弁護士が社外取締役になるには|就任時のスキルセットや注意点・おすすめの選任サービスまで

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令和元年12月4日、会社法の一部改正が成立し、同月11日に公布されました。今回の改正では、監査役会設置会社における社外取締役の設置義務化が盛り込まれるなど、ガバナンス強化のため社外取締役に注目が一層高まっています。
※施行日は2021年3月1日

公開会社かつ大会社 会社法 改正後
有価証券報告書の提出義務のある監査役会設置会社
(義務付け対象)
■ 監査役3人以上のうち、社外監査役は最低2人

■ 社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務
■ 取締役10人以上
⇒ 最低2人の社外取締役
■ 取締役5人~9人
⇒ 最低1人の社外取締役
■ 取締役が4人以下の会社
⇒ 社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務
監査等委員会設置会社 ■ 監査等委員3人以上のうち、最低 2人が社外取締役

■ 監査役は不要
■ 取締役10人以上
⇒ 最低4人、監査等委員の取締役が必要(最低3人の社外取締役が必要。監査役会設置会社における社外取締役の設置)

参考:民進党|社外取締役の設置の義務

弁護士は、法務のエキスパートとして、経営のあらゆる場面においてプレゼンスを発揮することが期待されます。そこで今回は、弁護士が社外取締役に転職(兼業)することについて、その可否から、必要なキャリア、注意点、実際に転職するための方法などを徹底解説していきます。

目次
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弁護士が社外取締役になるために必要なスキルやキャリアとは?section

社外取締役も経営陣の一角である以上、ビジネススキル・知見は必須です。また、法務についても、やはり企業法務に関する高い専門性が求められます。具体的には、どのようなものが考えられるでしょうか?

コーポレート・ガバナンス

コーポレート・ガバナンスは、必須であるといえます。やはり近時の社外取締役需要の高まりは、すでに述べたようにガバナンス強化に主眼が置かれているからです。

このことは、経営同友会による2018年の調査において、社外取締役が果たすべき役割として企業側の期待するところが83.5%、就任する社外取締役の意識としても84.7%で、おいずれも筆頭に挙げられている要素であることからも明らかであるといえます。

出典:2017年度経営改革委員会提言 社外取締役の機能強化「3つの心構え・5つの行動」-実効性の高いコーポレートガバナンスの実現を目指してー3頁|公益財団法人 経営同友会 2018年5月

M&Aの経験

M&Aは企業の発展の上で欠かせません。他社の技術やノウハウ、顧客などを取り入れることで、相乗効果が生まれ、企業の発展につながるからです。

特に、成長企業間だけでなく、大企業がベンチャー企業を買収し新規事業創出の足掛かりにしたり、ベンチャー企業同士の相乗効果を志向した事業拡大など、様々な規模の企業間でM&Aが行われます。

そのため、様々な事業規模、あるいは国内だけでなくクロスボーダーのM&A案件を数多く手掛けてきた企業法務弁護士のキャリアは、重宝されると考えられます。あわせて、金融商品取引法違反の有無を確認したりといった業務を求められるなど、その業務は多岐にわたります。M&A経験を持つ弁護士がいることで、そうした事態を未然に防ぐ助言を期待されます。

ファイナンス

ファイナンスは、企業の血液としての役割を果たす重要な要素です。資金調達の計画や具体的な方法・スキーム作りは、法律との接点も多いことから、弁護士の専門知識やスキルが求められる場面は多いと考えられます。

また、いわゆるFintech、仮装通貨など、今までにない様々なサービスが近時活発化しています。特にFintech領域では、様々なキャッシュレス決済サービスが次々と表れる中、資金決済法の改正の頻度も激しさを増しています。そのため、法改正への情報感度の高さ、スピード感のある適応能力が求められます。

このように、金融法務に精通したキャリアは、非常に重要な要素です。

IPO

特に、ユニコーン企業、レイタ―段階のベンチャー企業などでは、IPOに関する法務が必要です。上場条件をクリアできるような社内体制の整備には、弁護士の知見がキーポイントになってきます。

そのため、IPOに向けた法務領域に特化した業務を得意とする弁護士、ベンチャー企業のサポートを数多く手掛けてきたキャリアを持つ弁護士が必要になることもあります。

戦略法務

戦略法務は、経営戦略に合致し、経営の合理化・効率化等の観点から最適なビジネスジャッジを行うためのリーガルソリューションの提供です。単に、事後に生じた紛争の処理ではなく、リスクを回避するためのソリューションの提供を行うという予防法務とも異なります。

ビジネスの現場では、単にビジネスが法令に適合しているかどうかについてYesかNoかの判断のみが求められるわけではありません。

どのようにすれば、最適な形であれば経営戦略に適合するのかという点に対するリーガルソリューションが求められます。具体的な活用領域としては、新規取引や事業におけるリスク検討を踏まえたうえで収益性を含めた合理的な手段の立案、ライセンスの保護を踏まえその供与により利潤を図るなどの知財の活用、M&Aなどです。

社外取締役に弁護士が求められる5つの理由section

社長・CEOの立場からして、社外取締役に求められる役割として期待されるものとして、第3位に「法務や会計等、会社経営一般の専門的知見の提供」が挙げられています。

法務や会計は、様々な場面でのビジネスジャッジの上で、重要な判断材料として位置づけられることがわかります。しかも、プライオリティとしても、1番目から3番目までと考えるトップが合計54.6%もいることから、重要性が高く位置づけられているといえるでしょう。

では、弁護士をはじめとした法律の専門家・法務人材が経営において、特に経営の監督や助言を行う立場として重要視されるのは、なぜなのでしょうか?

IPO準備に弁護士を迎え入れる意義が大きい

IPOを目指すスタートアップ企業、ベンチャー企業では、上場審査をクリアするために、様々な準備をする必要があります。上場条件には、形式的なものと実質的なものがあります。形式要件は、株主や株式、会社の時価総額、資本政策などに関するものです。

重要なのが、資本政策です。会社として、どのような規模で、どのような株式を発行して資金調達を図るのか、その中でどのような者を株主として受け入れていくのか(最適な株主構成の構築)を考案していくことが求められます。そういった点は、IPOの準備に携わった弁護士であれば、資金調達のコスト、株式や新株予約権の発行形態・内容、実施時期などを、知見と経験から最適な解を導くことができるでしょう

そして、実質要件は、会社の内部体制などに関するものです。

中でも、コーポレート・ガバナンス、内部管理体制の構築および運用面では、法務の知識とスキルが死活的に重要です。コンプライアンス体制、危機管理などの対応に関する体制の構築と運用について、法務担当者によるチェックが行き届いていることがIPOクリアのために重要になります。

いつまでに、どのような体制構築が必要か、法的対応が必要になるかなど、様々な知見をもとに上場条件をクリアする必要があるため、法務人材を迎え入れることには非常に意味があります。特に、単に社員としてではなく、役員の中に組み込むことで、体制構築のための意見を反映させやすい立場にすることがポイントです。

コーポレートガバンスへの対応

「コーポレート・ガバナンスとは、会社経営の適法性を確保し、効率性を向上させるために、会社経営者に適切な規律付けを働かせる仕組み」のことです。企業経営では、株主、債権者などのステークホルダーがいることから、経営者のみの利益ではなく、事業の適正な運営・透明性を確保しつつ、会社として利益を最大化することが求められます。経営者の業務執行に対する適切な監視を行き届かせ、ステークホルダーの利益を保護するための体制構築が、コーポレート・ガバナンスです。

現代において、企業活動を支えるのは、事業に対する社会的なニーズ(社会課題の解決)と信頼です。特に、コーポレートガバナンスは、信頼という面に大きく関わります。信頼は、すでに述べたような経営者の業務執行に対する適切な監視と統制が図られる体制が合理的に構築および運用されていることに裏付けられます。

そのため、コーポレートガバナンスの中身は、基本的に会社法をはじめとした企業組織に関わる法令の遵守のほか、会社の事業に関わる法令に適合するような社内の業務体制の構築および運用(またこれらをチェックするための体制)にあるのです。

したがって、弁護士がその知見と経験をもって、上記のような体制構築に関わることは最適なものといえます。

コンプライアンスに対する意識の高さ

弁護士は、高度な職業倫理に裏打ちされている職業ということもあり、およそ気質として遵法精神が高い傾向にあることが理由として挙げられるでしょう。法令の解釈と、具体的な事象・場面の中で適用して、結論を導くことは、弁護士の最も基本的なスキルであることにも裏付けられます

また、体系的な構造を持つ法律を扱っている弁護士は、仕組みを作る思考回路を持ち合わせています。加えて、普段から企業法務を手掛けている弁護士は、様々な人とのコミュニケーションにも長けていると考えられます。そういったスキルからして、社内でのコンプライアンス体制の構築や、従業員への研修実施などの業務を統括することは、まさに適役なのです。

合理的なリスクテイクを担保する

さらに、言うまでもなく、弁護士はロジカルなインプットとアウトプットをすることに特に長けています。もちろん、経営コンサルも高度なスキルがありますが、弁護士の場合、そこに法律という専門性が掛け合わさります。

加えて、社会が目まぐるしく変化していく中で、既存の法律論では解決しきれない問題に直面することが多々あります。そのため、事業における課題解決の上で、合理的にリスクテイクをしていくためには、ロジカルであることに加え、法律論を使いこなせることが必要です。ここで、経営者や会計士、経営コンサルであっても、膨大な法律の知識を有している人はいます。

しかし、法律の持つ構造の特性、先端的な法律論、法解釈の手法などについては、弁護士にしかないスキルです。そして、弁護士であることに、その信用性も担保されます。

したがって、ビジネスジャッジにおいて、弁護士が提供するナレッジやスキルを活用したアドバイスが、合理的なリスクテイク・解を導くことにつながるのです。

経営戦略へのナレッジの還元や転用可能性

さらに、特に新規事業を創出し、より企業が成長していこうとする場面では、上記のように既存の法律論で解決しきれない課題解決が求められます。そこには法律の規制がたくさん横たわっていますが、結論として、そのまま法律をあてはめたときに、判断としてNOを取らざるを得ない場合でも、弁護士は、様々な手段をとることができます。

最近では、いわゆるパブリックアフェアーズ・ロビィング活動に対する意識が高まっていますが、ルールメイキングをはじめ様々な法的リソースを活用することができるのが、弁護士の強みです。若干、具体的な説明を補足します

パブリックアフェアーズとは

パブリックアフェアーズとは、「企業やNPO・NGOなどの民間団体が政府や世論に対して行う、社会の機運醸成やルール形成のための働きかけ活動」のことをいいます。いわゆる立法府において行われるロビィングとは異なり、研究機関やメディアなどの様々なコネクションを利用して行われるオープンなアプローチです。

SDGsやESGがこれからの社会の方向性の指針となる中で、企業や民間団体の活動の枠が社会課題の解決を志向するものになっています。そういった公益性・公共性の進展から、民間団体の行政・立法に対する働きかけが高まっているのです。

そのためには、既存の規制やルールに関し、法律の解釈といった点を踏まえて、新しい規制やルールの形成を働きかけることが必要になります。したがって、パブリックアフェアーズにおいて、法律の専門家である弁護士の知見や経験に対するニーズが高まっているのです。

このような弁護士のスキルも、結果として経営戦略に還元されていくことから、経営に求められるといえるでしょう。

社外取締役に就任する弁護士としてふさわしい人物像とはsection

社外取締役の業務・職務に適合するような弁護士像は、どのようなものでしょうか?

日弁連が定めている「社外取締役ガイドライン」によれば、もともと当該弁護士が持ち合わせている専門知識やスキルに加え、次の3点を提唱しています。

1つ目は、事業への理解力です。2つ目は、建設的な議論を提起し、株主をはじめとしたステークホルダーの利益実現を志向した提案力です。3つ目は、ビジネスサイドに立ち、ビジネスジャッジをする経営者の視点です。

以下、詳しく見ていきます。

様々な事業への理解力

社外取締役も経営陣の一翼であること、経営のマネジメントあるいはモニタリングという観点での「監督」をするのは、取締役の業務執行です。その根本は、事業です。

取締役の業務執行そのものの適法違法を判断するには、法律の知識やスキルさえあれば対応可能です。しかし、取締役の業務執行を監督するのは、事業にかかる経営判断として、法務の観点から最適化し、最終的には株主などのステークホルダーの共同利益を実現することが目的です。

「社外取締役は、・・・企業戦略等の大きな方向性を示し、適切なリスクテイクを支え、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことにより、ブランド価値、レピュテーション等の社会的評価を含めた企業価値を持続的に成長させて中長期的に向上させ」ることが期待される。

出典:社外取締役ガイドライン 日弁連 2019年3月14日改訂 8頁

このような観点から、社外取締役に就任する弁護士には、様々な事業の理解力、ビジネススキームの理解が必要であるといえます。

建設的な議論を提起できる

弁護士は、通常であれば、第三者的な視点で、会社の業務執行に関して適法あるいは違法、法的なリスクの有無やその内容をそのまま提示することが多いかと思います。特に、経営判断の内容が、法的にグレーゾーンであれば、まずは思いとどまるようにアドバイスするなどが通常であるかと思います。

しかし、社外取締役は、経営判断を志向する立場にあります。つまり、法的な観点の結論として、リスクを極力排除する観点からでは避けるべき事柄であっても、取りうるリスクであれば取るべきであるとの判断もありうるのです。そういったリスクテイク・ビジネスジャッジの判断に対し、専門的な知見・判断材料を提供し、可能な限り事業活動として最適な方向に行きつく提案が求められます

したがって、ただマイナスを洗い出して提示するのではなく、どうすればその事業課題を乗り越えられるかという点での、建設的な議論・提案力が求められるのです。

経営者・経営視点を持っていること

2つ目のポイントとも関連しますが、社外取締役も、あくまで経営者の立場です。そのため、「社外」とはいえ、どうすれば事業活動における障壁を乗り越えることができ、会社の成長、利益に還元できるかというマインドが重要であるといえます。

ただ単に、組織として、法令順守の体制などが確立されているかなどといった形式的な側面だけでなく、それが結果として事業の発展、会社の利益にどのように結びつけることができるか、結びつけるためにどうするのが最適化という視点が常に求められるのです。

弁護士が社外取締役に就任する際の注意点section

社外取締役に転職・就任する際の注意点もいくつかあります。ここでは、冒頭で述べた会社法改正に関する点を中心に、考えていきます。

報酬への関与に関する注意点

社外取締役の中で、指名もしくは報酬委員会に所属している人は、それぞれ45.2%、46.0%と、およそ半数に及びます。

社外取締役の役職|経産省
出典:【図表4】社外取締役の役職|経産省 社外取締役に関するアンケート調査結果

そのため、報酬に関する会社法の規制については、十分留意する必要があるでしょう。

例えば、改正会社法でいえば、報酬等の内容が定款又は株主総会の決議で決定されている場合を除いて、個人別の報酬等の内容の決定方針として法務省令で定めるものを、取締役会で決定しなければならないという点です(改正会社法361条7項)。

取締役のお手盛り防止をより高め、利益相反の防止を図るために定められました。社外取締役は、特にガバナンス確保の観点から、こういった点に配慮しつつ、経営の監督をしていくことが求められます。

取締役損害賠償責任保険(D&O)への加入

取締役等役員の損害賠償責任保険というものがあります。これは、会社役員としての業務遂行に起因して、保険期間中に会社などから損害賠償請求がされた場合に、当該保険期間中の総支払限度額(保険金の最高限度額)の範囲内で支払うことを内容とする保険です。(D&O保険|東京海上日動HP)。

ポイント

取締役としての業務遂行に関し、監視義務(会社法362条2項2号)違反や善管注意義務(会社法330条、民法644条)違反などが問われ、任務懈怠に基づく損害賠償責任などを負うことも無ではありません。

弁護士であれば、当然、自らが法律の専門家である以上、どのようなケースでそういった責任が問われるかというのは熟知していると考えられますが、万が一というのもあります。大企業などであれば、その賠償責任の額は、何百万・何千万円を下らない場合もあります。決して低い金額ではありません。

そこで、役員としての損害賠償責任が問われた場合の保険として、D&O保険に加入しておくことも重要です。

改正会社法に関して

このD&O保険についても、令和3年3月1日施行の会社法では、次のように定められました。

第四百三十条の三 株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。第三項ただし書において「役員等賠償責任保険契約」という。)の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。

2 第三百五十六条第一項及び第三百六十五条第二項(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)並びに第四百二十三条第三項の規定は、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、取締役又は執行役を被保険者とするものの締結については、適用しない。

3 民法第百八条の規定は、前項の保険契約の締結については、適用しない。ただし、当該契約が役員等賠償責任保険契約である場合には、第一項の決議によってその内容が定められたときに限る。

引用:会社法430条の3

上記改正法規定のポイントは、旧法下でも実務上利用されていたD&O保険契約の締結について株主総会(取締役会設置会社の場合は、取締役会)の決議によることとされた点です。

これは、損害補填と違法な職務執行の抑止機能と相反しないD&Oの有効性を認めうることを前提としつつ、利益相反が生じないかどうかなど、会社の利益保護の観点から、合理性・適正性確保のためのチェックを要求する趣旨であると考えられます。そのため、D&O契約の締結の際には、こういった会社の手続が必要となる点に留意が必要です。

責任限定契約など

その他、今般の会社法改正に関わる事項ではありませんが、社外取締役など賠償責任の高額化を防ぐ手段には、責任限定契約があります(427条)。

社外取締役のオファーを受けた際には、会社側と、責任限定契約締結に関する交渉をすることで、少しでもリスク軽減をすることも考えられます。

弁護士が社外取締役に就任・兼業した具体例section

ここで、社外取締役としても活躍する弁護士の方々をみていきましょう。キャリアパスなどの点で、参考になる点があるかもしれません。

村瀬幸子氏

村瀬氏は、2008年の弁護士登録後、成和明哲法律事務所に入所。複数の上場企業において社外監査役を歴任された後、昨年6月にmaxellの社外取締役に就任されました。

近時は、ダイバーシティ推進の動きが加速する中で、企業では女性を経営陣の中に積極的に登用する動きが活発化しています。村瀬氏のような女性弁護士が、役員の一翼を担っていくことは、かかる潮流を裏付ける最たる例であるといえます。

特に、経営において法務の重要性が増していることからすれば、特に女性弁護士の活躍の場として、社外取締役をはじめとした社外役員という立場が、今後も注目度を増してくると考えられます

杉本佳英氏

杉本氏は、2008年に司法試験に合格。翌年12月に、弁護士登録の上、須田清法律事務所に入所しました。その2年後の2011年に、リーガルパートナーズ法律事務所(現 あんしんパートナーズ法律事務所)を設立されました。現在も、代表弁護士として籍を置いています。

そして、2015年12月からは株式会社ブランジスタの社外取締役に就任、2018年9月からはNATTY SWANKY株式会社の社外取締役に就任しており、いずれも現任です。

ポイントは、複数の社外取締役を兼任している点です。競業避止(会社法356条1項1号参照)との関係では、電子雑誌・ECサポート事業と飲食業界という点で、市場を共通にしていないため、これに反しないと考えられます。他方で、複数の企業の社外取締役を務めることで、相乗効果も期待できます。

異なる事業の中で得られた知見を、それぞれ異なる業界で活かすことが可能だからです。こういった複数の企業の社外役員を務めるというキャリアも、非常にやりがい・面白みがあると考えられます。

岡本杏莉氏

岡本氏は、最大手の西村あさひ法律事務所に入所後、多くの国内外の案件、クロスボーダー案件を担当。さらに、スタンフォード大学のロースクールでLLMを取得しています。

2015年03月:メガベンチャーで成長著しい株式会社メルカリに入社
2017年12月:近年注目度および成長率トップクラスの法律事務所ZeLoに参画
2018年03月:(株)スペースマーケット社外監査役に就任
2020年04月:株式会社ヤプリの社外監査役に就任

岡本氏のキャリアの特徴は、成長性の高いスタートアップやベンチャー、先端ビジネスにおける法務に数多く携わっている点です。先端ビジネスでは、法的な課題も困難な点も多い分、経営陣の一角として、法務に精通した人材のニーズが高いといえるでしょう。

参考:ヤプリ、社外監査役に岡本杏莉氏が就任|Yappli

顧問弁護士を社外取締役へ起用することへの可否section

弁護士から社外取締役に転職、あるいは弁護士業をしつつ兼業するキャリアは可能です。もっとも、顧問弁護士である場合に、当該顧問先企業の社外取締役を兼務することができるかどうかについては、議論があります。

問題の所在

顧問弁護士をしつつ、社外取締役をするような形で兼業する場合には、上記規定にいう「使用人」の該当性として、顧問弁護士が社外取締役をも兼ねることができるのかが問題になります。結論的には、まだ議論が固まっていない段階です。実務上は、弁護士を兼ねながらの就任事例もあるようです。

現段階での議論の内容

監査役である弁護士が当該会社の訴訟代理人となることについては、最高裁がこれを会社法335条2項に反しないとして、容認した判例があります(最判昭和61年2月18日民集40巻1号32頁)。その理由としては、個別事件の訴訟代理人を務めることが335条2項の監査役の独立性確保の趣旨に反しない点を挙げています。

その上で、従来、顧問弁護士の役員兼任に関しては、社外監査役に関して論じられてきました。この点、会社法が顧問弁護士の社外監査役就任を制限する旨定めたものがないことを前提にしつつ、個別の事件での訴訟代理人でない場合でも弁護士の職務自体が高度な職業倫理に裏打ちされていることや営利性から、独立性を失うおそれがないと考えられることも踏まえ、日本監査役協会監査法規委員会は、東京証券取引所における独立性基準(上場管理等に関するガイドライン)を満たしていれば問題ないという立場であるそうです。参考:独立役員に関するQ&A|社団法人日本監査役協会 監査法規委員会

社外取締役との兼務について、最高裁の判断は、まだ示されていません。

法務省も、特に見解を示していないところではあります。ただ、社外取締役が社内役員とは異なる厳格な要件であり、職務上の客観性・監督権限があること、弁護士の独立性が担保されうることも監査役と異なる点は特段考えにくいといえることからも、顧問弁護士等の社外取締役兼任が否定される積極的な理由もないとも考えられるでしょう。参考:「顧問弁護士を社外取締役に選任することの可否~会社法,東証独立性基準に照らして」(田島正広弁護士) (tajima-law.jp)

弁護士が社外取締役になるには|起用・専任される方法section

弁護士が社外取締役になるには、どのような手段があるのでしょうか?

顧客からのオファーや顧問先への逆オファー

クライアント企業あるいは顧問契約を結んでいる顧問先企業からのオファーが考えられます。日々の業務の中で、ビジネスを理解し、企業に寄り添った形でリーガルサービスを提供することで信頼が生まれ、社外取締役などへの就任オファーが来ることが考えられます。

あるいは、弁護士業務そのものでなくても、論文の執筆やセミナー・講演活動を通じて、知見を発信したり、交流の場をつくったことがきっかけになることも考えられます。

逆に、自ら企業側に逆オファーをすることも考えられるでしょう。異業種交流イベントなどで、積極的に人脈を広げる中で、自らオファーをしてみるのもよいかもしれません。

弁護士会の候補者名簿に登録

第二東京弁護士会では、社外取締役の候補者名簿というものがあるそうです。これは、登録している弁護士会員からの希望制で、研修受講などの一定の要件をクリアした者を名簿に登載し、第二東京弁護士会のHPにて、一般公開するものです。

名簿に記載する事項は、基本的な項目のほか、コメント欄として自由記述となっています。担当した事件というよりも、達成したことを中心に示すこと、MBAや留学経験などの経歴は重要なポイントになるそうです。

詳細に関しては、二弁のHPを参照してみてください。
(https://niben.jp/niben/books/frontier/backnumber/201911/post-43.html)

専門のエージェントサイト

最近では、社外役員需要の高まりから、エージェントサイトや人材マッチングに関するサービスも出てきています。エージェントサイトなどであれば、能動的に探すことができる点が魅力です。詳しくは、次の章で述べます。

社外取締役・監査役就任におすすめのマッチングサイトsection

社外取締役マッチングサイト「EXE[エグゼ]」

EXE
https://exe-pro.jp/

EXE[エグゼ]は、社外取締役経験のある弁護士・公認会計士を選任できるサービスです。弁護士の転職に特化したNO-LIMITが始めたサービスで、業界に精通したエージェントが独自基準でフィルタリングしており、特定の業界に強い社外取締役候補の紹介が可能です。

他の社外役員紹介サービスと決定的に異なる点であり、強みが、弁護士に特化しているという点です。弁護士の法務スキルを熟知しており、弁護士の業務について精通していることから、それをビジネスサイドにおいてどのように活かすことができるかを踏まえ、最適な提案をすることができます。
公式サイト:https://exe-pro.jp/

KENJINS

KENJINSは、顧問契約のマッチングサイトで、日本最大級といわれています。コンセプトとしては、様々な領域・分野のプロの紹介を、月2回、週3日などのフレキシブルなワークスタイルでの仕事依頼という形でできる仕組みの提供です。

参考HP:KENJINS公式サイト

中央経済社

中央経済社は、様々な専門分野に関しての論文の出版等を行っています。その人材に関する情報を活用し、社外取締役や社外監査役などを必要とする企業に紹介するマッチングサイトを運営しています。

中央経済社の有する専門分野の論文等に関するブランド力を基盤にしつつ、信頼と実績の高いプロフェッショナル・エキスパートを紹介するというサービスを提供しています。

もっとも、紹介は、中央経済社に論文の執筆を寄稿する人材ですので、一般に弁護士が登録できるわけではありません。

顧問名鑑

顧問名鑑は、企業活動における様々なシチュエーションで、専門的な知見やスキルを提供してくれるアドバイザーが欲しい企業と、企業の役員や部長等の管理職経験者のマッチング、仲介を行うサービスです。

約21000名以上の、役員あるいは部長職経験者という人脈を誇っており、大規模な顧問人材の紹介プラットフォームといえるでしょう。

もっとも、紹介する人材は、企業の役員や部長経験者といった意味での知見やスキルであって、弁護士などの経営とは異なる特定の専門領域に属する人材とは限らない点には注意が必要です。

参考:顧問名鑑HP

i-common

i-commonは、企業の様々な経営課題や事業活動におけるシーンで、企業と課題解決のため最適な専門的知見・スキルを持つ人材とをマッチングさせる、社外取締役・監査役の紹介サービスです。

登録企業と、顧問や社外役員を希望する個人の登録者とが、相互につながることができます。特徴としては、個々のビジネス課題を軸に、役員等の候補となる専門家とマッチすることができる点です。

他方で、登録する専門家が弁護士に限られておらず、やはり弁護士に対するニーズがあるという企業に絞って相手先企業を探すことには向かないという点に注意が必要です。

参考:i-commonHP

ほか社外取締役として就任する方法

社外取締役を探しているベンチャー企業などを紹介してもらう

ベンチャー企業の中には、勢いはあるけれど経営のノウハウがなく、ベテラン経営者からのアドバイスを受けたいと思っている企業もあります。このようなベンチャー企業は社外取締役としてノウハウがあるベテラン経営者を探していることが多いです。

経営の知識があり、若くて元気の良い企業を応援したいと思っているならば、このような企業を紹介してもらうことで社外取締役に就任できるかもしれません。

スカウト

多くの会社は、会社の経営をより良くすることを期待して社外取締役を設置するので、自分の価値を上げて社外取締役にスカウトしてもらえるようにすることも大切です。

たとえば、女性独自の視線で意見が言える人は重宝されており、女性経営者は社外取締役として声がかかることが多いようです。経営者として目立つ成功事例を作るなどすると良いでしょう。

まとめ

社外取締役等のポジションについて、弁護士のキャリア、法務スキルが非常に注目されていることがお分かりになったかと思います。会社法改正も、そういった需要の高まりを踏まえて行われたものでした。

そして、社外取締役等への転職ないし弁護士との兼業を考える弁護士に必要なキャリアには、やはり企業の事業活動内部に踏み込むような業務、経営戦略に寄り添ったリーガルソリューションの提供といった点が挙げられます。

様々なキャリアモデルを参考にしつつ、社外取締役等への転職、キャリアステップを検討されてはいかがでしょうか。

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