップ

近年は社会の変化が加速しているため、リーダーシップの重要性はさらに強調されるべきでしょう。個々の取締役の資質も重要ですが、同時に会社の機関や、報酬などのインセンティブを適切に設計することも大切です。このような会社の仕組みを整えることも、コーポレートガバナンスの重要な要素となります。

コーポレートガバナンスを強化する重要性やメリットsection

コーポレートガバナンスの強化は、専ら上場会社の課題として捉えられることもあります。しかし上場・非上場にかかわらず、コーポレートガバナンスを強化することは、会社にとって多くのメリットをもたらします。

株主その他のステークホルダーからの信頼向上

コーポレートガバナンスを強化して公正・透明な経営を行うことは、株主からの信頼を得ることに繋がります。株主からの信頼が得られれば、株主総会の運営をはじめとして、会社経営を円滑に行いやすくなります。

また、株主総会で取締役が解任されるリスクも減るため、思い切った経営判断が可能となるでしょう。さらに、コーポレートガバナンスがしっかりした会社は、その他のステークホルダーからも厚い信頼を獲得できます。ステークホルダーの協力も得ながら企業経営を行うことで、さらなる企業規模の拡大・企業価値の増加に繋げることができるでしょう。

経営陣・管理職の不正によるリスクの低減

経営陣などの不正が発覚した場合、損害賠償などで会社財産が流出する可能性があることに加えて、レピュテーションの毀損にも繋がりかねません。コーポレートガバナンスを充実させて公明正大な経営を行うことにより、このような不正リスクを低減させる効果があります。

融資・出資を受けやすくなる

コーポレートガバナンスの効果により、公正・透明な経営が行われていることが分かれば、融資や出資を行う側(銀行・投資家など)にも安心感を与えることになります。つまり、コーポレートガバナンスには、資金調達を円滑化する効果があるといえます。資金調達を円滑に行うことができれば、事業投資が促進され、さらなる企業価値の向上に繋がるでしょう。

コーポレートガバナンスを強化する5つの方法section

コーポレートガバナンスの構築や運用を、どのように強化すべきでしょうか。ここでは5つの方法をご紹介します。

業務フローの透明化

まずは、社内の業務運営における問題の把握をする必要があります。そのためには、社内の業務フローを透明化し、それぞれのプロセスでどのように業務が動いて処理されているのかを情報共有できるようにします。

現場でどのような事象が発生し、それに対しどのような仕組みで決裁・意思決定がされているのか、現場判断に対するチェックが行われているのかなど、細かく業務のプロセスを分析していくことで、コーポレートガバナンスの強化につながります。

法務人材の確保

法務人材の確保も欠かせません。事業活動を遂行する上で、労務、財務のほか、事業に関わる法令等の遵守、各種取引のクロージングに至るまで業務の全般において、法務の知見が関わります。

取引の種類が多種多様となり、事業の規模を拡大するほど、法的な課題にも直面してきます。リスクテイクを判断する上で、ロジカルかつ戦略的に意思決定を行うには、やはり法務人材の知見がなければ困難です。

社外役員の積極的な登用

社外役員を積極的に登用することも必要です。特に、令和3年3月施行の改正会社法では、社外取締役の設置義務化が定められました。そのため、最低一人は、社外取締役を設置することが求められるのです。

社外役員を登用することは、社内の事業活動の仕組みの構築とその運用を客観的に評価し、かつ継続的にそのフィードバックを受けることで、ガバナンスの仕組みと実効性を担保することにつながります。

社内通報制度の構築

従業員との関係では、社内通報制度も重要です。公益通報者保護法も制定されましたが、社内の事業活動における問題点を経営陣に集約するには、中間管理職でブロックされがちな情報共有の壁を壊す必要があります。

従業員と役員、特に監査役や社外役員との間で直接情報共有することができる社内通報制度といった仕組みを構築することでガバナンス強化につながります。

情報開示の工夫とメディアリレーションの構築

さらに、株主をはじめとした関係者に対する各種情報開示と、ガバナンス強化の取り組みを対外的にアピールすることも重要です。上場企業であれば、金商法上求められる有価証券報告書等の開示書類のほか、コーポレートガバナンス・コードで定められる報告書類など様々な内容の情報開示が求められます。

投資家をはじめ、社会からの評価をより向上させていくには、社会の動向と自社の事業の位置づけを明確にすることが重要です。開示する際にも、顧客情報にかかるデータ収集をもとに根拠づけをしていくことで、より合理性が増します。

そして、ガバナンスに取り組んでいるだけではなく、メディアを通じた広報により、事業に対する社会の評価につながり、顧客拡大と満足度向上につながります。

よりよいサービスと、その根拠となる仕組みづくりをアピールしていくことで、事業の発展につながります。 セミナーの開催、各種メディアとのリレーション構築を通じた発信が考えられます。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの関係性section

コーポレートガバナンスとともに、「コンプライアンス」という概念が近年注目されています。コンプライアンスは、実はコーポレートガバナンスと非常に親和性の高い概念ですので、ここで両者の関係性について考えてみたいと思います。

コンプライアンスとは?

コンプライアンスの意義については諸説ありますが、一般的には法令・社内規則・社会倫理などの各種規範を遵守し、公明正大な会社経営を行うことを意味すると考えられます。法令だけでなく、さまざまな社会規範が遵守対象とされていることがポイントで、会社が「社会的存在」であることを反映しているといえるでしょう。

コンプライアンスはコーポレートガバナンスに内在する

コンプライアンスを徹底することにより得られるメリットは、コーポレートガバナンスを強化するメリットとかなり重なる部分があります。その一例を挙げると、以下のとおりです。

コンプライアンスを徹底することで
得られるメリット

  1. 株主やステークホルダーからの信頼向上
  2. 経営陣・管理職の不正によるリスクの低減
  3. 融資・出資を受けやすくなる(透明性が向上するため)など

コンプライアンスは、コーポレートガバナンスの中でも、特に「公正・透明な企業経営を行う」という要素と密接に関連しています。そのため、コーポレートガバナンスとコンプライアンスの両者のメリットが共通しているのも納得できるところでしょう。企業は各種の社会規範を「自社が守るべきルール」として内在化させ、コーポレートガバナンスを実践するに当たっての規範としても位置付けているといえます。

つまりコンプライアンスは、コーポレートガバナンスに内在する重要な一要素なのです。

コーポレートガバナンス・コードとは?基本的な概要について

コーポレートガバナンスに関して、現時点で実務上もっとも重要と考えられる資料が「コーポレートガバナンス・コード」です。(参考:「コーポレートガバナンス・コード」(株式会社東京証券取引所)

コーポレートガバナンスの在り方を考えるに当たっては、このコーポレートガバナンス・コードの内容を押さえておくことが不可欠といえます。まずは、コーポレートガバナンス・コードの基本的な概要を理解しておきましょう。

コーポレートガバナンスに関する東証のガイドライン

コーポレートガバナンス・コード」は、金融庁と東京証券取引所(東証)が共同で策定した、コーポレートガバナンスに関する企業指針です。現在は、東証の上場企業が遵守すべき企業統治のガイドラインとして位置づけられています。コーポレートガバナンス・コードは、以下の3段階の原則によって構成されています。

  1. 基本原則:企業統治の基本的な考え方や理念を示したもの
  2. 原則:基本原則を実現するために、会社が留意すべきポイントを示したもの
  3. 補充原則:原則を実現するために、会社がとるべき具体的な行動を示したもの

コーポレートガバナンス・コードの適用対象は東証の上場企業

コーポレートガバナンス・コードの適用を受けるのは、東証の上場企業のみです。東証第一部・第二部に上場している企業は全原則を、マザーズとNASDAQに上場している企業は基本原則を遵守することが求められます。これに対して、東証の上場会社でない企業は、コーポレートガバナンス・コードを遵守することは必ずしも求められません。

しかしコーポレートガバナンス・コードは、企業統治の在り方を考えるうえで有用な参考資料となるため、自社の経営にその考え方を生かすことは有益といえるでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの法的拘束力・事実上の拘束力

コーポレートガバナンス・コードには法的拘束力はないため、不遵守に対する罰則や課徴金などは存在しません。しかし、違反企業は東証による公表措置の対象になります(有価証券上場規程436条の3、508条1項1号)。

コーポレートガバナンス・コード違反の事実が公表されると、企業にとってはレピュテーションに傷がついてしまうため、事実上の拘束力が働いているといえます。

コーポレートガバナンス・コードの各原則から
考える企業統治の取り組み例

コーポレートガバナンス・コードの各原則を読み解けば、コーポレートガバナンスの全体像だけでなく、企業が具体的にどのような行動をとるべきかの指針を知ることができます。以下では、コーポレートガバナンス・コードの各原則に沿って、企業統治の取り組み例を見てみましょう。

株主の権利・平等性の確保

<基本原則1>
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

コーポレートガバナンス・コードでは、株主の重要性について以下のように述べられています。

上場会社には、株主を含む多様なステークホルダーが存在しており、こうしたステークホルダーとの適切な協働を欠いては、その持続的な成長を実現することは困難である。その際、資本提供者は重要な要であり、株主はコーポレートガバナンスの規律における主要な起点でもある。

上記の記述においては、会社の実質的所有者である株主を「重要な要」「主要な起点」と表現し、ステークホルダーの中でもっとも重要な存在として位置づけていると考えられます。そのため、株主の権利と平等性を実質的に確保することは、コーポレートガバナンスを実践するに当たって非常に重要な事項となります。

基本原則1を実現するための取り組み例は、以下のとおりです。

<基本原則1を実現するための取り組み例>

  1. 株主総会で可決されたものの、反対票が多かった会社提案議案については、その原因の分析を行ったうえで株主との対話などを検討する。
  2. 株主総会に対して、総会決議事項の一部を取締役会に委任する提案を行う場合には、取締役会におけるコーポレートガバナンスの体制が整っているか否かを考慮する。
  3. 少数株主による権利行使の確保に十分配慮する(特に違法行為の差し止めや、代表訴訟提起に係る権利など)
  4. 株主総会での議決権行使の判断に資するため、株主への情報提供を早期かつ適切に行う。
  5. 開催日や議決権行使の方法などの調整を、多様な株主に配慮する形で行い、権利行使の機会を実質的に確保する。
  6. 資本政策の基本的な方針について、株主に対する説明を行う。
  7. 会社が政策保有株式を保有する場合は、政策保有に関する方針を開示する。さらに、毎年保有の適否を検証したうえで、その検証結果を開示する。
  8. 買収防衛策を導入する場合は、経営陣・取締役会の保身を目的とするのではなく、株主に対する受託者責任を全うする観点を重視する。買収防衛策の必要性・合理性を適正手続きによって検討し、株主に対する十分な説明を行う。
  9. 増資やMBOなど、支配権の変動や大幅な希釈化をもたらす資本政策については、既存株主を不当に害することがないよう配慮する。資本政策の必要性・合理性を適正手続きによって検討し、株主に対する十分な説明を行う。
  10. 会社が役員や主要株主などと取引を行う場合、あらかじめ適切な手続きを定めてその枠組みを開示し、その手続きを踏まえて取引承認などの監視を行う。

株主以外のステークホルダーとの適切な協働

<基本原則2>
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

上場会社の取締役会・経営陣は、会社が多様なステークホルダーと関与する公的な存在としての側面を持つことについて、意識的になる必要があります。基本原則2に関しては、近年の社会情勢を踏まえて、コーポレートガバナンスは以下の点も指摘しています。

近時のグローバルな社会・環境問題等に対する関心の高まりを踏まえれば、いわゆるESG(環境、社会、統治)問題への積極的・能動的な対応をこれらに含めることも考えられる

この記述は、会社の対応が社会経済全体に利益をもたらし、その結果として会社自身にもさらに利益をもたらすという好循環を目指すべきことが念頭にあるものと考えられます。基本原則2を実現するための取り組み例は、以下のとおりです。

<基本原則2を実現するための取り組み例>

  1. CSR(企業の社会的責任)を踏まえ、さまざまなステークホルダーへの価値創造に配慮した経営を行い、中長期的な企業価値の向上を図るための経営理念を策定する。
  2. 取締役会が主導して、ステークホルダーとの協働などに関する行動準則を定め、会社内に浸透させる。
  3. 社会・環境問題をはじめとする「持続可能性」をめぐる課題について、積極的・能動的な取り組みを行う。
  4. 社内に多様な視点や価値観を共存させるため、女性の活躍推進を含む多様性の確保を推進する。
  5. 経営陣から独立した外部窓口を設置するなど、内部通報制度を適切に整備する。
  6. 企業年金の積立金運用について、人事・運営面での取り組み内容を開示し、受益者と会社の間に生じる利益相反を適切に管理する。

適切な情報開示と透明性の確保

<基本原則3>
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

上場会社には、法令に基づく情報開示だけでなく、それ以外の情報開示もタイムリーに行うことが期待されています。その方法として主として想定されているのは、東証の上場規程に基づく「適時開示」です。しかしそれ以外にも、株主その他のステークホルダーとの対話の観点から望ましいと思われる開示については、積極的に行っていくことが求められます。

基本原則3を実現するための取り組み例は、以下のとおりです。

<基本原則3を実現するための取り組み例>

  1. 経営やコーポレートガバナンスに関する考え方や具体的な方針などについて、主体的な情報発信を行う。
  2. 外部会計監査人による監査について、十分な監査時間と会社側の協力体制を確保する。また、外部会計監査人に対する人材評価を適切に行う。

取締役会等の責務

<基本原則4>
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、

(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと


をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

コーポレートガバナンス・コードは、上場会社がどのような機関設計を採用するかにかかわらず、「重要なことは、創意工夫を施すことによりそれぞれの機関の機能を実質的かつ十分に発揮させることである。」と指摘しています。

取締役会は、真に株主にとっての利益となるのは何かを考えたうえで、経営判断上のリスクテイクを適切に行うことが求められます。そのためには、コーポレートガバナンス・コードに従い、経営陣による意思決定過程の合理性を担保することが重要です。

基本原則4を実現するための取り組み例は、以下のとおりです。

<基本原則4を実現するための取り組み例>

  1. 取締役会が決定する事項と、経営陣(代表取締役等)が決定する事項を明確に切り分け、その概要を開示する。
  2. 中長期の経営計画の実現に向けて、分析・検証・反映のプロセスを適切に行う。
  3. 代表取締役などの後継者計画にも、取締役会が主体的に関与する。
  4. 経営陣の報酬は、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、会社の持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能させる。報酬決定は、客観性・透明性ある手続きに従って行う。
  5. 取締役会は、代表取締役などに対する選任・解任権を通じて、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行う。
  6. 情報開示に関する内部統制やリスク管理体制を適切に整備する。
  7. 監査役会は、社外取締役と連携しつつ、経営陣に対して能動的かつ積極的に意見を述べる。
  8. 取締役会による監督の実効性を確保すべく、業務の執行には携わらない、業務執行とは一定の距離を置く取締役を活用する。
  9. 独立社外取締役として適任者を十分な人数を選任し、有効に活用する。
  10. 会社法上の機関に加えて、独立した諮問委員会などの任意の仕組みを活用し、統治機構のさらなる充実を図る。
  11. 取締役会全体としての知識・経験・能力のバランスや、多様性・規模に関する考え方を定めて開示する。
  12. 他の上場会社の役員との兼任数は合理的な範囲にとどめ、兼任状況を毎年開示する。
  13. 取締役会全体の実効性について、毎年分析・評価を行い、その結果の概要を開示する。
  14. 取締役会における審議を活性化させるため、会議運営の方法を工夫する。
  15. 取締役・監査役は、能動的に情報を入手し、必要に応じて会社に追加での情報提供を求める。
  16. 個々の取締役・監査役に対して、それぞれに適合したトレーニングの機会を提供する。

株主との対話

<基本原則5>
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

上場会社の経営陣・取締役は、株主と接する機会は限られています。そのため経営陣・取締役の側で、株主の声に耳を傾ける姿勢を持ち、体制整備を行うことはきわめて重要です。もちろん「対話」であるからには、株主の側にも建設的な対話を行う姿勢が求められます(日本版スチュワードシップ・コード参照)。

基本原則5を実現するための取り組み例は、以下のとおりです。

<基本原則5を実現するための取り組み例>

  1. 株主と実際に対話(面談)を行う際には、合理的な範囲で、経営陣幹部または取締役が面談に臨むことを基本とする。
  2. 取締役会は、株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針を検討・承認し、開示する。
  3. 会社は、必要に応じて株主構造の把握に努め、株主もできる限り把握作業に協力する。
  4. 経営戦略や経営計画などについて、株主にわかりやすい言葉・論理で明確に説明を行う。

コーポレートガバナンスの体制整備は弁護士に相談を

コーポレートガバナンスを適切に機能させるためには、社内における体制整備をどのように行うかが重要なポイントになります。もちろん経営陣のコーポレートガバナンスに関する意識付けも重要ですが、体制整備はコーポレートガバナンスの再現性を高めるものとして、それ以上に重要な側面があるといえるでしょう。

コーポレートガバナンスの体制整備は、取締役会を中心として、全社的にオペレーションの隅々まで取り組むことが大切です。弁護士に相談すれば、コーポレートガバナンスの体制整備に関するさまざまなアドバイスを受けることができます。また、株主やステークホルダーとの対話も、コーポレートガバナンスの非常に重要な要素です。どのように株主やステークホルダーに対峙するかは、会社経営の成否を左右しかねないため、経営陣にとってセンシティブな課題といえます。

弁護士は、株主やステークホルダーへの対応方針についての相談相手としても適任です。これからコーポレートガバナンスを強化し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指そうとする場合には、一度弁護士とのディスカッションを行ってコーポレートガバナンスに関する理解を深めることをお勧めいたします。

まとめ

コーポレートガバナンスは、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を究極的な目的としています。そのためには、株主その他のステークホルダーとの対話や、公正・透明な経営を適切に行うことが求められます。

コーポレートガバナンスの重要性やメリットは、上場会社だけにとどまらず、すべての会社に当てはまり得るものです。コーポレートガバナンス・コードの内容を参考に、自社が実践すべきコーポレートガバナンスの在り方をぜひ模索していただければと思います。

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阿部由羅(弁護士)

西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。(第二東京弁護士会)