コーポレートガバナンス・コードにおける社外取締役の役割と重要性について

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現在,上場企業のみならず,中小企業やベンチャー企業を含め,広く一般に重要視されているのがコーポレート・ガバナンスです。「ガバナンス」などと略されることもありますが,コーポレート・ガバナンスの強化・推進という文脈で,法律の専門家である弁護士が注目されます。

金融庁と東京証券取引所は2022年4月に改定する企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)によれば、東証の市場再編で現在の第1部を引き継ぐ新市場に上場する企業には、社外取締役を取締役の3分の1以上とするよう求めることがわかっており、現行の独立社外役員2名以上という指針より、厳しい基準でガバナンス強化を目指すことになります。

そこで,今回は,コーポレート・ガバナンスに関し,社外取締役との関係を解説していきます。

目次
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コーポレートガバナンスとはsection

経済産業省は,2020年7月31日,「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」を策定・公表しました。これは,コーポレート・ガバナンス・システム研究会(第2期)における議論等を踏まえたものです。

コーポレート・ガバナンスは,一般的には,次のように定義されます。

企業ぐるみの違法行為を監視したり,少数に権限が集中する弊害をなくしたりして,企業を健全に運営すること

この定義づけは,企業の健全な運営という目的にコーポレート・ガバナンスの本質を捉えています。違法行為の監視や権限の一極集中をなくすといったことは,その手段の1つとしての例示です。

しかし、企業の健全な運営というだけでは,様々な意味を包括しているため,明確ではありません。そこで,金融庁と東証が共同で策定したコーポレート・ガバナンス・コードによれば,次のように定義されます。

会社が,株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で,透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み

上記の定義は,株主,顧客,従業員など一定の利害関係者の存在を明確にしている点と,意思決定を行う「仕組み」という構造に焦点を当てている点が注目されます。企業の健全な運営という目的では抽象的な概念を,より具体的かつプラクティカルに再構成したものであると捉えることができるからです。

詳細な考察については,こちらの記事をご参照ください。

コーポレートガバナンスの位置づけ|
SDGsや社外取締役の役割について
section

コーポレート・ガバナンスは,企業経営において,どのように位置づけられるのでしょうか。

ESGやSDGsの文脈

コーポレート・ガバナンスは,ESG(Environment,Society,Governance)や,国連が提唱したいわゆるSDGs(Sustainable Development Goals)の文脈でも重要な位置づけにあります。とりわけ,SDGsが掲げるものは,国際社会における様々な地球的な諸課題です。

参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省

したがって,SDGsは,解決すべき地球社会の課題を提示するものであるといえます。企業は,利潤を追求するものであり,利益を上げて株主に還元することがその存在意義でした。

しかし,SDGsが広く浸透してからは,企業は,単にお金儲けをするという目的の下では生き残ることができなくなります。なぜなら,社会全体が,国家の枠を超えて,持続可能な社会を目指し,その障害となる社会課題の解決を志向するからです。社会課題の解決が価値提供であり,そこに投資されるからです。

こういった時代の潮流から,現代の企業経営においては,どうすれば利益を上げられるかではなく,むしろ日々刻々と変化する社会の中に存する課題を発見し,課題を解決するサービスや商品を提供することができるか,その結果として生ずる利益をどのように運用し,企業の発展につなげていくかという戦略構築が必要になります。

そして,SDGsが浸透していくということは,社会の枠組みを形成する法律にも,SDGsのロジックが埋め込まれていくということでもあります。そうすると,SDGsに適合するには,コンプライアンスが欠かせません。また,事業の戦略の設定と実行を円滑に行うための仕組みづくりが必要になります。

したがって,コーポレート・ガバナンスは,SDGsを基盤とする社会において,より重要性を増してくる考え方なのです。

コーポレートガバナンス・コード

2018年6月1日,既に述べたように,東証はコーポレート・ガバナンス・コード(以下,「CGコード」という。)を策定しました。CGコードは,会社法や金商法などの法律の次元で存在する規範を,より企業経営の実務に沿った文脈で再構築するものです。

主として,「実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたもの」内容になっています(コーポレート・ガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~1頁)。

CGコードでは,5つの基本原則が掲げられています。

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会の責務
  5. 株主との対話

とりわけ,4つ目の「取締役会の責務」については,社外取締役との関連を有する点について,次のような準則が示されています。

取締役会の責務と社外取締役の関係

【基本原則4】
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと

をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
 こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

引用元:コーポレート・ガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~14頁

特に,上記【基本原則4】の(3)については,さらに次のような準則が示されています。

【原則4-6.経営の監督と執行】
上場会社は、取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性を確保すべく、
業務の執行には携わらない、業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用について検
討すべきである。

引用元:コーポレート・ガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~17頁

【原則4-6 経営の監督と執行】は,上場会社に限定されますが,IPO準備段階にある企業は,実際に上場を実現するにあたって避けては通ることができない点です。注目すべき点は,加えて2つあります。

取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性

1つは,「取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性」の確保を志向する点です。本来,経営に関し業務執行の適法性を監査する独立かつ客観的な機関は,監査役ないし監査役会に分掌されています。他方,経営判断の妥当性などに関しては,取締役会の中での監督・是正に委ねられます。

しかし,内部の取締役同士の関係だけだと,中小企業を中心に,取締役同士の馴れ合い関係などから,監督是正が不十分となる場合もありました。そうした実情を踏まえて,「独立かつ客観的な経営の監督」というのが明確にされました。

業務の執行には携わらない,業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用

もう1つは,「業務の執行には携わらない,業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用」の「検討」が明示された点です。後述する独立社外取締役にも関連しますが,専門的な知見を有する専門家を経営陣に置くことで,事業の戦略設定にあたっての視点が多角化します。とりわけ,法務は企業経営にあたってのインフラになるため,極めて重要な位置づけになります。

このように,基本原則4の中で,社外取締役は,コーポレート・ガバナンス拡充の上で,重要な要素として位置づけられているといえます。

コーポレートガバナンスコードにおける
社外取締役の位置づけと重要性section

2020年7月31日,経済産業省は,「社外取締役の在り方に関する実務指針」(社外取締役ガイドライン)を策定しました。社外取締役ガイドラインは,会社法,金商法などの法令を最上位規範として,すでに述べた東証の策定したCGCをさらに具体化する4つの指針の中の1つとして位置づけられます。

4つの指針は,その内容と対象が異なります。

  1. コーポレートガバナンス・システムに関する実務指針(CGS)は,コーポレート・ガバナンスを実現するための組織構築,とりわけ取締役を構成する人員に関しての指針を内容とするものです。これは,全ての上場企業が対象です。
  2. グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)は,企業経営におけるグループ化,親子会社間におけるガバナンスの在り方に関する実務指針を定めるものです。グループ企業を有するすべての上場会社を対象とします。
  3. 事業再編実務指針は,事業再編に焦点を当てるもので,「経営陣における適切なインセンティブ,取締役会による監督機能の発揮,投資家とのエンゲージメントの対応、事業評価の仕組み構築と開示の在り方」の整理などを内容とするものです(「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」を策定しました|経産省)。
  4. そして,社外取締役の在り方に関する実務指針は,令和元年の改正会社法において上場企業等における社外取締役の設置義務化に伴い,社外取締役としてあるべき役割の認識,行動準則,会社側のサポート体制などをまとめたものです。特に,その対象が全上場企業の社外取締役である点は,注目されます。

特に,社外取締役の存在意義は,会社法上の趣旨から読み取れます。すなわち,「わが国の資本市場が信頼される環境を整備し,上場会社等については,社外取締役による監督が保障されているというメッセージを内外に発信する」という点でにあります(社外取締役ガイドライン13頁)。

ここにいう「監督」は,具体的には,「社外取締役には,少数株主を含むすべての株主に共通する株主の共同の利益を代弁する立場にある者として業務執行者から独立した客観的な立場で会社経営の監督」,「また,経営者あるいは支配株主と少数株主の利益相反の監督」です。

社外取締役の位置づけには,マネジメントモデルとモニタリングモデルがあるが,改正会社法ないし社外取締役ガイドラインを踏まえると,後者として位置づけられるものと考えられます。このように,コーポレートガバナンスを支える柱の1つとして,社外取締役が位置づけられていることが分かります。

社外取締役に期待される職務と行動section

社外取締役に期待される経営の監督というのは,具体的にどのようなものなのでしょうか。本記事では,特に3つ取り上げていきます。

守りだけでなく,「攻め」(適切なリスクテイク)の監督

「監督」というと,取締役が「やっちゃいけないことをやっていないかどうか」を監視するような,消極的な意味だけで捉えてしまうかもしれません。もちろん,コーポレート・ガバナンスの本来的な意義からすれば,取締役の意思決定が,法令ないし株主総会などの意思決定の枠を超えていないかどうかといった点が基本です。

しかし,それにとどまるのではなく,中長期的な企業価値の向上という観点からの目標設定,個々の業務執行に際して,目標達成のための事業戦略の設定と,その実行に対する評価をすることが求められます。そのために,現経営陣が不適格である場合などは,人事に関わりCEOの選解任を行う権限を積極的に行使していくことが必要になることもあります。

また,事業戦略の適切な実行を評価して報酬につなげ,インセンティブの構築を図ることも必要になるのです。そうした職務と行動を通じて,不確実性の高い新規事業の創出,既存事業の改善・強化を図る上での協働を行い,議論の設定と運営に関わっていくことが,コーポレート・ガバナンスを図る上での重要な職務となります。

社内のしがらみにとらわれない立場から,持続的成長のための経営戦略の提案

社外取締役は,コーポレート・ガバナンス実装の上で,独立かつ客観的な立場で経営に関わるという点に価値があります。この独立性と客観性を活かして,社内ににはない思考や知見をいきわたらせることが重要な職務です。

会社の経営戦略などは、まずCEOを中心とする社内の経営陣が行います。しかし、そのたたき台を設定した上で,取締役会で議論し,決定していく際には,より多角的に検証することが必要です。それは,先に述べた中長期的な視点から策定した事業戦略との整合性を軸に,市場の動向,産業構造の変化と社会課題の所在,それに対する解決策としての合理的な位置づけ,収益化の見込みなど多様な視点があります。

場合によっては,法律の規制が障害になる場合もあります。したがって,専門的かつ多角的な知見を提供するために,外部の専門家の意見が必要になります。

また,設立から年月が経っている円熟期の企業であるほど,社内の伝統・文化が根強くあります。特に,中小企業を中心にみられるものでもあります。そうした伝統や文化は,一方で重んじられるべきものではありますが,他方でイノベーションを促進し,新しい事業を実装していく上では,足かせになることもあります

そこで,社外取締役は,外部の人材として,社内の視点・立場にはない思考回路で,議論を設定することが期待されます。したがって,会社内部との距離感は,あくまで外部者としての立場を保ちつつ,常に事業の持続的な成長のために必要な知見を提供していくことが重要になります。

もっとも,そのためには社内の経営陣などが,外部の意見を受容すべき枠組みが必要にあります。その点は,すでに述べたCGSの実務指針にあるスキームで補完されていくことになりますが,詳細は別の記事にて解説します。

様々なステークホルダーとの利害調整

社外取締役は,ステークホルダーと経営陣との関係で中立的な立場で,ステークホルダーの意見を事業戦略に反映させていくことで,コーポレート・ガバナンスの実装に資するという職務も担っています。

大きく問題となるのは,経営陣や支配株主と,少数株主の間の利益相反です。例えば,マネーゲーム的に株を取得していく支配株主が現れた場合,特に経営陣との敵対関係が生ずる場合があります。その場合は,支配株主との間で,会社の事業の成長や発展への建設的な議論ができるのかどうかなど,窓口として議論をし,経営陣とのコミュニケーションを円滑に図ることも必要になります。

他方,少数株主との間では,買収防衛策の発動に関し,経営陣と少数株主の橋渡し役として,株主総会なのでの議論を整理し,検討していくための主導者になることにもなります。

また,ステークホルダーは,株主だけではありません。顧客や,現場で働く従業員といった立場にある意見は,社内の経営陣の視点だけではカバーしきれない部分があります。そうした,社内でも外部に置かれてしまうような意見も,適切に反映していく必要があります。

したがって,社外取締役は,様々なステークホルダーの意見を吸い上げ,業務執行や経営戦略の中に落とし込んでいくことで,コーポレート・ガバナンスの実装に役立ちます。

コーポレート・ガバナンスと社外取締役の職務の評価section

社外取締役が企業経営の中で機能し,コーポレート・ガバナンスが実装されているかどうかは,社外取締役の職務の評価と改善の仕組みによって裏付けられます。そのため,そのような仕組みを作ることも,重要なポイントになります。

この点については,社外取締役ガイドラインによれば,取締役会議長を務める社外取締役,筆頭の社外取締役から,個々の社外取締役に対して評価のフィードバックを行うこと,それを踏まえた社外取締役の指名・再任の検討材料につなげていくことが指摘されています(社外取締役ガイドライン39頁)。

まとめ

コーポレート・ガバナンスの実装において,社外取締役は,不可欠な役割があり,課題解決志向の現代型のビジネスのロジックに適合することがお分かりになったかと思います。特に,コーポレート・ガバナンスに関して,専門とする弁護士をはじめとする法務人材は,その専門的知見を発揮するために,社外取締役という立場で企業経営に関わることが合理的で価値的であるといえます。

ガバナンスを実装する社外取締役として,企業経営に貢献する弁護士は,今後一層増加していくことでしょう。

上場支援、CGコードの体制構築などに長けた、専門性の高い「弁護士」を社外取締役候補としてご紹介。事業成長とガバナンス確保両立に、弁護士を起用したい企業様を支援している。

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