上場審査とは|流れ・要件や審査基準の概要を市場区分基準・CGコードへの対応も徹底解説

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旭合同法律事務所

川村将輝(弁護士)

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株式の新規上場(IPO)に際しては、上場審査が行われます。上場準備を進めるにあたって、上場基準・条件に対する理解が必要ですが、上場審査の仕組みを理解することも重要です。

この記事では、上場審査に関して、上場審査の流れ、審査の種類、様々な要件と基準について詳しく解説していきます。

目次
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上場審査の流れsection

上場審査は、そもそもどのような流れで行われるのでしょうか。

上場審査とは

上場審査は、株式の上場を行う際に、上場しようとする会社が上場条件・基準をクリアしているかどうかについて、主幹事証券会社と証券取引所が行う審査です。

株式が証券市場に流通するような企業は、それだけ社会経済に与える影響力も大きくなることから、企業経営における適正さや健全性が求められます。そういった資質があるかどうかをチェックするのが、上場審査の趣旨です。

上場審査のフロー

上場審査の流れは、大きくわけて主幹事証券会社による審査から証券取引所による審査という流れで行われます。そして、証券取引所による審査は、大きく次のような全体像です。

  1. ヒヤリング
  2. 実地調査
  3. eラーニングの受講
  4. 公認会計士によるヒヤリング
  5. 社長(CEO)面談、監査役面談、独立役員面談等
  6. 社長説明会
  7. 報告未了事項の確認(照会事項)

出典:東京証券取引所『Ⅰ上場制度の概要』 12ページ以下より

上記は取引所による審査のフローの概要ですが、主幹事証券会社による審査のフローとともに詳細は後述します。

上場審査の種類section

上場審査には、主幹事証券会社による引受審査と、証券取引所による公開審査の2種類があります。

引受審査

上場申請を行う前の審査として、主幹事証券会社による引受審査が行われます。主幹事証券会社の引受審査部門が行うもので、上場申請を行おうとする際に、そもそも上場の見通しが立つのかどうか、証券取引所の定める上場審査基準に適合しているかどうかについて厳格に審査していくものです。

判断の拠り所となるのは、日本証券業協会が定める「有価証券の引受け等に関する規則」です。

主幹事証券会社としても、上場した企業が間もなく問題を起こしたり、その原因が上場前から抱えていた企業の体制などの課題であった場合、引受審査における責任が問われるおそれがあり、上場申請を行う前の段階で上場企業としての見込みがあるのかどうかを判断しておく必要があるからです。

引受審査のフロー引受審査は、3回程度のヒアリング、②実地調査、③公認会計士に対するヒアリング、④社長等の役員面談、⑤社長説明会、⑦指摘事項に関する改善状況の確認の流れで行われます。

それぞれの内容は、次の公開審査で詳述します。

引受審査での審査のポイント

  1. 事業内容等
  2. 財政状態および経営の見通し等
  3. 内部管理・けん制組織の整備運用状況等
  4. 企業内容等の開示状況
  5. 関係会社および特別利害関係者等の状況

参照:経営改善ナビ『3-2 主幹事証券会社の引受審査』

事業内容については、主に事業の性質上社会的批判を受けるようなものでないかどうか、申請会社の将来性、業績の変動の異常性の有無、経営者の資質や役員構成に問題がないか、主たる商品やサービスにおける業績状況といった点がポイントになります。

財政状態等については、同業他社と比較した場合の財務比率、利益計画の妥当性などがポイントです。

内部統制やガバナンス体制については、コーポレートガバナンスの対応状況、内部管理体制について業種、業態、事業規模に応じた適切な内容かどうか、開示のフローが適切かどうか、内部管理規程の定めと運用、内部監査の実績などがポイントです。

経営数値の開示状況に関しては、会計監査人の予備調査報告書の指摘内容、指摘事項に対する会社の対応状況、収益の計上基準の妥当性、社内における開示資料の作成能力などがポイントです。

関係会社等に関する状況は、法的規制の回避を目的としたような不自然な関係会社がないか、関係会社との取引やその条件の合理性、業績不振の会社がないかなどがポイントです。

公開審査

公開審査は、株式市場たる証券取引所によるものです。上場しようとする企業が、実際に上場を認めるに足りるかどうかを審査するものです。

公開審査のフローは、次のようなフローです。すなわち3回程度のヒアリング、②実地調査、③eラーニングの受講、④公認会計士に対するヒアリング、⑤社長等の役員面談、⑥社長説明会、⑦報告未了事項の確認という流れです。

引受審査と共通する点がありますが、③や、⑥及び⑦の部分があることが特徴といえます。

ヒアリングは、上場申請時に提出された書類をもとに会社の内容を把握し、審査基準の適合状況を判断していくステップです。その際に、書類だけでは理解しづらい点や詳細の確認を要する点をまとめて質問事項として提示し、企業から回答書をもらいます。

それをもとに、ヒアリングを行っていきます。上場申請時のヒアリングを除いて3回程度が標準とされます。

実地調査は、文字通り、審査担当者が上場申請会社の本社、工場その他の事業所等に赴いて事業内容や業務実情を把握することや、会計処理についての確認を行うステップです。現場の社員や経理担当者などが関わります

eラーニングでは、役員を中心に上場に伴う責務やマインドセット、コーポレートガバナンスに関する基本的な知見などを涵養することを目的としたカリキュラムの受講が行われます。その他、主な項目は次の通りです。

  • 経営管理体制の整備及び適切な運用
  • 内部者取引、情報伝達や取引勧奨行為の未然防止
  • 情報開示の適正な運用、透明性確保

その後、上場申請会社の監査を担当する公認会計士に対し、次のような事項についてヒアリングを行います。

  • 監査契約締結の経緯
  • 経営者及び監査役等とのコミュニケーションの状況
  • 内部管理体制の状況
  • 経理及び開示体制 など

上記のヒアリングは、公認会計士と上場審査担当者の二社間で行われ、申請会社や主幹事証券会社には時期が伝えられることなく行われます。外部監査を行う立場としての独立性を確保し、客観的で適正な意見を聴取するためです。

社長等の経営陣への面談は、それぞれ次のような内容です。

  • 社長面談
    • 経営者としてのビジョン
    • 上場会社となった際の株主への対応(IRの基本方針など)
    • コーポレートガバナンス、コンプライアンスに対する方針、現状の体制及び運用状況
    • 適時開示に関する体制
    • 内部情報管理に関する体制
  • 監査役面談→常勤監査役に対するもの
    • 実施している監査の状況
    • 会社の抱える課題について
  • 独立役員面談
    • コーポレートガバナンスに対する体制及び運用状況
    • 経営者のコンプライアンスに対する意識
    • 独立役員の職務遂行のための環境について
    • 経営者が関与する取引の有無
    • 上場後に独立役員として期待される役割などに対する認識

その他、執行役員などに対しても、必要に応じてヒアリングが行われる場合もあります。

社長説明会は、社長自身が証券取引所に来訪し、会社の特徴、経営方針及び事業計画等について説明やプレゼンを行い、それらに対する質疑応答を行う場です。そこでの内容を踏まえ、上場か日の最終的な判断に進めるかどうか検討されます。また、上場会社になった際の留意事項についても指摘される場合があります。

報告未了事項については、ヒアリング時における回答書の内容などについて事後的な変更があった場合に、追加的な報告が求められる場合のステップです。

上場審査の要件と基準section

上場審査には、形式的な要件と、公開に際しての実質審査基準というものがあります。また、東証では、上場審査における細目的な基準としてガイドラインが定められています。

形式要件

形式要件は、市場区分ごとに設けられる基準であり、数値により客観的に定められるものです。項目としては、株主数、流通株式、時価総額、事業継続年数、純資産の額、利益の額などがあります。

実質審査基準

実質審査基準は、有価証券上場規程に基づき企業の様々な要素について定性的な観点で整理される基準です。市場区分ごとに異なる内容になっていますが、詳しくは後述します。

上場審査のガイドライン

東証では、有価証券上場規程に基づき、上場審査に関しての必要な事項として、より細目的な内容を定めているものです。そして、基準そのものは上記のような形式要件や実質審査基準にありますが、その具体的な運用・上場審査を行う際の判断枠組みは、このガイドラインによることとして位置づけられています。

 Ⅰ 総則
 1.略
 2.上場審査等を行うにあたっては、このガイドラインによることを基本とした上で、公正な価格形成及び適正な流通の保持という市場における取引の安定性並びに投資者の権利及び利益の保護という投資者の保護に資するよう運営されるべきものであることを十分に踏まえ、新規上場申請者等の上場適格性について上場審査等を行う。
3.略
参照:上場審査等に関するガイドライン(東京証券取引所)

市場区分ごとの形式要件と審査基準section

具体的に、プライム市場、スタンダード市場、そしてグロース市場のそれぞれにおいて、どのような審査基準が設けられているのでしょうか。(参照:日本取引所グループ『上場審査基準』 2023年3月13日現在)

市場区分ごとの形式要件一覧

形式要件の基準に掲げられる項目は、それぞれの市場で11個から14個の項目があります。市場ごとのコンセプトにより、基準となるものならないもの、数量的な基準として違いが出てくる部分があります。

具体的な内容のうち、簡潔な一覧表としては、下記の表が参考になります。

スクロールできます
プライム市場スタンダード市場グロース市場
株主数 (上場時見込み)800人以上400人以上150人以上
流通株式 (上場時見込み)流通株式数:20,000単位以上 流通株式時価総額:100億円以上 流通株式比率:35%以上流通株式数:2,000単位以上 流通株式時価総額:10億円以上 流通株式比率25%以上流通株式数:1,000単位以上 流通株式時価総額:5億円以上 流通株式比率:25%以上
時価総額250億円以上
純資産額連結純資産額が50億円以上連結純資産額が正であること
利益額又は売上高最近2年間の利益額の総額が25億円以上 Or 最近1年間における売上高が100億円以上かつ時価総額が1000億円以上となる見込みがある最近1年間における利益額が1億円以上
事業継続年数3年以上前から株式会社として継続的に事業活動している3年以上前から株式会社として継続的に事業活動している1年以上前から株式会社として継続的に事業活動している
出典:日本取引所グループ|上場審査基準

市場区分ごとの実質審査基準の概要

実質審査基準は、プライム市場とスタンダード市場で共通する一方、グロース市場は異なる内容になっています。具体的にみていきましょう。

プライム市場

プライム市場の実質審査基準は、次の表の通り整理されます。

企業の継続性及び収益性継続的に事業を営み、安定的かつ優れた収益基盤を有していること
企業経営の健全性事業を公正かつ忠実に遂行していること
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること
企業内容等の開示の適正性企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること
その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項
出典:日本取引所グループ|上場審査基準(プライム市場)

スタンダード市場

スタンダード市場の実質審査基準は、次の表の通り整理されます。プライム市場のものと同様の内容になっています。

企業の継続性及び収益性継続的に事業を営み、安定的かつ優れた収益基盤を有していること
企業経営の健全性事業を公正かつ忠実に遂行していること
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること
企業内容等の開示の適正性企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること
その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項

グロース市場

グロース市場の実質審査基準は、次の表の通り整理されます。プライム市場やスタンダード市場では筆頭に挙がる「企業の継続性及び収益性」に関わる事業計画についての項目が4番目に位置づけられていること、企業内容等の開示が筆頭に挙がっていることが特徴として挙げられます。

理由としては、グロース市場は高い成長可能性を有する企業、収益性などの面で将来性の高い企業のリスクマネーを高めることをコンセプトとしています。そのため、収益性などの面では実績面での裏付けまでは不要としつつ、企業内容やリスク情報の提供を十全に確保する趣旨であると考えられます

企業内容、リスク情報等の開示の適切性企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができること
企業経営の健全性事業を公正かつ忠実に遂行していること
企業のコーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること。
事業計画の合理性相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること。
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項

実質審査基準のポイント

実質審査基準のより具体的な内容は、「上場審査等に関するガイドライン」をもとに細かい要素に分解することができます。

企業の継続性及び収益性事業計画が、そのビジネスモデル、事業環境、リスク要因等を踏まえて、適切に策定されていると認められること今後において安定的に相応の利益を計上することができる合理的な見込みがあること経営活動が、安定かつ継続的に遂行することができる状況にあること
企業経営の健全性関連当事者その他の特定の者との間で、取引行為その他の経営活動を通じて不当に利益を供与又は享受していないこと役員の相互の親族関係、その構成、勤務実態又は他の会社等の役職員等との兼職の状況が、公正、忠実かつ十分な業務の執行又は有効な監査の実施を損なう状況でないこと(申請会社が親会社等を有している場合)親会社等からの独立性を有する状況にあること
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性役員の適正な職務の執行を確保するための体制が、適切に整備、運用されている状況にあること内部管理体制が適切に整備、運用されている状況にあること経営活動の安定かつ継続的な遂行及び適切な内部管理体制の維持のために必要な人員が確保されている状況にあること実態に即した会計処理基準を採用し、必要な会計組織が、適切に整備、運用されている状況にあること法令遵守の体制が適切に整備、運用され、重大な法令違反となるおそれのある行為を行っていない状況にあること
企業内容等の開示の適正性経営に重大な影響を与える事実等の会社情報を管理し、当該会社情報を適時、適切に開示することができる状況にあること及び内部者取引等の未然防止体制が適切に整備、運用されていること企業内容の開示に係る書類が法令等に準じて作成されており、かつ、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項(新規上場申請者の企業グループが、中長期的な企業価値向上のための投資活動により相応の利益を一時的に計上しないことが見込まれる場合は、当該投資活動に係る事項を含む。)や、主要な事業活動の前提となる事項について適切に記載されていること関連当事者その他の特定の者との間の取引行為又は株式の所有割合の調整等により、企業グループの実態の開示を歪めていないこと(申請会社が親会社等を有している場合)当該親会社等に関する事実等の会社情報を、投資者に対して適時、適切に開示できる状況にあること
その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項株主の権利内容及びその行使の状況が公益又は投資者保護の観点で適当と認められること経営活動や業績に重大な影響を与える係争又は紛争等を抱えていないこと反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること新規上場申請に係る内国株券が、無議決権株式(当該内国株券以外に新規上場申請を行う銘柄がない場合に限る。)又は議決権の少ない株式である場合は、ガイドラインⅢ 6.(4)に掲げる項目のいずれにも適合すること新規上場申請に係る内国株券が、無議決権株式である場合(当該内国株券以外に新規上場申請を行う銘柄がある場合に限る。)は、ガイドラインⅢ 6.(5)に掲げる項目のいずれにも適合することその他公益又は投資者保護の観点から適当と認められること
出典:日本取引所グループ|上場審査の内容(有価証券上場規程213条関係) 49頁

各項目における基準の要素について、上場審査等に関するガイドラインをもとに抜粋して解説していきます。

企業の継続性及び収益性に関する①の基準(ガイドラインⅢの2.(1))は、会社のビジネスモデルの特徴としてその強みと弱みを把握し、直近の業績の変動要因などを分析しつつ、今後の事業展開を考慮した上での市場要因、競争優位性、主要な取引先の状況から法的規制の状況に至るまでチェックされます。これは、事業計画に基づいて確認されるものです。

そのため、事業計画の精密な作成がポイントになります。

  • ※事業計画は、利益計画、販売計画、仕入・生産計画、設備投資計画などのより細分化された計画との整合性も問われます。

企業経営の健全性に関する基準(有価証券上場規程213条1項2号)に関わるものとしては、関連当事者取引に関するものがいくつか挙げられます(ガイドラインⅢの3.)。

この基準の要素としては、利益供与や企業グループ内の事業部門の分社化における適正性、出向者の受け入れ状況が親会社に依存していないかどうかなどの観点があります。同族会社の場合には、役員構成や機関設計との相関を踏まえ、企業の経営体制において適正さが担保される仕組みになっているかがポイントです。

コーポレートガバナンスに関するもの(有価証券上場規程213条1項3号)としては、コーポレートガバナンス・コードに定められるような内容についての取り組みがポイントになります。特に、有価証券上場規程436条の2から439条に掲げられる機関の設置や取り組みを行う必要があります。

項目根拠規程内容
独立役員の確保規程第 436 条の2一般株主保護のため、独立役員を1名以上確保すること(注2)(注3)
コーポレートガバナンス・コードを実施するか、実施しない場合の理由の説明規程第 436 条の3以下の区分に従い、コーポレートガバナンス・コードを実施するか、実施しない場合の理由を、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」において説明すること
a.スタンダード市場及びプライム市場の上場内国会社
基本原則・原則・補充原則 b.グロース市場の上場内国会社
基本原則
上場内国会社の機関規程第 437 条以下の機関を置くこと a.取締役会
b.監査役会、監査等委員会又は指名委員会等 c.会計監査人
社外取締役の確保規程第 437 条の2社外取締役を1名以上確保すること
公認会計士等規程第 438 条会計監査人を、有価証券報告書又は四半期報告書に記載される財務諸表等又は四半期財務諸表等の監査証明等を行う公認会計士等として選任すること
業務の適正を確保するために必要な体制整備規程第 439 条取締役、執行役又は理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他上場内国会社の業務並びに当該上場内国会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制の整備を決定するとともに、当該体制を適切に構築し運用すること
出典:日本取引所グループ|上場審査の内容(有価証券上場規程213条関係) 67頁

本記事では割愛しますが、企業内容等の開示の適正性やその他の事項についても、ガイドラインなどの具体的な基準が示された資料に沿って、ポイントを押さえながら準備する必要があります。

上場審査において注意すべきポイント3つsection

上場審査を通過するために注意するべきポイントについて、3つ解説していきます。

IPOまでの課題とその解決策

経営陣を中心にIPOまでにどのような課題があると認識して、その解決策を全社的にどのような形で実行してきたのかを明確にしていることは、ポイントになります。

形式要件の部分に関しては、定量的な基準を満たしているかという点で判断されるので、上場審査において結果が実現できているかどうかによって決まります。他方で、実質審査基準の点に関しては、個々の審査の項目と項目ごとの考慮要素によって、IPOに向けた課題や解決に向けたプロセスに着目した審査が行われる場合があります。

そのため、IPOに向けた準備のプロセスを意識することが重要です。

業績予測の明確性と規模

企業の成長や業績予測の精度も高まる中で、投資判断において投資家に提供することが求められる情報はより多角化しています。また、リスクマネーの流入を高めていくためにも、業績予測の明確性と今後の成長規模の予測が重要です。

そのため、現状の売上高のみならず中長期的な業績予測や成長規模が明らかにされることもポイントです。

内部統制とガバナンス体制の精密さ

コーポレートガバナンスに対する意識の向上、ESG経営の浸透などの観点から、事業運営における内部統制やガバナンスに対する社会の関心が高まっています。内部統制やガバナンス体制に不備があると、それ自体が大きなリスクとして捉えられます。

もちろん、内部統制等の不備に内在するリスクもありますが、現在の情報社会では、レピュテーションリスクも大きなものになります。そのため、内部統制やガバナンス体制を、市場区分に応じた企業の水準として求められるレベルに達していることがポイントになります

上場審査における近年の傾向section

最近の上場において、問題点としては上場直後における業績の低下や不正によるガバナンスの不備の発覚などが見受けられることから、業績予測に関するチェックやガバナンス体制の審査が厳しくなっている傾向にあります。

過去にあった不適正な取引からの脱却や是正対応、再発防止策の構築と運用など、上場に至るまでのプロセスが重要視されることもポイントとして挙げられます。この点は、先に述べた点でもあります。

このように、上場審査において書面上外面的に公表するような内容のみならず、実質的な運用面がどのようになされてきたか、適正な運用であったか、問題があったとすればどのように是正され、かつそれが現状どのような位置づけにあるのかなど、経営活動におけるプロセス重視の側面があるといえます

まとめ

最後に、本記事のポイントを3つにまとめます。

  1. 上場審査は、主幹事証券会社による有価証券の引受等に関する規則に基づく引受審査と、証券取引所による有価証券上場規程に基づく公開審査の2種類がある。審査の流れは、概ね同じような流れで行われ、特に前者で指摘されるような事項は公開審査の場面でも要確認の対象となることもあり、連動している。
  2. 上場審査は、形式要件と実質審査基準の2種類がある。それぞれ、市場区分ごとに異なる内容である場合がある。また、求められる水準などの点にも違いがある。
  3. 上場審査を通るためには、上場審査の定量的な基準をクリアするのみならず、企業経営の体制において実質的な運用面がどのようになされてきたか、適正な運用であったか、問題があったとすればどのように是正され、かつそれが現状どのような位置づけにあるのかなど、経営活動におけるプロセスに着目して準備することがポイント
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司法試験受験後、人材系ベンチャー企業でインターンを経験。2020年司法試験合格。現在は、家事・育児代行等のマッチングサービスを手掛ける企業において、規制対応・ルールメイキング、コーポレート、内部統制改善、危機管理対応などの法務に従事。【愛知県弁護士会所属】

maillogo

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